2022年の年間テーマ「システム・ルネッサンス」とは何か?
今回のエピソードは、草野さんと宮武さんが2022年を振り返る年間まとめの後編です。前回はシステムそのものを話し、今回はその全貌として「システム・ルネッサンス」というテーマを語ります。
宮武さんによると、この回は2022年のOff Topicで47回目のエピソードにあたります。それまでの46回分、平均50分ほどとして十数時間分のコンテンツが、実は1つのテーマでつながっていたといいます。
前回の話の要点は、スケールしたシステムが結果を出さなくなり、むしろシステム自身を守ろうとしている、というものでした。宮武さんは、次の時代に生産性を上げるには新しいシステムを作らなければいけないと考えています。
次の世代、次の生産性を上げるための時代を作るには、新しいシステムを作らないといけないと。
宮武さんは2022年の世の中も振り返ります。2月からのウクライナとロシアの戦争、悪化する米中関係、政治的に2つに分かれるアメリカ、下がった株式市場が挙げられました。
草野さんが「レイオフが続いてますね」と応じると、宮武さんはGAFAまで影響を受けていると続けます。メディアや政府への信頼の低下、ヘルスケア・教育・住宅の価格上昇も課題として並びました。
一方で宮武さんは、2022年はいいことも多く起きた年だと見ています。クリエイターという新しいタイプの起業家の台頭、AIの技術発展、メタバースやWeb3で次世代のインターネットを作る人の増加、そしてZ世代とアルファ世代が次の技術を作っていることが挙げられました。
地図、戦略、そして今年は「ツール」へ
宮武さんは、Off Topicが毎年掲げてきた年間テーマの流れから今年のテーマを説明します。2020年は「アテンション&トラスト・エコノミー」で、インターネットではアテンションだけでなく信頼も必要になっている、という整理でした。
2021年のテーマは「Composing Culture」です。アテンション&トラスト・エコノミーの中で勝つ一案として、カルチャーに根付くことを掲げ、そのためにカルチャーメーカーや、カルチャーに影響する外部のカテゴリーを知る必要があると話していました。
宮武さんはこの流れを、インターネットを戦場に見立てて言い直します。2020年は「こういう戦場がありますよ」という地図を渡し、2021年はその中で戦う戦略を渡した、という位置づけです。
2022年について、宮武さんは2021年の反省から出発したと話します。勝つ戦略はたくさんあるのに、1つの戦略しか渡さなかった、という反省です。
その戦略っていうよりもツールをいっぱい渡した方がいいのかなと思って。
宮武さんの言うツールとは、武器を作るための工場や、敵を察知するレーダーのようなものです。2022年は戦場という地図をより深く理解してもらい、リスナー自身が勝ち方を決められるようにしたかったため、答えのようなものはあまり出していないといいます。
世の中は「システム」と「サイクル」でできている
宮武さんは、世の中は「システム」と「サイクル」の2つで作られていると考えています。テックトレンドから教育、戦争、政治の入れ替わりまで、この2つを理解すると当てはまる点が多いといいます。
草野さんが「それはライムするっていう表現に近いですか?」と尋ねると、宮武さんは、サイクルはまさに「ライムする」に近いと答えます。
今回のエピソードでは、過去に話したサイクルと新しいサイクルを紹介したうえで、システムを3つのカテゴリーに分け、それぞれ古いシステムとこれから生まれるかもしれないシステムを話す、という構成が示されました。草野さんは「やり方というよりは考え方」と受け止めています。
サイクルの例として、宮武さんはまずイノベーションサイクルを挙げます。社会が新しい技術にどう反応するかには、だいたい似たプロセスがあるといいます。
無視
最初は「あまり意味がない」と相手にしない
バカにする
次にちょっとバカにし始める
拒絶
最後に拒絶し始める
普及
新しいステータスが生まれ、技術が普及する
繰り返し
そのタイミングで新しい技術が出て、同じことが起きる
宮武さんは、成功する会社がおよそ5年ほど成長すると、また新しいプレイヤーが出てくるとも話します。例えばマーク・ザッカーバーグさんがFacebookで大きなプレイヤーになったのは20代半ばで、そのあとに21〜22歳の次のプレイヤーが出てくることに、宮武さんは驚きを示しています。
国の盛衰から世代交代、バンドルとアンバンドルまで
宮武さんは、ほかにも過去のエピソードで扱ったサイクルを振り返ります。100回目のエピソードでは、アメリカという国の上がり下がりや、歴史が「ライムする」様子を話しました。
そこでは、50年から100年単位の国のサイクル、長期債務サイクル、8年から12年のビジネスサイクルも取り上げたといいます。
世代交代のサイクルの例は、SNSの移り変わりです。宮武さんによると、ミレニアル世代がInstagramを選んだのは親と同じFacebookにいたくないからで、Z世代がTikTokやSnapchatを選ぶのもミレニアル世代のいるプラットフォームにいたくないからです。
最近のエピソードで話したバンドルとアンバンドルも、繰り返しの一例です。ローカルニュース、ケーブルテレビ、動画配信と進み、最近は動画配信をまたバンドル化する、という流れが紹介されました。
宮武さんは、集権型と分散型の行き来も似た流れだと見ています。GAFAが台頭した時代や、その後のWeb3の動きも、バンドルかアンバンドルかという視点で見られるといいます。
1943年の本『The Machiavellians』が描く政府の6類型
バンドルとアンバンドルの話に関連して、宮武さんがもう1つ説明したかったのが「権力の構成」です。題材は、1943年ごろに書かれたジェームズ・バーナムの本『The Machiavellians』で、日本語訳はないそうです。
本のタイトルは、『君主論』を書いたマキャベリ ── ルネサンス期フィレンツェの政治思想家。『君主論』で、理想ではなく現実の権力の動きに即した政治のあり方を論じましたにちなんでいます。宮武さんの英語の発音が良すぎて、草野さんが一瞬誰のことかわからなかった場面もありました。
マキャベリ、マキャベリってことですか?発音が良すぎてちょっと一瞬誰かわかんなかった。
宮武さんが面白いと話すのは、この本で語られる政府のサイクルです。バーナムによれば、政府は「1人が支配する」「少人数が支配する」「大人数が支配する」の3種類に分かれ、それぞれに良い形と悪い形があります。
| 支配する人数 | 良い形 | 悪い形 |
|---|---|---|
| 1人 | 君主制 | 独裁政権 |
| 少人数 | 貴族制 | 寡頭制 |
| 大人数 | 民主主義 | 無政府状態(アナーキー) |
昔のヨーロッパでは、この6つの政府の種類が明確なサイクルで入れ替わっていたといいます。王様が自分のことしか考えなくなって独裁になり、それを見た貴族が乗っ取って貴族制になります。
貴族たちも自分のことしか考えなくなって寡頭制になり、それを覆すのが民主主義です。しかし民主主義は大人数で運営するため組織運営ができなくなり、アナーキーになってしまいます。
君主制→独裁
王様が自分のことしか考えなくなる
独裁→貴族制
それを見た貴族が政府を乗っ取る
貴族制→寡頭制
貴族も自分たちのことしか考えなくなる
寡頭制→民主主義
「よりみんなのために」と覆される
民主主義→アナーキー→君主制
組織運営ができなくなり、また1人を選んで王様が生まれる
ポピュリズムと寡頭制を行き来するアメリカ
宮武さんは、今のアメリカには王様もいなければ純粋な民主主義もないと話します。間接民主主義のアメリカは、どちらかというと寡頭制に近い、という見方です。
そのうえで宮武さんは、2016年のトランプさんの動きを例に挙げます。ポピュリズムは寡頭制へのリアクションであり、トランプ政権はそのポピュリズムを活用している、という説明です。
いわゆるアメリカは、その寡頭制とポピュリズムを行き来してるんですよね。
宮武さんによると、似たことはビジネスでも起きています。前回話した大手銀行の例では、大手が大きくなりすぎて新しい銀行が作れず、少数の銀行が支配する、まさに寡頭制の状態になっているといいます。
そこに対するポピュリズムのカウンターがスタートアップです。草野さんは、大手銀行というエリートに対抗するスタートアップという大衆、と言い換えています。
ただし、スタートアップが既存の勢力を覆せば、今度はスタートアップが寡頭制になります。草野さんは、Facebookのようなテック企業もかつてはスタートアップだったのに、今はGAFAやプラットフォーマーと呼ばれている、と応じました。
宮武さんは、Web3の動きも「寡頭制VSポピュリズム」として語れると話しています。
業界・市場・考え方、3つのシステム
サイクルの話を終えた宮武さんは、システムを3つのカテゴリーに分けます。宮武さん自身が「勝手に作っている」と断ったうえでの分類です。
| システム | 対象 | この回で中心に話した新しいシステム |
|---|---|---|
| インダストリーシステム | 会社や業界の仕組み | カルチャーがプロダクトになるブランド |
| マーケットシステム | 市場やユーザーの行動 | Factory as a Service |
| メンタルシステム | 人の考え方 | クリエイティブの成功要因と天才の生まれ方 |
まずインダストリーシステムでは、2022年の2回目のエピソードで扱ったMicrosoftの話が振り返られました。Notionのような単一プロダクトが対抗しようとしても、GAFAMにやられてしまうという既存のシステムです。宮武さんは、Slackがその例で、Notionはまだわからないとしています。
GAFAという寡頭制のシステムへの対抗案として挙がったのが、複数のプロダクトをバンドル化して既存のバンドルを倒しに行くCompound Startup ── 最初から複数のプロダクトを組み合わせて提供するスタートアップの形。単一プロダクトで始める従来型とは逆に、統合された価値で大企業のバンドルに対抗しますです。
SNSでは、ソーシャルメディアからレコメンデーションメディアへのシフトが起きています。草野さんは「みんなTikTokになりつつありますね」と表現しました。
ほかにも、4回にわたって扱ったVCの進化、Spotifyの音声のみのPodcastとYouTubeの音声+動画のエコシステムの戦い、2回に分けて話したGoogleの強さと、それを倒しうるプレイヤーの話が、既存と新しいシステムの対比として振り返られました。
「ライフスタイル」は古い、カルチャーこそプロダクト
インダストリーシステムの中で宮武さんが今回特に話したかったのは、ブランドがライフスタイル化するという考え方はもう古いシステムだ、という点です。次に来るのは、ライフスタイルではなくカルチャーそのものがプロダクトになるシステムだといいます。
宮武さんによると、過去10年ほど、ブランドはライフスタイルを作るべきだと言われ続けてきました。ブルーボトルやエバーレーンなどのD2Cブランドは、Gin LaneやRed Antlerといったブランドエージェンシーを使って立ち上げられてきたそうです。
そうしたブランドの「どうすれば商品を買ってもらえるか」への答えは、サブカルチャーに紐付けることでした。ナイキはランニング、パタゴニアは山登りやアウトドア、Calmやマッドハッピーはメンタルヘルス、オールバーズは居心地のいいスニーカー、リキッド・デスは水を選んでいます。
テック企業も同じで、ロビンフッドは銀行、スーパーヒューマンはメールという特定の分野を選んだといいます。
宮武さんが重要だと指摘するのは、こうしたブランドのポジショニングです。従来のブランドは「プロダクトを購入しないとサブカルに参加できない」という位置づけで、例えばトラックスミスを着ないとランナーになれない、パタゴニアベストを着ないとVCになれない、という形です。
草野さんは、パタゴニア自身はむしろそれを拒絶していそうだと指摘し、宮武さんも「嫌がってますよね」と同意しました。
この「ライフスタイル時代」を象徴するのが、スターターパックのミームだと宮武さんは話します。ビスコガールになるにはこれを買えばいい、というアイテムを1枚の画像にまとめたものです。
(ビスコガールなら)なんか水筒持って、可愛いリュック背負って、コンバースみたいな。
VCのスターターパックなら、パタゴニアのベスト、オールバーズ、そして『ゼロ・トゥ・ワン』の本です。宮武さんは、今のブランドはそのスターターパックの1商品として存在していて、結局カルチャー作りはしていない、と言います。
イデオロギーじゃないんですよね。結局サブカルに紐づかせてるだけなので。
草野さんが、ビジネスやスタートアップとして始まっているからそうなるのかと尋ねると、宮武さんは、オーガニックにカルチャーを作れたところもあるとしたうえで、多くは「カルチャーから始めていない、プロダクトから始まっている」と答えます。
宮武さんは、山登りやハイキングをする人たちにはプロダクト以上のもの、例えばアウトドアにいることへのリスペクトがあると話します。だからこそブランドが売るべきは商品ではない、という主張です。
草野さんは、洋服を売るならそれはカルチャーを広めるためのアイテムであって、洋服そのものを売っているわけではない、と言い換えました。宮武さんはこれに同意し、コミュニティやコンテンツから始まる会社が今後より強くなると話しています。
プロダクトから始まり、既存のサブカルに紐付けて「買えば参加できる」と位置づける
コミュニティやコンテンツから始まり、イデオロギーを広めるために商品を売る
草野さんが挙げたグロシエは、コミュニティメディアから始まり、イデオロギーがしっかりあるので新しい側に当てはまると宮武さんは答えます。宮武さんは、この違いは微妙に見えて実は大きいと話しています。
クリエイターブランドが強いのも同じ理由だと宮武さんは見ています。グッズのクオリティが特別高くなくても、その人のビジョンに賛同する一部として買われるからです。
草野さんは、マクドナルドやケンタッキーのような大手ブランドは、美味しいけれど何を目指しているのかまったくわからないと話します。宮武さんは、大手もD2Cを見てアーティストとのコラボなどでカルチャーに乗ろうとしているが、いずれ現れるチャレンジャーブランドが勝つ理由はブランドの考え方の違いだろう、と述べました。
一方で宮武さんは、こうしたブランドが本当にスケールできるかはまだわからないとも話します。今一番スケールしているのはMrBeastやグロシエですが、ナイキやマクドナルドと同じ規模になれるかは不明で、ただこうしたブランドが増えれば総合的にはスケールしたブランドが置き換えられるだろう、という見立てです。
マーケットシステムと「工場がプロダクト」の発想
2つ目のマーケットシステムは、ユーザーの行動や市場の変わり方です。過去のエピソードでは、オフィスの概念と働き方、2021年に扱った教育、ショッピングのあり方などが取り上げられてきました。
ショッピングについては、より摩擦の高い体験の方がいいのではという話や、ドロップカルチャーの変化、ストーリーテリング型のドロップコマースを行う10KDFの話もありました。宮武さんは、ドロップ自体も1つのシステムだと位置づけています。
そのうえで宮武さんが一番話したかったのが、Factory as a Service(FaaS)という新しいシステムです。草野さんが「テスラとかそういうことですか」と尋ねると、宮武さんは「まさにテスラ」だと答えました。
宮武さんによると、これまでのソフトウェアやテクノロジーは、今あるプロセスをどう効率化するかでイノベーションを起こしてきました。工場からライン生産、グローバルサプライチェーンへと変わっても、根本的な生産プロセスは同じだったといいます。
その根本を変えた例がテスラのギガファクトリーです。イーロン・マスクさん自身が「工場がプロダクトだ」と話しており、機械を作る機械を作って製造の革命を起こしたいと考えている、と宮武さんは説明します。
常人じゃ考えられないことばっかりやってるから、ほんとすごいですね。
宮武さんは成果を数字で示します。過去5年間でテスラが販売した自動車数は9.1倍に伸びた一方、同じ期間の従業員数は2.6倍しか伸びていないそうです。
草野さんは「生産性やば」と反応しました。宮武さんは、ものの作り方を根本的に作り直したことが正解だった、と受け止めています。
ロケットを支える小さな工場とHadrian、宇宙工場のVarda
テスラを見て、FaaSのスタートアップも出始めています。その1つが、bytesでも扱ったHadrian Automationで、宇宙企業や防衛企業向けの工場を作っています。宮武さんは、SpaceXなどとの関わりにも触れています。
宮武さんによると、ロケットやジェット機のパーツは、SpaceXのような会社が自ら作っているわけではありません。全米の小さな工場から取り寄せて組み立てていて、そうした工場は3000〜4000ほどあるといいます。
課題は部品が届くまでの遅れです。ロケットを実際に組み立てる時間はそれほどかからず、開発スケジュールの約6割はバッファー時間だと宮武さんは話します。
こうした工場は合計で年間40ビリオン(400億ドル)の売り上げがあり、需要も高いそうです。しかし多くは家族経営で、オーナーの平均年齢は50代半ば、世代交代の時期なのに後継者がいないといいます。
宇宙産業、そんなに新しいテックなのにって感じもしますね。
Hadrianは、半自動化された工場で複数の部品を1か所で作れるようにしています。自動化によって人材コストを削減でき、基本的に24時間稼働できるといいます。
全米3000〜4000の家族経営の小さな工場から部品を取り寄せ、遅れで開発の約6割がバッファーに
半自動化された工場で複数の部品を1か所で作り、24時間稼働できる
ほかにも、宇宙で工場を作ろうとしているVardaという会社があります。重力のないところで作った方がいいものを宇宙で作り、地球に戻すという発想です。
草野さんが「本当に効率的なのか」と尋ねると、宮武さんは「まだ効率的ではない」と率直に答えます。ただ、SpaceXの打ち上げ成功が続き、打ち上げコストが下がれば必ず効率的になる、という見方です。
夢のドリンクバー「Cana」の仕組み
FaaSの中で宮武さんが最も注目しているのが、飲料プリンターのCanaです。Off Topicが年末に毎年リストアップする注目企業の中で、初めて2年連続で登場した会社で、草野さんは「夢のドリンクバー」と呼んでいます。
宮武さんの説明では、Canaはアイスティー、ワイン、オレンジジュースなど、どんなドリンクでも作れる飲料プリンターです。名前は、イエス・キリストが水をワインに変えた町に由来しているそうです。
Canaの出発点は、ほとんどのドリンクはほぼ水でできている、という事実です。宮武さんによると、ドリンクの成分の8割から95%ほどが水で、ビールは94%、ジュースは93%が水です。
それなのに、オレンジジュースやワインを作るにはブドウを育てるなど大量の水を使い、パッケージして世界中に配送し、店に並べ、誰かが買って冷蔵庫に入れています。草野さんは「水はすぐ近くにあるのに」と、この非効率さを言い表しました。
ワインの場合、87%が水、12%がエタノールで、食感や香り、味を決める成分は1%未満です。その1%の中には約500の成分がありますが、ある科学者が成分を1つずつ取り除いて再現を試したところ、必要なのは27個だけだったといいます。
同じ考え方は他のドリンクにも適用できたそうです。Canaはこれをプリンター化したもので、家に置いて水道水をつなぎ、インクの代わりにエタノールや砂糖、成分のカートリッジが毎月届き、自由にドリンクを作れる仕組みです。プロトタイプはすでにでき上がり、実際に動くといいます。
夢みたいな話ですよね、本当に。ドラえもんの秘密道具みたいな。
宮武さんが面白いと話すのは、例えばOff Topicがドリンクを作れば、プリンターが置かれた世界中に一気に届けられるという点です。草野さんは飲むヨーグルトをリクエストしますが、宮武さんは成分がかなり違うので難しいかもしれないと答えました。
草野さんは、ブラッドオレンジジュースのような高いものや、混ぜないと作れないカクテルをオリジナルメニューで作れたら面白いと話します。宮武さんも、クリエイターにとっての可能性は大きく、ドリンクの民主化と呼べるかもしれないと応じています。
ものの作り方を変えることが「本当のサステナビリティ」
宮武さんがCanaでもう1つ大きいと考えているのは、サプライチェーンから生まれる環境コストの削減です。ワインを作るための水、配送のCO2、コンテナ、パッケージが要らなくなるといいます。
さらに、スーパーに置く必要がなく、車で買いに行く必要も、家に戻って冷蔵庫に入れる必要もなくなります。草野さんはこれを「最高の自給自足」と表現しました。
宮武さんがFaaSにこだわる理由は、ものの作り方を根本から変えることが本当のサステナビリティだと考えているからです。素材の会社や合成バイオの会社、CanaやHEDONIAのような会社がその例として挙がりました。
宮武さんは、サステナビリティは消費量を下げる方向に行きがちだが、それは結局できないと見ています。お金を持つ人はできても、発展する国が増える中で世界全体の消費量は下げられず、今のサステナブル商品はコストが高すぎるという指摘です。
お金がない中で、そんなサステナブルなものをずっと消費し続けるのって難しいし、ファッションでも楽しみたいしって考えると、(SHEINを)使うのはわかりますね。
宮武さんも、お金のない人や若者がSHEINを買うのは当たり前だと同意します。本当にサステナブルなブランドを作るなら、SHEINと同じくらい安く、しかも環境にいいものでなければならず、それができる世の中になる、と話しました。
製造を変える
水道水とカートリッジで家庭でドリンクを作る
工程が消える
ブドウ農家、水、配送、卸、店頭、パッケージが不要に
コストが下がる
場合によっては半額以下でドリンクを販売できる
両立する
ユーザーにとって安く、同時にサステナブルになる
宮武さんは、ドリンクでできるならアパレルでも可能だと考えています。草野さんが「印刷」と挙げると、宮武さんはそうした技術を変えることも含め、FaaSを新しいシステムとして期待している領域だとまとめました。
クリエイティブの成功はクオリティか、人脈か?
3つ目のメンタルシステムは、人の考え方のシステムです。過去にはCurrent Thingsの話、それに対するシンキングラダー、未名詞理論などを扱い、メンタルモデル回では「羊が多い世界」に対して考える人が必要だと話してきました。
今回のエピソードで宮武さんが取り上げたメンタルシステムは2つです。クリエイティブな人が成功する要素は何か、そして天才はどう生まれるのか、です。
1つ目の題材は、コロンビア大学ビジネススクールの2018年の調査「Art of Fame」です。なぜ特定のアーティストが成功するのかを、作品のクオリティとアーティストのソーシャルネットワークのどちらが大事かという観点で分析しました。
結果は、ソーシャルネットワークの方が有名になることのよりよい指標になっていた、というものです。どんな友達がいたか、違う業界の友達がどれだけいたかが関わっていたといいます。
宮武さんは、クリエイティブな仕事をするリスナーは不満に思うかもしれないと前置きします。いいものを作れば評価されるのが理想で、草野さんも「それができたらシンプルですよね」と応じました。
それを見られるようにするっていうのも一つのアートだと思っていて。結局、誰も見ない絵のクリエイティブバリューってどこにあるんだろうっていう。
宮武さんは、起業家も同じだと話します。アイデアを盗まれたくないと誰にも共有しない起業家がいますが、いいアイデアを市場に出しても、そのアイデアを誰が見つけるのかも1つの勝負で、それ自体がシステムだという指摘です。
宮武さんの整理では、ものづくりやクリエイティビティもシステムとして見る必要があります。その中には、ものを作るシステムと、ものを売り認知度を広げるシステムがある、という見方です。
エジソンとテスラ、ウォーホルの「良いビジネスは最高のアート」
宮武さんは、作るシステムと売るシステムの違いを、トーマス・エジソンとニコラ・テスラで説明します。エジソンは電気を作った人と言われ、テスラはとんでもない天才なのに過小評価された人と言われがちです。
よくある見方は、エジソンはショーマンでエンジニアとしてはそこまでではなく、テスラこそ本当の天才だった、というものです。しかし宮武さんの考えは違います。
個人的にはその過小評価されたっていうのは、それはテスラの問題で。
エジソンもプロモーションをして認知度を取りに行ったっていうのも一個のスキルですし、だから成功したっていうところもあるので。
宮武さんは、アイデア以外にマーケティングの実行がとても重要だと話します。それをわかりやすく言ったのが、アーティストのアンディ・ウォーホルです。
宮武さんによると、最近出た『The Philosophy of Andy Warhol』の中で、ウォーホルはどんなアートが好きかと聞かれ、お金儲けも仕事もアートで、いいビジネスが一番最高のアートだと答えています。広告は詩を書くのと同じ、案件の交渉はシナリオ制作と同じだとも語ったそうです。
宮武さんは、ウォーホルにとってアーティストは1つの仕事にすぎず、特別扱いされるのは違うという考えだったと紹介し、今ならスタートアップのピッチはストーリーテリングと同じだ、と言い換えます。草野さんは、村上隆さんの「アーティストは起業家だ」という考えにも近いのでは、と話しました。
宮武さんは、もの自体だけでなく、ものの売り方もアートだと考えています。両方をアートとして見るからこそ成功しやすくなるのかもしれない、という見方です。
草野さんは、美的センスとビジネスのセンスを両方持つ人こそ天才だと話します。宮武さんは、クリエイティブに偏れば商業が弱くなるため、どこかでクリエイティブを少し落とす必要もあり、結局はバランスかもしれないと応じました。
草野さんは、そのバランスをうまく取る人が多いのが資本主義のアメリカらしいと感じています。宮武さんは、アメリカはどちらかというと商業寄りで、プロダクトを犠牲にしてまでそうする必要があるかという疑問はあるものの、両方をちゃんと理解している点が重要だと述べました。
天才は遺伝子ではなく「シーン」で生まれる
草野さんの「両方できる人は天才」という言葉を受けて、宮武さんは天才はどう生まれるのかという話に入ります。草野さんが「天才になりたい」と言っては照れる掛け合いもありました。
「天才になりたい」ってすっげえバカみたいな発言だな。
いや、天才になりたいですよ、僕も。
よくある天才像は、選ばれた1人がずっと勉強したり、生まれつきの才能を持っていたりして天才になる、というものです。これに対する別の考え方として、宮武さんは「Scenius(シーニアス)」を紹介します。
Sceniusは、天才を意味するgeniusに、映画のワンシーンのような「scene」を組み合わせた言葉で、ブライアン・イーノが考えたものです。天才は遺伝子ではなく、1つのシーンで生まれる、という考え方です。草野さんは「場面」と言い換え、「ギャルっぽいですね」と笑わせました。
宮武さんによると、ここでいうシーンとは集まった人たちのことです。複数の人が支え合い、作品をフィードバックし合い、コピーし合い、盗み合い、アイデアを出し合うことで、1人または複数人の天才が生まれるといいます。
草野さんが「孤高の天才は存在しないと」と確認すると、宮武さんは存在しないのではないかと答え、いい仕事は1人では作られていない、クリエイティビティはコラボレーションだと続けます。
選ばれた1人が勉強や生まれつきの才能で天才になる
集まった人が支え合い、盗み合い、アイデアを出し合う中から天才が生まれる
アルゴンキン・ラウンドテーブルからPayPalマフィアまで
宮武さんは、sceniusが本当かどうかを歴史の例で確かめます。文学では、アメリカのアルゴンキン・ホテルに集まった「アルゴンキン・ラウンドテーブル」があり、1919年から1929年の10年間、ニューヨークの著名なライターや役者がほぼ毎日ランチをしていたといいます。
そこには『ニューヨーカー』の創業者もいて、互いに話し合う中で彼らのキャリアが発展していったそうです。イギリスでも、ロンドンのブルームズベリー・グループや、オックスフォードのインクリングスがあり、後者には『ナルニア国物語』のC・S・ルイスや『指輪物語』のJ・R・R・トールキンがいました。
アートでは、1971年ごろにニューヨークのSoHoでロフトにスタジオを設けて住めるようになり、多くのアーティストが集まって支え合ったといいます。音楽ではバーニングマンも挙がりました。
科学では、1765年から1813年のルナー・ソサエティです。街灯のない時代で満月の日に集まり、蒸気機関を作った人、運河を最初に作った人、光合成を見つけた人などが参加していたといいます。草野さんは「狼みたいですね」「激ヤバコミュニティですね」と反応しました。
MITのビルディング20は「マジカルインキュベーター」と呼ばれ、レーダー開発や、後のBOSEにつながるスピーカーの初期研究が行われ、ハッカーカルチャーが生まれた場所とも言われます。テックではホームブリュー・コンピュータ・クラブからApple Computerが生まれ、コメディではサタデー・ナイト・ライブ、スタートアップではイーロン・マスクさんやピーター・ティールさん、YouTubeの創業者がいたPayPalマフィアが例に挙がりました。
宮武さんは、天才がある場面で生まれると考えれば、問題は「そういう人たちをどう集めるか」になると話します。生まれつきではないので、今から草野さんも天才になれる、というわけです。
草野さんは、スポーツの強豪校も近いかもしれないと話します。そのチームに入るからこそ自分の能力が上がるのか、高め合っているからなのか、という問いです。
宮武さんは、高め合うことがとても重要だと答えます。スポーツや音楽でいう「伝説の何年生まれ」のように、同じ年代の人が同じタイミングで成長し、友達でありながら戦い合う関係もシーンに近いのではないか、と話しました。
なぜ「ルネッサンス」なのか?ペストと転換期
ここまでの話をまとめて、宮武さんは2022年のコンテンツの目的を語ります。世界がどう動いているかの理解を自分の中でも深め、そこから次にどう変化するのかを考えたかった、というものです。
では、なぜ「ルネッサンス」なのか。宮武さんによると、ルネッサンスはヨーロッパの歴史で中世から近代へと移った転換期で、イノベーションだけでなくカルチャーや考え方のムーブメントもそろって変わった時期でした。
宮武さんは、あくまで仮説の1つとしたうえで、ルネッサンスが始まった理由の1つにフィレンツェでの黒死病 ── 14世紀にヨーロッパで大流行したペストの通称。人口の3分の1前後が亡くなったとされ、社会や価値観に大きな変化をもたらしたと言われますというパンデミックを挙げます。そして、その状況が今と似ているのではないかと考えています。
宮武さんの見立てでは、ルネッサンスは単にイノベーションが起きたのではなく、いろいろな意味でシステムが変わった時代です。同じように、今後はイノベーション、マーケット、インダストリー、メンタルのシステムが変わっていくのではないか、というのが「システム・ルネッサンス」に込めた意味です。
新しいシステムを作るのは非常に難しいと宮武さんは認めます。それでも世界がライムしていく以上サイクルはあり、それを信じて、2022年がそのきっかけの年になるのではないかと考えているといいます。
一番の逆張りは「自分で考えること」
最後に宮武さんは、起業家、新規事業開発の担当者、クリエイターに向けて話します。これから新しいシステムが出てくる中で、自ら作りに行っても乗っかってもいいが、成功するには逆張りの考え方が重要だといいます。
ただし宮武さんは、システムに反対することは逆張りではないと強調します。ただ逆に行くのは、そのシステムに乗っかっているだけかもしれないからです。
宮武さんは、2022年の46回分をかけて言いたかったのは、自分で考えてくださいということだけだと話します。草野さんの「答えはここにはありません」という言葉に、宮武さんは答えはないが、考えるために世界を理解し、新しい動きを知ってもらう話を1年間したかったと返しました。
草野さんは、2022年が始まる前から「今年はテックの話じゃないかもしれない」と話していたと振り返り、確かにそんな1年だったと話します。宮武さんは、毎年前年の反省をもとに進化させているとし、2021年に1つの戦略しか話さなかったのも、当時の考え方がまだ足りなかったからだと語りました。
宮武さんは、過去を学び、最先端の起業家やVCと話しながら、世界がこう変わってほしいという思いを1年かけてまとめていると話します。来年できるかはわからないという宮武さんに、草野さんは「気楽に行きましょう」と声をかけ、リスナーにTwitterやnoteで感想を寄せてほしいと呼びかけて締めくくりました。
まとめ
2022年のOff Topicは、「システム」と「サイクル」で世の中を読み解き、業界・市場・考え方の3つのシステムで古いものと新しいものを対比してきました。ルネッサンスのような転換期に、答えではなく自分で考えるための材料を渡すことが、この1年の狙いだったと語られています。
- 政府の6類型のサイクルのように、寡頭制とポピュリズムの行き来はアメリカ政治にもスタートアップと大企業の関係にも見られると宮武さんは話す
- ブランドの新しいシステムは、サブカルに乗るライフスタイルではなく、カルチャーそのものを売ることだという見方が示された
- テスラやHadrian、Canaのように、ものの作り方を根本から変えるFactory as a Serviceが、コスト削減と本当のサステナビリティを両立しうると期待されている
- クリエイティブの成功には作品の質だけでなく見つけてもらう仕組みも重要で、天才は1人ではなく人が集まる「シーン」から生まれるという考え方が紹介された
- 宮武さんが1年かけて伝えたかったのは、既存のシステムに反対することではなく、自ら考えることこそ一番の逆張りだという点


