ギグワーカーを「従業員」に。AB5とはどんな法律?
2020年1月最初の配信で、草野さんが取り上げたのは、カリフォルニア州で成立したギグエコノミー ── インターネットのプラットフォームを通じて、単発・短時間の仕事を請け負う働き方や、それで成り立つ経済の総称。ライドシェアやフードデリバリーが代表例です法、通称AB5です。
草野さんは、日本でもウーバーイーツの配達員のようにギグエコノミーに関わる人が今後増えていくと考え、アメリカで法案が通った事例を話題にしたいと切り出しました。
草野さんによると、AB5は前年の秋ごろから議論されていた法律で、2020年1月1日に施行されました。正式名称について宮武さんは、英語では「California Assembly Bill 5」だと補足しています。
AB5の中身は、ギグワーカーを従業員として扱うよう企業に義務付けるものです。影響を受けるのは、ウーバーやライドシェアのリフト、フードデリバリーのポストメイツやドアダッシュといった企業だけではありません。
草野さんは、フリーランスのジャーナリスト、翻訳業の人、長距離トラックの運転手など、正社員ではなく隙間時間で稼いでいる人たちにも影響が出ていると説明しました。
(AB5で)企業のウーバーとか、そのサービス設計が結構変わってくるので、いろいろ賛否両論というか、いい面もあれば悪い面もあるかなっていうのが話が出ているかなと思ってます。
なぜカリフォルニア州が最初なのかについて、宮武さんは、シリコンバレーの企業が集まっていることを挙げます。特にマーケットプレイス型 ── 利用者とサービス提供者をつなぐ仲介型のビジネス。ウーバーなら乗客とドライバー、フードデリバリーなら注文者と配達員を結びつけますのサービスは、ギグワーカーを最も多く使う業態です。
カリフォルニアトップの人が結構これをやりたがってるので、これを影響に他の州でもやる、同じことやるんじゃないかっていう話は出てますね。
実際のサービスにも変化が出ています。草野さんは、ウーバーが予約時に料金が確定する仕組みから、距離と時間に応じて課金される仕組みに変えると紹介し、料金設計が今後どんどん変わっていくだろうと話しました。
従業員かどうかを分ける「3つの条件」とは
宮武さんは、AB5には3つの条件があり、それをすべて満たしていれば従業員ではないと認定される仕組みだと説明しました。そのうちの1つが、ウーバーやリフト、ポストメイツ、インスタカートといったマーケットプレイス型のサービスに特に引っかかるといいます。
1つ目の条件は、働く人が会社のコントロールなしでサービスを提供できることです。宮武さんは、これについてはほとんどの企業がクリアしているので問題ないだろうと見ています。
2つ目の条件は、その会社の通常の事業ではない仕事をしていることです。草野さんは、ウーバーイーツやウーバーの運転手を専業でやっているのではない、という意味だと受け止めました。
で、そこ(2つ目の条件)が結構引っかかるポイントなんですけど。
宮武さんが3つ目の条件に入りかけたところで、話題は草野さんの感想に移り、番組内では3つ目の条件の中身は語られていません。
草野さんは、隙間時間に稼げることがウーバーの最初のビジネスモデルだったと振り返ります。そのうえで、ウーバーだけで生計を立てる人も増えてきていると、今回の件で感じたそうです。
宮武さんは、リフトもこの法律に強く反発していると紹介しました。リフトのドライバーの多くはパートとして働き、他の仕事も普通にしているため、それなのに従業員扱いを求めるのはフェアではない、という主張がさまざまな会社から出ているといいます。
保険か、自由な働き方か。働き手の間でも割れる評価
草野さんは、AB5の影響はウーバーのような企業だけでなく、ジャーナリストやライターなど、フリーランスで稼ぐ多くの人にも及ぶと指摘しました。実際にVox Mediaがフリーランスのジャーナリストとの業務提携を解消した例も挙げています。
一方で草野さんは、働き方として保険が出るようになる点ではプラスにもなると話し、従来のやり方が良かった人とそうでない人がいることを認めています。
宮武さんも、トラックドライバーの多くがフルタイムの会社員になることを望まず、批判や訴訟を起こしていると補足しました。そこには、他の仕事もできる柔軟さを保ちたいという思いがあるといいます。
ただし宮武さんは、ウーバーのドライバーの中には保険などの制度を求める人もいると、反対側の意見にも触れました。
結局法律で全部の人をハッピーにできるかっていうとできないと思うんで、結構やっぱ難しいですよね。何が正解なのかっていうのはわからないですけど。
それでも宮武さんは、AB5が通ったこと自体が大きな出来事であり、他の州にも必ず広がると見ています。すでにニューヨークのトップも同じようなことをしたいと話しているそうです。
草野さんは日本の状況にも目を向けました。日本でもウーバーイーツが普及し、前年には配達員の労働組合もできたといいます。
草野さんによると、日本の労働組合が求めているのは、怪我などに備える補償、事業の透明性、そして距離に応じた報酬の改善です。働き続けることが前提なのに、何かあったときの保険がまったくない状態は確かに不公平だと、草野さんは感じています。
これに対して宮武さんは、ウーバーやリフト側の言い分も理解できると話しました。
やっぱり従業員に全員してしまうと、やっぱコストって上がってしまうので、そうするとユーザーの負担もかかるので、まあそうするとユーザーが使わないかもしれない。結果としてドライバーが首を切らないとダメかもしれない。
草野さんが「企業側は反発しても、ドライバーを切ればいいだけでは」と投げかけると、宮武さんは、ウーバーはドライバー獲得に大量のお金を使っているので、さらに切るのは厳しいかもしれないと応じました。草野さんは、稼げると思った新しい人がまた来るのでは、と返しています。
AB5をめぐる両者の言い分を並べると、次のように整理できます。
保険や怪我の補償、報酬の改善がほしい。働き続けることが前提なのに保障がないのは不公平
フルタイムの会社員になりたくない人もいる。企業側はコスト増が利用者負担やドライバー削減につながると懸念
なぜ今、テック企業に厳しい法律が増えているのか?
草野さんの「なぜアメリカでこういうことが起きているのか」という問いに、宮武さんはテック企業と政府の関係の変化から答えました。
宮武さんによると、2012年や2015年ごろは、フェイスブックの上場やツイッターの急成長があり、大手テック企業はとにかくすごいと見られていました。
マーク・ザッカーバーグは家族や友達をつなげるサービスを作り、ツイッターは中東で民主主義を支えるツールとして貢献したといいます。グーグルのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは検索やGmailを生み、イーロン・マスクはテスラやスペースXを築いています。
その評価を変えた大きな出来事として、宮武さんが挙げたのが、トランプ氏が勝利した2016年の大統領選挙です。ほとんどのテック企業の人たちはクリントン派だったため、結果自体がショックだったといいます。
ただ一番ショックだったのが、これアメリカ中がショックだったのが、テック企業のせいでこういう結果になったんじゃないかと。
宮武さんは、フェイスブックのケンブリッジ・アナリティカ ── イギリスの選挙コンサルティング会社。フェイスブック利用者の個人データを不正に取得し、選挙活動に利用したとして2018年に大きな問題になりましたの問題や、ツイッターがトランプ氏自身のメディアのようになったことを例に挙げました。草野さんもフェイクニュースの問題に触れています。
その結果、これまで緩く見ていたテック企業をちゃんと見ないと、またこういう結果になってしまうという見方が広がったと宮武さんは説明します。ハッキングやデータの勝手な利用への警戒から、テック企業向けの法律が変わり、その流れの中でAB5も出てきたと宮武さんは考えています。
宮武さんが語った流れを順に並べると、次のようになります。
称賛の時代
2012〜2015年ごろ、フェイスブックやツイッターが急成長し、テック企業はイノベーションの担い手と見られた
2016年大統領選挙
トランプ氏が勝利し、テック企業のせいではないかという見方がアメリカ中に広がった
監視の強化
ケンブリッジ・アナリティカやフェイクニュースを受け、テック企業をちゃんと見るべきだという流れに
法律の変化
テック企業向けの法律が変わり始め、その影響でAB5が出てきた
草野さんは、進行中の民主党の候補者選びでも、大手テック企業の解体を掲げる候補がいると指摘しました。宮武さんは、エリザベス・ウォーレン氏がフェイスブック、WhatsApp、Instagramを別々の会社にすると主張していることを紹介し、テック企業への風当たりはかなり悪くなっていると話しています。
宮武さんはさらに、ヨーロッパのGDPR ── EUの一般データ保護規則。個人データの扱いに厳しいルールを定め、2018年に適用が始まりました。違反した企業には高額の制裁金が科されますのカリフォルニア版も、AB5と同時に署名され、同時に適用されたと補足しました。二人ともすぐに名前が出てこず、しばらく思い出そうとする一幕もありました。
AB5廃止の動きと、規制が生む新しいスタートアップ
草野さんは、AB5を廃止しようとする動きが、2020年の秋ごろにもあるらしいと紹介しました。宮武さんによると、ウーバーやリフトなどが多分何百億という資金を投じ、次の選挙のタイミングで投票にかけられるようロビー活動をしているそうです。
ただ宮武さんは、どちらが正しいかは微妙なところだとしたうえで、流れとしては法律がどんどん出てくると見ています。
それこそ多分マーケットプレイス型のスタートアップは今後苦しむだろうし、それ以外の多分SNSとか、それこそTikTokとかも多分そうだと思いますけど、プラットフォーマーとしては今後もしかしたら厳しくなるかもしれない。
宮武さんは、規制が後々フィンテックやヘルステックの分野にも回ってくるのではないかとも話しました。
一方で草野さんは、ギグワーカー向けの保険のように、新しい法律によって生まれるサービスもあるのではないかと前向きな見方を示しました。宮武さんは、逆に潰れるサービスが出てくる可能性も認めつつ、草野さんの見方に同意しています。
二人は、AB5とテック規制の行方に今後も注目していきたいと話し、この回を締めくくりました。
まとめ
カリフォルニア州のAB5は、ギグワーカーを従業員として扱うよう企業に求める法律です。働き手の保護と柔軟な働き方のどちらを優先するかで評価が割れるなか、その背景には2016年の大統領選挙以降のテック企業への厳しい視線があると、宮武さんは見ています。
- AB5は2020年1月1日にカリフォルニア州で施行され、ウーバーやドアダッシュだけでなくフリーランス全般に影響が出ている
- 保険や補償を求める働き手がいる一方で、柔軟な働き方を守りたい働き手もおり、法律で全員を満足させるのは難しい
- 企業側は、従業員化によるコスト増が利用者負担やドライバー削減につながると懸念している
- 2016年の大統領選挙を機にテック企業への見方が変わり、規制強化の流れの中でAB5が生まれたと宮武さんは見ている
- 規制はプラットフォーマーに逆風になる一方、新しい法律から新しいスタートアップが生まれる可能性もある






