宮武さんの考え方を変えた人物、ギャリー・ヴェイナーチャックとは
今回のOffTopicは、シリーズ化するかは未定としつつ、宮武さんが個人的に影響を受けた人物を語る試みの回です。取り上げるのは、起業家であり投資家、マーケターでもあるギャリー・ヴェイナーチャックです。
宮武さんによれば、ギャリーさんの影響はビジネスの考え方だけでなく、OffTopicのコンテンツ戦略や投資の考え方にまで及んでいます。アメリカのテック業界やD2C業界、起業家の間ではよく名前が出る人物ですが、日本ではそれほど知られていないといいます。
実際彼の影響で、今のビジネス的な考え方とか、OffTopicのコンテンツ戦略とか、投資の考え方とかっていうところも結構影響されてまして。
草野さんがギャリーさんを知ったのは、宮武さんからの紹介と、Appleのビジネス系リアリティ番組に投資家として出演していたのを見たときくらいだったそうです。宮武さんはこの番組を「シャークタンク ── 起業家が投資家の前で事業を売り込み、出資を求めるアメリカのリアリティ番組。日本の『マネーの虎』をもとにした形式として知られていますのパクリ」と表現しています。
宮武さんの紹介によると、ギャリーさんはシリアルアントレプレナーであり作家で、現在はマーケティングのエージェンシーを手がけています。過去にはTwitter、Facebook、Uberなどへのエンジェル投資もしていました。
ギャリーさんの原点は家族経営のワイン販売です。オフラインの店舗をEC化し、オンラインコンテンツを配信して、売上を3億から60億まで伸ばしました。動画シリーズ「ワインライブラリー」は5年ほどほぼ毎日投稿していたといいます。
すごい。継続の鬼ですね。
さらに宮武さんは、ギャリーさんがMusical.lyやTikTokの流行や、FacebookによるInstagram買収をテレビで予想していた点を挙げます。人の行動やカルチャーシフト、アテンションシフト ── 人々の注意や関心が向かう先が、メディアやプラットフォームの間で移り変わっていくことを読み取れる人物だと評価しています。
大学3年生の宮武さんが1秒も止めずに見た1時間の動画
宮武さんがギャリーさんを知ったのは大学3年生のときです。マーケティングの授業でHubSpot ── マーケティング・営業支援ソフトを提供するアメリカの企業。自社ブログなどを通じたコンテンツマーケティングの先駆けとして知られますをリサーチしていて、同社のブログに埋め込まれたギャリーさんの動画をたまたまクリックしました。
その動画は、ギャリーさんが2011年のイベントで1時間ほど話したものでした。宮武さんは長い動画を一度も止めずに見続けたといいます。
それ(1時間の動画)を多分本当に1秒も止めずにずっと見続けたんですよ。
それくらいやっぱ衝撃的なコンテンツで。
動画の中身は、後で紹介するThank You Economyにつながる話でした。カルチャーシフトがどうなっているか、人のアテンションがどこに向かっているかを語るもので、宮武さんは今でもときどき見返しているそうです。
いまだに、「あ、確かに、確かにこんな考え方しないとな」って思いながら。
草野さんが話し方の印象を尋ねると、宮武さんはギャリーさんを、Fワードも普通に使う、力強くどストレートに言ってくる人だと説明しています。
6歳でレモネードスタンドをフランチャイズ化?
宮武さんは、ギャリーさんの起業家としてのストーリーには衝撃的なものが多いと前置きし、子ども時代から話を始めます。最初に起業らしいことをしたのは6歳のときでした。
アメリカでは、子どもがレモネードスタンドを出したり、ガールスカウトクッキーを売ったりするのが、よくある「子どもの起業」だといいます。宮武さんは、起業というよりお金の大切さを教えるための体験だと説明しています。
余談として宮武さんは、2018年時点の統計で、ガールスカウトクッキーが毎年800億円分ほど、箱の数で2億個売られていると紹介します。クッキーは作るのではなく、すでに作られたものを売りに行き、集めたお金でキャンプに行ったり寄付したりするそうです。
レモネードスタンドは、夏に段ボールなどでポップアップショップのような店を作り、1杯50セントから1ドルほどで売るものです。大人が「じゃあ1ドルあげよう」と買ってくれるのが定番だといいます。
ギャリーさんが違ったのは、6歳でそのレモネードスタンドをフランチャイズ化したことです。ほかの子どもたちに先にお金を渡してスタンドを作らせ、毎日売上をレベニューシェアさせました。
子供たちを呼び寄せて、ちょっとお金先に上げるんで。
作れと、スタンドを。
ギャリーさんは小さな自転車で他の子どものスタンドを回り、「ちゃんと仕事してるか、今日の取り分をくれ」と集金していたそうです。草野さんが「自分の子どもにやられていたら……」と言うと、宮武さんも「親は引きますよね」と笑い、当時8つのスタンドを持っていたという話を紹介しています。
12歳でスポーツカード売買、部屋に300万円の現金
レモネードスタンドは夏だけの商売でした。ギャリーさんは12〜13歳ごろ、次の商売としてスポーツカードの売買を始めます。スポーツカードは、OffTopicのコレクタブルの回でも取り上げたアメリカの人気市場です。
今のようなStockX ── スニーカーやトレーディングカードなどを個人間で売買できるアメリカのマーケットプレイス。株式市場のように相場が表示されるのが特徴ですのようなサービスがない時代、ギャリーさんは週末にモールへ行き、テーブルを使ってカードを売り買いしていました。値段の相場やどの選手が良いかを徹底的にリサーチしていたといいます。
平日は学校があるため週末しか売れませんでしたが、1回の週末で2000〜3000ドル、日本円で20万〜30万円ほど儲かったそうです。しかも全部現金だったため、13歳のときには部屋に300万円分の現金があったと本人が話しているといいます。
一時期彼が13歳の時に300万円分のキャッシュが部屋にあったっていうの言ってて。
当時はまだインターネットがなく、ギャリーさんがパソコンに触れ始めたのは1995〜96年ごろです。この時期の商売は、モールという物理的な場所だけで成り立っていました。
地下で1日10時間、時給2ドルの氷運び
カード商売で稼いでいたギャリーさんは、世界一のカードコレクターになることまで考えていたそうです。ところが14歳のとき、アルコール販売店を営む父親に、店で働けと無理やり連れて行かれます。
週末に2000〜3000ドル稼いでいたギャリーさんにとって、これはとても嫌なことでした。14歳から16歳までは店の地下で、お酒を冷やすための氷を取ってくる役割をしていたといいます。
それ(氷を取る仕事)を1日10時間。
で、1時間2ドルで。給料が。
草野さんが「ブラック」と反応すると、宮武さんは家族のビジネスだからと受け流しつつ、スマホもない時代でその間ほかに何もできなかったと補足しています。
ワインはスポーツカードと同じだという気づき
16歳になってようやく、ギャリーさんは店舗のフロアで接客を任されます。顧客と話すうちに、ワインやアルコールを売るのはスポーツカードと同じではないかと感じ始めました。
なんかワインとかアルコール売るのって実はスポーツカードと同じなんじゃないかと感じ始めて。
きっかけは、店にワインのコレクターがときどき来ていたことです。ワインもスポーツカードと同じコレクタブルだと気づいたギャリーさんは、授業中も先生の話を聞かず、ワイン雑誌を読みふけるようになったといいます。
宮武さんによると、ギャリーさんは成績が悪く、ずっとワインの勉強ばかりしていた人でした。この気づきが、後のワインビジネスの急成長につながっていきます。
1997年のEC化と、5年間毎日のYouTube
1996〜97年ごろ、ギャリーさんは家族経営の店でオペレーションを担当するようになり、EC化を進めます。1997年にWineLibrary.comを登録・ローンチしましたが、当時はほぼどこもEC化していない時代でした。
ギャリーさんはオンラインで、初期からメールマーケティングや初期のGoogle AdWordsを使い、Twitterでもアーリーアダプターでした。宮武さんが特に衝撃を受けたのは、YouTubeが立ち上がって間もない2006年に、YouTubeチャンネル「Wine Library TV」を始めたことです。
ギャリーさんは、このチャンネルを5年間ずっと毎日更新しました。草野さんは、今思えば初期のYouTubeに張り続ければ伸びそうだが、当時「これから5年更新し続けろ」と言われたらつらいと話します。
多分めちゃくちゃ、特に最初の1年はめちゃくちゃつらかったと思うんですよね。本当に初期なんか本当に1日目、動画再生回数9回とか。
そこから売上は3億から60億へと伸びました。ギャリーさんは現在、VaynerMediaというメディアのコンサル事業で大手クライアントを抱えています。
Thank You Economy:小さな町の店主のように考える
ギャリーさんの著書の中で、宮武さんが特に好きな2冊のうち、最初に読んだのが『Thank You Economy』です。2011年に見た最初の動画も、この本の一環で話されていたものでした。
『Thank You Economy』は、SNSでのやりとりやユーザーとのコミュニケーションの仕方が変わったことを説明しています。宮武さんは、今では当たり前に聞こえても2011年当時は当たり前ではなく、今でもうまくできていないビジネスは多いと指摘します。
今のカルチャーシフトを見てない人は絶対勝てないっていうのを言っていて。
ギャリーさんの主張は、ユーザーが初めて声を出せる時代になった以上、ビジネスオーナーは小さな町の店主と同じ考え方をしなければならないというものです。小さな町では噂がすぐに広がり、全員が知っています。インターネットとSNSによって、今は世界がそういう状態になっているという見立てです。
ギャリーさんが挙げた事例の一つが、高速道路のビルボード広告です。次に高速道路に乗ったら周りのドライバーを見てほしい、5人に3人、6割はスマホを見ながら運転している、という統計をもとにした話でした。
そもそも道路も見てない人たちがなぜ看板を見るんだと。
そのうえで、ビルボード広告にわざわざ何億も投資する必要があるのか、というのがギャリーさんの問いかけです。
コンテンツが王様なら、コンテキストは神様
アメリカではよく「Content is king」と言われます。コンテンツが良くなければ何もできないという考え方で、宮武さんもそれ自体は正しいと認めています。
ギャリーさんが示したのは、コンテンツ量の爆発です。人類の始まりから2003年までに作られたコンテンツの量と同じだけのコンテンツが、2011年時点では48時間ごとに作られているといいます。宮武さんは最近の数字として、2018年までの全データのうち9割が2017年と2018年に作られたことも挙げています。
これだけ大量のコンテンツがある中で、コンテンツだけで勝つのは難しくなります。そこでギャリーさんが持ち出したのが「コンテキスト」という言葉でした。
コンテンツがその王様、コンテンツイズキングであれば、コンテキストは神様だと。
宮武さんの説明では、コンテキストとは、自分のオーディエンスやプラットフォームをどれだけ理解しているかです。その理解があってこそ、良いコンテンツを出せるという考え方です。
SNSを一夜限りのチャンスにしていないか
ギャリーさんは当時から、ブランドのSNSの使い方も批判していました。多くの会社は自社のプロモーションばかり投稿していて、一夜限りのチャンスを狙う若い男性と同じ考え方になっているという指摘です。
ギャリーさんによれば、そうした会社は1回目のトランザクション ── 商品の購入など、企業と顧客の間で1回ごとに成立する取引のことでクローズしようとしています。本当に重要なのはLTV ── ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の略。1人の顧客が取引期間全体を通じて企業にもたらす利益の総額を指しますとリテンションですが、そこに投資していないのが問題だといいます。
いわゆるその次のカルチャーシフトに投資してないのが問題だと。
次のカルチャーシフトは1年後、5年後に起きるもので、今投資してもすぐには結果が出ません。そのためブランドの行動は変わりにくい、というのがギャリーさんの見立てです。宮武さんは、自身がポッドキャストでよく話す似た主張のソース元はギャリーさんだと明かしています。
自社のプロモーションばかり投稿し、1回目の取引でクローズしようとする
LTVとリテンションを重視し、1年後・5年後のカルチャーシフトに今投資する
「あなたのお母さんのROIは?」
ギャリーさんは当時、経営者から「SNSのROIは何なのか」とよく問い詰められていたそうです。宮武さんは、日本でもよく聞かれる質問だろうと話します。
で、そこでギャリーさんが回答したのが、「じゃああなたのお母さんのROIって何ですか?」って。
宮武さんは、これは失礼な発言ではないと説明します。ギャリーさんにとって、自分を育てた母親のROIはすべてです。ただ、15歳のときに髪を切って母親に褒められ、自信が何パーセント上がり、15年後にワインがもっと売れた、といった計算はできません。
ギャリーさんの考えは、ユーザーが人間であれば、自分も人間らしい行動をすることで長期的なバリューを作れるのではないか、というものです。
全顧客に電話する「サンキュー部門」
人間らしい行動の一例が、ギャリーさんがワインの会社で作った「サンキューデパートメント」です。宮武さんは、これはカスタマーサービスではなく、オフェンスの戦略的な部門だと強調します。
カスタマーサービスってディフェンスじゃないですか。
クレームに対応する守りのカスタマーサービスとは逆に、サンキュー部門は顧客にさまざまな形で「ありがとう」を伝えます。まず全顧客に電話し、買ってくれたことへのお礼だけを言って終わります。
アメリカでは会社から電話が来ると営業だと思われがちで、そっけなく対応する顧客も多くいました。ところが、電話をかけた顧客のうち7%が折り返し電話をしてきて、「売り込みだと思って対応を悪くしてしまった」と謝ってきたそうです。
でもまあ期待値が低い分、そんな連絡もらったら確かに嬉しいかもしれないですね。
短期的には人件費がかかるだけのコストですが、ギャリーさんは期待値が低いからこそ最終的なROIにつながると信じ、長期的なバリューになると考えていました。
別の例として、ギャリーさんは顧客のTwitterハンドル名などSNS情報も集めていました。ある顧客が特定のアメフトチームのファンだとわかると、サンキュー部門にその選手のサイン入りジャージを買って送らせました。
2〜3週間後、その顧客である弁護士から「オフィスに飾っています」「一生お客さんになります」という手紙が届きます。草野さんはZappos ── 靴を中心に扱うアメリカのオンライン小売企業。顧客の期待を超える手厚いカスタマーサービスで知られますを連想し、宮武さんも似ていると応じています。
さらにその弁護士の友人からも連絡があり、自分もワインを買うと書いたうえで、追伸に「僕はこの役者が好きです」と添えていたそうです。宮武さんは、SNS上に顧客の情報がたくさんあるのに、なぜ多くの会社は自分のユーザーを理解しようとしないのか、ギャリーさんには理解できなかったと話します。
毎晩4時間、ワインの質問に答え続けたTwitter
ギャリーさんは投稿も多くしますが、同時にソーシャルリスニング ── SNS上でユーザーが交わす会話や投稿を収集・分析し、顧客の関心やニーズを把握する手法にも力を入れていました。ワイン会社を運営していたころ、毎晩4時間ほどかけてTwitterでワインについて質問している投稿を探していたといいます。
たとえば「この食べ物にはどのワインが合いますか」という投稿に、ギャリーさんは自社の宣伝を一切せず、「このワインが合うと思います」とだけ答えていました。
単純にこのワインが合い、合うと思いますっていうのを言ってるだけなんですよ。
宮武さんは、自分の投稿に誰かがコメントをくれるケースは少ないので、返信が来れば必ず見ると説明します。何人かは「この人は何をしている人だろう」とプロフィールを見に行き、ワインを売っていると知って買ってみる、という流れが生まれます。
アメリカでは「白身魚に合うワインは何か」が鉄板の質問で、ギャリーさんはそれに何千回も答えているそうです。宮武さんは、仕事の後の夜中に毎日4時間そうした泥臭いことを続けた点こそが、ギャリーさんの強さだと話します。
草野さんも、夕方にしたツイートに深夜3時に返信が来たら「こんな夜中にありがとう」と思う、と共感しています。宮武さんによれば、相手のバリューになることをひたすら続けてパーソナルブランドを作り、それが長期的に会社のバリューにつながることを理解していた人でした。
犬が家の中に入ったように、次はブランドが人間化する
ギャリーさんは2011年の動画の時点で、ロゴやブランドの人間化がすでに始まっていると話していました。宮武さんが面白いと感じたのは、その理由を犬の事例で説明していた点です。
1950年代のアメリカでは、犬は家の中におらず、庭に立てた棒に紐でつながれて飼われていました。それが2011年には、犬は家の中にいて、場合によっては寝室で暮らし、飼い主よりいい服を着て、いい食べ物を食べ、飼い主のベッドで寝ていることさえあります。
1950年代のアメリカ: 犬は庭で棒に紐でつながれ、家の中にいなかった
2011年: 犬は家の中や寝室で暮らし、飼い主よりいい服や食べ物を与えられる
宮武さんの説明では、ペットの人間化はすでに起きており、人間化するサークルはどんどん広がっています。そう考えると、どこかのタイミングでブランドの番が来る、という論理です。
どんどん周りを人間化し始めてるって考えると、どっかのタイミングでブランドが来ると。
草野さんは、SNSの文脈ではなく犬から説明する観点は思いつかなかったと驚いています。
マーケターはすべてを台無しにする人たち
ギャリーさんはもう一つ重要な話として、マーケターはすべてを台無しにする人たちだと語っています。ギフトを贈るといった手法も、他の人が真似をして戦略化され、一般化すると、ユーザーの期待値が変わって普通になってしまうからです。
その好例が、ギャリーさんが1998年にWine Libraryで配送無料キャンペーンをしたときの話です。当時は誰もやっていなかったため、注文が殺到し、3日間徹夜で処理をしたといいます。
注文の一つには、娘の結婚式用に買うとメモがありました。ギャリーさんがお礼の電話をかけ、シャンパンを贈りたいので結婚式の場所を尋ねると、「娘はまだ12歳です」という答えが返ってきました。配送無料はすごいことなので、結婚式に備えて大量に買って地下に保存しておく、というのです。
今だともう配送が無料なんて当たり前の時代になっちゃったじゃないですか。
今では配送無料は当たり前になり、少しでも遅いと怒る人さえいます。宮武さんは、だからこそマーケターは常に次の新しいアテンションの取り方を考えなければならないと話しています。
新しい施策
1998年の配送無料のように、当時誰もやっていない施策が驚かれる
戦略化
他の人がコピーし、戦略として広まる
一般化
多くの会社がやるようになり、ユーザーの期待値が変わる
当たり前
何も感じなくなり、無いと不満に思われる
ジャブ・ジャブ・ジャブ・ライトフック:先にバリューを渡す
宮武さんが好きなもう1冊が『Jab, Jab, Jab, Right Hook』です。宮武さんはこの本のコンセプトを、投資でも人とのビジネスでも使う自分のビジネスフィロソフィーになっていると話します。
ジャブはバリュー提供を指します。OffTopicでいえば、Twitterやポッドキャスト、記事といったコンテンツがそれにあたり、ギャリーさんの場合はプレゼントやコンテンツです。ライトフックはコンバージョン、つまり「これを買ってください」とクロージングしに行く一撃です。
ボクシングでは、ジャブを何度も打たないとライトフックは当たりません。いきなりライトフックを打っても相手に予測されてしまうからです。ほとんどの会社はライトフックしか打たないのが問題だと宮武さんは指摘します。
宮武さんはこの考え方がVC業界にも当てはまると言います。スタートアップの投資案件を勝ち取るには、先にバリューを提供しないと「なぜあなたのお金を取る必要があるのか」となってしまいます。
初めての相手に連絡するときも同じだと宮武さんは話します。日本の文化かはわからないとしつつ、「情報交換」のようなふわっとした打診には、どれだけバリューを提供してくれるのかと思ってしまうそうです。
だからうちら(OffTopic)の場合はほぼ右フックって打ってないんですよ。
OffTopicはこのルールに基づいて動いており、ジャブを打ち続けている状態だといいます。宮武さんはそれ自体は良くないと認めつつ、まず自分がバリューを提供しなければ相手が返す理由がない、と話しています。
コンテンツを「作る」のではなく「ドキュメントする」
最後に宮武さんが挙げたのは、ストーリーテリングの仕方です。ギャリーさんはVlog、記事、ポッドキャストなど大量のコンテンツを出していますが、本人は「コンテンツを作る」のではなく「ドキュメントしている」と語っています。
ギャリーさんのVlogは、ミーティングの一部や普段の会話を映したものです。草野さんに「宮武さんもやればいい」と言われ、宮武さんは「そんな人生面白くないんで」と返しつつ、OffTopicのポッドキャストも投資やスタートアップとの会話で得た考えを話している点で一部同じだと話します。
ギャリーさんは専用のカメラマンを雇い、1日中撮影して編集しています。名言のタイミングで切り替えるなど良いところだけを見せるので、ただ1日を眺める映像にはなっていないといいます。
さらにギャリーさんは、イベント登壇のような長いアンカーコンテンツ ── 記事や長尺動画など、そこから多くの派生コンテンツを切り出す元になる中心的なコンテンツを30個ほどのマイクロコンテンツに分けて出し、フィードバックをもとに出し直したり、FacebookやPinterestなど別フォーマットで展開したりしています。宮武さんは、OffTopicはまだこれができていないと話しています。
宮武さんは締めくくりに、アテンションやカルチャーシフトの捉え方、人とのコミュニケーション、バリュー提供の仕方の面で、ギャリーさんはビジネス面で大きな影響を受けた人だと振り返っています。
まとめ
ギャリー・ヴェイナーチャックの歩みと教えは、カルチャーシフトを読み、短期的な成果より長期的な信頼に投資するという一貫した姿勢でつながっています。宮武さんのビジネスやOffTopicの活動も、その影響を色濃く受けています。
- 6歳のフランチャイズ化から、スポーツカード、ワインのEC化、5年間毎日のYouTubeまで、ギャリーさんは常に人の行動の変化を先取りしてきた
- 『Thank You Economy』は、SNS時代の企業は小さな町の店主のように顧客一人ひとりを大切にすべきだと説く
- コンテンツが溢れる時代には、オーディエンスとプラットフォームを理解する「コンテキスト」が重要になる
- サンキュー部門やTwitterでの回答のように、見返りを求めずバリューを渡す泥臭い行動が長期的な価値を生む
- ジャブ・ジャブ・ジャブ・ライトフックの考え方では、先にバリューを提供して信頼を得てから、初めてコンバージョンを求める


