Shopifyはどこまで伸びているのか
今回のOff Topicのテーマは、ECプラットフォームのShopifyです。草野さんは、Shopifyが「超成長している」と切り出し、日本でも使っているD2Cブランドが多いのではないかと話します。
宮武さんは、昔はShopifyがSpotifyとよく間違えられていたと振り返ります。草野さんによると、Shopify JapanのSNSでは日本読みとして小さい「つ」を入れた「ショッピファイ」と名乗っていたそうです。
Shopifyの規模について、宮武さんは世界のEC企業をGMVでランキングした数字を紹介します。1位がアリババ、2位がAmazon、3位がJD.com、4位がピンドゥオドゥオで、Shopifyは5位に入っています。
(Shopifyは)2019年は9位だったので。
宮武さんによれば、Shopifyはアメリカのeコマース市場の10%を占めています。草野さんがカナダの会社であることに触れると、宮武さんは、もともとスノーボードのサイトから始まった会社だと補足しました。
草野さんは、創業者のトビー ── Shopify共同創業者でCEOのトビアス・ルトケ氏の愛称。ドイツ出身で、カナダでShopifyを立ち上げましたさんがTwitchでストリーミングしていることだけは知っていたといいます。宮武さんは、トビーさんがスタークラフトの大ファンで、よくeスポーツをしていると応じました。
Shopifyの正体は「決済会社」?
宮武さんは、Shopifyと聞くとコマースのSaaSプラットフォームを思い浮かべる人が多いと前置きします。そのうえで、Shopifyは実際には6つのことをやろうとしていて、コマースSaaSはその1つにすぎないと見ています。
宮武さんによると、この6つの事業には1つの大きな目的があります。それは、Shopifyを使っているブランド、つまりマーチャントのGMVを伸ばすことです。
それ(マーチャントのGMV)って、Shopifyの決済プラットフォームに、まあいわゆるフィンテックプラットフォームに直結するんですよね。
草野さんが「手数料ですか?」と確かめると、宮武さんはうなずきます。宮武さんの見方では、Shopifyが長期的に伸ばしたいのは決済で、それ以外の事業はすべてGMVを伸ばすためのツールです。
売上の内訳を見ると、Shopifyはすでに決済会社だと宮武さんは言います。2020年の売上は2.9ビリオンで、2019年から86%伸びています。そのうちサブスクリプション、つまりSaaSが900ミリオン、決済が2ビリオンです。
2015年のIPO時と比べると、この構成は逆転しています。上場時の売上は105ミリオンで、そのうち3分の2にあたる67ミリオンがSaaSから来ていました。
2015年のIPO時: 売上105ミリオンのうち67ミリオン(約3分の2)がSaaS
2020年: 売上2.9ビリオンのうちSaaSは900ミリオン、決済が2ビリオン
決済シフトで何が変わったのか
宮武さんが重視するのは、決済が中心になったことで、Shopifyとマーチャントのインセンティブの方向が一緒になった点です。
SaaS中心のビジネスでは、Shopifyの狙いはマーチャント数を増やすことでした。利用者が増えるほどSaaSの売上を払う人が増え、Shopifyが儲かる仕組みだったからです。
決済になると、マーチャントが成功しないとShopifyが成功しない。
草野さんはこれを「同じゴールですね」と受けます。宮武さんは、決済中心であれば新しいマーチャントを取らなくても既存のマーチャントが大きく売れればShopifyも成功するので、ヘッジができると説明しました。
マーチャントの数を増やすほど儲かる
マーチャントが売れるほど儲かる。新規獲得がなくても既存の成長で伸びる
宮武さんは、決済はSaaSと比べてマージンが低いとも認めています。ただし、そのぶん早く伸びることも可能だという点が重要だったと話しています。
ShopPayはなぜ強いのか
決済プロダクトのShopPayについて、宮武さんは「実は結構いいプロダクト」だと評価します。ShopPayはチェックアウトの機能で、Shopify側の説明では、通常のチェックアウトより7割早く、コンバージョン率も1.7倍あるといいます。
草野さんが理由を尋ねると、宮武さんは体験の良さに加え、一度使うと2回目以降は情報が記憶されている点を挙げます。ほぼ情報を入力しなくても決済でき、ハードルが下がるぶんコンバージョンが高くなるという見方です。
宮武さんは、ShopPayが2つの新しいファネルを作っているとも話します。1つはShopPayから新しいブランドのディスカバリーへつながる流れ、もう1つはShopPayから新しいSaaSの売上へつながる流れです。
SaaS側の流れとして、ShopifyはShopPayをGoogleやFacebook上で販売しているリテーラーでも使えるようにしました。Googleで商品検索したときに出てくるショップの決済や、Instagramショップの決済手段としてShopPayを入れる形です。
しかも、そのマーチャントがShopifyの店舗を作っていなくても使えます。草野さんが「もうほんと決済システム」と言うと、宮武さんは「まさに決済システムとして売っている」と応じました。
ShopPayを別プロダクトとして置くと、逆にそこ経由からShopifyのサイトを作ろうってなる可能性って出てくるんですよね。
宮武さんの推測では、ShopifyはGoogleやFacebookと何らかのレベニューシェアを取っており、両社にとっても売上の一部が入ります。顧客にとっては住所や決済情報が保存されていて楽で、Shopifyにとっては新しい顧客にリーチできるという構図です。
外部で導入
GoogleやInstagramのショップでShopPayを決済手段に使う
新規リーチ
Shopifyの店舗を持たないマーチャントや顧客に接点ができる
SaaSへ誘導
そこからShopifyのサイトを作ろうというマーチャントが出てくる
ShopifyCapitalとロールアップ、銀行としてのShopify
宮武さんは、Shopifyをフィンテックプラットフォームや銀行として見るべきだとも話します。その例がShopifyCapital ── Shopifyがマーチャントに事業資金を提供するサービス。返済は将来の売上から差し引く形が一般的ですです。
ShopifyCapitalは、以前Off Topicで取り上げたPipeやClearbancのように、マーチャントにキャッシュを前払いで提供する仕組みです。草野さんは、ものを作っている人たちに先にお金を渡して事業を運営できるようにするものだと理解しました。
宮武さんによれば、2020年の第3四半期には1四半期で250ミリオンほどを提供し、直近の四半期では300ミリオン以上を提供しています。さらに、ShopifyはPipeの投資家でもあります。
草野さんが「買収もありえますか」と尋ねると、宮武さんは「可能かもしれない」と答えつつ、「どうなんですかね」と断定はしませんでした。
宮武さんは、Amazonのブランドを買収するロールアップ ── 同業の小規模事業を次々と買収して1つの大きな事業体にまとめる手法。EC業界ではAmazon出品ブランドを束ねる企業が増えました事業が、最近Shopifyのブランドでも起き始めていると話します。例として挙げたのがOpenStoreです。
OpenStoreは、マーチャントのログイン情報をもとに在庫、価格、売上などを見て、「いくらだったら買いますよ」と自動的に提案します。創業者は、家で同じことをやっていたOpendoor ── 住宅をオンラインで即時査定して買い取るアメリカの不動産テック企業。共同創業者の一人がキース・ラボイス氏ですの人たちで、二人はOff Topicのリスナーにはおなじみの「マイアミ大好きキースさん」だと笑い合いました。
こうしたロールアップの流行のなかで、Shopify自身も、エコシステム内で簡単にブランドを売却できるマーケットプレイスを作り始めていると宮武さんは話します。
なぜShopifyはStripeと手を組むのか
銀行まわりで特に強い点として、宮武さんはShopifyとStripeの深いインテグレーションを挙げます。草野さんはパッと見で競合だと思っていたそうですが、宮武さんは「めちゃくちゃ仲いい」と言います。
宮武さんの説明では、Shopifyにとって銀行を自前で作るのは面倒です。そこで、Stripeが作った銀行機能をAPI化したものと連携しています。
たとえばOff Topicがグッズを売るためにShopifyアカウントを作ると、オプションとして「銀行口座を作りますか?」「法人化しますか?」と出てくるといいます。法人化は、StripeのAtlas ── Stripeが提供する、オンラインでアメリカの法人設立を支援するサービス。スタートアップやアクセラレーターでよく使われていますというプログラム経由のサービスです。
宮武さんは、アメリカで銀行口座を作る手間についても具体的に話します。だいたい5日から7日かかり、半分以上の銀行では支店に行く必要があり、4分の1の銀行ではFAXを送らなければならないそうです。
いまだに?
いまだにアメリカでも。
草野さんは「ローテクですね、意外と」と驚きます。宮武さんは、それがStripe上ならすぐにできあがり、Shopifyアカウントを作るだけでビジネスが作れるのは「めちゃくちゃ便利」だと話しました。後払いサービスのAffirmなど、ほかのサービスとも連携していると付け加えています。
Shopifyの弱点「ディスカバリー」をどう補うか
決済・銀行に続く大きな流れとして、宮武さんはディスカバリー、つまりショップや商品を見つけてもらう面を挙げます。Amazonと比べると、Shopifyはここがいつも弱みでした。草野さんも、Shopifyには商品検索や比較の機能がないと指摘します。
最もわかりやすい取り組みが、Shopifyのアプリ「Shop」です。宮武さんによると、去年本格的にリリースした当時は「正直言うと微妙なアプリ」でしたが、だいぶ改善されてきたといいます。
Shopアプリはもともと、ユーザーが注文した商品がいまどこにあるかを追跡するトラッキング用のアプリでした。それをリブランディングし、Shopifyのマーチャントのブランドを簡単に見つけられるアプリにしようとしています。最近はローカルビジネスをフィーチャーし始めているそうです。
注文した商品の配送状況を追跡するトラッキング用アプリ
Shopifyマーチャントのブランドを見つけられるディスカバリー用アプリ
宮武さんは、このディスカバリーがShopPayともつながると見ています。アメリカのブランドでは、決済後の購入後体験に、新しいブランドを紹介する仕掛けを入れることが多いからです。
Amazonでもたまにあると思うんですけど、「これ購入した人ってこういうものも購入しました」って出てくるじゃないですか。それと同じ形でShopPayって存在すると思っていて。
草野さんは、Shopifyはあえてディスカバリーやキュレーションをやらないものだと思っていたと話します。そのうえで、決済のタイミングで出てくるレコメンドは「いいですね」と受け止めました。
ディスカバリーはブランドのためになるのか
宮武さんは、草野さんの「あえてやっていないと思っていた」という感覚を「すごいいいポイント」だと受けます。宮武さんによれば、Shopifyがディスカバリーをどうしたいのかは、まだ完全には見えていません。
トビーさんの発言や行動からは、ShopifyをディスカバリープラットフォームにしたいからこそShopアプリに投資しているように見えます。一方で、Shopifyには全マーチャントを平等に扱いたい、バイアスをかけたくないという考えもあると宮武さんは話します。
こういうディスカバリープラットフォームを作ってしまうと、重きを置いちゃうんですよね、何かに。
草野さんも、それではShopifyがAmazonのような巨大プラットフォーマーになってしまう可能性があると指摘します。宮武さんは、だからこそShopifyも慎重に動いていると見ています。
ディスカバリーの取り組みとして、宮武さんはShopifyのアフィリエイト機能も挙げます。数か月前のニュースでは、BuzzFeedなどのメディアと連携したと報じられていました。
宮武さんによると、アメリカのコンテンツマーケターにとって、アフィリエイトの選択肢は基本的にAmazonしかありませんでした。Shopifyがコントロールしていなくても、コンテンツからShopifyブランドを見つけてもらう道具を提供することは重要だという見方です。
草野さんは、ブランド側の視点から懸念を示します。Shopifyのショップは、各ブランドが独自にカスタマイズしていて、Shopifyを使っているとわからないほどのこともあるからです。
このブランドを知ってもらったのに、そこでリコメンドはあんまりしたくないじゃないですか、ブランドからしたら。
宮武さんは、やり方をよく考える必要があると応じ、レコメンド専用のソフトウェア企業Co-op Commerceを例に挙げます。Shopifyはこの会社の直近の資金調達で投資しています。
Co-op Commerceは、競合する同じ商品ではなく、そのブランドに合ったライフスタイルの商品をできるだけ出すように推薦するといいます。宮武さんは、そうしたレコメンドならブランド側も喜び、Shopifyでも成立するのではないかと考えています。
宮武さんの整理では、マーチャントのためにならない限り、Shopifyはディスカバリーを進めるべきではありません。単純に商品を並べると各ブランドのブランディングが消え、Amazonと同じになってしまうからです。
プロダクトベース。商品単位で検索・比較される
ブランドベース。各ブランドのイメージを保つ必要がある
ブランドのイメージを保ちながらディスカバリーをすることが、Shopifyの課題だと宮武さんは話しています。
ARとSNS連携でどこまで広がるのか
ディスカバリーでShopifyがもう1つ推しているのがARです。宮武さんによれば、最近のShopifyの特許申請には、服のフィッティングのために体格のサイズを自動で測る技術があり、ARスタートアップの買収も始めています。
宮武さんは、特にSnapchatのコマース実績を見ながら、Shopifyがこの領域にどれだけ入り込めるかを探っているはずだと見ています。草野さんは、日本ではARによる購買体験の波はまだ来ていないと感じていたものの、Snapchatのスニーカー試着ARのクオリティには驚いたといいます。
宮武さんは、ありうる体験を想像として語ります。商品写真を何枚か違う角度で撮るだけでShopifyが3Dモデル化し、Snapchatの店舗も自動で作られ、ユーザーが試してからShopPayで決済する、という流れです。
撮影
マーチャントが商品写真を複数の角度で撮る
3Dモデル化
Shopifyが自動で3Dモデルにする
Snapchat店舗
自動でSnapchat上に店舗ができ、ユーザーがARで試す
決済
ShopPayで購入する
Amazonができないこと、いろんな企業を巻き込んでやってるって感じしますね。
ディスカバリーの最後の取り組みとして、宮武さんはSNSとの連携を挙げます。アテンションを取っているのはSNSで、ソーシャルコマースに入ろうとしているSNSの多くがShopifyと連携しています。アメリカのTikTokはShopifyとの連携を発表し、YouTubeが検証中のソーシャルコマース機能もShopifyだといいます。
宮武さんは、今後はフォートナイトやRoblox、Epic Games、Unityなどと連携し、ゲーム領域に入ってもおかしくないと話します。草野さんが「一人勝ちなのか」と尋ねると、宮武さんはプロダクトの質の高さ、アプリエコシステムや自社サービスの強さを理由に挙げました。
Google連携の本当の狙いは検索データ?
SNS連携のなかで宮武さんが最も面白いと感じたのは、GoogleとShopifyの連携強化です。もともと2012年ごろから連携していましたが、Google検索上でShopifyマーチャントの商品が出てくるようになるという発表がありました。これまで出てきたのは、Googleショッピングに登録している人の商品だけだったといいます。
TechCrunchの記事は、どちらかといえばGoogle側の話として書いていたと宮武さんは紹介します。Amazonは商品検索経由の広告でうまくマネタイズしており、GoogleがShopifyとの連携でその領域に入れる、という論点です。
おそらくなんですけど、ShopifyってそのGoogle検索のデータをもらえるんじゃないかなと思ってて。
宮武さんは、これはあくまで推測だと断ったうえで、検索データの2つの意味を挙げます。1つは、Shopアプリのディスカバリーにとって重要なデータになることです。現状のShopアプリの検索は「正直あまり良くない」ため、どんなものがコンバージョンにつながるかがわかれば改善できます。
もう1つの意味として宮武さんが強調したのが、決済とディスカバリーから生まれつつある新しいマネタイズ領域、広告事業です。
Shopifyはなぜ今、広告に向かうのか
宮武さんは、広告を取り巻く環境の変化から説明します。これまでブランドはFacebookやGoogle、Instagramで広告を出してきましたが、Appleがプライバシーに厳しくなり、ChromeでもCookieを廃止する動き(延期はされた)があります。
その結果、ファーストパーティーのユーザーデータ ── 企業が自社サービス上で直接集めた顧客データのこと。外部のCookieに頼らないため、プライバシー規制の強化で価値が高まっていますを集めることが重要になりました。プラットフォーム上にブランドの情報とユーザーの行動データがすべて載っているAmazonは、広告プラットフォームとして伸びています。
宮武さんによると、Amazonは直近の四半期で広告だけで8ビリオンほどを売り上げ、今年は広告だけで30ビリオンほどになる見込みです。30ビリオンはTwitterの2011年から2020年の合計売上より多いと聞いて、草野さんは「比べないでください、Twitterとは」と笑いました。
Shopifyも広告事業に入りたかったはずですが、これまではできませんでした。各ブランドのデータしかなく、つながりがなかったからです。それが最近の取り組みで、いろいろなところからデータが取れるようになってきました。
データの入口として、宮武さんはTikTokやYouTubeなどのSNS連携、そして最も大きいGoogleの検索データを挙げます。さらに強いと見ているのがShopPayです。
FacebookとかInstagramとかGoogleで(使えるので)。となると、ShopPayってCookie側になったんですよ。
ShopPayはShopifyサイト以外でも使えるため、そこで情報が取れ、しかもコンバージョンのデータが得られます。草野さんは「一番いい情報ですね」と応じました。
実際にShopifyは、ベータ版で広告のオーディエンスネットワークを検証しています。複数のマーチャントのデータを匿名化・集約し、Facebookのような類似オーディエンスを作ってマーチャントに提供し、Facebookなどで広告として流せる仕組みだといいます。
データ取得
SNS連携、Google検索、外部でのShopPay決済からデータが集まる
集約
マーチャントのデータを匿名化して集める
広告化
類似オーディエンスや購入後レコメンド枠として広告に使う
Amazon、Instacart、Uber Eatsに見る広告の伸びしろ
宮武さんは、Shopifyの広告事業の伸びしろを数字で示します。Shopifyの売上は約3ビリオンですが、Amazonは広告だけで今年30ビリオンほどを作る見込みです。
マーチャント数を比べると、Amazonのアクティブなマーチャントはおよそ190万、Shopifyはおよそ170万で、ほぼ同じです。ただしAmazonはアクティブと非アクティブの差が大きく、合計ではShopifyの6倍ほどになると宮武さんは補足しました。
| 項目 | Shopify | Amazon |
|---|---|---|
| 売上・広告売上 | 売上全体で約3ビリオン | 広告だけで今年約30ビリオン見込み |
| アクティブなマーチャント数 | 約170万 | 約190万 |
| 合計マーチャント数 | - | Shopifyの6倍ほど |
宮武さんは、最近は広告がアグリゲーター ── 多数の事業者や商品を1つのプラットフォームに集め、ユーザーとの接点を押さえる企業のこと。Amazonや配達アプリなどが代表例ですに寄っているとも話します。InstacartはAmazon以外の例で、商品検索時や購入時に横に広告を出しています。
宮武さんによると、Instacartは去年300ミリオンほどを広告で稼ぎ、今年は1ビリオンになると言われています。Instacartの黒字化には広告の寄与が大きいそうです。
Uber Eatsも去年8月に広告事業を立ち上げ、今年は100ミリオン以上のランレートになると言われ、CEOのダラ・コスロシャヒ氏はそれを超えると話していたといいます。DoorDash、GoPuff、Spotify、Walmartなども広告領域に力を入れ、著名な人材を採用しています。
ECファネルの全段階を押さえにいく
宮武さんは、ECのファネルを「ディスカバリー」「購入」「ブランド」「リピート」の4つに分けて、Shopifyの現在地を整理します。
以前のShopifyは、ディスカバリーではほぼ存在感がなく、購入はShopPayがあっても自社店舗だけでした。ブランドやリピートの部分は、インテグレーションやアプリエコシステムで支えていました。
| 段階 | 以前 | 現在 |
|---|---|---|
| ディスカバリー | ほぼ存在感なし | SNS連携やShopアプリで取り組み開始 |
| 購入 | ShopPayはShopify店舗のみ | InstagramやGoogleでもShopPay |
| ブランド | 外部連携でマーケティング | 連携に加えて自社ツールTailor |
| リピート | アプリエコシステム | 購入後体験、広告ネットワーク、行動データ |
ブランドの部分では、ShopifyがCanva ── デザインのテンプレートを使って、スライドやSNS画像などを手軽に作れるオンラインサービスの競合となるTailorというサービスをローンチしたと宮武さんは紹介します。草野さんは初耳だったようで「めっちゃいいですね」と反応しました。
宮武さんは、ブランドがSNSマーケティングや自社サイトにクリエイティブを必要とするため、専用のテンプレートサービスを作ったのだと説明します。リピートの部分でも、購入後の体験、広告ネットワーク、ユーザーの行動データを集めていることから、今後新しいツールが出てくるのではないかと見ています。
物流・返品・リセールに広がる購入後の体験
宮武さんは、詳しくは扱わないとしながらフルフィルメントにも触れます。配送はAmazonが強い領域で、Walmartも「Walmart+」で、サードパーティーマーケットプレイスの出品ブランドに店舗受け取りと2日以内配送を使えるようにし始めました。
宮武さんは、2日以内に届くのが当たり前になったのは「Amazonのおかげ」と言いかけ、「せいです」と言い直します。草野さんは、エンドユーザーとしてはうれしい反面、事業者には大変だと応じ、宮武さんもラストマイルのコストの高さを挙げました。
Shopifyも自社のフルフィルメントネットワークを作り込んでおり、越境ECのGlobal-eなどにも投資しています。宮武さんは、購入後の体験をShopifyがディスカバリー以外の面でも広げてくると見ています。
宮武さんが予想する主な領域は、返品事業とリセールのソフトウェアです。自社で手がけるか、投資して連携させるかはわからないものの、2つが1つの事業として成り立つと考えています。
背景として宮武さんは、決済会社による返品事業の買収を挙げます。PayPalはHappy Returnsを、AffirmはReturnlyを買収しており、そのAffirmにはShopifyが投資しています。
この仕組みなら、マーチャントは返品のコストを負わずにお金を受け取れます。草野さんは、ユーザーにとっても購入体験が上がり、Shopifyを使っている店で買おうとなりそうだと話しました。
大きなリテーラーほどShopifyを使わない問題
宮武さんは、Shopifyの可能性にはリスクもつきものだと続けます。1つは前述のとおり、Shopアプリのディスカバリーにチャンスがある一方で、バイアスをかけたくないという考えとの両立が難しい点です。
もう1つの大きなリスクは、大きなリテーラーほどShopifyを使わず、カスタマイズのために自社でECを作るケースが多いことです。
リテールメディアの2PM ── Web Smith氏が運営する、ECやD2Cのビジネスを分析するアメリカのメディア・ニュースレターが見ているD2C中心のトップ30リテーラーのうち、Shopifyを使っているのは8社だけです。トップ20では4社しかありません。かつての上位にはWarby ParkerやTHREESIXTYなどがいたといいます。
宮武さんが問題視するのは、ShopifyがマーチャントのGMV ── 流通取引総額。プラットフォーム上で取引された商品の金額の合計を指しますを伸ばすことで売上を上げるモデルだという点です。2PMのリストでは、トップ40のリテーラーのGMVが、その次の50万社のGMVより大きいといいます。
やっぱり大きなリテーラーを取りに行かないと、GMVって劇的に伸びるのかっていうのが、一つ課題としてはありますと。
草野さんは、大きなブランドからすれば自社で作るほうがデータも取れ、カスタマイズもでき、安全だろうと指摘します。宮武さんは、だからこそShopifyは大きなブランドを誘うために広告ネットワークを作っているのだと見ています。
SNS連携についても、宮武さんは「誰のための連携か」という難しさを指摘します。Instagramがコマース機能を提供するのは、ユーザーにInstagram上で完結し、ずっとInstagramにいてほしいからです。そうなると、ユーザーがブランドに残るとは限りません。
現状では、SNSのコマースの6割ほどはユーザーがリテーラーのサイトに移って決済しているといいます。それを解決しても、SNS企業のためになっているだけかもしれません。ただし、インスタショップがブランドをうまく表現できる場になれば気にならない可能性もあり、宮武さんはリスクとして残ると話しました。
ShopifyとStripeは「分散型」でAmazonに挑む
宮武さんの結論は、ShopifyはAmazonをパーツパーツで倒しに行っている、というものです。今回話したディスカバリー、広告、物流はすべてAmazonの強みです。
宮武さんによれば、Amazonを倒せる会社として思い浮かぶのは、なぜか全部Sから始まる3社、Shopify、Stripe、Squareです。宮武さんは「Sの名前が勝てる確率を上げるんですかね」と冗談を交えました。
特にShopifyとStripeの関係は、連携以上のものです。ShopifyはStripeの株主で、Stripeが初期投資家に株を売る機会を設けた際の買い手にも選ばれ、噂ではかなりアグレッシブに買い上げようとしていたといいます。Stripeは、Shopifyのようなコマース向けSaaSを作らないため、競合しにくい関係です。
宮武さんは、過去のOff Topicで扱った独占禁止法の議論につなげます。Amazonは新しい領域に入るときに値段を下げて独占し、コントロールを得るといわれ、多くの市場を支配していることが問題視されています。ShopifyとStripeの連携は、それを分散化した戦い方だという見方です。
草野さんが「提携や株主以上、買収未満の関係は独占禁止法に引っかからないのか」と尋ねると、宮武さんは各領域で引っかかる可能性はあると認めます。そのうえで、Amazonのようにあらゆる業界へ広がることをあえてしないのは戦略的判断だと話しました。
既存事業の利益を使って、1社でどんどん横の領域に広がる
互いの領域を尊重し、連携・投資し合って分散的に戦う
分散型のアプローチはShopifyの元々のあり方でもあります。去年のShopifyパートナーエコシステムの売上は12.5ビリオンで、2019年から84%伸びています。宮武さんは、Amazonがプロダクトフォーカスであるのに対し、Shopifyはマーチャントに優位性を作る道具を与えるマーチャントフォーカスだと整理し、草野さんは「ほんと対照的ですね」と受けました。
独占禁止法の空気がShopifyの追い風になる?
宮武さんは、独占禁止法をめぐる動きのなかで、Amazonを含む大手テック企業が弁護士や法務の人材、政府との関係づくりのポジションを多く採用し始めていると話します。リーガルリスクを考えるようになるため、Amazonは必ずペースダウンするという見方です。
前例として挙げたのが、2000年にMicrosoftが訴えられた時期です。宮武さんは、真偽はわからない噂だと断ったうえで、MicrosoftはPMより弁護士のほうが多い時期があったといわれていると紹介しました。
Shopifyってこれ(独占禁止法の流れ)今匂ってると思ってて。だから、結構釘を刺しに行ってるのかなと思ってて。
宮武さんの推測では、Shopifyはこのタイミングだからこそディスカバリーや広告に注力し始めています。そして「新しい会社の作り方は、連携されたエコシステムから生まれる」と示し、政府がShopifyを成功事例としてAmazonに指摘しやすくしているのではないかと見ています。
草野さんは、急に「なんでやらないんですか?」と言われるAmazonの立場を想像し、「そんなこと言われても」という感じだろうと笑いました。宮武さんは、Shopifyはトップにいる Amazonを意識して動いているのではないかとしつつ、「もちろん彼らは多分認めないと思いますけど」と付け加えています。
最後に草野さんは、ShopifyでNFTも扱えるようになったことに触れます。宮武さんはNetflix公式のストアもShopifyだと紹介し、直近のアップデートでカスタマイズ機能を大きく増やしたこと、今後もヘッドレス ── ECの見た目の部分と裏側の仕組みを切り離し、表示部分を自由に作り込めるようにする構成のこと並みの機能を出してくるだろうと話しました。草野さんは、アメリカでD2Cブランドが増えているのもShopifyがあってこそだと締めくくりました。
まとめ
今回のOff Topicでは、Shopifyを決済を軸にした6つの事業の集合として捉え、マーチャントのGMVを伸ばすことが自社の成長につながる構造が語られました。ディスカバリー、広告、物流というAmazonの強みに、他社との連携でパーツごとに挑む姿勢が浮かび上がります。
- Shopifyの売上はすでに決済が中心で、マーチャントが成功するほどShopifyも成功する構造になっている
- ShopPayは外部での導入を通じて、新規顧客の獲得、ディスカバリー、データ取得、広告枠の入口になっている
- ディスカバリーには、ブランドのイメージを保ちながら推薦できるかという難題がある
- 大手リテーラーの取り込みやSNS連携の受益者が誰かは、今後のリスクとして残る
- ShopifyとStripeは、Amazonの1社集中に対して分散型の連携で挑んでいると宮武さんは見ている


