コンテンツとマーケティングの未来 パート3──大量アンバサダー戦略からライブ配信、コメント活用まで
Off Topic // オフトピックの草野ミキさんと宮武テツローさんが、コンテンツとマーケティングの未来シリーズ第3弾として、インフルエンサーの大量活用戦略、TikTokネイティブなブランドコンテンツ、ライブ配信の新しい使い方、コメント欄のマーケティング活用、そしてプレミアムSNSコンテンツの台頭について語りました。その内容をまとめます。
大量のインフルエンサーでフィードを「乗っ取る」戦略
YouTube上のスポンサード動画の数は、2024年から2025年の上半期比較で54%増と急伸しています。インフルエンサーマーケティング自体の重要性が増しているのは多くの方がご存知の通りですが、宮武さんが注目するのはその「頼み方」の変化です。
登録者1,000万人クラスの超大物YouTuber 100人に依頼
登録者100万人規模のクリエイター 1万人に依頼──数とニッチさで勝負
この戦略を体現しているのが、パーカーブランドのComfortアメリカのD2Cパーカーブランド。大量のクリエイターとのアフィリエイト提携で急成長したことで知られる。です。Comfortは直接やり取りする500人のコアクリエイターと、自由にサインアップできる3万5,000人のライト層アフィリエイターの二層構造でプログラムを運営しています。
コアの500人には「毎日2〜3本の投稿」を依頼。彼ら自身が日常的に1日10本ほど投稿するクリエイターなので、ストレスにはならないそうです。結果として毎日1,000〜1,500本のComfort関連動画がフィードに流れ込みます。アメリカでは"flood the feeds「フィードを乗っ取る」の意。大量のコンテンツを投下してユーザーの目に必ず入る状態を作る戦略を指す。"と呼ばれる手法です。
この流れはTikTok ShopTikTok上でそのまま商品を購入できるEC機能。ByteDanceが各国で展開を進めている。でも加速しています。2024年のブラックフライデーだけで、少なくとも8社のブランドがTikTok Shop上で約10ミリオンドルの売上を記録しました。日本でもTikTok Shopの広告フィードが急増しており、宮武さんは「フィードをコントロールしている側が強い」と指摘します。
TikTokって本当にテレビでワンチャンネルしかないっていう話だと思うんですよ
TikTokのFor You Pageは全ユーザーが基本的に同じフィードを見る構造。だからこそフィードに大量のコンテンツを投下する戦略が有効で、ByteDanceTikTokの親会社である中国のテクノロジー企業。強制的にTikTok Shopの動画をフィードに差し込む手法で、ユーザーの購買行動を変化させた。もそれを意図的に活用しているわけです。
従業員をアンバサダー化するソフトウェア業界の動き
大量アンバサダーの考え方は、D2Cブランドだけでなくソフトウェア業界にも広がっています。バイブコーディングツールのLovableAIを活用してコードを自動生成するバイブコーディングツール。自然言語の指示からWebアプリを構築できるサービスとして注目を集めている。が取り組んでいるのは、従業員のアンバサダー化です。
Lovableのマーケチームは社内に専用のSlackチャネルを設け、エンジニアなどの従業員に向けて「こういう形で投稿すると面白いかもしれませんよ」と、共有されやすいコンテンツのヒントを提供しています。外部インフルエンサーを採用するのではなく、自社プロダクトを最も理解している従業員に発信してもらう仕組みです。
報酬は出ないものの、従業員自身のSNSアカウントの成長や、次のキャリアにもつながるため、「うちにいる間はどんどんPRしてくれ」というスタンスだそうです。特にアメリカではLinkedInビジネス特化型SNS。近年は動画機能も追加され、B2B領域での情報発信プラットフォームとして存在感を増している。が活況なので、動画でも投稿でも発信しやすい環境が整っています。
広告読みではなく、TikTokネイティブなコンテンツの重要性
クリエイターとの提携の仕方も変わり始めています。従来の「広告読み上げ」型スポンサーシップではなく、よりネイティブで、ひねりのあるコンテンツが求められるようになっています。
その好例が、TikTokクリエイターのフィービー・アダムスTikTokで人気のクリエイター。ブランドの特徴を活かしたコメディ系コンテンツで知られる。とライフスタイルブランドAnthropologie(アンソロポロジー)アメリカのライフスタイルブランド。ボヘミアンテイストのアパレル・雑貨・インテリアを扱い、独特の世界観で知られる。一風変わったインテリア小物を高価格で販売することがファンの間でネタにされることも。のコラボです。フィービーは「アンソロポロジーで150ドルの石を買った」という嘘を彼氏に報告するいたずら動画を投稿しました。本当にただの石ころなのですが、「アンソロポロジーならあり得る」というファンの間のインサイドジョークをうまく突いた企画です。
その後、アンソロポロジー公式も乗っかり、「店舗で1,000ドルの石が50%オフで販売中」というフェイク動画を投稿。どちらも約1,000万再生を記録しました。最終的には石をテーマにしたアドベントカレンダーまで出し、さらにはユーザーがフォーマットを真似して別のアイテムで同様の動画を作るUGCUser Generated Contentの略。ユーザー自身が自発的に作成・投稿するコンテンツのこと。ブランドにとっては広告費をかけずに拡散される理想的なコンテンツ形態。にもつながりました。
さすがのAppleでもTikTok用にトーンを変えるんだっていうのはびっくりしました
実際、Appleも最近TikTok向けコンテンツを出しており、ティム・クックをいじるような動画も作っています。ブランドの美学を保ちつつも、プラットフォームのトーンに合わせる姿勢はもはや大手でも当たり前になりつつあるようです。
クリエイターとの共同シリーズとサイドクエストコンテンツ
クリエイターの既存フォーマットをブランドが活用する動きも注目されています。配送会社UPSUnited Parcel Serviceの略。アメリカを代表する物流・配送企業。茶色のトラックで知られ、世界220以上の国と地域で事業を展開している。は、人気TikTokシリーズ「Subway Takesカリーム・ラマが制作するTikTokの人気インタビューシリーズ。ニューヨークの地下鉄で乗客に「What's your take?(あなたの意見は?)」と質問する形式で、ニューヨーク市長やセレブも出演して話題になった。」の制作者であるカリーム・ラマとコラボしました。
カリーム・ラマが持つ別シリーズ「Keep the Meter Running」(タクシードライバーにお気に入りスポットを案内してもらう企画)のフォーマットをアレンジし、UPSのドライバーと一緒に配送しながらインタビューするシリーズを制作。ドライバーのインタビューと配送先のスモールビジネスオーナーのインタビューという二段構えで、UPSの事業内容を自然に伝えるコンテンツに仕上げています。
サイドクエストコンテンツという新潮流
もう一つ注目すべきトレンドが「サイドクエストコンテンツ」です。F1ドライバーのシャルル・ルクレールモナコ出身のF1ドライバー。フェラーリ所属。レース以外にも音楽やファッションへの関心をSNSで発信し、F1ファン以外からも支持を集めている。は、Instagramで本業のF1だけでなく、音楽やファッションなど「メインの仕事ではない趣味」についても積極的に発信しています。ファンからの反応は、むしろこうしたサイドクエスト的なコンテンツに対するコメントが非常に多いそうです。
本業・主要テーマ(F1、ランニングブランドなど)
趣味・別分野の発信(音楽、金融解説など)→ ファンのエンゲージメントが高い
起業家でも同様の動きがあります。ランニングブランドMinted New Yorkニューヨーク発のランニング・アパレルブランド。マーカス・ミリオーネが創業。の創業者マーカス・ミリオーネは、TikTokアカウントを2つ持ち、1つ目はランニングや起業の話、2つ目は金融や経済(関税制度の解説など)に特化しています。どちらも人気を集めているとのことです。
草野さんは「ブランドが全く違うプロダクトラインを両軸で走らせるケースも増えるのでは」と指摘。一つの商材だけでは世界観を作りにくい時代に、意外な組み合わせでブランドの奥行きを見せる戦略は、コンテンツでもプロダクトでも共通するかもしれません。
ライブ配信で生まれる「一対一マーケティング」のスケール
ライブ配信は、前回のエピソードでも触れた「親密性(インティマシー)」のトレンドと深く結びついています。同じ時間を共有している実感が得られるライブは、ブランドにとっても強力な武器になりえます。
その最も印象的な事例として宮武さんが紹介したのが、キャンディブランドSkittlesマースが製造するカラフルなフルーツキャンディ。「Taste the Rainbow」のスローガンで知られる。が2018年に行ったスーパーボウル企画です。
CM本編は、そのスーパーファンに似た俳優を主人公にし、実際の親友やお母さんまで出演させた超パーソナライズドな内容だったとのこと。スーパーボウルの会場では流さず、全世界の人が見られるのはライブ配信のリアクション映像だけ。それでもスーパーボウル広告ランキングのトップに入りました。
今の時代は切り抜き文化が浸透しているため、一対一の親密な体験を作ってもSNSで自然に拡散されます。この「スケールしないことがスケールする」という逆説は、さまざまな形で実践され始めています。
All-American Rejectsの「ハウスツアー」
バンドのAll-American Rejects2000年代に「Dirty Little Secret」「Gives You Hell」などのヒットで知られるアメリカのロックバンド。ドームツアーができる規模のアーティスト。は、通常のドームツアーではなく「ハウスツアー」を実施しました。ファンがInstagramで申請すると、バンドが自宅に来てパフォーマンスしてくれるという企画です。間近で見たファンが携帯で撮影し、その映像が拡散されるという仕組みは、Charli XCXイギリスのポップアーティスト。2024年のアルバム「brat」が大ヒット。小規模な会場でのゲリラ的パフォーマンスでも話題になった。が小さな会場でパフォーマンスする戦略とも通じます。
起業家の「PMF or Die」チャレンジ
ライブ配信は起業の世界にも波及しています。「PMF or DiePMF(Product-Market Fit)は、プロダクトが市場のニーズに合致した状態を指すスタートアップ用語。「PMF or Die」は「PMFを達成するか、死ぬか」という意味のプロジェクト名。」というプロジェクトでは、2人の起業家がアパートに閉じこもり、それぞれ25,000ドルの予算とインターネットだけで、90日以内に100万ドルの売上の会社を作る過程をライブ配信しました。
常に視聴者がいるわけではなく、その場に誰もいないのに、Twitterで大きく拡散されたのがポイントです。宮武さんは、かつての日本のテレビ番組「電波少年」の系譜にあるコンテンツだと指摘。昔のテレビの強力なフォーマットが、TikTokやTwitch、YouTubeで再解釈される流れの一例と言えそうです。
コメント欄の活用とプレミアムSNSコンテンツの台頭
宮武さんが今後重要になると見ているのが、コメント欄のマーケティング活用です。コメント欄は「メディア内のメディア」であり、そこからカルチャーが生まれることもあります。会話の基盤であるコメント欄をブランドとしてもっと戦略的に使うべきだ、というのが宮武さんの主張です。
ブランド動画が一定の再生数・コメント数を獲得
人気コメントを抽出する
ユーザーの関心や疑問が可視化される
そのコメントに対する動画をクリエイターに依頼
リアクション動画、解説動画、コメントへの回答動画など
具体的には、ある程度バズった動画のコメントを切り取り、そのコメントに対する動画をクリエイターに作ってもらうという手法です。自社ですべてやる必要はなく、外部のクリエイターを巻き込みながらコメントを「コンテンツの種」として活用する発想がポイントになります。
プレミアムSNSコンテンツの評価
最後に触れたのが、より凝ったソーシャルコンテンツの台頭です。エルメスフランスの高級ブランド。レザーグッズ、スカーフ、アパレルなどで知られる。デジタルマーケティングにも積極的で、SNS上でもブランドの世界観を強く打ち出している。は2024年の上半期だけで約50人のアーティスト(絵を描くアーティスト)と提携し、SNS投稿用のビジュアルを制作してもらっています。
シリーズ物の動画コンテンツに限らず、こうした「手間をかけた」プレミアムなSNSコンテンツが今まで以上に評価される時代になっています。各ブランドの個性に合わせた形を模索することが大切だ、と宮武さんは締めくくっています。
まとめ
コンテンツとマーケティングの未来シリーズ パート3では、インフルエンサーの活用法から、ライブ配信の創造的な使い方、コメント欄のマーケティング戦略、そしてプレミアムSNSコンテンツまで、多岐にわたるトレンドが語られました。共通するのは、「量と親密性の両立」という一見矛盾するテーマです。大量のクリエイターでフィードを埋めつつ、一対一の特別な体験を作る。スケールしないことがSNSの拡散力でスケールする。この逆説こそが、今のマーケティングの最前線を象徴しているのかもしれません。パート4ではIRL(リアルの場)のマーケティングが取り上げられる予定です。
- 大物1人より小〜中規模クリエイター数千〜数万人に依頼する「フィードを乗っ取る」戦略が拡大中。Comfortは毎日1,000〜1,500本の関連動画を生成している
- ソフトウェア業界でも従業員をアンバサダー化する動きが登場。Lovableは専用Slackチャネルでコンテンツのヒントを共有
- TikTokでは広告読みではなく、プラットフォームのトーンに合わせたネイティブコンテンツが必須。Appleですらトーンを変えている
- サイドクエストコンテンツ(本業以外の趣味・関心の発信)がファンのエンゲージメントを高める新戦略として注目
- Skittlesの「スーパーボウルCMを一人にしか見せない」企画は、一対一マーケティングをスケールさせた好例。CM枠ゼロドルで広告ランキング首位に
- コメント欄は「メディア内のメディア」。人気コメントを起点にクリエイターにコンテンツ制作を依頼する戦略が今後増える見込み
- エルメスのアーティスト提携のように、手間をかけたプレミアムSNSコンテンツが従来以上に評価される時代に
