MrBeastがライブ配信に本気で挑んだ理由
世界最大級のYouTuberであるMrBeast本名ジミー・ドナルドソン。高額賞金企画やスペクタクル動画で知られる米国のYouTuber。登録者数3億人超を誇る。が、世界のトップ50ストリーマーを集めた100万ドル賞金企画を展開しました。この企画の特徴は、動画の前半をYouTubeで公開し、決勝戦をライブ配信で行ったこと。視聴者は1分ごとに1,000ドルが当たるチャンスを得られる仕組みで、最終的に100万人以上が同時視聴しました。
ライブ配信中、YouTubeのシステムが投票機能の負荷に耐えられず一時的に不具合を起こすほどの盛況ぶり。MrBeast自身はYouTube動画制作に慣れているため、チャットとのリアルタイムインタラクションには若干の不慣れさも見られましたが、この挑戦は彼にとって新しいエンゲージメント獲得の場となりました。
MrBeastでさえ、やっぱりライブ配信の方に今結構振り向いてるっていうのは結構面白かったですね。
従来のYouTube動画は編集済みのコンテンツですが、ライブ配信には「その場にいる」特別感があります。切り抜き動画として二次拡散されやすく、Netflixなどの配信プラットフォームでのシリーズ展開よりも、自社プラットフォームでのライブ配信の方が費用対効果が高いのかもしれません。
スペクタクルマーケティングの新潮流
一時期流行したアイスクリームミュージアムインスタ映えを狙った体験型施設。カラフルなフォトスポットを多数設置し、来場者が写真を撮影・シェアできる仕掛けを提供する。のようなインスタ映え施設から、最近はもっと日常に突然出現するスペクタクル型マーケティングが増えています。ドラマ『セヴェランス』のプロモーションや、Rampの広告のように、街中に大型オブジェを突如配置するスタント施策が目立ちます。
しかし、ブランドが自らスペクタクルを作り出すだけが選択肢ではありません。世界中でクリエイターがさまざまな企画を展開しており、ブランドはそこに「乗っかる」こともできます。
必ずしもその、自分から全部作らなければいけないっていう話でもないっていうのは結構大事なポイントかなと思います。
たとえば、TikTokクリエイターがオレゴンからハワイまで小型ボートで航海する企画を配信中、途中で飛行機からELF BEAUTYアメリカの化粧品ブランド。手頃な価格帯でZ世代を中心に人気を集める。のケアパッケージがパラシュートで降下するサプライズが仕掛けられました。既存のコンテンツに「参加する」形でブランドの存在感を示した好例です。
B2B企業も「リアル」で勝負する時代
スペクタクルマーケティングは消費者向けだけではありません。B2B企業も、リアル空間での施策を強化しています。データ系スタートアップのSegment顧客データプラットフォーム(CDP)を提供するスタートアップ。企業が複数のツールから顧客データを統合し、一元管理できるようにする。は、エンタープライズ顧客のオフィス目の前の屋外広告スペースを買い取り、その企業名を直接メッセージに入れた広告を掲出して最終クロージングを狙う手法を取っています。
これは「一対一のマーケティング」の極致と言えます。プライベートな空間に見えるパブリック広告を使い、特定の企業にメッセージを届ける。日本では馴染みが薄いかもしれませんが、アメリカのスポーツ業界では、チームが選手をリクルートする際にパレードを用意したり、著名人を動員したりする文化があります。それと似た発想です。
NotionやClaudeがカフェを出店したり、Stripeがポップアップ書店を開いたりと、ソフトウェア企業がリアル空間でのブランド体験を提供する動きも活発化しています。IRLは単なるトレンドではなく、ブランド価値を高める重要な戦略になりつつあります。
大学生向けマーケティングの厳しい現実
アメリカの大学生をターゲットにしたアプリやサービスの立ち上げは、想像以上に困難です。アンバサダープログラムは定番の手法ですが、今やUber、Sephora、DoorDash、ホリスター、Skittles、M&Mなど、あらゆる大企業が大学でアンバサダープログラムを展開しています。スタートアップは巨大ブランドと同じ土俵で戦わなければなりません。
パーティーのスポンサーになる手法もかつては有効でしたが、今はアプリダウンロードを入場条件にしても、イベント後すぐにアンインストールされるのが現実です。学生はプロモーション慣れしており、「外部からの営業」と認識されると即座に拒絶されます。
やっぱりその大学生向けに、これは特にそのアメリカの大学生向けになるんですけど、やっぱりアウトサイダーが嫌いなんですよ。
成功の鍵は「インサイダーになること」。キャンパス内のAirbnbを借りて一週間住み込み、学生と一緒にカフェに通い、授業にさえ参加するような創業者もいます。表面的なプロモーションではなく、コミュニティの一員として信頼を得なければ、アプリは広まりません。
パッケージングから始まるバイラル体験
リアル施策だけでなく、パッケージそのものをバイラルの起点にする試みも注目されています。2013年、チョコレートブランドMilka紫色のパッケージで知られるヨーロッパの老舗チョコレートブランド。モンデリーズ・インターナショナル傘下。は「The Last Square」キャンペーンを実施しました。
通常24ピースに分かれているチョコレートバーのうち、1ピースだけが点線で囲まれ、実際には入っていません。代わりにパッケージにはQRコードがあり、そこから自分や大切な人にそのピースを郵送できる仕組みになっています。
この施策は、ローンチから2ヶ月で80万人がサイトを訪問し、50万個以上の「ラストスクエア」が送られるという成果を上げました。パッケージをギフト体験に変え、ソーシャル性を持たせることで、単なる商品購入を超えた価値を生み出したのです。
顧客獲得ファネルは消滅した
従来のマーケティングは、明確なファネル(漏斗)に沿って設計されていました。認知→興味→検討→購入という一本道です。しかし今、その前提は崩れています。
TikTokでは5年前の動画が突然レコメンドされ、ユーザーはディスカバリーフィードだけでなく検索やコメント欄からも流入します。切り抜き動画、メイキング動画、ライブ配信の断片など、無数の入口から顧客がやってきます。
なんかもうファネル、ファネルじゃないじゃないですか、もう。なんかもう円、円かなんかになっていて、そこでなんかいろんなタッチポイントを作るみたいな。
ブランドは新規顧客獲得とコアユーザーへの深堀りという、まったく異なる戦略を同時に走らせなければなりません。新規向けにはTikTokやInstagramのディスカバリーフィード、コアユーザー向けにはSubstackやInstagramのブロードキャストチャンネル、TikTokの掲示板などクローズドな場を使い分ける必要があります。
認知 → 興味 → 検討 → 購入という一本道。各段階で施策を設計し、順番に顧客を誘導する。
無数の入口(検索、コメント、切り抜き、ライブ、5年前の動画…)から顧客が流入。円のように複数のタッチポイントを配置し、どこからでも入れる設計が必要。
さらに、TikTokでは分散化と集権化が同時に起きています。無数のマイクロトレンドが存在する一方で、アメリカの学校で何百人もが同じバッグを持っているという現象も起きています。アルゴリズムが多様性を生むと同時に、特定のトレンドに人々を収束させているのです。
まとめ
今回の議論を通じて見えてきたのは、マーケティングの複雑化と多様化です。MrBeastのライブ配信は、従来の動画コンテンツにリアルタイム性を加えることでエンゲージメントを高める新しいモデルを示しました。スペクタクルマーケティングは自ら作るだけでなく、既存の企画に「乗っかる」選択肢もあります。
B2B企業も、ソフトウェアという無形の商品にブランド性を持たせるため、カフェやイベントといったリアル体験を提供し始めています。一方で、大学生向けのマーケティングは競争が激化し、アウトサイダーとして拒絶されないためには、コミュニティに溶け込むレベルの努力が求められます。
パッケージングを活用したバイラル施策や、ファネルに代わる円状のタッチポイント設計は、これからのマーケターが直面する課題です。メディアがコマース化し、コマースがメディア化する今、ブランドには柔軟で創造的な戦略が求められています。
- MrBeastのライブ配信は、YouTube動画とリアルタイム体験を組み合わせた新しいエンゲージメント獲得手法
- スペクタクルマーケティングは自ら作るだけでなく、既存のトレンドに「乗っかる」選択肢もある
- B2B企業も、IRL(リアル体験)を通じてブランド価値を高める動きが活発化
- 大学生向けマーケティングは競合が多く、インサイダーとして信頼を得なければ成功しない
- パッケージングをバイラルの起点にする施策は、購入後の体験まで設計する発想が重要
- 従来のファネル型マーケティングは崩壊し、無数のタッチポイントを設計する「円型」の戦略が必要
- メディアがコマース化し、コマースがメディア化する時代、ブランドには信頼とコンテンツ力が求められる
