コンテンツとマーケティングの未来:裏方のスター化から「大量投稿」の時代へ
Off Topicの草野美紀さんと宮武哲郎さんが、2026年現在のコンテンツとマーケティングの最新トレンドを深掘りします。裏方コンテンツの進化から、AIによる世論操作のリスク、そしてブランドが取るべき新しいSNS戦略まで、激変するメディア環境の現在地をまとめます。
裏方が主役になるBTSコンテンツの進化
今、SNSでは「メインコンテンツ」以上に、その裏側を支える人々に注目が集まっています。かつては影の存在だったセレブのアシスタント、プライベートシェフ、スタイリストたちが、今やマイクロインフルエンサー特定のニッチな分野で数千から数万人のフォロワーを持ち、ファンと密なコミュニケーションを取る影響力のある人物。として台頭しているのです。
例えば、キム・カーダシアンのプライベートシェフは、日々の献立の準備過程をショート動画にすることで多大な人気を得ています。場合によっては、アシスタントとしての本職の給料よりも、SNSからの広告収入の方が多くなるケースも出てきているといいます。
華やかな表舞台に立つセレブ本人
準備や日常を支える「裏方」スタッフ
この「裏側を見せる」トレンドは、企業のマーケティングにも波及しています。GAP1969年に創業したアメリカのアパレルブランド。近年は著名なアーティストを起用したクリエイティブなキャンペーンで再注目されている。の最新キャンペーンでは、クリエイティブ監督を撮影するための「メイキング専用監督」を別途採用し、制作過程そのものをコンテンツ化しています。単なる広告(キャンペーン)を超え、多角的な視点を持つ「プロジェクト」として発信することが、現代のタッチポイント作りにおいて重要になっています。
フィクション化される「裏側」とリークの価値
裏方コンテンツの人気が高まるにつれ、あえて「裏側っぽく見せるフィクション」も登場しています。A24ニューヨークを拠点とする独立系映画製作・配給会社。『ミッドサマー』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』など、独創的な作品とマーケティングで知られる。の新作映画『Marty Supreme』では、主演のティモシー・シャラメ『DUNE/デューン 砂の惑星』や『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で知られる、現在の映画界を代表する若手スター。SNSでのセルフプロデュース力も高い。が映画のプロモーション会議を行う「18分間のZoom動画」を公開しました。
全員わかってるんですよ、これがプロモーションだってことは。でもZoom会議のあるあるを詰め込んだ、未完成っぽい動画だからこそ、みんなが面白がって拡散するんです。
また、意図しない「リーク(情報の流出)」が、結果的に最大のマーケティング効果を生むこともあります。マーベル映画のハルク役で知られるマーク・ラファロアメリカの俳優。代表作は『アベンジャーズ』シリーズ。お茶目な性格で知られ、インタビューなどでうっかりネタバレをしてしまうことでファンの間では有名。は、かつて上映会でInstagramライブを切り忘れ、ポケットの中から映画の音声をライブ配信し続けてしまうという大失態を演じました。
この事件後、マーベルのトップであるケヴィン・ファイギマーベル・スタジオの社長であり、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のプロデューサー。数々のヒット作を統括する映画界のキーマン。は、怒るどころか「あの事件は上映会以上のメディア価値があった」と絶賛したといいます。リアルで人間味のあるミスこそが、洗練された広告よりも強いアテンションを引きつける時代です。
エド・シーランに学ぶ「ライブ感」と「過程」の共有
音楽業界においても、完成品(アルバム)だけでなく、「今ここで生まれる瞬間」を切り取ったライブ感のあるコンテンツが支持されています。エド・シーラン世界的に有名なイギリスのシンガーソングライター。ループステーションとギター1本でスタジアムを満員にするライブパフォーマンスが特徴。は、ニューヨークの街中を移動しながら1時間にわたって歌い続ける「ワンショット(ワンテイク)」企画を公開しました。
また、ベニー・ブランコのポッドキャストに出演した際には、番組の最後25分間で「その場でゼロから曲を作る」という試みを行いました。歌詞の内容やメロディを議論し、機材を操作してループを組む様子をすべて見せることで、リスナーはクリエイティブな「過程」の目撃者になります。
出役の方に求められるスキルが広がっていますよね。ただパフォーマンスするだけでなく、即興性や、裏側を見せることへのコミットメントが必要になってきている。
こうした「セミライブ」なコンテンツは、編集された動画よりも没入感が高く、ファンとの強いコネクションを生みます。今後は俳優やアーティストがプロモーションの一環として、ライブ配信やリアルのインスタレーションに長時間参加することが当たり前になっていくかもしれません。
恋愛から「友情」へ。変化するコンテンツの重心
コンテンツの「テーマ」にも変化が起きています。UCLAカリフォルニア大学ロサンゼルス校。世界屈指の名門大学であり、エンターテインメントや社会科学の分野でも多くの研究成果を発表している。の調査によると、18歳〜24歳の若年層は、映画やドラマにおいて「恋愛」よりも「友情」にフォーカスした物語を求めているというデータが出ています。
かつての『フレンズ』や『ビッグバン★セオリー』のような、友達同士がただハングアウト(たむろ)するシットコムシチュエーション・コメディの略。特定の場所(リビングやカフェなど)を舞台に、固定のキャラクターたちが繰り広げる一話完結型のコメディドラマ。が減っている一方で、若者はそうした親密な関係性を画面の中に探しています。
SNSサービスのトレンドも同様で、恋人との共有よりも、特定のバケット(グループ)に分かれた友人たちとのリアルタイムな共有へとシフトしています。コンテンツマーケティングにおいても、理想の恋愛を描くより、信頼できる友人関係の「居心地の良さ」を演出する方が、今の時代には響きやすいのかもしれません。
1日50投稿? ウィンブルドンの物量戦略
ショート動画が主流となった現在、アルゴリズムの波に乗るためには「コンテンツの質」と同じくらい「物量」が重要になっています。その成功例が、テニスのウィンブルドン選手権テニスの四大国際大会(グランドスラム)の一つ。世界最古かつ最も格式高い大会として知られるが、SNS戦略においては非常にアグレッシブな手法を取っている。です。
彼らは大会期間中の6週間で、Instagramだけで**1日平均50回**、全プラットフォーム合計で**5,844投稿**という驚異的な頻度で発信を行いました。
単に試合のハイライトを流すだけでなく、「観客のリアクション」や「選手の裏側の会話」など、多種多様なフォーマットをリアルタイムで投稿し続けました。アルゴリズムが「フォロワーの1割にしか届かない」ことを前提に、圧倒的な投稿数で網を張る戦略です。これは、今の分散化されたインターネットにおける、ブランド生存戦略の一つと言えるでしょう。
AIエージェントの台頭とブランドアカウントの分散化
今後の懸念材料は、AIボットによる世論操作です。アメリカのレストランチェーン「クラッカーバレルアメリカ南部料理を中心としたカントリースタイルのレストランチェーン。古き良きアメリカを象徴するブランドとして保守層にも人気が高い。」がロゴを変更した際、ネット上で激しい批判(ボイコット運動)が起きました。しかし、その投稿の約半分はボット(AI)によるものだったという分析結果が出ています。
少数の意見がAIによって増幅され、あたかも「国民の声」のように見えてしまうリスクがあります。一方で、AIを使えば大量のアカウントや動画を自動生成できるため、ブランドがメインアカウント一つに頼る必要もなくなってきています。
これからは「公式アカウント」のフォロワーを増やすことよりも、プロジェクトやIP(知的財産)ごとに別のアカウントを立ち上げ、時には大学生などの「中の人」に運営を任せるような、分散型のマーケティング体制が求められるようになります。
まとめ
今回、コンテンツとマーケティングの未来について、以下の3つのキーワードが浮かび上がりました。
- BTSの「主役」化:完成品よりも過程や裏方の人間味が価値を持つ。
- 物量と分散:1日数十回の投稿や複数アカウント運用が、アルゴリズム対策の必須条件になる。
- リアルとAIの混在:AIによる世論操作を警戒しつつ、AIエージェントを活用した効率的なコンテンツ生成を模索する。
情報の波が加速する中で、ブランドは「一点豪華主義」のキャンペーンを卒業し、より多角的で、より頻度の高い発信へと舵を切る必要がありそうです。次回も引き続き、このテーマを深掘りしていきます。
- セレブの「裏方」スタッフがマイクロインフルエンサー化し、高い収益を上げている。
- あえてZoom会議やリーク映像のように見せる「フィクション化された裏方コンテンツ」が人気。
- 若年層はコンテンツに「恋愛」よりも「友情」や「居心地の良さ」を求めている。
- ウィンブルドンは大会期間中に1日50投稿を行い、爆発的なリーチを獲得した。
- ブランドは今後、メインアカウント1つに固執せず、プロジェクトごとにアカウントを分散させるべき。
