Instagramをリデザインしたのはどんな人?
草野さんが最近面白かったと挙げたのは、Netflixのドキュメンタリー番組『アート・オブ・デザイン』です。建築系のデザイナーからウェブデザイナーまで、さまざまな作り手を1話ずつ取り上げる番組だといいます。
新しいシーズンには、Instagramのデジタルプロダクトデザイナーであるイアン・スパルターさんの回があり、草野さんはこれが「めちゃくちゃ面白い」と話します。宮武さんはNetflixに入っていないため、草野さんが内容を紹介する形で話が進みます。
ウェブデザインに興味がある人、UIデザインとかに興味がある人は絶対面白いし、インターネットサービスが好きな人は絶対面白いと思います。
番組の軸は、Instagramの大幅なリデザインです。iOS 7 ── 2013年に公開されたAppleのiPhone向けOSのバージョン。立体感のある質感表現をやめ、平面的なフラットデザインへ大きく舵を切りましたの登場で多くのアプリのアイコンがフラットになったなか、Instagramだけは古いデザインのままでした。そのリデザインを任されたのがイアンさんです。
イアンさんはもともとInstagramの人ではありません。草野さんの紹介によれば、経歴は次のような流れです。
草野さんによると、イアンさんは最初にInstagramのリデザインの話が来たとき、強く断ったそうです。Instagramのロゴのデザインは、それほど大きな仕事だったということです。
「1部屋と3ヶ月」から始まった新ロゴづくり
当時のInstagramのアイコンは、初期からずっと変わっておらず、デザインしたのはCEOのケビンさん自身でした。番組ではケビンさんも、最初はフラットでモダンなデザインにするのが嫌だったと話していたといいます。
宮武さんは、フラット化以前は立体的な表現や、Appleがあえて木目を使うようなデザインが主流だったため、旧Instagramのアイコンはその時代によくなじんでいたと振り返ります。
イアンさんのプロジェクトの進め方は独特でした。雇われるにあたってケビンさんに求めたのは、1部屋を用意し、3ヶ月間はデザインを一切見せないという条件です。部屋の窓も、外から見えないようにしてほしいと頼んだそうです。
ケビンさんは3ヶ月は長すぎるとして交渉し、まず1週間で一度見せてほしいと求めました。結果として、1週間後にプロトタイプを見せる形になったといいます。
作業の出発点は、今までのロゴを見つめ直すことでした。イアンさんは社内のデザインチームに10秒だけ時間を与え、今のロゴを描いてもらいました。
こうして、レンズに加えてレインボーの部分が重要だとわかったといいます。ドキュメンタリーには試行錯誤したロゴ案が数多く登場し、草野さんは「ファンからしたらめちゃくちゃ面白い」と話します。
ボツ案の一例として、草野さんは、現在のレインボーの背景に白のロゴを反転させ、角をなくした丸っこい形にした案を挙げます。イアンさん自身が、それでは教育系のアプリに見えてしまうと判断し、修正したそうです。
「史上最悪のデザイン」と呼ばれた公開後
最終的にロゴづくりには3ヶ月かかりました。草野さんは、3ヶ月後に初めて見せて「やめた」となったら大変なので、1週間でプロトタイプを見せる形は理にかなっていたと受け止めています。
新ロゴの公開後には、「史上最悪のデザイン」とまで言われる激しいバッシングがあり、イアンさんにとってはつらい経験だったといいます。
大体言われますよね。Facebookも(タイムラインを)最初出した時とか、UIちょっと変えた時に最悪ってすごい言われて。
宮武さんは、変えた直後は批判されても、後々それが普通になり、また変えると批判される、という繰り返しがあると指摘します。
一方で宮武さんは、Uberがロゴを大きく変えたときは、スマホのアイコンが変わっていてもほとんど話題にならなかったと比べます。Instagramはデザイン重視の写真アプリだからこそ、注目が集まったのかもしれないと話しています。
リデザインはロゴだけではありませんでした。Instagramのアプリ内のUIも、それまでのInstagramらしいカラーを中心にしたものから、白と黒を基調にしたものに変わりました。UXも担当していたイアンさんが、動きを含めた体験全体を手がけたそうです。
Instagramらしいカラーコードを中心にしたデザイン
白と黒を基調にしたモノトーンのデザイン
機能が増え続けるアプリをどうシンプルに保つか
草野さんが特に面白かったと話すのは、既存プロダクトに機能が増えていくなかでのデザインの議論です。Instagramにはストーリー、ビジネス用アカウント、Eコマースと、次々に機能が加わってきました。
いろんな機能が追加されると、絶対シンプルを求めたサービスの中へそれをやるとぐちゃぐちゃになるじゃないですか。
ドキュメンタリーでは、新機能が増えるなかでプロフィール画面をどう見せるのが綺麗かという議論の様子も映されていたといいます。要素を紙の上で分解し、どこを一番見せるべきかを検討していたそうです。
背景には、いいねの数やフォロワー数を稼ぐために投稿するという、社会問題に近い状況があります。そこでプロフィール画面では、フォロワー数などの数字のフォントやサイズを抑えめにして、その人のオリジナリティやプロフィールそのものを前に出す方向で調整していたといいます。
宮武さんはこの話を、インスタ映えをめぐる流れと重ねます。一時期はどれだけいい写真を撮れるかが重視されましたが、アメリカでは今、どれだけリアルなものを出せるかがトレンドになっているそうです。
例として宮武さんが挙げるのは、海で撮ったきれいな写真と一緒に、実は半分溺れながら撮っていた、という舞台裏を見せる投稿です。草野さんも、そうした投稿をTwitterでよく見ると応じます。
インスタ映えっていうところだけではなくて、それ以外のちゃんと人が後ろにいるんだよっていうのを見せたいっていうところがでかいんですかね。
小さなUI変更が世界を変える影響力と、日本に来たデザインヘッド
草野さんは、Instagramほどの規模になると新しいユーザー体験をつくる影響力が非常に大きい、という番組内の話にも触れます。その流れで、Instagramの人ではありませんが、Firefoxの開発者が無限スクロールを生み出したことを後悔している、と語る場面があったそうです。
草野さんは、無限スクロールはそれまでになかった体験で、何億人、何十億人が際限なく時間を使ってしまっていると考えると、すごい影響力だと感じたといいます。
宮武さんは、みんながスマホとアプリを持っている今は、1つの変更が一斉に広がるため、UIの影響力はかつてないほど大きいと話します。
番組の終わりで草野さんが意外でうれしかったのは、イアン・スパルターさんが今年から日本のInstagramのヘッドとなり、現在日本にいるという話でした。
宮武さんはイアンさんを知らなかったものの、Instagramが日本に注力したいという話は聞いているといいます。それはケビンさんが退任した後のFacebook本体からの指示で、Instagramを伸ばすにはアジア圏の獲得が必要だとして、シニアメンバーをアメリカから日本などへ移しているそうです。
草野さんが、日本ではセルフィー色の強い投稿があまりされないと使い方の違いに触れると、宮武さんはTwitterも日米でユースケースが大きく違ったと応じます。日本はアクティブなユーザーが多いため、Instagramも日本ならではの使われ方を探りに来ているのではないか、と宮武さんは見ています。
まとめ
Netflix『アート・オブ・デザイン』のイアン・スパルター回をきっかけに、二人はInstagramの新ロゴが生まれた過程から、機能が増え続けるアプリのデザイン、UIの影響力、日本市場への注力までを語りました。
- イアン・スパルターさんは、社内デザイナーに10秒で現行ロゴを描かせ、レンズとレインボーが本質的な要素だと見極めた
- 3ヶ月こもる条件はケビンさんとの交渉で1週間ごとのプロトタイプ提示に変わり、公開後は激しい批判も受けた
- 機能が増えるなかで、プロフィール画面は数字を抑えて人そのものを前に出す方向で調整された
- スマホ時代は小さなUI変更が一斉に広がるため、デザインの影響力が非常に大きい
- イアンさんは日本のInstagramヘッドとなり、日本ならではの使われ方への注目がうかがえる




