企業の研究所はなぜ1970〜80年代に衰えたのか
この回は、前回扱ったベル研究所の話の続きです。宮武さんは、ベル研究所が生んだイノベーションがいまどう受け継がれているのか、そしてベル研究所のような企業の研究所が現在あるのか、あるならそのレベルに達しているのかを考えたいと切り出しました。
宮武さんによると、ベル研究所以外にもXerox PARC ── 米ゼロックスが1970年に設立した研究所。マウスで操作するGUIやイーサネットなどを生み出したことで知られていますやデュポンの研究所など有名な企業ラボがありましたが、どれも1970年代から80年代にかけて似たタイミングで力を落としていきました。同じ時期に、大学の研究所が存在感を増していったといいます。
企業は研究開発への支出自体は続けていました。ただ、宮武さんは研究と開発は意味が違うと指摘します。以前は研究と開発に半々、場合によっては研究のほうに多くのお金をかけていたのが、市場に出すための開発へと比重が移っていったという見立てです。
宮武さんはその理由を2つ挙げています。1つ目は大学側の変化で、政府からの資金提供に加え、大学が研究成果の特許を他社にライセンスして稼げるルールができ、大学にお金を生むインセンティブが生まれたことです。
2つ目は、スタートアップとVCのエコシステムが広がって競争が激しくなったことと、アメリカ政府が大手によるスタートアップの買収を緩くしたことです。その結果、大企業は発明を自前でやらなくても、買収すればよい方向へ向かったと宮武さんは説明します。
いわゆる(スタートアップを)買収しちゃえばいいっていう。なんで、自社開発しなくていいっていう方向性に若干向かったっていうところですかね。
大学の台頭
政府の資金提供と、特許をライセンスできる規制緩和で大学に研究のインセンティブが生まれた
競争と買収の緩和
スタートアップとVCが普及し、大手による買収も緩くなった
企業の重心移動
研究より、商業利用のための開発にお金が向かうようになった
「イノベーションのサプライチェーン」はどう分業されたか
宮武さんは、こうした変化から生まれたのが、いわば「イノベーションのサプライチェーン」だと表現します。大学が根本的な科学の研究を担い、スタートアップや大学発のスピンアウトがその知見を発明に変え、最後に大企業がそれを買収して商品化するという分業です。
宮武さんは、この分業は理論上はとても正しいと考えています。イノベーションの歴史を見ると、アイデアを発明した人が価値を得にくく、ベル研究所もトランジスターやレーザーを作りながら、それをうまく商業利用できなかったからです。
これに対して草野さんは、結果的にすごい技術を生んでいるのだから、商業化できなかった話とも言い切れないのではと問いかけます。宮武さんはそれを「めちゃくちゃ正しい」と認めたうえで、毎回商業化できるわけではないので、企業にとってベーシックリサーチのインセンティブは薄れると説明しました。
多くの場合(自社のビジネスに)関連しないものがあったりするので、わざわざなんかそれを事業化するかっていうと、多分なかなかできない。
草野さんは、自社に関係ないものを発明させておいて事業化しないのはおかしい、発明してから何で商売するか考えてもよいのではと疑問を投げます。宮武さんも、これから作るならその方向に進むかもしれないと応じつつ、ベーシックリサーチは時間がかかるため、時間とお金のある政府や大学に寄せ、企業はそこから出てくるものを使って事業を立ち上げるという流れになったと整理しました。
研究を大学に寄せるだけで足りるのか
宮武さんは大学の研究所の意義を認めています。幅広い研究ができる自由度があり、たとえば宇宙がどう作られたかのように、お金にはなりにくいが大きな意味を持つ研究は大学にぴったりだといいます。
一方で企業の研究所は、市場で使える実用的で汎用性のある技術を開発しようとします。宮武さんは、だからこそ研究を全部大学に寄せるのは「ある意味間違っている」と考えています。
もう1つの課題として宮武さんが挙げるのが、大学の研究がサイロ化しやすいことです。草野さんが「深く研究しようと思うとそうなりますよね」と応じたように、部門ごとに分かれる意味はあるものの、複数の部門が集まって何かをするのは難しくなります。
コーポレート側の研究所だと、より多分そこの横の移動みたいのがやりやすい部分があったりするので、そうすると違う意味でそのイノベーションっていうのが作れるんじゃないかと。
幅広く自由な研究ができ、商業化が遠い基礎科学にも向く。一方で部門ごとにサイロ化しやすい
市場で使える実用的・汎用的な技術を狙う。部門をまたいだ横の移動がしやすい
さらに宮武さんは、スタンフォードの研究を紹介します。1930年から現在までで研究者の数は増えているのに、研究者1人あたりのアイデアのアウトプットで見た研究の生産率は、それほど上がっていないという結果です。
宮武さんは、この停滞の一因が研究が大学だけに偏ったことにあると考え、企業の研究所やラボがもう一度増えてもいいのではないかと述べました。
AI時代、大手テック企業はなぜ投資を止めないのか
宮武さんは、AI時代に入って企業の研究施設や研究部門が実際に増えていて、特に大手テック企業では投資額も膨らんでいると指摘します。草野さんも「なんとかラボ」や新規事業と一体になったスタジオなど、いろいろな形があると応じました。
宮武さんによると、投資が増えている理由は競争の激しさです。MicrosoftのサティアさんやMetaのマークさん、Googleのスンダーさんは、そろって四半期決算発表で、投資しないリスクのほうが大きいと語っていたといいます。
(AIは)インフラとかキャパシティを作らないといけないっていう問題なので、出遅れた瞬間めちゃくちゃ遅れますと。
宮武さんは、Google、Microsoft、AmazonがGCP、Azure、AWSというクラウドを提供しているため、他社がAIをどう使っているかがある程度見えることも、彼らの強みの1つだと説明しました。
論文数で見ると、研究の中心は大学か企業か
論文数で見ると、2019年と2022年のトップ25機関はほとんどが大学で、企業は3つだけでした。宮武さんは、研究はまだ大学に偏っていると見ています。
ただし、1位は企業のGoogleです。宮武さんによると、GoogleはカーネギーメロンやMITの約2倍の論文を出しているといいます。論文の数だけで質を判断したものではないと断ったうえで、GoogleはかなりアクティブだとしてIBMの量子コンピューティング研究にも触れました。
草野さんは、企業で研究すると発明は誰のものになるのかと尋ねます。宮武さんの答えは、基本的には企業のものになるが、研究者の個人名は出るというものでした。
大学と企業のどちらで研究するかは、インセンティブ設計の違いで決まると宮武さんは話します。大学では教授としての仕事も求められる一方、アメリカにはテニュア ── 大学教員の終身在職権。一定の審査を経て得られ、正当な理由なく解雇されない地位が保障されますがあり、そこに到達すると解雇されなくなります。
それはMetaとか出さないじゃないですか、そんな。
企業側にはデータという別の魅力もあります。Metaであれば、Facebookのデータを研究に使える場合があり、何を目的にするかで大学と企業のどちらを選ぶかが変わると宮武さんは見ています。
SpaceXとArc Instituteは研究をどう支えているか
宮武さんは、論文数のトップ25には入らないものの、社内研究に熱心な企業としてSpaceXを挙げます。新しい素材を作るというより、どう組み合わせるかを深く考えているといいます。
SpaceXはStarlinkと打ち上げサービスという稼ぎ頭を持ち、そこで儲けている間に火星へ行くための研究を進めています。宮武さんは、この構造がAT&Tとベル研究所に近いと見ています。
別の形として紹介されたのがStripeです。Stripe創業者のパトリックさんとジョンさんは、別組織としてNPOの研究団体Arc Institute ── 生物医学研究を行う米国の非営利研究機関。大学と連携しつつ、研究者に長期的で自由な研究資金を提供することを掲げていますを立ち上げました。
宮武さんは、ベル研究所を成功させた大きな要因は、何よりAT&Tがとても儲かっていたことだとまとめます。草野さんの「やっぱりお金」という言葉に、宮武さんも「お金は最終的に必要」と応じました。
AT&Tの独占はなぜ長期研究を可能にしたのか
宮武さんによると、AT&Tは独占企業だったため、資金を出すだけでなく、失敗してもよい、とても長期の目線で研究を見ることができました。ベル研究所の技術には、数十年かかったものもあります。
なんか20年後のプロジェクトですって言われた瞬間、特に上場してる会社であれば、株主から絶対どういうことなんですかって絶対突っ込まれるので。
草野さんは、20年かけて最先端の技術が手に入るなら研究したほうがよいと言います。宮武さんは、ベル研究所の人たちも長期になるとは理解していたが、20年かかるとは想定しておらず、想定していたら資金を出していなかっただろうと答えました。
そのうえで宮武さんが大事なポイントとして挙げるのが、長期と短期のプロジェクトを混ぜることです。AT&Tは電話線という巨大なディストリビューションを持っていたため、1回の電話のコストを1円下げるだけでも大きなインパクトがありました。
さらにAT&Tは、電話通信だけでなくバリューチェーン全体を垂直統合していたため、幅広い領域に研究を張ることができました。宮武さんは、この条件から考えると、いまベル研究所に一番近い存在はGoogleだと述べます。
いまのGoogleとMetaは「次のベル研究所」なのか
草野さんは、Googleは事業が幅広いだけでなく、会社の価値観が研究者にフィットしていると話します。宮武さんも、創業者2人がある意味研究者で、Google自体が論文から始まっていると応じました。
宮武さんは、Google BrainやDeepMindがニューラルネットやトランスフォーマー技術を論文で発表し、新しい業界が始まったことにも触れます。さらにX ── Googleの親会社Alphabetの研究開発組織。自動運転などの野心的なプロジェクトを手がけ、「ムーンショット・ファクトリー」とも呼ばれますというチームからは、AlphaFold 3を使うIsomorphic Labsや、自動運転のWaymoなどが生まれています。
ベル研究所に近いもう1社として宮武さんが挙げたのがMetaです。Metaは次世代技術にとても大きな投資をしていて、AIに加えて、草野さんが挙げたAR・VRの部門Reality Labsでは、直近四半期で4.4ビリオンの赤字だといいます。
年間20ビリオンぐらいの赤字を踏んでるんですよね。日本円でいうと3兆円とかですから。
それでもマークさんは投資を増やすべきだと話しています。宮武さんは、これができるのはMetaのコア事業がとても儲かっているからだと説明しました。
Appleはなぜ少ない投資でAIに先回りできたのか
草野さんに「Appleはどうか」と聞かれた宮武さんは、Appleはとても特殊で、非常に強い研究開発チームを持っていると答えます。草野さんも、M1やM2チップの進化、iPhoneの軽量化やカメラの向上、Vision Proなどの長期プロジェクトを挙げ、ハードもソフトも更新し続ける点に感心します。
宮武さんによると、Metaは年間30ビリオンほどをAIインフラに使うと話していますが、Appleの研究開発費は売上比でここ数年ほとんど変わっていません。それでも、AppleはAIで大きく進んでいるといいます。
彼ら(Apple)はもう何十年以上前にチップの研究開発をめちゃくちゃしているので、もうあのデバイス内で全部やろうと。
デバイス内で処理すれば、クラウドにお金を払わなくて済みます。宮武さんは、他の大手テック企業が数十ビリオンかけているコストを、Appleはデバイスに負担させていると説明します。
年間で数十ビリオン規模をAIインフラに投じ、クラウドで処理する
研究開発費の売上比はほぼ横ばい。長年のチップ開発を生かしてデバイス内で処理する
宮武さんは、Appleが車プロジェクトを止めた理由にも触れます。ハンドルもペダルもない車が作れないと判断したことに加え、AI時代にリソースが足りないと考え、自動運転を開発していたAIに長けた人材をAIに回したという見方です。
車プロジェクトには2000人ほどがいて、その多くがAIチームの配下に入り、トップだったケビン・リンチさんもAIチームに移ったといいます。宮武さんは、Appleを「リソースのアロケーションがすごい上手い会社」と評価しました。
ただしAppleは、ベル研究所のように最先端の成果を外に出すよりも、iPhoneなど自社製品に向けている点が違います。宮武さんは、Off Topicでは最終的な敵はAppleだという話になりがちだとしつつ、研究の面でもAppleはすごいと話しました。
SpaceX、Tesla、Andurilは次世代のベル研究所になれるか
大手テック企業以外では、宮武さんはSpaceXやTeslaに次世代ベル研究所になる可能性があると見ています。もう1社挙げたのが、パルマー・ラッキーさんが創業した防衛テック企業のAnduril ── 米国の防衛テック企業。Oculus創業者のパルマー・ラッキーが設立し、AIを使った防衛システムなどを開発していますです。
宮武さんによると、ベル研究所にはアメリカ政府や軍から資金を得ていた時期がありました。Andurilも政府から多くの資金を得ていて、多額で安定した収入が入ってくるなら、将来的に研究所を作ってもおかしくないといいます。ただし、いまは独占しておらず、そこまで儲かっていないため難しいという見方です。
スタートアップのエコシステムはベル研究所の代わりになるか
宮武さんは、そもそも大企業がベル研究所を再現すべきなのかという論点を出します。1社ではなく、数十社から数万社のスタートアップによるエコシステム全体で、ベル研究所を置き換えられるのではないかという考え方です。
一社がめちゃくちゃ儲からなくてもいいっていうところで、いわゆるAT&Tが儲かるっていうところをVCがファンディングをしてくれる。
この分散型のモデルで一番わかりやすい事例として、宮武さんはmRNAワクチンという新技術を作り、商業化して販売したモデルナを挙げます。日本でもディープテック系の投資家やスタートアップが増え、投資額も伸びていることを宮武さんは「いいこと」と見ています。
ただし課題として、VC側のディープテックへの理解度が低いことが挙げられました。草野さんが、ベル研究所はどう人を採用していたのかと尋ねると、宮武さんは、トップに科学者がいて技術的リテラシーがあったことと、ベル研究所はコア事業に関係するものしか商業化していなかったことを挙げました。
もう1つの課題は時間です。ディープテックは研究期間が長く、商業化にも時間がかかります。宮武さんは、ファンドの期間が10年、最大12年と考えると、その間に回収できないのではと見られがちだと話します。
特に難しいのがスケールです。プロトタイプとしては画期的でも、大量生産するにはコストを大きく下げる必要があり、次世代素材などはその研究に多くの時間とコストがかかります。草野さんは、それと比べると顧客獲得で伸びが見えるSaaSは投資しやすいと応じました。
宮武さんは、研究や商業化の途中でマネタイズできるかまで考えることが、今後のスタートアップの仕事になるかもしれないと述べます。うまい例が宇宙工場を目指すVardaで、VC出身の創業者が初期から稼ぎ方を理解し、アメリカ政府から数十ミリオン規模の契約を取ったといいます。
ディープテックは本当にお金がかかるのか
ディープテックはお金がかかるというイメージについて、宮武さんは、アメリカでは上場までのコストで見るとSaaS企業とそれほど変わらないと話します。
研究でアップフロントの費用がかかり、最初の5年ほど結果が出ないこともある。ただし国などとの1本の契約が大きい
最初から売上を作れる一方、マーケティングと営業のコストが大きく、多額の調達が必要になる
草野さんが「ディープテックは競合が少ないが、時間がかかるということか」と確かめると、宮武さんは「まさにそうだと思います」と答えます。失敗率もそれほど変わらず、実現できる人が少ないぶん明確な優位性を作りやすいといいます。
宮武さんが紹介したアメリカの試算では、2010年以降に時価総額250ミリオン以上でイグジットした会社を見ると、ディープテックはイグジット額の11〜15%ほどを調達していました。250ミリオンなら少なくとも30ミリオンほどの調達です。普通のテック企業は約13%で、ほぼ変わりません。
さらにディープテックは補助金の対象になりやすく、株式の希薄化を伴わない調達ができる点も強みです。宮武さんは、問題はお金よりも時間やタイミングのほうが大きいと考えています。
ChatGPTの急成長はなぜミスリードなのか
「OpenAIのChatGPTは違うじゃないか」という反論について、宮武さんは数字を挙げます。OpenAIは2024年に3.7ビリオンほどの売上を見込み、そのうち2.7ビリオンがChatGPTからで、2023年の700ミリオンから約4倍に伸びているといいます。
あるVCのアルティメイト・キャピタルアルティメイトキャピタルは、OpenAI、Google、Facebookの売上成長を比較しました。ChatGPTの2年目の売上は、Googleより2年ほど、Facebookより4年ほど早いペースで、Facebookが6年目に達した数字に2年目で届いているそうです。
ChatGPTのは2年目なんですけど、OpenAIは2年目じゃないじゃないですか。
OpenAIは2015年に設立されているので、宮武さんは、これは実は9年目の数字であり、ヒットプロダクトのChatGPTを出すまでに7年かかったと指摘します。草野さんは、サム・アルトマンさんがシリアルアントレプレナーでもあると付け加えました。
ChatGPT単体で見ると、2年目でGoogleやFacebookを上回る速さで売上が伸びている
2015年設立のOpenAIとして見ると9年目の数字で、ヒットまでに7年かかっている
普通のスタートアップなら、7年もヒットが出なければその前に閉じていると宮武さんは言います。Figmaの5年でさえ「長かった」と言われているのに、OpenAIはもっと長くかかっています。
宮武さんは、サム・アルトマンさんのように、イーロン・マスクさんやリード・ホフマンさん、ピーター・ティールさんから資金を集められる人ばかりではないと話します。だからこそ、スタートアップが総合的にベル研究所を置き換えるのは難しく、企業側の動きが必要だという結論に至ります。
Googleの「ムーンショット」という名前の何が問題か
宮武さんは、GoogleのXが掲げるムーンショット ── 月に向けてロケットを打ち上げるように、困難だが実現すれば大きな影響をもたらす野心的な目標や計画を指す言葉という考え方に、名前の問題があると指摘します。Waymoのように誰も見えなかった世界を作る取り組みは正しい一方、その言葉が考えを制限してしまうという見方です。
宮武さんは思考実験を示します。1990年代に誰かが、全インターネットページを関連度でランキングする技術をムーンショットとして提案したら、Xは支援しただろうか。これは元のGoogleのアイデアそのものですが、月に行けるほどのインパクトがないと判断されていただろうといいます。
同じように、2003年に大学のイヤーブックをデジタル化しようという提案があっても、資金は出なかっただろうと宮武さんは話します。草野さんは「誰が個人でそんなライクみたいなボタン押すんだよ」と、のちのFacebookにつながる発想を茶化しました。
宮武さんによると、Googleの元になったアイデアは論文であり、ある意味では研究でした。Xの側も、当時なら支援していなかったかもしれないと認めているそうです。さらに直近のトランスフォーマー技術でも、論文は出しながら商業化に乗り遅れたのは、Xにとってムーンショットではなかったからだろうと見ています。
宮武さんは、これはGoogleだけの責任ではなく、当時は重要性が見えないものもあると補足します。そのうえで、20〜30年後を見なければいけないとは限らず、目的が大きすぎると、その間にあるものに投資できなくなると話しました。
研究所に必要なのは長期目線か、商業化の視点か
草野さんに、ムーンショットのチームはどんな組織であるべきかと聞かれた宮武さんは、長期目線で考えられること、失敗を受け入れられること、ベル研究所のように多様な人が集まる場であることを挙げました。
さらに宮武さんは、個人的には商業化を頭に置いて動くことが必要だと話します。草野さんが「商業化の目線を持ったPMがいるような形か」と尋ねると、宮武さんは、研究テーマを決める段階でその目線が必要だと答えました。
それ(マネタイズ)が別に何か3年後とか5年後のマネタイズじゃなくていいと思うので、なんかそこをイメージしながら多分やらないといけない。
宮武さんによると、多くの研究所はマネタイズを見ていないか、見ていても3〜5年後です。Googleは10年後に結果が出てもよい研究を見ていて、Waymoは成功すれば稼げると確信していたはずだといいます。自動運転は稼ぎ方が明確ですが、トランスフォーマー技術でどう稼ぐかを考えるのは難しいとも話しました。
宮武さんの結論は、研究だけでも商業目的だけでもなく、その間のバランスをどう取るかが重要だというものです。次回は、Off Topicが十分に儲かっていたらという条件で、自分たちならどんな目的・組織・資金の形でベル研究所のような研究所を作るかをシミュレーションする予定だと紹介されました。
まとめ
企業の研究所が衰えたあと、研究は大学、発明はスタートアップ、商品化は大企業という分業が生まれました。宮武さんは、その仕組みには限界があり、長期研究を支えられる企業の役割がまだ必要だと考えています。
- 大学・スタートアップ・大企業による「イノベーションのサプライチェーン」は理論上正しい一方、研究の大学への偏りやサイロ化という課題がある
- ベル研究所を支えたのは、AT&Tの独占による利益、短期と長期の研究の組み合わせ、垂直統合だった
- 現在ベル研究所に最も近いのはGoogleで、Meta、Apple、SpaceXなども別の形で研究に投資している
- ディープテックの調達額はSaaSと大差ないが時間がかかり、OpenAIもヒットまで7年を要した
- 「ムーンショット」にとらわれず、長期目線と商業化の視点のバランスを取ることが研究所の課題とされた





