なぜ今、Appleの「これから」を語るのか
テックニュースを扱うPodcast「Off Topic」で、AppleのNext Big Thingを探るシリーズが始まりました。前年の初めにはMicrosoftを取り上げていて、宮武さんは「年に1回GAFAをカバーする感じですかね」と笑います。
宮武さんは、AirPodsやパソコンなど、自分の生活がどんどん「Apple化」していると話します。一方で草野さんは、Apple Watchを持っているものの、日常的には使わなくなったと打ち明けました。
じゃあちょっとティム・クックの戦略が、そこ(Apple Watch)は草野さんに関してはちょっと外れてるかもしれないですね。
宮武さんは年始の休みを、このシリーズのリサーチにほぼ充てたといいます。少なくとも3パート、場合によっては4パートの構成で、引用するリンクは120以上にのぼります。
このシリーズで扱うのは、Appleの過去ではなく将来の話です。初回はティム・クック体制のAppleの現状と優位性を整理し、そのあとでAR・VRや車のプロジェクト、サービス事業へ進むと予告されました。
Appleの事業は一つひとつが大企業並み?
Appleの現状を確認するため、宮武さんはまず2022年度の決算を振り返ります。Appleの決算期は9月末なので、数字は2021年10月から2022年9月末までのものです。
この期間のAppleの売上は394ビリオンドルでした。内訳は、iPhone・Mac・iPad・ウェアラブルのプロダクトが316ビリオン、Apple MusicやiCloudなどのサービスが78ビリオンです。
| 事業 | 売上 | 補足 |
|---|---|---|
| iPhone | 205ビリオンドル | 売上全体の半分ちょっと |
| Mac | 40ビリオンドル | ノートとデスクトップ |
| iPad | 29ビリオンドル | シリコン不足の影響でマイナス |
| ウェアラブル | 41ビリオンドル | Apple WatchやAirPodsなど |
| サービス | 78ビリオンドル | Apple Music、iCloudなど |
数百ビリオンと聞いてもピンと来ないため、宮武さんは他社と比べます。Appleは世界で7番目に売上の大きい会社で、利益も100ビリオンあります。売上はMicrosoftの約2倍で、AppleのiPhone事業だけでMicrosoft1社分にあたります。
Appleのサービス事業は、ディズニーやソニー、P&Gを少し下回る規模で、テスラやLVMHを上回ります。ウェアラブル事業でさえ、KDDIや三菱UFJ、コカ・コーラをやや下回る程度です。
各カテゴリだけでもつよつよですね。
Appleのアクティブデバイス数は世界で18億台、iPhoneのアクティブユーザーは12億人です。アメリカの10代を対象にしたパイパー・サンドラーの調査では、87%がiPhoneを持ち、88%が次のスマホもiPhoneにすると答えました。さらに約3割がApple Watchを持っていました。
2022年のAppleの成長率は為替などの影響で8%ほどにとどまりました。それでも宮武さんは、為替の影響がなければ10%以上伸びていたはずで、この規模で10%成長するのはすごいことだと評価しています。
伸び続ける粗利率と、iPhone依存の限界
宮武さんがティム・クックさんの大きな貢献の一つに挙げるのが、Appleの粗利率の改善です。2020年に0.4%、2021年に3.5%、2022年に1.5%改善しました。売上が約400ビリオンの会社なので、1%の改善でも途方もない額になります。
草野さんが粗利率の改善の要因を尋ねると、宮武さんは新規事業もあるものの、iPhoneの仕入れ先の変更などサプライチェーンの改善が大きいと答えました。
2007年に登場したiPhoneは、一時期Appleの売上の3分の2近くを占め、今も約半分です。かつてのiPodが売上の4割ほどだったことと比べても、iPhoneへの依存は大きいといえます。
ただし、iPhoneは毎年劇的には変わらず、事業は買い替え需要で成り立っています。そのためiPhoneで大幅な売上成長を続けるのは難しく、2016年にはiPhoneの売上が初めて前年を下回りました。
ちょうどそのタイミングで、ティム・クックさんはサービス事業を強く推し始めます。Appleのサービス事業の売上は主に消費者向けで、Apple MusicやApple TV+、広告売上が含まれます。ほかに、Googleがデフォルトの検索エンジンになるために支払う金額も含まれます。
ティム・クックはAppleに何を残したか?
Appleの時価総額は2023年1月に一時2兆ドルを下回り、ピーク時から1兆ドル分減りました。宮武さんは、テック株を含む株式市場全体が下がっていたため、額としてAppleも大きく落ちたと説明します。
ティム・クックさんがCEOに就任してから約11年半が経ちます。就任時に400ビリオンドルだったAppleの時価総額は2兆ドルまで伸び、少なくとも200兆円分ほどの価値が加わりました。
すごい社長ですね。評価すべきことをしてますね、確かに。
ティム・クックさんはジョブズほど革新的な製品を出していない、という批判もあります。これに対して宮武さんは、マウスやGUIを備えた最初のパソコンからiPhoneまで、間にiPodを挟んで20年以上かかったとして、Appleでさえイノベーションには時間がかかると指摘します。
ティム・クック体制では、サプライチェーンの改善に加えて自社チップ事業が広がりました。M1チップに至る取り組みは、ジョブズ時代にパロアルトセミコンダクター ── 書き起こしでの表記。半導体設計会社P.A. Semiのことと考えられ、Appleは2008年に買収していますを買収したことが出発点です。ほかにもApple WatchとAirPodsの投入、プライバシー重視、サービス事業へのシフトを主導したと宮武さんは見ています。
宮武さんが意外だったと話すのは、Appleの研究開発費です。2011年には売上の2%しかありませんでしたが、今は7%ほどに上がっています。大企業は売上が伸びると研究開発費の割合が下がるのが普通なので、逆の動きをしていることになります。
時価総額400ビリオンドル、研究開発費は売上の2%
時価総額2兆ドル規模、研究開発費は売上の7%ほど
宮武さんはティム・クックさんの功績を総合して、iPhoneの外側にAppleのエコシステムを広げたことだとまとめます。その成否を測る指標として、iPhone以外の売上の伸びを見るとよいといいます。iPhone以外の売上はコロナ禍で伸び、今は横ばいに近い状態です。
iPhoneを中心に置かない「プル戦略」とは
ティム・クック体制では、Appleのプロダクト戦略も変わったと宮武さんは話します。Appleの製品群は、iPhoneを中心に置き、その周りにApple WatchやAirPodsが広がる図で描かれることが多いです。宮武さん自身も大学のエッセイでそう描いていました。
宮武さんの見方では、Appleの元々のプロダクト戦略は、横に張ったロープを引っ張る「プル戦略」に近いものでした。ロープの左端がよりパーソナルな製品、右端がパーソナルでない製品です。
デスクトップ
スペックが上がり、できることが増え続ける
Mac
デスクトップでできたタスクをこなせるようにする
iPad
パソコンでできたタスクをこなせるようにする
iPhone
iPadやMacのタスクをこなせるようにする
Apple Watch
iPhoneのタスクをこなせるようにする
確かに。(製品同士が)繋がってますね。
5年ほど前から、このプル戦略は変わり始めます。プル戦略では、経営陣がApple WatchやiPhoneといったよりパーソナルな製品ばかりを推しがちになり、iPadやMacが目立たなくなるという弱点がありました。
最近のAppleは、すべての製品を同時に推しています。草野さんが「埋もれちゃわないですか?」と尋ねると、宮武さんはそのリスクは大きいと認めました。
ただしAppleは、製品ごとに独自のエコシステムを作りながら連携もさせています。Apple Watchには専用のアプリストアがあり、iPadには独自のiPadOSがあります。宮武さんは、その結果としてiPadやMacの事業が持ち直したと見ています。
ネットワーク効果より強い優位性「デフォルト」
Appleの優位性を問われた草野さんは、「やっぱプラットフォーム、エコシステムじゃないですか」と即答しました。宮武さんも同意したうえで、スタートアップ業界でよく語られるネットワーク効果 ── 利用者が増えるほど、製品やサービスの価値が高まる現象。SNSや決済、マーケットプレイスなどが代表例ですと比べてみせます。
宮武さんによると、ネットワーク効果は強力ですが完全ではありません。FriendsterはMySpaceに負け、MySpaceはFacebookに負けました。FacebookもInstagramを買収していなければ負けていたかもしれません。
宮武さんがネットワーク効果より強い優位性として挙げるのが「デフォルト」です。前年に番組で取り上げたGoogleも、検索エンジンを軸にブラウザ、マップ、OSを無料で提供し、デフォルトの地位を得てきました。
アプリ層の検索エンジンから始め、ブラウザ、OS、ハードウェアへと下りていった
iPhoneのハードウェアとOSから始め、2008年のアプリストア、自社アプリへと上がっていった
宮武さんは、世界一のスマホを提供してハードウェアのデフォルトになったことが、Appleの強みだと見ています。そのため、どのアプリをiPhoneに最初から入れるかはAppleが決められます。実際にiPhoneのホーム画面には、Appleのアプリが最初から数多く並んでいます。
Apple Mapsが示したデフォルトの威力
デフォルトの力をわかりやすく示す例として、宮武さんはApple Mapsを挙げます。Apple Mapsは登場当初、使いにくい、情報が不正確だと強く批判されました。特に日本ではその傾向が強かったといいます。
2012年、Google Mapsはユーザー10億人を達成しました。同じ年にAppleはiOSのデフォルトの地図アプリをGoogle MapsからApple Mapsに切り替えます。推計では、これによってGoogleはアメリカのモバイルユーザーの3割弱、世界で約3億人のiOSユーザーを失ったとされます。
宮武さんは、Googleが20億人に達していれば発表しているはずだと考えます。19億人ほどなら「20億人近く」と言うはずなので、Google Mapsのユーザーは10億〜20億人の間とみています。同じ考え方で、Apple Mapsのユーザーは3億〜5億人ほどだと推定しました。
草野さんも、友達のiPhoneを見ると最初の設定のまま使っている人が多いと話します。宮武さんは、むしろそれがほとんどだろうと応じました。
Apple Mapsは機能の強化も進めています。アメリカの住宅探しアプリZillow ── アメリカ最大級の不動産情報サイト・アプリ。物件の検索や相場の確認ができますや、駐車場を予約できるSpotHeroと連携しました。SpotHeroは宮武さんの前職の投資先でもあります。
宮武さんは、デフォルトの力があるからこそApple Musicも一定のユーザーを集めてSpotifyの競合になれたと見ています。Apple News、Arcade、Fitnessも、いずれもAppleのエコシステムを強くするためのものだといいます。
AppleはIDとお金の「デフォルト」も狙っている?
宮武さんは、Appleのデフォルト戦略は娯楽や地図にとどまらず、さらに深い領域に及んでいると見ています。Appleが狙っているのは、IDと金融取引を担う「アイデンティティレイヤー」のデフォルトです。
金融取引の面では、Apple PayとWalletがあります。草野さんが「確か免許証とかも登録できるようになりましたもんね、アメリカだと」と言うと、宮武さんは具体的な経緯を説明しました。
Appleは2021年に関連する特許の承認を受け、2021年6月ごろからWalletで免許証と州のIDを扱えるようにしました。まず8州が対象です。アメリカの一部の空港では、iPhoneで免許証を見せてチェックインできます。
さらにAppleは、Face IDやTouch IDと組み合わせて本人確認を強化する特許も申請しています。たとえばアルコールを買うときに、写真を見せるだけでなく指紋認証も同時に行い、本人であることを証明する仕組みです。
草野さんはユーザーから見るととても便利だと感じ、宮武さんもPayPayに似た便利さだと応じます。宮武さんは、デフォルトこそがAppleの優位性であり、このシリーズの後の回でも重要なキーワードになると予告しました。
草野さんが「戦いようがないですよね」と言うと、宮武さんはスマホの層で戦うしかないと答えます。アメリカの10代の87%がiPhoneを持っていることを考えると、iPhoneはほぼデフォルトになりつつあります。その強さゆえに、独占禁止法に該当するのではという議論も出ています。
ティム・クックの次は誰がAppleを率いるのか?
Appleが今後どこへ向かうかを考えるうえで、宮武さんはまず「次の10年、20年を誰が率いるか」を取り上げます。ティム・クックさんはキャラ・スウィッシャー ── アメリカのテックジャーナリスト。シリコンバレーの経営者への鋭いインタビューで知られていますさんのインタビューで、10年後はAppleにいないと語っています。
宮武さんに後継者を問われた草野さんは、Appleの幹部の名前がぱっと出てこないと答えました。それでも、内部の人がなるだろうと予想します。さらに、ソフトウェアや戦略に強く、国とも良い関係を築ける人がふさわしいと話しました。
確かに重要。めちゃくちゃ重要です。ティム・クックさんは中国と仲良くできたから、あれだけサプライチェーンをうまくできたわけなんで。
宮武さんは、外部の候補としてよく名前が挙がるジョニー・アイブさんは、おそらくないと見ています。内部の候補のうち、元CMOのフィル・シラーさんは、引退が近いことを示す「Appleフェロー」の肩書きになっているため外せるといいます。サービス部門トップのエディ・キューさんも古株ですが、CEOになるかはわからないとしました。
いまティム・クックさんに何かあった場合に後を継ぐのは、ジェフ・ウィリアムズさんだと宮武さんは見ています。ジェフ・ウィリアムズさんは、ジョブズにとってのティム・クックと同じ役割をティム・クックのもとで担っている人物です。初代iPhoneの立ち上げに深く関わり、Apple Watchの初期チームにもいました。
ただしジェフ・ウィリアムズさんは年齢が高めで、20〜30年先までAppleを率いるのは難しいと宮武さんは見ています。ほかの候補には、ソフトウェア部門トップのグレッグ・フェデリギさんがいます。フェデリギさんは、ジョブズとNeXTで一緒に働いていた古株です。もう一人は、iPodやiPhoneの開発を経て現在はCMO的な役割を担う「ジョズ」ことグレッグ・ジョズウィアックさんです。
草野さんは、インターネットの歴史を作ってきた人たちが今も幹部に残っていることに驚きます。宮武さんは、元のカルチャーを理解する人が幹部にいるからこそ、ジョブズがいなくなっても似たカルチャーを保てるのだと話しました。
草野さんは、Twitterのように買収先の人物がプロダクトのトップになる例と比べます。宮武さんによると、Appleでもプロダクトを率いる新顔は少ないといいます。車プロジェクトのトップを務めるケビン・リンチさんも、Apple Watchの初期チームにいた人物です。リンチさんは、ほぼAppleのスピンオフといえるジェネラルマジック ── 1990年に元Appleのメンバーが設立した企業。スマートフォンの原型ともいえる携帯端末を構想していましたの出身でもあります。
8年続く車プロジェクト「タイタン」はどうなっている?
ここからは、Appleの次の柱として話題になるプロジェクトを見ていきます。最初はAppleの車プロジェクト「プロジェクトタイタン」です。草野さんは、Appleが車を作ると最初に聞いたときはシンプルにワクワクしたと振り返ります。
Appleがまあ、でもほんとデザイン面のとこですかね。デザインがどういうふうになるのか。
それこそハンドルがなくなるんじゃないかとか、その室内が広くなってみたいな。
草野さんの答えを聞いた宮武さんは、「このタイタンの説明の結論、全部草野さんが言った気がする」と笑いました。
プロジェクトタイタンは、2013年末から2014年初めごろに構想が始まり、8年が経っています。Appleには、Googleのような新しい事業を育てる専門の部署がありません。一つの損益計算の中で予算を配分するため、意味のないプロダクトは基本的に切られます。
宮武さんは、プロジェクトタイタンが今も続いているのは、Appleがこの事業に意味があると考えている証拠だと見ています。これまでに数千億円、場合によっては1兆円以上を投じているのではないかといいます。「出したいとは思っているが、出せるかどうか」が問題だと宮武さんは話しました。
当初の戦略は、良いデザインの車をプレミアムな価格で売るというものでした。2014年ごろは電気自動車のバッテリーのコストが下がり始め、カーボンファイバーなどの素材も広がっていました。さらに自動運転技術の成長も見込める時期でした。
当時の業界はまだ若く、テスラのモデルSの販売台数は2万台でした。BMWはi3をようやく売り始めたところです。Googleはハンドルとペダルのない自動運転車の開発を発表し、Uberの時価総額は3.5ビリオンドルでした。Appleは、製造をiPhoneのFoxconnのような外部の企業に任せる構想を描いていたと宮武さんは見ています。
外部人材の離脱とリーダー交代が続いたタイタン
プロジェクトタイタンが本格的に動き出したことは、土地の取得からもわかります。Appleは2015年にサンノゼ国際空港の隣の土地を購入しました。2021年には、フィアット・クライスラーがアリゾナ州に持つテストコースを借りています。
車作りのノウハウがないAppleは、テスラなど自動車会社から外部の人材を採用しました。しかし、社内のプロダクトチームとカルチャーが合わなかったり、「普通の車を作っているのではないか」と感じたりして、辞める人が多かったといいます。
テスラやBMWに勝てないという危機感から、Appleは車を考え直すことになります。そこから2021年までの体制の変化は、次のように整理できます。
2016年の体制変更では、車の肝はハードウェアではなく、ソフトウェアと自動運転にあると位置づけられました。
草野さんは、ダグ・フィールドさんがどういう心境で辞めたのかが気になると話します。「もうちょっとでできそうなら残りますもんね」と言う草野さんに、宮武さんは「まだなんだろうな、もしくは思っていた方向性と違ったのか」と応じました。2018年時点では約2000人の従業員がタイタンに関わっていたといいます。
「ハンドルもペダルもない車」の計画はなぜ後退した?
Appleの自動運転技術の特徴は、3Dマップに頼らない点です。他社は道路を3Dでマッピングして自動運転に使うことが多いのに対し、Appleは3Dマップがなくても走れる技術を開発しています。当初は、ペダルとハンドルのない車を2025年ごろに発売する予定でした。
しかし前年末ごろ、Apple Carの発売は少なくとも1年延期され、完全自動運転も見送られたと伝えられました。手動の操作が入るため、ペダルとハンドルも付きます。
あー、もう見た目がどんどん、あれ。思ってたのと違う。
宮武さんは、完全自動運転の難しさは最後の数%にあると説明します。
一方で草野さんは、ペダルがない車に乗るのは精神的に怖いと話します。宮武さんが運転士のいないモノレールの例を挙げると、草野さんは、それでも電車には非常停止ボタンがあると返しました。宮武さんも、車の中にハンドルもペダルもないと不自然に感じてしまうだろうと認めます。
宮武さんによると、自動運転は6段階に分かれ、上の方がフル自動運転にあたります。テスラはまだ2か3程度で、まだまだだといいます。Apple Carは自社の高性能チップを4つ載せる計画です。当初は120Kドル(約1500万円)での販売を想定していましたが、テスラ並みの100Kドル(約1200万円)程度を目指しているといいます。
Appleに期待されているのはデザインの驚きなのか
宮武さんは、ハンドルとペダルが付くことで、草野さんがApple Carに期待したデザインの要素が失われてしまうと指摘します。これに対して草野さんは、そもそもここ数年でAppleへの期待自体が変わったのではないかと問いかけました。
なんか本当にソフトウェアとしての使い心地の良さとか、連携のしやすさとかに結構評価ポイントがそっち(ソフトウェア)になったのかなというか。
なんか「こんなかっこよくなるんだ」みたいな新しい驚きってやっぱないなっていうのは思うので。
草野さんの世代はiPhoneの誕生を見てきましたが、長くApple製品を使ってきた人からすると、製品はそれほど変わっていません。草野さんは、革新的な部分はそれほど期待されていないのかもしれないと話しました。
宮武さんは、期待されているかどうかは別として、事業として見ると画期的なことをしなければテスラに負けると反論します。ペダルとハンドルが必要になった時点で、車内のデザインは大きく制約されます。
宮武さんは、Apple Carを出せばある程度は売れても、マスに広げるには完全自動運転が欠かせないと見ています。テスラもまだマスには届いていない段階です。宮武さんは、車はまだNext Big Thingにはならないと結論づけました。
不完全すぎる、今は。
草野さんが「生きているうちに見られますかね」と尋ねると、宮武さんは、完全自動運転かどうかは別として、車自体は見られると答えます。Appleはあまり失敗しない会社ですが、宮武さんはHomePodのメインモデルを数少ない失敗に挙げ、miniはある程度売れたと補足しました。
AR・VRにAppleが本気だとわかる理由
次に取り上げたのは、Next Big Thingの最有力とされるAR・VRです。報道によると、今年はミクストリアリティのヘッドセット、来年にはARメガネのライト版が出ると言われています。草野さんは、日常的に使われるのは難しいと感じつつ、メガネのような薄さなら普及するかもしれないと話しました。
宮武さんは、普段から身につけられるフォームファクターが鍵になると応じます。そこまでハードウェアが進化するには時間がかかり、Metaのマーク・ザッカーバーグさんも同じことを言っているといいます。
Appleはプロジェクトタイタンの存在をほぼ認めていない一方で、AR・VR領域に投資していることは公言しています。2016年ごろには、Appleの社外取締役が初期のAR・VRデバイスを試す機会がありました。
重すぎて小さいクレーンが必要だったらしくて。
このデモでは、ARからVRにシームレスに切り替えられるプロトタイプが試されました。プロトタイプの一つは重すぎて、小さなクレーンで吊り下げながら役員が装着したといいます。デモの目的は追加投資への支持を得ることで、それはうまくいったそうです。
AppleがAR領域に本格的に入ったのは、2015年にドイツのMetaio ── ドイツのAR技術企業。書き起こしでは「Metio」と表記されていますMetaioを買収してからです。Metaioの技術は当初タイタン向けとされていましたが、のちにiPhoneのAR開発ツール「ARKit」に活用されました。宮武さんは、Appleの買収は技術を手に入れるためのものだと説明します。
宮武さんは、ヘッドセットは次のiPhoneにあたるもので、ハードウェアとOSの層を取ればデフォルトになれると話します。Appleはウェアラブル領域のトップ企業なので、変なものは出さないだろうという期待もあるといいます。
Metaは2021年3月ごろ、リストバンドでARを操作するコンセプト動画を公開しました。宮武さんによると、Appleはそれをすでに実現しています。Apple WatchのAssistiveTouch ── Apple Watchのアクセシビリティ機能。手を握る、指をつまむといったジェスチャーで画面を操作できますを使えば、指のジェスチャーで操作できます。
す-すでにもう私たちはもうデバイスの一部をつけているという。衝撃事実。
草野さんは、多くの人がすでにiPhoneやApple Watchを持っているので、AppleのARには入りやすいと話します。宮武さんは、デバイスを作るだけでなく、人がどう使い、どうパーソナルにするかが重要だと応じました。その点で、30年以上そこに取り組んできたAppleには大きなアドバンテージがあるといいます。
ARメガネは、バッテリーやチップ、カメラを入れるとどうしても重くなります。ただ、Appleは先端技術を多くの企業と組んで見ているため、部品の調達もしやすいと宮武さんは見ています。
ティム・クックの発言とMemojiに表れたARへの傾斜
ティム・クックさんのARに関する発言は、年を追うごとに前向きになっています。メディアのThe Vergeが、2016年から2021年までの発言をまとめています。
Appleは「メタバース」という言葉を使いません。宮武さんは、誰もメタバースが何かを理解できないからだと説明します。ティム・クックさんにとってVRは特定の時間に使うもので、人と人とのコミュニケーションにはARが一番だという位置づけです。
ティム・クックさんは中国のメディアのインタビューで、ARデバイスでは人間性を中心に置くことが重要だと語りました。だからこそ、VR専用ではなく、ARとVRの両方に対応したデバイスが必要だといいます。
コロナ禍の2021年6月に開かれたWWDCでは、AppleがMemojiを急に前面に出しました。オープニング動画でティム・クックさんがステージに登場すると、客席の観客はすべてMemojiでした。会場には記者がいなかったため、代わりにMemojiの観客を並べたのです。
この年のWWDCでは、空間オーディオやマップのAR機能など、ARに関わる機能が多く紹介されました。apple.comの幹部紹介ページも、半年ほど全員の写真がMemojiになっていたといいます。
宮武さんは、このMemojiの演出を、ARを推していくというアピールだと見ています。同時に、アバターでのコミュニケーションが当たり前になる未来への準備でもあったのではないかと話しました。草野さんは、そういう未来を信じているというAppleの立ち位置がわかると応じました。
iPhone 14の衛星SOSは、世界地図づくりの布石?
最後に宮武さんは、一見関係なさそうで実はAR・VRとつながる話題を取り上げます。前年のiPhone 14で発表された、周囲に電波がない場所でも衛星経由で緊急連絡ができる機能です。この機能は今のところアメリカのみとみられ、AppleはStarlinkではなくGlobalstarと提携しました。
宮武さんの予想では、Appleの本当の狙いは緊急連絡ではありません。提携の条件を見ると、そう考える理由が見えてきます。
- Globalstarに450ミリオンドルを支払い、衛星の増設を依頼
- ワラントの形でGlobalstarの株式を3%取得
- M&Aのオファーがあれば、事前にAppleへ通知が来る
誰かがGlobalstarを買おうとすれば、Appleはそれを知らされます。宮武さんは、Appleが買収を検討する可能性もあると見て、その理由をプロジェクトタイタンとAR・VRのヘッドセットに結びつけます。
衛星接続の強化
デバイスの接続を衛星で強化する
位置情報の収集
世界中に散らばる18億台のデバイスの情報を衛星で集める
世界地図の完成
世界中のマップが出来上がる
2つの用途
自動運転と、現実世界と融合するARに使われる
それ、すごい計画ですね。
宮武さんは、AppleがAR・VRに本格参入する前触れとして、自社で衛星を制御し始める動きがあるかもしれないと考えています。ただし、あくまで予想にすぎないと念を押しました。
張らなかったときのリスクが圧倒的に大きい
プロジェクトタイタンとAR・VRのうち、可能性が高いのはAR・VRだと宮武さんは見ています。それでも、ヘッドセットやARメガネがiPhoneに代わる、人が日常的に使うデバイスになるかは、まだ未知数です。スマホを超えると言える要素がまだないからです。
それでもAppleがAR・VRに投資するのは、波が来てから動いては遅いからです。うまくいけば今の投資が大きく報われますが、最悪の場合は娯楽用のデバイスで終わるかもしれません。
宮武さんは、AR・VRに張らなかった場合のリスクを「今のFacebookの状況」にたとえます。草野さんは、Appleは着実に裏の部分を進めていて、良いタイミングで良いものを出せれば爆発するだろうと話しました。
草野さんは、衛星の話に車プロジェクトの望みが見えたと言います。これに対して宮武さんは、Appleらしさを出すには完全自動運転が前提だと返しました。そのソフトウェアが成り立たなければ、車の中身を変えられないからです。
結論として、宮武さんはどちらのプロジェクトも長期的には重要になり得るものの、Next Big Thingになるかはまだわからないとしました。今回はハードウェアに焦点を当てた回で、次回はサービス事業の中核であるApp Storeと広告を取り上げると予告しています。
まとめ
ティム・クック体制のAppleは、粗利率の改善、自社チップの開発、サービス事業の拡大によって企業価値を大きく伸ばしてきました。その強さの根っこには、iPhoneを通じて地図やID、決済の「デフォルト」を握る力があります。一方で、次の柱と目されるApple CarとAR・VRは、完全自動運転やデバイスの形といった課題を抱え、Next Big Thingになるかはまだ見えていません。
- Appleはサービスやウェアラブルなど各事業が大企業並みの規模で、ティム・クックさんのもとで時価総額は400ビリオンドルから2兆ドル規模に伸びた
- Apple Mapsはデフォルトになっただけで数億人のユーザーを得ており、Appleはその「デフォルト」の力をIDや金融の領域にも広げようとしている
- プロジェクトタイタンは完全自動運転の実現が遠く、ハンドルとペダルが残ることでAppleらしいデザインを打ち出しにくくなっている
- AR・VRはティム・クックさんが「Next Big Thing」と公言する領域で、Globalstarとの提携も将来の地図づくりへの布石という見方がある
- AR・VRが成功するかは未知数だが、宮武さんは「張らなかった時のリスクが圧倒的に大きい」ためにAppleは投資を続けていると見ている



