ハイライトで観る時代、スポーツは変わるのか?
Off Topicでは今年、コンテンツを中心に据えた「コンテンツセントリック」な会社について何度か取り上げてきました。前回のインターネットフィクションに続き、今回は新しいスポーツリーグがテーマです。
きっかけは、以前のエピソードの終わりに草野さんが投げかけた問いでした。スポーツ業界でハイライト動画が流行し、ユーザーがハイライトで試合を観るようになったことで、スポーツそのものが変わることはあるのか、というものです。
僕も今NBA見てる時は大体ハイライト系で見てたりするんですけど、それによって、そもそもそのスポーツが変わることってあるんですかっていう問いかけを草野さんがしてくれたと思うんですけど、めちゃくちゃいい質問で。
まさにそういう変化があるからこそ、新しいスポーツリーグが立ち上がってると思っていて。
宮武さんによると、スポーツはもともと時代に合わせて進化しており、選手のスキルだけでなくルールも変わり続けています。
試合を前に進めるルールはどう作られてきたか
宮武さんが挙げた有名な例が、2年ほど前のMLBのルール変更です。ピッチャーが投げるまでのカウントダウンを設けるなど小さな変更を重ね、もともと3時間ほどだった平均試合時間が2時間半ほどに収まっているといいます。
草野さんは、NBAのハイライトでデンバーの「ジョーカー」の動画を観て、ボールを持ち続けてはいけない時間制限があることを初めて知ったそうです。草野さんは、これを「コンテンツファースト」なルールだと感じたと話します。
考える時間をその1分以内とか、何秒以内って決めてるって。確かに自動的にゲームがちゃんと進む設計になってるんだなって初めて知りましたそこで。
宮武さんによると、他のリーグではシュートまで原則30秒なのに対し、NBAは1954年に24秒へ変更しました。さらに2018年には、シュート後に自チームが再びボールを持った場合のリセットが24秒から14秒に短縮されたといいます。
ルール変更の決め方について、宮武さんはNBAでは協会とチームオーナーの合意が必要だと説明します。変更によって過去の記録と比較しにくくなるため、嫌がる人もいるそうです。
ビジネスの視点では、試合がエンタメ化すれば来場者や広告収益が増えるという理屈になります。そのため、各スポーツで多いのはオフェンスを高める施策だといいます。
- 野球: ベースを大きくして盗塁をしやすくする
- NBA: ファウルの扱い方を調整する
- NFL: 1970年代にクォーターバックがパスしやすいようルールを変更
ただし、ルール案が却下されることも珍しくありません。NBAでは4ポイントラインを作るべきかという議論もありますが、ベースとなる競技がある以上、既存リーグはドラスティックには変えられないと宮武さんは指摘します。
サッカーをゲーム化したキングス・リーグとは?
既存リーグにできない大胆な作り変えを担うのが新しいスポーツリーグだ、と宮武さんは話します。ベースはサッカーやバスケでも、今風にするとどうなるかをゼロから考え直しているのです。
バスケってだいたい5対5じゃないですか、コートに出てるの。それを急に10対10にしますみたいな。そういうことなかなかできないじゃないですか。
特に進んでいるのがサッカーです。2023年に元FCバルセロナのジェラール・ピケさんが発案したキングス・リーグ ── 元サッカースペイン代表のジェラール・ピケ氏が2022年末にスペインで創設した7人制サッカーリーグ。配信者との連携とゲーム性の高いルールで知られますは、サッカーのエンタメ性が欠けているという問題意識から生まれました。
チャンピオンズリーグの決勝戦って、もう本当に全員が盛り上がるような試合でも90分間で0対0になることがありますと。何が面白いんだっていう。
宮武さんは、コアなファンはそれでもいいと言う一方で、一般の人には「最後の2分間を見ればいいだけ」と考える人も多いと話します。草野さんは、初心者として言ってはいけないことだと思っていたと驚いていました。
ピケさんはバルセロナで倉庫を借りて選手を募集し、1.1万人ほどが応募して最終的に180人がドラフトされました。キングス・リーグのルールは、通常のサッカーとは大きく異なります。
11対11の90分間。交代人数に制限があり、一度下がると戻れない。イエローカード・レッドカードで退場
7対7の40分間で小さめのコート。交代は無制限。カードの代わりにアイスホッケー式で2分間・5分間の一時退場
各チームは7人のスタメン、3人のベンチ、2人のゲストの計12人で構成されます。ゲスト枠には元プロ選手やレジェンドが入り、毎回の盛り上げどころになっています。
さらに各コーチは「秘密兵器」を持ち、試合中に発動できます。たとえば発動後の2分間はゴールが2点になる、といったものです。
なんかカードゲームみたいですね。
完全にゲーミフィケーションされたようなサッカーのリーグですよね。
配信者がオーナーに入ると何が起きるのか
キングス・リーグのもう一つの特徴は、クリエイターとの連携です。主にTwitchやYouTubeの配信者が、少数株式を持つパートオーナーとして各チームに入っています。
オーナーである配信者には、試合を無料で配信するインセンティブがあります。もともとオーディエンスを持つ配信者が実況や感想を交えて配信することで、リーグはそのファンを引き込めるのです。
宮武さんによると、最初の試合だけで80万再生ほどに達しました。ハーフタイムに監督がチームを鼓舞するペップトーク ── 試合前やハーフタイムに監督やリーダーが選手を励まし、士気を高めるための短いスピーチのことまで配信されるなど、普段は見られない裏側も見せています。
最初のシーズンには、FCバルセロナの本拠地カンプ・ノウで9.2万人がチケットを買って観戦し、その試合は200万人ほどがライブ配信で観ていたといいます。
ピケさんがリーグを立ち上げたきっかけは、ファンのエンゲージメントの変化を実感した体験でした。和食レストランで、スペインの配信者でeスポーツのコメンテーターでもあるイバイさんと食事していた時のことです。
その2人の若いファンが、ジェラルド・ピケさんに関しては自撮りしてくださいと。でも、その配信者に関してはもうテンションが上がりすぎて。その人がその日何食べたかも全部把握してたみたいな。
ピケさんはこのレベル感の違いに衝撃を受け、キングス・リーグを立ち上げたそうです。リーグのCPOは、キングス・リーグを次のように説明しているといいます。
これはただのサッカーリーグでもなければ、ただのテレビ番組ではなくて、両方どっちも備えてるからこそ成功してるんですよ。
キングス・リーグはTwitch配信に加えて、ESPNやスカイスポーツにも放映権を提供しています。リーグは去年世界で最も観られたサッカーリーグだとうたっており、スペインのチームが15%ほどの株式を4ミリオンほどの評価額で売却した例もあるそうです。独自のワールドカップには1億人ほどの視聴者が集まったといいます。
アイコンリーグやボーラーリーグも続く
キングス・リーグ以外にも、サッカーではアイコンリーグやボーラーリーグが成功しています。宮武さんによると、これらは1日5万〜10万人ほどの同時視聴者がいて、配信は主にTwitchです。
イギリスで開催されるボーラーリーグは6対6のインドアサッカーで、元プロとクリエイターが参加しています。ケサイさんやスピードさん、サイドメンの一部メンバーが加わり、各試合4500人ほどが会場に来るといいます。
ボーラーリーグも独自ルールを取り入れており、一時期は試合中の特定のタイミングでゴールキーパーが手を使えないというルールもあったそうです。
宮武さんは、こうした新リーグはチケットが安めで、ボーラーリーグも20〜30ドルほどだと話します。お手頃に参加できる点も魅力の一つだと考えられます。
ゴルフでは、以前Off Topicでも取り上げたタイガー・ウッズさんが立ち上げたTGL ── タイガー・ウッズらが創設した新しいゴルフリーグ。屋内の専用会場でシミュレーターと実際のグリーンを組み合わせ、短時間で観戦しやすい形式を採っていますなどもあります。
ストリートバスケのAND1はなぜ熱狂を生んだのか
宮武さんは、昔のコンテンツファーストなスポーツチームの例として、トリックショットなどを披露するバスケチーム「ハーレム・グローブトロッターズ」を挙げます。さらに個人的に推すのが、ストリートバスケから生まれたAND1というブランドです。
AND1はもともとTシャツから始まったアパレルブランドです。バスケには相手を挑発するトラッシュトーク ── 試合中に相手を挑発したり自分の優位を誇示したりする言葉の応酬。集中を乱す戦略として使われることもありますの文化があり、AND1はその名言をTシャツにしていました。
英語だとGo to church, pray you don't guard me.「俺を守らないことを祈れ」。
宮武さんによると、AND1が大きく伸びたきっかけは1998年でした。レイファー・オルストンさんというストリートボール選手のハイライトを収めたビデオテープが、AND1の事務所に送られてきたのです。
AND1はNBA選手を起用したCMを出していましたが、うまくいきませんでした。そこで方針を変え、このテープを活用していきます。
テープが届く
1998年、レイファー・オルストンさんのハイライト映像が事務所に送られてくる
ギフティング
5万本をコピーし、バスケキャンプや音楽レーベルに配る
商品に同梱
「ミックステープ」として商品購入者に渡し、3週間で20万本を配布
プラットフォーム化
ツアーチームで全米を回り、ニックネームを持つスター選手を生み出す
AND1の選手にはニックネームが付くのも特徴で、オルストンさんは「スキップ・トゥ・マイ・ルー」と呼ばれました。スキップしながらボールを運ぶ挑発的なプレーにちなんだものです。
宮武さん自身も中高生の頃、学校で誰かが見せていた映像でAND1を知り、iPod videoに入れて何度も観ていたといいます。相手を転ばせたり恥をかかせたりするトリック的な動きを、みんなが真似していたそうです。
SNS時代前のバイラル性のアレですよね。
真偽はわからないとしつつ、一時期はNBA選手の4割がAND1を履いていたという話もあるほどだったそうです。宮武さんは、AND1をコンテンツをうまく活用して自社アパレルを伸ばし、一つのプラットフォームを作ったブランドだと評価しています。
ダンスする野球チーム「サバナバナナ」の原点
宮武さんが新しいスポーツリーグで最も成功していると見るのは、サッカーではなく野球です。黄色いユニフォームでTikTokでもバズっている「サバナバナナ」は、エンタメ性を加えた野球チームとリーグを作っています。
創業者のジェシー・コールさんは大学時代に野球をしていましたが、怪我でうまくいかず、コーチに回りました。その時に気づいたことが原点になります。
(ジェシーさんが)気づいたのが、「つまんない」と。彼がつまんないのであれば、他の人も絶対つまんないと思うと。
その後ジェシーさんは、大学のサマーリーグチームのGMになります。1試合平均200人しか来ず、銀行口座には300ドルもない状況だったそうです。
立て直しのために、ジェシーさんは始球式を有名人ではなくファンにやらせ、イニングの合間には選手を踊らせました。マイケル・ジャクソンの「スリラー」のダンスを教えていたといいます。
結果として、そのチームは大学サマーリーグの来場者数で全米4位になり、優勝もしました。ジェシーさんは、選手が楽しむことがパフォーマンスにも影響すると考えているそうです。
食べ放題でも客が帰るなら、野球を変えるしかない?
ジェシーさんはP・T・バーナムやウォルト・ディズニーから影響を受け、2015年に奥さんとともに新たな大学サマーリーグチームとしてサバナバナナを立ち上げます。初期の施策の一つが、チケットを買えば食べ放題という仕組みでした。
宮武さんは、スポーツチームは飲食で儲けるのが一般的なので、食べ放題は逆の発想だと指摘します。それでもジェシーさんは、試合が終わる前に帰る観客を見て不満を抱えていました。
じゃあこれはもう根本的に野球を変えないといけないんじゃないかと。
ジェシーさんたちは観客をカメラで捉え、いつ帰るのか、いつスマホを見るのかを観察しました。その結果、野球の普通のルールを逆から考える必要があると気づき、大学と関係のない独自チームとしてのサバナバナナに移行していきます。
サバナバナナの野球には、2時間の時間制限があり、フォアボールとバントがありません。バントしようとした選手は退場になります。
まあ面白くないプレーなのでっていう。
宮武さんがYouTubeの無料配信で観た試合では、審判や選手が踊り、竹馬に乗った選手がバッターボックスに立つこともあったそうです。外野手が回転しながら捕球するなど、選手もエンタメ性を意識したトリックプレーを見せています。
フォアボールは「歩く」から「走る」へ
サバナバナナの象徴的なルールが、フォアボールの作り変えです。アメリカではフォアボールを「WALK」と呼び、ジェシーさんは一番運動神経が要らないプレーだと考えていました。
そこでサバナバナナでは、WALKを「スプリント」に変えました。
WALK: バッターはペナルティなしで一塁へ歩くだけ
スプリント: バッターは一塁以降も走り続けられ、守備側全員がボールを触るまでプレーが止まらない
フォアボールになると、バッターは二塁、三塁、ホームへと走ります。その間、守備側は全員がピッチャー付近に集まってボールを投げ合い、全員が触った時点でプレーが再開するため、多くの場合は二塁あたりまで進めるそうです。
フォアボールっていう、ジェシーさんからするとめちゃくちゃ面白くないプレーを一気にエンタメ化できたっていう。
サバナバナナの試合は数時間前から人が集まり、試合前に50個ほどのイベントが開かれます。選手が球場の外でファンと踊ったり、おばあちゃんたちのチアリーダーグループが踊ったりするそうです。
チケットは最高60ドルに抑えられ、全試合がYouTubeで無料配信されています。宮武さんは、エンタメ性があるからこそ全年齢、しかも野球ファンでない人にも好かれていると話します。
いつもテレビとかで野球の延長みたいな見て、ドラマが始まらないみたいな。いつもそれの被害者だったので、めっちゃ長いなっていう印象だったんですけど、(サバナバナナは)2時間で終わるっていう話と、そのエンタメ性があるっていうのはちょっと面白そうだなと思いました。
チケット完売、MLBのスタジアムを回るツアー
サバナバナナは非常に人気で、宮武さんの知人も「ようやくチケットが取れた」と話していたそうです。二次流通では高騰しますが、チームは誰でも来られるよう意図的に上限60ドルにしています。
現在はまだチーム数が多くないため、ツアー形式で各地を回っています。今回は25州40か所を回り、そのうち18か所がMLBのスタジアム、4か所がアメフトのスタジアムだといいます。
アメフトのスタジアムでは角を使うため、左右どちらかでホームランが極端に打ちやすく、もう一方は打ちにくくなります。宮武さんは、それもエンタメ性の一つだと話します。
勝敗のシステムはあるものの、多少はエンタメ性のために勝ちやすさを犠牲にしている面もあるそうです。竹馬の選手は、怪我で野球のキャリアが進まなかった中、オーディションで「竹馬に乗れる」と答えたといいます。
「竹馬に乗ってヒット打ってたら、今から投げるからヒット打てたら採用します」って言われて。でヒット打ったらしいんですよ。
数字で見るサバナバナナの強さ
アメフトのスタジアムで行われた最近の試合には、8.1万人が来場したといいます。宮武さんは、LAで観たドジャース戦でさえ試合中に空席が目立ったと比べ、サバナバナナの配信では席を離れる人がほとんどいなかったと話します。
サバナバナナは200万枚のチケットを完売し、今はウェイトリスト状態だそうです。MLB全体の来場者数が年々落ちている中で、グッズがプロチームより売れるケースもあるといいます。
選手と行く4日間のクルーズ「Bananaland at Sea」も開催されています。選手には元プロやプロからカットされた若手も多く、ある年には11人のサバナバナナの選手がMLBのチームと契約したそうです。
サバナバナナは2026年にフルタイムのリーグを立ち上げ、テレビ放送も予定しています。宮武さんは、コンテンツセントリックでプロダクトまで変えている点で、サバナバナナが一番だと見ています。
ジェシーさんも野球をディスってるわけではないですと。野球で好きな人は好きなので、それはそれで見てもらってもいいんですけど、やっぱりそう思わない人たちもいるので、その人たちに向けて。
コンテンツありきでプロダクトを作り変える時代へ
宮武さんは新リーグの事例から、コンテンツセントリックな会社を作るときの示唆を引き出します。
宮武さんは、たとえばSlackのようなプロダクトでも作り方が変わる可能性があるとし、体験作りを考え直す時期に来ているのかもしれないと話します。AI時代には、ニッチなプロダクトを束ねるホールディングス型の会社という発想もありうるといいます。
草野さんは、以前の回で話したプロレスに触れ、アクションとドラマとキャラクターが同時に見られるスポーツはスマホを見る暇がないと指摘します。
こういうスポーツとか、もっとコンシューマーとかエンタメにまず新しいユーザーの行動とか新しい発想って生まれて、そこから徐々に(企業)向けソフトウェアとか、そっち側に寄っていくと思うので。
草野さんは映画館を例に挙げ、喋ってよい、撮影OKといった新しいルールで、大画面を一緒に観る体験を変えられるのではと話します。宮武さんも、マーベル映画の観客のリアクション動画を観るのが好きだと応じました。
最後に宮武さんは、熱心な野球ファンには「これは野球じゃない」と思う人もいて、それも正しいと認めています。
まとめ
既存リーグはルールを微調整しかできない一方、キングス・リーグやサバナバナナのような新リーグは、コンテンツとしての面白さを起点に競技そのものを作り変えています。その発想は、スポーツ以外のプロダクト作りにも広がるかもしれません。
- MLBやNBAもエンタメ化に向けたルール変更をしているが、伝統があるためドラスティックには変えられない
- キングス・リーグは7人制、無制限交代、秘密兵器、配信者オーナーでサッカーをゲーム化した
- AND1はミックステープを配り、SNS以前にストリートバスケを一大コンテンツにした
- サバナバナナは観客行動の観察からフォアボールやバントを作り変え、チケット完売とTikTok980万人を実現した
- コンテンツありきでプロダクトや体験を作り直す発想は、ソフトウェアなど他領域にも広がりうる




