AI投資ブームの先で勝つのは誰か
草野さんが切り出したのは、前年末に話題になったGPT-3などの生成AIの話です。宮武さんは、画像などクリエイティブ分野で語られがちなAI生成技術を、今回は教育に絡めて考えたいと話します。
教育をテーマに1エピソードを使うのは、アメリカの大学の学費が高騰している話をした2021年以来とのこと。今回はそうした学校の話も交えながら、教育を「ゼロから考え直す」ことが狙いだと宮武さんは説明します。
本題の前に、宮武さんはAI業界の勢いを数字で示しました。AI企業の資金調達は8年で20倍以上に膨らみ、案件数も大きく増えています。
2022年は、さまざまな業界でベンチャー投資のピークだった2021年からは下がりました。それでもOpenAI ── ChatGPTやGPTシリーズ、画像生成AIのDALL·Eを開発するアメリカのAI企業やJasper、Descript、Stability AIなど、AI生成技術の企業が盛り上がり、1つのハイプサイクルになったと宮武さんは見ています。
宮武さんは、過剰評価されている部分は多いとしつつ、実際のユースケースは本当にあると話します。そのうえで、AIのモデル自体は長期的には一般化し、企業の勝敗を分けるのは「ディストリビューション」と「独自データ」になると予想します。
結局そのOpenAIとかって、オープンなウェブの情報を基本的に拾ってるわけなので。なので、そのデータって他でもアクセスできるんですよね。
宮武さんが独自データの例に挙げたのはAppleです。AppleはApple WatchやiPhoneを通じて何年も前から健康データを集めており、ディストリビューションも持っているため、非常に強いプレイヤーになり得ると宮武さんは見ています。
大学は投資ではなく「保険」になった?
宮武さんは、これまで大学教育を「投資」と「消費」を掛け合わせた商品だと考えていました。学費を払って将来に備える投資であり、同時に学びも含めて4年間を楽しむ消費でもある、という見方です。
ところが最近、宮武さんはその見方が違うのではないかと思い始めたといいます。
なんか投資ではなくて保険なのかなっていう。
人が大学に行く理由は、周りからどう見られたいかや、安定した仕事を得たいといった「自分を守るため」のものではないか、というのが宮武さんの考えです。草野さんも、高校生のころは「みんな行ってるし、行っておかないといけない」と思っていたと共感します。
将来への投資と、4年間の学びや楽しみを買う消費の掛け合わせ
いい仕事や社会的地位を失わないための保険
保険だとすると問題は値段です。宮武さんは、昔は良かったかもしれないが、学費という保険料がこれだけ上がっている今は、商品そのものに疑問を持つべきだと話します。
ハーバードやスタンフォードは「ナイトクラブ」なのか
大学をめぐるもう1つの論点として、宮武さんはステータスゲームを挙げます。ハーバード大学やスタンフォード大学が本気で教育を提供したいなら、学生数を増やせばよいはずだという指摘です。
キャンパスなどの費用はかかるものの、学生を倍にすると宣言することもできます。それでも有名校が定員を増やさないことに、宮武さんは大きな意味を見ています。
スタンフォードとかハーバード、まあその有名校っていうのは基本的にナイトクラブですと。
限られた人しか入れない、ステータスを作るための場所になり、学ぶ場所ではなくなっているのではないか、と宮武さんは問いかけます。草野さんが「それは昔からでは」と尋ねると、宮武さんは昔からそうだったと認めたうえで、これだけ学費が高いと意味合いが変わると答えました。
よりエクスクルーシブになったその場所に、高い学費を払っていいのか、払うべきなのか。宮武さんの問題提起はここにあります。
学校が教えない「生活の実務スキル」
宮武さんはさらに、大学に限らず高校や小学校でも、そもそも実務スキルを学ばないと指摘します。例に挙げたのは、バスや電車の時刻表の読み方や、税金の申告方法です。
草野さんも、Twitterで「確定申告のやり方を学校で教えてほしかった」という声をよく見かけると応じます。宮武さんはこれに、健康やいい関係性の作り方を加え、草野さんはコミュニケーションの仕方も挙げました。
アメリカはえー、実務能力がない21歳を世界で最も作って、で、えっと、30歳で最も実務的な人たちを作るって。
アメリカでよく言われていたというこの言葉について、宮武さんは今も正しいかはわからないと前置きしています。大学を出た21〜22歳は実務経験がなく職場ですべてを学び、30歳になる頃には市場の中で実務能力が身につく人とつかない人に分かれる、という意味です。
草野さんが「実務能力とは生活力のようなことか」と確認すると、宮武さんは財務諸表を読むような仕事のスキルもあるが、どちらかといえば生活のベースのスキルだと答えます。教育システムを卒業したのにその能力がないことは、疑問として持つべきだと宮武さんは話します。
SparkNotesとTurnitin、インターネット時代のいたちごっこ
インターネットが登場してから、数学の答えを調べるといった「イカサマ」をする学生が出てきたと宮武さんは振り返ります。宮武さん自身も高校時代に使っていたのが、アメリカで教育を受けた人ならほぼ全員が知っているというSparkNotesというサイトです。
アメリカの授業では、本を読んでディスカッションしたりエッセイを書いたりします。たとえば『ロミオとジュリエット』を読む課題では、シェイクスピアの書き方が独特なうえ、ストーリーに興味がなければエッセイを書く意味も感じにくいと宮武さんは話します。
SparkNotesは表向きはスタディーガイドですが、チャプターごとのサマリーや重要なテーマまで書いてくれます。草野さんが「読んでいない人もいたのか」と聞くと、宮武さんは「めちゃくちゃ多いと思います」と答えました。
インターネットでエッセイを丸ごとコピペする学生が増えると、学校側はTurnitin.comのようなチェックサイトを使うようになります。ネット上の情報との一致や、学生同士の写し合いを確認できる仕組みです。
学生が事前に行って、そこで自分のエッセイ入れて、そこで直すっていう、えー、パターンも、まあ人によってはやってたので。
宮武さんは、大学受験のエッセイを他人に書いてもらうケースもあると話します。そのうえで、今の教育システムは産業革命期に子どもを工場で働かせるために作られたものであり、ものの作り方が根本から変わった今、教育システムも変わってよいのではないかと述べました。
学費高騰のもう1つの理由、増え続ける大学職員
前回の教育回では、学生ローンへの政府の補助金が学費を押し上げているという話をしました。宮武さんは今回、もう1つの理由として、アメリカの大学のアドミンスタッフが異常に多いことを挙げます。
アドミンとは、データベース入力や入学手続きなど学校の管理業務を担う職員のことです。宮武さんは、実際に何をしているかは微妙なところもあり、もちろん重要な人もたくさんいるとしたうえで、イェール大学の数字を示しました。
| 年 | キャンパスにいる4年制の学生 | アドミンスタッフ |
|---|---|---|
| 2003年 | 5300人 | 3500人 |
| 2021年 | 4600人 | 5000人弱 |
2003年時点でもスタッフ1人あたり学生1.5人と多いのに、2021年にはアドミンの数が学生数を超えました。草野さんが清掃スタッフも含まれるのかと尋ねると、宮武さんはカウントしていないと思うが可能性はあると答え、教授は含まれないと補足します。
教授を含めると、イェール大学が払う給料の総額は27億ドルにのぼります。大学のコーチのように億単位をもらう人もいて差はあるものの、平均すると1スタッフあたり6000万円以上になると宮武さんは説明しました。
子どもに何を学ばせるべきか、答えが見えない
大学で起きているもう1つの大きな変化が、コンピューターサイエンス専攻の卒業生の急増です。宮武さんによると過去10年で140%ほど増え、逆に社会学や文学、歴史を専攻する学生は減っています。
テック業界やエンジニアリングが重視されていることが背景ですが、宮武さんは、親が今から子どもに何を学ばせるかを考えるときにここが難しいと話します。今はコードを書ける人がある程度の給料を得られても、20年後も同じとは限らないからです。
そもそもノーコードとかローコードの時代になってますし、そのAIとか活用するとコード、コードも書いてくれちゃうので。
草野さんは、製品を支えているのはエンジニアではないかと返します。宮武さんはそれを認めつつ、全員が必要になるかはわからず、たとえば100人の会社で50人必要だったエンジニアが20人になる可能性もあると話しました。
草野さんが「何がいいんですかね」と問うと、宮武さんは「これを学ばせろ」という話より、学生自身が何を学びたいかという方向に持っていく必要があると答えます。
GPT-3で書いたエッセイを、先生はどう評価する?
インターネットを活用してきた学生たちは、生成AIもすぐに使い始めています。宮武さんが紹介したのは、Redditに投稿されたある学生の話です。
その学生は、GPT-3でエッセイの出だしを書かせ、それを自分で編集する方法に気づきました。エッセイを書く時間が大幅に短くなったため、他の学生のエッセイを100ドルで書くサービスを売り出したといいます。
そこまでいくと、やっぱ、あの、なんていうか、ある意味才能ですよね。優秀な学生だから。合格って感じがします。
一方で宮武さんは先生の立場を考えます。AIが書いたエッセイに成績をつけるのは嫌なはずで、生徒が書いたものではないと知った瞬間にやる気を失うだろうと話します。
ロボットが書いたものを人が評価するっていう。
ただし宮武さんは、AIをエッセイの執筆支援と見ればすごくいいとも考えています。コードの一部を書き出してくれるReplit ── ブラウザ上でプログラムを書いて実行できる開発環境サービス。AIによるコード補完機能も備えていますによってスマホでのコーディングができるようになったように、AIがものづくりを民主化する可能性もあるといいます。
計算機はOKなのに、なぜ記憶テストなのか
宮武さんは、AIやインターネットによる「いかさま」の議論は、計算機が登場したときにもあったと指摘します。草野さんによると、欧米では授業で計算機を使ってもよく、グラフを描ける高機能なものも使われています。
宮武さんが話すScientific Calculatorは、ちょっとしたコーディングもできる小さなパソコンのような端末です。日本にはあるのかと宮武さんが尋ねると、草野さんは電卓的なものは使ってはいけない学校が多く、高機能な計算機はあまり見ないと答えました。
宮武さんが疑問を投げかけるのは、今の学校の「記憶してテストで書く」仕組みです。ニューヨークの人口のような知識は、Googleで調べればすぐわかります。
もちろんなんか全記憶、記憶のなんかテストをするっていうのを全部なくせっていう話ではないと思うんですけど。なんかそれがなんか今の時代に追いついてない部分はあるかなとは、えー、思いますよね。
草野さんは、高校は大学受験の一斉評価というシステムで回っており、1つの学校だけでは評価の仕方を変えられないと指摘します。宮武さんも、やるなら全部変えないといけないとしつつ、そもそも全員を同じ評価基準で測るのは効率的ではあっても正しいとは限らないと話しました。
それでも学生たちはAIで面白いものを作っています。宮武さんの例では、コーディングを始めて3ヶ月以内の学生が、GPT-3とReplitを使ってツイートをプロンプトに記事を自動生成するメディアサイトを作りました。
このサイトはGPTタイムズという名前で、デザインにはAI画像生成を使い、ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズのような見た目にしていたといいます。たとえばイーロン・マスクのツイートを入れると、それについての記事を書いてくれる仕組みです。
ChatGPTの弱点は「それっぽさ」にある
盛り上がるChatGPTにも課題があると宮武さんは話します。ChatGPTは「確率的なAI」であり、計算機のような決定論のAIとは違うという説明です。
5×20と入れると毎回100が出る。答えが決まっている
オープンウェブを探って、それらしい答えを出す。収録時点では正しいか間違いかの判断がつかない
草野さんは、画像生成AIでも「それっぽい絵」ができるが、よく見ると少し違うと応じます。宮武さんによると、ChatGPTは文脈の中でどの言葉を出すべきかを決める統計モデルなので、エッセイはそれらしく書けても、数学の問題ではかなりの確率で間違えます。
宮武さんが面白いと感じた例は、「地球で最も速い海の哺乳類は」と聞かれたChatGPTが、まずハヤブサと答えたやりとりです。違うと指摘されると今度はバショウカジキと答え、哺乳類の定義を問い詰められてようやく間違いを認めたといいます。
収録時点でStack OverflowがChatGPTによる投稿を禁止したのも、コードにも誤りが多いことが理由だろうと宮武さんは見ています。草野さんは、GPTを使ったプロジェクトがイラストや文章など「それっぽさで成り立つもの」に多いのはそのためかと納得しました。
これってもう自動運転でも全く同じことなんですけど、最後の5パーセントとか最後の2パーセントとか1パーセントの精度を上げるのって一番難しいことなので。
精度が90%ほどあっても、残りの部分では異常なケースが次々に出てきます。そのため、めちゃくちゃ重要なことは今時点ではさすがにAIに任せられないと宮武さんは話しました。
Stripe創業者兄弟の親がやった3つのこと
何を学ぶべきかもわからない中で、どう子どもを教育するのか。好奇心を持ったことだけを自分で調べさせればよいという意見もありますが、宮武さんはそれはやりすぎだと考えます。
宮武さんが考える学校の意図は、何らかの制限をかけることと、新しいトピックを紹介することです。そのストラクチャーを作りつつ、子どもが反論や反抗をし、自分の道を行くことも許さなければならず、そのバランスが難しいといいます。
その好例として宮武さんが挙げたのが、Stripe ── オンライン決済サービスを提供するアメリカ発の企業。アイルランド出身のコリソン兄弟が創業しましたの共同創業者であるパトリック・コリソンさんとジョン・コリソンさんの兄弟です。パトリックさんによれば、親の仕事は子どもが興味を持ったことをできるだけ深掘りさせ、好奇心を育てることだといいます。
コリソン兄弟の親は、毎日図書館に連れて行き、夏にはいろいろな国へ旅行し、面白いゲストとの食事やホームパーティーに子どもを同席させました。宮武さんはそこから、好奇心を育てる3つのステップを整理します。
3つ目の具体例がユニークです。パトリックさんが12〜13歳のころ古代ギリシャ語が面白いと口にすると、母親が町中でそれを知っている人を探し出し、チューターとして教えてもらうよう頼んだといいます。
草野さんはここで、Metaのマーク・ザッカーバーグさんの父親の話を思い出しました。「みんながやっているから」とバスケをやりたがった息子にはボールを買わず、本人が自分から興味を持ったコンピュータプログラミングには家庭教師をつけて全力でサポートしたという話です。
宮武さんも、幅広く見せたうえで興味を持ったものを本当に深掘りさせることが、親としてできる教育の1つだと話しました。
一方的な講義を逆転させる。Synthesisという試み
学校でこうした教育は難しいものの、宮武さんは今のやり方にも疑問を持っています。生徒数が多いため、授業は一方的なレクチャーになりがちだからです。
グループで講義を聞き、家に帰って1人で宿題をする
事前に動画や本で学び、授業ではグループで話し合う。先生はファシリテーター役
先生は会話を回したり、あまり話していない学生に声をかけたりする役割になります。こうしたモデルはアメリカですでにちょこちょこあり、自分の意見を持つことやディスカッションに参加することは、ビジネスにも生活にも役立つと宮武さんは話します。
宮武さんは、カンファレンスやOff Topicのイベントも、事前に動画を無料公開して当日はディスカッションに集まる形にしてもいいと考えています。草野さんも、インプットだけより実際の会話や手を動かすほうが学びがあると応じました。
こうした協働型の学びを実現するサービスとして宮武さんが注目しているのが、教育系スタートアップのSynthesisです。宮武さんが以前推薦した本『エンダーのゲーム』に強く影響を受けた教育プログラムだといいます。
Synthesisは、イーロン・マスクさんが子ども向けに作った学校Ad Astraの共同創業者が立ち上げた会社です。社会の課題を実際に解決できる子どもを育てることを目的に、Ad Astraでのゲームを通じた課題解決プログラムをソフトウェア化しました。
6〜14歳の子どもを1つのコホートに集め、週に1度、ゲームや現実世界のシミュレーション問題をグループで解きます。大人はファシリテーター役で、コミュニケーションや考え方の説明を求めるといいます。
宮武さんは、前年末に話した「シーニアス」、つまりグループで天才を生むという考え方にも似ていると話しました。草野さんも、一緒に学ぶ仲間からの刺激が普通の授業よりありそうだと感じています。
天才のそばには家庭教師がいた
一方で宮武さんは、学生同士はほぼ同じレベルの教育を受けているので、教え合うのは難しいとも指摘します。その解決策が、家庭教師やチューターによる1対1の教育です。
宮武さんは前年あたりから「天才の作り方」を研究しており、全員ではないものの、天才と呼ばれる人の多くには家庭教師がいたことに気づいたといいます。草野さんが「ダメだ私は」と笑うと、宮武さんは昔と今の家庭教師は違うと続けました。
高校・中学・大学の受験のための、テストテイキングのスキルアップが目的
貴族が特定分野のエキスパートを呼び、子どもと常に話し合う場を作った。教えるだけでなくエンゲージメントがあった
宮武さんが挙げた例は、16歳まで学校に通わず家庭教師から教育を受けたバートランド・ラッセル ── イギリスの哲学者・数学者・論理学者。20世紀を代表する知識人の1人で、ノーベル文学賞も受賞しています、16歳で家庭教師をつけたチャールズ・ダーウィン、父親が家庭教師だったカール・マルクスです。アインシュタインにも複数のチューターがいて、叔父が代数学を、別のチューターが幾何学を教えたといいます。
草野さんが「裕福だったことは関係ないのか」と尋ねると、宮武さんは家庭教師を雇える人がアドバンテージを持っていたのは実際にあったはずだと認めました。
そういうその大人の人たちと、そのエキスパートな大人と子供が話す時間って、今ってあんまりないじゃないですか。
今の子どもがエキスパートな大人と初めて出会うのは大学で、それも18歳ごろになってからです。全員にそうした環境を用意するのは難しくお金もかかりましたが、それをスケールできるのがようやく今の時代であり、AIの力を活用するタイミングだと宮武さんは話します。
AIは感情的なつながりまで作れるのか
宮武さんは、AIがここまでクリエイティビティを置き換えるとは思っていなかったと明かし、草野さんも同意します。GPT-3やDALL·E 2 ── OpenAIが開発した画像生成AI。文章で指示すると、それに合った画像を生成しますが絵を描き、知らない歌を作れることに驚いたといいます。
宮武さんが前年に驚いたのは、ジョー・ローガンさんとスティーブ・ジョブズさんが対談したらどうなるかをAIで生成したポッドキャストです。声も生成され、変な部分はあるものの、ときには本当にジョブズさんが言っていてもおかしくない会話になっていたといいます。
テンセントが1000曲以上のAIソングを出し、その1つが1億回再生されたという話も、Spotifyの番組Bytesで取り上げたそうです。知識の量でAIが人間を上回るのは不思議ではないが、感情的なつながりは作れないと思っていた、と宮武さんは振り返ります。
その代表例が、バーチャルなAI友達を作るチャットボットのReplikaです。共同創業者が亡くなった親しい友人と家族のテキストメッセージを集め、機械学習で本人のようなボットを作ったことがきっかけでした。
そのボットを家族などに提供すると、ユーザーはボットの話を聞くより、自分の話を聞いてほしがったといいます。ボットだからこそ変に思われず、逆にオープンになれる動きがあったそうです。
ReplikaではアバターがユーザーとのChatについて日記をつけていて、ユーザーはそれを覗き見できます。宮武さんは、この仕組みがより人間らしさを与えていると見ています。
親しい友達が減る時代と『クララとお日さま』
宮武さんがAI友達を重要だと考える理由の1つは、アメリカ人の孤独化です。1人で過ごす時間はコロナ前から長くなっており、親しい友達の数も減っているといいます。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1990年: 6人以上いる | 55% | 41% |
| 2021年: 6人以上いる | 27% | 24% |
| 2021年: 1人もいない | 15% | 約10% |
一方で、ソーシャルメディアでデジタルアイデンティティを持ち、匿名でも友達を作れたり、VTuberと友達になったりできる時代になりました。宮武さんは、人工的な親密関係をより作れる時代になったと話します。
草野さんはここで、カズオ・イシグロさんの小説『クララとお日さま』を思い出しました。子ども向けの「AF(人工友達)」が登場し、人間らしさとは何かがテーマになっている作品です。
草野さんによると、作中ではロボットだからこそ人がオープンになり、人には頼みにくい相談や仲介役をロボットが担っています。さらに、病弱な少女ジョジーが亡くなったときに備え、AFにジョジーを学習させて置き換えようとする家族の計画が描かれます。
だから何かを何か、まあロボットでも人間でも何かをリプレースされた時には、その愛したその側の気持ちはリプレースできないよねっていうのはなるほどなっていうのはそれ思いました。
作中でAFは、ジョジー本人にはなりきれても、ジョジーを愛する人の中にいるジョジーにはなれないと語ります。草野さんは、この点に納得したといいます。
AIユーザーで始まる「合成のSNS」
宮武さんは、置き換えられないという前提もどこかで変わる可能性があると考えています。リアルで会えば差がわかっても、匿名のバーチャル世界やメタバースでは区別がつかないかもしれないからです。
宮武さんが例に挙げたのは映画『フリー・ガイ』です。ゲームのNPCがAIを組み込まれて本物のキャラクターのように動き出し、周りの人はそれがAIだと気づきません。
そこから宮武さんが描くのが「合成のソーシャルネットワーク」です。次世代のTwitterでは、フォロワーの一部がAIで、しかも区別されずに1ユーザーとして扱われるかもしれません。
AIがユーザーになりきる
最初の100人ほどをAIで集め、普通にツイートや反応をさせる
コンテンツが生まれる
AIが投稿を生成し、ネットワーク効果ができる
人間が参加する
最初から交流相手とコンテンツがある状態で始められる
草野さんは「AIのサクラのようなものか」と確認し、宮武さんはそのとおりだと答えます。SNSの立ち上げで大変な最初のユーザー集めや、人がいなくて寂しいというメタバースの問題が、解決されるかもしれません。
なんでAIだろうが人間だろうが、友達として同じように扱う。
宮武さんは、次世代のソーシャルメディアが人と興味をマッチングするマーケットプレイスではなく、コンテンツやAIユーザーを生成するサービス体験になる可能性もあると話しました。
体験したユーザーが泣くAI家庭教師
ここまでの話を踏まえ、宮武さんは教育で次に革命を起こすのはAIチューター、つまりAI家庭教師だと話します。前年に宮武さんは、初めて使うユーザーの多くが体験後に感動して泣くサービスを見た、というツイートをしていました。
そのサービスこそAIチューターだったといいます。まだステルスの会社なので社名は明かせず、宮武さん自身も体験はしていないものの、実証実験の結果は見ています。
実験では、普通の授業を受けた学生、人間のチューターに教わった学生、AIチューターに教わった学生を比べました。成績などの面で、AIチューターは宮武さんが「個人的にありえないレベル」と感じるパフォーマンスを出したそうです。
さらに重要なのは、学生が泣いた理由が成績だけではなかったことです。AIチューターが本当に自分をケアし、気にかけ、成功させたいと思ってくれていると学生が感じたのだといいます。
これを安いコストで世界中の生徒に届けられるなら、世の中は本当に変わると宮武さんは話します。草野さんも、リリースされたら気になると関心を示しました。
AIを禁止せず、宿題を作り直す
最後に宮武さんは、今の先生が明日からどう宿題を出せばよいかを考えます。エッセイを課しても学生がGPT-3で書いてしまえば意味がなく、学生は必ずAIを使うので、それを受け入れて宿題の考え方を変えるべきだという立場です。
宮武さんが挙げた例は、化学の授業で光合成を学んだあと、「エイリアンが光合成を使って地球を支配するストーリー」をGPT-3に書かせる課題です。そのストーリーが本当に光合成の仕組みに沿っているかを子どもたちが議論するには、光合成をきちんと理解していなければなりません。
宮武さんは、学生は賢く、成績のためならいろいろな手段を使うので、AIを禁止しても止められないと話します。短期的には授業でうまく活用し、長期的にはAIが教育をどう根本から変え、子どもの好奇心をどう育てるかが重要になる、というのが今回の結論でした。
草野さんは、教育に携わる人の意見も聞いてみたいと話します。宮武さんも理論上の話であり、1つの学校や1人の先生にできることは限られるかもしれないとしたうえで、特に親として学校のシステムを根本から考え直すことが重要だと締めくくりました。
まとめ
この回は、AI投資ブームの話から始まり、大学の価値への疑問、ChatGPTの弱点、好奇心を育てる家庭教育、AI友達、そしてAI家庭教師へと話が進みました。宮武さんが一貫して語っていたのは、AIを禁止するのではなく、AIを前提に教育を根本から考え直す必要があるという点です。
- 学費が高騰したアメリカの大学は、投資というより「保険」やステータスを買う場所になっているのではないかと問いかけている
- ChatGPTは確率的に「それっぽい」答えを出すため、最後の数%の精度に課題があり、重要な判断はまだ任せられない
- Stripeのコリソン兄弟の親は、世界を見せ、自由を与え、興味を持った瞬間に深掘りの機会を探した
- 天才の多くには対話型の家庭教師がいた。その体験をスケールさせる手段として、AIチューターに期待している
- 学生がAIを使うことは止められないので、AIの誤りを探させるなど宿題の設計そのものを変えるべきだと提案している





