MrBeastの裏方、Night Mediaとは何者か?
Night Mediaは、MrBeast、Dream、HasanPiker、Unspeakableなど、アメリカのYouTube業界を代表するクリエイターを担当するタレントマネジメント会社です。宮武さんは、この会社を「次世代タレントマネジメント会社っぽい」存在だと見ています。
Night Mediaはアメリカのクリエイター業界では名前が知られていますが、一般の人にとっては裏方の仕事です。草野さんは「超有名YouTuberの裏側を担当してる人みたいな感じ」と受け止めています。
宮武さんがこの回を企画した背景には、11月に開催するOff Topicのイベントがあります。イベントにはNight Media社長のリード・ダクシャーさんを招いて一緒に登壇する予定で、事前にリードさんのストーリーを紹介しておくことで、当日はより深い議論をしたいという狙いがあります。
NightMediaのストーリーってリードさんのストーリーなので、リードさんがどういうふうに、そもそもYouTubeを知ったかっていうところと、このタレントマネジメントにどうやって入ったかっていうところについて話していきたい。
NFLを諦めたアメフト選手は、なぜスポーツエージェントを目指したのか
リードさんはもともとアメフト選手でした。ノースダコタ州の小さめの高校で州選抜に選ばれるほど活躍し、アメリカのプロリーグであるNFL ── アメリカのプロアメリカンフットボールリーグ。世界で最も人気と収益規模の大きいプロスポーツリーグの一つとして知られますを目指して大学でもプレーを続けました。
ところが大学1年生のころ、リードさんは周りにいた将来プロになる選手たちと自分の体つきの違いに気づき、NFLは遠いと悟ります。
「あ、ダメだ」と。「NFLはちょっと遠い」と。
それでもアメフトを続けたリードさんは、3年生になって「人生これからどうすればいいのか」と悩み始めます。スポーツ関連の仕事として栄養士の授業も取りましたが、本人には面白くなかったそうです。
転機は、大学の卒業要件だったインターンシップでした。アメフトの大学オールスターゲームを見に行った際にスポーツエージェントと出会い、リードさんはスポーツエージェントという道があることを初めて知ります。
このエージェントはNFLの有名選手を担当する人ではなく、弱小校で他のスカウトが見過ごした面白い選手を見つけるタイプの人でした。リードさんはこのエージェントのもとでインターンを獲得し、ニューヨークの大学院に通いながら、ニュージャージーにいたエージェントのもとで1年から1年半ほど業界を学びます。
ロビーで待ち伏せ、それでも開かなかった扉
スポーツエージェントにフルタイムで採用されるのは非常に難しいと、宮武さんは話します。VC業界と同じく募集が公開されておらず、ほぼ関係性だけで入る世界だからです。
インターン先は小さく採用をしていなかったため、リードさんは大手を目指しました。大手スポーツエージェントの多くがあるラスベガスへ、LAに住みながらほぼ毎週、少なくとも2週間に1回は数時間かけて車で通ったといいます。
訪問先はCAA ── ハリウッドを代表する大手タレントエージェンシー。俳優やミュージシャンに加え、スポーツ選手のマネジメントも手がけていますやEndeavor、Rep1 Sportsといった有名どころでした。リードさんは履歴書をラミネート加工し、オフィスのロビーに座ってエージェントが出てくるのを待っていました。
ノースダコタ州出身のリードさんには業界の繋がりがまったくなく、メールも基本的に無視されていました。ロビーでは秘書にミーティングの有無を聞かれ、「ない」と言うと追い出されると学んだリードさんは、嘘をついて粘ったそうです。
嘘ついて、「あ、あります」みたいな。で、「何時から?」みたいなこと聞かれて、「いや、なんかこの人と何時からです」って言ったら、「なんかスケジュールに入ってないんですけどね」みたいな。
結局、ほとんどのロビーから追い出されたリードさんがスポーツエージェントになれたのは、待ち伏せではなく紹介のおかげでした。ラスベガスで紹介を受けたエージェントとランチをし、どうしてもなりたいと伝えて採用されます。
コールドコールで身につけた「ゼロからの親しみ」
リードさんがスポーツエージェントの仕事で一番学んだのは、コールドコール ── 面識のない相手にいきなり電話をかけて営業すること。日本でいうテレアポに近い手法ですだと話していたそうです。
リードさんの仕事の一部は、いろいろなブランドに電話をかけて「こういうアスリートを代表している」と説明することでした。相手とはゼロからの関係なので、そこでいかに親しみを生み出すかが問われます。
ゼロからの関係性でも、あの親しみを作り出す。そういうスキルセットを学んだっていうのは言ってましたね。
草野さんも「営業がうまい人っていますもんね」と応じ、宮武さんは距離感や話し方の重要さを挙げます。リードさんは多くの失敗を重ねながら、このスキルを身につけたと考えられます。
Dude Perfectとの出会いと、7歳と10歳のいとこの反応
リードさんがYouTubeの世界に入るきっかけはTwitterでした。担当するNFL選手がTwitterを使い始めたため、リードさん自身も2014年の初旬から中旬ごろに使い始めます。
そのTwitterでリードさんが見つけたのが、スポーツのトリックショット動画で知られるYouTuberグループのDude Perfectです。現在の登録者は6000万人ほどですが、2014年当時は200〜300万人で、それでも当時としては非常に大きな存在でした。
ちょうどDude Perfectがアスリートとのコラボ動画を出していたため、リードさんは自分のクライアントも出演できないかと考え、コールドメールを送ります。10分後に返信が来て電話をしたものの、その案件はうまくいきませんでした。
ただ、このやり取りがリードさんにとってYouTubeを知るきっかけになりました。大学時代はアメフト一筋でYouTubeをほとんど見ておらず、面白いプロモーションの場があることを初めて理解したといいます。
リードさんが「5年後にアテンションはここに来る」と確信したのは、当時7歳と10歳だったいとことの会話でした。事務所が抱えるリチャード・シャーマンやバリー・サンダースといった殿堂入り級の選手の名前を出しても、いとこたちはまったく知りませんでした。
ドゥードパーフェクト知ってる?って聞いた瞬間の、あの、その7歳と10歳いとこのリアクションがやばかったらしくて。
その1か月後ほどで、リードさんはスポーツエージェントを辞めます。当時、人気トップのPewDiePieの登録者が2000万人ほどでしたが、リードさんはDude Perfectならそれを超えられると考えたそうです。
NFLの殿堂入り級スター選手こそが影響力の中心だと考え、スポーツエージェントとして働いていた
子どもたちのアテンションはDude PerfectのようなYouTuberに向かっていると理解し、1か月ほどでエージェントを辞めた
まだ誰もスポンサーをしなかった時代の売り込み
2014年当時のYouTubeチャンネルは、グッズ販売もスポンサーもほとんどやっておらず、アドセンス ── Googleの広告配信サービス。YouTubeでは動画に流れる広告の収益の一部がクリエイターに分配されます以外の売上がない状態でした。Dude PerfectもTシャツすら売っていなかったといいます。
リードさんはDude Perfectと契約を結ばないまま、ブランド案件を見つける役割を担いました。案件を勝ち取ればそのパーセンテージをもらう形で、価値を出さなければ雇ってもらえない立場だったと宮武さんは説明します。
難しかったのは、ブランドにまず「YouTubeというものがある」と説明するところから始めなければならない点です。当時、YouTubeにお金をかけるといえば、プレロールやミッドロールなどの動画広告をYouTube経由で運用するのが普通でした。
プレロールやミッドロールに広告を出し、YouTube経由で運用する。クリエイターに直接お金は払わない
クリエイターの動画そのものをブランドが直接スポンサーする。当時は概念自体の説得が難しかった
草野さんの質問に対し、宮武さんは、ブランドと直接交渉するエージェント的な存在は当時もいたと答えます。ただ、MCNやマネージャーがつくクリエイターはそれほど多くなく、そもそもYouTube予算を持たないブランドも多かったそうです。
Callawayのゴルフ動画は、なぜレアな成功例になったのか
リードさんはDude Perfectの動画を見るなかで、バスケやアメフト、野球のコンテンツは強いものの、ゴルフとサッカーの動画が少ないことに気づきます。ゴルフは競技人口の平均年齢が上がり始めており、ブランドは若い層にアピールしたいのではないかと考えたのです。
リードさんはDude Perfectにゴルフコンテンツを提案し、同時にCallaway Golf(現在のTopgolf Callaway)のスポンサーを獲得しました。大きな理由は、Callaway GolfのCMOの子どもがDude Perfectを知っていて、とても喜んでいたことだったといいます。
この案件は、動画の形としても当時珍しいものでした。よくある30秒の読み上げ広告は一切なく、動画はふだんのDude Perfectのトリックショット動画そのものです。
使われる商品はすべてCallaway製で、撮影場所もCallawayの施設でした。最後にメンバーが、Callawayがスポンサーであることと、Callawayのサイトで特別映像が見られることを伝えるだけだったそうです。
この動画Callawayがスポンサーしてくれて、で、なんか、実は特別な映像もCallawayのサイトに行けば見れるんですよっていうのを言って、それだけだったんですよ。
当時のDude Perfectは1本あたり500万〜600万回の再生があり、Callawayはこの動画に対して数千万円、おそらく1000万円以上を払ったと宮武さんは話します。
MCNはなぜ「マネージャー」と見なされなかったのか?
草野さんは、リードさんの動機は才能の発掘なのかと尋ねます。宮武さんは、最初のモチベーションはYouTubeにアテンションが向かうと理解したことで、途中から育成願望のようなものも出てきたかもしれないと答えます。
クリエイターと会うなかで、リードさんはマネージャー役がほとんどいないことに気づきました。当時はMCN ── マルチチャンネルネットワーク。複数のYouTubeチャンネルと提携し、営業や収益化、コラボなどを支援する事業者ですのMaker、Fullscreenなどが一部マネージャー的な役割を担い、それ以外は友人や叔父、親がマネージャー代わりになるケースが多かったそうです。
MCN側は自分たちをマネージャーだと認識していましたが、クリエイター側はそう見ていませんでした。宮武さんによれば、違いはオペレーションへの関与の深さと、1対1の関係かどうかにあります。
| 存在 | 主な役割 | クリエイターとの関係 |
|---|---|---|
| MCN | 営業や収益化、コラボを複数チャンネルに提供 | 1対1ではなく、マネージャーとは見られなかった |
| マネージャー | 詳細なオペレーションまで関与 | 1対1で深く関わる |
| エージェント | ブランド案件の獲得など | デジタル領域ではマネージャーと同じ人が担うことが多い |
最初のクライアントTypical Gamerと、ゲーム領域からの出発
リードさんはDude Perfectと仕事をしながら、Justin.tvで配信するゲームクリエイターたちとも会っていました。2015年ごろ、何人かがJustin.tvから当時新しかったYouTube Gamingへ移行し始めていました。
その一人であるTypical Gamerが、Night Mediaとしての最初のクライアントです。当時の登録者は40万人ほどでした。草野さんがDude Perfectはクライアントではなかったのかと聞くと、宮武さんは、提携ではなく「ほぼ従業員」としてブランド案件を取りに行っていたと説明します。
Night Mediaは初期にはゲーム領域が強く、2017年にはMinecraft系クリエイターのPrestonと契約しました。Prestonの登録者は現在2500万人ほどですが、リードさんが会ったときは200万人ほどでした。
初期に提携したクリエイターは登録者100万〜300万人ほどで、ほぼ全員が数年で1000万人を超えたといいます。リードさんが契約したクリエイターは、たまたま全員が紹介経由でした。
「絶対会うべき」と紹介されたMrBeastは何を見せたのか
あるとき、リードさんと親しいクリエイターがTwitterのDMで「まだ小さめだが絶対に会うべきクリエイターがいる」と紹介してきます。それが、MrBeastことジミーさんでした。
当時のジミーさんは登録者150万人ほどでしたが、1本あたりの再生回数は100万〜200万回ありました。登録者数より多い再生を取るのはかなりすごいことだと宮武さんは話します。
一方、リードさんは当初、ジミーさんが大きなクリエイターになるかはわからないと感じていました。当時一番バズっていたのは、ほぼ24時間かけて1から10万まで数える動画で、それが何度も再現できるとは思えなかったからです。ただ、動画作りがとても好きそうな点には惹かれ、2018年2月に話をすることにします。
当時のジミーさんのチームは、本人、現在はタレントとして活動するクリスさん、編集者、そしてジミーさんの母親の4人でした。母親は今も会社で会計まわりを担当しているそうです。
今年のまあ2018年の年末までの目標があります」と。で、「これは絶対いけます」と。「絶対1000万人の登録者いきます」と。
ジミーさんが自信の理由として見せたのは、自作の図でした。クリックされる割合であるCTR、平均視聴時間を示すAVD、再生数の3つをマッピングしたものです。
そのうえでジミーさんは、達成にはお金が必要なので、スポンサーシップの資金を取ってきてほしいとリードさんに求めました。草野さんはこれを「起業家的ですね」と評します。
だからリードさんに「スポンサーシップのお金を取ってくれ」と。「だから提携したいです」と。
リードさんは面白いとは感じつつ、1000万人は無理だろうと考えていました。それでも3〜4か月話し合い、面白い人だったため契約します。2018年末、ジミーさんの登録者は1360万人に達していました。
50Kのスポンサー料を全額Ninjaに渡した動画
リードさんが関わり始めて2本目の動画で、クーポンを表示するテック企業Honey ── ブラウザの拡張機能として使えるクーポン自動適用サービス。オンラインショッピング時に割引コードを探して適用しますから5万ドル、日本円で600万〜700万円ほどのスポンサー料を獲得しました。
ジミーさんはその全額を次の動画に注ぎ込みます。フォートナイト配信者として有名なNinjaの、寄付を集めるライブ配信に5万ドルをすべて投じるという企画でした。
リードさんがジミーさんを「別格」だと確信したのは、企画のアイデアではなく、冒頭へのこだわりを見たときでした。
この動画が公開された日は、おそらく今でもHoneyが最もダウンロードされた日だと宮武さんは話します。
一方で、ジミーさんのマネージャーには変わった依頼も届きます。実際にあった例として、2か月後に動画のための無人島が欲しいというリクエストがあったそうです。
マネージャーは「見つけたお金」だけをもらう
草野さんは、無人島の手配のようなサポートも契約に含まれるのかと尋ねます。宮武さんによると、オペレーションまわりは基本的に契約に記載がなく、それも仕事の一部として担っているそうです。
Night Mediaをはじめ最近のタレントマネジメント会社は、英語で「found money」と呼ばれる仕組みをとっています。エージェントが見つけてきたお金だけを分配する方式で、Honeyの案件ならその10〜20%ほどを受け取るイメージです。
そのためアドセンス収益は受け取りません。リードさんたちは、自分たちが価値を提供した部分にだけお金をもらいたいと考えているそうです。
Minecraftサーバーが示した「持続可能な事業」
現在のNight Mediaのビジョンにつながるきっかけは、2017年に契約したMinecraftクリエイターのPrestonでした。リードさんはMinecraftで遊んだことはあったものの、そのエコシステムはよく知らなかったといいます。
Minecraftには、クリエイターが自前のサーバーを立ち上げてアクセス権を販売したり、マップを売ったりと、さまざまなマネタイズ手法があります。Prestonはそうした事業を伸ばすために、YouTubeブランドを育てていました。
これを見たリードさんは、サーバー事業のようなビジネスはクリエイターにとって持続可能な事業になり得ると考え、それが可能になる時代が来ると理解したそうです。
影響と信頼は「公共機関→企業→個人」へ
Night Mediaの社内でよく使われるスライドに、影響と信頼が時代とともにどう移ってきたかを示すものがあります。
この流れを踏まえると、個人やクリエイターに向かう影響と信頼のうえに、きちんと事業を作れるかが重要になると宮武さんは話します。
タレントマネジメントは次の事業への「ウェッジ」
従来のタレントマネジメントは、タレントと契約し、主にブランド案件を獲得してビジネス化を手伝う仕事でした。コストがあまりかからないため、キャッシュは多く入ってきます。
CAAなど従来の会社は、タレントを増やしてキャッシュを集め、どんどん大きくなる道を選んできました。Night Mediaはそれとは違い、タレントマネジメントを次の展開へのウェッジ ── くさびの意味。ニッチな領域から参入して足場を固め、より大きな事業や市場へ広げていく戦略を指しますと位置づけています。
宮武さんは例としてUberを挙げます。Uberはプレミアムなブラックカーサービスから始め、今では大きな配車サービスや配達まで広がっています。
ハリウッドのエコシステムにいなかったリードさんにとって、俳優やミュージシャンとの契約は大手が強く難しい領域でした。一方、YouTuberなどデジタルクリエイターは、リードさん自身が一緒に育ってきたエコシステムです。
そこでNight Mediaは、スタートアップスタジオとVCを次の展開に選びました。過去のセレブがビタミンウォーターなどの商品で大きくなったように、クリエイターと一緒に事業を作ることが長期的に最も大きくなる手法だと気づいたからです。
タレントマネジメント
コア事業としてキャッシュを稼ぐウェッジ
スタートアップスタジオ
クリエイターがオーナーシップを持つ事業を一緒に作る
ベンチャー出資
エクイティを取得し、アップサイドにつなげる
現在のNight Mediaは60人ほどのチームで、VCチームは3人、スタジオチームは6人ほどです。大半はコア事業のタレントマネジメントを担い、タレントマネージャーの下にジュニアマネージャーやアシスタント、コーディネーターがつく「ポッド」1つで、5〜7人のクリエイターを担当しています。リードさんは今はMrBeastとFeastablesに専念しているそうです。
Feastablesはなぜチョコレートを選んだのか?
MrBeastのお菓子ブランドFeastablesは、Night MediaのスタートアップスタジオNight Labsが立ち上げたもので、Night Mediaも株を持っています。
チョコレートを選んだ理由として、宮武さんは3つを挙げます。市場規模がとても大きいこと、2021年のローンチが『チャーリーとチョコレート工場』の50周年に重なったこと、そして大手がハーシーズ1社で、敵が明確だったことです。
スタートアップスタジオではCEO探しが難しいとされますが、Night Labsでは思ったほど難しくないそうです。ゼロイチのマーケティングをクリエイターが担ってくれるため、CEOが乗ってくれやすいといいます。
ただやっぱりゼロイチのマーケティングはクリエイターがやってくれるので。
CEOの採用時には、キャッシュと4年間のベスティング ── 株式などの権利を一定期間をかけて段階的に付与する仕組み。早期退職を防ぎ、長く働く動機づけになります付きの株を提示し、Night Mediaは立ち上げと同時に最大100万ドルほどを出資するそうです。
ウォルマート4600店舗が生む「在庫とキャッシュ」の壁
クリエイターブランドならではの課題が在庫です。普通のD2Cブランドが卸先を探すと、小売店は知らないブランドなのでまず数店舗で検証し、注文も少なくなります。
Feastablesの場合は、最初からウォルマートが全4600店舗でのローンチを提案し、600万〜800万ドル分の在庫注文が来ました。その在庫を先に作るために、キャッシュが先に出ていきます。
小売店は数店舗で検証から始めるため、注文は少ない
ウォルマートが全4600店舗でローンチ。600万〜800万ドル分の注文が来て、在庫のためのキャッシュが先に必要になる
Feastablesが最初に資金調達をしたのも、在庫を作るためでした。調達で作った400万本のチョコレートバーは45日間で売り切れ、次の注文のためにまたキャッシュが必要になったといいます。
オーナーシップを持つクリエイターは何が違うのか
リテール事業に常につきまとうキャッシュの課題はあるものの、リードさんはクリエイターブランドの大きなメリットとして、オーナーシップの有無による違いを挙げています。クリエイターのモチベーションがまったく違うというのです。
草野さんも、プロデューサーのような役割や肩書きだけのクリエイティブトップはなかなかうまくいかないと応じます。
MrBeastがゲームアプリ「Finger on the App」を出したときも、ジミーさんの反応は明らかに違ったそうです。周りの全員にダウンロードを勧め、Twitterでフィードバックが来ると自ら返信していました。
ただし宮武さんは、それは本人がモチベーションや野望を持っていればの話だと留保をつけています。
トップYouTuberに必要なのは「制作会社」
Night Mediaは、次のブランドはクリエイターや個人が作ると考えており、それに合わせたマネジメントが必要だとしています。
トップYouTuberを目指すなら、編集者を雇うだけでは足りず、制作会社を作らなければならないと宮武さんは話します。編集やサムネイル制作、ロジスティクスを人に任せながら、自分の動画をどう良くするかを考える必要があり、それに対応できるマネージャーが求められます。
じゃあ一番最初のクリエイターは動画とか自分の何かを作り続けた方がいいってことなんですかね。
宮武さんの答えは「動画を作り続けた方がいい」でした。後継ぎの問題は別にあるとしつつ、動画を作るのはクリエイター本人であるべきで、制作会社を整え、起業家精神があればそれに加えて持続可能な事業を作るべきだとしています。
Night Mediaが契約したいクリエイターの条件とは
Night Mediaには理想とするクリエイターの要素が5つあり、ほぼ公開されていません。宮武さんも全部は知らず、リードさんから聞いた2つだけを紹介します。
1つ目はニッチ領域のトップを見ることです。例えば2021年はフードやアートがその領域で、そこでのトップYouTuberと契約していたそうです。
2つ目は、クリエイターではなく起業家と契約したいという点です。MrBeastも起業家らしかったことが大きく、コンテンツ以外のこともしっかり考えている人と組みたいといいます。
台本ありの道徳ドラマ「Dhar Mann」の驚き
リードさんが意外に大きなオペレーションを回していると驚いたのが、ダーマンのチャンネルです。登録者1900万人ほどで、YouTubeでは最大の台本ありチャンネルだと宮武さんは話します。
ダーマンの動画は、嘘をついてはいけない、人を騙してはいけないといった道徳的な学びを、台本ありのストーリー仕立てで見せるものです。台本ありの動画は非常に手間がかかりますが、それを毎日アップロードしているといいます。
1本あたり200万〜500万回の再生がないと黒字化できず、ライターや監督、セットも必要です。同じ役者が登場したり、学校のセットなど自前のスタジオを持っていたりと、毎日更新を支える制作会社を作り上げた点がリードさんには驚きだったそうです。
気象予報士、農家、ガーデニングは事業になるか
宮武さん自身が面白いと思ったのが、元気象学者のYouTuber、ライアンホールヨルです。登録者は160万人ほどで、台風の時期の注意点など天気を伝える動画が1本200万〜300万回再生されています。
宮武さんは、アメリカの天気予報ビジネスであるWeather Channelが年間5億ドルほどの売上を持つことを挙げ、その領域を取りに行けるのではないかと見ています。
農家系のクリエイターも増えています。アメリカの南部や中部で、農家の人が農家仲間にいたずらを仕掛けるような面白系の動画やVlogを出しており、あまり見たことのないコンテンツで、農家の人たちも見てくれるといいます。
ガーデニング系のEpic Gardeningは登録者260万人ほどで、テキストのブログから始めてYouTubeへ広げ、今はプランターなどをECで販売しています。2021年の売上は750万ドル、約10億円で、今年は3000万ドルを見込んでいるそうです。
ポケモンカードのクリエイターLeonhartは、提携先とともにカード売買のマーケットプレイスRare Candyを作っています。
| クリエイター | ジャンル | 事業の広がり |
|---|---|---|
| ライアンホールヨル | 天気・気象 | 天気予報ビジネスの領域を取りに行ける可能性 |
| Epic Gardening | ガーデニング | ECでプランターなどを販売し、2021年に750万ドル |
| Leonhart | ポケモンカード | カード売買のマーケットプレイスRare Candy |
高圧洗浄や絨毯掃除の動画が「次の事業」になる
何十億円規模にはならなくても、個人なら数億円のビジネスになり得る例として、宮武さんはTikTokで見かける高圧洗浄や芝刈り、蜂の巣退治の動画を挙げます。
こうした事業は小さな個人経営から始まり、TikTokでバズって依頼が増え、人を雇い、その様子もコンテンツにしていきます。クリエイターによっては月に300万〜400万円ほど稼いでいる人もいるそうです。
個人で始める
高圧洗浄や芝刈りなど小さな事業をコンテンツにする
バズる
TikTokで話題になり依頼が増える
人を雇う
事業が大きくなり、その様子も発信する
収益化
月300万〜400万円ほど稼ぐクリエイターも出てくる
草野さんは、ASMR動画から入ってかわいいスライムを販売する人をTikTokで見かけると、うまいと感じると話します。宮武さんも、絨毯を綺麗にする動画や、古びたナイフのサビを落とす動画をつい見てしまうといいます。
TikTokとかでたまにスライムの販売とかしてる人見ると、なんていうか、いいなと思いますよね。
クリエイタービジネスは本当にワークするのか?
宮武さんがNight Mediaのすごさとして挙げるのは、YouTuberを単なるコンテンツクリエイターではなく、次世代の起業家として見ている点です。
一方で、クリエイター事業が本当に成り立つのかは今も議論されています。ゼロイチはできても、人気であり続ける1から100の段階でつまずくクリエイターも多く、まだノンコンセンサスな事業だと宮武さんは話します。
そのなかでNight Mediaは、タレントマネジメントをウェッジにしてキャッシュを稼ぎつつ、エクイティを取得してアップサイドを狙います。クリエイター側もエクイティを欲しがっていることを理解し、FeastablesやJuice Blox、Rare Candyなどの会社を作ってきました。
宮武さんは、Off Topicが過去に話したスタートアップスタジオとエクイティの話をうまく象徴しているのがNight Mediaだと見ています。だからこそ、リードさんがどうクリエイタービジネスを作り、どんなリスクを考えているのかを聞きたくて、11月のイベントに招いたそうです。リードさんにとっては初来日になります。
まとめ
Night Mediaの歩みは、アメフト選手からスポーツエージェントを経て、子どもたちのアテンションの行き先に気づいたリードさんの物語そのものです。MrBeastとの出会いやFeastablesの立ち上げを通じて、Night Mediaはタレントマネジメントを足場に、クリエイターと事業を作る会社へと進んでいます。
- リードさんはいとこの反応から、アテンションがYouTuberに向かうと確信し、スポーツエージェントを辞めた
- MrBeastは指標を理解したうえで「資金が必要」と提携を求める、起業家的なクリエイターだった
- Night Mediaはタレントマネジメントをウェッジに、スタートアップスタジオとVCへ事業を広げている
- クリエイターブランドは在庫とキャッシュの課題がある一方、オーナーシップがモチベーションを大きく変える
- 天気や農家、高圧洗浄など、ニッチなコンテンツから次の事業が生まれつつある





