コンテンツとマーケティングの未来 ── デビアーズの教育から、AI時代の「プロセス」戦略まで
Off Topicの草野ミキさんが復帰し、宮武テツローさんと共に「現代のマーケティングトレンド」を深掘り。過去に消費行動を塗り替えたデビアーズの事例から、TikTokによる「検討時間」の短縮、そしてAI時代の信頼を勝ち取る「プロセスマーケティング」まで、今の時代に成功するためのヒントをまとめます。
「ダイヤモンドは永遠に」が作った消費行動の歴史
マーケティングの極致は「消費行動そのものを変えること」にあります。その代表例として挙げられたのが、ダイヤモンド大手のデビアーズかつて世界のダイヤモンド原石供給の約9割を支配していた企業。1940年代からの巧みなマーケティングにより、「婚約指輪=ダイヤモンド」という文化を世界中に定着させた。です。1940年代、ダイヤモンド入りの婚約指輪は市場のわずか10%程度しかありませんでした。しかし、デビアーズが数十年にわたって行った「教育(洗脳)」によって、1990年代にはその割合が80%にまで跳ね上がりました。
感情価値の紐付け
「ダイヤモンドの大きさ=愛の深さ」という概念を、セレブやメディアを通じて若者に刷り込む。
ルールの創造
「婚約指輪は給料の3ヶ月分」といった具体的な基準をキャンペーンとして打ち出す。
ブランドを出さない
特定の商品ではなく「ダイヤモンドを持つ感情的価値」だけを訴求し、広告色を排除した。
このように、一つの業界全体のインフラを握りながら、ブランド名を押し出さずに「カルチャー」を作る戦略は、現代のマーケティングにおいても極めて強力な手法といえます。
1日222本の動画を消費する時代 ── 求められる「検討時間」の攻略
現代のユーザーがどれほど過酷な情報環境にいるかを示す、驚くべきデータがあります。ワシントン・ポストの調査によると、TikTokユーザー(中央値)は、半年間でなんと4万本もの動画を視聴しているといいます。これは1日平均222本という膨大な数です。
宮武さんは、この状況を「集中力が落ちているのではなく、検討時間が落ちている」と分析します。
興味があるチャンネルをじっくり選び、一定時間視聴する(長い検討時間、安定した視聴)。
冒頭3秒で「アリかナシか」を瞬時に判断。良いと思えば10分でも見るが、ダメなら即スクロール。
この「検討時間」の極端な短縮により、コンテンツの作り方は「冒頭でいかに引き込めるか」がすべてとなる、より過酷な競争環境に突入しています。
フォロワーの終焉と「会話」を求めるクローズドSNSの台頭
SNSの使い方も大きく変化しています。これまでの「公開された場所でフォロワーに発信する」スタイルから、「クローズドな場所で会話を楽しむ」スタイルへのシフトが進んでいます。背景にあるのは、アルゴリズムの進化による「フォロワーの概念の消失」です。
XでもInstagramでも、投稿してもフォロワーに届かないじゃないですか。プラットフォームがTikTok化する中で、フォロワーっていう概念を捨て始めているんです。
このフォロワー・リーチの低下を補うために、ブランドやクリエイターが注目しているのが、ダイレクトに届くチャネルです。
ニュースレター配信プラットフォーム。広告やアルゴリズムに邪魔されず、コアなファンへ直接コンテンツを届けることができる。アメリカでは著名アーティストやハイブランドも参入し、高エンゲージメントを維持する手段として再注目されている。
リーチ(数)を追うのではなく、親密度(インティマシー)を高めること。Snapchatで面白い動画を見つけ、それを友達とのDMでシェアして会話を始める……そんな「双方向のインタラクティビティ」が、今のユーザーが求めている体験の核となっています。
AIが「人の顔」をテンプレ化する ── 10億再生の衝撃とブランドリスク
AIコンテンツがリアルと見分けがつかなくなる中で、興味深い現象が起きています。OpenAIの動画生成AISora(ソラ)プロンプト(文字列)を入力するだけで、最大1分間の高品質な動画を生成できるAIモデル。物理法則の理解や質感の再現度が非常に高く、発表時は世界に衝撃を与えた。などの登場により、特定の人間の「顔」がコンテンツ制作の「テンプレート」になりつつあります。
例えば、有名インフルエンサーのジェイク・ポールがAIによる自分の顔の使用(カメオ)を許可したところ、わずか6日間で6,500本以上の動画が作られ、合計で10億再生を突破しました。彼は何もせずとも、AIによってフィードを「自分」で埋め尽くすことに成功したのです。
コンテンツ制作のコストがゼロに近づく一方で、ブランドは「何が真実か」を証明しなければならないという、新たな課題に直面しています。
本編より見られる「プロセス」の力 ── 信頼を築くBTS戦略
「何が本物か判別できない」時代だからこそ、人間らしいミスや努力が見えるBTS(Behind The Scenes)「舞台裏」のこと。映画や広告のメイキング映像などを指し、完成品に至るまでの苦労や失敗、撮影の工夫などを見せることで視聴者の共感と信頼を獲得する手法。、つまり裏方コンテンツの価値が急上昇しています。
YouTubeの事例では、5分の「完成された映画予告」よりも、20分の「その予告を作るまでのメイキング映像」の方が圧倒的に再生されるケースが増えています。
視聴者は、完璧なアウトプットよりも、そこに至るまでの「時間」「ケア」「努力」に対してリスペクトを払い、共感します。宮武さんはこれを「スペクタクル・マーケティング(派手な演出)」に対する「プロセス・マーケティング(過程の提示)」の台頭と呼びます。
日本でも、お寿司屋さんのカウンター越しに目の前で作る工程を見せるのって、まさに体験(コンテンツ)の一部ですよね。それをSNSで見せていないだけで、実は日本にもその素養はあるのかも。
今後は、撮影現場に「カメラマンを撮るカメラマン」が何重にも連なるような、プロセスをどこまで深掘りして見せられるかの競争がさらに加速していくかもしれません。
まとめ
マーケティングの未来は、単なる情報の拡散ではなく、いかにユーザーの「時間」と「信頼」を勝ち取るかにかかっています。
- 検討時間の短縮: 冒頭3秒が勝負。集中力ではなく「見るかどうかの判断」が高速化している。
- フォロワーの消失: アルゴリズム主導の現在、Substackなどのダイレクトチャネルが重要。
- 顔のテンプレ化: AIにより有名人の顔を使った大量動画生成が可能に。リーチは広がるが管理は困難。
- プロセスのリスペクト: 完璧な完成品よりも、裏側の努力や苦労を見せる「BTS」が信頼の鍵となる。
