守屋貴行氏とAwwの紹介
守屋貴行氏は、バーチャルヒューマン3DCGとAIを組み合わせて生み出される架空の人物。SNSやイベントで活動し、実在のインフルエンサーのように振る舞う。を手がける企業Aww2017〜2018年に設立されたバーチャルヒューマンのパイオニア企業。代表的なIPに「IMMA(イマ)」がいる。の代表です。同社の代表的なIP「IMMA(イマ)日本発のバーチャルモデル。Instagramを中心に活動し、世界中で120万人以上のフォロワーを持つ。ファッションブランドとのコラボレーションでも知られる。」は、2017〜2018年にデビューし、現在120万人のフォロワーを抱えています。会社全体では30〜40体のバーチャルヒューマンを運用し、総フォロワー数は約300万人に達します。
守屋氏と宮武氏の出会いは、クリプト界隈暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン技術に関心を持つコミュニティ。2020年代初頭にNFTやWeb3といった概念が注目を集めた。でした。スーパープラスチック関連のイベントで知り合い、その後宮武氏はAwwの唯一の日本人アドバイザーとして参画しています。宮武氏が惹かれたのは、守屋氏が「日本のIPの良さやクリエイティブの強みを理解しながら、本気でグローバルに挑戦している」姿勢でした。
日本でアドバイザーやってるのって青野だけなんです。
宮武さんに戻したら、「青野しかやってない」って。ちょっとありがたいなって。
左脳と右脳、ビジネスとクリエイティブの掛け算
守屋氏の経歴は特異です。元々は映像制作のプロデューサーとして、サム・スミスイギリスのシンガーソングライター。グラミー賞を複数回受賞し、世界的なヒット曲を持つ。やジェイデン・スミスアメリカの俳優・ラッパー。ウィル・スミスの息子としても知られる。など、グローバルなアーティストのミュージックビデオを手がけていました。その後、マッチングアプリ「ペアーズ日本の恋活・婚活マッチングアプリ。株式会社エウレカ(現Match Group傘下)が運営。」を運営する企業で、ツービーサービス設計に携わりました。
この経験が、Awwの戦略に活きています。「右脳で生み出されたものを、左脳で回す」――つまり、感性的なIPを、ビジネスとして持続可能に運営する。この両軸を持つ起業家は、日本ではまだ珍しいと守屋氏は語ります。
また、日本ではビジネス界隈とクリエイティブ・アート界隈がなかなか交わらない現状についても言及しました。アメリカでは、ニューヨークのトレーダー金融街ウォール街で株式や債券を取引する専門家。高収入で知られ、文化的な活動にも積極的に投資する層がいる。がLAのラッパーとコラボレーションするといった文化交流が盛んです。日本でも近年ようやくその兆しが見えてきましたが、まだ本質的に掛け合っていないと感じるとのことでした。
IPのLTV――集中力と感動が鍵
IPのLTV(ライフタイムバリュー顧客生涯価値。一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益の総額。IPの文脈では、ファンが長期間にわたって作品やキャラクターに関わり続ける価値を指す。)を高めるには、「集中力」と「感動」が不可欠だと守屋氏は語ります。最近流行のショートドラマやSNS発のコンテンツは、視聴者の記憶に残りにくい。なぜなら、人々はスマホを見ながら、ながら見をしてしまうからです。
一方、映画館の大画面で2時間強制的に見る映画や、毎週決まった時間に読む週刊誌の連載漫画は、高い集中力を伴う体験です。この「緊張感」と「集中」が、IPとして定着する鍵になります。
また、ライブ配信リアルタイムで配信される映像コンテンツ。YouTubeやTwitchなどで視聴者とインタラクションしながら進行する。の流行も、この「集中と緊張」を取り戻す動きとして捉えられます。カイ・セナットアメリカの人気ストリーマー。Twitchで数百万人のフォロワーを持ち、24時間配信などの企画でも知られる。のようなインフルエンサーが支持されるのは、「今この瞬間しか見られない」という緊張感があるからです。
集中力と感動は結構大事だなと思ってて。
IPの段階とレイヤー
守屋氏は、IPには明確な「段階」があると語ります。SNSで数十万〜数百万のフォロワーを獲得するのは、ステップ1に過ぎません。その先、番組・ドラマ・漫画・音楽といった形でIP化するステップ2〜5が必要です。しかし、多くのクリエイターやインフルエンサーは、ステップ1で止まってしまっています。
さらに守屋氏は、鈴木おさむ放送作家・脚本家。「SMAP×SMAP」などの人気番組を手がけた。IP論についても積極的に発信している。氏の言葉を引用し、「IP、IPって言うけど、お前らIP作ってみろよ」という指摘に共感を示しました。本質的なIPとは、マルチメディア展開が可能で、長期的にファンを維持できるものです。
悪役の重要性とSNSの変化
宮武氏から「IPを作る上で悪役はどれくらい大事か?」と問われると、守屋氏は「めちゃくちゃ大事」と即答しました。悪役は必ずしもキャラクターである必要はなく、Appleのように「プライバシー侵害」を悪役に仕立てた例もあります。
ただし、IMMAの場合、明確な悪役は設定していないとのこと。当初はAIやSNSを悪役にすることも検討しましたが、時代の読みが難しく、実行には至りませんでした。
また、守屋氏はSNSそのものへの違和感も語りました。最近、InstagramやX(旧Twitter)を見ても「つまらない」と感じるようになったといいます。理由は、アルゴリズムを理解した投稿が増え、似たようなコンテンツばかりになったからです。
みんなエンゲージメントとかアルゴリズムって大体理解し始めたじゃないですか。小学生がこの間アルゴリズムって言ってたんで、多分みんなわかってると思うんですよ。
さらに、AIで生成されたコンテンツが溢れかえり、何が本物か分からなくなったことも一因です。その反動として、守屋氏はTSUTAYA日本のレンタルビデオチェーン。DVDや書籍を取り扱う。ネット配信全盛の今でも、物理的な「偶然の出会い」を楽しむ場として一部で人気がある。でDVDをレンタルするなど、アルゴリズムに頼らない発見を楽しむようになったといいます。
ボトムアップ vs トップダウン型IP
宮武氏は、クリプト時代に流行した「ボトムアップ型IP」(例:Bored Ape Yacht ClubNFTプロジェクト。購入者がキャラクターを自由に商用利用できる仕組みで人気を博した。)と、従来の「トップダウン型IP」(例:スタジオジブリ宮崎駿監督率いる日本のアニメーション制作会社。「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」など数多くの名作を生み出した。作品)の違いについて尋ねました。
ファンが自由に二次創作・商用利用。世界観は緩やか。
例:Bored Ape、一部のVTuber
一人または少数のクリエイターが世界観を厳密にコントロール。
例:ジブリ作品、漫画、映画
守屋氏の答えは明確でした。「最初から最後までトップダウン型だと思ってます。」理由は、**一般の人が本当に面白いものを作れるわけではなく、みんなが見たいのは「才能あるエゴ」だから**です。
さらに、純度の高いコンテンツは「百パーセント個人」で作られるべきだと主張します。チームで作る場合も、できるだけ個人に近い形が理想です。例えば、スーラージュフランスの抽象画家ピエール・スーラージュ。黒一色の絵画で知られ、「黒の画家」と呼ばれる。の真っ黒な絵画のような、個人の強烈なエゴが込められた作品こそが、最も強いとのことです。
マーケティング vs 世界観――日韓の対比
守屋氏は、韓国の大手音楽事務所の社長との対話を紹介しました。その会社は徹底的なマーケティングで世界的なK-POPアイドルを生み出しましたが、「消費率が非常に早い」という課題を抱えていました。10年前のグループのファンはほとんど残っておらず、次々と新しいグループに乗り換えられてしまうのです。
一方、日本では『スラムダンク井上雄彦による日本のバスケットボール漫画。1990年代に『週刊少年ジャンプ』で連載され、2022年に映画化。映画は世界的にヒットした。』の映画化(原作の最後の一冊だけを映像化)が世界中で1位を取り、X JAPAN日本のロックバンド。1980年代から活動し、国内外で熱狂的なファンを持つ。のような古いアーティストにも今なおファンがいます。これは、**個人が作り上げた世界観の強度**がもたらす違いです。
| 項目 | 日本 | 韓国 |
|---|---|---|
| 戦略 | 個人のエゴ・世界観重視 | マーケティング・データ分析 |
| メリット | 長期的なファン定着、高い強度 | 短期間で世界的モメンタム創出 |
| デメリット | 再現性なし、博打性高い | 消費が早い、ファン離れ |
守屋氏は、どちらが正解かは分からないとしつつも、日本の「再現性はないが、長く愛されるIP」の強さを再認識したと語りました。世界中の観光客が日本に惹かれるのも、この「日本人にしか作れない謎のもの」があるからかもしれません。
ただし、BLACKPINK韓国の4人組女性アイドルグループ。世界的に人気で、YouTubeやSpotifyでも記録を更新している。は例外的な存在だと指摘します。彼女たちを手がけるTeddy Park韓国のプロデューサー・作曲家。BLACKPINKの楽曲を多数手がけ、YGエンターテインメントからBLACK LABELを設立した。は、「K-POPという言葉が一番嫌いだ」と語ったといいます。BLACKPINKは、Teddy Parkの個人的なエゴと韓国のマーケティング力がタイミングよく融合した、稀有な成功例なのです。
日本の80〜90年代テレビの強さ
守屋氏は、日本の80〜90年代のテレビ文化が、現在のIPの土台を作ったと分析します。当時、日本には**たった5つのテレビ局しかなく**、新聞も5紙、そして週刊少年ジャンプ集英社が発行する少年向け漫画雑誌。『ONE PIECE』『NARUTO』『ドラゴンボール』など数々のヒット作を輩出。や週刊少年マガジン講談社が発行する少年向け漫画雑誌。『進撃の巨人』『はじめの一歩』などを連載。といった漫画雑誌が全国に行き渡っていました。
これは、**国民全員が同じコンテンツを共有する、極めて稀な環境**でした。この「共通話題」が、IPを育てる強固な基盤となったのです。さらに、任天堂日本の大手ゲーム会社。ファミコン、スーパーマリオ、ポケモンなどで世界的に知られる。のファミコンブームが加わり、全員が同じゲームを遊ぶ時代が訪れました。
また、守屋氏は当時のテレビ番組の質の高さにも言及しました。『風雲!たけし城1986〜1989年に放送されたバラエティ番組。一般参加者が巨大なアスレチックに挑戦する内容で、海外でも人気を博した。』や『進め!電波少年1990年代に放送されたバラエティ番組。ヒッチハイクや懸賞生活など過酷な企画で知られ、YouTuber文化の先駆けともいわれる。』といった番組は、今のYouTuberのコンテンツに近いものでした。例えば、MrBeastアメリカの人気YouTuber。大金を使った壮大な企画動画で知られ、世界最大のYouTubeチャンネルの一つを運営。の動画は、『風雲!たけし城』と本質的に同じだと指摘します。
日本のコンテンツって、やっぱ、うん、どうしたら面白くなるか、どうしたらなんか見てくれるか、もう視聴率戦争をひたすら激しく五局がやってるから。なんか、あの、あの時のコンテンツってすごいもんばっかりなんですよね。
女性オタク市場の台頭
守屋氏は、今後のコンテンツ市場では**女性オタク文化が主流になる**と予測します。その背景には、働く女性の増加と、ジャニーズ日本の男性アイドル事務所。2023年に創業者の性加害問題が発覚し、事務所名を「SMILE-UP.」に変更した。の衰退があります。
例えば、『あんさんぶるスターズスマートフォン向けアイドル育成ゲーム。男性キャラクターを育成し、声優がライブで演じる。女性ファンに絶大な人気を誇る。』のライブでは、埼玉スーパーアリーナが2万人以上の女性ファンで埋まります。このゲームは、ジャニーズJr.のような「育成」の文脈を、アプリとアニメに掛け算したものです。
また、中国では男性よりも女性の方がコンテンツに課金する傾向が強いというデータもあります。男性は結婚資金や住宅購入のために貯金を優先するため、エンタメへの支出が少ないのです。
さらに、守屋氏は「男性オタクが生まれづらくなった」とも語ります。SNSでつながれるようになった結果、極端に内向的な「オタッキー」な男性が減ったのではないかとのことです。
バーチャルヒューマンの対話技術とツービー展開
Awwは現在、バーチャルヒューマンを社会インフラとして活用する技術を開発しています。具体的には、**リアルタイムで対話できる仕組み**がほぼ完成しており、企業向けに提供を始めています。
ユースケースとしては以下のようなものがあります。
- 無人店舗の接客:横浜のララポートで、リクルートがキャッチセールス代わりに導入
- 銀行の窓口:人手不足を補うため、営業窓口にバーチャルヒューマンを配置
- ファッションスタイリスト:コーチアメリカの高級ファッションブランド。バッグや革製品で知られる。が原宿店にIMMAを配置し、来店客にコーディネート提案
守屋氏は、こうした取り組みを「フィジカルDX」と呼んでいます。オンラインのデータはすでにDX化されていますが、リアル空間での対話データはまだ未開拓です。Awwはこのデータを蓄積し、今後のIP戦略に活かす計画です。
さらに、こうした社会実装が進むことで、**IPの需要が高まる**と予測します。企業が「自社でIPを持ちたい」と考えたとき、一から作るよりも、既存の人気キャラクター(IMMAやポケモン、ミッキーなど)を導入する方が効率的だからです。
まとめ
対談の最後に、宮武氏は「アメリカのテック企業が今、ストーリーテリングチームの採用を強化している」と指摘しました。Notionオールインワンの生産性ツール。ドキュメント、データベース、プロジェクト管理を一つのプラットフォームで提供。やSoftBank日本の通信・投資会社。Vision Fundを通じて世界中のスタートアップに投資している。も、専任のストーリーテラーを雇い始めています。
その理由は、プロダクト単体では差別化が難しくなったからです。アテンション(注目)を獲得するために、企業は「ストーリー」という軸を強化し、ライブイベントやリアル体験を通じて世界観を伝える戦略にシフトしています。
守屋氏は、AIで何でもできる時代だからこそ、**IPの重要性がさらに高まる**と確信しています。技術が均質化する中、差別化の鍵となるのは「誰のエゴか」「どんなストーリーか」という、人間にしか生み出せない部分だからです。
- IPのLTVを高めるには「集中力」と「感動」が不可欠。ショートコンテンツは記憶に残りにくい。
- IPには段階がある。SNSでフォロワーを得るのはステップ1に過ぎず、その先のIP構築が重要。
- ボトムアップ型ではなく、トップダウン型(個人のエゴ)こそが強いIPを生む。
- 日本のIP強度の源泉は、80〜90年代のテレビ・漫画文化にある。
- 今後は女性オタク市場が主流になり、コンテンツ消費の構造が変わる可能性がある。
- AI時代だからこそ、ストーリーテリングとIPの価値が高まる。
