2020年に動画ストリーミングで何が起きたのか
Off Topicの2021年最初の回のテーマは、動画ストリーミングサービスの勢力図です。草野さんと宮武さんは2019年末にもDisney+やApple TV+の登場を取り上げており、それから1年以上たって状況がどう変わったかを振り返ります。
草野さんによると、2019年末にApple TV+とDisney+が始まり、サービスが乱立する「ストリーミング戦争」が注目されました。2020年にはワーナー傘下のHBO MaxとNBCのPeacockが始まり、短編動画のQuibi ── 映画会社ドリームワークス創業者のジェフリー・カッツェンバーグ氏らが立ち上げた、スマートフォン向け短編動画配信サービス。2020年4月に開始し、同年中に閉鎖を発表しましたは始まって終わりました。
この1年で最も成長したのはNetflixではないか、と草野さんは見ています。コロナの影響でどのサービスも登録者が増えるなか、Netflixは2020年1〜3月に1600万人の新規会員を獲得し、全世界で1億8300万人に達しました。
宮武さんは、Netflixは今も圧倒的なリードを持っており、2021年中に会員2億人を超えるだろうと話します。アメリカではすでに広く使われているため、伸びているのは海外、特にアジア圏だといいます。
草野さんは、年末年始に日本でもNetflixのCMが大量に流れ、渋谷駅に広告があふれ、日本オリジナル作品も増えていると実感していました。
やっぱすごいのはNetflixは値段を上げてもユーザーが離脱しないことなんですよね。
宮武さんは、Netflixが値上げしても離脱率が低い理由に、サービスの質とヒット作を挙げます。2020年は『クイーンズ・ギャンビット』がアメリカで大人気になりました。草野さんも、どのサービスよりもオリジナル作品でヒットを出し続けている点がNetflixの強さだと応じます。
5年計画を1年で突破したDisney+の何がすごいのか
宮武さんが最も注目したサービスはDisney+です。ローンチ時には「2024年までに6000万〜9000万人の登録者を獲得する」としていましたが、現在すでに8700万人に達しています。
宮武さんによれば、Disney+は5年後の計画を1年で突破したため、計画を2024年に2.3億〜2.6億人へ引き上げました。現時点でNetflixの半分弱の規模ですが、そこまで1年で到達した追い風は大きいと見ています。
宮武さんは、2020年末にディズニーが開いた4時間ほどの投資家向けイベントで、ディズニーの強さがはっきり見えたと話します。一番驚いたのは、アメリカの子どもたちがiPadでこの投資家向けイベントを必死に見ていたことでした。
あとはやっぱり子供たちが見たいのは新しいどういうコンテンツを出すのかっていう発表と予告が出るんですよ。
宮武さんの見立てでは、2020年のDisney+はベライゾンなどとの提携で1年無料トライアルを打ち出してユーザーを集めた一方、オリジナル作品はそれほど多くありませんでした。ヒットは『マンダロリアン』やピクサーの『ソウルフル・ワールド』くらいで、『ムーラン』は作品自体の問題もあって人気が伸びなかったといいます。
その状況に対し、ディズニーは投資家向けイベントで2021年に100のプロジェクトを発表しました。宮武さんは、このイベントこそがDisney+の本格的なスタートだと感じたそうです。
宮武さんは、ディズニーの制作力の裏付けとして2019年の映画興行を挙げます。売上トップ10のうち8作品がディズニー関係で、正確には7作品ですが、ソニーと共同制作の『スパイダーマン』を含めると8作品になるといいます。
NetflixとDisney+は共存できるのか
草野さんは、NetflixとDisney+はコンテンツの色がぶつからないため共存できそうだと感じています。そのうえで、個人的にはこの2つで「完全体」になり、ほかのサービスは見なくなりそうだとも話します。
宮武さんは、多くの人は2〜4つのサービスに登録すると考えています。Disney+とNetflixに加えてHBO Maxを契約する人も増えそうですが、Disney+は子どもがいない家庭でも意外と人気で、どの作品を見るかという「アテンションの戦争」で手強い相手だと見ています。
草野さんは『ソウルフル・ワールド』を見て、これまでのアニメとは違う大人向けの話だったと感じたそうです。Disney+にはドラマも多く、意外と大人も楽しめると気づいたといいます。
宮武さんによると、Disney+ではR18の大人向けコンテンツを出す話も出ています。ディズニーはFOXを傘下に持ち、『デッドプール』のような作品も抱えているため、本格的な大人向け作品が出てもおかしくないとしています。
ディズニーはなぜ会員を「抜けられなく」できるのか
草野さんが投資家向けイベントで発表された注目作を尋ねると、宮武さんは2021年1月に配信が始まる『ワンダヴィジョン』を挙げました。マーベル系の作品が5〜6本、スター・ウォーズ系のシリーズも多数発表されたといいます。
宮武さんが巧みだと見ているのは、ディズニーのコンテンツスケジュールの管理です。2020年は『マンダロリアン』のように約2カ月かけて毎週配信される作品を目当てに、その期間だけ登録して離脱した人も多かったと考えています。
宮武さんの説明では、2021年は上のように1作品が終わると1週間あけて次の作品が始まり、常に面白い作品が配信される仕組みになっています。草野さんは「抜けられないですね」と反応しました。
ほかにも、マーベルの人気悪役ロキのシリーズ、スター・ウォーズの新作、『マンダロリアン』シーズン2のエンドロールで示された次のシリーズが控えています。宮武さんは、こうした作品量があるからこそDisney+は3月から月額7ドルを8ドルに値上げするのだろうと話し、値上げしても離脱はあまり変わらないと見ています。
Disney+は新作とライブラリでどう会員を囲い込むのか
宮武さんは、Disney+もHBO MaxもNetflixも、オリジナル作品で新規ユーザーを獲得していると整理します。Disney+の新作の中で最も登録者を稼いだのはミュージカル『ハミルトン』でした。
宮武さんによると、『ソウルフル・ワールド』の公開時には、Disney+の登録ページが作品のキャラクターのいる場面で埋め尽くされていたといいます。こうして新作で引きつけ、次々に出る新作でリテンションを保つのがDisney+の戦略だと見ています。
同じ作品を何度も見たがるため、過去の映画ライブラリで見続けてもらう
新しいオリジナルIPでロイヤルティを高める
草野さんは、自分のようにマーベルやスター・ウォーズを全部は見ていない人は、関連作品が出続けても興味を持ちにくいのではと疑問を投げかけます。
宮武さんは、そこが日本とアメリカの違いで、日本でDisney+がどれだけ人気になるかはわからないと話します。アメリカではマーベルは子どもにも大人にも好かれる国民的なコンテンツになっているからです。
宮武さんは根拠として、映画を評価するシネマスコアを挙げます。歴代でA+を付けたのは88作品だけで、そのうち3作品が『アベンジャーズ』『ブラックパンサー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』のマーベル作品だといいます。日本は人気はあってもアメリカほどの一般の熱意はない、というのが宮武さんの見方です。
HBO MaxはなぜワンダーウーマンでDisney+と違う稼ぎ方ができたのか
宮武さんは、HBO Maxは新規獲得こそ新作IPを使うものの、Disney+とは違う戦略をとっていると話します。2021年はワーナーの新作映画をすべてHBO Maxでも公開する予定だといいます。
宮武さんによれば、2020年に公開された『ワンダーウーマン』の新作は、Disney+の『ハミルトン』以上に新規ユーザーを獲得したとされます。HBO Maxは月額15ドルと高めで、LTV ── 顧客生涯価値。1人の利用者が契約を続ける間にもたらす売上の合計で、サブスクリプション事業の重要な指標ですを1年〜1年半と見積もると、作品の効果は1億7900万〜2億7000万ドルほどと言われているそうです。
宮武さんは、2020年に起きたシフトとして「映画館のユニットエコノミクスより、ストリーミングのほうが場合によってはいいのではないか」という議論を挙げます。
チケット代は映画館と折半されることが多く、制作側に入るのは半分ほど
登録者のロイヤルティを買え、何カ月も視聴してもらいアップセルやグッズ販売につなげられる
宮武さんは、この観点でNetflixは惜しいことをしたと指摘します。『クイーンズ・ギャンビット』の影響でチェスセットの売上が大きく伸びたのに、Netflixは一緒に出していませんでした。
そこはちょっと残念だったなっていう。多分絶対そこ(グッズ販売)はディズニーは絶対見逃してないはずなんですよ。
草野さんも、Netflixは『ストレンジャー・シングス』などでもフィギュアが出ることはあるものの、公式の物販はほとんどしていないと応じます。宮武さんは、グッズは愛着を生みプロモーションにもなるとして、会社の戦略の違いだろうと見ています。
リリース日と見返せる名作は会員をどうつなぎとめるのか
宮武さんはDisney+の話に戻り、作品の公開日も競合を見て決めていると話します。Quibiの無料トライアルが終わる週に『ハミルトン』を出し、『ワンダーウーマン』の新作公開日に『ソウルフル・ワールド』を出したといいます。
ちゃんと踏まえて競合サービスが話題にならないようにしようとしてるんじゃないかと個人的には思ってます。
宮武さんによれば、HBO Maxのリテンション戦略は、オリジナルIPに加えて既存の強いIPのライセンスを押さえていることです。『サウスパーク』『リック・アンド・モーティ』『フレンズ』のように何度も見返す作品があるため、登録した人は「とりあえずフレンズを見よう」となるといいます。
草野さんは、ハマる作品がないときでも見る作品があることの大切さに頷き、Netflixは『フレンズ』が抜けて打撃を受けたと振り返ります。宮武さんが挙げた『となりのサインフェルド』は日本では見られず、草野さんは「蚊帳の外」だと笑いました。
Peacockはザ・オフィス1本でどう戦っているのか
宮武さんは、Peacockの明確なヒット作はおそらく『ザ・オフィス ── アメリカのNBCで2005〜2013年に放送された職場コメディドラマ。架空の製紙会社の支店を舞台にしたモキュメンタリー形式で、終了後も配信で根強い人気があります』1つだと見ています。ローンチ時に未公開シーンの一部をYouTubeで流すなど、PRは上手だったといいます。
宮武さん自身も未公開シーンを見て面白いと感じ、こうした映像が見られるならPeacockを試してみようと思う人はいるはずだと話します。草野さんも、放送が終わって久しいのにTwitterやInstagramを頻繁に更新しており、強いIPは過去のものにしないと感心します。
宮武さんが面白いと感じたのは、Peacockの料金表がすべて『ザ・オフィス』を基準に書かれていることです。
| プラン | 月額 | 説明の書き方 |
|---|---|---|
| 無料版 | 0ドル | シーズン1と2にいろいろなコンテンツ |
| プレミアム | 5ドル | 全エピソードに未公開シーンなど |
| 上位版 | 10ドル | 広告なしの『ザ・オフィス』 |
草野さんは「ザ・オフィスベースのストリーミング」だと驚きます。宮武さんはわかりやすいと評価しつつ、1本で戦っている感が強く、同時にとても心配だとも話しました。
面白いのに話題にならないApple TV+の弱点は何か
草野さんはApple TV+について、面白い作品は多いと話します。草野さんが見始めたきっかけは、新しいApple製品を買うと1年間無料で見られる特典でした。
やっぱりこう、契約更新の期間が近づくと、やっぱ最初の見てたドラマの第二シリーズ目が契約が切れるとともに出てくるみたいな。
草野さんによると、続編が2つあり、ビリー・アイリッシュのドキュメンタリーなどの話題作も無料期間が切れる前後に出てきます。宮武さんも「あと1年とりあえず」となってしまうと応じます。
一方で、Apple TV+は力が入っているのに話題にならない、と草野さんは指摘します。宮武さんは、ローンチ時にヒット作が少なかったことが原因で、最初から『テッド・ラッソ』があれば違ったはずだと見ています。
草野さんの考えは少し違い、問題はシェアしづらさにあるといいます。作品側がTikTokやInstagramで発信しておらず、未公開シーンやキャストのインタビューも見つからず、日本では予告も英語版しかないため薦めてもスルーされてしまうそうです。
宮武さんはその後『テッド・ラッソ』を見たとリスナーに報告し、1話30分ほどで10話程度なのでさらっと見られ、シーズン2も見たいほど面白かったと話しました。それでも、Netflixのように「あれ見た?」という熱狂はアメリカでもないと2人は語ります。
豪華セレブを集めたQuibiはなぜ失敗したのか
宮武さんは、シェアされにくさで批判されたサービスとして、2020年に閉鎖したQuibiを挙げます。初期はスクリーンショットを撮ろうとすると画面が真っ黒になり、ローンチ直後に批判を浴びたといいます。
草野さんは、Quibiのローンチ予定作品の一覧を見ると、スティーブン・スピルバーグ、ジェニファー・ロペス、チャンス・ザ・ラッパー、ウィル・スミスなど、ハリウッドの有名人ばかりだったと振り返ります。宮武さんは、その豪華さが逆によくなかった面もあると話します。
理由1
若年層を狙ったが、若者が見たいのはハリウッドのトップセレブではなく、エマ・チェンバレンやチャーリー・ダミリオのようなクリエイターの短編動画だった
理由2
セレブはまずNetflixやHulu、HBOに企画を持ち込み、断られたものをQuibiに回したため、トップ企画が集まらなかった
結果
ヒット作が出にくくなった
宮武さんによると、MrBeastもQuibiに企画を提案したものの、Quibi側が断っていたといいます。草野さんも、チャンス・ザ・ラッパーの番組がQuibiではドッキリ番組だった一方、Netflixでは一般人がラップバトルでスターになるリアリティショーをやっていたなど、内容に差が出ていたと感じています。
宮武さんは、短編動画はYouTubeやTikTokと比べられ、映画やNetflixとは比べられにくい点も指摘します。草野さんは、エミー賞でNetflixが160、HBOが107ノミネートされるなか、Quibiも10作品がノミネートされたとして、制作の質は高かったと認めます。
すごいお金かけてちゃんとやってるんで、そこはちゃんとやってるんですけど、やっぱりその若干そのユーザーをどれだけ調査したり、今どれだけ読んでたのかなっていうのはちょっと疑いが出ますよね。
宮武さんは、創業者のジェフリー・カッツェンバーグ氏は勘で動いて大成功してきた人なので手法自体は間違いではないとしつつ、年齢層のギャップを感じたと話します。スーパーボウルのCMも批判され、宮武さん自身も見て「え?」と思ったそうです。
余談として、Quibiは当初「おまかせ」という名前になる予定だったといいます。寿司好きのカッツェンバーグ氏の発想で、いいコンテンツを出してくれるサービスというコンセプトでしたが、草野さんは「ダサッ」と即答しました。閉鎖後はRokuが作品を買い取り、残っていた約75作品を無料で出すと発表しています。
Crunchyrollと日本のアニメは世界でどこまで広がるのか
最後に草野さんが補足として挙げたのが、ソニーによるCrunchyrollの買収です。草野さんによると買収額は1222億円で、宮武さんは「すごく良い買収だった」と評価します。
草野さんは、Crunchyrollはほかのストリーミングと違ってファンコミュニティが強いと話します。宮武さんは2019年の回でも話したように、アニメコンテンツは非常に伸びるため、そこを買うのは大正解だと見ています。
草野さんは、買収したソニー側が『鬼滅の刃』も手がけていることから、日本のアニメが海外へ進出する足がかりになれば日本人として嬉しいと話します。宮武さんによると、アメリカでも『Demon Slayer』のタイトルで見ている人が多く、TikTokにはリアクション動画があふれ、『僕のヒーローアカデミア』も大人気だといいます。
宮武さんは、アニメの人気が音楽にも波及していると話します。LiSAさんの『紅蓮華』はアメリカでもよく聞かれており、YouTubeの再生回数が多いのは日本だけの影響ではないといいます。
草野さんも、THE FIRST TAKE ── 一発撮りで歌うパフォーマンスを配信するYouTubeチャンネル。2019年に始まり、多くのアーティストが出演していますのLiSAさんの回には海外からのコメントが多いと感じていました。宮武さんは、その影響で海外の人がほかの回も見始めているのではと推測します。
その例として宮武さんは、Def TechがTHE FIRST TAKEで歌った『My Way』に、アメリカの人がリアクション動画を上げていることを挙げます。沖縄のスタイルにラップを乗せた穏やかな曲調に、誰も「ラップ」とは言わず「これは何のジャンル?」という反応が多かったそうです。
やっぱアニメの影響ってすごいなと思いました。
草野さんはジブリ作品がHBO Maxで配信されていることにも触れ、日本のアニメがもっと見られるといいと話します。宮武さんは、どんどん海外で広がるだろうと締めくくりました。
まとめ
2020年はNetflixが会員2億人に迫る一方、Disney+が5年計画を1年で突破し、2021年は100のプロジェクトで本格的に攻勢をかける年になりそうです。各サービスの明暗を分けているのは、作品の数だけでなく、どのIPで会員を集め、どう離脱させないかという設計だと2人は見ています。
- Netflixは値上げしても離脱が少なく、オリジナル作品のヒットを出し続けている
- Disney+は登録者8700万人に達し、マーベル作品を1週間間隔で並べるなど、新作の配信スケジュールで会員を囲い込もうとしている
- HBO Maxは新作映画で獲得し、『フレンズ』のような見返せる作品で引き止め、Peacockは『ザ・オフィス』に頼る
- Apple TV+はシェアしづらさ、Quibiはターゲットとのずれや企画の質が課題として語られた
- ソニーによるCrunchyroll買収は、アメリカで高まる日本アニメ人気を背景にした好手と評価された


