Clubhouseでライオンキング?10位は音声SNSの熱狂
Off Topicの年末恒例企画「2020年TOP10ニュース」は、今回で3回目です。選んだのは草野さんと宮武さんで、アメリカ中心に「独断と偏見で選んだもの」だと前置きして始まりました。
ランキングは10位から順に発表されました。全体像は次のとおりです。
10位のClubhouseについて宮武さんは、2月か3月ごろに小さな資金調達ラウンドを行い、4月19日ごろにアメリカのVC業界のTwitterで大きくバズったと説明します。VC業界では「入っていないといけないSNS」のような扱いになっていったそうです。
収録の数日前には、Clubhouse上でミュージカル『ライオンキング』が上演されました。ブロードウェイの演者とみられる人たちが音声だけで参加し、プロフィールにシンバやムファサなどの役名を出していたといいます。
役者によっては複数の役をやる人もいるから、その場合は途中でプロフィール写真を変えて。
ライオンキングの公演は通常のブロードウェイショーのように1日2回行われ、Clubhouseに入っていれば無料で聴けました。宮武さんは日本時間10時ごろからの2回目を聴き、「普通によかった」と振り返っています。聴ける人数の上限は5000人だったそうです。
宮武さんによると、Clubhouseでは、Twitterではそれほどフォロワーが増えない人が一気に1万人ほどのフォロワーを得ることがあります。理由は、音声で会話することで信頼度が大きく上がるからだと宮武さんは見ています。
確かに(音声だと)テキストとかツイートよりも全然なんか人間味があるし。
宮武さん自身も、ストリートブランドの作り手が集まる部屋を聴いたところ、ヴァージル・アブロー ── ファッションブランドOff-Whiteの創業者で、ルイ・ヴィトンのメンズ部門のアーティスティック・ディレクターも務めたデザイナーさんのような人たちが普通に話していたそうです。一方で、テック層は少しClubhouseから離れたとも感じています。
宮武さんによれば、Clubhouseのユーザーは約60万人で、アメリカのiOSのSNSランキングで一時3位、全体でもトップ20に入りました。まだ招待制ですが、招待は緩くなっています。課題はモデレーション機能の不足で、宮武さんは、この領域にはTwitterの音声機能「Twitter Spaces」が入ってきそうだとみています。
Appleの手数料30%は今もフェアなのか?
9位は「Apple vs 〇〇」です。Epic Gamesとフォートナイトの対立、直近ではFacebookがAppleを批判する広告を出したことなど、これほど大きな会社がAppleに声を上げた例はなかったことが選ばれた理由です。小さめのスタートアップでは、メールサービスのHEYもAppleを批判していました。
宮武さんは、AppleがApp Storeで、特にデジタルコンテンツの売上から30%を取ることには疑問の声が出ており、その指摘は「結構正しい」と考えています。昔はiOSのストアに載るだけで大きなトラフィックやダウンロードが得られたので、30%を取る意味があったといいます。
今だとどこまでバリューを与えてるのか、30パーセント取るまでのバリューなのかっていうところは結構フェアな指摘かなと思ってまして。
Appleも対抗策として、売上100万ドル(宮武さんは約1億円と表現)以下の開発者からは15%しか取らないと発表しました。宮武さんは、この発表をPR効果を狙った戦略的な一手と見ています。
つまり、Appleの手数料引き下げの対象は開発者の数でいえば98%に及びますが、売上でいえばごく一部です。Epic Gamesのティム・スウィーニーさんが「30%は全員にとってフェアじゃない」と訴えていた構図が、「不満を言っているのは大手だけ」に見えるようになる、と宮武さんは読み解きます。
Epic Gamesのもう1つの指摘は、他のストアをiPhoneに入れられないことです。宮武さんはKindleを例に挙げ、Kindle端末では本を買えるのにiOSアプリでは買えないのは「ただただ独占しているだけ」という主張だと説明しました。Epic、Spotify、Tile、ニューヨーク・タイムズ、NPR、ESPN、ワシントン・ポスト、ブルームバーグなどが団結してAppleに異を唱えているそうです。
8位・デジタル規制で問われたSNSの中立性
8位は、Apple、Facebook、Google、Amazon、一部Twitterも含むビッグテックへの政府の規制です。宮武さんは、論点がいくつかあると整理します。
デジタル規制の1つ目の論点はSNSのフェイクニュース対策です。トランプ大統領は、FacebookやTwitterが投稿に注意表示を付けることに強くクレームを入れていました。
宮武さんによると、FacebookやTwitterの従業員はカリフォルニアに住む人が多く、ほとんどが民主党支持です。それでもプラットフォームとしてリベラルに見えるのは良くないため、どこまで注意表示を出すかという中立性の保ち方が問われています。
アメリカのGoogleでバカって入れると最初に出てくる画像がトランプだったんですよ。
宮武さんによると、ある政治家は、Googleで「バカ」と検索したときの結果を共和党への侮辱だと指摘しました。裏側のアルゴリズムはどの会社のものも外から見えないため、2016年の前回選挙から続くこうした指摘が、2020年は特に活発だったといいます。
ギグワーカーは従業員か、Prop 22で何が決まった?
デジタル規制の2つ目の論点は、2020年最初のOff Topicで扱ったカリフォルニア州のAB5 ── ギグワーカーなどを業務委託ではなく従業員として扱うよう企業に求める、2019年成立のカリフォルニア州法です。UberのドライバーやInstacartの買い物代行、デリバリーの配達員を業務委託にするか正社員にするかが争点でした。
AB5は成立しましたが、Uber、Lyft、DoorDashなどが強く反発し、覆そうとしました。その手段が、大統領選挙の投票と同時に行われる州の住民投票で、カリフォルニア州では「Prop 22(Proposition 22)」が出されました。
UberやLyft側の立場。ドライバーや配達員は業務委託のままにする
ギグワーカーは正社員として扱われるべきだという立場
11月4日の投票でProp 22は可決されました。宮武さんによると、その日のうちにUberの株価は15%ほど、Lyftも10%以上上がったそうです。
Lyft、Uber、DoorDash、Instacart、Postmatesの5社は、Prop 22のプロモーションに合計200億円以上をかけました。Uberはドライバーにアプリ内メッセージを送り、Instacartはショッピングバッグに応援ステッカーを貼るよう命じ、DoorDashも配達バッグに「Yes on 22」と書いていたといいます。
200億円以上使って一つの法律を通すっていうのは、カリフォルニア史上一番お金を使ったんじゃないですかね。
一方で、草野さんは、専業で働く配達員がステッカーを貼って配達するのは皮肉だと指摘します。宮武さんも、副業なら正社員でなくてもいい人がいる一方、会社に命じられて仕方なく貼った人もいたはずだと話しました。宮武さん自身にも、アメリカのUberから「応援してください」というメールが届いたそうです。
独占禁止の調査とInstagramの「Facebook化」
デジタル規制の3つ目の論点は中国アプリのプライバシー問題で、TikTokの禁止をめぐる話は翌年に持ち越されそうだと宮武さんは見ています。そして最も大きかったのが、Facebookをはじめとする大手テック企業への独占禁止法の調査です。
Googleは検索エンジン市場の独占で訴えられ、Google、Facebook、Amazon、Appleはアメリカ議会で証言しました。FacebookにはInstagramとWhatsAppを切り離すべきだという声が出て、買収は市場を独占するためだったのではないかと問われています。
草野さんはユーザーとして、InstagramとFacebookのメッセンジャーが統合されていくのが嫌だったと話します。宮武さんも、2020年はInstagramの「Facebook化」を感じた年だったと応じました。
最初かわいいなと思って、そういうのやってたら、結局インスタもだんだんそうなってきて、あれ、どっちで見てるんだっけ?みたいな。
宮武さんは、Instagram創業者のケビンさんとマイクさん ── Instagramを共同創業したケビン・シストロムとマイク・クリーガー。2018年にFacebookを離れましたがいなくなったことが大きいと見ています。WhatsAppでも同じ統合が進んでおり、明らかにFacebookが真ん中に置かれていると話しました。
BTSはなぜアメリカの壁を越えられたのか
7位はBTSの世界的ヒットです。Off Topicではあまり扱ってこなかった話題ですが、アメリカでのファンコミュニティの面白さから選ばれました。
草野さんによると、全編英語の「Dynamite」がビルボードチャートで1位を獲得し、韓国語で歌われた最新曲も外国語曲として歴史上初めて1位になりました。グラミー賞にもノミネートされています。
宮武さんは、BTSが11か月以内に3枚のアルバムを全米1位にしたことがビートルズの記録を破ったと指摘します。ビルボードHot 100で1位になるのはアーティストにとってピークと言われるほどのことなのに、7週間で4回、しかも2曲で取ったことに驚いたといいます。
草野さんはBTSの強さを、ファンと事務所のプロデュース力の両方に見ています。アメリカのアーティストと比べて新曲の数も、ライブ映像や個人・全員のダンス動画などのコンテンツ量も桁違いで、ファンになったときに摂取できる情報がとても多いと話しました。
ファンがこれをこれだけ労力を使って翻訳とか、なんかいろんなことをやるっていうのがすごいなと。
BTSの事務所側もアニメキャラクター「TinyTAN」を作るなど、新しい試みを続けています。ファンが字幕を付けた非公式の動画を受け入れていることも、従来のアーティストとの違いとして挙げられました。
アメリカで受け入れられた理由について、草野さんは、BTSの国連でのスピーチやメンタルヘルスを扱う曲など、ただのアイドルではなく活動家としての面が支持されたのではないかと考えています。宮武さんも、アメリカではBTSがBackstreet Boysのようなボーイバンドの位置づけでプロモーションされていない点を挙げました。
草野さんはさらに、NiziUを手がけたJYPとPSYが組んで作る新しいボーイズグループの募集で、「クリエイターに応募してほしい」と呼びかけていたことを紹介しました。ダンスや歌がうまいだけでなく、何かを生み出せる人を求めている点に、新しいアイドル像を感じたといいます。
メタバースはまだ来ない?ゲームとアバターが伸びた年
6位はメタバースとGaaS、G-Commerceです。GaaS ── Game as a Serviceの略。ゲームを売り切りではなく、継続的に更新して提供するサービスとして運営する考え方は、SaaSの最初のSをGに変えた言葉です。
ただし宮武さんは、今はメタバースと呼べるものはなく、あと5年以上は現れないだろうと見ています。インフラ作りは多くの会社が徐々に進めているといいます。
フォートナイトってこれもなんか多分ポッドキャストで過去言いましたけど、なんかテストサイトでしかなくて、EpicGamesからすると。
宮武さんの見立てでは、Epic Gamesはフォートナイトでメタバースっぽい体験を試し、その学びからメタバースの作り方を考えています。6位にした理由は、メタバースという言葉が広がったこと、ゲーム領域全体が伸びたこと、ゲームを使った集客やマネタイズが増えたことの3つです。その好例がファッションコレクションをゲームで表現したBalenciagaでした。
Robloxの成長、Discordの大型調達、Among UsやFall Guysの流行に加え、3Dアバターの会社への投資や買収も目立ちました。宮武さんは、Genieの調達にバンダイも出資したようだと話しています。
宮武さんは、フォートナイトと連携したHouseparty(ビデオチャットアプリ)で、いずれ自分の顔の代わりにフォートナイトのアバターが表情付きで映るようになるかもしれないと話します。現実では自分の体で表現やアイデンティティを保つように、オンラインではアバターを使うようになるからです。
となると、誰がそのアバターをコントロールするのかっていうのが結構重要なポイントになってくるので。
大型IPOのラッシュと「バブル」の声
5位は大型IPOとSPACの急増です。Airbnbのような大型IPOが増えた一方で、LemonadeやHimsのようにSPACを使って上場する方法も広がりました。
宮武さんによると、Unity、Palantir、Snowflakeなど、時価総額10ビリオン(100億ドル)以上の上場が目立ちました。Snowflake、Asana、Unity、Palantir、JFrog、Sumo Logicなどが1〜2週間のうちに上場申請し、その後もAirbnb、DoorDash、Wish、Roblox、AffirmのS-1(上場申請書類)が続いたといいます。
なんか毎日出すなよってすごい思いましたけど。
コロナで一度落ちた株式市場はすぐに跳ね上がり、IPOにも影響しました。ウォール街ではバブルという言葉まで出ているそうです。
| 対象 | 売上マルチプル | 備考 |
|---|---|---|
| 2020年にIPOした銘柄 | 約20倍 | 平均値とされる |
| 2010年代全体 | 約4倍 | 平均値 |
| 2010年代のテック企業 | 約6倍 | 平均値 |
宮武さんは、この数値を「結構異常」と表現しつつ、市場が今後調整されるかどうかは正直見えないと話しています。
SPACで上場するメリットは何か
SPACは昔からあった手法で、どちらかといえばヘッジファンドが使うものでした。上場用の「箱会社」を作り、その箱が別の会社を買収してそのまま上場させる仕組みです。
草野さんの「SPACで上場するメリットは?」という質問に、宮武さんは2つの理由を挙げます。1つはIPOにかかる費用と時間を削減できることで、直接上場と似た考え方です。
もう1つは見え方の問題です。10ビリオン以上の上場が多かった2020年は、1〜3ビリオン(1000億〜3000億円)規模の会社が普通にIPOしても「大したことない」というイメージになりがちでした。そのため別の手法で話題を取り、SPAC経由で上場するパターンが増えたと宮武さんは見ています。
宮武さんは、SPACの「箱」を作った人も多いため、来年はさらに増えると予想します。Casperの創業者、リード・ホフマンさん、Social Capital、ソフトバンク、LVMHなども立ち上げているそうです。
使い方の例として、宮武さんは、P&Gが女性向けカミソリのBillieの買収を政府に止められた件を挙げました。P&GがSPACを作って上場させ、そこでBillieを買収すればいいのではという話も出ているといいます。さらにD2C企業を4社ほどまとめて買い、2000億円規模のコングロマリットとして上場させる可能性もあると話し、草野さんは「新しいLVMHみたい」と反応しました。
TikTokは20億ダウンロードで何が変わった?
4位は総ダウンロード数20億回を突破したTikTokの急成長です。草野さんによると、10億回から20億回まで5か月ほどで伸びました。
宮武さんは、以前はZ世代のアプリと思われていたTikTokに、2020年はミレニアル世代や大人がようやく入ってきたと見ています。レジュメの書き方や転職ノウハウ、Excelを踊りながら教える教育系の動画や、ニュース系の動画も増え、Z世代はTikTokで政治について学ぶまでになりました。
TikTokを軸にしたミュージカル作りも生まれました。ピクサーの『レミーのおいしいレストラン』のミュージカルを作ろうとオーディションが開かれ、ディズニーの公式アカウントからも応募があったそうです。
やっぱりそのファンのコンテンツとかをどんどん前に出さなきゃいけないっていうのが多分すごいみんな思っているので、多分特に、特にTikTokはそうなんですよね。
宮武さんは、ユーザーが自分たちでARコンテンツやステッカーを作りたがる流れも指摘します。American Eagleは、アディソン・レイ ── TikTokで人気を集めたアメリカのクリエイター。2020年に最もフォロワーの多いクリエイターの1人として注目されましたさんらTikTokクリエイターにクリエイティブディレクションを任せてCMを作り、編集も明らかにTikTokらしいものだったそうです。草野さんは、日本でもTikTokっぽい広告が出てきそうだと話しました。
大統領選が残した、分断というしこり
3位は2020年アメリカ大統領選挙です。決着はついたものの、トランプ大統領は負けを認めておらず、宮武さんは「よくない状況で終わらせている」と見ています。1月20日まではトランプ氏が大統領で、その間に何をするかが重要だといいます。
宮武さんによると、収録当日にようやく国民への給付金が通りましたが、トランプ氏は最後まで渋っていました。ここ半年ほどはコロナ対策のミーティングにも出ていないそうです。
宮武さんが最も大きな影響として挙げたのは、国が明らかに2つに割れたことです。マスクを着けるかどうかまで政治問題になり、どの問題も政治化されてしまいました。
政治化
マスク着用のような問題まで党派の対立になる
不信
共和党支持者がTwitterを信頼しなくなる
移動
共和党支持者だけが集まるParlerのようなSNSが生まれる
バブル化
ニッチなメディアやSNSが増え、反対意見を知る機会が減る
分裂の固定
人種問題などの課題を、分断したまま解決できない
宮武さんによると、2016年はメディアが「トランプ氏を支持できない」と明言した初めての選挙で、それが2020年も続きました。アーティストもテイラー・スウィフトさんやビリー・アイリッシュさんが声を上げ、草野さんも「言え」という雰囲気だったと振り返ります。
結局右側に手を伸ばしてないんですよ。
宮武さんの見方では、アーティストやメディアの呼びかけは左派が団結しないと勝てないというもので、反対派を説得する人は誰もいませんでした。宮武さんは、分断の問題がどんどん悪化するのではないかというのが一番の心配だと語っています。
2位・クリエイターエコノミーとYouTuberの次
2位はクリエイターエコノミーの台頭です。草野さんは、TikTokをきっかけに、クリエイターが最も活躍した年だったと位置づけます。
宮武さんは、プラットフォームの消費者とクリエイターの比率に注目します。TikTokではユーザーの4人に1人がクリエイターになっていて、YouTubeより作り手の比率がずっと高いといいます。Z世代の3割ほどがYouTuberになりたいと答えているそうです。
いわゆるスマホがあれば誰でもスタートってできるので。非常にハードルが低くなった。本当に起業と同じですよね。
草野さんは、今の若い世代ならマーク・ザッカーバーグのような起業家より「絶対ヒカキンの方が楽しそう」と思うだろうと話します。宮武さんも、これまでコーディングが重要だったように、今後はクリエイティブディレクションや編集が重要になると見ています。
草野さんは、インフルエンサーとクリエイターの違いにも触れました。インフルエンサーは影響を与える人ですが、クリエイターは自ら新しいものを生み出す人であり、YouTuberという枠にとどまらない人が増えていると考えています。
宮武さんによると、クリエイター側には危機感もあります。TikTok禁止の話で1つのプラットフォームに依存する怖さが意識され、不定期なスポンサー収入に頼る広告モデルはお金の管理も大変です。MrBeastやデビッド・ドブリックさんは、YouTube以外のコンテンツやコンテンツ制作から抜け出す方法を意識しているといいます。
宮武さんは、クリエイターはより頻繁に、より個人的なことを発信するため、今後はブランドの一番の強敵であり、一番連携すべき相手になると見ています。草野さんは、日本の若者に聞いた好きな芸能人ランキングでも7割ほどがYouTuberだったと紹介しました。
1位・コロナでZOOMとD2Cはどこまで進んだか
1位は新型コロナウイルスの流行です。宮武さんは「どのランキングでも1位になりますよね」と苦笑しつつ、多くの業界が打撃を受けた一方で、ZOOMのように需要が伸びた分野もあったと話します。
草野さんは、テレビ番組がZOOMで放送されるのは1年前なら信じられなかったと振り返ります。後半には「ZOOM疲れ」もあり、音楽や教育など特定の分野に特化したツールが増えるZOOMのアンバンドル化 ── 1つのサービスが担っていた機能が、用途ごとの専門サービスに分かれていくことが起き始めていると宮武さんは見ています。
宮武さんは、EC化の象徴としてハインツのケチャップを挙げます。スーパーやレストランに当たり前にあったハインツが、スーパーに行かない人が増えたことでオンラインショップを始めました。ペプシコも、持っていたドメイン「snacks.com」でお菓子を直販しています。
次のシリコンバレーはマイアミにある?
コロナの影響として、宮武さんはシリコンバレーからの撤退も挙げます。サンフランシスコやニューヨークを離れるVCや起業家が増え、人気なのはテキサス州オースティンとフロリダ州マイアミだといいます。
マイアミは天気が良いうえ、市長がTwitterで熱心に人を呼び込んでいます。会ったこともないVCに「マイアミ来ない?」と声をかけ、マットレスのEight Sleepと組んで移住する起業家とVCに20%オフを用意し、Airbnbとも連携したそうです。
なんかマイアミの市長にフォローされた場合、Twitterでマイアミに行かないといけないっていう。
VC業界ではマイアミの市長の勧誘が内輪のジョークになっており、草野さんもMorning Brewの人がマイアミへの移住を表明したやり取りを見たそうです。市長は大手テック企業のリモートワーク拠点にできないかと、TwitterやSpotifyにも話しに行っているといいます。
VCから調達するため、VCやエンジニアの近くにいるためにサンフランシスコに住んでいた
全員リモートになり、物価が高いだけのサンフランシスコに住む意味が薄れた
宮武さんは、テック業界がホームレス問題や物価高騰などサンフランシスコの課題を解決できなかったことも背景にあると話します。来年も完全リモートを続ける企業が出てくれば、なおさらそこに住む理由はなくなります。
残る問いはコミュニティです。宮武さんは、Clubhouseのようなサービスがそれを代替できるかが今後の注目点だとし、草野さんは、エンジニアやデザイナーがTwitchで作業を配信する様子に、同じ場所にいるような感覚の広がりを感じると話しました。宮武さんも、一人になった人たちの「つながりたい」という需要が2020年に大きく高まったと応じています。
まとめ
草野さんと宮武さんの振り返りからは、2020年の出来事がそれぞれ単独のニュースではなく、コロナによる生活の変化、プラットフォームへの信頼と規制、そして個人のクリエイターやファンの力の台頭という流れでつながっていることが見えてきます。
- 10位のClubhouseから1位のコロナまで、音声SNS、ゲーム、TikTokなど「つながり方」の変化がランキング全体を貫いていた
- Appleの手数料、SNSの中立性、Prop 22、独占禁止調査など、ビッグテックとプラットフォームのあり方が問われ続けた
- 大型IPOとSPACの急増により、売上マルチプル約20倍という「バブル」の声も出るほど上場の形が変わった
- BTSやTikTokに見られるように、ファンやクリエイターが自ら作る力が、ブランドより信頼される存在になりつつある
- 宮武さんは、大統領選が残した分断とフィルターバブルを、今後のアメリカで最も心配な点として挙げた


