議事堂の暴動はなぜ「予想できた」のか
この回のきっかけは、1月7日(日本時間)にワシントンD.C.の連邦議会議事堂で起きた暴動です。次の大統領を選出する審議の最中に、トランプ支持者が議事堂へ侵入しました。
暴動の翌日ごろから、トランプ氏のTwitterアカウントが永久停止され、他の主要SNSやAWSを含むプラットフォームからも規制が入りました。保守系SNSアプリのParler ── 2018年に始まった米国のSNS。言論の自由を掲げ、保守層やトランプ支持者の利用が多かったことで知られますも、アプリストアなどから消されています。
草野さんは、この件を単なる政治問題ではなく、インターネットの表現の自由やテック企業への権力集中の問題としてテック業界でも話題になっていると紹介します。そのうえで、Twitterの永久停止は正しかったのか、規制の先にどんな未来があるのかを考えたいと話を振ります。
宮武さんはまず、収録時点でもワシントンD.C.で新たな逮捕者が出ていたことに触れます。爆弾を持っていたという報道もあり、暴動の前日に何が起きていたのかも少しずつ明らかになってきていました。
(暴動者が)明らかに武器を抱えてたり、爆弾を持ってたり、爆弾を設置してたりとか。あとは議事堂の内部を思った以上に理解している。
宮武さんによれば、投稿された動画からも、どの部屋がどこにあるかを把握している人がいたことがわかるといいます。一部の政治家が前日などに議事堂内のツアーをしていたという噂もあり、コロナの影響でツアー自体が禁止されている中で本当なら、暴動者以外にも罪に問われる人がいるのではないかと話します。
さらに宮武さんは、暴動自体が「誰にでも見えていた」と指摘します。さまざまなSNS上で、1月6日(米国時間)に1776年のアメリカ独立革命がもう一度起きる、といった投稿が出ていたためです。
明らかにそういう暴動が行われそうっていうのは、多分FBIとかCIAとかいろんな人たちは予想はできていたはずです。
本当は防げたのではないかという見方もありつつ、内部で何らかの問題があったようで、そこはまだ調査中だと宮武さんは留保しています。
暴動の背景にあるフィルターバブルと選挙制度
宮武さんは、今回の暴動を実行させた背景に、2016年以前から悪化していたフィルターバブル ── 検索やSNSのアルゴリズムが利用者の好みに合う情報ばかりを表示し、異なる意見に触れにくくなる状態を指す言葉ですがあると考えています。草野さんの言葉で言えば、自分が信じる情報に囲まれ、他の情報が入ってこない状態です。
フィルターバブルを生むのはSNSだけではないと宮武さんは言います。保守的とされるFOXニュースも選挙不正があったと強く主張しており、ちゃんとしたエビデンスが出ていない中で、メディアと大統領の両方がそう言えば、本当だと信じる人は多く出てくるという見立てです。
本当に選挙不正が起きたと思っていれば、今回の革命というか暴動っていうのはおかしくないはずなんですよ。
この革命の形はよくないんですけど。でもそれも理解した上で、やっぱりこれを見ないといけない。
宮武さんは、暴動をつくり上げたのはどちらかといえば保守的な人たちだと個人的に考えつつ、その背景には米国の選挙システムの問題もあると話します。大統領選は単純な人気投票ではなく、州ごとに選挙人 ── 米大統領選で州ごとに割り当てられる投票者。多くの州では得票1位の候補が州の選挙人を総取りするため、全国の総得票数と勝敗がずれることがありますの数が決まっている仕組みです。
この仕組みに疑問を持つ人は年々増えていると宮武さんは言います。その根拠として、宮武さんは人気投票(総得票数)の結果を挙げました。
宮武さんは、昨年末の配信で話した「アメリカが2つに分かれている」という課題が、予言どおりの形で続いていると感じたと振り返っています。
Twitterのトランプ停止は正しかったのか?
草野さんは、トランプ氏が暴動について「やめなさい」と言いつつも助長するような発言をしていたことに触れます。そのうえで、Twitterの永久停止をめぐって議論になっているのは、プラットフォーマーがそこまで規制してよいのかという点だと整理します。
宮武さんによれば、米国政府の一部や他国の政府、そしてシリコンバレーで問われているのは、アカウントの削除やブロックをテック企業が決めてよいのかという問題です。誰もはっきりした答えは出していないといいます。
トランプ氏の停止という1件だけを見れば、多くの人は問題ないと考えているはずだと宮武さんは言います。表現の自由は何でも言ってよいという意味ではなく、暴力的な状況をつくる発言はその範囲を超えるため、トランプ氏はその線を越えたというのが多くの人の見方だという説明です。
ただ問題なのが、TwitterとFacebookって全員平等にそれをやってるのかっていうと、平等にやってないんですよね。
ヘイトスピーチをしている人は多くいるのに、全員が止められているわけではありません。宮武さんは、なぜトランプ氏は止めて、たとえばジェノサイドを行った国のリーダーは止めないのか、という議論はあって当然だと話します。
各プラットフォームにルールはなんとなくあるものの、判断は文脈で変わります。しかもFacebookやTwitterはコンテンツを作る側ではなく流通させる側の民間企業なので、米国の現行法では、どの投稿を消し、どのアカウントを削除しても彼らの自由になっていると宮武さんは説明します。
36歳の経営者が世界のコンテンツを決めてよいのか
平等なルールがない限り、各プラットフォームが勝手に選ぶことになる、と宮武さんは続けます。Facebookでいえば、36歳のマーク・ザッカーバーグ氏が最終的に決められる立場にいることになります。
最終的に言うと、シリコンバレーにいるPMが、例えばマレーシアのもしくは日本のコンテンツに対して判断するわけなんですよ。場合によっては。
草野さんは、Twitterはもう大学生向けのSNSやちょっとしたつぶやきのサイトという規模ではなく、国よりも影響力があるかもしれないと応じます。2人とも、Twitterの初期にはこんな問題になるとは誰も思っていなかっただろうと話します。
つぶやきっていうのが、今だと政治を動かすものとか、ニュースの場所とか、根本的にコミュニケーションレイヤーとかになっちゃってるので。
Facebookについても、2016年の米大統領選にどれだけ影響したかが議論されており、国を変える力を持っていると宮武さんは指摘します。だからこそ、米国以外の政府はテック企業の力を怖がっているはずだといいます。
実際に宮武さんは、ポーランドの政治家が、FacebookとTwitterの対応は間違っていると発言したことを紹介します。ポーランドでは、国内で活動するテック企業が同じことをできないようにする法律を作ろうとしているといいます。
影響はSNSにとどまりません。AppleやAmazonなどがParlerを停止し、特にAmazonではAWSがサービスを止めました。宮武さんは、AWSが日本を含むさまざまな政府をクライアントに持っていることに触れ、「いつでも止められる」ことの意味を問いかけます。
パーラーとかもAWSが言ったのは24時間以内に直さない限りは停止しますみたいな。そんなことできるのかなみたいな。
さらに決済系でも、PayPalやShopifyなどがトランプ氏関連のサービスを止めていると宮武さんは話し、どこまで広がるのかという懸念を示します。
停止の判断軸は「安全」か「売上」か
草野さんは、各社の停止判断はビッグテックが集まって決めたものなのかと質問します。宮武さんは、そうした噂は出るものの、今のところエビデンスはなく、大手テック企業がそこまで集まれるケースもないので、おそらくないだろうと答えます。
ただし、各社の判断の軸がどこにあるのかは外部の誰にもわからないと宮武さんは言います。トランプ氏はTwitterの初期からのユーザーで、暴力的なことを誘う発言はこれまでもたびたびしていたため、なぜ過去に止めなかったのかという疑問が出るはずだという指摘です。
(止めた理由は)本当に社会として、例えばアメリカの民主主義を気にしてやってるのか、その人の安全性を気にしてやってるのか、それともお金なのか。
宮武さんが挙げるのは、トランプ氏のツイートが良くも悪くも大きなエンゲージメントを生むという点です。人がツイートを見てTwitter内で時間を過ごすほど広告が見られ、売上につながります。
今回の暴動によって、トランプ氏がもたらす売上が、残すことのリスクを下回ったのではないか、という見方もできると宮武さんは話します。ユーザーが離れて売上が落ちるリスクのほうが高くなった、という考え方です。
そうだっていうのはもちろん言い切れないですけど、やっぱりFacebookもTwitterもAmazon、Apple、Googleとかも全部やっぱり利益のために動く会社なので。
宮武さんは、マーク・ザッカーバーグ氏やジャック・ドーシー氏のようなリーダーはそうした点を考えざるをえない立場にあり、実際にどう考えていたのかがとても気になると話します。各社が公表している理由はほとんどが「暴力を誘う発言をしたため」で、PR上はそう言うしかないだろうという見立てです。
停止後の評判についても、2人は簡単には言えないと話します。宮武さんによれば、TwitterはQアノンなど過激派グループのアカウントも停止しており、その翌週ごろ、FOXニュースの出演者や共和党のリーダーたちが「フォロワーが5万人減った」とテレビで不満を述べていたといいます。
国のインフラになった民間企業を止められるリスク
宮武さんは、TwitterやFacebookが国のインフラになりつつあると指摘します。民間企業でありながら国のユーティリティになっているバランスは、他国から見れば怖いとしか言いようがない、という見方です。
インフラが止められると同じことなんで。いわゆる本当に家だと水道、電気が止められるレベルなので。
草野さんが、米国以外の国は自国のサービスをインフラにしていくのが対策になるのかと尋ねると、宮武さんは流れとしてはそうなるだろうと答えます。一番よい事例として挙げたのは、米国のサービスに一切頼っていない中国です。
宮武さんは、中国のやり方には別の問題があるとしつつ、中国政府はそこにリスクがあることを理解していると話します。そのうえで、各国が自国のインフラを作るようになると見ています。
特に重要なのが決済だと宮武さんは言います。世界で最も強い決済会社であるVISAとMastercardはどちらも米国企業で、米国がクリミアなどに制裁を加えようとした際には、実際に決済が止められたことがあるといいます。
その判断を誰がしたのかは正直わからず、おそらく米国政府だろうと宮武さんは話します。ただ、会社が独自に止めることも可能ではあり、宮武さんは「菅さんが嫌いだからVISAが止まる」ようなことはありえないと思いつつ、可能性としてはあると例を挙げました。
でも今回の件でそれ(インフラ停止)あり得るっていう風になっちゃったんですよ。
宮武さんの整理では、今回の件が変えたのは「可能性の受け止め方」です。
止められる可能性は全員が理解しつつも、ありえない話だと考えられていた
トランプ氏が異例だとしても、実際に一企業が止めたことで、ありうる話になった
その結果、各国や一般の人も、過去のTikTokの話と同じように、1つのプラットフォームに依存する怖さを意識することになると宮武さんは話します。内容を見られている中で、いつ止められるかわからないという怖さです。
Signalへの移行と政府が求める「黄金の鍵」
草野さんは、特定のプラットフォームへの依存への対策として、プライベートチャットのサービスが伸びているという話を持ち出します。宮武さんによれば、Signal ── 米国の非営利団体が運営するメッセージアプリ。通信内容がエンドツーエンドで暗号化され、運営者も中身を読めない設計で知られていますは直近で2500万人の新規ユーザーを集め、Telegramもダウンロードが急増しているといいます。
米国などでは、WhatsAppからSignalへの移行が目立ちます。WhatsAppにデータプライバシーの問題があったことに加え、今回の騒動で、暗号化されたプラットフォームを選ぶ人が増えたという見方です。
シグナルも結局チャットのコンテンツって見ないって言ってるので、彼らのシステム上見れないんですよ。
宮武さんは、自分専用のメールサーバーを作り、Gmailを使わなくてもよくするサービスも出てきていると紹介します。ただし、政府はそうした流れを嫌がるといいます。一般市民が使うと、犯罪が起きたときにFBIやCIAがやり取りを調べにくくなるからです。
そこで各国政府は、テック企業に「ゴールデンキー(黄金の鍵)」、つまりシステムのバックドアを作るよう求めていると宮武さんは説明します。ほとんどのテック企業は拒否しており、作ったとしても政府側で守れるのかという問題が残ります。
(鍵を)その辺に放置したら、誰でも入れちゃいます。
宮武さんは、米国政府のシステム自体がハッキングされている事実を挙げます。例として紹介したのが、SolarWinds ── 米国のIT管理ソフト企業。2020年に同社製品が悪用された大規模なサイバー攻撃が発覚し、多くの政府機関や企業が影響を受けましたがハッキングされた件です。
宮武さんによれば、侵入者はWindowsのソースコードを見られたほか、米国の司法省や裁判所のデータにもアクセスできたといいます。FBIが隠している証人の情報が漏れた可能性もあり、ハッキングしたのは米国ではなく外国だと話します。
鍵なんか置けないじゃないですか。何が正解なのかなっていうことになるんですよね。
草野さんは、プライバシーは守られるべきだと考えつつ、事件が起きて証拠が必要になったときにどうするのかという難しさ、そして1つの会社に依存しない世界を作る難しさを口にします。
レコメンドが過激派を生むなら、どこで止めるべきか
実際に犯罪が起きれば、それを可能にしたプラットフォームを責めるのかという話も出てきます。宮武さんは、FacebookやTwitter、今後はSubstackなどにも、より強いコンテンツモデレーションを求める指示が出るだろうと予想しつつ、それが正しいのかはわからないと話します。
一方で宮武さんは、チャットと違い、YouTubeやFacebookはどのコンテンツを出すかをすでにコントロールしていると指摘します。YouTubeでは、全体の利用時間の7割がレコメンド機能から来ているといいます。
宮武さんが説明する、レコメンドから過激派グループへの流れは次のとおりです。
視聴・閲覧
ユーザーがある動画や投稿を見る
レコメンド
似たようなコンテンツが次々に推薦・自動再生される
フィルターバブル
同じ傾向の情報ばかりに囲まれていく
過激派への参加
過激派グループに入る人が出てくる
宮武さんによれば、Facebookの社内調査では、過激派グループに参加するメンバーの3分の2ほどがFacebookのレコメンドアルゴリズム経由だとわかっているといいます。Qアノン ── 米国発の陰謀論、およびそれを信じる人々の運動。トランプ氏が闇の勢力と戦っているといった主張が特徴で、議事堂の暴動にも支持者が加わったとされますはFacebook上で約300万人のメンバーがいるため、およそ200万人をFacebookが「採用」した計算になると宮武さんは話します。
200万人も採用したってまあまあな犯罪になる気がするんですけどね。普通に考えると。
ただ、止めた瞬間にそれは「ダメなもの」と決めたことになります。宮武さんは、結局はどのタイミングで止めるべきなのかという問いに戻ってくると言います。
モデレーションの強化に従えば、テック企業はどんどんアカウントを止めるしかなく、場合によってはGmailが止まることもありえます。その判断は人やアルゴリズムが行うため、必ずバイアスがかかると宮武さんは指摘します。
例えばいちGOOGLEのエンジニアが、例えばスパムのアルゴリズムをちょっと変えるだけで、全部例えばトランプのメールが、もしくは共和党のメールがスパムに行く可能性って出てくるんですよね。
草野さんが「そもそもメールを見ていること自体が問題では」と疑問を投げると、宮武さんは、Gmailの規約ではメールを見られる権利があるとされていると答え、そのバランスが問題だと話します。
表現の自由の線はどこに引かれるのか
草野さんは、AppleやGoogleにアプリを消された側の立場にも触れます。自分がParlerのユーザーだったら、発言できる場所がどんどんなくなっていくと感じるかもしれない、という視点です。
宮武さんは、表現の自由の論点について、理解できる部分とできない部分があったと話します。大統領であるトランプ氏は、ホワイトハウス経由やテレビカメラの前で発言できますし、自分のプラットフォームを作ることもできます。
例えば自分のサイトを作って、トランプドットコムみたいなのを作ったとしても、DNS、いわゆるドメインを提供してる会社が嫌ですって言ったら終わりじゃないですか。
TwitterとFacebookの停止がOKなら、他のプラットフォームでも同じことがOKになるのか。宮武さんは、どこで線を引くのかが正直見えないと話します。
草野さんも、サイトを立てても多くの人が使うSafariやChromeで見られなくなれば、見ることはできても難しくなると応じます。宮武さんは、ブラウザがhttpsでないサイトにセキュリティ警告を出す仕組みを例に、トランプ氏のサイトがその分類に入れられたら多くの人が見なくなると説明しました。
そこまでもちろんやらないと思うんですけど、でもその保証ってどこにもないので、今だとそれがなくなったので。
解決策として宮武さんが挙げるのは2つです。1つは、テック企業が好き勝手できてしまう現行法の一部の見直しで、ただしどう変えるべきかは非常にわかりにくいといいます。もう1つは、政府側にテックリテラシーの高い人をもっと入れることです。
草野さんは、米国はテック企業が強いので政治家もテックに強いと思っていたと驚きます。宮武さんによれば、一部のスタッフや政治家は詳しいものの、上院・下院の議員の多くは明らかに理解できていないといいます。
宮武さんは、2018年ごろから続く議会のテック企業ヒアリングで、Facebookがどうやってマネタイズしているのかと質問する議員がいたことを例に挙げます。事前に調べればわかる話であり、そこは変えなければならないという考えです。
宮武さんは、今年はさまざまな政府が自国のインフラを見直すことになるだろうと見ています。2人は、きちんとした解決法が今のところないこの問題を、引き続きウォッチしていきたいと話して締めくくりました。
まとめ
トランプ氏のTwitter永久停止は、1件だけを見れば妥当と考える人が多い一方で、民間企業が世界の発言の場やインフラを止められることを示した出来事でもありました。宮武さんと草野さんは、規制の基準、利益との関係、インフラ依存、プライバシーと捜査の両立まで、どの論点にも明確な答えがないことを確認しています。
- 暴動の背景には、SNSやメディアが強めたフィルターバブルと、選挙制度への不信があると宮武さんは見ている
- 米国の現行法ではプラットフォームは投稿やアカウントを自由に消せるが、適用が平等でなく、判断の軸も外からは見えない
- 「ありえない」と思われていたインフラ停止が現実になり、各国が自国インフラを見直す流れが予想される
- Signalなど暗号化サービスへの移行が進む一方、政府はバックドアを求め、その鍵を守れるのかという問題が残る
- 解決には法の見直しと、政府側のテックリテラシー向上が必要だが、具体的な線引きはまだ見えていない


