1時間の深掘りでは追いつかない?ニュース回を始めた理由
Off Topicは、アメリカを中心にテックニュースやスタートアップ、ビジネス情報をゆるく深掘りする番組です。今回は、いつもの1テーマ深掘りとは違い、最近のテックニュースを複数取り上げる新しいフォーマットで進められました。
本題の前に、11月1日に開催予定のOff Topicのミートアップについての告知がありました。宮武さんは、リスナーと話す機会がこれまで多くなかったため、直接会えることを楽しみにしていると話しています。
(応募時に)来てる質問を読んでますけど、それだけでも1時間で終わっちゃうのかなって思っちゃうので。
イベントでは学生などを中心に当日スタッフも募集しており、応募フォームも用意されたと草野さんは説明しています。今後もイベントを続けていきたいという意向も語られました。
ニュース回を始めた理由について、宮武さんは収録から公開までの時間差を挙げます。通常回は1つのテーマを1時間かけて掘り下げる形で、それ自体は続けるものの、作ってから1か月後に出すと足りないコンテキストが多いと感じていたといいます。
1つのテーマを約1時間かけて深掘りする。収録から公開まで時間がかかる
直近1か月の話題を複数取り上げ、約30分でゆるく話す
OpenAIの66億ドル調達は何がすごいのか
最初の話題は、OpenAIの大型資金調達です。宮武さんによると、OpenAIは66億ドルを調達し、時価総額は1570億ドルになりました。草野さんは円に換算し、調達額は約9700億円、評価額は約23兆円だと補足しています。
23兆円ですね。なんかもう額がわかんなくなっちゃいますよね、これは。
宮武さんは、66億ドルという額は1回のVC ── ベンチャーキャピタルの略。成長が見込まれる未上場企業に出資し、上場や売却で利益を得ることを目指す投資会社ですラウンドとして過去最高額と言われていると紹介しました。リード投資家のスライブは、このラウンドだけで13億ドルを出資しています。
草野さんが「あの騒動」以降ずっと準備していたのかと尋ねると、宮武さんは、その間にもテンダーオファー ── 既存株主や従業員が保有株の一部を投資家に売却できる仕組み。未上場企業でも株を現金化する機会になりますが何度か行われ、そのたびに時価総額が少しずつ上がっていたと説明しました。そのうえで、サム・アルトマンが資金調達に非常に長けた人物であることも理由に挙げています。
スライブには、来年同じ評価額で10億ドルを追加出資できるオプションが付いているといいます。他の株主にはない条件で、噂ではスライブがこの投資を強く望んでいたそうです。
ほかの出資者として、宮武さんはMicrosoftが10億ドル弱、NVIDIAが1億ドル、ソフトバンクが5億ドルと言われていると紹介しました。タイガーグローバル、アークインベストメント、アルティメーターなども大型の出資をしています。
Appleが出資を見送ったのは正しい判断か
出資が噂されていたAppleは、今回の調達には参加しないと判断したといいます。草野さんに意見を聞かれた宮武さんは、Appleの判断は正しいと考えていると答えました。
個人的には、正しいと思います。Appleとして、OpenAIに出資する意味合いがそこまでないのかなと思うので。
宮武さんの見立てでは、AppleはWWDCでChatGPTとの連携を発表したものの、今後はAnthropicやGoogle Geminiなど他のモデルも組み込むと考えられます。そのためAppleはChatGPTにこだわる必要がない、というのが宮武さんの考えです。
今回のラウンドには興味深い条件も含まれていたといいます。1つは、OpenAIに出資した投資家にはAnthropicやxAIなど、LLMを作る競合スタートアップへ出資しないよう求める会話があったという話です。宮武さんは、実際どこまで本当かはわからないと留保しています。
もう1つは、OpenAIが2年以内に非営利団体から営利団体へ移行しなければ、投資家がお金を引き戻せるという条件です。宮武さんは、投資家は営利化を前提に出資していると説明しました。
当初
異なる目的のために非営利団体として始まる
アルトマン解任騒動後
ガバナンスの形態が正しいのかという議論が高まる
外部資金の増加
外部からの調達が膨らみ、営利団体へ移行せざるをえない状況に
今回のラウンド
2年以内に営利化しなければ資金を引き戻せる条件が付く
営利化に関連して、ブルームバーグの記事などでは、サム・アルトマンが株式の7%を受け取るという噂も出ていました。現在アルトマンの持ち株はゼロですが、宮武さんによれば、7%という話自体はアルトマン本人が否定しており、定かではないとのことです。
幹部が次々と去るOpenAIで何が起きているのか
草野さんは、OpenAIの組織をめぐるミームを大量に見かけたと話します。経営メンバーの集合写真から1人ずつ姿が消え、最後にサム・アルトマンだけが残るという内容です。
宮武さんは、そのミームには続編があったと紹介しました。アルトマンだけが残った後、彼が保有するとされる高級車やプライベートジェットが写真に入れ替わるというものです。宮武さんは、あくまでミームであり、正しいか嘘かという話ではないと断っています。
では、なぜ幹部が辞めていくのか。宮武さんは、今年だけで共同創業者を含めて9人ほどの経営メンバーが辞めていると指摘し、これは重要なポイントだと話しました。
OpenAIってこれだけ伸びていて、これだけすごいって言われてるのに、経営メンバーがこれだけ辞めるっていう事例、多分誰も見たことないと思うので。
草野さんは、アルトマンが解任されかけたときには社員が引き留め、人望の厚さが印象づけられたのに、今は逆のことが起きているようだと振り返ります。宮武さんも、当時みんなが「OpenAI is nothing without its people」とハートを添えて投稿していたことに触れました。
その人たちがいなくなってるじゃんっていう。
宮武さんは退職の背景として、いくつかの要因を挙げています。安全性をめぐってアラインメントチーム ── AIを人間の意図や価値観に沿って動作させるための研究を担うチーム。OpenAIではイリヤ・サツケバー氏らが関わっていましたと方針が噛み合わなかったことや、事業の方針やスピード感への違和感などです。
直近で最も注目されたのは、CTOのミラ・ムラティさんの退任です。宮武さんは、ムラティさんがかつてアルトマンを解任する側にいたことから、政治的な事情もあったのではないかと推測しています。ただし、本人はそれほど積極的に動いたわけではないだろうとも付け加えています。
もう1つの要因として宮武さんが挙げたのが、株式の流動化です。OpenAIの成長を信じていても、テンダーオファーで株を部分的に売却できるうえ、自分で会社を立ち上げることもできます。宮武さんは、ムラティさんが起業すれば5億ドルほどの評価がついてもおかしくないと話しました。
草野さんが、出資したVCは幹部の退職を知っていたのかと尋ねると、宮武さんは、退職の発表後にクロージングしているので、その事情を踏まえて投資したはずだと答えています。
赤字50億ドルでも伸びるOpenAIの数字
宮武さんは、ニューヨーク・タイムズなどが報じたとされるOpenAIの業績予測を紹介しました。今年の売上は約37億ドル、赤字は約50億ドルの見込みで、来年は116億ドルの売上を想定しているといいます。
| 項目 | 数字 | 補足 |
|---|---|---|
| 今年の売上見込み | 約37億ドル | 赤字は約50億ドルの見込み |
| 来年の売上想定 | 116億ドル | — |
| 有料ユーザー | 1000万人 | 月額20ドル。今後値上げ予定 |
| 従業員数 | 約1700人 | — |
| ChatGPTの利用者 | 週2.5億人/月3.5億人 | ウィークリー/マンスリーアクティブユーザー |
こうした数字から、宮武さんはOpenAIが大きく成長している状況だとまとめました。
草野さんに使っているか聞かれた宮武さんは、ChatGPTを特定のタスクやちょっとしたリサーチ、日本語のメール作成などに使っていると答えています。
(ChatGPTに)話しかけながら仕事はしたいなとは思うんですけど、なかなかそれまで自分のワークフローが変えられてないっていうところですね。
「オライオン」と読む?MetaのARグラスと英語回の脱線
2つ目の話題は、MetaがARを活用したスマートグラス「Orion」を発表したニュースです。草野さんが流暢な英語の発音で読み上げたため、宮武さんが思わず笑ってしまう場面から始まりました。
オライオンって言うのかなと思ったら、すごい英語のアクセントでめっちゃ上手かったんですけど、びっくりしました。
日本語ではオリオンと読みそうですが、宮武さんによると、発表時にマーク・ザッカーバーグが「オライオン」と呼んでいたので、それが正確だろうとのことです。
ここから話は脱線し、2人は英語回をやってみるのも面白いかもしれないと盛り上がります。英語で話すと性格が変わるのかという話になりかけたところで、草野さんが「話ずれすぎちゃう」と軌道を戻しました。
98グラムのOrionはなぜ販売されないのか
宮武さんによると、Orionはもともと販売予定だったデバイスですが、結果的に販売はせず、披露だけにとどまりました。噂されている価格は1台あたり1万ドル、約150万円で、これでは消費者向けには売れないだろうと宮武さんは見ています。
草野さんは、最初は見た目がゴツいと感じたものの、レビューでは非常に評価が高いと指摘します。宮武さんも、試せた人は限られているとしたうえで、まず軽さが評価されていると説明しました。
約98グラム。Vision ProやQuest、Snapchatのスペクタクルズより圧倒的に軽い
約35グラム
宮武さんは、Snapchatのスペクタクルズ ── Snapが手がけるスマートグラス。カメラ付きモデルを経て、AR表示に対応したモデルも開発されていますはレビューを見る限り明らかに大きいメガネに見えたのに対し、Orionは割と普通のメガネに見える点がすごいと話しています。
Orionは3つのデバイスで構成されています。ディスプレイが表示されるメガネ本体、処理を担うコンピューターのような「パック」、そして指先で操作するための手首のセンサーです。目の動きだけでなく指先でもコントロールでき、宮武さんはヘッドセットと違い、かけたまま外を歩き回れる感覚のものだと説明しました。
草野さんがいつ使えるようになるのかと尋ねると、宮武さんは、今回のOrionは約1000台しか作られておらず、おそらく販売されないと答えます。消費者向けには後継のOrion 2を出したいという話だそうです。
売らないのに披露した理由と「スマホなしの世界」
宮武さんは、Orionには「なぜ販売しないのに出したのか」と「デバイスとしてどこまですごいのか」という2つの大きな疑問があると整理しました。
披露した理由の1つは、投資家からのプレッシャーだと宮武さんは見ています。MetaのVR・AR部門であるReality Labs ── MetaでVR・AR関連の製品開発を担う部門。Questシリーズなどを手がけ、巨額の赤字が続いていますはコストが年々膨らみ、年間2兆円ほどの赤字を出しているとされます。それが本当にペイするのかという疑問に対し、きちんと成果を出していると示す狙いがあったのではないか、という見立てです。
もう1つの理由として、宮武さんは従業員のモラルを挙げています。評価されるような良い取り組みをしていると社内外に示すためでもある、と話しました。
草野さんは、いろいろな方向に向けたPRだったと受け止めています。
デバイス自体については、手首のコントローラーと組み合わせたUIも非常に良いという声が多いといいます。宮武さんが個人的に気になったのは、何人かが口にしたある感想でした。
宮武さんは、昨年末あたりからAIウェアラブルがいろいろ登場してきたものの、スマホなしの世界が見えたという感想が出たのは本当に初めてな気がすると話しています。草野さんも「なおさら使ってみたい」と応じ、宮武さんはMetaの関係者にぜひ使わせてほしいと呼びかけました。
話は、発表時のマーク・ザッカーバーグのファッションにも及びました。草野さんは、オリジナルのTシャツを作るなどのセルフブランディングが、自分がウェアラブルを着けたときに最高にイケている状態を演出する点で、製品発表とぴったり合っていると評価しています。
宮武さんも、この1年ほどでザッカーバーグのイメージが大きく変わったと同意しました。キーチェーンを着け、日焼けし、日本に来てマクドナルドを食べるといった姿が話題になり、草野さんは「オーセンティックになられて」と表現しています。宮武さんは、Metaより他の企業のほうが悪く見られるという業界全体の空気の変化にも、うまく乗っているように感じると話しました。
月4ドルのCNNペイウォールはなぜ難しいのか
3つ目の話題は、CNNのペイウォール導入です。宮武さんによると、CNNは少なくともアメリカではオンラインニュースサイトの中で最も訪問者数が多く、これまで無料で記事を提供してきました。
テレビ事業が圧倒的に儲かっていたため、サイトの記事は無料で出せた
テレビ市場の縮小を受け、一定の記事数を超えると月額3.99ドルの支払いが必要に
宮武さんは、新CEOが就任したことも、この大きなシフトの背景にあると説明しました。基本的には無料で読めるものの、毎月一定の記事数を超えると課金が必要になり、無制限に読むには月額3.99ドル、約4ドルを払う仕組みです。
草野さんは、日本円で約570円なら、他のメディアと比べて高くないのではと問いかけます。宮武さんは、高くはないものの、そこが難しいところだと答えました。
難しさの1つは、読者がCNNのファンかどうかです。もう1つは、コンテンツがどこまでコモディティ化 ── 製品やサービスの差がなくなり、どこで手に入れても同じだと見なされる状態。価格以外で選ばれにくくなりますしているかだと宮武さんは指摘しています。
もうちょっと一般的なニュースがメインにフィーチャーされてるのであれば、それだったら他のところに行けばいいじゃんってなっちゃうので。
宮武さんの考えでは、ニューヨーク・タイムズのように調査報道を多く手がけるなら払う価値が生まれます。一方で、一般的なニュースが中心なら読者は他へ流れるため、高い料金を払う人は多くないというわけです。
ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト有料化はニュース以外にも広がるか
草野さんは、似た話としてニューヨーク・タイムズの人気ポッドキャストの一部がサブスクリプションに移行するニュースを取り上げました。対象には「The Daily」「The Ezra Klein Show」「Hard Fork」「Modern Love」などが含まれます。
宮武さんの説明では、直近の2〜3エピソードは無料で聴けるものの、それ以前のアーカイブは月額6ドルほどを払わないと聴けない仕組みです。宮武さんは草野さんに、このトレンドはニュースに限られるのか、ポッドキャスト業界全体に広がるのかと尋ねました。
草野さんは、コンテンツが多すぎてサブスクリプションの数も増え続けていると指摘します。見たい番組が多いからこそリスナーを囲い込んだほうがよく、過去回まで聴きたい人は本当のファンに限られるので、ありな選択ではないかと答えました。
草野さんは、有料化に向くコンテンツとそうでないものを分けて考えています。ニューヨーク・タイムズに寄せられた話をMCが語る「Modern Love」のように、そこでしか聴けない話と質の高い編集を兼ね備えた番組は、コモディティ化しにくいオリジナルなものだといいます。
そこでしか聴けない話、質の高い編集、エズラ・クラインのように話し手のトーク自体に価値がある番組
セレブのインタビューなど、フリーのものでも十分楽しめるインタビュー系
宮武さんは、アーカイブには価値があると応じつつ、ニュース系は過去回を振り返るユーザーが少ないため、普通のインタビュー番組に比べると価値は小さいかもしれないと補足しました。そのうえで、インターネットの登場以来メディア業界が抱えてきたマネタイズの課題の一環として、こうした有料化を捉えています。
ホストが語る有料化告知と、ポッドキャストの強み
草野さんは、エズラ・クラインの番組と「Modern Love」が有料化を知らせるエピソードを実際に聴いたといいます。ホスト本人が告知することで「今までありがとう」という気持ちになり、サブスク加入者向けに質問コーナーなど新しい企画をやると伝えていた点が印象に残ったそうです。
ホストドリブンで話が聞けるっていうのは、やっぱポッドキャストの強いところだなって。
草野さんは、ホストの声で直接語りかけられる点が、紙や文字のメディアとは違うポッドキャストならではの強みだと感じたと話しています。
宮武さんは、ニューヨーク・タイムズが最近アプリをリデザインし、ニュース以外にゲームなどのコンテンツも組み込んだことに触れました。今後はポッドキャストもアプリにより深く組み込まれるのではないかという見立てに、草野さんも面白そうだと応じています。
草野さんは、メディアを運営する側として、こうしたメディアには生き残ってほしく、個人的にもお金を払うようにしたいと話しました。
最後に2人は、30分前後で最近のニュースを話すこの形式をたまにやってみたいとし、続けるかどうかはリスナーの反応を見て決めたいと呼びかけて回を締めくくっています。
まとめ
今回のOff Topicは、直近のテックニュースを複数取り上げる新しい試みでした。OpenAIの過去最大級の調達と幹部流出、MetaのOrionが示した「スマホなしの世界」、そしてCNNやニューヨーク・タイムズの有料化から、テックとメディアのビジネスの転換点が見えてきます。
- OpenAIは66億ドルを調達し評価額は1570億ドルに。2年以内の営利化が前提とされる一方、今年だけで9人ほどの経営メンバーが退任している
- 宮武さんは、Appleの出資見送りを、ChatGPT以外のモデルも組み込めるため正しい判断だと見ている
- MetaのOrionは約98グラムと軽く、販売はされないものの、試した人から「スマホなしの世界が見えた」という声が出ている
- CNNの月額3.99ドルのペイウォールは、一般的なニュースが中心だと読者が他へ流れやすいという難しさを抱える
- ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト有料化について、草野さんは、そこでしか聴けない話やホストの語りに価値がある番組ほど成り立ちやすいと考えている





