Metaはメタバースを何層で捉えているのか?
この回は、前回のデバイス中心の話を受けて、Metaのメタバース戦略そのものを扱います。宮武さんは、バーチャル空間はVRヘッドセットを必ずしも必要としないため、ヘッドセット以外の話もしなければならないと前置きしています。
宮武さんによると、Metaはメタバースを3つの大きなレイヤーで見ています。基盤レイヤー(ハードウェア・プロトコル・スタンダード)、プラットフォームやネットワークのレイヤー、そして体験のレイヤーです。
多くの人は、Horizon Worlds ── Metaが提供するVR上のソーシャル空間サービス。ユーザーがアバターで集まり、ワールドを作ったり遊んだりできますやSNSアプリの印象から、Metaは体験レイヤーに力を入れていると考えがちです。宮武さんは、実際のMetaは最初の2つのレイヤーをより強調していると話しています。
3つのレイヤーに共通するテーマとして、Metaは相互運用性を重視しています。Off Topicでは前年5月にもメタバースの相互運用性の課題を扱いましたが、宮武さんは、空間をまたぐときのルールやスタンダードについて、解決策はいまだ見当たっていないと指摘します。
あの、いまだにその課題解決のソリューションが、残念ながら見当たってないっていう。
ブロックチェーンのような技術の候補はあるものの、実体として成り立つには多くのハードルがあるといいます。Metaはそこを解決するためのメタバースチームを作っている、というのが宮武さんの整理です。
HTMLやGIFが示す「スタンダード」の力
基盤レイヤーについて、宮武さんは、Metaがデバイスだけでなくスタンダードやプロトコルも作っていると話します。スタンダードの例として挙げられたのは、インターネット上のHTMLや、ハードウェアのUSBポートです。
宮武さんが特に詳しく紹介したのが画像形式のGIF ── 画像ファイル形式の一つ。読み方は「ジフ」と「ギフ」で長年論争があり、番組内でもどちらなのかという話題になっていますの成り立ちです。1980年代ごろまでは、各コンピューター会社が画像を表示する言語を個別に作っていたため、違うブランドのパソコン同士で画像を共有するのがとても難しかったといいます。
各コンピューター会社が独自の画像表示言語を作り、他ブランドのパソコンとの画像共有が困難だった
1987年にCompuServeのエンジニアがユニバーサルな画像共有の形式としてGIFを作った
宮武さんは、こうしたスタンダードやプロトコルが、オープンインターネットでは非常に重要なイノベーションだったと位置づけます。草野さんが「JPEGやPNG、MP3もそうした言語なのか」と尋ねると、宮武さんはまさにそうだと答えています。
話はオープンソースとクローズドの争いへ広がります。宮武さんは、Googleで「オープンソースのAIに負けるのではないか」という社内文書が出ていたことに触れ、MetaがLlama ── Metaが公開した大規模言語モデル。番組では完全オープンソースのAI言語モデルとして紹介されていますをオープンソースにしていることを挙げます。
インターネット自体も、昔はクローズドとオープンの戦いがあったといいます。Sun MicrosystemsのSolarisやJava、MicrosoftのWindowsやASPといった独自インフラ側は負け、オープンソースのLinuxとApacheが勝ったため、今のインターネットはLinuxがベースになっていると宮武さんは説明します。
Sun MicrosystemsのSolaris・Java、MicrosoftのWindows・ASP。結果的に負けた側
LinuxとApache。多くの人を集めて普及し、今のインターネットの土台になった
ReactからPyTorchまで、Metaが開発者に配ってきたもの
宮武さんは、Metaにはこうしたベーシックなインフラを作ってきた実績があると話します。例として、ウェブやモバイルアプリを作るフレームワークのReact ── Metaが開発したユーザーインターフェース構築用のJavaScriptライブラリ。現在、多くのウェブサービスで使われていますが挙げられました。
機械学習のフレームワークであるPyTorch ── 機械学習・深層学習向けのオープンソースのフレームワーク。研究から実サービスまで広く使われていますについては、もともとMetaが作ったものの、今はMetaが持っていないといいます。草野さんが「売ったのか」と聞くと、宮武さんはLinux側にオーナーシップを移したと答えています。
ちなみに例えばChatGPTってPyTorchで開発されたりとか。
宮武さんによると、Googleのシステム以外では、特にAI関連でPyTorchを使う人が多いそうです。そのうえで、Metaはいろいろな意味で開発者コミュニティに貢献していると評価しています。
ほかにも、Metaは数ヶ月前に音声とテキストを相互に変換する翻訳AI「Massively Multilingual Speech(MMS)」をオープンソースで出しています。草野さんは開発者からの見え方を尋ね、自身はAIモデルの公開で初めて気づいたと話しました。
僕もそこでようやくなんか、Metaって結構やってるんだっていうのを思ったので。
AppleとMetaは同じことで互いを批判している?
宮武さんは次に、メタバースでのポジショニングをAppleと比べます。AppleはVision Proをパーソナルコンピューティングデバイスとして出し、MetaはQuestをソーシャルプロダクトとして出している、という違いです。
ユーザーが世界とインタラクションするためのツール。パソコンの置き換えに近く、他人が関わるかどうかは問わない
人と人のインタラクションを強調したテクノロジー。デジタル上でつながることを重視する
宮武さんが面白いと感じたのは、両社が相手を「同じこと」で批判している点です。どちらも、相手のデバイスはより孤独を生むと言い、自分たちはそうではないと言い切っているといいます。
ただし、批判のアプローチは正反対です。Metaはデジタル上でいろいろな人とつながるソーシャルな機能が大事だと推し、Appleはフィジカルで周りの人とインタラクションするのが大事だと主張しています。
AppleはVRヘッドセットについて、後ろから肩を叩かれても何が起きたかわからず、ひどく驚いてしまう体験が嫌だと話していたそうです。そのためVision Proでは、没入した体験の最中でも、誰かが自分を見るとその人の顔が出てくるようになっています。
Appleが言ってたのは、違う場所に連れて行きたくないですと。そのVision Proを使って。今の世界に追加をしたいですと。
思想は確かに違いますね。
両社が大事にする「プレゼンス」とは何か
AppleとMetaのもう一つの共通点として、宮武さんは、両社とも「プレゼンス」という言葉をとても大事にしていると話します。プレゼンスは、マーク・ザッカーバーグさんがMetaへの社名変更時にも強調していた概念で、相手が本当にそこにいるかのように感じられるかどうかを指します。
Appleはプレゼンスを高める機能をVision Pro以外にも出しています。例として挙げられたのが、AirPodsの会話認知の機能です。
AirPodsにはノイズキャンセルと、周りの音が聞こえるTransparency Mode ── AirPodsの外部音取り込みモード。日本語では「外部音取り込みモード」と呼ばれ、イヤホンをしたまま周囲の音が聞こえますがあります。今後のAirPods Proでは、誰かが話しかけてきたときに自動でノイズキャンセルを弱めたり、音楽の音量を下げたりする機能が加わると宮武さんは紹介しています。
それ便利。え、そんなことになってるんですか。
宮武さんは、この機能もその場をしっかり理解して体験を提供するという点で、プレゼンスを高める取り組みの一つだと位置づけています。
空間ビデオは記憶をたどるタイムトラベルになるか
Vision Proのデモでは、大画面で映画を観る体験とは別に、「空間画像」と「空間動画」が紹介されました。誕生日のシーンを映したデモ映像は、フラットな画面ではなく、周りがぼやけて奥行きがあり、記憶や夢のように見えるといいます。
えー、混じってますね、リアルと確かに。
また、3Dの映画を観ている最中に画面の前に手を挙げると、目を覆うタイプのデバイスでは手が消えてしまいます。Vision Proでは手がちゃんと目の前に現れるようになっていると、宮武さんは説明します。
現時点では、3D画像や3D動画はiPhoneでは撮れず、Vision Proのヘッドセットでしか撮れないそうです。それでも、実際に体験した人たちの何人かが共通して使っていた表現が「タイムトラベル」でした。
(Vision Proで)例えば自分の子供の誕生日会を撮った時に、本当にその場にいたような感じで再現ができる。
宮武さんは、将来iPhoneでも3D撮影ができるようになるかもしれないと話します。誕生日会で複数人がスマホで撮影すれば、複数のアングルをつなぎ合わせて、現場をより再現できるようになる可能性もあるといいます。
草野さんは、結婚式のように本当に残しておきたいイベントを、記憶をたどるタイムトラベルのように保存できるなら「夢がありますね」と応じています。
Zoomでは得られない会話の再現は、なぜ難しいのか
宮武さんは、ミーティングもプレゼンスが問われる場面だと話します。これはMetaも強調している点で、Zoomではどうしても本当にその場にいる感じはしないため、AppleもMetaもアバターや3Dのペルソナで、相手と本当に話しているような体験を作ろうとしています。
Zoom飲みみたいなのも前ありましたけど。なんか違いますもんね。
パソコン越しの会話には目線の問題もあります。相手の顔を見ようとするとカメラ目線になれない、という点です。宮武さんによると、リアルな会話をバーチャル空間で再現するのは、3Dアバターを置いて音声をイヤホンに流すだけではできないほど難しいといいます。
宮武さんは、テーブル越しに話していて、相手が少し右側に座っている場面を例に、Appleの音声の工夫を説明しています。
最後の反響の再現について、Appleは「音声レイトレーシング」と呼ばれる技術を持っているそうです。周りの空間をモデルとしてレンダリングし、音がどう跳ね返るかを計算して出力します。長い廊下でのエコーのような響き方まで再現しようとしている、と宮武さんは説明しています。
Vision Proの「目」はどうやってアイコンタクトを取るのか
Vision Proには、装着している人の目を外側に表示する「アイサイトディスプレイ」があります。デモ参加者はまだ使えていないものの、宮武さんはその仕組みに注目しています。
目を1枚のディスプレイに映すだけだと、横や斜めから見たときに変に見え、アイコンタクトが取れません。草野さんも、横から見ると目が引き伸ばされたように見えるのではと想像しています。
Appleはこの問題をレンチキュラーレンズ ── 見る角度によって異なる像が見える曲面状のレンズ。角度で絵が変わるカードなどにも使われていますで解決しています。ディスプレイに複数の曲がったレンズを配置し、見る角度に応じて別のレンズ越しの像が見えるため、どの角度からでもアイコンタクトが取れるといいます。
さらにVision Proはユーザーの目をずっとモニタリングしているので、まばたきをするとディスプレイ上の目もまばたきします。
やっぱりそれを今まで誰もやってこなかったっていうのが、なんかAppleのすごさでもあるかなっていうふうに思いますよね。
12ミリ秒の壁と、プレゼンスを支えるチップ
音声やアイサイトディスプレイを実現するにはチップが必要だ、と宮武さんは話します。Metaも、Microsoftから経営人材を採用してチップ戦略を作り直し、AIだけでなくAR向けにも自社でチップを開発しているそうです。
チップが重要になる理由は、メタバース空間でリアルタイム性が求められるからです。相手は実際にはリアルタイムで反応しているのに、アバターの反応が少しでも遅れると違和感が出てしまいます。
途中で草野さんが「Metaの話ですよね、今回」とツッコみ、宮武さんが「Appleの話ばっかりしてる」と認める場面もありました。それでも話はVision Proのチップに戻ります。
Vision Proには、パソコンにも使われるM2チップと、Vision Pro用に作られたR1チップの2つが入っています。R1チップはリアルタイムコンピューティングを可能にするためのものです。
VRやARでは、自分の動きと表示のあいだにラグが起きます。宮武さんによると、人が許容できるラグは12ミリ秒で、それを超えるとめまいや気分の悪さにつながるといいます。VRで気分が悪くなる理由の一部は、体の動きが少し遅れて表示されることへの違和感です。
(外部カメラで撮った周りの映像の表示を)それを全部12ミリ秒以内でやってるんですよ。
Vision Proのパススルー ── ヘッドセットの外部カメラで周囲を撮影し、その映像をディスプレイに映すことで、装着したまま周りが見えるようにする技術では、ユーザーは周りを直接見ているのではなく、ディスプレイの映像を見ています。宮武さんは、MetaのQuest 3にもパススルー技術があるため、どこまでラグを抑えられるかが注目点だと話しています。
プレゼンスが実現すれば、完全リモートは可能になる?
宮武さんは、伝えたいのは「Appleがすごい」という話ではないと整理し直します。プレゼンスを作るには技術的なハードルが非常に高いものの、両社ともそれをとても重要だと言っている、という点が本題です。
今までのテクノロジーでプレゼンスを、本当のプレゼンスを作れたテクノロジーはないっていうのを(マークさんは)言ってるんですよ。
草野さんは、パソコンもiPhoneもビデオ通話も、結局「画面だよね」という感覚があると応じます。宮武さんは、アイコンタクトや細かい表情、手や体の動きまで見えることがプレゼンスの重要なポイントだと話します。
ここで宮武さんは、OpenAIのサム・アルトマン ── OpenAIのCEO。ChatGPTを開発した同社を率いる人物ですさんの発言を紹介します。テック業界の大きなミスの一つは完全リモートでずっと仕事ができると思ったことで、その理由はテクノロジーがまだ追いついていないからだ、という内容です。
宮武さんは、プレゼンスがあれば完全リモートの課題は解決できると考えています。草野さんも「再現ができたらですけど」と条件付きで同意しています。
一方で、プレゼンスには課題もあります。顔の細かい表情や体の動きまで、ユーザーのデータが大量に取られることです。草野さんが「Appleはプライバシーを保護してくれるのでは」と尋ねると、宮武さんは保護がどういう意味での保護なのかが問題で、外部に出さなくても自社で使う可能性はあると答えています。
メタバースのクリエイターはなぜ足りないのか
スポンサー紹介を挟んで、話題はエコシステムの育て方に移ります。宮武さんは、Roblox ── ユーザーが自分でゲームや体験を作って公開できるオンラインゲームプラットフォーム。アメリカの子どもたちに特に人気がありますやFortniteのようなUGCゲームの成長の仕方が参考になると話します。
宮武さんによると、UGCゲームが勝つには5つの施策が必要です。最初の施策は開発者の囲い込みで、今のメタバースではクリエイターが少ないことが課題になっています。
3Dコンテンツを作れる人は少なく、コンテンツがイマーシブになるほど作るハードルは上がります。草野さんも、Twitterのような文字の投稿でさえ作り手は少ないと応じています。
宮武さんは、作るハードルが上がるほどクリエイターと消費者の割合が変わると話し、いくつかの目安の数字を挙げました。宮武さん自身も「なんとなくの数字感」と前置きしています。
| プラットフォーム | クリエイターの割合 | 補足 |
|---|---|---|
| TikTok | 4人に1人 | 数年前の目安。作るハードルを大きく下げた |
| YouTube | 100ユーザーに1人 | おおよその数字感 |
| Roblox | 500ユーザーに1人 | 登録ユーザー47億、体験を作った開発者950万人からの単純計算 |
クリエイターが少ないと、プラットフォーム間での取り合いになります。そこでプラットフォーム側は、開発の難しさをどこまで上げるかを考えなければならない、と宮武さんは指摘します。RobloxにはLua、FortniteにはVerseというプログラミング言語があり、それを学ぶこと自体がハードルになっています。
簡単な方がいいのかなって思いました。
でも簡単だとすぐに、違うところに行ってしまう可能性がある。
草野さんが「全部簡単なら一番簡単なところに行く」と返すと、宮武さんは、簡単にしすぎると体験にバリエーションを持たせられなくなるとも話し、そのバランスを考える必要があるとしています。
ツール、収益分配、提携でクリエイターを増やせるか
残りの施策について、宮武さんは順に説明しています。2つ目はクリエイター向けのツール提供で、ByteDanceがTikTokで配信させつつ、CapCut ── ByteDanceが提供する動画編集アプリ。TikTok向けの動画作りによく使われていますで編集させている例が挙げられました。Metaも今後、世界やキャラクターを作れるAIツールを提供していくだろうと宮武さんは見ています。
(マークさんからすると)Metaは、メタバースの体験をいっぱい作ってるっていう話ではなくて、特定のパーツを作ってる。
宮武さんは、アイデンティティシステム、AIツール、広告ツールなどのインフラを多くの人に提供することが、Metaの今後の戦略だと話しています。
3つ目はクリエイターへのインセンティブです。楽しさやステータスもありますが、最終的にはマネタイズが必要です。Metaにはクリエイターファンドの経験があり、YouTubeのような広告収益の分配も手段になります。Fortniteは経済圏の4割までをクリエイターに渡すと話しているそうです。
Robloxの場合はiOS上のユーザーが多く、3割を取られてしまうというハードルがあります。宮武さんは、だからこそMetaは自社のOSやヘッドセットを作り、Appleの手数料を避けたいのだと説明しています。
4つ目はブランドとの提携です。RobloxではNikeLandやVans、Forever 21などが空間を作っています。Metaにとって特に重要だったのはOffice利用のユースケースを作るためのMicrosoftとの提携ですが、MicrosoftはAppleとも提携したため、Metaにとっては残念な面もあったといいます。
5つ目はプラットフォームの拡大です。自社のQuestだけでなく、ほかのヘッドセットでもMetaのコンテンツを楽しめるようにしていくだろうと宮武さんは見ています。
SNSはユーティリティとエンタメを行き来する
宮武さんは、SNSには時期によって優先するものが変わるという共通点があると話します。軸は「ユーティリティ」と「エンタメ」の2つで、各社はこの間を行き来しているといいます。
Metaについて、宮武さんは、どこかのタイミングでエンタメ企業としての時代は終わると理解しているからこそ、デバイスやアイデンティティシステムなどユーティリティに力を入れていると見ています。
草野さんが「Metaがエンタメに振っていたのはどんな施策のときか」と尋ねると、宮武さんは各サービスの歴史を振り返りました。
| サービス | これまでの流れ | 最近の重心 |
|---|---|---|
| 大学内で友達を検索するユーティリティから始まり、フィードでエンタメへ | マーケットプレイスやグループでユーティリティに戻る | |
| フィルターのユーティリティ→SNS化でエンタメ→DMでユーティリティ | リールでエンタメ | |
| Snapchat | エンタメ寄りから始まり、メッセージングでユーティリティ、自社コンテンツで再びエンタメ | メッセージやマップでユーティリティ |
| TikTok | エンタメから始まる | 検索やクリエイターツールでユーティリティへ |
草野さんは、InstagramのDMアプリがかつて「Threads」という名前だったことに触れ、その名前が復活したのは面白いと話しています。
宮武さんの見立てでは、Metaが次世代のインターネットを勝ち抜くにはエンタメ企業ではなくユーティリティ企業として勝ちに行く必要があります。メタバースではまだインフラが足りず、そこを最初に押さえれば長期的に大きなアドバンテージになるからです。
インフラを取りに行く道筋には2つのプレイブックがあるといいます。Googleは検索というアプリのレイヤーから始めてOS、ハードウェアへと降りていきました。Appleはハードウェアから始めてOS、アプリやサービスへと広げています。
アプリ(検索)→ソフトウェア・OS→ハードウェアの順に降りていく
ハードウェア→OS→アプリ・サービスの順に広げていく
宮武さんは、Metaがどちらに進むかはわからないものの、どちらかといえばApple側だろうと話します。ただ明らかなのは、Metaが全レイヤーに投資しているという点です。草野さんも、スーパーボウルなどで流れるVRヘッドセットのCMの多さから、本気で取りに行っていると感じると話しています。
Threadsは「Twitter対抗」ではなく実証実験なのか?
話題はThreadsに移ります。収録の前日にMetaがリリースしたTwitterの競合サービスです。宮武さんは、MetaはTwitterをリプレースできたらすごいとは思っているものの、そこにはあまり期待を置いていないのではないかと考えています。
Threadsの意味合いって、より分散型のTwitterを作ろうとしてるじゃないですか。
宮武さんによると、ThreadsはMastodon ── 特定の企業が全体を管理しない分散型のSNS。複数のサーバーが共通のプロトコルでつながっていますと同じようなプロトコルを使い、Mastodonのコンテンツを扱えたり、ユーザーがフォロワーを抱えたまま移行できたりする仕組みを目指しています。Metaはよりオープンで分散型のインフラを試しているのではないか、というのが宮武さんの見方です。
これがSNSでワークすると、メタバース内でもワークするんじゃないかと。
あ、その最初のテストなんですね。
宮武さんは、Threadsが回の冒頭で触れた相互運用性の課題に対する一つの解決案になると話します。ソーシャルグラフに相互運用性を持たせて本当に意味があるのかを試すためのものではないか、という考察です。
マークさんはThreadsを10億人が使う、と話しています。宮武さんは、これはThreadsのアプリ単体の利用者ではなく、裏側のプロトコルを使う人が10億人という意味ではないかと推測しています。いわば「Graph as a Service」が作れるかを試しているのかもしれない、という見立てです。
宮武さんは、以前の回でレコメンデーションメディアの時代にはソーシャルグラフの価値が失われているかもしれないと話したことに触れます。それでも、メタバース空間では友達とのやり取りが重要になるため、ソーシャルグラフが再び必要になるかもしれないといいます。
宮武さんの整理では、MetaのこれまでのSNS戦略も広告戦略も、ヘッドセット戦略もAIモデルの開発も、全部メタバースにつながっているということになります。
草野さんは、Threadsのアカウントを消すにはInstagramのアカウントを消さなければならない仕様を見て、一つのサービスとは違う立ち位置で、IDのひも付けに意味があるのだろうと感じたそうです。宮武さんも、クレームを受けて変わるかもしれないとしつつ、一つのIDにひも付くことは重要だと同意しています。
(Metaの価値は)やっぱネットワークなんですよね。
宮武さんは、Metaはネットワークを次世代のインターネットで使えるようにすることを重視しており、だからこそ周りのモデルやパーツをコモディティ化してオープンソースで提供していると説明しています。草野さんは、ユーザーとしても自分のデータを別の場所で使えるならありがたいと話しています。
Twitterについて宮武さんは、メタバースのようなものが普及した場合、リアルタイムで何が議論されているかを知る、検索エンジンに近い別の戦い方が必要になるだろうと見ています。草野さんも、Twitterはよりパブリックな広場のような場所だと応じています。
メタバースを「時間と場所」で考えると何が見えるか
宮武さんは、メタバースを人とのつながり方として捉え、時間と場所の切り口で見てもいいのではないかと提案します。
| テクノロジー | 時間 | 場所 |
|---|---|---|
| 映画館 | 同じ時間 | 同じ場所 |
| ラジオ・テレビ | 同じ時間 | 違う場所 |
| インターネット | 違う時間(非同期) | 違う場所 |
| メタバース | 同じ時間を再び強調 | 違う場所 |
メタバースが「同じ時間」を再び重視するものだとすると、疑問も出てきます。いつでも同じ情報にアクセスできる非同期の便利さを踏まえて、メタバースの非同期版が出てくるのか、という点です。
リアルタイム性がより重視される場合、住む場所まで変わるかもしれないと宮武さんは話します。世界中に友達がいるなら、同じ町でなくても、みんなが同じタイムゾーンに住んでメタバース空間で会えばいい、という世の中になる可能性があるといいます。
さらに宮武さんは、以前デイビッド・フェリップデイビッド・フェリップさんと話した際に、1日の睡眠を小さく分ける多相睡眠 ── 1日の睡眠を1回にまとめず、複数回に分けて取る睡眠のスタイルをする人が増えるのではないか、という話が出たことを紹介しています。それによって世界的なコラボレーションがしやすくなり、タイムゾーンという概念が消えていくかもしれないという見方です。
ブランドの空間はなぜ定着しないのか
メタバースのような世界は来ないと考える人も多いかもしれません。それでも宮武さんは、アメリカの子どもたちがどれだけRobloxで遊んでいるかを見ると、何らかの空間は生まれるだろうと話します。草野さんも、Robloxではすでに生まれつつあると応じています。
この1年ほどで多くのブランドがRobloxに大金を投じて参入しましたが、宮武さんによると、ほとんどが一瞬話題になるだけで、人気を保てていないケースが多いそうです。
宮武さんは、同じようなことが2006年から2008年にも起きていたと指摘します。当時流行し始めたセカンドライフ ── 2003年に始まった3D仮想空間サービス。アバターで交流したり、土地や建物を作ったりでき、2000年代後半に企業の参入が話題になりましたでは、インテル、IBM、アメリカンアパレル、日産、NBCなどが自社の空間を作っていました。
その中でなんか普通の店舗に行くのって面白くないので。
セカンドライフのユーザーは空を飛べたりしたのに、企業はリアルな世界と同じような店舗を作っていた、というのが宮武さんの説明です。ユーザーの動きを見る必要があるとし、現在のセカンドライフユーザーの多くはVRChatでより長い時間を過ごしていると紹介しています。
宮武さんはDiscordの役割にも注目しています。友達とDiscordに集まり、Robloxの数ある世界の中からどこに行くかを決めてみんなで移動する、いわばリモコンやガイドのような役割になっているといいます。
普及までに時間がかかるのはなぜか
宮武さんは、今のメタバースはSNSの歴史でいえば2008年あたりにあたると話します。2008年のFacebookのMAUは1.5億人、2009年は3.5億人で、現在の約35億人と比べると10分の1以下だった時代です。
RobloxのMAUは約2億人と言われており、宮武さんは15年ほど前のFacebookと同じような時期ではないかと見ています。まだ小さく、本当に大きくなるのかという疑問があってもおかしくないものの、過去10年でも新しいSNSが何億人ものユーザーを抱えてきたので、可能性はあると考えています。
ただし、普及のペースはそこまで速くありません。iPhoneは100万台を売るのに70日、iPodは2年かかっています。iPhoneの登場後もしばらくはBlackBerryやWindows Phoneの売り上げのほうが高く、iPhoneやAndroidが追い抜いたのは数年が経ってからでした。
宮武さんは、Twitterで見かけた、アメリカの人口の25%に普及するまでの期間の比較も紹介しています。
| テクノロジー | 年数 | テクノロジー | 年数 |
|---|---|---|---|
| 電気 | 46年 | PC | 16年 |
| 電話 | 35年 | 携帯電話 | 13年 |
| ラジオ | 31年 | インターネット | 7年 |
| テレビ | 26年 | スマホ | 4年 |
宮武さんは、普及は徐々に速くなっているものの、時間がかかる点は共通していると話します。今はゲームやバーチャル世界と呼ばれているものも、次の世代はゲームとは呼んでいないだろうという見方です。
このメタバースっていうものは、一つのデバイスに依存する話でもないので。
草野さんがヘッドセットも10年、20年のスパンで広まるのかもしれないと言うと、宮武さんは可能性はあると答えます。メタバースはパソコンからもアクセスできるインターネットに近いもので、そのすべてのレイヤーを作ろうとしているのがMetaだと締めくくっています。
マークさんはいつからメタバースを考えていたのか
最後に草野さんは、マークさんがいつからメタバースを考え始めたのかを尋ねます。宮武さんは、少なくともOculus ── VRヘッドセットのメーカー。2014年にFacebook(現Meta)が買収し、のちのMeta Questにつながりましたを買収する少し前、Unityの買収も検討していた時期には考えていたのではないかと話します。
宮武さんの推測では、Metaがスマホを作ろうとしていた少なくとも2010年ごろには、次がどこかを考えていたはずです。そこから13年が経っても、まだこれから投資が必要な段階にあります。
それができるのはやっぱファウンダーだからっていうところですよね。
宮武さんは、Metaは世界トップ10に入る時価総額の上場企業でありながら、いまだにスタートアップ感があると話します。草野さんがAppleも車やヘッドセットを長く開発していると指摘すると、宮武さんはAppleの組織は特殊で、長く在籍する人が多いと答え、いずれAppleの組織についても話したいとしています。
今回はMetaのシリーズの締めくくりで、次に深掘りする候補としてAmazonが挙がりました。草野さんは、ウォール街出身でビジネスチャンスとしてインターネットを見たジェフ・ベゾスさんは、インターネットオタク型の創業者とは視点が違って面白そうだと話しています。
まとめ
この回で宮武さんが描いたMetaは、メタバースの体験を作る会社というより、オープンソースの基盤やソーシャルグラフといった「土台」を押さえにいく会社です。Threadsもその土台を試す実証実験として見ると、Vision Proと競うプレゼンスの技術やクリエイター施策まで、一本の戦略としてつながって見えてきます。
- Metaはメタバースを基盤・プラットフォーム・体験の3レイヤーで捉え、特に下の2つと相互運用性を重視している
- AppleとMetaは思想が違うものの、どちらも「プレゼンス」を重視し、音声や目の表示、12ミリ秒以内の処理など高い技術ハードルに挑んでいる
- メタバースではクリエイターが少なく、ツール・収益分配・提携などでクリエイターを増やすことが鍵になる
- Threadsは、分散型のプロトコルでソーシャルグラフの相互運用性を試す実証実験ではないか、と宮武さんは考察している
- テクノロジーの普及には時間がかかり、ファウンダー主導のMetaだからこそ長期の投資を続けられると見られている



