ラグジュアリーソフトウェアという仮説
宮武さんがこの回で取り上げたのは、「ラグジュアリーソフトウェア」という概念です。ラグジュアリーブランドがあるように、ソフトウェアにもプレミアム化したステータスアイテムが出てくるのではないか、という考え方です。
宮武さん自身は、これが本当に生まれるのかはまだわからないと前置きしています。事例らしきものは見え始めているものの、今回の話はあくまでコンセプトベースの模索だといいます。
ちょこちょこ事例とかは見始めてる気はするものの、それが本当にラグジュアリーソフトウェアなのかっていうのもまだわからない。
宮武さんは、ラグジュアリーソフトウェアの話に入る前に、なぜそれが起きるのかという背景から説明します。その背景にあるのが、テック業界全体の成長が鈍っているという問題です。
インターネットの成長が鈍ると何が起きるのか?
宮武さんによると、1990年あたりからインターネットは爆発的に普及し、ユーザーはオンラインで時間とお金を使うようになりました。スマホも普及し、Appleのデバイスは10億台を超えて回っています。
BtoBの領域でも、エンタープライズSaaSの予算は毎年上がっています。ただ、宮武さんはAI以外の領域では成長率が落ちていると見ています。
例として挙げられたのが、インターネットにアクセスできる人口の伸びです。2022年から2023年にかけて追加でオンラインになったのは1億人で、宮武さんは過去18年間で最も遅いペースだと話しています。
宮武さんは、この減速はある程度仕方ないとも述べています。オンラインになる人が増えるほど、残りの人が限られてくるためです。
さらに、トラフィックの多いトップ100のウェブサイトの多くが、2021年と比べて落ちているといいます。google.com、youtube.com、facebook.com、amazon.comなども含まれ、アプリに流れている可能性はあるものの、ウェブトラフィックの減少は感じられるとのことです。
スマホの利用時間についても、宮武さんはある程度の限界があると考えています。デバイスが大きく変われば話は別ですが、毎日5〜6時間の利用が8時間や10時間に増えるとは考えにくいといいます。
ネットワークのインターネット、コンピューターのAI
宮武さんは、インターネットとモバイルは新しいディストリビューションプラットフォームだったからこそ、ユーザーが流れ込み、成長が止まらなかったと振り返ります。インターネットが始まったときは、ニューヨークタイムズも個人ブロガーもゼロ人のユーザーから始まったという例が挙げられました。
インターネットそのものがネットワークなので、そこで戦うスタートアップもネットワーク作りに集中してきました。過去10〜15年の起業家がネットワーク効果を重視してきたのも、インターネットと一緒に育ったからだと宮武さんは見ています。
一方で、宮武さんはAIをコンピューターに近いものと捉えています。データが入り、処理され、出力される、情報を処理する機械だからです。
ネットワークそのもの。新しい流通経路を作り、既存プレイヤーもゼロから競争した
コンピューターに近い。流通経路ではなくビジネスモデルを変えないと、既存ユーザーの奪い合いになる
宮武さんによれば、AI革命では競合を作るのが簡単になり、機能もコピーしやすく、プロモーションコンテンツも作れるようになります。同時に、コストカットも進みます。
その例が、後払いサービスのクラルナ ── スウェーデン発の後払い(BNPL)決済サービスを提供するフィンテック企業。英語表記はKlarnaですです。四半期決算で営業・マーケティングコストを約11%削減し、その3分の1以上がAI活用によるもので、年間約1000万ドルの削減になったと紹介されました。
具体的には、MidjourneyやDALL·Eで画像制作コストを150万ドル分削減し、外部マーケティング人材の利用を25%減らしたといいます。
機能では勝てない時代に何が残るのか?
競合が増え、コストも下がる中で、スタートアップはどこで戦えばよいのか。宮武さんは1つの答えとして、リアル世界の問題やハードウェアとソフトウェアを掛け合わせた、より複雑な領域に行くことを挙げます。
ソフトウェアだけの領域では、一部でコモディティ化が起きると宮武さんは見ています。ディストリビューションが限界に達すると、ビジネスモデルで革命を起こさない限り、既存ユーザーの奪い合いになるからです。
そうすると何が起きるかっていうと、ただの普通の機能ベースの戦いにはできなくなるんですよ。
宮武さんは、ClubhouseやBeRealが出てきたときも、新しい機能はすぐに大手にまねされたと指摘します。そこで起きるのが、ブランディングやステータス作りにお金をかける動きです。
効率化で逆にコストが上がる「ジェボンズのパラドックス」
ソフトウェアがほぼ無料になれば、高いお金を払う意味はなくなるのではないか。宮武さんはこの当然の疑問に対し、意外と逆の説もあると話します。
Microsoft Excelのようにベースのソフトウェアは安くなり、無料にもなっていきます。ただ、すべてのソフトウェアが無料になっているわけではなく、無料になったのは平均的なベースの部分だというのが宮武さんの見方です。
効率が上がると逆に高くなる現象を、宮武さんはジェボンズのパラドックス ── イギリスの経済学者ウィリアム・スタンリー・ジェボンズが指摘した現象。資源の利用効率が上がると、かえってその資源の総消費量が増えることがあるというものですとして紹介します。ジェボンズは1865年、石炭を効率よく使えるようになった結果、需要が上がりすぎてコストが上がったことに気づいたといいます。
宮武さんは、似たことは必ずではないものの他の分野でも起きると、いくつかの例を挙げています。
効率化
石炭を効率よく使える、道路が増える、燃費が良くなるなど
利用の拡大
需要が増える、人が住み始める、遠くまで行くようになる
結果
石炭のコスト上昇、渋滞の増加、燃料の消費増
わかりやすい例として挙げられたのが、ハリウッド映画のCGIやVFXです。もともとはロケに行かずに済むなど、コスト削減が目的でした。
しかしCGIが流行ると、リアリズムの高い表現や新しい表現ができるようになり、ハリウッド映画の予算はむしろ上がっていったと宮武さんは話します。特定のシーンだけのはずが、映画全体がCGIになっているといいます。
ゲームでも同じで、今は9世代目のコンソールゲームに入っていますが、昔と比べて100〜150倍のデータ量と5倍ほどの人数を制作に使っているそうです。
ソフトウェアの「スタンダード」は上がり続ける
草野さんはこれを、ブランドにかけるお金が増えることかと受け止めます。宮武さんは、ブランディングもそうだが、単純に機能が優れたソフトウェアの開発コストも上がっていくと補足しました。
(効率化で)例えばその今作ってるソフトウェアを5年後に作った場合に、それが半分のコストで作れるかもしれないんですけど、ただそれによってよりいいものを作れるっていうことでもあるので。
宮武さんの考えでは、人々は5年後に同じものを求めるわけではありません。求められるスタンダードが上がり、昔のスタンダードが無料になっていくだけだといいます。
草野さんは、Notionの例を出します。初期ユーザーには月5ドルほどで提供し、ユーザーが増えて資金調達をすると5ドルの層を無料にする。そうして類似サービスより一段上にプロダクトのレベルを上げる、という見方です。
宮武さんは、ソフトウェア業界では2つの戦いが起きると考えています。1つは、コモディティ化した低価格ソフトウェアのレイヤーで「Amazon」になるのは誰かという戦い。もう1つは、その上のプレミアム層を作るのは誰かという戦いです。
コンピューター業界はコモディティ化からどう差をつけたか
宮武さんは、AIをコンピューターに例えたうえで、コンピューター業界もコモディティ化からラグジュアリー化への道をたどったと話します。
最初のコンピューターは、IBMの巨大なメインフレームでした。IBM創業者のトーマス・ワトソンや、サン・マイクロシステムズのCTOが「世界には5台のコンピューターしかいらない」と言ったことがある、と宮武さんは紹介します。
当時のコンピューターは専用のビルがあるほど大きく、高価で、人手もエネルギーも必要でした。宮武さんは、これは今のAIとまったく同じだと指摘します。GPT-4やGPT-4oを作るには膨大なエネルギーとチップが必要で、誰もが自分のモデルを持てるわけではないからです。
今の車には大体150台ほどのコンピューターが入っていると宮武さんは話します。コンピューターを作って何かに組み込むこと自体は、すっかりコモディティ化しました。
それでもコンピューター業界には、低価格のPCだけが残ったわけではありません。ハイスペックなゲーミングPCのように差をつける製品があり、その差には機能性もブランディングも関わっているといいます。
なぜテック業界の人はMacを選ぶのか?
宮武さんは、テック業界のほとんどの人がMacを使うことを例に挙げます。UIや使えるソフトウェアに多少の違いはあっても、スペックや機能はWindowsとかなり似ている。それでもMacにお金を出したい起業家やVCは多いといいます。
草野さんは、かつての「Mac vs PC」のCMシリーズを思い出し、自分もApple好きだと話します。宮武さんは、スティーブ・ジョブズが亡くなってからAppleはよりカルト化したと見ています。
人間として残ってしまうと、いろいろミスとかしてしまうので。
宮武さんは、Appleには機能やクローズドなエコシステムによる良さもあると認めつつ、一部は単純にブランドが好きだから買われていると話します。コンピューターでも完全にコモディティ化していない、という点が重要だといいます。
SuperhumanやAirPodsにあるプレミアムの手がかり
宮武さんは、プレミアムソフトウェアはすでに出始めていると話します。例として挙がったのが、Off Topicで過去に取り上げたメールサービスのSuperhumanです。
Superhumanは月額30ドルで、ページが0.1秒でロードする、オンボーディング体験を徹底的に良くするといった特徴があります。Gmailが無料であることを考えると、かなり高いサービスです。
宮武さんは、これまでの時代を、ソフトウェアがマスに向けてスケールした時代と位置づけます。エンタメも、3〜5社のテレビ局がマス向けに配信していた時代から、ケーブルテレビ、動画配信、YouTubeへと広がり、価格帯もさまざまになりました。
服も同じで、コモディティ化したTシャツにSupremeやLouis Vuittonのロゴが付くだけで、価格も意味合いも変わります。宮武さんは、ソフトウェアにおける「Louis Vuittonのバッグ」は何かを考える時代になると話します。
草野さんは、AirPodsを例にラグジュアリーの感覚を説明します。有名人が「AirPodsをなくして今5代目なんですよ」と話すのを聞き、なくしたら有線を使う自分との違いにラグジュアリーを感じたといいます。
宮武さんは、そのソフトウェア版の候補として、Superhuman、Notion、ブラウザのArc、検索のPerplexityを挙げ、業界がラグジュアリーソフトウェアの概念に少しずつ気づき始めていると見ています。
クラフトとキーノートはソフトウェアのファッションショーか
宮武さんは、草野さんが参加したStripe Sessionsで、Stripeが「クラフトアンドビューティー」を語っていたことに触れます。クラフトやビューティーは今や希少性のあるもので、同じソフトウェアでもそれを込めることで違いを作れると宮武さんは考えています。
草野さんも強く同意し、昨年末のニューストップ10で、スタートアップのブランド化や創業物語のナラティブを押し出すマーケティングが増えていると話したことを振り返ります。
それは会社としてのビジョンじゃなくっての、プロダクトとしてのなんかもうちょっとビジョンというか、それを表現して提供するみたいなことはもっと増えそうだなっていうのを思ってますね。
宮武さんは、Google I/OでプロダクトAI発表の前にDJがAIでオリジナル曲を作ったことや、Canvaがイベントの最後にラップをしたことを挙げ、カルチャー作りの一環だと見ています。
草野さんは、こうした発表会をファッションのコレクションにたとえます。宮武さんもこの例えは正しいと考え、Airbnbが年2回の発表を行うのはサマーやフォールのコレクションに似ていると話しました。
機能がコピーされるなら、差はどこで作るのか?
宮武さんは、機能はすぐコピーされるため他社との差は作りにくいものの、サービスの内側では差を作れると考えています。プレミアム機能や体験、ステータス作りがその方法です。
手がかりとして、フォントやカラーデザイン、アクセス権を完全オープンにしないことなどが挙がりました。ウェイトリストのように限定する手法はすでにありますが、ソフトウェアはもともとオープンでマス向けという発想だったため、そこを変える必要があるといいます。
考えられる機能の1つが、メンバーシップやロイヤルティプログラムです。ただ、BtoBのロイヤルティプログラムは「無料のAWSクレジットがもらえる」といった経済的な特典が中心で、ステータスが生まれる発想はあまりないと宮武さんは指摘します。
ステータスの分かりやすい例は航空会社です。別のチェックイン列に並べる、ラウンジを使える、早めに搭乗できるといった特典には、経済的価値だけでなく、特別な気分になれる価値があります。
「僕は、ユナイテッドの1Kメンバーなので、ここに並べます」みたいな。
中国系アプリはお金で買えないステータスをどう作るのか?
航空会社にはフィジカルな空間がありますが、デジタルではどうするのか。宮武さんは、アメリカのSNSの有料メンバーシップは「広告が出ない」「特定の機能が使える」といった経済的な特典にとどまっていると見ています。
一方で中国のWeibo、bilibili、Toutiaoなどは、経済的な特典とステータスの特典をうまく組み合わせていると宮武さんは話します。有料メンバーの上にさらにティアがあり、そこにはお金ではなくエンゲージメントで上がる仕組みです。
Weiboでは、ヘビーユーザーになると投稿を1つではなく2つピン留めできるようになるそうです。機能として多くの人が欲しがるものではありませんが、宮武さんは「できたらやる」と考えています。
bilibiliでは、上のティアに行くにはアニメなど特定分野で100問の試験に答える必要があるといいます。合格すると目立つコメントを出せるようになり、見た人に「このユーザーはエキスパートだ」とわかるそうです。
宮武さんは、BtoBでもShopifyパートナーのように、ソフトウェアのエキスパートをブランディングする仕組みがあり、似たことができると話します。草野さんの問いに対しては、フォロワーが多いか少ないかの小さいバージョンだと説明しました。
お金ではなくエンゲージメントで報いる意味
宮武さんがティア別の仕組みを評価する理由は、お金を払えばベースラインまでは行けるものの、その先はエンゲージメント次第で、誰でも到達できる点です。
BtoBでは、お金を多く払った顧客ほど手厚く扱われがちです。しかし昔からずっと使ってきたユーザーが実は重要な場合もあり、ティア別にすることでその差もわかると宮武さんは話します。
草野さんは、ソーシャル機能のないサービスでもできるのかと問います。宮武さんはそこが一番難しいとしたうえで、見せ合う場を作ることが手がかりになると答えました。
草野さんが挙げたのがDuolingoです。連続学習の記録やリーダーボードは、知らない人同士でも「そこを目指せる」という意味を持ち、宮武さんは一部はゲーム性、一部はステータス作りだと話します。
ただお金を払ってくれてるお客さんだけじゃなくて、いろんなお客さんに対してステータスを与えられるか。
AirbnbのIconsが見せたスペクタクルの力
宮武さんは、スペクタクルな体験もステータスになると話し、AirbnbのIconsを例に挙げます。ピクサー映画『カールじいさんの空飛ぶ家』の家を実際に再現したほか、X-Menやフェラーリなどのコンセプトの家が並びました。
草野さんは、コロナで苦しんだAirbnbがこの領域にかけ続け、ほぼ競合のいない唯一無二の存在になったことに感動したといいます。宮武さんも、組織やリーダーシップを変えた結果、ブライアン・チェスキーが作りたい会社を作れたように見えると話します。
宮武さんによれば、Iconsのプレゼンは最後に実物の家を披露し、セレブが一斉に写真を撮り、映画に似たチェスキーの犬が登場して全員が家に入って終わる構成でした。スティーブ・ジョブズをイメージして作ったのではないか、と宮武さんは見ています。
ピクサーのIPを活用するのは、ラグジュアリーブランドでいうコラボにあたり、ソフトウェアではなかなかできなかったことだと宮武さんは指摘します。草野さんは、初期のAirbnbなら投資家に反対されたはずで、今のタイミングだから受け入れられていると話しました。
UberやBtoBにもスペクタクルは作れるか?
宮武さんは、Iconsを見て「なぜUberはこれをやらなかったのか」と考えたといいます。草野さんは、チェスキーのように世界観をビジュアルとして表現し、自分で語れる人はめずらしく、すべてのテックCEOにできることではないと話します。
宮武さんは、プレゼンはチェスキーだからこそだが、企画自体はUberでもできたと考えています。Uberを呼んだらバットマンの車やデロリアンが来るといった体験は、まさにラグジュアリー体験だといいます。
草野さんは、Uberはもともとタクシーとは違うハイエンドな思想を持っていたので向いていそうだと応じます。宮武さんは、こうした取り組みはC向けから始まり、3〜5年後にBtoBへ広がることが多いので、BtoB版を考え始めてもよいと話しました。
エルメスのバーキンは何を売っているのか?
宮武さんは、コンシェルジュ型のサービス強化も考えられるといいます。BtoBのアカウントマネージャーが、エルメスのセールスアソシエイトのような存在になるかもしれないという発想です。
エルメスでは店員から「ようやくバーキンが来ましたよ」と電話がかかってくることがあり、たくさん買っていても選ばれないこともあるそうです。宮武さんは、ある記事で「エルメスは時間を売っている会社だ」と書かれていたことを紹介しています。
宮武さんは、この同じ現象をソフトウェア業界で作れるかが問われていると話します。
草野さんにどこができそうかと聞かれ、宮武さんはC向けではAirbnbが明らかに作ろうとしていると答えます。BtoBは難しいとしつつ、思想としてはStripeが近いかもしれないといいます。草野さんはNVIDIAにも、プロダクト名などからブランドっぽさを感じると話しました。
宮武さんは、今挙がった企業はマス向けにも出さなければならないものが多いと指摘します。そうではなく「1万人のお客さんしかいなくてもいい」と決め、その分めちゃくちゃ高く、でも便利なサービスがあり得るといいます。
ステータスの根本にある「アクセス」
宮武さんは、ステータスの根本にあるのはお金ではなくアクセスだと考えています。お金にアクセスできる人が買えるからステータスになり、Dropのような限定販売も、他の人がアクセスできないからこそステータスアイテムになります。
そのアクセスの一種が情報で、宮武さんはこれならBtoBでも使えると話します。例えば、次のOpenAIのモデルを先に知っていれば、それに合わせて準備ができる、というたとえです(宮武さんは実際には知らないと念押ししています)。
具体例として挙がったのがアナリティクスです。ソフトウェア企業はダッシュボードに出している以上のデータを持っており、より深い分析を一部のユーザーにだけ渡すことができるといいます。
宮武さんは前職でローカライズを支援した際、ソフトウェア企業に通常は出していないデータを求め、クライアントに渡したことがあるそうです。「この記事から新規ユーザーが全部来た」といったユーザージャーニーの情報は重要なのに、ダッシュボードには載っていないことが多いといいます。
それこそ電話が一本かかってきて、「実はこういうちょっと特殊なレポートを今回作ったんですよ」みたいなことを言われるタイミングがどっかで来るとか。
ただし宮武さんは、こうしたアクセスがステータスになるには、それを知っている人がある程度いる必要があり、どう表現するかが難しいとも話しています。
クリエイティブディレクターとCEOの社内外のギャップ
ソフトウェアのラグジュアリー化が起きれば、ファッション業界のように「クリエイティブソフトウェアディレクター」という役職が生まれるかもしれない、と宮武さんは話します。すべてのCEOがチェスキーのようなプレゼンをできるわけではないからです。
草野さんはその仕事をやりたいと反応し、宮武さんは募集しましょうかと冗談交じりに返しました。
一方で草野さんは、知り合いの起業家たちが社内の1on1やコミュニケーションコストに苦労しながら、外向けには楽しい会社だと押し出している状況に、期待値コントロールの難しさを感じているといいます。
その社内の人はめちゃくちゃ、「こんな激務なのに」みたいな。「私もメンタルやばいのに」みたいな。
宮武さんは、社内外のギャップがゼロである必要はないものの、離れすぎも良くないと話します。全企業がAirbnbのようなプレゼンをしても意味がなく、社内に合ったプレゼンにするか、社内を変える必要があるといいます。
ソフトウェアのLVMHは生まれるか?
宮武さんは、ラグジュアリーソフトウェアが生まれれば、複数を買収して1つのエンティティとして抱えるLVMH ── ルイ・ヴィトンやディオールなど多数の高級ブランドを傘下に持つフランスのラグジュアリー・コングロマリットですのような企業が出てくるかもしれないと話します。
ただし、BtoBは合理性を求められるため、ラグジュアリーの領域までは行かない可能性もあるとしています。少なくともBtoCでは見えてくるだろう、というのが宮武さんの見立てです。
Tシャツから鉛筆でも車でも靴でも、場合によってはレンガでさえラグジュアリー化できるような世界じゃないですか、今は。
草野さんは、海賊版がブランドへの憧れの入り口になっているという記事を紹介し、ソフトウェアにも同じ世界観が生まれるのかと問います。宮武さんは十分あり得るとしつつ、デジタルではどちらが本物か見分けにくいという問題も指摘しました。
摩擦とカルチャーがラグジュアリー感を生む
宮武さんは、すべてを自動化するのが必ずしも正しいわけではないと話します。ラグジュアリー感を作るには、価格だけでなく、ユーザーに何かをさせることも手段になるといいます。
その例がIKEA効果 ── 自分で手間をかけて作ったものに、実際以上の価値を感じてしまう心理的傾向。組み立て式家具のIKEAにちなんだ呼び名ですです。宮武さんは、ハードルや摩擦を作ることがステータス作りでは重要で、先に話したエンゲージメントの仕組みもその一つだと位置づけます。
最後に宮武さんは、CanvaのCanva Createのプレゼンを取り上げます。話題になったのは最後のラップでしたが、実は各機能の発表前に、その領域に関する寸劇が入っていたそうです。
宮武さんは、その効果はわからないとしつつ、エンタメ性を作るカルチャー作りが意味合いやラグジュアリー化につながっていると見ています。草野さんは、ユーモアのセンスやジェンセン・フアンのような話のうまさに、キーノートが強いアメリカの文化を感じると話して締めくくりました。
まとめ
この回では、ソフトウェアがコモディティ化するだけで終わらず、ブランドやステータスで差をつける「ラグジュアリーソフトウェア」が生まれるのではないか、という仮説が検討されました。成長の鈍化とAIによるコピーの容易さを背景に、宮武さんはステータス、アクセス、摩擦をどう設計するかが次のソフトウェア企業の鍵になると話しています。
- ジェボンズのパラドックスのように、効率化でベースは無料になっても、求められるスタンダードが上がりプレミアム層が生まれる可能性がある
- コンピューターやMacの歴史は、コモディティ化した市場でもブランディングで差がつくことを示している
- WeiboやDuolingoのように、お金ではなくエンゲージメントで到達できるティアがステータスを生む
- AirbnbのIconsやエルメスのバーキンのように、スペクタクルや限られたアクセスがラグジュアリー体験になる
- BtoBで成立するかはまだ答えが出ておらず、情報へのアクセスなどが手がかりとして挙がった


