なぜ今ディズニー?「ボブからボブへ」のCEO交代
今回のOff Topicのテーマは、ディズニーのCEO交代です。ディズニーは2020年にCEOがボブ・アイガーさんからボブ・チャペックさんに代わり、2022年11月に再びボブ・アイガーさんが戻ってきました。宮武さんは真相を断定するのではなく、記事や報道をもとに自分の考えとして経緯を読み解いていきます。
宮武さんはディズニーについて、ビジネスとしての強さを高く評価しています。スター・ウォーズやマーベルを抱え、世代を超えて認知されるブランドは珍しいと語ります。
もしかしたら最近の子供たちはビートルズを聴いたことなかったりとか。でもディズニーってもう基本的に大人でも子供でもずっと認知度は高いので。
今回ディズニーを取り上げた理由は、Off Topicで動画配信業界のアップデートを数年ぶりにしたかったからです。2019年末のDisney+登場時と2020年に配信を扱って以来で、ディズニーとNetflixの両社でCEO交代があったことから、今週はディズニー、来週はNetflixという構成になりました。
宮武さんによると、Netflixは経営者が代わっても方針はそれほど変わりませんが、ディズニーはCEO交代で方針が大きく変わりました。
一方で草野さんは、ディズニーのニュースは登場人物がややこしいと漏らします。前任と後任のファーストネームがどちらも「ボブ」で、しかも元のCEOが戻ってきたためです。
(二人とも)同じ白人男性だし。なんか、「あれ、どっちがどっちだろう?」みたいな。
そこで番組では、必ず「アイガーさん」「チャペックさん」とラストネームを付けて呼ぶことにしています。宮武さんは、二人の違いの根本には「ディズニーのプロダクトやプラットフォームとは何か」という考え方の差があったのではないか、という個人的な見立てを示します。
アイガー時代の集大成だったDisney+
ボブ・アイガーさんは2005年にディズニーのCEOに就任し、2020年2月に退任を発表しました。後継者として7代目CEOになったのが、テーマパーク部門の担当者だったボブ・チャペックさんです。
宮武さんは、以前のBITEでは株主への説明の仕方や期待値のずれを交代の原因として話したと振り返ります。今回はもう一歩根本的な話をしたいとして、まず2019年に始まった巨大プロジェクトに話を戻します。
そのプロジェクトが動画配信サービスのDisney+です。アイガーさんにとって最も重要なプロジェクトと言われていたほどで、投資や買収を重ねて立ち上げられました。
(アイガーさんは)ピクサーの買収、マーベルの買収、ルーカスフィルムの買収、フォックスの買収をやってる人なので。
数々の大型買収を手がけたアイガーさんにとって、それ以上に重要と言われたこと自体が、ディズニーがDTCプラットフォームをどれほど作りたかったかを示している、と宮武さんは見ています。
Disney+はメジャーリーグベースボールの動画配信技術だったBAMTech ── MLBのデジタル部門から生まれた動画配信の技術会社。ディズニーが段階的に出資して買収し、Disney+の配信基盤になりましたの技術を買い取って始まりました。狙いは、個人レベルのユーザーデータや嗜好を知ることでした。
後継者はなぜチャペックだったのか
コロナ禍の頃、アイガーさんは71歳前後で退任し、ボブ・チャペックさんがCEOになりました。チャペックさんは26年以上ディズニーに在籍したベテランで、オペレーションに強く、データをよく見る人物と言われていました。
このため市場からは、チャペックさんの起用は「変なことはしないだろう」という安全な選択だと見られていました。
一方、市場で後継者と目されていたのは、Disney+の担当者だったケビン・メイヤーさんです。メイヤーさんはCEOに選ばれず、その後ディズニーを離れて一時的にTikTokのCEOを務めました。メイヤーさんが選ばれなかったことで、Disney+の経営メンバーも辞めていったといいます。
では、なぜアイガーさんはチャペックさんを選んだのか。宮武さんは推測と断ったうえで、オペレーションに強く、アイガーさんのビジョンを実行してくれる人だと考えたからではないかと話します。
目標を3〜4倍に引き上げたDisney+と決算説明会のつまずき
チャペックさんは2020年にCEOに就任しますが、すぐにコロナでテーマパークの閉鎖を迫られます。その一方で、Disney+の登録者数は急速に伸びていました。
Disney+の当初目標は、アイガーさんが示した「2024年までに6000万〜9000万人」でした。ところが2019年末のローンチから16か月後には1億人を超えます。チャペックさんはこの勢いを見て、目標を2億3000万〜2億6000万人へと引き上げました。
メディアでは、チャペックさんが成長を重視しすぎてコストを見ず、Disney+が大きな赤字事業になったことをウォール街が嫌った、とよく言われています。スカーレット・ヨハンソンさんとの契約問題やフロリダ州知事との対立など、ほかの課題も重なりました。
決定打は、2022年11月8日の決算発表に伴う投資家向け電話会議、アーニングスコール ── 上場企業が決算発表の際に、アナリストや投資家に向けて業績を説明し質疑に答える電話会議でした。約56分の説明で、チャペックさんは大きな赤字をカジュアルに伝え、ディズニーワールドの新しいアトラクションの話に力を入れてしまいます。
課題がありますよね。それ(赤字)解決してくださいよっていう。
ディズニーの株価は1日で約13%下がりました。宮武さんによると何年ぶりかという下落で、その直後にチャペックさんは解任され、アイガーさんが戻ってきます。
電話会議の裏で進んでいた確執
宮武さんは、電話会議の失敗の前からさまざまな問題があり、その裏にはアイガーさんも絡んでいたと話します。内部の動きは、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事に詳しく書かれているといいます。
チャペックさんがCEOになった後も、アイガーさんは会長的な立場で約1年会社に残っていました。アイガーさんは、チャペックさんがアドバイスを求めてこないことに不満を抱いていたそうです。
ツンデレ、ツンデレですか。
ちょっとツンデレな部分があったかもしれないです。
一方で、アイガーさんもCEOのチャペックさん抜きで戦略ミーティングを開いていました。宮武さんは「両者外し合った」と表現し、最初から関係がぎくしゃくしていたと見ています。アイガーさんは2億3000万〜2億6000万人という目標もやりすぎだと考えていたといいます。
アイガーさんは2021年末に正式に退任しますが、その後もディズニーの経営メンバーとは頻繁にやりとりしていました。社内では、チャペックさんがCFOと不仲になり、アイガーさんが選んだ経営メンバーが解任されるなど入れ替わりが起きていました。
そこへテーマパーク事業の不振と決算説明会の失敗が重なり、アクティビスト投資家が株を買い始め、チャペックさんは急遽レイオフのメモを出すことになります。
草野さんは、チャペックさんはコロナで先が見えない時期にCEOを任され大変だったと同情します。宮武さんは、テーマパークは打撃を受けた一方でストリーミングは伸び、株価も上がっていたので、プラスとマイナスの両方があったと補足します。
アイガー流の組織、クリエイティブディレクターに予算と権力を
ディズニーのCFOやアイガーさん、他の経営メンバーがチャペックさんに不満を抱いた最大の理由は、組織体制の変更でした。宮武さんはこれを説明するため、アイガーさんがCEOになる前の時代までさかのぼります。
当時のCEOはマイケル・アイズナーさんで、アイガーさんはCOOでした。ディズニーには、IPごとにクリエイティブディレクターがいる体制があります。宮武さんは、LVMHが傘下の各ブランドにクリエイティブディレクターを置くのと同じ形の「IPバージョン」だと例えます。
アイズナーさんの体制では、クリエイティブディレクターの上に戦略委員会があり、委員会がすべてのプロジェクトと予算を決めていました。PL(損益計算)はディズニー全体で1つで、クリエイティブディレクターごとには持っていませんでした。
2005年にCEOになったアイガーさんは、この戦略委員会をなくし、クリエイティブディレクターに予算と権力を与えました。アイガーさんにとって、それがハリウッドで成功するために必要なことだったからです。
結局ハリウッドでその判断ってどう行われているかというと、データを使うケースってそこまでなくて。朝ごはんのミーティングで急遽決めたりとか、人の関係性上でその場で決まるケースが多いので。
戦略委員会がすべてのプロジェクトと予算を決め、クリエイティブディレクターに割り振る。PLは会社全体で1つ
戦略委員会を廃止し、各IPのクリエイティブディレクターに予算と権力を与える
アイガー時代には、ジェネラルエンターテインメントのデイナ・ウォールデンさん、マーベルのケビン・ファイギさん、ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディさんといったクリエイティブディレクターに大きな権限が与えられました。この体制が15年続き、クリエイティブ側もこのやり方に慣れていきます。
2019年に始まったDisney+でも、この考え方は守られました。担当のケビン・メイヤーさんは予算を決めず、各IPフランチャイズに「マーベルは3枠、スター・ウォーズは2枠」のようにDisney+のスロット枠を渡しました。枠に入れる映画やテレビ番組の中身は、クリエイティブディレクターが決めます。
ケビン・メイヤーさんは、例えばピクサーの最新の映画をディズニープラスに出したいですっていう権利はないです。
チャペックが作った集権組織「DMED」
ボブ・チャペックさんはCEOになると組織体制を大きく変え、Disney+とコンテンツ関連の部門をすべて「Disney Media and Entertainment Distribution(DMED)」という1つの部署の下に入れました。マーベルなども含め、クリエイティブディレクターの上でDMEDトップのカリーム・ダニエルさんが判断する形です。
カリーム・ダニエルさんはチャペックさんの右腕で、コマースやテーマパーク事業では豊富な経験がありましたが、動画配信の経験はありませんでした。15年間アイガー流で動いてきたクリエイティブディレクターたちは、急に経験のない人へ予算を聞きに行かなければならなくなります。
メイヤーさんがIPごとにDisney+の枠を保証し、中身はクリエイティブディレクターが決める
DMEDが予算と配信先を判断し、作品がどこで公開されるかはクリエイティブ側にわからない
その結果、辞める人が出たり、承認が間に合わず望んだ案件や役者を逃したりと、フラストレーションが溜まりました。ここ2〜3年、ピクサーの一部作品が映画館ではなくDisney+で先に公開されたのも、クリエイティブディレクターではなくDMEDの判断だったといいます。
(メイヤーさんのやり方は)ディズニープラスに行くっていうのを知った上でクリエイティブディレクターが動くので、だから多分まだ良くて。
草野さんは別の見方も示します。コロナ禍で劇場公開か配信かが急に決まる状況では、現場ではなく上が決める必要もあったのではないか、という意見です。
部門制と職能制、理論上は正しかった戦略
宮武さんは、会社の組織体制には大きく2つのパターンがあると説明します。各事業部がPLを持つ部門制 ── 事業部ごとに損益責任と独自の機能を持たせる組織形態。事業部制とも呼ばれますと、CEOの下に集権化され会社全体でPLを見る職能制組織です。
| 項目 | 部門制 | 職能制組織 |
|---|---|---|
| PL | 各事業部が持つ | 会社全体で見る |
| 機能 | マーケティングや会計なども自前 | CEOの下に集権化 |
| 判断 | 速い | 遅いが集権的に判断できる |
| 成功例 | — | Apple |
宮武さんは、どちらが悪いという話ではなく、どちらにも成功例があると強調します。職能制組織の代表例はAppleで、事業部ごとのPLを持たず「Apple全体のためになるか」で判断しています。
チャペックさんが目指したのは職能制組織で、アイズナー時代の体制に少し似ていました。Disney+の成長が最重要なら、集権的に判断し、コンテンツのプロであるクリエイティブディレクターには作ることに集中してもらうのは理にかなっています。
しかし現実には、クリエイティブ側はこの変化を嫌がりました。草野さんも、せっかく作ったのに配信だけかと思うケースがあったと振り返ります。
さらにチャペックさんは、オペレーション見直しのために戦略コンサルのマッキンゼーを起用しました。マッキンゼーは、クリエイティブディレクターごとのマーケティングやPRを1つの部署にまとめ、コストを削減する案を検討していたといいます。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、ある経営メンバーが「ディズニーはマッキンゼーをほぼ使ったことがない」と語っています。クリエイティブやIPに任せるというディズニーの文化からすると、大きな出来事だったわけです。
草野さんは、経営者の成功を測るのは難しいと話します。組織変更で現場に反発があっても、売上が伸びれば株主には成功に見えるからです。宮武さんも、チャペックさんの組織改革中は株価が上がり、市場はそのやり方を支持していたと応じます。
宮武さんは、チャペックさんが使った資産はアイガーさんから引き継いだもので、後継者に任せたアイガーさんにも責任はあると指摘します。復帰したアイガーさんが最初にしたのは、DMEDを閉じてクリエイティブ側に権力を戻すことで、カリーム・ダニエルさんも退任しました。
ビジョナリーCEOの後継者はなぜオペレーション型になるのか
宮武さんが個人的に興味深いと話すのが、ビジョナリーなCEOの後継者がオペレーション型になりがちという傾向です。Appleは例外として、オペレーション型への交代は失敗するケースが多いのではないかと見ています。
代表例として挙がったのは、マイクロソフトのビル・ゲイツさんからスティーブ・バルマーさんへの交代です。バルマーさんもCEO就任後、チャペックさんと同じように職能制組織へ変え、「ワンマイクロソフト」と呼びましたが、結果的に失敗しました。
ビジョナリーCEOが後継ぎにビジョナリーな後継ぎを選ばない理由って何だろうって思った時に、もしかしたら自分のビジョンを実行してくれないんじゃないかって思っちゃうから。
草野さんは、思想のある経営者の下では自ら新しい文化を作ろうとする幹部が育ちにくく、発掘も難しいと話します。宮武さんも、経営メンバーは同じ方向を向きがちで、方向転換したいときは外部から人を引っ張ってくることがよくあると応じます。
アイガーさんは復帰後、約2年残ると話しており、すぐに後継者を考えなければならない立場にあります。
ディズニーのプラットフォームはDisney+か、IPか
宮武さんは、アイガーさんとチャペックさんの組織観の違いの根本に、ディズニーのプラットフォームやプロダクトをどう見るかの差があったと考えています。
映画、Disney+やHuluなどの動画配信、テーマパークといった「アウトプット=流通」がプラットフォーム。だからDisney+を中心に事業を作る
ルーカスフィルム、ピクサー、マーベルといった「IPフランチャイズ」こそがプラットフォーム。だから各IPにPLを渡す
アイガーさんの考えに立てば、各IPがそれぞれプラットフォームなので、IPごとに予算と権限を持たせるのは当然です。Disney+の立ち上げについても、宮武さんは、顧客理解を深めることが各IPに利益をもたらすと考えたのではないかと推測します。
違いはテーマパークの値上げにも表れます。需要が高ければ価格を上げるのは理論上正しく、チャペックさんはその考え方でした。アイガーさんも値上げはしましたが、チケット代で稼ごうとはしていませんでした。
やっぱり(テーマパークは)ブランドアフィニティを作る場所だと多分考えてた人なので。
テーマパークは世代を超えた良い思い出を作る場所で、それが結果的に収益につながるという見方です。宮武さんは、短期的なビジネスの視点と、長期的なIPの視点の違いが2人を分けたと整理します。
復帰したアイガーの宿題、Disney+の赤字をどう減らすか
復帰したボブ・アイガーさんの最初の課題は、Disney+の赤字です。四半期の決算で15億ドル以上の赤字で、年間では単純計算でその4倍にあたります。
アイガーさんはすでに、全社で7000人のレイオフと55億ドル分のコストカットを発表しています。
宮武さんはさらに、Disney+の値上げを予想します。現在のアメリカでの月額は広告付きが7ドル、広告なしが11ドルですが、完全に予想と断ったうえで、10ドルと15ドルになるのではないかと話します。
コストカット
7000人のレイオフと55億ドル分のコスト削減
値上げ
価格を2〜3割ほど引き上げる
投資の抑制
コンテンツ投資を前年からあまり増やさない
黒字化
ユーザーの離脱が少なければ到達できる可能性
もう1つの論点がインドのHotstar ── ディズニー傘下のインドの動画配信サービス。Disney+の登録者数の中に含めて計上されていますです。インドのユーザーの多くはクリケット視聴のために使っていますが、ディズニーはオンライン配信権の更新で負け、テレビの権利だけが残りました。
数千万人規模のHotstarユーザーが減る可能性がありますが、インドは1人当たりの単価が低いため、全体の粗利率はむしろ上がると宮武さんは見ています。
既存フランチャイズへの集中と、HuluとESPNの行方
アイガーさん自身が掲げているのが、既存の人気フランチャイズへの集中です。トイ・ストーリー5のほか、アナと雪の女王、ズートピアの続編が挙がりました。
ファンなので絶対見るんですけど、まだ5(作目)も続くんだみたいな。
ズートピアは専用テーマパークができるのではと言われるほど人気だといいますが、宮武さんは本当かどうかはわからないと断っています。
Huluの扱いも課題です。Huluは別会社で、ディズニーが約70%を保有し、残り30%を持つコムキャストから来年までに買い取る契約になっています。その費用は約90億ドルです。
宮武さんは、別の人が出した案として、ディズニーがスポーツ専門局ESPNをコムキャストに売却し、その代わりにHuluの90億ドルの支払いを不要にするような取引も紹介します。ただし、実際に何が起きるかはわからないとしています。
「買収のプロ」アイガーの原点、ピクサーへの執念
宮武さんは、15年間のCEO経歴から見て、アイガーさんが次にやることは買収だろうと予想します。その原点は、2005年にCEOとして臨んだ最初の取締役会にあります。
アイガーさんは最初の取締役会で、当時のディズニー映画の業績が悪く、キャラクターが子供や親に響いていないことを示しました。そして響いているのはピクサーだとして、スティーブ・ジョブズさんにピクサー買収を打診する許可を求めました。
(アイガーさんは取締役会で)「ディズニーのアニメーション部門が死んだ場合、この会社も死にますよ」と。
アイガーさんにとって、良いIPやIPを作る部隊を持ち続けることが、ウォルト・ディズニーのレガシーを残す鍵だったと宮武さんは語ります。
草野さんも、2005年以前のディズニーアニメは『アトランティス』『トレジャー・プラネット』など記憶に残らない作品が多いと振り返ります。宮武さんによると、『リトル・マーメイド』『ライオン・キング』の90年代が黄金時代で、2000〜2005年の作品は業績が悪かったといいます。
ジョブズのプロコンリストと、ルーカスとの朝食
宮武さんは、最近読んだボブ・アイガーさんの本から、買収の裏話を紹介します。ピクサー買収の交渉で、スティーブ・ジョブズさんはホワイトボードに買収の長所と短所を書き出すことを提案しました。
ジョブズさんは、ピクサーの判断が遅くなるなど、悪い点から次々に書き始めます。アイガーさんが挙げた良い点は少なく、宮武さんの記憶では2対10ほどの差だったそうです。
「これは難しいかもしれない」と弱気になったアイガーさんに、ジョブズさんはこう返したといいます。
買収発表の当日、午後1時の発表の45分前に、ジョブズさんはアイガーさんを散歩に誘います。そこで、誰にも言っていなかったがんの再発を打ち明け、撤退するなら今のうちだと伝えました。アイガーさんはそれでも買収を進めると答えています。
ルーカスフィルム買収にも逸話があります。2011年5月、ディズニーランドのスター・ウォーズのアトラクション「スター・ツアーズ」のリオープンにジョージ・ルーカスさんが来ると聞き、アイガーさんはレストランを貸し切って朝食に誘い、売却を考えているかを尋ねました。
「ただ、ボブ・アイガーさんがピクサーの人たちをちゃんとケアして、ちゃんとそのクリエイティブの人たちを自由にさせたっていうのはめちゃくちゃ良かったです」と。
ピクサーはもともとルーカスフィルムの傘下で、ルーカスさんがジョブズさんに売った会社でした。ルーカスさんは「売るときは電話する」と答え、その7か月後に実際に電話をかけてきたといいます。
次の買収候補はキャンドルメディア?後継者問題との一石二鳥
宮武さんには、個人的に有力と考える買収候補が1社あります。その会社を買えば、ディズニーが抱える後継者問題と子供向けコンテンツの課題を同時に解決できると見ています。
子供向けの課題の手がかりは、2021年11月の決算説明会でのチャペックさんの発言です。投資家から特定の層でのチャンスを聞かれ、チャペックさんは未就学児層で人気の「復活(resurgence)」のチャンスがあると答えました。
「え、復活っていうことは、人気じゃなかった時があったのか」と。
チャペックさんは「この層ではもっとDtoCに行く必要がある」とも話していました。宮武さんは自分の仮説として、ディズニーはYouTube、具体的には子供向けチャンネルのココメロンに負けているのではないかと考えています。
そこで候補に挙がるのが、ココメロンを制作するムーンバグを買収したキャンドルメディアです。キャンドルメディアを買えばココメロンのIPを持てます。
後継者問題にもつながるのは、キャンドルメディアの創業者が、元Disney+トップのケビン・メイヤーさんと、元ディズニーCFOのトム・スタッグスさんだからです。2人はマーベル、ルーカスフィルム、フォックスの買収に関わり、スタッグスさんはピクサー買収チームにもいました。
宮武さんは、後継者にはビジョナリーなCEOだけでは足りず、Co-CEOかCOOかはともかく、実行を担うオペレーション型の人も必要だと話します。スタッグスさんは元CFOで元COOでもあり、メイヤーさんと2人でその両軸になるかもしれません。
草野さんも、ディズニーの文化を知り、起業家的なビジョンと右腕を兼ね備えていて、パーフェクトに見えると話します。ただし宮武さんは、フォックスに約700億ドルを払った後で、この景気の中でどこまで現金を使うかという価格の問題も残ると付け加えます。
宮武さんの見立てでは、アイガーさんはコストカットだけでなく、次の世代を連れてくるはずで、そこがディズニーの見どころです。次回はNetflixのポジショニングと、IPやメディアの今後を取り上げる予定です。
まとめ
ディズニーのCEOが「ボブからボブへ、そしてボブへ」と移った背景には、決算説明会の失敗だけでなく、組織体制とプラットフォーム観の違いがあったと宮武さんは読み解きます。復帰したアイガーさんには、赤字対策と同時に、二度と失敗できない後継者選びが待っています。
- チャペックさんはDisney+の目標を3〜4倍に引き上げて成長を優先したが、赤字と決算説明会の失敗で解任された
- アイガー流はIPごとのクリエイティブディレクターに予算と権力を渡す体制で、チャペックさんはDMEDで集権化した
- チャペックさんの職能制組織は理論上正しかったが、ディズニーのクリエイティブ文化には合わなかった可能性がある
- アイガーさんはIPフランチャイズを、チャペックさんは配信やテーマパークなどの流通をプラットフォームと見ていたと考えられる
- 宮武さんは、ケビン・メイヤーさんらが創業したキャンドルメディアの買収が、子供向けコンテンツと後継者問題の両方を解く一手になると予想する





