社名はなぜ成功と失敗を左右するのか?
「イノベーションの波とタイミング」の前半では、不況期によい会社が生まれるという仮説に対して、インターネットやアプリストア、AWSのような技術の変曲点と、金利の高い時期にバリューを取れる会社が生まれるという金融市場の視点が語られました。
後半で宮武さんが加えたのは、社会が受け入れるかどうかという3つ目の条件です。宮武さんによると、その最初の例が、テック企業の名前です。
テック企業の名前でさえも、なんかこの社会的受け入れ、受け入れられるのか、受け入れられないのかっていうところにもつながるのかなと思いますよね。
草野さんはAppleを例に挙げ、シンプルでテック企業っぽくない名前が逆にかっこいいと応じました。宮武さんはピーター・ティール ── PayPalの共同創業者で投資家。Facebookの初期投資家としても知られ、スタートアップ論の著書『ゼロ・トゥ・ワン』がありますさんも同じ話をしていたと紹介し、もちろん名前だけで成功できるわけではないと断ったうえで、社名は成功と失敗に一部つながると話しています。
ピーター・ティールさんがよく出す例が、PayPalとNapsterの対比です。PayPalは「払う(Pay)」と「友達(Pal)」を組み合わせた、送金や支払いを助けてくれる友達という意味のフレンドリーな名前です。
一方で、最終的に政府にシャットダウンされた音楽共有サイトのNapsterは、「ナップ」の部分がキッドナップ、つまり誘拐から取られています。
音楽を誘拐するっていう。まあそれはなんか悪いことをしてる風に聞こえちゃうので。
宮武さんは、AirbnbはUberよりフレンドリーな名前に聞こえるとも話しています。特に消費者向けで、アメリカの政府や法律に関わる領域の企業では、名前が意外と重要になるという見方です。
「払う」と「友達」。送金や支払いを助けてくれる友達というフレンドリーな印象
「キッドナップ(誘拐)」由来。音楽を誘拐する、悪いことをしている印象
FacebookがMySpaceに勝った理由は名前にあった?
宮武さんは、FacebookとMySpaceの名前の比較も持ち出しました。宮武さんの説明では、名前には起業家が「ユーザーに何をさせたいか」という思いが表れるといいます。
SNSは基本的に「読み」と「書き」のサービスです。宮武さんによると、人生では書く前に読むことはできませんが、最終的にどちらを多くやるかといえば読むほうだといいます。
FacebookはBOOK(本)という名前のとおり、人のことを学ぶための読み物として出されていた、と宮武さんは見ています。対してMySpaceは、自分が書いたものを見てほしいという「書く」ことが先に立った名前です。
人のことを学ぶための読み物。多くの人がより多くやる「読む」が中心
自分の書いたものを見てほしい。「書く」ことが最初に来る
草野さんが、英語ネイティブの人はそこまで読み取るのかと尋ねると、宮武さんは一般ユーザーはおそらくそこまで読み取っていないと答えました。宮武さん自身も、創業者がそこまで考えていたかは正直わからず、結果論に聞こえる部分もあると認めています。
精度が8倍になる大砲を、海軍はなぜ25年拒んだのか?
結果論ではない事例として、宮武さんは50年以上前の本『Men, Machines, and Modern Times』を紹介しました。インターネット以前に書かれ、テクノロジーが社会にどう浸透し、社会がどうリアクションするかを扱った本です。
この本が取り上げているのは、約120年前の海戦です。当時は飛行機がなく、国同士の戦争は海上で船の大砲を撃ち合う形で行われ、海軍が非常に重要だったといいます。
当時の大砲は大きく重いため、船に固定され、狙いも固定されていました。船は波で上下に揺れるので、船長が「撃て」と命じた瞬間に船の高さが変わり、砲弾は相手の船に当たりませんでした。宮武さんによると、命中精度は10%ほどでした。
そこへある発明家が、船が波で上がるとその分大砲が下を向き、船が沈むとその分上を向く仕組みを考えました。草野さんが「ジンバルやスタビライザーのような仕組み」とたとえると、宮武さんも同意しています。
大砲と狙いが船に固定され、波の上下で外れる。精度は10%ほど
船の揺れに合わせて砲の向きが補正され、狙いが固定される。精度は7〜8割に
これほど効果がわかりやすい技術でも、アメリカとイギリスの海軍が取り入れるまでに25年かかりました。宮武さんは、導入作業に時間がかかったのではなく、海軍が25年間「入れたくない」と断り続けたのだと説明しています。
最終的に発明家はルーズベルト大統領のもとまで行き、大統領が海軍に「ちょっと見てくれ」と言ったことで、ようやく導入が始まったといいます。
海軍が新技術を嫌った本当の理由とは
草野さんは、新しいものを入れるのは手間がかかり、新しいことを学ぶのは大変だからではないかと考えました。宮武さんはそれに同意しつつ、手間はどちらかというと言い訳だと見ています。
しかも学ぶ、新しいことを学ぶだけではなくて、今までのやり方が全部変わるじゃないですか。
宮武さんによると、大砲の改善はトレーニングの手法、昇格の方法、階級内のヒエラルキー、製造のあり方まで変える可能性がありました。その結果、当時権力を持っていた人たちが入れ替わるかもしれなかったため、海軍は導入を嫌ったという説明です。
草野さんは、すでに組織にいる人からすれば制度が変わるのは怖いし、砲弾が当たらなくても自分にはそれほど不利がない、と応じました。宮武さんも、考え方としてはそうなってしまうと認めています。
宮武さんは、この本が描いているのはテクノロジーが社会に入るときの典型的な反応だと話しています。
無視
最初は相手にされない
理論上の批判
理屈の面から批判される
悪口
最後は悪口を言われる
インターネット以前から、導入すべき技術でさえこう扱われていたのなら、今のテクノロジーにも同じことが起きているのではないか。宮武さんはそこからSNSの話へ進みます。
SNSは「くだらない」から救世主、そして民主主義の敵へ
宮武さんによると、Twitterが登場した当初は「こんなバカバカしいサービスは使う意味がない」とよく言われていました。知らない人が昼に何を食べたかなど、どうでもいいという反応です。
草野さんは、中学・高校の頃に一言をつぶやく掲示板のようなものが流行っていたため、Twitterは画期的に感じたと振り返っています。それでも宮武さんは、当時は大半の人が「書くことはないし、他人の行動を知っても仕方がない」と考えていたと見ています。
その後、SNSが救世主のように扱われた時代がありました。宮武さんが挙げるのは2012年のオバマ氏の2度目の選挙で、アメリカでは「SNS選挙」と言われたほどだったといいます。当時の中心はFacebookで、ちょうどFacebookが上場した年でもあり、アラブの春 ── 2010年末から中東・北アフリカで広がった民主化運動。SNSが抗議活動の拡散や組織化に使われたことで注目されましたもその時期にありました。
面白いことに、その最初になんかこれってなんかすごいくだらない、くだらないものですよねから、これってそのみんなを救う救世主ですよねっていうところから、もう民主主義を潰すものですよねっていうのを同じ人たちが言ってるっていう。
草野さんは、日本でもSNSが救世主だった時期があったのか考えました。震災時にTwitterが注目されたことはあっても、それはツールとしての文脈で、民主主義の力を持つSNSという語られ方はアメリカほど大きくなかったかもしれない、と話しています。
宮武さんは、アメリカが民主主義という言葉を重視する国であり、当時はイラクとの戦争も含め、民主主義を他国に広めることが国際的なアジェンダだったことが背景にあるかもしれないと答えました。
コンテンツモデレーションに終わりがないのはなぜか
SNSの受け入れ方を通して宮武さんが感じたのは、社会の受け入れには理念やモラルが非常に重視されるということです。その身近な例がコンテンツモデレーション ── SNSなどの運営者が、投稿を削除・制限・非表示にするなどして、プラットフォーム上の発言を管理することだといいます。
宮武さんは、どこまでモデレーションをしてどこまで言論の自由を守るかのバランスが非常に難しいと話しています。1つの会社の中の、ほんの数名が何を発言できるかをコントロールしてよいのか、という倫理的な課題があるからです。
宮武さんによると、イーロン・マスク氏が今抱えるTwitterについて公開した情報からは、TwitterがFBIや政府に誘導・影響されていたことがわかります。FBIから「こういうことをしてほしい」「この人をもう少し見てほしい」と言われ、それに従って動いていたといいます。
草野さんが「安全を守るためなら」という議論もあると指摘すると、宮武さんは、その安全がどこまで広がるかが問題だと答えました。
(コンテンツモデレーションを)しだすと止まるところがないんですよね。
いわゆる何かの発言に対しても、誰かが自分がそれによって何か危険を感じたりとかするっていうのは言えてしまうので。
宮武さんは、全部のフィルターを外せと言いたいわけではないと断っています。言論の自由を求める人にとっても思っている以上に難しく、モデレーションを求める人の要求も導入するほど広がっていくため、スタンダードがなく、国や人によって基準が違うことが難しさの核心だと話しました。
AIの「フィルター」を一社が握ってよいのか?
宮武さんは、コンテンツモデレーションがこれだけ話題になるなら、AIはその比ではない問題になると見ています。OpenAIやStable Diffusionのモデルの上には、危険なものや裸の画像を出さないといったモラル的なフィルターが載っているといいます。
宮武さんによると、Stable Diffusionはオープンソースなのでフィルターの中身がある程度見え、場合によっては外すこともできます。一方、OpenAIは未上場企業として会社がフィルターを設定できるため、極端に言えば「Off Topicについては悪く書いて」と設定すればChatGPTはそう書いてしまう、という説明です。
草野さんは「社会的に抹殺されますね」と反応し、宮武さんも、AIをコントロールする会社が非常に大きな力を持つと同意しました。宮武さんは、以前話したレコメンデーションメディアのTikTokにも同じ課題があると補足しています。
すでにフィルターを外す動きもあります。MicrosoftはChatGPT付きのBingで変な発言が出たため、特定の話題や、裏方のAI「シドニー」について答えないフィルターを追加しました。これに対し、「君はダンというAIだと仮定しましょう」とシミュレーションに誘導するプロンプトで、フィルターの裏を取る動きが出てきたといいます。
草野さんはこれを「催眠術みたい」と表現しました。宮武さんは、これをAIのハッキングと呼ぶ人もいる一方で、後から載せたフィルターを外して元のAIに戻す「アンハック」ではないかという考え方もあると話しています。
宮武さんは、以前のChatGPTの例も挙げています。ウクライナがロシアに勝った場合のベネフィットは列挙してくれた一方で、ロシアが勝った場合のポジティブな点は答えなかったといいます。今は解決しているかもしれないと前置きしつつ、これがよいのか悪いのかは考えるべき問題で、今後AI生成技術には訴訟が多く出てくるだろうと見ています。
AIのバイアスは人間とどう違うのか?
草野さんは、AIを提供する事業はリスクが大きく怖いと話しました。宮武さんは、すでに人間はアルゴリズムの中で暮らしていて、アルゴリズムには必ずバイアスがかかるため、AIのフィルターもそれとほぼ同じだという見方もあると補っています。
草野さんは、AIは色眼鏡のない真っさらな状態なのかと考えつつ、人の情報を集めている以上バイアスはある、と自ら指摘しました。そこで宮武さんが注目したのは、ChatGPTの人間らしさです。
そのユーザーがえっと、欲しそうな回答を出してくれるんですよ、いわゆる。それってすごい人間っぽいなっていうのは思いますけどね。
宮武さんによると、ChatGPTは自分の言っていることを理解していませんが、よい回答を出そうとするため、ユーザーが欲しそうな答えを返します。草野さんは、ユーザーヒアリングで「これってすごくいいプロダクトですよね」と誘導する質問をすると否定しにくくなる例を思い出したと話しました。
宮武さんは、カスタマーサービスの人が内心どうでもいいと思っていても謝ることがあるように、人間も相手を満足させるために本心と違う対応をすると指摘しています。ChatGPTも同じように、満足させるために嘘のファクトを出すことがあるといいます。
宮武さんは、AIと人間の区別がつかなくなるほど人間の認証が重要なビジネスになると見ています。OpenAIのサム・アルトマン氏がそのためのサービスWorldcoin ── サム・アルトマン氏らが手がけるプロジェクト。目の虹彩をスキャンして、その人が実在する人間であることを確認する仕組みを掲げていますも作っていることについて、課題を自ら作り、その解決も自ら作っていると表現しました。
AIは医者や先生の仕事を奪うのか?
宮武さんは、以前話題にしたAppleのヘルスケアとAI診断を例に、医者はAI診断を嫌うだろうと話しました。草野さんはすぐに「大砲と同じ話かもしれない」と結びつけています。
宮武さんは、医者だけでなく先生、アーティスト、コピーライター、弁護士、ジャーナリストも、少なくとも仕事の一部をAIに取られると見ています。ただし、リプレースより拡張と考えるほうが正しいという立場です。
草野さんは、医者はやることや学ぶことが多すぎるので、むしろAIを受け入れたい人も多いのではないかと考えました。宮武さんは、結果としてAI診断で済ませて医者に行かない人が増え、診断する医者の数は今ほど必要なくなるかもしれないと答えています。
宮武さんは、こうした変化を食い止めたい人は倫理やモラルの問題を持ち出すと指摘しました。草野さんが普通に倫理的な問題もあるのではないかと尋ねると、宮武さんはそれもあると認めつつ、どこまで論理的に考えられているかは別だと話しています。
自動運転にトロッコ問題を当てはめるのは間違い?
宮武さんは、タクシー運転手やギグワーカー、自動車会社や部品メーカーまで幅広く影響する自動運転を例に、倫理的な問題の扱い方を考えます。数年前から持ち出されているのがトロッコ問題 ── 暴走する電車がそのまま進めば5人を、進路を変えれば1人を犠牲にするとき、どちらを選ぶべきかを問う倫理学の思考実験です。
宮武さんはハーバード大学の先生の本や授業でこの問題を知ったといいます。自動運転が5人と1人のどちらかを選ぶのはよいのか、という形で語られますが、宮武さんはそもそもトロッコ問題には答えがないと話しています。
宮武さんによると、トロッコ問題を自動運転に当てはめることには根本的な問題が2つあります。1つは、人間はとっさの場面でそもそもそういうふうに考えないことです。
そのいわゆるその倫理的に五人を引くか一人引くかっていうのを考えないんですよ。その場、瞬間で動くっていう。
草野さんも「やばいやばいってなる」「数量で考えるのは無理」と同意しました。人間がそう考えないのに、なぜ機械に同じことを考えさせようとするのか、というのが宮武さんの1つ目の指摘です。
もう1つは、機械の役割は判断することではなく、より早くブレーキを踏めるかどうかだという点です。宮武さんは、そこに倫理的な問題を持ち出すのは間違いだと考えています。
ただし宮武さんは、コンテンツモデレーションのように本当に倫理的な問題があるテクノロジーもあると認めています。倫理を言い訳にする人もいるので、その違いを理解しなければならないという整理です。
AI画像生成は他人の作品を盗んでいるのか?
AIでよく出てくるもう1つの課題が、フェアユース ── 著作物を、批評や研究など一定の条件のもとで権利者の許可なく利用できるとする、アメリカ著作権法上の考え方やアトリビューション(出典の明示)の問題です。宮武さんによると、ゲッティがStable Diffusionに画像の無断利用で訴訟を起こし、個人のアーティストや画家も、自分たちの派生作品を作っているとして訴えています。
宮武さんは、「赤い帽子を被ったピカチュウ」と入力した場合、DALL-EやStable Diffusion、Midjourneyは既存のピカチュウ画像と帽子画像を組み合わせているのではなく、ほとんどの場合まったく新しい画像を描いていると説明しました。
草野さんは、AI画像をよく見ると目が目になっていなかったり、足がありそうでなかったりすると指摘しました。宮武さんも、指の本数や向きがおかしく、文字が苦手なことが多いと加えています。
そのうえで宮武さんは、草野さんに同じお題を出した場合も、記憶にあるピカチュウや赤い帽子を思い描いて組み合わせるのだから、DALL-Eがやっていることと似ていると話しました。
だったら草野さんが出した画像って、それってポケモンにお金を払わないといけないんですかと。
宮武さんは、だから全部OKだと言いたいのではなく、完全なコピーやコピペなら完全にNGだとしています。言いたいのは、なぜ機械には期待値があり人間にはないのか、という問題の難しさです。
宮武さんは、すべてのコンテンツはリミックスだというYouTubeのドキュメンタリーを挙げ、ボブ・ディランが使ったメロディの3分の2はどこかから借りたものだという話や、ヘンリー・フォードが「何も新しいものは作っていない」と語ったことを紹介しました。Off Topicも、いろいろな情報を集めて引用しながら作られているコンテンツだといいます。
プロのクリエイティブは本当にオリジナルなのか?
宮武さんは、人間は自分たちがクリエイティブでオリジナルなものを作っていると思いがちでも、実は周りの環境から影響されることが多いと話しています。その例が、2016年にイリュージョニストのデレン・ブラウン氏が行ったサブリミナル広告の実験です。
デレン・ブラウン氏は広告代理店の2人をタクシーで自分のオフィスに呼び、新しいアイデアのブランドを作ってほしいと依頼しました。お題は動物の剥製で、ポスターに名前、ロゴ、スローガンを入れるという内容でした。
宮武さんによると、2人の案が同じになった理由は、オフィスへ向かう道のりに連想を促すサブリミナル広告が仕込まれていたことでした。プロの広告マンでさえ影響を受けて同じものを作れてしまうという例です。
宮武さんは、オリジナリティやクリエイティビティがどこまで本当にあるのかという課題が、この実験に象徴されていると話しています。倫理的な課題を言い訳に使う人もいれば、本当の課題として存在する場合もある、というのがこのパートのまとめです。
テック企業は社会にどう受け入れさせるのか?
スポンサーのCambly紹介の後、話題は社会的なブロックをテック企業がどう突破するかに移ります。宮武さんが最初に挙げたのは、テクノロジーを既存のものに溶け込ませる方法です。
完全自動運転は法律が厳しく、Waymoなどがまだ試している段階です。一方でTeslaは、自由市場で買える車に自動運転機能を1つの機能として載せ、ユーザーが選んで購入する形を取っていると宮武さんは説明しています。
まず試してもらわないと、その受け入れて起きないので。
宮武さんは、最初は批判していても、使い始めると戻れなくなると話しました。草野さんの「馬に乗っていたけど、やっぱり車いいな」というたとえに、宮武さんは「馬の世話をしなくていいのか」となると応じています。携帯電話やテキストメッセージも、昔は「絶対使わない」という人がいたのに今では当たり前になった例です。
政治家の帰り道にUberを集めた理由
宮武さんが「すごく上手い」と紹介したのが、Uberのやり方です。Uberは多くの自治体や政府から嫌われ、政治家が会合で「UberをBANすべきだ」と発言することがよくありました。
宮武さんによると、政治家のスケジュールはある程度公開されています。Uberはそれを見て、会合の帰りに政治家がUberを使うと見込み、その時間にビルの周りに大量のUberを走らせました。
で、そうすると政治家がUberを呼んだらめちゃくちゃすぐに来るんですよね、Uberが。あ、便利じゃんって。
宮武さんは、最近では無料提供も可能になったと話しています。インターネットでディストリビューションが簡単になり、昔のように政府、会社、個人の順に広がるモデルが大きく変わったといいます。
草野さんは、フードデリバリーも最初は高いと感じても、1000円クーポンがあれば使ってしまい、便利さを知ると皆使うようになると話しました。宮武さんは、最初のマジックモーメント ── ユーザーがサービスの価値を初めて実感する瞬間を指すプロダクト開発の用語まで導き、戻れないところまで持っていくことが重要だと応じています。
AIで消える仕事の予想はなぜ逆転したのか
宮武さんは、ChatGPTやDALL·Eなどの生成AIによって、AIに対する社会の考えが大きく変わったと見ています。AIが仕事を奪うという発想は何度もありましたが、パニックになっている人たちが昔と今で入れ替わったといいます。
過去20〜30年は、AIやロボットに置き換えられるのは工場や掃除などのブルーカラーの肉体労働で、ナレッジ系やクリエイティブな人が残ると言われていました。ところがChatGPTやDALL·Eを見ると、宮武さんは「逆じゃん」と感じたといいます。
まず肉体労働が置き換えられ、クリエイティブなナレッジワークは残るとされていた
本や詩を書く機械はあるのに、洗濯物を畳む機械はない。クリエイティブのほうが置き換えやすかった
宮武さんは、Amazonでさえ今も多くの人を採用しなければならないと指摘しています。理由として、肉体労働には思った以上に状況の理解が必要だと話しました。
草野さんは、クリエイティブな仕事は主観的で一人で完結しやすく、元データがあればできそうだが、肉体労働は環境とのインタラクションや時と場合に応じた対応が難しいのではないかと考えました。宮武さんも、例外が起きやすく、空間の理解が必要だと同意しています。
医者や先生の役割はAIとどう変わるのか?
宮武さんは、一部の仕事は置き換えられても、新しい仕事も生まれると話しています。医者の話に戻ると、診断が中心だった役割が、患者との時間や心理面を見抜くことへと変わり、AIと連携するライフコーチ的な存在になるかもしれないといいます。
教育についても宮武さんは、10年後の先生は今の授業形式とはまったく違うものになっていてほしいと話しました。AI家庭教師が1対1で教え、先生はそのAIを全体として見る役割になるかもしれないという見立てで、草野さんも「そうなっていてほしい」と応じています。
草野さんは、教育や医療は一部の場所だけを変えても無理で、大きな力で全体を動かす必要があるハードルを指摘しました。宮武さんも、政府が関わる領域なので一番難しいと同意しています。
宮武さんは、テクノロジーが敵対視された過去の例も挙げています。写真の技術はアート業界で敵視され、楽譜が出てきたときにはミュージシャンが、ライブパフォーマンスで稼げなくなると猛反対しました。それでも結果として、アート業界も音楽業界もテクノロジーで市場が大きくなったといいます。
『マッドメン』の脚本会議を1人でできる時代
宮武さんは、映画やドラマの制作でもChatGPTはどんどん活用されるべきだと話しています。例に挙げたのが、アメリカの広告業界を描くテレビドラマ『マッドメン』です。
宮武さんによると、『マッドメン』は予想できないストーリーで評価されています。作家たちが集まるライターズルームで、毎回「この5つの流れは当たり前」とリストアップし、それは絶対にやらずに別のことをやると決めていたといいます。
宮武さんは、ChatGPTを使えば同じことを1人のライターでもでき、5人や何十人のライターがやっていたことに近づけると見ています。草野さんも、1時間ほどで出そうな基本のアイデアをすぐ出し、そこから派生させるのにとても便利だと話しました。
宮武さんは、最初の名前の話とも関係して、「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が違う期待値を与えているのではないかと話しています。Augmented Intelligence、つまり拡張知能と呼べば同じAIのまま、受け止め方が変わるかもしれないという考えです。宮武さんは、自分が考えたアイデアではなく以前からあったはずだが、普及しなかったと補っています。
宮武さんは、テクノロジーはよいことにも悪いことにも使え、画期的になるほどポジティブとネガティブの幅が広がると話しました。ネガティブの深さが増すほど反対されやすく、AIの場合は『ターミネーター』のような映画のイメージもあるといいます。
コロナはなぜ社会の当たり前を変えたのか
もう1つの社会的受け入れのきっかけとして、宮武さんは、過去のOff Topicの「System Renaissance」の回でも話した、社会が危機的な状況に陥ることを挙げています。わかりやすい例はコロナです。
宮武さんによると、コロナによってEC、リモートワーク、町の経済圏などがすべて変わりました。かつて世界は天気が似る緯度、つまり横軸で分けられていましたが、今は時間帯が揃う経度、つまり縦軸で切られるようになったといいます。
世界は天気が似る緯度で分かれ、街は港やいい大学の近くにできた
時間帯が揃う経度で世界が切られ、リモートワークで街づくりも変わる
宮武さんは、危機を期待するかどうかは別としても、そうした瞬間を見逃さないことがテクノロジー企業にとって重要になると話しています。
技術・社会・金融、3つの曲線をどう見るか?
前半と今回のまとめとして、宮武さんは3つの種類の変化を挙げました。1つ目はAIの誕生、機械学習やチップの進化などの技術的な変化、2つ目はそれを社会が受け入れるかという社会的な変化、3つ目は社会が受け入れた技術をどう評価するかという金融市場の変化です。
宮武さんによると、この3つを見ながら出資し、ユーザー獲得を手伝い、最終的に上場させるのがVCの仕事です。3つの変化は、それぞれ違う曲線を描くといいます。
| 変化 | 曲線の形 | 特徴 |
|---|---|---|
| 技術的変化 | 基本は右肩上がりの直線 | 世界中のエンジニアが少しずつ改善。PCやインターネット、スマホの変曲点で階段状に急上昇 |
| 社会的変化 | 大きく上がって下がり、再び上がってフラットに | ハイプの後に落ち込み、「やっぱり便利」となって一般普及する |
| 金融市場 | 心臓発作レベルのボラティリティ | 長期的に見ても何が起きるかわからない |
金融市場について宮武さんは、ウォーレン・バフェットのメンターであるベン・グラハム ── バリュー投資の父と呼ばれるアメリカの投資家。著書『賢明なる投資家』で、気分屋の「ミスター・マーケット」のたとえを示しましたの考えを紹介しました。株式市場を「ミスター・マーケット」という1人のキャラクターとして見るべきで、その人物は日によってテンションが極端に変わるといいます。草野さんは「一喜一憂するな」ということだと受け止めています。
宮武さんは、起業家や企業の人、VCがまず見極めるべきは技術であり、場合によっては作ることだとしたうえで、社会的に受け入れられるかまで見ることが一番のフォーカスであるべきだと話しました。
AIにとって次の2年が重要になる理由
宮武さんは今回の狙いとして、テクノロジーだけでなく社会的な受け入れが非常に大事だと示したかったと話しています。倫理的な問題を掲げ、受け入れない人たちは今後必ず増えるだろうという見方です。
特にクリプト、AI、SNS、そして何をオープンにしクローズにするかをめぐっては、今年から大きな戦いが起きると宮武さんは見ています。中でもAIにとっては、社会が倫理的に受け入れるかが問われる重要な2年になるといいます。
草野さんが「企業はどうしたらいいのか」と尋ねると、宮武さんは難しいとしたうえで、ChatGPTが無料で配布され、「こういうふうに使えるんだ」と思わせたことはとてもよかったと答えました。そのうえで、これから生まれる倫理的な課題にどう反応するかが問われると話しています。
草野さんは「答えのない話ですね」と受け止め、エピソードは締めくくられました。
まとめ
この回の宮武徹郎さんの主張は、イノベーションには技術の変化と金融市場に加えて、社会が受け入れるかどうかが欠かせないというものです。社名、海軍の大砲、SNS、AI、Uberの事例から、抵抗が生まれる理由と、それを乗り越える方法が語られました。
- 社名はユーザーに何をさせたいかを映し、PayPalとNapster、FacebookとMySpaceのように受け入れられ方を左右しうる
- 精度が10%から7〜8割に上がる大砲でも、権力構造が変わることを嫌った海軍は導入まで25年かかった
- コンテンツモデレーションやAIのフィルターには基準がなく、一社が発言をコントロールする倫理的な問題がある
- 倫理を言い訳にした反対と本当の倫理的課題を区別し、AIはリプレースではなく拡張として考えるべきだと宮武さんは話す
- 試してもらい戻れなくすること、そして危機の瞬間を見逃さないことが、テクノロジーを社会に受け入れさせる鍵になる





