テクノロジーは音楽文化をどう変えるのか
今回のOff Topicは、テクノロジーが音楽カルチャーをどう変えたかを語る前後編の後編です。前編がiTunesやiPodの時代で終わったのを受けて、後編ではストリーミングとSNS、特にTikTokの影響を中心に話が進みます。
宮武さんが示す大きな見取り図は、新しいフォーマットやテクノロジーが生まれるとビジネスモデルが変わり、アーティストの考え方と曲作りが変わり、最後に文化が変わる、というものです。
新しいテクノロジー
ストリーミングやTikTokなど、新しいフォーマットが生まれる
ビジネスモデルの変化
収益の仕組みやインセンティブが変わる
アーティストの考え方
何を作れば届くか、稼げるかの発想が変わる
曲作りの変化
曲の長さや構成、発表の仕方が変わる
文化の変化
リスナーの聴き方や流行のあり方が変わる
やっぱTikTokの影響がやっぱ大きかったので、今回そこ(TikTok)の話も結構するんですけど。
宮武さんがこの回をやりたかった理由として挙げたのも、TikTokが音楽に与えたインパクトの大きさでした。
Spotifyの「30秒で1再生」が生んだものとは
iTunesの次に来たのはストリーミングです。宮武さんは、Spotify ── スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。月額制や広告付き無料プランで、膨大な楽曲を聴き放題にした代表的なサービスですがiTunesを事実上潰し、業界のビジネスモデルを完全に変えたと話します。
Spotifyが持ち込んだのは、何回聴かれたかをもとにアーティストに支払う、エンゲージメントベースの収益化です。家で何回CDを聴いたかは誰にも追跡できず、iTunesでもiPod上の再生は追えませんでした。
そのためiTunesは1曲1ドルで売っていましたが、宮武さんによれば、これは全曲が同じ価値だと言っているのと同じです。1回しか再生されなくても、100万回再生されても、1ドルという価値は変わりません。
しかもそれ(1曲1ドル)が1回しか再生されなくても、100万回再生されても、1ドルっていう価値は変わらないんですよ。
ストリーミングでは、より聴かれるアーティストほど稼げる仕組みになりました。ただ難しかったのが「1再生とは何か」という定義です。間違って再生ボタンを押す人もいるため、Spotifyは最低30秒聴けば1再生とみなすことにしました。
宮武さんはこの定義を「割とシンプル」と評価しつつ、別の現状を生んだと指摘します。30秒が最低ラインなので、5分の曲も10分の曲も、31秒の曲も同じ1再生として数えられてしまうのです。
五分の曲をつく-作るより、1分の曲を5個作った方が(マネタイズはできるんじゃないかと)。
アーティストの側から見れば、5分の曲を1つ作るより1分の曲を5つ作るほうが収益になる、という発想が出てきます。草野さんも、アルバムを聴いているとすぐ次の曲に移るので、短い曲は再生数を稼ぎやすいとうなずきます。
1曲1ドルで販売。再生回数は追えず、何回聴かれても価値は同じ
30秒以上聴かれると1再生。聴かれるほど収益になるが、曲の長さは評価されない
「Old Town Road」は1分53秒で何をハックしたのか
短尺化のいちばんの事例として宮武さんが挙げたのが、Lil Nas X ── アメリカのラッパー。2019年の「Old Town Road」の大ヒットで一躍有名になり、SNSを巧みに使うアーティストとして知られますの「Old Town Road」です。全米がLil Nas Xを知ることになった曲だと紹介されます。
「Old Town Road」の長さは1分53秒で、宮武さんによれば、曲が出た2019年の平均的な曲の長さの半分ほどです。さらに、多くの曲は40〜45秒あたりでサビが始まるのに対し、この曲は13秒でサビが流れ、しかも30秒以上続きます。
サビを最後まで聴けば30秒のラインを越えて1再生になります。草野さんは「策士ですね」と驚き、宮武さんも、どこまで計算したかはわからないが、Lil Nas Xならある程度は計算しているはずだと話します。
リピート再生の差も大きいといいます。「Old Town Road」を1時間聴き続ければ約30回再生されますが、5分の曲では12回にとどまります。
1時間連続ずっとOld Town Roadを聞いてると、まあ1回2分と考えると30回聞くことになるんですよ。
曲の短さは業界全体の傾向でもあります。2017年までのビルボード ── アメリカの音楽チャートを発表するメディア。代表的なチャート「Hot 100」は、売上・ストリーミング・ラジオ放送などを集計して週ごとの順位を決めますHot 100では、2分30秒以下の曲は2%しかありませんでした。それがここ3年ほどで12%前後まで増え、8曲に1曲が2分30秒以下になっているそうです。
2017年まで: わずか2%
ここ3年ほど: 約12%(8曲に1曲)
草野さんは、TikTokで流行る曲も短いと補足します。TikTokでサビを聴いて面白いと思い、ストリーミングで聴くとすぐサビが来てすぐ終わる。それでもう1回聴く、という流れです。
宮武さんはさらに、Lil Nas Xが曲の長さだけでなく、ビルボードのルールそのものを「ハック」していたと話します。ビルボードでは、ベースが同じリミックス曲の再生も、元の曲にカウントされる仕組みがあるといいます(宮武さんは同一部分の割合を「確か7割以上」としつつ、正確な数字は覚えていないと断っています)。
「Old Town Road」には、BTSとのコラボなど、他のアーティストをフィーチャリングしたバージョンがいくつもありました。それらが聴かれた回数もオリジナルに加算されるため、リミックスカルチャーが盛り上がったTikTokの時期と重なって、1位の座を保つ施策になったというわけです。
草野さんは、曲を出した後にリミックスやフィーチャリング版を出すアーティストがいるのも、そうした理由が一部あるのかもしれないと話し、宮武さんは「かなり大きいと思います」と応じています。
映画からTikTokへ、本数と画質と親近感はどう変わった?
ストリーミングと並行して、宮武さんはインターネットとSNS全般がコンテンツ制作をどう変えたかを整理します。大きなトレンドは2つで、アウトプットの量が増え、制作のクオリティが下がるというものです。
映像を例にすると、映画のクリエイターは年に2〜3本ほどしか作れませんが、特殊な機材と大きな予算で高い画質を出せます。テレビのドラマはおおむね週1回で、クオリティはまだ高い水準です。
YouTubeでは週2〜3回、毎日投稿する人もいて、そのぶんクオリティは下がります。Instagramでは1日1回投稿する人が多く、TikTokでは1日に何回も投稿する人がいます。
| プラットフォーム | 投稿頻度の目安 | 出演者との距離感 |
|---|---|---|
| 映画 | 年2〜3本 | ハリウッドスターで、話すこともできない |
| テレビ | 週1回程度 | 家庭の話もするが、まだ会えないテレビスター |
| YouTube・Instagram | 週2〜3回〜1日1回 | わかりやすくなったが、まだスター |
| TikTok | 1日に何回も | 一般の人 |
投稿頻度が上がるほど、出演者との距離も近くなると宮武さんは見ています。ツールが普及して誰でもコンテンツを作れるようになり、視聴者が求めるクオリティの期待値も下がってきました。
草野さんは、この「下がり方」はいい意味だと受け止めます。有名人がTikTokで素の部分を見せたり、映画スターがYouTubeに出たりすると、画質の低さがむしろ親近感というメリットになっているからです。
我々が言うそのクオリティっていうのは、その、制作プロダクションっていうところですよね。
別にコンテンツのクオリティは正直上がってると思うんですけど。
宮武さんは、下がっているのはあくまで画質などの制作面の質であり、中身の質は全体として上がっていると補足します。親近感を出すために、あえて画質を粗くすることが重要な場面もあるといいます。
コロナ禍のTikTokは、なぜラジオまで届いたのか
ここから話はTikTokに移ります。宮武さんは、日本でどこまで影響したかはわからないとしつつ、アメリカではTikTokが音楽業界にものすごいインパクトを与えたと話し、その一因にコロナを挙げます。
コロナが始まった2〜4月ごろ、大物アーティストの多くが新曲のリリースを止めました。世の中が大変な時期に「新しい音楽を出したから買ってね」と言うのはよくない、と考えた人が多かったためです。草野さんはこれを「自粛モード」と言い表しています。
大物の新曲が止まる
自粛ムードの中、新曲のリリースを控えるアーティストが多かった
ラジオの選択肢が減る
新しく流せる曲が少なくなった
TikTok発の曲を流す
TikTokで人気の曲や新しいアーティストが起用された
全米に普及
TikTok発のアーティストがラジオやテレビにも広がった
そこで結局ラジオで何を流せばいいかって、オプションが減ったんですよ。
宮武さんによれば、TikTokはコロナ前から音楽業界に影響していましたが、TikTokの人たちが本当に全米に広まり、ラジオやテレビにまで届いたのはコロナがきっかけだったといいます。
1977年の「Dreams」がTikTokで復活した理由とは
草野さんは、ストリーミングサービスにもTikTokで流行っている曲のプレイリストがあり、古い曲が人気になったり、新旧の曲をリミックスしたものも多いと話します。
宮武さんはこれを受けて、TikTokは音楽の「ディスカバリー(発見)」と「コンテンツクリエーション(制作)」という2つの軸を変えたと整理します。
親や友人など前の世代から教えてもらって聴く
TikTokの動画をきっかけに、テック上で見つける
その一例が、フリートウッド・マック ── 1960年代後半に結成されたイギリス出身のロックバンド。1977年のアルバム『噂(Rumours)』は世界的な大ヒット作として知られますの1977年の曲「Dreams」です。宮武さんによれば、去年の11〜12月ごろにTikTokでバズり、ビルボードHot 100の12位まで上りました。
きっかけは、あるクリエイターがこの曲をバックに、リラックスしてスケボーに乗っているだけの動画でした。動画の途中でオーシャンスプレーのクランベリージュースを飲んでいたため、みんなが同じことをやりたがり、クランベリージュースまで売り切れたといいます。
やっぱりそのTikTokって、その文化を作り変えるっていうか、まあ過去の文化を蘇らせる、やっぱり力があるっていうところですよね。
オリヴィア・ロドリゴは「15秒単位」で曲を作った?
TikTokが文化を動かす力を持つからこそ、最近の若手アーティストにはTikTokを想定して曲作りをする人が多いと宮武さんは話します。その代表例がオリヴィア・ロドリゴ ── アメリカのシンガーソングライター。2021年1月のデビュー曲「drivers license」が世界的にヒットし、Z世代を代表する歌手の1人となりましたです。
宮武さんによれば、オリヴィア・ロドリゴのアルバムは、チャートのトップ50に全曲が2日連続で入り、一時期は1位から13位までを独占したそうです。草野さんは、ホワイトハウスにまで招かれていたことにも触れます。
ブレイクのきっかけは、今年1月に出した「drivers license」でした。2人とも、もう1〜2年前の曲のように感じていたと驚き、草野さんはコンテンツの消費が速いからだと話します。
宮武さんが紹介したのは、ニューヨーク・タイムズの企画「Diary of a Song」です。アーティストに曲作りの裏側を聞く企画で、オリヴィア・ロドリゴは「drivers license」を15秒単位で考えていったと語っています。
結局そのTikTokで、その、どういう、そのトランジションの使い方とか、エフェクトの使い方をするかまで想像しながら曲作りしてるっていうのを言ってて。
宮武さんによれば、オリヴィア・ロドリゴはそれが思い通りになったとも話しており、草野さんは「思い通りになりすぎるぐらい」と返しています。
TikTokを前提にした曲の出し方
最初からTikTokを意識して曲を作る人がいる一方で、正式な公開の前にTikTok上でプレリリースするアーティストも多いと宮武さんは話します。
草野さんが挙げたのはドージャ・キャット ── アメリカのラッパー・シンガー。SNSやTikTokとの相性がよい楽曲で人気を広げてきたアーティストですの例です。50〜60年代の曲に合わせたリミックスがTikTokで流行り、そのトレンドがミュージックビデオに取り込まれていたといいます(曲名は書き起こしでは「Street」と聞こえています曲名)。
宮武さんはドレイクの例も紹介します。サビの部分だけをTikTokのダンサーに渡してダンスを作ってもらい、ダンスチャレンジで動画がバズってから曲をリリースするやり方で、一部では「やりすぎ」との批判もあったそうです。
TikTokスターの歌手デビューに見える90年代ノスタルジー
逆の流れとして、TikTokスターがアーティストになる動きもあります。宮武さんは、アディソン・レイ、リル・ハディ、リクシア・メリオリクシア・メリオらの名前を挙げます。
宮武さんが指摘するトレンドの1つが、90年代から2000年代初めの文化への好みです。Z世代全般がそうした時代を好み、草野さんは大人もノスタルジーを感じると付け加えます。
TikTokスターのミュージックビデオには、1990〜2000年代を思わせる映像やファッションが多いといいます。アディソン・レイの特定のミュージックビデオは明らかにブリトニー・スピアーズを意識しているとのことです。
ジェイデン・ホスラジェイデン・ホスラは、90〜2000年代に流行したパンクロックバンドのBlink-182 ── 1990年代に人気を得たアメリカのポップパンクバンド。軽快なサウンドとユーモアのある歌詞で知られますに明らかにオマージュを捧げ、実際にBlink-182のドラマーを起用しているそうです。
替え歌やアンサー動画で広がる曲とは
TikTokでは、音楽が動画と結びついているため、多くの人が勝手にその音楽で新しい動画を作ったり、デュエットしたりします。宮武さんは「drivers license」を例に挙げます。
「drivers license」は女性の視点から、ある男性について歌った曲です。TikTokでは、この曲を使って男性側の意見を語る動画や、車の目線から歌う動画まで作られたといいます。
宮武さんは日本で近い例として、西野カナの「トリセツ」を挙げます。男性版が作られるなど、草野さんの言う「替え歌しやすい」曲です。こうしたファン文化を踏まえ、替え歌にしやすい曲作りもされているのではないかと宮武さんは見ています。
ベラ・ポーチは、なぜ「ラジオ」になれたのか
草野さんがいちばんヒットしている例として挙げたのがベラ・ポーチ ── フィリピン出身のTikTokクリエイター。口パク動画で人気を集め、2021年に歌手デビューしましたです。替え歌というより、口ずさみたくなるエンパワーメントな歌詞やリズムで、リップシンクしたくなるコンテンツだといいます。
草野さんは、アディソン・レイとベラ・ポーチの違いにも注目します。アディソン・レイはアメリカのカルチャーの王道にいそうな人で、宮武さんは「ディズニーチャンネルにいそうな人」と表現します。
ベラポッチさんこそインターネットのカルチャーで生まれてきて、アニメが好きで、アジア人で、その、ちょっと、なんていうか、Eガールっぽい感じというか。
まさにこう、インターネットで生まれた歌姫って感じが個人的にはしました。
宮武さんによれば、ベラ・ポーチが最初にバズった動画は、いまだにTikTokで最もいいねされた動画です。使われた「M to the B」は彼女の曲ではなく、当時ほぼ無名だった16歳が作った曲で、この動画のおかげで人気になりました。
その動画でベラ・ポーチがしていたのは、独特の表情の作り方だけでした。宮武さんは「顔芸」と言いかけ、草野さんは「顔芸とは言わないかもしれない」と返しつつ、アニメのキャラクターのような顔の動かし方で、見ていて気になる動きだと表現します。
ベラ・ポーチの強みは、自分の曲でなくてもバズる動画を作れることです。そのため有名なアーティストとコラボしやすくなり、むしろ有名アーティストのほうが彼女のチャンネルに乗らなければならない状況になったといいます。
もうラジオですよね、まさに。だから結局そのTikTokのクリエイターたちがキュレーターになるんですよ。
パーソナリティを通じて音楽を見つける時代になったからこそ、ジャスティン・ビーバーもベラ・ポーチとコラボしました。そして彼女のデビュー曲「Build a B*tch」は、デビュー曲としてYouTubeで最も再生された曲になったそうです。
草野さんは、これまでTikTokの音楽はダンスで広まるイメージがあったと話します。宮武さんも、TikTokはダンス動画からの発見を超えて、コントやリミックス、クリエイター経由で音楽を見つける場へと進化したと見ています。
15秒単位のラジオだからこそ、TikTokは新しいビートやメロディーを試す場所になる、と宮武さんは話します。
15秒の動画から1曲が生まれる「逆転」とは
その例がキッド・ラロイ ── オーストラリア出身のラッパー・シンガー。ジャスティン・ビーバーとの「STAY」が世界的なヒットになりましたです。キッド・ラロイは、半分ふざけてアディソン・レイについての15秒ほどのビートと歌詞をTikTokに上げ、それが人気になったため、本格的に1曲を作ったといいます。
宮武さんは、番組の外で草野さんと話していたときに草野さんが言った「ショートフォームがロングフォームを作る時代」という概念に「確かに」と思ったと振り返ります。
長いアンカーコンテンツを作り、そこから短いマイクロコンテンツを切り出す
ツイートから映画が、15秒の動画から1曲が生まれる
以前番組で取り上げたゲイリー・ヴェイナチャック ── アメリカの起業家・投資家。長い動画などを核に、短いSNS用コンテンツを大量に切り出す発信手法で知られますの考え方は前者で、今も起きています。ただ、逆の流れも人気になってきたというのが2人の見立てです。
「Old Town Road」もその一例です。Lil Nas Xは元のビートを、ビートを販売するマーケットプレイスで30ドルで買っていました。草野さんは「すごいリターン」と驚きます。
宮武さんは、これは新しい話ではなく、TikTokによってスケールしただけだと話します。小学生のとき、先生からFort Minorの「Believe Me」のメインのメロディーが、AppleのGarageBand ── Appleの音楽制作アプリ。ドラムや弦楽器などの短いフレーズ(ループ)が多数入っており、組み合わせて曲を作れますのデフォルトのループ「Orchestra Strings 08」だと聞いたそうです。Fort Minorは、リンキン・パークのメンバーがスピンオフとして作ったバンドだと紹介されています。
デジタルコンサートは、ライブの何を変える?
TikTokの次に来るものとして、宮武さんはデジタルコンサートを挙げます。草野さんがすぐに思い浮かべたのは、アリアナ・グランデがFortnite ── Epic Gamesのオンラインゲーム。ゲーム内で人気アーティストのバーチャルライブを開催し、大きな話題になりましたで行ったライブでした。
宮武さんによれば、オフラインのコンサートはスケールしません。地域が限られ、世界ツアーでも都市ごとに一度だけ、チケットは高く、世界中のファンが同時に見ることはできません。
デジタルコンサートはまずスケールを証明しています。BTSのバーチャルコンサートは約100万枚のチケットを売りました。宮武さんは、通常のコンサートの記録は25万人ほどだったはずだとし、その4倍に達していると話します。
インタラクティブな要素も増えています。宮武さんが挙げたのは、TikTokで行われたThe Weekndのライブで、25万人が同時に視聴し、最終的に200万人ほどが見たそうです。途中の投票で曲や背景の色を変えられる仕組みがありました。
ほかにも、ジャスティン・ビーバーが行ったMoment Houseのライブ、アリアナ・グランデのコンサート中にできるミニゲーム、次のミュージックビデオの撮影場所となるバーチャル世界をファンから募集したDeadmau5の例が挙がります。
宮武さんは、日本の初音ミク、アメリカのリル・ミケーラ、Riot Gamesの『League of Legends』発のバーチャルグループK/DAにも触れ、デジタルを通じた新しい体験がインセンティブ作りを変え、曲の作り方や文化に影響していくと話を結びます。
デュア・リパとビリー・アイリッシュの配信ライブが示したもの
草野さんは、キズナアイがMoment Houseで世界ツアーをした例や、Unreal Engineを使ったマディソン・ビアーのバーチャルライブに触れます。そのうえで、バーチャルではない普通のオンラインコンサートとして、デュア・リパの事例を挙げます。
デュア・リパのオンラインコンサートは500万人ほどが視聴しました。お金をかけてライブ映像を作り、中国ではTencentを通じて無料で放送したり、インドの有名なチャンネルと契約したりして、世界に届けたといいます。
それでそのオフラインのチケットもめちゃくちゃ売れるようになったらしいっていうのを聞いたことあったので。
草野さんは、発信する国以外へどう届けるかを考えるとき、映像は面白い手だと話します。宮武さんも、去年ビリー・アイリッシュのオンラインコンサートを見た体験を語ります。日本に来る機会はほぼなく、来てもチケットはすぐ売り切れますが、オンラインのチケットは30ドルと安く、とりあえず見てみようと思えたそうです。
スケールが変わればチケットを安くすることもできる、と宮武さんは考えています。
アーティストのドキュメンタリーが増えるのはなぜか
草野さんは最後に、アーティストのドキュメンタリーシリーズが増えている流れを挙げます。BLACKPINKやビリー・アイリッシュ(Apple TV+)の例のように、音楽だけでなく映像のプラットフォームでも存在感を出す動きです。
宮武さんはストーリーテリングがすごく重要だと応じます。例として、直近のオリンピックがアメリカではテレビ視聴率の面でそれほど話題にならなかったのは、各アスリートのストーリーが事前に伝わっていなかったからだと分析します。
こういう苦労した話でようやくオリンピックまで行けたんだっていうのを見ると、あ、じゃあオリンピック見てみようってなるじゃないですか。
草野さんは、NBAのステフィン・カリーがA24でドキュメンタリーをやる話や、大坂なおみのメンタルヘルスやアイデンティティの話を知るから試合を見たくなる人もいる、と例を重ねます。
宮武さんは、テニスのコアファンには響かない話でも、一般の人にはメンタルヘルスの話が重要だったりするため、新しい観客に「人としての自分」を見せられると話します。
TikTokでも同じ動きがあり、リゾは新曲をTikTokで宣伝する中で、自分をさらけ出したり、デュエット機能でQ&Aをしたりしています。SpotifyのGreenroomや「Music + Talk」、ポッドキャストも、アーティストが曲を作った理由を語る場になっていると宮武さんは見ています。
より自分のそのコンテンツ作りの過程とか、その思いとか、自分の気持ちとかを話すことによって、より親近感を作れて。
宮武さんは、そうして生まれた親近感が、後々アーティストとしての価値を上げる流れにもなるのではないかと話し、この回を締めくくりました。
まとめ
この回は、Spotifyの再生定義が曲を短くし、TikTokが音楽の発見と曲作りを変え、デジタルコンサートやドキュメンタリーがアーティストの届け方を広げている流れを、具体的な事例で追う内容でした。テクノロジーがビジネスモデルとインセンティブを変え、それが曲作りと文化を変えるという見取り図が全体を貫いています。
- Spotifyの「30秒で1再生」という定義が、曲の短尺化や13秒でサビが来る「Old Town Road」のような曲を後押ししたと語られています
- TikTokは古い曲を蘇らせ、15秒単位の曲作りやプレリリース、替え歌しやすい曲など、発見と制作の両面を変えたとされています
- ベラ・ポーチのようにクリエイター自身がキュレーターとなり、TikTokは「15秒単位のラジオ」になったと宮武さんは見ています
- デジタルコンサートはライブのスケールを広げ、そのぶんチケット価格などのエコノミクスも変えうると話されています
- ドキュメンタリーやポッドキャストで自分を語ることが、親近感とアーティストとしての価値を高める流れになりそうだとまとめられています


