「ファンドのためのY Combinator」とは何をする組織か?
この回は、VCの差別化についてのウィンター・ミードさんの発言を切り出した冒頭から始まり、続いて宮武徹郎さんが、東京に滞在中のウィンターさんを紹介します。
ウィンターさんが来日した目的は、Coolwater Capitalのアクセラレータープログラムを東京で立ち上げることです。新たにVCを立ち上げる人と、すでに活動している新興のファンドマネージャーの両方を、現地で支援するといいます。
Coolwater Capitalはこれまで主に米国で活動してきました。ウィンターさんによると、米国では250以上のファンドを支援し、卒業後の4年間で合計約40億ドルを集めています。
参加するのは、テック企業や大企業、既存のVCで5年、10年、15年と経験を積み、独立して自分の投資会社を立ち上げようとしている人たちです。ウィンターさんは、起業家が初期にY Combinator ── 米国の代表的なスタートアップ・アクセラレーター。少額出資と短期集中の支援プログラムで、多くの著名スタートアップを輩出してきましたに入るのと同じように、優れたファンドマネージャーがCoolwaterを通るのだと説明します。
Coolwaterの米国でのモデルは3本柱です。1つ目がインキュベーター兼アクセラレーターで、3〜6カ月ごとに20〜30のファンドでプログラムを回します。毎年数千のチームや個人と面談し、応募者のうち約5%に絞り込んでいるそうです。
2つ目が、フラクショナルCFO ── フルタイムで雇わずに、外部の専門家が一部の時間だけCFO(最高財務責任者)の役割を担う形態のことです事業です。ウィンターさんは、規模が大きくなり機関投資家の資金を受け入れるほど、きちんと整ったバックオフィスが重要になると話します。投資家はより多くのレポート、より良いデータ、監査、正確な評価額を求めるようになるからです。
Coolwaterの3つ目の柱が、期待するマネージャーへの選択的な投資です。ここでもウィンターさんは「一緒に働く」パートナーシップ型を掲げ、最も関与度の高いLP ── リミテッド・パートナー。ファンドに資金を出す出資者のことで、運用を担うGP(ジェネラル・パートナー)と対になる言葉です、つまり「付加価値ナンバーワンのLP」という評判を得たいと語っています。
宮武さんはこの構成を、立ち上げの0→1だけでなく、1→10、10→100の段階まで支える仕組みだと受け止めています。
日本の第1期コホートは、なぜJETROと組んだのか
話題は日本のコホートに移ります。宮武さんは冒頭で、Off Topicと宮武さん自身がこの第1期コホートの一員であることを明かし、収録の1時間後にプログラムが始まると話しています。
ウィンターさんによると、日本では米国の3本柱のうち、まずインキュベーター兼アクセラレーターを持ち込みます。収録場所はJETRO ── 日本貿易振興機構。日本企業の海外展開や対日投資の促進を担う政府系機関で、スタートアップ支援も行っていますのオフィスで、JETROとの提携によって実現したプログラムです。
ウィンターさんはJETROの役割を、日本のスタートアップの数を増やし、資本市場とエコシステムを強くし、スタートアップやファンドマネージャーを米国につなぐことだと説明します。付加価値のあるネットワークと資本のネットワークを広げる狙いがあるといいます。
第1期の選考では、数カ月かけてエコシステムの300人以上と話し、17チームに絞り込みました。実績やブランドを持つ経験豊富なオペレーターや投資家、世界的な企業で鍛えられた人たちが集まり、約4カ月かけて東京でプログラムを進める予定です。
エマージングマネージャーの定義と、Coolwater卒業生の成功率は?
続いて宮武さんは、米国のVC市場で急増している「エマージングマネージャー(新興ファンドマネージャー)」の話を切り出します。一般にはファンド3号までを指すことが多いのではないか、という問いです。
ウィンターさんは、定義はいくつもあると答えます。米国の年金基金なら、AUM ── 運用資産残高(Assets Under Management)。ファンドが運用している資産の総額を指しますが10億ドル未満の投資家をエマージングマネージャーと呼ぶこともあるそうです。
一方、VCの文脈では、AUMが1億ドル未満で、ファンド1号から3号までの会社を指すのが一般的だといいます。ファンド1号の成績が出て、何社かを売却し、投資実績が7年ほどになり、安定したLP基盤とチームができるあたり、つまりDPI ── 投資家に実際に分配された金額を出資額で割った指標。帳簿上の評価ではなく、現金で戻ったリターンを示しますと戦略が確立するファンド3号か4号の頃に、明確な線はないものの「卒業」に近づくという見方です。
宮武さんが、ファンド1号から2号、3号へと進める人の割合を尋ねると、ウィンターさんは市場全体のデータは見ていないと前置きし、Coolwaterの米国プログラムの数字だけを示しました。
| 指標 | 対象 | 数字 |
|---|---|---|
| 成功率 | 最初の4コホート(開始から2年間) | 100% |
| 成功率 | 直近の半年を除く全卒業生 | 89%(10ファンド中9) |
| 後継ファンドの調達 | コホート9以前の約200ファンド | 52ファンド(約25%) |
| 後継ファンドの調達 | コホート1〜3 | 50%超 |
ここでいう成功率は、プログラムを卒業したマネージャーが実際にファンドを立ち上げて事業を始められた割合です。ウィンターさんは、成功の功績をすべてCoolwaterのものにはできないとしつつ、自分たちは「最良の後押し役」でありたいと話します。
後継ファンドの調達率が約25%にとどまる点について、ウィンターさんは、まだ最初の投資期間中で2号ファンドの調達に挑んでいない人も多いと説明します。ファンドを投資し切るのに4〜5年かける人もいれば1〜2年の人もいて、機関投資家も投資を複数年に分散するヴィンテージ分散 ── ファンドの設定年(ヴィンテージ)をずらして投資し、特定の年の市況にリターンが左右されにくくする考え方ですを勧めるため、数字はこれから上がるだろうという見立てです。
ウィンターさんは、この構図をY Combinatorになぞらえます。米国では毎年数十万社が生まれ、その90%台後半はVCから資金を得られませんが、YC出身のスタートアップの多くはVCから資金を得ています。Coolwaterも同じように、1000人の候補から毎年10〜20人の最良のマネージャーだけを選ぶことで、市場平均より高い成功率を見込んでいるそうです。ただし市場全体の数字は持っていないとも認めています。
なぜ大手ではなくエマージングマネージャーに投資するのか?
宮武さんは、米国では機関投資家が大手ファンドを好み、新興マネージャーの資金調達が厳しい現状を挙げます。そのうえで、SequoiaやBenchmark、Andreessenのような大手ではなく新興マネージャーに賭ける理由を尋ねました。
ウィンターさんの最初の答えは「両方やればいい」というものです。投資の世界の「フリーランチ」は分散であり、VCという資産クラスの中でも、大手と新興の両方に分散できると説明します。
たとえば年間1億ドルを投資するなら、8000万ドルを大手に、2000万ドルを新興マネージャーに振り分ける、という例が挙げられました。では2000万ドルをなぜ新興に向けるのかというと、過去30年の研究では小さいファンドのほうが成績がよい傾向があるからだといいます。
ウィンターさんは、早い段階で投資し、ポートフォリオの中で高い持分比率を取れば、大きなリターンを生みやすく、しかも必要な時価総額が小さくて済むと話します。M&AやIPOは多いものの1件あたりの規模は大きくない日本市場が魅力的だと考える理由の1つも、そこにあるそうです。
ファンド規模
10億ドル
必要なリターン
3倍なら30億ドルを返す必要がある
持分比率
1社あたり20%を希薄化なしで保つと仮定
必要な企業価値
合計150億ドル分の時価総額を生み出す必要がある
ウィンターさんは、非上場で500億ドルを超える企業はおそらく10社ほどしかないと指摘し、1つのファンドのためだけに150億ドルの価値を生むことの難しさを強調しました。これが、小さいファンドのほうが時に面白いと言える理由です。
もう1つの理由として、ウィンターさんは「エマージングマネージャーはスペシャリストである」点を挙げます。最良の創業者も大手のブランドは好むものの、新興マネージャーが本当に優れていれば、専門知識やネットワーク、ブランドづくり、販路の獲得、事業開発の支援を求めて組みたがるといいます。
ウィンターさんは宮武さん自身を例に出しました。創業者の立場なら、日本市場の誰もがポッドキャストに出ているOff Topicの宮武さんに頼めば、エコシステムの誰とでもつながれる、だから株主名簿に入る理由がわかる、という説明です。
宮武さんは、この「最良とだけ組む」という点こそ重要だと応じます。
平均すると、エマージングマネージャーは既存マネージャーと同じくらいか、少し悪い成績になりがちです。でも(新興の)トップ層は、既存ファンドのトップ層を上回る傾向があります。
そのため宮武さんは、全員に投資せずに厳選するCoolwaterの戦略が、新興マネージャーへの投資では極めて重要だと話しています。
メディアは差別化になるのか、「選ぶ」と「勝つ」の違い
宮武さんは、ポッドキャストを持つOff Topicのような「メディア」の切り口が差別化になるのかを問います。20VCのハリー・ステビングスが4億ドルのファンドを集めた例に触れつつ、自身の考えを述べました。
個人的には、メディアだけでは十分大きな差別化要因にはならないと思っています。多くのVCがブログを始めたり、Twitterで大きな存在感を持ったりしているので。
ウィンターさんは、上場株投資との比較で考えるための枠組みを示します。上場株の投資家は、よほどの大口でなければ、銘柄を選べばそのまま買えるため、勝負は銘柄選びの腕に尽きます。
ベンチャー投資では、選んだ銘柄に投資できるとは限りません。ウィンターさんは、ベンチャー投資には「選ぶ」と「勝つ」の2つのパートがあると説明します。
銘柄を選べば市場で買える。勝負は選ぶ腕だけ
選んだうえで、出資の機会を勝ち取る必要がある
「選ぶ」力は、ハイパーグロースや事業の成り立ちについての経験から生まれる投資家の判断力です。ウィンターさんは、これは時間をかけて磨くスキルであり、そこで差別化するのは難しいと話します。差別化が効くのは「勝つ」の側だという整理です。
差別化の1つ目の方法は、先行者になることです。市場のゆがみをいち早く見つけて乗る、ヘッジファンドが存在できる理由と同じ発想だといいます。スマートフォンの位置情報があるからUberへの投資は筋がいい、と見抜いたVCの洞察や、5〜8年前に初期のLLMや生成AIに賭けた人がその例です。
ただしウィンターさんは、先行者の優位は守れず、10年続くものではないと指摘します。そこで2つ目の方法が、戦略による差別化です。宮武さんの場合はメディアがそれにあたりますが、ほかにも、急成長企業で最初のエンジニアから1000人規模まで採用したCTOなら、そこから独立する人材の実力を誰よりも知っているという強みがあります。
ウィンターさんはSpaceXを例に出します。「SpaceXから独立するエンジニアに片っ端から投資する」という仮説を立てても、ロケット科学者でもSpaceX出身でもなく、宇宙企業へのエンジェル投資もしていなければ、相手からは「会ったこともない」と言われて終わります。
一方、SpaceXの元CTOなら「10年間上司だった人だから、ぜひお金を受け取りたい」と言われるはずです。ウィンターさんは、正しい仮説を選び、しかも勝てること、それが差別化だとまとめます。差別化の中身が実質的であることが大事で、奇抜すぎる工夫は要らないとも話しています。
日本のLPはなぜ事業会社中心で、資金調達はどの順番で進めるのか?
最後のテーマは日本です。宮武さんは、日本のVCのLPは歴史的に事業会社が中心で、米国は機関投資家中心だと指摘し、日本で資金を集める場合の長所と短所を尋ねました。
ウィンターさんは、米国のオルタナティブ投資は30年ほど前から大学基金が主導してきたと説明します。代表例がデビッド・スウェンセン ── イェール大学基金の運用責任者を長く務めた人物。PEやVCなどオルタナティブ資産を積極的に組み入れる「イェール・モデル」で知られますで、オルタナティブへの投資で市場を上回る成績を出せることを示した先駆者だといいます。
日本については、投資エコシステムを支える出資者の構成とその動機が違うとウィンターさんは見ています。長く続いてきたのは、財務的リターンより戦略的リターンを求める傾向です。事業会社のLPが戦略的リターンを求めるのは米国でも同じで、それ自体は悪いことではなく、エコシステムを育てるとも話しています。
ウィンターさんが問題にするのは、事業会社だけに声をかけて資金を集めることに慣れてしまう点です。そうなると、年金、銀行、保険会社、大学基金、財団、ファミリーオフィス、OCIO、マルチファミリーオフィス、富裕層といった多様なLPと話す機会を逃してしまいます。
日本では現状、事業会社が最大で、ファミリーオフィスや家族のつながりが立ち上げを助けることもあるものの、場当たり的だといいます。ウィンターさんが見ている機会は、LPの類型を理解し、投資戦略に合った資金調達戦略でLP基盤を分散させることです。事業会社から始めて、ファンド2号か3号から広げてもよく、5号、10号まで続けたいなら今から将来の姿を理解しておく必要がある、という考え方です。
ウィンターさんは、バックオフィスも初日から機関投資家並みに整える必要はなく、それは悪いアドバイスだと話します。著書も『How to Raise a Venture Capital Fund』を『How to Set Up a Venture Capital Fund』より先に書きました。資金を集めてから設立するのが順番だという考えからです。
ウィンターさんによると、資金調達も、スタートアップと同じく段階を踏んで進めます。
ウィンターさんは、日本特有の事情を問題視したり、変えるべきものと見たりはしていません。仕組みを認識し、うまく付き合うことが大切だと話しています。
プログラムへの問い合わせ方法を聞かれたウィンターさんは、LinkedInでつながり、理由とこのポッドキャストを聞いたことをメモに添えてほしいと答えました。月に数百件の申請が届き、人事ソフトの営業も多いからだそうです。宮武さんはプログラム終了後に再び話したいと述べ、収録を締めくくりました。
まとめ
ウィンター・ミードさんの話の軸は、エマージングマネージャーは厳選すれば大手を上回りうること、そしてVCの差別化は「選ぶ」力ではなく「勝つ」力で決まることでした。日本のLP構造も、変えるべき問題ではなく、理解して順番に広げていく対象として語られています。
- Coolwater Capitalは米国で250以上のファンドを支援し、日本ではJETROと組んで17チームの第1期を始めた
- 小さいファンドは必要な時価総額が小さく、M&AやIPOの多い日本市場とも相性がよいとされる
- 先行者の優位は長続きせず、経歴やネットワークに根ざした実質的な戦略が「勝つ」ための差別化になる
- 日本の事業会社中心のLP構成は、他のLP類型へ段階的に広げることで、長く続くファンドの基盤になる


