毎年恒例のSpotify Wrapped、今年は何が変わった?
この回の最初の話題は、Spotifyが毎年出している年間まとめ機能Spotify Wrapped ── Spotifyが毎年12月ごろに公開する、ユーザーがその年に聴いた曲やアーティストを振り返るまとめ機能。SNSでシェアしやすいデザインで知られていますです。日本語では「Spotifyまとめ」と呼ばれ、Apple Musicなど他のストリーミングサービスも同じような年間まとめを出しています。
宮武さんによると、Spotify Wrappedが人気になったのは2016〜2017年ごろからで、ユーザーがミーム化するうちに他社もこの形式をまねるようになったといいます。今年はAmazon Music、Apple Music、SoundCloud、YouTube Music、Duolingo、Mastodon、Reddit、Tinder、Xboxなども年間まとめを出しており、Netflixについてはユーザーが自作していたそうです。
Podcast配信者向けにも、2024年のスタッツをまとめる機能が提供されています。草野さんは、リスナーのまとめにOff Topicが入っているのを見て嬉しかったと話します。
二人の年間まとめはどちらもApple Musicのものでした。宮武さんはミスチルが上位に入り、新しい音楽はあまり聴いていなかったと振り返ります。草野さんは宇多田ヒカルさんが1位だったそうです。
なんか、草野さんだとCharli XCXとかSabrina Carpenterとかが入るのかなって思ってたんですけど。
いや、そんなSabrina Carpenterファンではない。
今年の新機能として、宮武さんはUSで提供された、GoogleのNotebookLM ── Googleが提供するAIリサーチツール。読み込んだ資料をもとに、2人のAIホストが会話する音声番組風の要約を自動生成する機能が話題になりましたを使って自分のまとめをPodcast化する機能を紹介します。面白いという声がある一方で、「これに注力するな」という反応もあったそうです。
宮武さんの説明では、批判していたユーザーは、過去にあったクイズ形式や「音楽パーソナリティ」のような、もっとパーソナルな演出を求めていたといいます。
今年のSpotify Wrappedの評判がいまひとつに見える理由について、宮武さんは一部で飽和していることと、新しさがあまりなかったことを挙げます。ただし、「去年より良くなかった」という声は毎年出ていて、2021年にはフォントへの不満もあったと振り返り、実際のエンゲージメントは別かもしれないと慎重に話しています。
まとめは出たけど、シェアしたいかは別問題
草野さんが今年よく目にしたのは、Spotify Wrappedを「あまりシェアしたくない」という投稿でした。見せたい自分と、実際に聴いている曲が違うというのです。
(Spotify Wrappedは)SNSで投稿を促す面白さはあるけど、それを自分が見せたいかっていうと、また別の問題みたいなのは、ちょっと人間の面白さが出た部分かなっていう気はちょっとしますね。
草野さんは、本当の好みというより、つい聴いてしまうイージーリスニングの影響も大きいと話します。ラップが好きでも1時間ずっと聴いていたいかは別で、好きかどうかわからないLo-fiミュージックが上位に入ることもあるそうです。
宮武さんは、プレイリストやアルゴリズムで流れてくる曲がランキングに入りやすいと指摘します。SpotifyやYouTubeはその傾向が強く、Apple Musicは若干少ないかもしれないと、プラットフォームごとの違いにも触れています。
宮武さんが毎年「本当にそうだ」と思うのが、Spotify Wrappedをマッチングサービスにするべきだという意見です。音楽の好みでかなりのマッチングができるはずだと考えています。
Spotify Wrappedってすごい面白いのって、結局めちゃくちゃユーザーをトラッキングしてるっていう証拠でもあるじゃないですか、これって。
宮武さんは、Apple Musicのまとめを共有している人はTwitter上であまり見かけないのに、Spotifyのまとめはみんな共有する流れになっていると話します。トラッキングをシェアしたくなる体験に変えた点に、Spotify Wrappedの強さがあると言えそうです。
トランプ政権のAI・暗号資産責任者に就くデイビッド・サックスとは?
2つ目の話題は、次期アメリカ大統領のトランプ氏が、AIと暗号資産の責任者にデイビッド・サックスさんを起用したというニュースです。宮武さんがよく聴くポッドキャストの出演者でもあるため、草野さんが人物像の説明を求めました。
宮武さんによると、サックスさんはPayPalマフィア ── PayPalの初期メンバーで、その後に起業や投資で成功した人々の通称。イーロン・マスクさんやピーター・ティールさんらが含まれますの一人です。創業者ではないものの創業メンバーに近く、ビジネス担当を務めていました。
サックスさんはその後、Slack以前の社内向けSNSにあたるYammerを立ち上げてMicrosoftに売却しました。過去5〜10年ほどはVCのCraft Venturesを率いてSaaS系に投資し、ここ4年ほどは4人で配信するAll-In Podcastで共和党寄り、トランプ支持の立場で知られていたそうです。
シリコンバレーでトランプ氏向けの資金集めパーティーを開いたこともあり、ピーター・ティールさん、イーロン・マスクさん、次期副大統領のJ.D.バンスさんとも関係が良いことが、今回の起用につながったのではないかと宮武さんは見ています。
テック業界にとって良いことなのかという草野さんの問いに、宮武さんは「全体的にはいいこと」と答えます。サックスさんは政権でフルタイムのポジションは取れないと明言しており、VCを続けながらアドバイザー的な立場で入るとみられます。
(テック業界やスタートアップには)すごいいいかもしれないですけど、それが社会にとって必ずしもいいのかっていうとそうではないので、そこの多分バランスをどこまで見てくれるのかっていうのがすごい大事かなと思います。
宮武さんは、サックスさん以外にもテック業界にとって重要な人事が続いていると紹介します。
| 人物 | ポスト | 宮武さんが挙げた注目点 |
|---|---|---|
| デイビッド・サックス | AI・暗号資産責任者 | VC・元起業家の目線で政策に関わる |
| ポール・アトキンス | SEC(米国証券取引委員会)次期トップ | クリプトにフレンドリーな姿勢 |
| ジャレッド・アイザックマン | NASAトップ | ビリオネアで、SpaceXによる初の民間人宇宙飛行のクルー |
| ゲイル・スレイター | 司法省反トラスト局長 | 独占禁止法やM&Aの判断を左右する |
SECについては、これまでの委員長ゲイリー・ゲンスラーさんがクリプトに対してアンチ的な姿勢だったのに対し、次期トップはフレンドリーな人物で、クリプト業界にとって大きな変化になると宮武さんは話します。
宮武さんが一人挙げるなら注目はイーロン・マスクさんですが、全体で見ればゲイル・スレイターさんが重要だといいます。Googleが独占禁止法の面で危ないポジションにいるなか、彼女の動き方がテック業界を変えうると見ています。
人事はまだ続く見込みで、リナ・カーン ── 米連邦取引委員会(FTC)の委員長。巨大テック企業への厳しい独占禁止法の運用で知られていますさんの処遇などはまだ決まっていないそうです。
ビリオネアが官僚に、これはよくあることなのか
日本では起業家や投資家が突然官僚になる動きはあまりないため、草野さんはアメリカでは過去にもあったのかと尋ねます。
宮武さんによると、今回選ばれた人たちは基本的にトランプ氏かイーロン・マスクさんに近く、元トランプ支持者でもあるので、人選そのものに驚きはないといいます。
今までですと本当に一人二人とか、数名しかいなかったっていうところが、今回確か10人ぐらいのビリオネアが選ばれてるので、官僚として。
宮武さんは、ビジネスマンや起業家がこれほど政権に入るのはかつてなかったことだとしたうえで、良いか悪いかはここからのエクセキューション次第だと話しています。
今年の流行語「Brain rot」と「demure」はどう違う?
3つ目の話題は、各社が発表した今年の流行語です。オックスフォード大学出版局が選んだのは「Brain rot」で、日本語では「脳腐れ」と訳されています。オンライン辞書のdictionary.comは、TikTokでバイラルした「控えめ、落ち着いている」という意味の「demure」を選びました。
草野さんはdemureは知っていたものの、Brain rotは知らなかったといいます。宮武さんの説明では、Brain rotは昔の有名なアメリカの著者が最初に書いた古い言葉です。
宮武さんによると、Brain rotはさまざまな良くない情報を吹き込まれ続けて、自分の考えや頭がどんどん腐っていく状態を表し、今回は基本的にSNSを指しているとみられます。SNSの見過ぎと、その中で悪い情報にたくさん触れることがセットになった状態です。
宮武さんは、2つの言葉の使われ方の違いを数字で紹介します。
宮武さんは、demureやbratはわかりやすく多くの人に使われた一方、Brain rotの利用頻度はそこまで多くなく、一番使っていたのはメディアではないかと見ています。草野さんは、ユーザーが使う言葉なのかメディアが使う言葉なのかで見方が変わってくると反応しました。
ワード・オブ・ザ・イヤーはインターネットカルチャーの言葉へ
宮武さんは、ワード・オブ・ザ・イヤーに選ばれる言葉の傾向が変わってきていると指摘します。
宮武さんによると、かつては新しい技術やグローバルなイベント、ニュースサイクルから生まれた言葉が多かったのに対し、ここ3年ほどは完全にインターネットカルチャーの言葉が選ばれているといいます。
草野さんは、demureはbratの次に来るキーワードとして「今年の秋はこれ」という訴求の仕方でバズったのではないかと話します。日本語では「〇〇界隈」や言葉をくっつけて省略するパターンが多いのに対し、英語はトレンドに名前を付けるのがうまいと感じているそうです。
(アメリカでは)例えばバカって言い方ってすごいいっぱいあったりするので、例えばですけどね。
宮武さんは、アメリカには何かを説明する言い方の種類が多く、bratのように子ども向けの「ガキ」という意味で聞く言葉を面白く使い直すような言葉遊びが好まれるのではないかと考えています。
Winter Arcとbrat、今年の言葉を名付けるセンス
草野さんが紹介したのは、TikTokで広がった「Winter Arc」というトレンドです。10月から12月の間、新年を迎える前に自分のチャレンジをしたり、やり残したことに取り組んだりするというものです。
草野さんによると、アークは物語で盛り上がりを見せて着地させる「弧」のようなニュアンスです。新年の抱負を立てるより、この冬の期間で立て直してやろうという考え方で、その名前の付け方が面白いと感じたといいます。
宮武さんは、今年の流行語はbratが勝つと思っていたと話します。草野さんは「商業的すぎるのかな」と推測し、宮武さんはカマラ・ハリス氏が大統領選で負けたからかもしれないと応じました。
うん、(カマラが)勝ってたら言って、言ってたかもしれないですよね、それは。
草野さんも今年の言葉はbratだと思っていたそうです。もともと英語圏で意味がある言葉なのに、どういう意味でのクールなのか英語圏の人もわからないまま流行っていた点が面白かったと話します。宮武さんも、明確な意味がわからずメディアがしょっちゅう説明していたのが面白かったと振り返りました。
NVIDIA本『The NVIDIA Way』とホワイトボード文化
最後の話題は、NVIDIAの歴史をまとめた新刊『The NVIDIA Way』です。収録時点ではまだ発売前でしたが、テック業界ですでに話題になっている本だと宮武さんは紹介します。
宮武さんがAmazonで調べて気づいたのは、NVIDIAについての本がほとんどないということでした。著者もそう話しているそうで、ブラッド・ストーンさんが2冊書いているAmazonや、何冊も本があるFacebookとは対照的だといいます。
宮武さんが本の情報の一部から紹介したのが、NVIDIAがホワイトボードを非常に重視しているという話です。ホワイトボードは「可能性」と、一時的なものでしかない「エフェメラル」を表しているといいます。
そのいいアイディアっていうものは、どれだけ良くても、どっかのタイミングで消されて、新しいのを書かないといけないですと、ホワイトボードの上で。
NVIDIA本社では全カンファレンスルームにホワイトボードが置かれ、従業員がリアルタイムで自分の考えのプロセスを書いて、ミーティング参加者の前で披露する文化があるそうです。一度持ち帰って整理するのではなく、その場で説明するスタイルだと宮武さんは話します。
宮武さんによると、ジェンスン・フアン ── NVIDIAの共同創業者でCEO。黒い革ジャン姿の基調講演で知られ、GPUの会社だったNVIDIAをAI時代の中心企業に育てましたさんは1対1のミーティングをしない人として有名で、人を叱るときも1対1ではなく全員の前で行うそうです。草野さんはこの話を今年のStripeのカンファレンスで聞いていました。
叱るときは個別に、1対1で伝える
全員の前で叱り、全員が学べるようにする
草野さんは、みんなの前でやったほうが効率がよく、何が悪いかもわかるという考え方だと受け止めます。宮武さんは、今ならパワハラと捉える人も多く、従業員はもちろん嫌だろうとしたうえで、それができるのは本当に数少ない人だと話します。
それでも従業員は会社に残っており、NVIDIAの特徴として、経営メンバーがほとんど辞めていないと宮武さんは指摘します。辞めた人も起業せず、大企業の幹部に入るといいます。
鏡の前で「お前はクソだ」、ジェンスン・フアン流の戒め
宮武さんが本の情報で一番面白かったというのが、ジェンスン・フアンさんの自分へのモチベーションのつけ方です。著者のインタビューでフアンさんは過去をあまりポジティブに見ておらず、最初の15年間は自分がいなかったほうがよかったのではないか、とまで語ったそうです。
草野さんは、ポジティブな雰囲気のあるフアンさんのキャラクターと違い、ずいぶん後ろ向きだと驚きます。
で、その(決算発表の)次の朝に自分の家で自分の鏡の前で「お前はクソだ」っていうのを、自分に言い聞かせてるらしいんですよ。
調子乗らないために。
そうなんですよ。調子乗らないためなんですよ、これって。
宮武さんによると、フアンさんは歴史をよく勉強していて、どの会社も大きくなると調子に乗ってイノベーションを出し続けられなくなることを理解しているといいます。NVIDIAの調子が良すぎる今だからこそ、そこまでやる必要があるという見方です。
宮武さんは本をまだ読んでいないものの、見た範囲で得た気づきとして、スティーブ・ジョブズ時代のAppleに一番近い組織がNVIDIAではないかと話します。幹部が辞めないことも、フアンさんが率いる組織体制も、良くも悪くもそうなっているといいます。
草野さんは、スピーチやトークイベントでは自信満々で話もうまいフアンさんが、事業についてはリアリスティックに謙虚でいようとするバランスに感心します。宮武さんは、著者によれば社内ではさらにモチベーショナルなスピーチをしていて、もっとカリスマ性があるそうで、それがどういうことなのか気になったと話しました。
この本は今週公開とみられ、Amazonで調べると来年にかけてNVIDIA関連の本が続々と出る予定になっていたそうです。一部の人に先行で配られて感想が出ているほか、ニューヨークタイムズなどで一部が公開されています。草野さんは、日本語訳はまだ先になりそうなので、記事で一部を読むことができると補足しました。
最後に草野さんは、今回はカルチャー寄りの話もしたので、ニュース回のバランスを見ながら運営していきたいと話し、扱ってほしいニュースのコメントを呼びかけて締めくくりました。
まとめ
今回のゆるニュース回では、年間まとめ機能のシェアの心理から、テック業界出身者が政権に入る異例の人事、インターネットカルチャー化する流行語、NVIDIAの独特な組織文化まで、テックとカルチャーの両面から12月の話題が語られました。
- Spotify Wrappedは、ユーザーのトラッキングをシェアしたくなる体験にうまくリブランディングした機能だと宮武さんは評価しています
- トランプ政権には約10人のビリオネアが官僚として選ばれ、良し悪しはこれからの実行次第と見られています
- ワード・オブ・ザ・イヤーは、ここ3年ほどでインターネットカルチャーの言葉が選ばれる傾向に変わってきています
- NVIDIAは全員の前で議論し叱る文化を持ち、経営メンバーがほとんど辞めない組織だと紹介されています
- ジェンスン・フアンさんは好決算の翌朝に鏡の前で自分を戒め、調子に乗らないようにしているといいます





