第5位はVC市場の調整。アクティブなVCファンドはなぜ25%も消えたのか
2024年テックニュースTOP10の後半は、第5位「VC市場の調整時期とテックユニコーンの実態」から始まります。宮武さんは、前回の第8位で扱ったAI投資の盛り上がりとは違うトーンになると前置きし、VC業界全体では厳しい面が見えてきた年だったと話します。
宮武さんが挙げたのは米国の数字です。2023年に約1.5万社あったアクティブなVCファンドは、2024年には約1万1500社まで減り、約25%が姿を消したといいます。
さらに、VCファンドを率いるGP ── ジェネラル・パートナーの略。VCファンドを運営し、投資判断や投資先の支援を担う責任者のことですの4割が、次のファンドの資金調達をやめるか延期したそうです。
草野さんが「小規模なマイクロファンドが消えているイメージか」と尋ねると、宮武さんは小さいファンドほど影響が大きいと答えます。ただし影響は大手にも及んでいて、500ミリオンや1ビリオンを目指したファンドが半分以下しか集められなかったり、集めた資金の半分をLP ── リミテッド・パートナーの略。VCファンドにお金を出す投資家のことで、年金基金や大学基金などの機関投資家が中心ですに返したりする例もあるといいます。
ただ偏りがどんどん、トップのところに偏ってる。
宮武さんによると、VCファンドの調達総額そのものは前年を上回る水準です。しかし中身を見ると、アンドリーセン・ホロウィッツが合計7.2ビリオン、ライトスピードが7ビリオン、スライブ・キャピタルが5ビリオンなど、大手が大型調達を重ねていました。
2024年に調達したVCファンドの上位10社で、VCファンド調達額全体の半分以上を占めたとされます。宮武さんは、これは過去と比べても圧倒的に高い集中度だと見ています。
資金の出し手についても、日米の違いが語られました。日本では事業会社や銀行が中心なのに対し、米国では年金基金、大学基金、政府機関など、よりリターンを重視する機関投資家が出資しています。その機関投資家がいま実績のある大型ファンドを選んでいることが、トップへの集中につながっていると宮武さんは説明します。
「ユニコーン」の3割はもうユニコーンではない?
VC市場の変化と並んで、宮武さんはユニコーン市場の変化も指摘します。2021年から2022年にかけては毎日のようにユニコーンが生まれていましたが、そのペースは大きく落ちました。
2024年に生まれた新規ユニコーンは、ソースによって幅があるものの、米国で50〜70社ほど、世界全体で80〜100社ほどだといいます。そのうち約半分がAI企業です。
なんで、AIの実績を除くと、多分全体的に落ちてる。
草野さんは「潰れているのか、新しくユニコーンになる会社が減っているのか」と確認します。宮武さんの答えは、まず新規ユニコーンのペースが落ちていて、AIのおかげで安定して見えるものの、AI以外はかなり落ちている、というものでした。
既存のユニコーンについては、未上場市場なので実態が見えにくいといいます。2024年には、1月にInVision ── デジタルプロダクトのデザインやプロトタイピングを行うツールを提供していた米国企業。ピンク色のブランドカラーで知られていましたがサービス終了を発表したほか、ヘルスケアのForward、垂直農法のBowery、電動航空機のリリウムなども大型調達の末に行き詰まりました。草野さんは、InVisionについて「AdobeというよりFigmaに潰された感じ」とコメントしています。
宮武さんが紹介したのは、セカンダリー投資やVCファンドへのLP投資を手がけるIndustry Venturesの調査です。同社は、世界に約1400社あるとされるユニコーンのうち、391社分のデータを持っています。
Industry Venturesのレポートでは、391社のうち約3割が、VCの内部評価ですでに評価額1ビリオンを下回っていました。約8割は、最後に資金調達したときより低い額で評価されているといいます。
宮武さんは、場合によっては半分以上がもうユニコーンではないとも言えるのではないかと話します。草野さんが「表の評価と実際の評価の差は今が一番大きいのか」と尋ねると、宮武さんは、差は去年より開いていて、これからさらに広がると答えました。
宮武さんがそう考えるのは、2021年と2022年に大型調達した企業の手元資金が、2024年から2026年ごろに尽き始めるからです。そのタイミングで次のラウンドに臨むので、大型ダウンラウンドやシャットダウンが表に出るまで実態が見えないことが、未上場市場の難しさだと宮武さんは指摘しています。
第4位はCopilotからAIエージェントへ。キーワードはどう移ったのか
第4位は「CopilotからAIエージェント」です。宮武さんによると、2023年のビッグワードは、Microsoftが「Microsoft Copilot」という商品まで作って推したCopilotでした。2024年は、多くの企業がAIエージェントのほうに軸足を移し始めた年だったといいます。
2024年1月には、RabbitやHumaneといったAIウェアラブルが登場し、AIアシスタントやAIエージェントをうたいました。それ以前の数年は、プロンプトエンジニアリングや、画像・テキスト・動画の生成が話題の中心でした。
テキスト・画像生成
プロンプトエンジニアリングや画像・テキスト生成が注目された時期
動画・3D世界の生成
2024年は動画生成が大きく発展した
AIエージェント
パソコンやデバイスを操作し、タスクまで実行するAIが焦点に
2024年には、Anthropic、Google、OpenAI、Microsoftなどが、パソコンやデバイスを操作できるAIエージェントを発表しました。宮武さんは、Rabbitが当初注目された理由も、AIに頼むとフードデリバリーのDoorDashを注文したり音楽を再生したりと、タスクまでこなしてくれるOSにあったと振り返ります。
Rabbitについて、草野さんが「人気だったんですか」と聞き返す場面もありました。宮武さんは、すごく話題になって最初はかなり売れたとしつつ、「その後は正直わかんないですけど」と付け加えています。
AIエージェントを掲げて資金調達したスタートアップも多く、商品がない段階で評価額500ミリオンほどで調達した、AIエージェントのOSを作る会社もあるといいます。草野さんに「人が評価されているのか」と聞かれた宮武さんは、元OpenAIや元Google DeepMindの人材であることが評価されていると答えました。
宮武さんは、この先は複数のエージェントが協力して何かを成し遂げる「マルチエージェント」の段階に進むと見ています。宮武さん自身もX(旧Twitter)で2024年にAIエージェントについて90回あまり投稿していて、3日に1回ほどのペースだったそうです。
使えるAIツールは何か。Granolaと「一回使って終わる」問題
草野さんから「おすすめのAIエージェントサービスは」と聞かれた宮武さんは、AIエージェントと呼べるかはわからないとしたうえで、AIネイティブなメモツールのGranolaを挙げました。
結構メモを書く時って自分でもメモ書くじゃないですか、ミーティング中に。
で、それプラスAIがそれに合わせて、いろいろ追記してくれる。
宮武さんがGranolaを評価するのは、実際に使えるツールだからです。AIツールには理論上はいいのに一回使って終わるものが多い、と宮武さんは話します。ただし宮武さん自身も、Granolaはまだ数回しか使っていないそうです。
草野さんには、おすすめのサービスは特にないといいます。草野さんが「ChatGPTはAIエージェントに入るか」と尋ねると、宮武さんは、ChatGPTのインターフェースだけでは最後のタスクまでは実行できないと答えました。
宮武さんによると、AIエージェントと呼べるツールはまだそれほど多くありません。比較的多いのはコード分野で、Devinなどが話題になっているといいます。
SalesforceはなぜCopilotを「ギミック」と批判したのか
2023年にCopilotで話題を集めたMicrosoftに対抗するように、2024年にAIエージェントを強く推したのがSalesforceです。草野さんは「相性良さそう」と反応します。
Salesforceのマーク・ベニオフさんは、「SalesforceではなくAgentforceだ」と語るほどAIエージェントに注力しています。同時にMicrosoftを批判し、Copilotは顧客のためにならないと発言しました。
もうクリッピーくんは、もう全然ダメだったように、Copilotはただのギミックだったっていうのを明確に言ってるんですよね、マークさんが。
クリッピーくんは、かつてのMicrosoft Officeのアシスタントキャラクターです。宮武さんは、日本ではイルカのキャラクターのほうが知られていて、米国ではクリッピーくんしかいないため、日米で例えが伝わりにくいと話します。草野さんはMacユーザーなので、あまり詳しくないそうです。
宮武さんは、ベニオフさんの主張は正しいと考えています。同時に注目したのは、AIについての語られ方が大きく変わったことでした。
AIは労働を置き換えず、人を拡張する。人と一緒に働く発想
労働を置き換える方向を明確にする。ベニオフさんは「デジタル労働」と呼ぶ
ベニオフさんは、デジタル労働者を会社に入れることで、企業は採用計画や従業員数そのものを考え直す必要があると語っています。宮武さんは、これは人を解雇するかもしれないという話でもあり、Salesforceはまだそうしないと思うものの、雇用の調整は思った以上に早く来るかもしれないと見ています。
宮武さんは、2024年はAIエージェントという言葉が先走った年だったとも話します。来年以降は、AIエージェントが普及したからこそ生まれるサービスや体験を考える必要があり、Off Topicでも深掘りしたいと語りました。
ChatGPTとジャーナリングの相性が良い理由
草野さんは、ChatGPTのプロンプトがテック業界以外の人に届いている面白い事例として、内省的な使い方を挙げます。自分の知らないことを教えてもらう、目標を習慣化する方法を聞く、将来どんな人物になれるかを壁打ちする、といった様子を撮った動画がTikTokやYouTubeで見られるそうです。
日記書いたり、自分のセルフケアみたいな、ジャーナリングとかしてる人とか、あとNotion使ってる人とか、すごいその自分の内省的な話っていうトピックにすごく相性がいいな(と思いました)。
宮武さんも、そうしたサービスは出始めていると応じます。AIウェアラブルのFriendにも同様の目的が一部あり、AIを使ったジャーナリングサービスも登場しているといいます。宮武さんは、ジャーナリングの課題は、一つひとつのエントリーは覚えていても、全体を総合して振り返るのが難しいことだと話します。
草野さんは、日記アプリのDay Oneが長く人気であることに触れ、過去の日記をふと見せてくれるようなランダム性は普通のノートでは得にくいと話しました。宮武さんは、それが偶然なのか意図的なのかも含め、AIがセラピストのような役割を本当に果たせるのかが気になると応じています。
第3位は「ポッドキャスト選挙」。ジョー・ローガンの影響力はどれほどか
第3位は「ポッドキャスト選挙」です。宮武さんは冒頭で、ポッドキャスト番組の自分たちが自分たちのメディアを推しているわけではない、と断りを入れます。
草野さんは、2024年の米大統領選ではトランプ氏もカマラ・ハリス氏も多くのポッドキャスト番組に出演していたと振り返ります。宮武さんは、特にトランプ氏はポッドキャストでのリーチがハリス氏より圧倒的に大きく、それで勝ったと言う人も多いと話します。
最も人気のポッドキャスターであるジョー・ローガン ── 米国のコメディアン、格闘技解説者。長時間対談番組「The Joe Rogan Experience」を配信する、米国で最も聴かれるポッドキャスターの一人ですについて、草野さんは「リスナーにとって友達のような存在」という記事を読んだといいます。宮武さんは、ジョー・ローガンはセレブでありながら上から教える立場ではなく、ゲストに質問して話を聞く役割が非常にうまいと評価します。
ジョー・ローガンへの批判として、もっと踏み込んで聞くべき、ゲストの誤りを指摘すべき、といった声もあります。宮武さんは、相手を自由に喋らせることが目的でもあり、正しいかどうかは別として、その点ではうまくできていると話します。かなり意見が割れる番組でもあるそうです。
ジョー・ローガンの番組は1回2時間半から3時間半ほどですが、YouTubeで各エピソードが少なくとも100万再生には届くといいます。トランプ氏、イーロン・マスク氏、ピーター・ティール氏といったゲストが3時間ほど居続けることもすごい、と宮武さんは強調します。
これって2時間とか3時間の枠の中でこれだけ聞かれているっていうところなので、リーチだけではなくて深掘りもちゃんとしてる。
トランプ氏のインタビューは、YouTubeだけで5200万再生、AppleやSpotifyを含めれば軽く7000万を超えるのではないかと宮武さんは見ています。インタビューがあった10月には、ジョー・ローガンの合計視聴時間がテレビを含む全メディアで米国トップ3に入り、1位のテレビチャンネル「ディズニージュニア」とほぼ並んだそうです。草野さんは「メディアですね、本当に」と反応しました。
ハリス氏とトランプ氏はポッドキャストで何を訴えたのか
草野さんは、今回は共和党とポッドキャストの相性が良かったと感じたといいます。ハリス氏は人柄や親しみやすさを訴え、トランプ氏は政策の話やディスカッションをしていた印象で、同じプラットフォームで訴求していた内容がかなり違ったそうです。
宮武さんは、それぞれが足りていなかった部分を補おうとしたのではないかと見ています。
そもそも知らない人が多く、まず自分を知ってもらう必要があった。政策の違いは十分に説明できなかった
「やばいキャラクター」として知られていたため、シリアスで落ち着いたトーンで話し、思ったよりやばい人ではないと印象づけた
宮武さんは、トランプ氏の印象づけがうまかったとしつつ、それが本当かどうかは置いておくと付け加えています。さらに、2024年に話題になった「ポッドキャスト・ブロ」と呼ばれる男性ポッドキャスターたちの文化に、トランプ氏がうまく乗ったことも大きかったといいます。
草野さんは、人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」で、キャップをかぶり、深いソファに座ってマイクを直接持つポッドキャスター3人がトランプ氏の話をするコントがあったと紹介します。草野さんでさえ、このスタイルの番組を複数見たことがあり、全米の「あるある」になっていることに驚いたそうです。
しっかりと全部の多分番組に、本当にほぼ全部の番組に、プライムのボトルが置いてあるっていう。
プライムは、人気YouTuberが手がけるドリンクブランドです。宮武さんは、こうしたカルチャーにトランプ氏がうまく乗れたことが、マーケティング面での成功ポイントだったと見ています。
ポッドキャストは次世代のカンファレンスになるのか
宮武さんは、今回の選挙を受けて、多くの政治家が「ポッドキャストに出るぞ」となっているはずだと話します。Spotifyもそれに気づいていて、2025年1月のトランプ氏の大統領就任式に合わせて、ワシントンD.C.にポッドキャスターを連れて行き、ポップアップのポッドキャストスタジオを作るそうです。
草野さんは、海外のイベントやカンファレンスには、すぐ収録できるポッドキャストスタジオがよくあると話します。宮武さんも、2024年に参加したリテール系カンファレンスに30分ほど予約できるポッドキャストルームがあり、手軽に収録できたといいます。
2024年は、ポッドキャスターによる大型イベントも相次ぎました。Acquiredはメタのマーク・ザッカーバーグ氏を、All-Inはイーロン・マスク氏やピーター・ティール氏を招き、アレックス・クーパー氏はツアーを、テック系のLenny's Podcastはサミットを開いています。
宮武さんは、次世代のカンファレンスはポッドキャストを軸にしてもおかしくないと見ています。草野さんが、The Vergeが手がけていたCode Conferenceのような既存のカンファレンスも影響を受けるのかと問うと、宮武さんはCode Conferenceが2024年は開催されなかったことに触れました。
宮武さんはさらに、カラ・スウィッシャー ── 米国のテックジャーナリスト。長年シリコンバレーを取材し、ポッドキャストのホストとしても知られています氏とスコット・ギャロウェイ氏のポッドキャスト「Pivot」が、Vox Mediaとの契約が切れる2025年に向けて各メディアに売り込んでいるらしいと紹介します。FoxグループやCNN ── 米国のニュース専門ケーブルテレビ局がポッドキャストの買収を検討するところまで来ているそうで、宮武さんはポッドキャストが影響力を持つメディアになっていくと見ています。
第2位はThe Year of Elon。Starlinkはどこまで伸びたのか
第2位は「The Year of Elon」です。宮武さんは、Time誌が選んだ今年の人はトランプ氏だったとしつつ、ミスや良くなかったこともあるものの、2024年はイーロン・マスク氏の年でもあったと話します。SpaceX、Starlink、Teslaのロボタクシー「サイバーキャブ」、トランプ政権で立ち上げる政府効率化プロジェクト「DOGE」など、話題は多岐にわたります。
宮武さんはまず、SpaceXにとって2024年は歴史的な年だったといいます。SpaceXには打ち上げ事業と衛星インターネットのStarlinkがあり、Starlinkは9月に登録者400万人を超えました。
2年前は約1.4ビリオン
2024年は約6.6ビリオンを想定。アクティブな衛星の約6割をStarlinkが占める
Starlinkは、都市部では影響を感じにくいものの、地方の農家やクルーズ船、飛行機の中で役立つ技術です。クルーズ船会社や航空会社との提携も進み、機内でNetflixを見たり電話会議をしたりできるといいます。
宮武さんが「出張者はもう休めなくなる」と冗談めかすと、草野さんは「移動時間は休んでいいと思いますけどね」と繰り返し返していました。
初期にはStarlinkの成功は疑われていたそうです。セコイアがSpaceXに投資した際、各パートナーが投資先を10点満点で評価する仕組みで、2人が2点、1人が1点をつけたといいます。それでも投資は実行され、宮武さんは結果的にセコイアにとって正解だったと話します。
Starlinkは、ウクライナで無料提供した例に加え、2024年はノースカロライナのハリケーンの際に30日間の無料Wi-Fiを提供しました。T-Mobileとは、緊急時に衛星経由で通信できるサービスを公式にローンチし、衛星を使った通話やSMSも狙っているそうです。
Starshipのブースター回収は火星への何を変えるのか
SpaceXの打ち上げ事業での大きな出来事は、大型ロケットStarshipのブースターを、発射塔の「箸」のようなアームでキャッチしたことです。草野さんが「再利用できる、また戻ってくるやつ」と確認すると、宮武さんは戻ってくるだけでなくキャッチしたことがすごいと話します。
宮武さんの説明では、マスク氏には火星に行くという明確なビジョンがあり、そのためには打ち上げ時の配送コストを大きく下げる必要があります。1キロあたり数百万円や数千万円のレベルでは、火星には行けないといいます。
ブースターを再利用できれば、かかるのはほぼ燃料代だけになり、燃料は実はそれほど高くないため、コストを大きく下げられるといいます。草野さんは、実験や仮説検証のスピードも上がると付け加えました。
「ずっと業界がやってきたのに、なぜ急に安くできるのか」という草野さんの疑問に、宮武さんは第一原理 ── 物事を慣習や前例ではなく、それ以上分解できない基本的な事実から考え直す思考法。マスク氏がよく口にすることで知られますから考えるマスク氏の姿勢を挙げます。変な発言や行動もある人だとしたうえで、チームを率いてこれを実現したのはすごいと評価しています。
テスラ、xAI、Neuralink、ゲーム配信まで。マスク氏はどう時間を使っているのか
宮武さんは、ここまではSpaceXだけの話にすぎないと続けます。テスラはペダルもハンドルもないサイバーキャブや人型ロボットのオプティマスを進め、マスク氏自身はトランプ氏に全面的にコミットして政策の中に入り込んでいるといいます。
この発言は、ピーター・ティール氏が昔から言っていた「マスク氏に逆張りすると負ける」という考えを受けたものです。
マスク氏のAI企業xAIは11ビリオンを調達し、10万GPUのクラスターを19日間で構築しました。NVIDIAのジェンセン・ファン氏が「スーパーヒューマン」と評したほどだといいます。さらにNeuralinkは2024年、初めて人への手術に成功しました。
草野さんは「どういう生活をしているのか」「下で取りまとめる人も相当優秀なはず」と驚きます。宮武さんも、SpaceXのプレジデントをはじめ各事業にすごい人材がいると応じます。
マスク氏は、ゲームをXでライブ配信もしています。宮武さんによると、アクションRPG「ディアブロIV」で世界トップ20に入っていて、伝記を読んでも実際にゲーム好きだそうです。
ゲームで世界トップクラスに入る起業家は他にもいるといいます。Uber創業者のトラビス・カラニック氏は、自称ではあるもののWiiテニスで世界2位のスコアを取ったそうで、草野さんは「思ったゲームじゃなくて、可愛いゲームだった」と笑います。Oculus創業者のパルマー・ラッキー氏も、ソードアート・オンラインのゲームで一時期世界トップ10に入っていたそうです。
宮武さんは、マスク氏は普通の起業家が一生かけても成し遂げられないことを1年で成し遂げたと話します。時間を細かく分割して各社に充て、全体のビジョンだけでなく現場にも足を運び、工場で自ら作業することもあるといいます。6〜7社に加えて政治まで手がけられる人だからこそ、DOGEを成し遂げられるのはマスク氏くらいではないか、と宮武さんは見ています。
第1位は大統領選挙とテック業界。AI全盛の年にディープフェイクはなぜ広がらなかったのか
第1位は「大統領選挙とテック業界の保守的シフト」です。宮武さんは、2020年にも大統領選挙は3位に入っていたものの、2024年はそれ以上にテックの影響が大きかったと話します。第3位のポッドキャストに加え、歌手のチャーリーXCXがハリス氏を「brat」と呼んでTikTokで話題になるなど、ショートフォームとロングフォームのコンテンツが大きなインパクトを持ったといいます。
草野さんは、かつてはSNS時代の選挙といえばフェイクニュースが話題だったのに、今回はTikTokの普及で、フェイクより実際の情報が届いていた印象があると話します。宮武さんも、フェイクの話題は少しあったものの大きくはならなかったと応じます。
宮武さんは、その理由の一つとして、Facebookが選挙期間中に政治広告を受け付けなかったことを挙げます。生成AIがこれだけ伸びた年なのにフェイクがそれほど広がらなかったのは意外だとしたうえで、技術的に追いついていない部分があったこと、選挙が読みにくく別の角度から影響を与えるほうが効果的だったかもしれないこと、ディープフェイクが強く警戒されていたことを挙げました。
草野さんは、米国の人々があらゆるメディアを100%は信頼しておらず、多くのコンテンツを見られるからこそ本当かどうか確かめるようになったのかもしれないと話します。宮武さんは、そうした習慣が消費者に根づき始めているなら絶対的にいいことだと応じました。
24年間民主党に投票してきたマーク・アンドリーセンはなぜトランプ支持に回ったのか
宮武さんが今回の選挙で最も大きかったと考えるのは、テック業界が保守寄りになったことです。テック業界全体は今もリベラル寄りで、寄付金も民主党のほうが多いものの、熱心な民主党支持者だった人たちが共和党に票を入れた年だったといいます。
その代表例が、アンドリーセン・ホロウィッツのマーク・アンドリーセン ── 初期のWebブラウザ「Mosaic」「Netscape」の開発者。現在は米大手VCアンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者です氏です。
アンドリーセン氏によると、バイデン氏個人が嫌いだったわけではなく、むしろ「リーズナブル」な人に見えたそうです。草野さんがその意味を尋ねると、宮武さんは「クレイジーじゃない」「変なことはしなそう」という意味合いだと説明しました。
問題だったのは、バイデン氏の部下たちだといいます。アンドリーセン氏は、彼らを「They were out for blood」、つまりテックを殺しに来ていたと表現しています。
アンドリーセン氏の発言によれば、2024年5月にバイデン政権と会った際、政府は2〜3社のAIスタートアップとしか一緒に動かないので、AIスタートアップに出資するなと言われたそうです。宮武さんは、実態が本当かどうかはわからず、あくまでアンドリーセン氏がそう言っているのだと繰り返し強調しています。
アンドリーセン氏が、AIのコードや数学は公開されていて、MetaのLlamaのようなオープンソースもあるので止められないと反論すると、政府側は、冷戦中に物理学の一部を機密扱いにして研究を禁じたことがあり、必要ならAIもそうすると答えたといいます。宮武さんは、原子爆弾のような分野の話だろうと補足しています。
草野さんは「制限なんてできないのでは」と疑問を口にします。アンドリーセン氏はこのやり取りを聞いて、トランプ氏に入れるしかないと決意したそうです。
宮武さんはもう一つの転機として、トランプ氏が銃撃された際に、マスク氏がいち早くトランプ支持を表明したことを挙げます。当時はまだトランプ対バイデンの構図で手を挙げやすかったこともあり、マスク氏が表明したことで、より多くのテック業界の人がトランプ支持を口にできるようになったと宮武さんは見ています。
トランプ新政権の人事は1期目とどう違うのか
トランプ氏はテック業界から多くの寄付を集めて当選し、そのリターンを人事で示しています。マスク氏はトランプ氏のほとんどの写真に写っているほどで、草野さんは「その最中にゲームをしているとは思えないぐらいハードワーク」と驚きます。
宮武さんが挙げたのは、クリプトに友好的なSEC ── 米国証券取引委員会。株式や暗号資産などの市場を監督する連邦機関です委員長の起用や、PayPalマフィアの一人でAll-Inポッドキャストのデイビッド・サックス氏をAIとクリプトの担当に据えた人事です。サックス氏はずっとトランプ氏を推していて、トランプ氏のAll-In出演もサックス氏経由だったため、宮武さんは驚きはないと話します。
FTC委員長のリナ・カーン ── ビッグテックへの厳しい独占禁止法の執行で知られた、バイデン政権のFTC委員長氏は退任し、共和党寄りのアンドリュー・ファーガソン氏が後任に選ばれました。宮武さんによると、ファーガソン氏はビッグテック嫌いという点ではカーン氏と同じでも、テック自体は嫌いではないといいます。
宮武さんは、カーン氏はテック以外の分野では良いこともしていたと評価し、大手テック企業をただ叩くだけでも良くないと話します。今後の方向性は、ファーガソン氏と、司法省で独占禁止を担うゲイル・スレイター氏が問われるそうです。
党内が選んだような配置で、政治経験者が多かった
トランプ氏とマスク氏がほぼ独断で選び、ビリオネアが多い
草野さんは、ビジネス経験者が入るのは新しい風として面白い一方、好きな人で固める「一本釣り」ができることに驚いたといいます。宮武さんは、懸念として一般市民の感覚を理解しない恐れがあり、良い面としては実行力のある人たちだと話します。ビリオネアたちがゼロから政府という「ビジネス」をどう作り直すかが課題になると見ています。
TikTok禁止とDOGEの期限。2025年に何が問われるのか
トランプ氏が2025年に判断しなければならないのが、TikTokの扱いです。宮武さんによると、ByteDanceが切り離さなければ1月19日に禁止になると裁判所が明確に示していて、トランプ氏が何かしない限りそのまま進みます。
トランプ氏は以前はTikTokを救うと言っていましたが、最近は曖昧な言葉を使っていて、救うのか、米国企業に売れと言うのかは見えないといいます。ByteDanceは動かず、禁止されれば最初の1か月で米国経済に1.3ビリオンほどの影響が出ると主張しています。TikTokerはすでに、フォロワーにYouTubeやInstagramへの登録を呼びかけているそうです。
米国政府には負債問題もあり、マスク氏のDOGEやトランプ氏が選んだ官僚たちが米国をリセットできるかが本当のテストになると宮武さんは話します。DOGEはマスク氏とビベックさんの2人が率いています。
宮武さんが面白いと感じたのは、DOGEの進捗をポッドキャストで解説すると表明したことです。草野さんは「イーロンが?本当に」と驚き、宮武さんは時間をどこで取るのかと笑いつつ、可視化を強く意識していると話します。
宮武さんがもう一つすごいと評価したのは、期限を設けたことです。米国建国250周年にあたる2026年夏までに効率化を終えるとしていて、草野さんは「コミットメントですね」と応じます。宮武さんは、マスク氏なら可能性はゼロではないと見ています。
マスク氏はほぼ毎日、トランプ氏が滞在するフロリダにいて、官僚候補の面接にもすべて同席しているといいます。草野さんは、自分の時間をどこに投じるかをゼロから考え直し、今はトランプ氏のそばにいるのが一番だと判断して行動できることに感心します。
宮武さんは、マスク氏にとってはさまざまな面で利点があるとも話します。マスク氏は、SpaceXの打ち上げが規制で止められ、ロケット開発の時間より承認を得る時間のほうが長くなり始めていたと語っていたそうです。
マーク・アンドリーセン氏も時間の半分をフロリダで過ごしているといいます。宮武さんは「テック業界がホワイトハウスに侵入した」状況だと表現し、草野さんは「ロビーイングじゃなくてもう中に入っちゃいましたね」と返しました。2人とも、これには良いことも悪いこともあると話しています。
ピーター・ティールの「シード投資」とは何だったのか
宮武さんは余談として、予測市場のPolymarketとKalshiが選挙で人気だったことにも触れます。そのうえで、今回の選挙でテック業界の影響力を見てすごいと感じた人物として、ピーター・ティール氏を挙げました。
宮武さんによると、トランプ氏の周りにいるテック業界の人たちは、ほぼ全員がティール氏の関係者です。ティール氏は2016年からトランプ氏を支持していて、今回はおそらく寄付をしていません。表にはあまり出てこなかったものの、メディアが言うほど接戦にはならず、トランプ氏が圧勝すると予想していたそうです。
宮武さんは、PayPal、Facebookへの投資、Founders Fund、Palantir、著書の出版、そしてトランプ氏の支持までをたどり、ティール氏は本当にすごいシード投資家だと話します。
宮武さんは、ほかの人たちは8年後の2024年になってようやく乗ったとし、良し悪しは別として、ティール氏の先を見る力はすごいと語ります。草野さんが「教え子はもう副大統領」と言うと、宮武さんは「裏ボスが実はいた」と応じました。
番外編のカルチャー。サブリナ・カーペンターはなぜ話題になったのか
番外編として、宮武さんは草野さんに、カルチャー寄りで2024年に注目した人や現象を尋ねます。草野さんは、2023年はテイラー・スウィフトの年だったとしたうえで、2024年はチャーリーXCXやサブリナ・カーペンターを挙げました。
草野さんは、ケンドリック・ラマーとドレイクのビーフも、米国だけでなく世界でも最も歴史的なビーフだったのではないかと話します。宮武さんは、チャーリーXCXとサブリナ・カーペンターに加え、チャペル・ローンも挙げました。
草野さんの見立てでは、サブリナ・カーペンターは大きなツアーに加え、昔ながらのピンナップガールのようなビジュアルとモダンさを組み合わせたノスタルジーが受けたといいます。さらに、熱愛を含めた私生活と作品が重なる物語性も重要ではないかと話します。
自分の恋愛経験はあまり曲に反映させず、楽しい曲を作ることを大事にする哲学
自分の生き様と曲をミックスさせ、作品に物語性を持たせる
草野さんによると、サブリナ・カーペンターはミュージックビデオで女性を絶対に死なせないといった独自の世界観を作り、恋人もミュージックビデオに出演させています。ブランディングやマーケティングもうまく、それが話題になった理由の一つだと見ています。
MrBeastではなくカイ・セナの年だった理由
宮武さんは、クリエイター界隈では、MrBeastがスキャンダルもあったことから、2024年はむしろカイ・セナの年だったと話します。カイ・セナはTwitch配信者で、ただ喋るだけでなく、さまざまなゲストを呼ぶ企画型の配信で人気を集めてきました。
カイ・セナは2023年、24時間30日間の連続配信でTwitchの登録者数トップになりました。2024年にVTuberのアイロンマウスにその記録を抜かれると、再び30日間の連続配信を行って記録を取り返しています。予告動画にはキム・カーダシアン氏が登場しました。
草野さんが「元々有名人だったわけでもない」と確認すると、宮武さんは、普通に配信していた人が、性格の良さと、7日間刑務所で配信するといった大胆な企画で人気になったと説明します。前年にストリーマー・オブ・ザ・イヤーになったことでセレブの注目も集め、30日間の配信にはほぼ毎日セレブが出演しました。
カイ・セナは寝ている間も配信していて、2023年は寝姿を約3万人が見ていたそうです。2024年は寝ている間にゲストが話すなど、24時間エンターテインメントになるよう改善していました。
出演者はスヌープ・ドッグ、セリーナ・ウィリアムズ、ビル・ナイ、ミランダ・コスグローブ、リゾ、ソウルジャ・ボーイ、ケビン・ハートなど幅広く、最後にはアイロンマウスも登場しました。草野さんは好きなラッパーのGloRillaが出ていたことで配信を知り、科学番組で知られるビル・ナイが机の上で実験する組み合わせが不思議で、つい見てしまったそうです。宮武さんは、ビル・ナイを日本でいう「でんじろう先生」のような人だと説明しています。
宮武さんが特に良かったと感じたのは、ゲストが去る前にカメラの前で、視聴者に向けて1〜2分、ときには10分ほど、努力や人生についてのメッセージを語る場が設けられていたことです。それがサンクスギビングに向けた30日間の企画だった点も、これまでとは違うと話します。
草野さんが「カイ・セナはポッドキャスター向いてますね」と言うと、宮武さんは次のように答えました。
この企画「マフィアソン2」は、11月だけでTwitch上の視聴時間が8230万時間に達し、2位と8倍の差があったといいます。配信で少なくとも約2ミリオンを稼ぎ、その2割を前年に訪れたナイジェリアの学校づくりに寄付しました。NIKE、マクドナルド、NBAとも提携しています。
宮武さんは、次のMrBeastは、MrBeastっぽい人ではないと感じたと話します。草野さんは、内向的なオタクのような人がそうなる未来にも期待したいと締めくくりました。
まとめ
2024年のテックニュースTOP5は、AIへの資金集中と淘汰の進むVC市場、CopilotからAIエージェントへの移行、ポッドキャストが選挙を動かすメディアになったこと、イーロン・マスク氏の圧倒的な1年、そしてテック業界が政治の中枢に入り込んだことを描き出しました。宮武さんと草野さんの議論からは、テックが産業の枠を超え、メディアや政治の形そのものを変え始めている様子が見えてきます。
- VCファンド調達は上位10社が半分以上を占め、ユニコーンの約3割はすでに評価額1ビリオンを下回っていると見られる
- AIエージェントは「人を拡張する」Copilotから一歩進み、「労働を置き換える」デジタル労働として語られ始めた
- ジョー・ローガンのトランプ氏インタビューはYouTubeだけで5200万再生となり、ポッドキャストは政治家にとって欠かせない場になりつつある
- Starlink、Starship、xAI、Neuralink、DOGEと、マスク氏は1年で複数の事業と政治を同時に大きく動かした
- アンドリーセン氏の転向やティール氏人脈の重用など、テック業界はロビー活動を超えてホワイトハウスの中に入り込んだ





