Sequoiaが起業家に投げる「7つの質問」とは?
今回の前半の題材は、宮武さんが購読しているメルマガです。YouTubeやStripeに投資してきた大手VCのSequoia Capital ── シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル。Apple、Google、YouTubeなど数多くの有名企業に初期から投資してきたことで知られていますが配信する「7 Questions」というもので、パートナーや起業家に毎回同じ7つの質問を投げています。
草野さんが紹介した7つの質問は、次のような内容です。
宮武さんは、VCや社長レベルの起業家に直接聞けるのはSequoiaのネットワークがあるからこそだと話します。回答は人によって様々な一方で、共通するものも見えてくるといいます。
「部屋の中に大人を雇うな」は何を意味するのか
「起業する人へのアドバイス」という質問で草野さんが印象に残ったのは、Airbnbのベリンダ・ジョンソンさんの採用についての回答でした。英語の表現をそのまま訳すと「部屋の中に大人を雇わないこと」という言い方になります。
宮武さんは、この言葉を「めっちゃ真面目な人を雇うな」という意味だと解釈します。リスクばかり考える人やロジカルに考えすぎる人は、アーリーステージではあまり必要なく、無茶をすることも大事だというのが、ジョンソンさんの言いたかったことではないかといいます。
(小さなスタートアップの中で)能力を見てその人を雇ってしまうと、会社のカルチャーに合わなかったり、経験が豊富なだけ制限をかけてしまう人が多いと。
草野さんは、スタートアップのカルチャーは大企業とはまったく別物で、変化の多さを理解した人を採用すべきだという点に納得したと話しています。
宮武さんは、同じ質問でDropboxの創業者も、初期の採用が次の採用にめちゃくちゃ影響すると答えていたことを紹介します。Facebook、Dropbox、Airbnbのどこを見ても、初期の採用によって文化が変わるというのが宮武さんの見方です。
そもそも事業を伸ばさないとダメとか、開発しないとダメとかっていう時期に、いやいや、今からなんか文化作らないとダメなのかみたいな。
宮武さんによると、10人から20人ぐらいまでは家族のような人たちに囲まれているので、カルチャーを考えなくても回りがちです。それでも成功例を見ると、そこをちゃんと考えている会社が多いといいます。
不安定な状態には「慣れる」しかない?
草野さんがもう1つ挙げたのは、Sequoiaのパートナーであるジェス・リーさんの回答です。リーさんは女性VCのコミュニティを立ち上げ、ソーシャルコマース系の会社でCEOを務めた起業経験のある人物です。
リーさんの言葉は、うまくいっているかどうかに関係なく、スタートアップの不安定な状態に慣れろというものでした。草野さんは、うまくいっていない時がハードなのは当然として、うまくいってもハードモードは続くという点に「納得しかない」と話します。
草野さんは、その不安定さを起業家一人で頑張って乗り越えるのではなく、サポートするのがVCの仕事でもあると受け止めています。
成功者の答えに多かった「健康の自己管理」
回答全体の傾向として宮武さんが挙げたのは、特に健康面の自己管理です。早起きするようになった、休み時間をめちゃくちゃ重視するようになった、といった回答が目立ったといいます。
宮武さんが紹介した自己管理の具体例は、次のようなものです。
- 毎日1時間、何も考えない時間をつくる
- 決まった時間は必ず子どもと遊ぶ
- 年に1週間は携帯を持たずに完全にオフになる
- 瞑想やエクササイズ、iPadでアートをする
宮武さんは、成功しているからこそできることかもしれないと前置きしつつ、オフがあるからこそ集中した時に発想が出てくると回答者たちは考えているようだと話します。草野さんも、きちんと睡眠を取るという回答が多かったと振り返ります。
VCや起業家は枕元に何を置いているのか
「枕元の本」の質問への回答も、宮武さんには面白かったといいます。ビジネス系では、Amazonの成長を描いた『The Everything Store』が挙がっていました。草野さんによると、日本語版のタイトルは『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』で、宮武さんは日本ではずいぶん違う名前になるものだと驚いていました。
宮武さんが「めちゃくちゃいい本」と勧めるのが、リード・ホフマン ── LinkedInの共同創業者で、シリコンバレーの著名投資家。PayPal創業メンバーの一人としても知られていますらが書いた『ブリッツスケーリング』です。超高速でユニコーンになる会社が増える中で、何を大事にし、何を優先しないかといった戦略を扱った本だといいます。
ほかにも、クレイトン・クリステンセン ── ハーバード・ビジネス・スクールの経営学者。大企業が新興勢力に敗れる構造を「イノベーションのジレンマ」として論じたことで知られますの『イノベーションのジレンマ』のような定番書から、哲学の本、漫画まで様々な本が挙がっていました。
宮武さんは、アメリカのVCには歴史の本を読む人が多く、チンギス・カンの話なども読まれていると話します。草野さんは、日本でも哲学や歴史が好きな人は多い気がすると応じています。
Molly Grahamとは何者か
後半は、宮武さんが面白いと感じた、企業カルチャーづくりについての記事3本の紹介です。3本とも、Molly Grahamさんという同じ人物が書いたものです。
宮武さんの紹介によると、グラハムさんは急成長する会社を渡り歩いてきました。その経歴は次のように整理できます。
Facebookの人事時代の大きな仕事が「ハッカー」というブランドづくりでした。Facebook本社の住所は「1 Hacker Way」で、マーク・ザッカーバーグさんがハッカーの文化をつくりたいと考えていたのが同社の原点だと宮武さんは説明します。
宮武さんによると、ハッカーという言葉を社内で流通させる文化づくりこそが、グラハムさんに与えられた使命でした。こうした経験があるため、グラハムさんの記事は広く読まれているといいます。
なぜ「自分のレゴを渡せ」なのか
1本目の記事は、「Give Away Your Legos(自分のレゴを他の人にあげろ)」という有名な言葉をめぐるものです。草野さんは、自分の持っている仕事を人に振れということだと受け取り、表現が秀逸でわかりやすいと話します。
グラハムさんのたとえでは、会社は大きな大地の上にいろんなレゴ、つまりプロジェクトを組み合わせてできています。最初は一人ひとりが小さなレゴでプロジェクトをつくりますが、どこかのタイミングで新しい人を採用することになります。
新しい人が僕の仕事を全部取っちゃうじゃないかとか、任せられるのかとか、なんかこれよりうまくやったらどうしようとか。
宮武さんによると、こうした不安はFacebookですらありました。よくあるのは、新しい人に仕事を振っても、自分でやった方が早い、変なふうにやられるといった理由で結局取り返してしまうパターンです。
グラハムさんの見立てでは、急成長する会社はこの考え方を逆にしないと伸びません。Facebookで活躍した人たちは、だいたい3か月で自分のレゴを全部ほかの人に渡していたといいます。
グラハムさん自身もQuipで、3か月ごとに営業、マーケティング、営業とマーケティングのトップと、役割を変えていった時期があったそうです。
レゴを手放させる仕組みはどうつくるか
では、どうすればレゴを他の人に渡すインセンティブが生まれるのか。宮武さんは、グラハムさんの答えを2つのパターンに分けて紹介します。
不安や執着といった感情に巻き込まれるなと、きちんと伝える
今の5倍ぐらいのビジョンのレゴを渡し、小さいレゴを手放さざるを得なくする
宮武さんは、2つ目のほうがより役に立つ情報だと話します。大きなプロジェクトを与えられれば手が回らなくなり、小さなことは気にしていられなくなるという理屈です。
次の5倍ぐらいのビジョンのLEGOを与えるとどうなるかっていうと、小さいLEGOはどうでもよくなるんですよ。
グラハムさんはFacebookやQuipで、この「次のレゴを渡す」ことを繰り返していたと宮武さんは説明しています。
足に噛みつく「怪獣」とどう付き合うか
2本目の記事のタイトルは、直訳すると「自分の足に食いついている怪獣と友達になろう」です。急成長する会社の経営層は、特にアーリーステージでは毎日が大変で、誰もが不安を感じています。
グラハムさんが課題だと考えるのは、その不安を言い合わないことです。宮武さんによると、シリコンバレーでは強がる文化があり、「大丈夫?」と聞かれても「うち最高です、めっちゃ伸びてる」と答えがちだといいます。
その裏側では超大変で、人の管理の仕方とか。もうもう死にそうなんだけどとかっていう、あの不安を持ちながらやってる。
グラハムさんは、不安や恐怖、時には怒りや悲しみといった感情の塊を「怪獣」にたとえています。怪獣は常に足に食いついていて、なくなることはありません。グラハムさんは自分の怪獣を「ボブ」と呼んでいるそうです。
宮武さんの言葉を借りれば、要点は感情に乗っ取られるなということです。怪獣が足に噛みついている程度の時もあれば、体全部を食われたような時もあるので、管理が必要になります。
感情は一晩ではなく「2週間」で判断する
感情的になった時によく言われるのが、一晩寝てから判断しようというアドバイスです。ところがグラハムさんは、一晩置いてもあまり意味がないと考えています。草野さんは、スピード重視のスタートアップなのに意外だと反応しました。
グラハムさんが大事にしているのは、2週間単位での切り替えです。感情に限らずプロジェクトでも、2週間で進捗があるかないかを常に確認しようと言っているといいます。
感情を感じる
不安や怒りなどの感情が湧く
毎日問い直す
2週間、毎日「この感情は正しいのか」と自分に聞く
判断する
2週間後も同じ気持ちなら正しい。そうでなければ変える
宮武さんによると、基本は感情を運転席に座らせないこと、つまり冷静に考えることです。ただ考えるには時間がかかるので、2週間単位で考えればいいとグラハムさんは他のスタートアップに助言しているそうです。
(悩みは)すごく暗いものなはずなのに、こう明るく感じるというか、なんかみんなが抱えてる課題なんだなって。
宮武さんは、不安を打ち消すのは自分に正直になっていないことだと話します。マーク・ザッカーバーグさんが不安を語る姿は見たことがないものの、実際には感じていたはずで、そうした人でも感じていると知れば他の起業家も安心できる。だからもっと公開しようというのがグラハムさんの主張だといいます。
企業文化の80%は創業者から生まれる?
3本目の記事のタイトルは「80% of Your Culture is Your Founder」、つまりカルチャーの8割は創業者から始まるというものです。中心になるのはFacebookでの話です。
グラハムさんがFacebookの人事として最初に任されたのは、有名なスローガン「Move fast and break things(早く動いてものを壊せ)」がどういう文化を意味するのかを定義し、2年かけて従業員に浸透させることでした。
グラハムさんはまず、従業員に2つの質問をしたといいます。宮武さんによると、この問いはその後のFacebookのカルチャーの議論の基盤になりました。
- 将来成長した時に、どういう会社になりたいか
- 社外の人に、Facebookで働くのはどんな感じだと伝えたいか
- (社外の人に「どんな会社?」と聞かれたらどう答えるか)
草野さんは、ビジョンがあっても「Facebookはどんな会社か」への答えが人によって違えば、違うカルチャーや認識になっているということだと受け止めています。
壁中にある「ハッカー」を誰も使っていなかった
宮武さんによると、ハッカーという言葉はもともと少しネガティブな印象を持たれていました。映画などで悪いことをする人として描かれるイメージがあったといいます。
グラハムさんは「ハッカー」というアイデンティティを検証するため、古くからいる従業員に、Facebookを説明する時にどんな言葉を使うかを聞きました。すると、ハック、ハッカー、ハッキングという言葉は一切出てきませんでした。
でも、あの当時はFacebookの社内の壁でしたり、いろんなところにハッカーっていう単語がいっぱいあったんですよ。
社内に言葉があふれているのに誰も使っていない。草野さんはこのずれを「悲しい」と表現しました。そこからグラハムさんは、ハッカーという言葉にこだわらず、Facebookとしてどういう文化をつくるべきかを考えていったといいます。
宮武さんは、創業者がアグレッシブなら会社もアグレッシブになると説明します。トラビスさんが率いたUberはその例で、仕事とプライベートを分ける穏やかなスチュワートさんのSlackは、ザッカーバーグさんと比べると「和」の文化だといいます。草野さんも、オフィスの雰囲気から感じると応じています。
アグレッシブな創業者トラビスさんのもと、アグレッシブな文化に
仕事と私生活を分ける穏やかなスチュワートさんのもと、和やかな文化に
創業者は何をリスト化しておくべきか
とはいえ、創業者が自分を評価し、意図した文化をつくるのは簡単ではありません。そこでグラハムさんが勧めるのは、自分の強みや他の人との違い、創業者として思う会社の性格をリストアップすることです。
グラハムさんは、5人から10人の段階でもリスト化した方がいいと助言しています。会社の性格、強みと弱み、何を変えなければいけないか、どういう人と働きたいかといった項目です。
草野さんは、創業者に会ってオフィスに行くと「この人の会社なんだな」という雰囲気があると話します。それが自然にできたのか定義してつくったのかはわからないものの、わかっている方が採用のマッチングはしやすいだろうと考えています。
ザッカーバーグのリストとAmazonのプレスリリース
宮武さんによると、ザッカーバーグさんもFacebookをつくった後、いろんな社長にカルチャーのつくり方をヒアリングしていました。そこでもらった良いアドバイスが、「one of us」になるには何が必要かをリストにしろというものでした。
ザッカーバーグさんは10分ほどで10個ぐらいの項目を書いたといいます。IQが高い、アグレッシブ、ほぼ完璧なほど高いクオリティを求める、といった内容です。
宮武さんは、Amazonの例も挙げます。Amazonは製品のプロトタイプやスペックを書く前に、Wordでプレスリリースを書くことで知られています。世の中に出す時にどう説明するのかを先に決めるやり方です。
宮武さんは、同じように会社をつくる時にどう思われたいか、外にどう出すかを考え、それを文化に写すことが大事だと話します。草野さんは、それを聞くだけでAmazonがどういう会社かがわかり、合う合わないも感じ取れると応じました。
リストは「一般的なこと」を書かない
宮武さんがまとめたグラハムさんの結論は、今は無意味に感じても、求めるクオリティや会社のクオリティをリスト化して取っておくことです。急成長する会社には、必ず文化づくりが大事になる時期が来るからだといいます。
リストの数は10個でなくてもかまいません。大事なのは、「いい人」「優秀な人」のような一般的なことは書かず、もっと具体的に書くことだと宮武さんは話しています。
草野さんは、急成長すると創業者が全員とコミュニケーションを取るのは難しくなるため、共通認識としてのカルチャーが重要だと感じたと振り返ります。宮武さんは、急成長企業を3社も見てきたグラハムさんの記事は、いろんな企業が使える内容だと勧めていました。
まとめ
今回のOff Topicは、Sequoiaの「7 Questions」に見える起業家たちの知恵から入り、Molly Grahamさんの3本の記事を通して、急成長するスタートアップの人事とカルチャーづくりを掘り下げた回でした。
- アーリーステージの採用は能力や経験だけでなく、変化を受け入れるカルチャーへの適性が大事
- 「自分のレゴを渡せ」。手放してもらうには、今の5倍のビジョンという次の目標を与える
- 不安という「怪獣」は消えないので、隠さず共有し、2週間単位で感情を見極める
- 文化の8割は創業者から生まれる。初期から会社の性格や求める人物像を具体的にリスト化しておく



