民主党の政策資料に残る「バイデンの二期目」
民主党全国大会でカマラ・ハリスが正式に民主党の大統領候補に選ばれたことを受けて、宮武さんはハリスの考え方がM&Aや独占禁止法を中心にビジネス業界へどう影響するかを話すと切り出します。
宮武さんは冒頭で、カマラ・ハリスやティム・ウォルズ、共和党の人たちの考えを紹介する話は、明言しない限り出演者自身の意見ではないと断っています。
民主党は全国大会に合わせて、今後の方向性を示す約92ページの政策資料を公開しました。宮武さんによると、資料の中で「競争(コンペティション)」という言葉は18回ほど登場し、2020年の大統領選の資料からほぼ倍増しています。
一方、共和党の2024年プランで「競争」が出てくるのは3回だけで、そのうち2回はアメリカを海外、主に中国との競争から守るという文脈です。宮武さんは、民主党のほうが独占禁止法への強い意志を持っているのではないかと見ています。
ただし、この民主党の資料には大きな注意点があります。資料はバイデン大統領が選挙戦から降りる前に承認されたもので、ハリス自身が主導して作ったものではありません。
(資料の中で)「バイデンの二期目」っていうリファレンスをすごいするんですよ。よくこれ公開したなって思うんですけど。
草野さんは更新しなかったことに驚きますが、宮武さんは税制プランなどをわずか数週間で作り直すのは大変だと指摘します。宮武さんが数えたところ、「バイデンの二期目」という表現は少なくとも20回ほど出てきたといいます。
宮武さんは、資料は何となくの方向性としては参考になっても、ハリス主導の意図が書かれていない以上、そこまで当てにはならないと考えています。
副大統領だったハリスは何を語ってこなかったのか
草野さんは、カマラ・ハリス自身が政策をあまり語ってこなかった印象について、副大統領という立場上、言えなかった面もあるのかと尋ねます。宮武さんは、バイデン政権の中で副大統領がどこまで発言できるかという制約は一部あったと答えます。
ハリスが民主党を率いる立場になった以上、今後は政策を語っていく必要があります。共和党側からは「全然インタビューを受けていない」という指摘も多く出ています。
宮武さんによると、ハリスは独占禁止法などの重要なテーマについて具体的なコメントをしていません。それでも全体としては、市場を独占する企業に対抗するスタンスを見せ始めているといいます。
このスタンスは、大手テック企業に対抗する姿勢を見せている共和党の副大統領候補J.D.ヴァンスとも、若干似ていると宮武さんは見ています。
民主党全国大会では現職の商務長官が登壇し、ハリスが率いる民主党は、市場を独占して中小企業やスタートアップを潰そうとする会社がいない経済圏を作りたいと語りました。ただし、その詳細は語られていません。
ティム・ウォルズはなぜ選ばれたのか
民主党の副大統領候補に選ばれたのは、ミネソタ州知事のティム・ウォルズです。宮武さんによると、民主党内では当初、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロが選ばれるのではないかと盛んに噂されていました。
ペンシルベニア州は重要なスイングステート ── 大統領選挙のたびに共和党と民主党のどちらが勝つかが変わりやすい州のこと。激戦州とも呼ばれ、選挙結果を左右するため両陣営が力を入れますで、そこの知事を選ぶのは自然な選択に見えました。さらに宮武さんは、ジョシュ・シャピロのスピーチがオバマ元大統領にそっくりだと話します。
(ジョシュ・シャピロのスピーチは)本当に目を閉じればわかんない気がするんですよ。
宮武さんは、そのオバマらしさが逆に選ばれなかった理由の一つかもしれないと推測します。オバマはエリートとして見られがちなので、民主党はもっと一般市民に親近感のある人を選びたかったのではないかという見立てです。
元NASAの宇宙飛行士で軍隊経験もある、尊敬を集める政治家も候補にいましたが、その人物も選ばれませんでした。宮武さんは、ここにも親近感という基準が働いたのではないかと考えています。
ウォルズの軍歴をめぐる「盛った話」
ティム・ウォルズはアメリカ軍に所属していた経歴があり、その在籍中の話をめぐって指摘を受けています。宮武さんは、悪く言えば嘘、良く言えばミスリードだったと表現します。
アメリカ軍に所属していたこと自体は事実です。ただ、アメリカでは軍がとても尊敬されているため、軍歴に関するミスリードは厳しく指摘されやすいと宮武さんは説明します。
問題になった一つは、ウォルズが「戦時中に武器を持っていた」と話したことです。実際には戦地に出ておらず、予備役としてアメリカ国内にいて、イラクやアフガニスタンには行っていませんでした。
話盛ったみたいな。
もう一つは階級をめぐる問題です。ウォルズは一時期上の階級まで上がりましたが、退役時はその一つ下の階級でした。それにもかかわらず、サイトなどで上の階級で退役したと書いていたことが指摘されています。
こうした指摘に加え、左寄りすぎるという声もあります。それでも宮武さんは、ウォルズは副大統領候補としての役割をしっかり務める人だと見ています。
副大統領候補の役割は「相棒」と「攻撃」
宮武さんによると、選挙期間中の副大統領候補の重要な役割は、大統領候補を盛り上げることです。アメリカでは「副大統領は何もやらない」とよく言われるほどで、相手陣営を攻撃し、自分の党を盛り上げる存在だといいます。
本当に盛り上げ、ほんとサイドキックみたいな、本当に相棒。
草野さんは、カマラ・ハリスにサインを求める少女のもとへウォルズが誘導する動画を見て、いい相棒感が出ていたと話します。
攻撃の面では、民主党がここ数か月、トランプやJ.D.ヴァンスを口をそろえて「weird(変な人)」と呼んでいます。宮武さんによると、共和党も民主党も特定のキーワードを皆で繰り返し、視聴者の印象を作るブランディングをよく行います。
で、それ(weirdというブランディング)を始めたのがティムウォルツさんなんですよ。
宮武さんは、J.D.ヴァンスの好感度は歴史上でもほぼ最下位の水準にあると話します。その理由について、変な人というブランディングがうまくいっていることが大きく、ヴァンス自身の発言が一般市民とずれていることもあると見ています。
「コーチ」と呼ばれる中西部のお父さん
ティム・ウォルズは元軍人であることに加えて、もともと学校の教師で、高校のアメリカンフットボールのコーチも務め、州大会で優勝しています。ニックネームはずばり「コーチ」です。
宮武さんによると、ウォルズのスピーチは政治家の演説というより、コーチがチームを鼓舞するペップトーク ── スポーツの試合前などに、監督やコーチが選手を励まし士気を高めるために行う短い激励の言葉に近いといいます。
もう今第4クォーターであともうこれ、これぐらい残ってるんですよと。もうあと77日間しかないですけど、もう僕はもう寝ませんと。
宮武さんは、ウォルズのもう一つの魅力として、英語で「dad meme」と呼ばれるような「ザ・中西部のお父さん」らしさを挙げます。車の直し方を話す動画や、テーマパークで娘とやりとりする有名な動画がその例です。
その動画では、ビーフを食べに行こうと言うウォルズに、娘がベジタリアンだと伝えます。じゃあターキーにしようと言い直し、ターキーも肉だと返されると、「ミネソタではターキーは特別だ」と言って押し切ります。
アメリカンジョークすぎてちょっとわかんなかったです。
宮武さんは、トランプやJ.D.ヴァンス、ある程度はカマラ・ハリスも含めて、これまでの候補者には「普通に周りにいるような人」がいなかったと話します。ウォルズの最大の武器は親近感だというのが宮武さんの見立てです。
宮武さんは、ジョー・バイデンも副大統領時代には「いいおじさん、お父さん」のような立ち位置だったと振り返ります。草野さんは、そのお父さんアイコンが継承されていくのだと受け止めています。
民主党とテック業界の関係はどう変わったのか
宮武さんによると、クリントンやオバマの時代の民主党はテック業界に好かれていました。時期の影響もありますが、当時はテック業界を支援することが大事だと考える民主党議員たちがいたといいます。
1980年代から1990年代ごろに生まれたその一派は「アタリ・デモクラット ── 1980年代に台頭した、テクノロジー産業の振興を重視する民主党議員たちを指す呼び名。ビデオゲーム会社アタリにちなみます」と呼ばれます。テック業界と関連ビジネスを支えることで経済を拡大し、雇用を生み出せると考えていました。
アタリ・デモクラットは今の民主党より中立的、少し右寄りの立場で、政府がすべてを担うのではなく、民間企業へのつなぎ役を果たす考え方でした。宮武さんは、アル・ゴアが初期の中心人物の一人だったと話します。
ただし宮武さんは、カマラ・ハリスのイデオロギーはこのアタリ・デモクラットの流れにはあまり沿っていないと見ています。
ハリスのイデオロギーが見えにくい理由
では、カマラ・ハリスの考え方はどこにあるのか。宮武さんは、全体としては明確ではないと答えます。バイデン政権の副大統領として、バイデンの考えを支持することが役割の一部だったからです。
草野さんは、候補者になったのだから根本から変えればいいのではないかと尋ねます。宮武さんは、それこそがこれからやらなければならないことだとしつつ、難しさを説明します。
(バイデンと違う考えを示すと)共和党側の人たちから、「え、じゃあそれをなぜバイデン政権の時に言わなかったんですか?」っていう指摘が絶対入ってくるんですよ。
一方で、バイデン政権の支持率は40%を切っており、寄りすぎると不利になります。違いを見せる必要はあるものの、どこまで離れられるかが課題です。
支持率40%を切る政権と同一視される
「なぜ政権にいた時に言わなかったのか」と追及される
宮武さんは、中絶の問題ではアメリカ全体として共和党よりハリス側に沿っていると見る一方、国境や経済といった重要な課題では状況が良くなく、ハリスにとって問題になりうると指摘します。
政策を語らずに選挙を逃げ切れるのか
カマラ・ハリスとバイデンの違いは少しずつ見え始めています。たとえばイスラエルについて、ハリスは民主党全国大会で基本的にイスラエル支持だと明言しつつ、パレスチナで起きていることにも多くの問題があるとはっきり語りました。
宮武さんは個人的な意見として、ハリスには強いアンチトランプの発言ばかりしてほしくないと話します。
ただ相手をバッシングするだけだと、なんか正直僕としてはなんか、いや、何をしたいんですかっていうところを見たいんですけど、
ただし宮武さんは、選挙に勝つにはアンチトランプの発言が必要だとも認めます。選挙まで70日を切る中、政策の話をほとんどしなくても逃げ切れるのかが議論になっています。
結局ほとんどのアメリカ人はそれ(政策)で投票してるわけではないので。
宮武さんは、日本でも政策の詳細まで知って投票する人は少ないだろうと付け加えます。草野さんが実現可能性の問題も挙げると、宮武さんは、ピーター・ティールが今回トランプをそこまで支持していない理由も、大きなことを言って実行しない点にあるのではないかと話します。
テック業界の大物たちがハリスを支持する狙い
カマラ・ハリスの支持者は増えています。宮武さんによると、プライベート・エクイティやウォール街ではブラックストーン、ラザード、アポロ、TPG、ベインなどの関係者が支持しています。
テック業界でも、リード・ホフマン、ジョン・ドーア、マーク・ベニオフ、バリー・ディラー、メリンダ・ゲイツ、ジョニー・アイブ、リード・ヘイスティングス、ビノッド・コースラ、シェリル・サンドバーグ、ブラッド・スミス、ジェフリー・カッツェンバーグらが支持し、多額の寄付をしています。
宮武さんは、背景に今のM&A市場への懸念があると見ています。ハリスが勝てば、FTCのリナ・カーン委員長や、司法省で反トラストを担当するジョナサン・カンターが交代するのではないかという期待があるといいます。
宮武さんによると、大統領はFTC委員長の任命はできますが、FTCの個別の判断を指示することはできません。誰を選ぶかによって、FTCがどこまで厳しく動くかが決まるという構図です。
草野さんは、FTCが政権から独立しているのはむしろ健全ではないかと問いかけます。宮武さんは、本来は最高裁判所も政治から距離があるはずだと前置きしたうえで、何でも政治化される時代になり、FTCも政治化されてしまっていると答えます。
カリフォルニアと家族が結ぶテック業界との縁
カマラ・ハリスはかつてカリフォルニア州の司法長官でしたが、その時期に大手テック企業へ厳しい措置をとった経験はあまりありません。カリフォルニア出身で、知り合いにもテック業界の人が多くいます。
さらに宮武さんは、家族もテック業界と深く関わっていると説明します。
| 人物 | 関係 | テック業界とのつながり |
|---|---|---|
| 義理の兄 | 家族 | Uberのチーフ・リーガル・オフィサー。休暇を取り選挙戦を手伝う |
| マヤ・ハリス姪の名前 | 姪 | 元Uber、Slack、Facebookの従業員 |
| カレン・ダン | 非公式アドバイザー | Googleの反トラスト訴訟で同社側の弁護人。Apple、Uber、クアルコムも顧客 |
宮武さんは、こうした人が周りにいることから、ハリスはよりテックフレンドリーになるのではないかと期待されていると話します。ただ実態はわからず、草野さんは私情を挟まないタイプかもしれないと返します。
宮武さんは、周囲にいるのが大手テック企業に近い人たちである点にも注目します。テック業界全体というより、大手に寄り添う可能性もあるという見方です。
ハリスの主張はなぜ揺れるのか
宮武さんは、トランプにも同じ指摘をしたと前置きしたうえで、カマラ・ハリスには若干優柔不断な部分があり、過去に意見を変えたことが何度かあると話します。良く言えば学んで進化している、悪く言えば有権者に合わせて変えているという解釈です。
2020年に「警察予算を打ち切れ」を支持/不法越境を犯罪とみなさない/フラッキング禁止に言及
副大統領候補になって警察予算打ち切りに反対/移民により強硬な姿勢/フラッキング禁止の主張を撤回
警察予算の打ち切りは、2020年のジョージ・フロイド事件をきっかけに広がったBlack Lives Matter運動の中で上がった声です。移民については、民主党全体が強硬な姿勢をとり始めているので、ハリスだけの変化ではないと宮武さんは補足します。
宮武さんは、意見を変えたこと自体の良し悪しは自分が言うべきではないとしつつ、評価する人もいれば、方向が変わりすぎだと感じる人もいると話します。
大手メディアの取材を受けない戦略
草野さんは、言っていたことが違うと記者に指摘されたとき、カマラ・ハリスはどう答えているのかと尋ねます。宮武さんによると、出馬表明以降、ハリスはABCニュースやMSNBC、FOXのような大手メディアのインタビューをほとんど受けていません。
用意したスピーチや、YouTuberやインフルエンサーのショートフォームのインタビューには出ていますが、1〜2時間じっくり話すポッドキャストなどにはまだ出ていません。宮武さんは、配信時点では状況が変わっているかもしれないとも断っています。
過去の取材では、学びがあった、状況が変わったと説明したり、トランプの悪さを語る話に移って質問を避けたりしてきたといいます。宮武さんは、質問を避けるのは政治家なら誰でもやることだと補足します。
草野さんは、日本なら記者の取材は避けにくそうなのに、受けないというスタンスが取れるのが面白いと話します。宮武さんは、取材は申し込みを受け入れて成立するもので、副大統領にドアをノックして聞けるわけではないと答えます。
リード・ホフマンがリナ・カーンに抱く懸念
テック業界を代表してカマラ・ハリス支持を最も強く打ち出しているのは、リード・ホフマンです。約1000万ドルを寄付したホフマンは、ハリスは素晴らしい人物だと称える一方、リナ・カーンについては厳しい言葉を投げています。
アメリカのビジネスに対して、あの、戦争を挑んでると。リラ・カーンさんのFTCは。
ホフマンはリナ・カーンの交代を望んでいますが、ハリスにはその話をしていないと述べています。それでも一部の民主党関係者からは、寄付で圧力をかけているように見えると指摘されています。
ホフマンはマイクロソフトの取締役で、自ら立ち上げたInflection AIがマイクロソフトに買収されています。FTCはマイクロソフトのAIの取り組みと、この買収を調査しているため、ホフマンにはリナ・カーンが交代するインセンティブがあると宮武さんは説明します。
Inflection AIを創業
ホフマンが立ち上げたAI企業
マイクロソフトが関与
ホフマンは同社取締役でもある
FTCが調査
マイクロソフトのAIの取り組みと買収の件
交代を望む
リナ・カーン委員長の交代へのインセンティブ
一方でホフマンも、リナ・カーンのすべてを否定しているわけではありません。ホテルやイベントの予約時に上乗せされる「ジャンクフィー」と呼ばれる手数料をなくしたり見える化したりする取り組みには賛同しています。
草野さんは、多方面から批判を受けながらもYコンビネーターのイベントに堂々と登壇するリナ・カーンの姿に感心していました。
未実現利益への課税案はハリスの本心か
カマラ・ハリスの政策としてX(旧Twitter)で話題になっているのが税制です。バイデン政権は、キャピタルゲイン税の強化と未実現利益への課税を提案しており、ハリスも同じことをやりたいと一部で報じられています。
本当なら、テック業界からはかなり嫌われるだろうと宮武さんは見ています。ただし、宮武さんが見つけた根拠は、ハリスの陣営がバイデンの案に「合意している」という一点だけでした。
バイデン政権の一員である以上、ハリスには政権を批判する意味がなく、基本的に合意するしかない立場にあります。新しいプランを出していない現時点では、ハリス自身がこの税制をやりたいとは言い切れないというのが宮武さんの考えです。
一方で、ハリス自身が明確に語っている税制もあります。トランプが35%から21%に下げた法人税を、28%まで引き上げたいという主張で、これはバイデン政権とも違うプランです。
宮武さんは、X(旧Twitter)で話題になって誤った情報が出回るのが嫌なので、未実現利益課税についてハリス自身の発言はまだ見つかっていないという状況を伝えておきたかったと話します。
食料品の便乗値上げは大企業のせいなのか
カマラ・ハリスは経済政策として、スーパーなどの食料品の便乗値上げを止めたいと打ち出しています。バイデン・ハリス政権の間に、食料品価格は平均21%上がりました。
ハリスは、生活必需品を異常に値上げして消費者に害を与えている大企業が責任を取るべきだと主張しています。宮武さんによると、この主張には消費者側から賛同が多く集まっています。
しかし経済学者の多くは、値上がりの主因は大企業の利益追求ではないと見ています。サンフランシスコ連邦準備銀行も、企業の便乗値上げがインフレの一番の理由ではないと明記していると宮武さんは紹介します。
供給の減少
コロナによるサプライチェーン問題、ウクライナ戦争での小麦生産停止
需要の増加
給付金で市民がお金を使えるようになった
人件費の上昇
2021年ごろの大量離職で高い給料を出さないと人が戻らない
値上げ
燃料・電気代も上がり、利益の薄い業界は値段を上げるしかない
ウォルマートは前年に155億ドルの利益を出したと批判されることがあります。しかし宮武さんによると、それは6480億ドルの売上に対する利益で、利益率は2.4%に過ぎません。
これって便乗値上げのレベルなのかっていう。
ケチャップで知られるクラフト・ハインツも、売上は2019年の250億ドルから2023年は266億ドル、利益は61億ドルから63億ドルとほとんど変わっていません。
一方で宮武さんは、アメリカの167都市で上位3つのスーパーチェーンが市場の7割を占めている点は懸念すべきだとも話します。
ハリスが具体的に何をするのかは明確ではありません。宮武さんは、上限価格の設定ではなく、FTCが調査しやすい環境を作りたいという意思表明だろうと見ています。上限価格を入れれば投資の意味がなくなり、競争と供給が減り、かつてのガソリン価格統制のように長蛇の列が生まれかねないと指摘します。
住宅不足と処方薬価格に政府はどこまで踏み込むか
カマラ・ハリスが、政府がより深く関わるべきだとしている分野がヘルスケアと住宅です。宮武さんは、アメリカの歴史上、政府が関わると値段が上がってしまう傾向があるとも話します。
住宅についてハリスは、300万戸の新しい住宅を作りたいとし、初めて家を買う人に最大2万5000ドル支援額の単位の税額控除を設けると打ち出しています。背景にはアメリカの住宅価格の高騰があります。
宮武さんによると、自治体には家の価格をある程度コントロールしたいという思いがあり、住宅が建てにくく不足が続いています。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によると、価値が100万ドル以上の家の割合は、全米で8.5%に達しています。コロナ前は4%でした。
最も割合が高い地域はどこかと宮武さんが尋ね、草野さんはニューヨーク、LAと答えますが外れます。正解はサンフランシスコのベイエリアで、その割合は80.6%でした。
なんかちょっと桁が違いました。
処方薬では、インスリンなどに上限価格を設けたい考えです。宮武さんは、マーク・キューバンの会社の取り組みが参考になるかもしれないと話します。
膨れ上がる国の借金と三つの選択肢
宮武さんは、カマラ・ハリスの施策が市民の課題を解決しようとしていることは認めつつ、最大の課題はコストだと指摘します。シンクタンクのCRFB ── Committee for a Responsible Federal Budget(責任ある連邦予算委員会)。アメリカの財政規律を重視する超党派の非営利団体で、政策のコスト試算で知られますは、ハリスの案で今後10年に1.7兆ドルの国債が増えると試算しています。
アメリカの国債はすでに35兆ドルに達しています。宮武さんは、予算を使うと言うほうが票を集めやすく、全員一律10%カットのような削減は怒りを買うため、選挙に勝ちたい政治家ほど削減しにくいと話します。
草野さんにどうすればいいのかと問われ、宮武さんは選択肢は3つしかないと答えます。
| 選択肢 | 中身 | 宮武さんの見立て |
|---|---|---|
| コスト削減 | 予算を削る | 今のアメリカではどの政治家もやらず、ほぼ存在しない |
| 収入を増やす | 税率を上げる | ハリスも法人税を上げようとしており、今後税率が上がってもおかしくない |
| 成長で補う | GDP成長でコストを上回る | 共和党側の主張に近いが、今の支出ペースでは足りない |
宮武さんは一度、100日間で1000億ドル増えていると言いかけ、すぐに桁を訂正しました。実際には100日間で1兆ドル分の負債が増えているといいます。
ここの部分を、その解決するのが多分本来次の大統領の役割でもあると思うんですけど、今のところどちら側もその姿勢を見せてない。
草野さんは、借金削減を訴えても支持率は上がらず、人は自分が生きている間に国が良ければいいと思ってしまいそうだと話します。宮武さんは、一度受けた給付がなくなると人は怒るため、与え続けて引き返せなくなるのが今の課題だと答えます。
宮武さんによると、今のアメリカのGDPの45%ほどが政府や自治体の予算です。かつては成長できていたからこそ市民に多くのプログラムを提供できましたが、今はそれが難しくなり始めています。
正反対に見える両党は同じポピュリズムへ
前週の共和党編と今回の民主党編を振り返り、宮武さんは、共和党と民主党は個別の課題では正反対の意見や解決策を持ちながら、方向性としては意外と似ていると話します。
どちらにも、大企業や大手テック企業への反発があります。J.D.ヴァンスはGoogleなどテック企業への独占禁止法やM&Aの規制強化を、カマラ・ハリスは食料品などの大企業批判を掲げています。
アンチGoogleなど、テック企業への独占禁止法・M&A規制の強化
食料品などの分野で、大企業の値上げを批判
宮武さんは、中小企業やスタートアップといったアンダードッグを支援すると訴えて人気を集めるのも、ポピュリズム的な考え方の一つだと話します。草野さんはそれを「市民の味方ですよ」というメッセージだと言い換えます。
この流れは、2016年にトランプが当選してから一段と明確になったと宮武さんは見ています。Off Topicの第100回で取り上げた帝国の盛衰サイクルの、衰退期に起きることとして書かれている現象だといいます。
市民が政府や経済に不満を持つと、今のトップが悪いと訴えるポピュリズムが響きやすくなります。オバマの時代はむしろ逆のピークだったかもしれないと宮武さんは話し、スケープゴートを探す傾向は西洋で作られた文化でもあるのかもしれないと付け加えます。
生涯政治家か、民間出身のアウトサイダーか
方向性が同じポピュリズムなら、違いはどこにあるのか。宮武さんが挙げる明確な違いは、生涯政治家か、民間経験者かという点です。カマラ・ハリスとティム・ウォルズは政治家以外の仕事をしたことがなく、トランプとJ.D.ヴァンスにはビジネスやVCの経験があります。
特にティム・ウォルズは、株も家も持ったことがありません。経済を任せられるのかと疑問視する声がある一方、家を買えずに苦しむ一般の人からは、むしろ身近な人に見えるといいます。
そこで親近感がワークする。
宮武さんは、アメリカは2016年にアウトサイダーのトランプを、2020年には生涯政治家のバイデンを選んでおり、両方の答えを出してきたと話します。今回どちらを選ぶかが重要な判断になると見ています。
草野さんが宮武さんはアウトサイダー派なのかと尋ねると、宮武さんはどちらも課題を抱えていると答えます。トランプの過去の行動や発言を忘れてしまう人もいるので、それを忘れずに投票すべきで、ハリスについても同じだと話します。
選挙は11月5日です。草野さんが、ヨーロッパのように第三の党が出てこないアメリカの二大政党制に触れると、宮武さんは、ロバート・F・ケネディ・ジュニアも出馬を目指したものの断念してトランプ支持に回ったと説明します。
ポピュリズムの先に何が来るのかと問われ、宮武さんは、何らかの革命が最も起きやすいと答えます。内戦や外国との戦争という形もありうるものの、願わくば戦争を伴わない形で、多少なりリセットされるだろうと話しています。
まとめ
カマラ・ハリスは、バイデン政権の副大統領だった立場から独自の政策を語りにくく、イデオロギーが見えにくい候補です。それでも、法人税の引き上げや便乗値上げへの対策、住宅支援などから方向性は見え始めており、その先には共和党と同じポピュリズムの潮流があると宮武さんは読み解いています。
- 民主党の政策資料はバイデン撤退前に承認されたもので、ハリス自身の考えを示すものとしては当てにしにくい
- 副大統領候補ティム・ウォルズは、元軍人で高校アメフトのコーチという経歴と「中西部のお父さん」らしい親近感が強みとされる
- テック業界の大物の多くがハリスを支持し、FTCのリナ・カーン委員長の交代を期待する声もある
- 便乗値上げ対策や住宅・処方薬の支援は市民に響く一方、10年で1.7兆ドルの国債増という財政コストが課題とされる
- 両党は正反対に見えて同じポピュリズムに向かっており、違いは生涯政治家か民間経験者かにあるという見立て


