ランキング外にも名作が並ぶ?候補作の顔ぶれ
草野さんと宮武さんは、去年の「年末年始におすすめの本」に続き、今年読んで面白かったコンテンツをゆるく紹介し合うことにしました。宮武さんは今回、紹介を本だけに絞ったといいます。
宮武さんの候補は5冊ほどあり、本題に入る前に、ランキングに入れなかった3冊を挙げています。1冊目はナイキ創業者の物語『SHOE DOG ── ナイキ創業者フィル・ナイトの自伝。日本語版は『SHOE DOG(シュードッグ)』として刊行されています』で、今も多くのVCが薦める定番の1冊だそうです。
宮武さんの2冊目は、Netflixのカルチャーの作り方を書いた『NO RULES』です。面白いものの、Netflixでしかできない部分もあるため、今回のおすすめからは外したといいます。
宮武さんの3冊目は『サードドア』です。当時大学生だった著者が有名人へのインタビューを実現していく話で、著名人との接し方やアプローチの仕方が勉強になったと話しています。
草野さんは小説も含めて幅広く読むため、候補選びに迷ったそうです。本題に入らない本として挙げたのが、2010年代のアメリカのポップカルチャーを扱った『2010s』です。
なんで、こうヒップホップが流行ったのかとか、スポティファイが生まれたことによって(音楽が)どう変わったのかとか、そういう話が入ってる本で。
草野さんは、日本語でここまで書かれた本はなかなかないと評価しています。さらに小説では、中国系アメリカ人のケン・リュウ ── 中国系アメリカ人のSF作家。エンジニアやプログラマーとしての経歴も持ち、短編集『紙の動物園』で知られますによるSF『紙の動物園』も挙げました。アジアテイストで、SFが苦手な人でも読みやすいそうです。
「Tシャツではない」というストリートウェア創業記
宮武さんが1冊目に薦めたのは、ストリートウェアブランド「ザ・ハンドレッズ ── ボビー・ハンドレッズらが立ち上げたアメリカのストリートウェアブランド。ブログ発信と結びついて成長したことで知られます」の創業者ボビー・ハンドレッズさんによる自伝『This Is Not a T-Shirt』です。
宮武さんによると、この本には創業の苦労が具体的に書かれています。ブランドのロゴだけが先走って人気になり、悪いイメージがついたため、そこから撤退した話もその一つです。
ほかにも、店を閉じた時期があったことや、トミー・ヒルフィガーさんからの投資がなぜ実現しなかったのかといった、うまくいかなかった話も含まれているそうです。
メディアとコマースとコミュニティを束ねたブランド
宮武さんが『This Is Not a T-Shirt』に共感したのは、ザ・ハンドレッズがメディアとコマースを一体にした会社だった点です。ブランドの立ち上げ当初からブログを書き、それが人気になっていきました。
知らないうちにファレル・ウィリアムスさんがそのブログを読んでいたことも、ブランドの人気につながったといいます。
ブログで発信
ブランド立ち上げ時からブログを書き続けた
読者が広がる
ファレル・ウィリアムスさんも読むほど人気に
コマースで収益化
コンテンツの影響力が商品の売上につながった
コミュニティ形成
ファンとのつながりを育てた
宮武さんは、10年以上前からこの形を実践していたことを「すごく今の現代ビジネスっぽい」と評し、Off Topicが目指す世界観にも近いと話しています。
草野さんも、ストリートブランドのコミュニティの作り方は、ドロップ式 ── 限定商品を決まった日時に少量ずつ発売する販売手法。ストリートブランドで広まり、テック製品の販売でも使われていますなどテックのプロダクトでも注目されている分野だと応じました。
「ストリートウェアは毎晩死ぬ」に込めた再生の思想
宮武さんが最もグッときたのは、『This Is Not a T-Shirt』の冒頭で語られるストリートウェア論です。SupremeがVF ── VANSやTHE NORTH FACEなどを傘下に持つアメリカのアパレル企業。2020年にSupremeを買収しましたに買収されたこともあり、ストリートウェアは終わったという声が毎年のように出ているといいます。
それに対してボビーさんは、ストリートウェアは毎年死んで、毎年新しく生まれ変わり、強くなっていると書いているそうです。宮武さんはこの一節をパソコンの前に貼っているほどで、番組では原文の一部を英語で読み上げました。
読み上げられた原文には「Streetwear dies every night, but it is subsequently reborn and renewed by the morning.」「Rest in peace, streetwear. Can't wait to see what you do next.」といった言葉が並びます。
草野さんは、英語のほうが彼のパッションが伝わると感想を述べています。日本語版はおそらくまだないため、反響があれば番組で内容を紹介したいという話にもなりました。
(『This Is Not a T-Shirt』を)日本語にするとやっぱダサいですね。
ベストセラーから今のアメリカを読む
草野さんの1冊目は、翻訳家の渡辺由佳里 ── 翻訳家・エッセイスト。英語圏の書籍に詳しく、アメリカの出版事情についての紹介でも知られますさんによる日本の本『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』です。選挙やブラック・ライブズ・マターなど、テクノロジー以外のアメリカを知りたい人にも薦められる入門書だといいます。
草野さんが挙げる背景は、アメリカのベストセラーやオバマ元大統領、ビル・ゲイツが薦める本の多くが、リアルタイムでは日本語化されていないことです。
(アメリカで流行ってる本の情報って)日本に来るのがやっぱ1年、2年ぐらいかかるので、すごくアメリカのことについて知りたいって人におすすめです。
『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』は、大統領、ジェンダー、結婚、移民といったテーマごとにアメリカのベストセラーを数冊ずつ選び、要約して紹介する構成です。宮武さんは、移民のように日本ではあまり考えない話題がアメリカでは議題によく上がると補足しました。
また、『コンビニ人間』やこんまりさんなど、日本発の本がアメリカでどう見られ、どこが面白いと思われているかという話も入っているそうです。
天才を生むのは専門特化か、幅広い経験か?
宮武さんが「一番おすすめしたい」としたのが、デイビッド・エプスタインさんの『RANGE』です。原題のサブタイトルは「Why Generalists Triumph in a Specialized World」、日本語版は『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』で、VCコミュニティでも話題になった本だといいます。
『RANGE』は、スポーツや音楽などのスター選手がどう学んできたかの事例をもとに、幼少期から1つに特化すべきか、広く浅く学ぶべきかを議論しています。
1歳未満からゴルフクラブを握り、父の指導でひたすらゴルフを続けた
幼少期からテニスをしつつ、レスリングやスケボーなど他のスポーツも経験し、最終的にテニスを選んだ
エプスタインさんの考えは、まずジェネラリストになるべきだというものだと宮武さんは紹介します。楽器でも、ずっとピアノだけを続けた人より、3つほどの楽器を試してからピアノに特化した人のほうがエキスパートになりやすいという研究があるそうです。
画家のゴッホも、子どもの頃は画家ではなく、教師や本屋の仕事を経て37歳でアートへの情熱に気づき、さまざまなスタイルを試した末に自分の画風を見つけたという例として挙げられています。
シーズン制スポーツから見える日本の課題
宮武さんに『RANGE』が響いたのは、アメリカの教育システムで育った経験があるからです。日本の部活は1つのスポーツを1年中続けますが、アメリカはシーズン制で、季節ごとにスポーツが変わります。
宮武さん自身も、秋はサッカー、冬はバスケ、春は野球をしていたそうです。アメリカでは複数競技でスカラシップの声がかかる高校生も珍しくなく、NBAのレブロン・ジェームズも大学からアメフトのオファーを受けていたといいます。
中学生ぐらいまでは、バスケやサッカーなどで日本人も世界レベルで戦えている
高校生以上で差が出始め、プロになると大きな差がついてしまう
宮武さんは、この差の理由として、日本が幼少期からスペシャライズしすぎているのかもしれないと、本を読んで考えたそうです。
他のスポーツから学べる知識とかっていうのも出てくると思うので、本当に小さい時からスペシャライズする必要ってあるんでしたっけ?っていうところですね。
ジェネラリストだからこそ見えるつながり
宮武さんは『RANGE』の考えを仕事選びにも広げます。最初からアクティングや投資銀行など1つに決め打ちするより、いろいろな業種を見るのもよいのではないかという考えです。
ただし最終的にはスペシャライズも必要で、日本でいうT型 ── 幅広い分野の知識(横棒)と、1つか少数の分野の深い専門性(縦棒)を併せ持つ人材像をT字にたとえた言葉のように、広い知識と深い分野を両立させることが大事だと話しています。
宮武さんはOff Topic自体も同じだと考えています。いろんなトピックを見ているからこそつながりが見えるのは、2人がジェネラリストだからできていることだといいます。
テックの中でもD2Cの話をすればクリエイターの話もしますし、その2つをどっちを見てるからこそ、そのつながりっていうのが見えてくるんですよね。
実は宮武さんも草野さんも『RANGE』を読み終えておらず、宮武さんは年内に読み終える予定、草野さんは途中まで読んだのでもう一度読みたいと話しています。
『テッド・ラッソ』の主人公はなぜ選手を前向きにできるのか
草野さんの最後のおすすめは、Apple TV+のコメディドラマ『テッド・ラッソ〜破天荒コーチがゆく〜』です。サッカーを何も知らない陽気なアメリカ人のアメフトコーチが、イギリスのフットボールチームの監督になる話です。
草野さんがこのドラマを薦める理由は、主人公テッド・ラッソのコーチングのうまさです。サッカーの知識とは関係なく、選手たちがいかに気持ちよくプレーできるかに力を注ぐ、元気をもらえるキャラクターだといいます。
(『テッド・ラッソ』は)1話30分とかの普通の軽いドラマなんですけど。
『テッド・ラッソ』はハウツーものではなく、普通のコメディドラマだと草野さんは念を押しています。
これ(『テッド・ラッソ』)本当に見てほしいのに。Netflixの愛の不時着とかよりも全然面白いと思ってます。
宮武さんによると、アメリカのVC業界でも『テッド・ラッソ』は「Apple TVの唯一のいい番組」と話題に上るそうです。ただ、その後Netflixの『クイーンズ・ギャンビット』が人気になり、話題がそちらに移ったといいます。
2007年の広告キャラがドラマになるまで
草野さんによると、『テッド・ラッソ』のシーズン1は終わっており、シーズン2はあるようです。主人公の俳優がアメリカに住み、撮影はイギリスで行うため、宮武さんはコロナの影響を気にしていました。
意外な背景として、テッド・ラッソはもともと、アメリカで放送されたプレミアリーグの宣伝広告のために生まれたキャラクターだといいます。
草野さんは、その広告がそれほど人気だったかはわからないとしつつ、年月を経てキャラクターが生かされていることに驚いています。宮武さんも、2007年のキャラクターを再活用してドラマにする発想が面白いと応じました。
地味なポスターに騙されないでほしい理由
草野さんは、Apple TV+には他にも面白い作品があるものの、シリアスなものが多く、気軽に見られるドラマとしては『テッド・ラッソ』が唯一だと話します。無料で見られる期間もあるそうです。
宮武さんも以前薦められたもののタブを開いたままにしていたと明かし、草野さんはポスタービジュアルがつまらなそうに見えるのも損をしている点だと指摘しました。
草野さんによると、主人公の俳優はサタデー・ナイト・ライブ ── アメリカNBCで長年放送されている生放送のコメディ番組。多くの人気コメディアンや俳優を輩出しています出身でコメディがうまく、アメリカ人とイギリス人がいがみ合う様子がとても面白いそうです。
(私は)サッカーに興味全然ないんですけど。
宮武さんはアメリカ対イギリスの文化のギャップにも触れつつ、自分も見てみると約束し、2人がそれぞれ2つずつ紹介する回は締めくくられました。
まとめ
今年のおすすめとして、宮武さんはブランド論とジェネラリスト論の本を、草野さんはアメリカを知るための本とコーチングが光るドラマを挙げました。どれも、Off Topicが扱うテックやカルチャーの見方につながる選書になっています。
- 『This Is Not a T-Shirt』は、メディアとコマースとコミュニティを束ねたザ・ハンドレッズの創業記で、ストリートウェアの再生を語る冒頭が魅力
- 『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』は、日本語化に1〜2年かかるアメリカのベストセラーをテーマ別に紹介してくれる
- 『RANGE』は、幼少期からの特化より幅広い経験がエキスパートを生む可能性を示し、日本の部活のあり方にも問いを投げかける
- 『テッド・ラッソ』は、選手が気持ちよくプレーできることに力を注ぐ主人公のコーチングが光る、30分の軽いコメディドラマ





