なぜ有名YouTuberが次々と引退を宣言したのか?
2024年の1月末から2月頭にかけての2〜3週間、アメリカでは有名YouTuberの引退宣言が立て続けに出ました。宮武さんは、この動きをきっかけに、クリエイターの引退と跡継ぎ、つまりクリエイターがどうスケールするのかという議論が盛り上がったと紹介します。
1人目はトム・スコットさんです。登録者は約640万人で、1999年からネットでコンテンツを投稿し、YouTubeチャンネルは2006年に開設しました。
トム・スコットさんが成功し始めたのは2014年からです。そのとき「毎週月曜の午後4時に面白い動画をアップする」という目標を立て、10年連続で守り続けました。
ガーリックパンを宇宙に飛ばして、本当の宇宙が見えるところまで飛ばして、地球に戻ってきて、それを食べるっていう動画を作ったんですけど、それが多分6000万再生回数ぐらい行ったんですけど。
トム・スコットさんの動画は科学系や教育系が多く、一部に面白系の動画もありました。そのトム・スコットさんが今年1月、週次の動画アップをやめると発表しました。宮武さんは、その引退宣言の動画が非常に良かったと話しています。
2人目はスウェーデンのミュージシャン、セス・エバーマンさんです。登録者は約420万人で、有名アーティストの曲を独特の音作りでカバーし、ビリー・アイリッシュの『バッドガイ』の再現などがバズりました。
さらに大きな存在が、登録者1900万人のチャンネル「GameTheory」を運営するマット・パットさんです。チャンネル自体は2006年に始まり、GameTheoryシリーズを出し始めたのは2009年で、約15年続けてきました。
マット・パットさんと奥さんは、GameTheoryの人気を受けて3つのスピンオフを作り、2022年にはチャンネルを売却しています。そして今年1月、もう顔を出さない、いわゆる引退をすると発表しました。
ほかにも、登録者1100万人のマインクラフト系YouTuberキャプテン・スパークルズさん、約680万人のミート・キャニオンさんが何らかの引退を発表しました。前週の回で触れたTwitch配信者のポキメインさんも、Twitchからの引退を口にしています。
YouTubeチャンネルの「終わり方」はなぜ難しいのか
宮武さんは、引退動画を見て、コンテンツ活動の終わり方はとても難しいと感じたといいます。そもそも終わりを目にする機会が少ないため、あまり語られないテーマだという指摘です。
宮武さんによると、これまでYouTubeチャンネルの離れ方には2つのパターンがありました。
ある日、急にアップロードをやめる
出し続けるうちに人気もやる気も下がり、少しずつ姿を消す
終わりが難しい背景には、チャンネルが大きくなるほど仕事の中身が変わることがあります。もともとは面白い動画を作りたいという思いで始めても、規模が大きくなるとチーム管理やブランドとの交渉が増え、本来のクリエイティブな仕事から離れてしまいます。
もちろん皆さんにとってはすごい夢のような仕事ではあるんですけど、同時に元々自分がやりたかった仕事からちょっと離れてバーンアウトする人も多いのかな。
宮武さんは、今回引退を宣言した世代は、一世代前のYouTuberがバーンアウトしたり、急にやめたり、人気を落としたりする姿を見てきた世代だと見ています。そのため、自分なりにどう終わらせたいかを考え始めたのが、この世代からだという見立てです。
ちゃんと終わりますって言うみたいなのは、新しいっていうか、あんまりなかったかもしれないですね。
アスリートの引退とYouTuberの共通点
宮武さんは、YouTuberの辞め時の問題はアスリートに似ていると話します。アスリートにも、ピークで辞めるか、ピークを少し越えてから辞めるか、ずっと続けるか、という3つほどの選択肢があります。
自分が今ピークだっていうことはわかんないじゃないですか。これから上がってどんどん上がる可能性もあれば、下がる可能性もあるので。
YouTuberの場合は、チームを抱えていることも辞め時を難しくします。自分が辞めればチームのメンバーが職を失うため、簡単には決められないという事情です。
宮武さんはファンとしても複雑な思いを抱くといいます。ピークを大きく越えたアスリートがプレーする姿は楽しい一方で、黄金時代とは明らかに違うパフォーマンスを見ると悲しくなるというのです。これに対し草野さんは、挑戦し続ける姿もかっこいいと返しています。
ファン側としての現実をそこで覚えるっていう。
宮武さんが注目するのは、アスリートがときどき行う「事前の引退宣言」です。今シーズンで引退すると先に表明すると、そのシーズンのファンとの関係が特別なものになるといいます。
宮武さん自身、コービー・ブライアントが引退を宣言したとき、最後の試合のチケットを買って観に行きました。宣言がなければ、その試合は観なかったかもしれないと振り返ります。
1年で消えるチャンネル「UnusAnnus」の実験
宮武さんが、クリエイターの世界で事前の引退宣言に最も近い事例として挙げたのが「UnusAnnus」です。数年前に有名YouTuber2人が作った共同チャンネルで、うち1人は2000万人以上の登録者を持っていました。
UnusAnnusのコンセプトはシンプルで、毎日動画をアップし、ちょうど1年後にチャンネルと過去の動画をすべて消すというものでした。
最後の週だけでも約3100万回再生されました。さらに、グッズ売上3000万ドルのうち1370万ドル、およそ45%が最後の24時間に集中したといいます。
UnusAnnusは最後に24時間のライブ配信を行い、画面を共有しながら、チャンネルを削除するボタンを視聴者と一緒に押しました。
生涯一回しかない体験みたいなものっていうのって、なんかYouTubeチャンネル運営してる以上だと結構難しいのかなっていうふうに思っていて。
宮武さんは、終わりをはっきり告げたことで、UnusAnnusの2人はYouTubeのアルゴリズムを気にせず、好きなコンテンツを作れたのではないかと見ています。始まったのは2019年で、コロナ期間と重なったことも影響したかもしれないと付け加えています。
草野さんは、終わりがあることはマーケティング的にも良いと認めつつ、その後に新しいフォーマットでまた注目を集めるのは難しいと指摘しました。宮武さんも、同じ「消します」を毎年やっても盛り上がらないため、終わりを作るとその後どうするかという問題が生まれると応じています。
人はなぜ誰かの人生をコンテンツとして見たいのか
草野さんは、終わりのあるコンテンツが惹きつける理由として、誰かの人生を見たいという人間の欲を挙げます。
スポーツもそうですけど、その人のなんていうか、人生かけたストーリーの第一章を置いていくところが見たいとか、そのコンテンツを作って終わるとこが見たいみたいなところも(あると思います)。
宮武さんはこれに同意し、クリエイターの成長を受け入れて見続けたいファンもいれば、受け入れたくないファンもいると話します。YouTuberは若いうちに始める人が多く、大人になるとスタイルが変わるからです。
宮武さんは、デイビッド・ドブリックさんやエマ・チェンバレンさんを、大人になってスタイルが変わった例に挙げます。アスリートが年齢とともに運動能力の衰えに合わせてプレースタイルを変えるのと同じで、新しい魅力が出る一方、もともとの面白さが薄れる可能性もあるといいます。
「引退」したYouTuberは本当に辞めたのか?
宮武さんによると、引退を宣言したYouTuberの多くは、実はクリエイターとしては引退していません。メインのチャンネルの更新頻度を落とすか、そこにはあまりアップしないと決めただけです。
TikTok移行しますみたいな人もいましたしね。
たとえばトム・スコットさんは、今も週1回のポッドキャストを配信し、ニュースレターも出しています。マット・パットさんも、今も制作にはいろいろ関わっています。
宮武さんは、YouTuberの活動の移り変わりを次のように説明します。最初はいろいろ試し、バズったものをひたすら繰り返し、少しずつ改良を重ねるうちに、10年以上続ければ飽きも出てきます。
試す
何がバズるかわからないので、いろいろなものを試す
繰り返す
バズったフォーマットを毎日・毎週・毎月続ける
飽きる
改良を重ねても、10年以上続けると飽きが出る
移る
一緒に育ったオーディエンスとともに、ポッドキャストやTikTokなど別の形に移る
エマ・チェンバレンに見るスタイルの進化
宮武さんが「めちゃくちゃわかりやすい」と挙げたのがエマ・チェンバレンさんです。草野さんは、エマ・チェンバレンさんを今はポッドキャスター、起業家、モデルだと表現しました。
エマ・チェンバレンさんはYouTubeにはほぼアップしなくなり、今は週2回ほどポッドキャストを配信しています。宮武さんの記憶では、週1回はゲスト回、週1回は1人で話す回という構成で、草野さんも「本当に番組のホストになった」と話しています。
宮武さんは、エマ・チェンバレンさんがYouTube時代にも何度もスタイルを変えてきたと振り返ります。
エマ・チェンバレンさんは現在ポッドキャストに注力しており、Instagramのフォロワー数は伸びていないと本人が話しているそうです。コンテンツを変えればオーディエンスも入れ替わり始める、という「トランジション」の話を、エマ・チェンバレンさん自身もしていたといいます。
マット・パットはなぜGameTheoryを売却できたのか
YouTubeへの動画投稿からの引退という意味で、宮武さんが最大の成功事例になりそうだと見るのがマット・パットさんです。GameTheoryに加え、FilmTheory、FoodTheory、StyleTheoryの4チャンネルを運営し、各テーマについて仮説を立てて解説する形式を取っています。
GameTheoryはアニメーションを使った解説が中心で、マット・パットさんはほとんど顔を出さず、声だけで解説してきました。登録者1900万人のこのチャンネルを、2022年にイギリスのスタートアップLunarXに売却しています。
宮武さんによると、売却時には小さなVCファンドから大手メディアブランドまで、10社ほどからオファーが来ました。ゲームのチャンネルだけを欲しがる会社や、自社の制作チームに組み込みたい会社など、狙いはさまざまだったといいます。
売却後もマット・パットさんと奥さんは会社に残りました。しかし今回の引退動画では、ついに声も提供せず次の人たちに託し、今後はディレクションや制作面で関わると伝えています。
そもそも売却する事例ってそこまでないっていうところもありますし、で、なおかつその後に自分が抜けてもいいようになるって、なんかそれが一番難しいのかなと思うんですよね。
パーソナリティとフォーマット、チャンネルを残すのはどっち?
宮武さんは、GameTheoryが交代しやすいチャンネルとして設計されていたと説明します。マット・パットさん自身、GameTheoryには視聴者を引き寄せる3つのフックがあると話していました。
| フック | 中身 | マット・パット引退後 |
|---|---|---|
| パーソナリティ | マット・パットさん本人が好き | 消える |
| フォーマット | 決まった手順で深掘りする解説の型が好き | 残る |
| トピック・IP | 扱う特定のゲームが好き | 残る |
マット・パットさんがいなくなれば1つのフックは消えますが、2つは残ります。その2つを保ちながら次のパーソナリティを見つけることが重要だ、というのがマット・パットさんの考えです。
マット・パットさんは2019年のVidConでも、チャンネルを生き残らせたいなら、パーソナリティではなくフォーマットを持つことが重要だと話していたそうです。パーソナリティは親近感やロイヤリティを生み、フォーマットはパーソナリティを超えてコンテンツを長生きさせます。
実はGameTheoryの初期は完全なフォーマット型で、マット・パットさんは個人的な話もせず解説に徹していました。その後、パーソナリティを入れることも大事だと理解し、少しずつ自分を出すようになりました。
(YouTubeは)いわゆるあの台本をあの出されて、それをそのまま読むっていう文化ではないですと。
マット・パットさん夫妻の考えでは、YouTubeではパーソナリティを出す必要があるものの、出しすぎるとスケールしにくくなります。パーソナリティドリブンにしすぎるとスケールできないことを、最初から理解しておく必要があるということです。
宮武さんはフォーマット型の例としてDude Perfectも挙げます。トリックショットという型を作り、あるある系のコメディシリーズや、テレビ番組のような「Overtime」でミニコンテンツを試し、次のシリーズ候補を育ててきました。
こうした事例から、宮武さんは今のYouTubeがテレビネットワークのようになりつつあるのではないかと考えています。今後は、タレントを活用し、フォーマットを試し、複数の番組を持つクリエイターが増えるかもしれないという見立てです。
新しい声への交代が成功したのかという草野さんの問いに、宮武さんは、まだ完全に成功したかはわからないと答えました。それでも、今のところ一番のお手本になりそうだといいます。
その全く別の人に入れ替わるみたいなのはあんまり見たことなかったし、なんか見たことあってもあんまりうまくいってないイメージだったので、そこ(GameTheoryの交代)がうまくいきそうなのはちょっと注目ですね。
マット・パットさんは4人に後を託しました。宮武さんは、初期は同じ人気を保てず、1年ほどは苦しむかもしれないとしつつ、長期的に見てもらえるかどうかが一番重要だと話しています。
ルドウィグがチャンネルとは別の会社を作った理由
宮武さんは、数年前は「クリエイタービジネスを作る」ことが話題だったのに対し、今は「スケール可能な会社をどう作るか」を考えるクリエイターが増えていると見ています。これまでは何もかもがクリエイター中心で、クリエイターが辞めれば事業は崩壊してしまうからです。
例えばFeastablesでさえ、ミスタービーストが辞めたら多分今現在ですと、うまくいかないんですよね。
この課題に取り組んでいる1人が、Twitchで配信していたLudwigさんです。Ludwigさんは現在YouTubeで独占配信しており、意図的に2つの会社を作っています。
Ludwigさんのチャンネル用の制作会社。編集者やソフトウェアエンジニア、グッズ担当など、もともと15人ほど
Ludwigさんが投稿しなくなっても生き残れる制作スタジオ。他のクリエイターの番組、ライブイベントの企画運営、ブランドの撮影を担う
Ludwigさん自身、5年後には自分がコンテンツを作っていないかもしれず、そうなれば全員を解雇しなければならないと理解しています。それは嫌だという理由で、すでにチームの一部をOFFBRANDへ移しています。
OFFBRANDはオフィスに撮影セットをいくつも用意し、すぐに撮影できる体制を整えています。クリエイター向けだけでなく、KFCのCMを作るなどブランド向けの仕事もしています。
独占契約に頼らない収益とOFFBRANDの未来
Ludwigさんの2022年の売上は約1300万ドルでした。宮武さんは、その内訳を次のように紹介しています。
| 収益源 | 割合 |
|---|---|
| YouTubeとの独占契約 | 約半分 |
| アドセンス(広告売上) | 15〜20% |
| グッズ販売 | 10〜15% |
| ブランドのスポンサー | 残りの10〜25% |
Ludwigさんは、YouTubeとの独占契約に大きく頼る構造は続かないと理解しています。前週の回で話したように、プラットフォーム側が今後は独占契約をしない方向を示しているため、それ以外の売上を作る必要があります。
OFFBRANDを作った背景には、クリエイターが出るイベントのほうがスポンサー額が一気に上がるという気づきがありました。宮武さんは、普通のチェス大会とクリエイターが出るチェス大会では、スポンサー額が圧倒的に違うという例で説明しています。
Ludwigさんは現在OFFBRANDのCEOですが、自分がCEOでない未来を想定しています。そのため最近、OFFBRANDを株式会社から協同組合に変え、従業員がオーナーになる形にしました。
Ludwigさんには、YouTubeを辞めた後にパン屋をやりたいという明確な夢があります。なぜかフランスか日本でやりたいと話しているそうで、宮武さんは、日本のパン屋で提携したい人はLudwigさんに連絡してみては、と冗談まじりに呼びかけました。
Dude Perfectが子供向けアプリを作った狙い
もう1つの展開として宮武さんが挙げたのがDude Perfectです。2009年4月に最初の動画を出したYouTuberグループで、新メンバーの加入やテーマパークの建設など、次の展開を進めています。
Dude Perfectは去年10月に、動画配信サービスのアプリを出しました。自分たちの動画を早く見られるほか、ボーナスコンテンツ、企画への投票機能、グッズと交換できるポイントなどがあり、アプリは無料です。
宮武さんが特に面白いと感じたのは、今後このアプリで、Dude Perfectが承認した他者の子供向けコンテンツも配信する点です。ファミリーフレンドリーで炎上しないDude Perfectは家族から信頼されており、普通のYouTubeよりも安心して子供に見せられる場所になります。
信頼がそこで活用されるっていう。
宮武さんは、クリエイターが会社を作るだけでなく、信頼をもとにプラットフォームを作るという展開もあるのだと話します。子供向けという特定の層を捉えていることが重要で、広告を出せば子供向け広告の高いCPM ── 広告が1000回表示されるごとの料金。単価が高いほど、同じ表示回数で得られる広告収入が増えますがつく可能性もあると指摘しています。
Dude Perfectのメンバーは大学生のころに始め、今は全員30代です。あと10年同じメンバーで続けるのは厳しいと宮武さんが言うと、草野さんは、お父さんキャラになってもっとファミリーフレンドリーなコンテンツを出せそうだと返しました。
サイドメンとPRIMEに見る「グループ化」と「ブランド化」
宮武さんは、今後、個人クリエイターがグループ化する動きが増えてもおかしくないと見ています。わかりやすい例が、イギリスのYouTuberグループ、サイドメンです。
サイドメンは、個人でもともと成功していた6〜7人のYouTuberが集まったグループです。グループでリーチを広げ、それぞれのオーディエンスに拡散できるうえ、レストランやアパレルショップを出し、一時はホテルを出す話もありました。
宮武さんは、グループであればメンバーの入れ替えが可能なため、グループ化も1つのフォーマットのやり方だと考えています。
クリエイタービジネスの面では、飲料ブランドのPRIMEがわかりやすい例です。ローガン・ポールさんとKSIさんがマーケティングの中心ですが、2人がいなくても成り立つ設計を目指していると宮武さんは見ています。
PRIMEは有名チームのオフィシャルドリンクになったり、ゲータレードやナイキのように多くのアスリートとアンバサダー契約を結んだりしています。宮武さんは、これも持続可能な事業を作るためのフォーマットの1つだと話しています。
跡継ぎに必要な「権力」と「スキル」
宮武さんは、YouTubeに限らず、ビジネスやスタートアップにも最終的に跡継ぎ問題があると話します。草野さんも、楽しくてやっていたものが1つのメディアになり、始める時の気持ちのスタンスも変わってきたと応じました。
スタートアップも、サイドプロジェクトや自分の問題を解決するところから始まることが多く、Facebookも初期は会社ではありませんでした。それでも事業が大きくなれば、失敗しない限り、いつかは創業者が降りなければなりません。
議決権などでカバーできる
会社をリードできるスキルセットを、後継者がちゃんと持っているか
ボツワナとアメリカの「ダイナスティ」
宮武さんが後継ぎの良い事例として挙げたのが、アフリカのボツワナです。ボツワナはアフリカの中でGDPが比較的高く、独立以来、大きな内戦は起きていないと宮武さんは話します。
宮武さんは、政府が安定しているのは、ある程度良いリーダーシップがあるからではないかと仮説を立てます。ボツワナでは投票で次のリーダーを選ぶのではなく、大統領が選んだ副大統領が次の大統領になる仕組みで、君主制に近いといいます。
こうした仕組みを見ると、アメリカ人の多くは「良くない」と感じるだろうと宮武さんは言います。アメリカは国の始まりが革命だったこともあり、人々が新しいリーダーを選ぶというアイデアが好きな国だからです。
しかし宮武さんは、実態は違うと見ています。企業でも次のCEO候補を選ぶのは前のCEOや取締役であり、政治にもブッシュ家やケネディ家、クリントン家のような一族がいます。
宮武さんは、2015年のニューヨーク・タイムズの記事を紹介します。1946〜1964年生まれのベビーブーマー世代の男性が、父親と同じ地位にどのくらいの割合で就いたかを調べたものです。
| 地位 | 一般のアメリカ人と比べた倍率 |
|---|---|
| 大統領 | 約140万倍(該当は1人のみ) |
| 知事 | 約6000倍 |
| 上院議員 | 約8500倍 |
| 陸軍大将 | 4500倍以上 |
| 有名CEO | 1900倍弱 |
| ピューリッツァー賞 | 1640倍弱 |
| グラミー賞 | 1500倍弱 |
| アカデミー賞 | 1300倍以上 |
| ビリオネア | 2.8万倍 |
大統領の場合、この期間に生まれた元大統領の息子13人のうちブッシュ氏1人が大統領になりました。サンプルが1人なので例外かもしれないと宮武さんは断っていますが、知事では息子250人中5人が知事になっています。NBAでも、選手の子供の約45人に1人がNBA選手になっているそうです。
AmazonとAppleが受け継いできたもの
宮武さんは、同じような仕組みは会社でも作れると考えています。血のつながりは必要なく、大事なのは一緒にいる期間の長さだという見方です。それを最も実践しているのがAmazonとAppleだといいます。
Amazonには、ジェフ・ベゾスの直下に15〜22人ほどの経営チーム「Sチーム」があります。ベゾスが退く前の2020年ごろ、Sチームの平均勤続年数は16年でした。
2017年の全社会議では、従業員がベゾスに「なぜSチームは白人男性ばかりなのか」と質問しました。当時は17人のうち女性は1人だったといいます。ベゾスは、全員が長年一緒にいる人たちだと答え、実際にほぼそのとおりでした。
確かに答えになってるのか。
Sチームのもう1つの特徴が、シャドーイングの仕組みです。18〜24か月、ひたすらベゾスと行動を共にするもので、現CEOのアンディ・ジャシーさんも2003年に最初のシャドーを務めました。正式な肩書きは「Technical Advisor to the CEO」です。
シャドーは会社の内部を幅広く知り、CEOの考え方や経営の仕方を学べます。宮武さんは、ベゾスと同じ脳を持つような人を作る狙いだと説明し、この仕組みはAmazonの投資家ジョン・ドーアさんから聞いた、Intelでの同様の取り組みがもとになっているといいます。
Appleにも長年勤める従業員が多く、小さなこだわりや考え方が引き継がれています。宮武さんは、長年一緒にいるからこそ思考が受け継がれることが、Appleのデザインカルチャーが保たれている理由ではないかと見ています。
クリエイターの世界では、MrBeastもAmazonに似たシャドープログラムを行っています。特定の従業員を約2年間付きっきりにし、一時期は同じ家に住まわせていたそうです。
2年間ずっとひたすら一緒にいたら、それは考え方に、同じようになると。で、まあそれによって彼(MrBeast)をいわゆるクローン化できるっていうところで。
宮武さんは最後に、クリエイター業界でもようやくスケールのための跡継ぎが考えられ始めたと締めくくりました。次は、跡継ぎ後の会社がうまくいくのか、どう進化するのかを見ていきたいと話しています。
まとめ
2024年初めに相次いだ有名YouTuberの引退宣言は、多くの場合クリエイター活動そのものの終わりではなく、メインチャンネルからの離脱やスタイルの移行でした。その一方で、マット・パットさんのチャンネル売却やLudwigさんの会社設計のように、本人がいなくても続く事業をどう作るかという問いが、クリエイターの世界でも本格的に考えられ始めています。
- 事前に終わりを告げると、UnusAnnusのように最後の瞬間に視聴者と売上が集中する特別な体験を作れる
- チャンネルを残すには、パーソナリティだけに頼らず、フォーマットやトピックという別のフックを持つことが重要
- LudwigさんのOFFBRANDやDude Perfectのアプリのように、本人抜きでも成り立つ会社やプラットフォームを作る動きが出ている
- 跡継ぎには権力とスキルの両方が必要で、AmazonのSチームやシャドー制度のように、長く一緒にいることで思考を受け継ぐ方法がある





