鉄壁のGoogleが崩れ始めている?
今回のOff Topicのテーマは、検索領域の今後と、検索から多くの流入を得ているメディア企業の行方です。宮武さんは、今のインターネットの構図そのものが検索ありきで作られていると話します。
宮武さんによれば、情報の探し方だけでなく、EC領域の体験も日本やアメリカでは検索ベースで作られています。そのため利用者は、インターネット上では検索を前提にしたマインドセットを持っているのではないか、という見立てです。
なんか、ちょっとGoogleの、鉄壁なGoogleが崩れ始めてるんじゃないかと。なんで、なんか大きなチャンスが訪れる可能性が出てきてますと。
ついに。山が動く時が来るんですかね。
ただし宮武さんは、あくまで「可能性」だと念を押しています。今回はGoogleの現在の動きとメディア企業の未来を扱い、GoogleがAI検索で勝てない可能性については翌週に掘り下げる2回構成だと説明されました。
AI検索の台頭と独占禁止法、Googleを脅かすのはどちらか
検索領域の細分化の兆しとして、宮武さんはまず新しいAI検索エンジンの登場を挙げます。代表例はPerplexity ── 質問に対してリンクの一覧ではなく、出典付きの回答文を返すAI検索サービスを提供するアメリカのスタートアップです。
宮武さんによると、Perplexityは売上がそこまで大きくない一方で、1ビリオンほどの時価総額がついています。OpenAIもGoogleに対抗するAI検索エンジンを出すという噂があるそうです。
Perplexityの強みについて、宮武さんは「テキストを入れてリンクをいっぱい出すのではなく、どういういい回答を出すかを考えている人たち」と説明しました。
それでも宮武さんは、新しいプレイヤーの登場はGoogleがシェアを失う理由の一部にすぎないと見ています。より大きいのは、Googleが築いてきたディストリビューションの優位性が少しずつ切られることだといいます。
GoogleはChromeやAndroidを持つだけでなく、MozillaやAppleにお金を払ってデフォルト検索エンジンの地位を取りに行ってきました。この仕組みが独占禁止法の裁判などで外れる可能性が出てきており、EUではすでに動きがあるため「時間の問題」だと宮武さんは話します。
PerplexityやOpenAIの動きなど、全く違うインターフェースのプロダクトが評価されている。宮武さんは一部の理由と位置づける
お金を払って得てきたデフォルト検索エンジンの地位が、独占禁止法の裁判などで外れる可能性。宮武さんはこちらをより大きな理由と見る
宮武さんによれば、Googleが首位の座を脅かされた時期は過去に2回ありました。1つはDuckDuckGoやBraveなどプライバシー重視のサービスが出てきたとき、もう1つはYelpやTripAdvisorのような特化型の検索が出てきたときです。
どちらもGoogleは勝ち抜いたため、今回も勝つと考えるのは自然です。それでも宮武さんは、マクロ要因を含めて今は「ちょっと危ないタイミング」だと見ています。
自分で好んで使ってたような気がしてたけど、(Googleは)デフォルトにするためにお金払ってたんだみたいな。ちょっとそれなんか消費者的にはちょっとびっくりですよね。
TikTokは検索エンジンになるのか
検索の細分化のもう1つの例として、宮武さんはTikTokを挙げます。TikTokはクリエイター向けの支払いファンドの金額を決める要素に、新たに「検索バリュー」を加えたといいます。
TikTok内ではクリエイターが流行中の検索キーワードを調べられ、それに合った動画を作ると支払いが増える仕組みです。草野さんは、クリエイターにとって何が求められているかがわかりやすい一方で、アルゴリズムファーストだと受け止めました。
本当にプラットフォームが本当に強いですよね。どのクリエイターが抜けたとしても成立するようになってるから、すごく強いし。
宮武さんは、Adobeが今年初めに出したアンケートを紹介します。アメリカ人の5人に2人が「TikTokを検索エンジンとして使ったことがある」と答え、その割合は若い世代ほど高くなっていました。
同じ調査では、X世代は29%でした。またZ世代の10人に1人がGoogleよりTikTokを検索エンジンとして信頼しており、11%のZ世代がChatGPTを使って検索しているといいます。
宮武さん自身は、TikTokはGoogleよりもYouTubeと比べるべきかもしれないとしつつ、信頼するならYouTubeだと答えました。ただし「エビデンス全くないですけど」と、感覚の話であることを添えています。
話は教育にも及びます。宮武さんは、学校の先生側がエッセイの最初の下書きはAIで書かれる前提で動かないといけないのでは、という話を紹介しました。草野さんは、AIを活用するスキルも評価されるべきだとしつつ、自分の力で書く前提なら難しいと悩み、宮武さんも「答えはない」と応じています。
TAC(トラフィック獲得コスト)とは何か
検索の領域が変わるなかで、Googleも検索の戦略を変えざるを得ないと宮武さんは見ています。そこで出てくるのがTAC ── Traffic Acquisition Costの略で、トラフィック獲得コストのこと。広告で稼ぐ企業が、利用者の流入を得るために他社へ支払う費用を指しますという言葉です。
Googleの決算発表にはTACという項目があり、金額が載っています。広告は人が来ないと成り立たないため、ページビューのような流入を稼ぐための追加コストがTACです。
Googleでいえば、Mozillaのデフォルト検索エンジンになるために払うお金がTACに入ります。デフォルトになればそこから流入が来るため、宮武さんは「お金を出してトラフィックを買っている」と表現しました。
宮武さんによれば、OutbrainやTaboolaでもTACは普通に使われる数字ですが、大手テック企業ではGoogleが代表格です。これは、エピソード126で扱った「無料以下のビジネスモデル」、つまり他社にお金を払ってでもデフォルト検索エンジンになる戦略と直結しています。
GoogleのTAC全体は、去年で50.9ビリオンでした。宮武さんは7兆円以上にあたると補足し、そのうち半分以上がAppleへの支払いではないかと言われていると話します。
TACは、Googleの広告売上の21%ちょっとを占めます。支払いは前払いのケースもありますが、レベニューシェアで払うケースのほうがおそらく多いそうです。
裁判でリークした「36%」、GoogleとAppleの蜜月
レベニューシェアの仕組みを、宮武さんはAppleの例で説明します。GoogleがiPhoneやiPadのデフォルト検索エンジンになり、そこで検索した人に広告を出し、クリックで売上が生まれます。その売上の一部を、Appleのデバイス経由だったという理由でAppleに払う形です。
そのレベニューシェアの割合が、裁判中にうっかりリークしてしまいました。口にしたのはGoogle側の証言者で、エコノミストが公開の場で言ってしまったといいます。
その時のGoogleの弁護士の顔を見たかったですよね。
Googleの広告売上の、まあいわゆるAppleデバイスからの広告売上の36パーをAppleに支払ってますと。
宮武さんによれば、Googleが公開したくなかった理由の1つは、この割合からGoogleがAppleデバイスでいくら稼いでいるかが推測できてしまうことです。噂では、GoogleはAppleに毎年18〜20ビリオンほど払っています。
Appleへの支払い
噂ベースで年18〜20ビリオンUSD(約3兆円)
レベニューシェア率
Appleデバイス経由の広告売上の36%
Appleデバイス経由の売上
逆算すると年55〜60ビリオンほどの広告売上
Google全体での比重
2023年の全体売上300ビリオンちょっとのうち約20%
いや、そんなに。やっぱ世の中ディストリビューションなんですね。ちょっとショックだな。
アメリカ政府はこのTACの数字を強く気にしています。Googleが去年受けた訴訟でも、デフォルト検索エンジンにこれだけお金をかけるのは、製品の優位性ではなくお金で競合を潰そうとしているのではないか、と政府側は主張していました。
草野さんが「その2社には入り込めない」と言うと、宮武さんは「誰も3兆円払えないですから」と応じています。
TAC2.0、トラフィックから学習データの獲得へ
独占禁止法の裁判が進む一方で、GoogleはOpenAIなどに押され、よりAI中心の検索エンジンを出すプレッシャーを感じています。政府に注目されている以上、デフォルトの地位にさらにお金を出すのは難しいと宮武さんは言います。
そこで宮武さんが紹介するのが、Social Capitalのチャマスさんが話していた「TAC2.0」の時代という考え方です。
Traffic Acquisition Cost。Googleが自社資金で何千億〜何兆円を使い、検索のディストリビューションを勝ち取る
Training Acquisition Cost。いいAI検索エンジンを作るために、独自データを獲得するコストに大量のお金を出す
TAC2.0の支払い先はAppleではなく、おそらくニューヨークタイムズのようなコンテンツ会社だと宮武さんは見ています。AIモデルにコンテンツを学ばせるため、ライセンスを獲得しに行くという構図です。
Googleはすでにこの動きを始めています。上場したRedditは広告売上が800ミリオンほどでしたが、上場申請書のS1には、3年間で合計200ミリオンほどのAIデータライセンス契約を結んでいると記されていました。
相手はGoogleで、年間60ミリオンほどを払ってRedditのデータをAIモデルのトレーニングに使います。草野さんがユーザーへの還元はあるのかと尋ねると、宮武さんは今のところRedditにその動きはないと答えました。
OpenAIもAP通信やアクセルスプリンガー ── ドイツに本拠を置く大手メディア企業。新聞や、アメリカのPoliticoやBusiness Insiderなどを傘下に持ちますと提携しています。Appleもコンデナスト、NBC、IACなどに複数年契約を出していて、合計で少なくとも50ミリオンほどになるという噂があるそうです。
消費者にとっての価値について、宮武さんはChatGPTでニュースについて質問したとき、アクセルスプリンガーの記事をソースとして出してくれることだと説明します。草野さんは、1社がすべての媒体と組めば独占になると懸念しました。
宮武さんも、独占契約かどうかが重要になると話します。お金を持つGoogleが全ニュース企業と独占契約すれば、OpenAIなどの競合はかなり苦しむため、TAC2.0の世界ではそうした戦いになる可能性があるといいます。
受け取る側から見ると、ユニークなデータを持つ起業家なら、それをMetaやOpenAI、Googleに売ることが1つのマネタイズ戦略になるかもしれない、と宮武さんは話しました。
あなたのコンテンツの価値はいくら?
どんなデータが売れるのかという草野さんの問いに、宮武さんはコンテンツの価値、特に古いコンテンツの価値がどれくらいあるかが議論のポイントになると答えます。宮武さん個人は、より新しいコンテンツのほうが価値が出る可能性があると見ています。
(Redditが)お金もらってるっていうところは、なんか一部は過去データだと思うんですけど、どちらかというと、毎日ユーザーがどんどん新しいデータ作ってくれるところに対して評価されてるんじゃないかと。
草野さんはRedditのデータがオープンなコミュニケーションである点を挙げ、宮武さんもリアルタイム性があるものが多いと付け加えました。
宮武さんの予想では、今は大型提携の段階でも、いずれ小さめのクリエイターやメディア向けに、自分で申請・登録してデータを提供し、その代わりに少額を受け取るセルフサーブの仕組みができるかもしれません。検索1.0の時代に、各サイトがGoogleに広告運用を任せた仕組みに似ているといいます。
たとえばOff TopicがGoogle Geminiのサイトでポッドキャストのデータを提供し、少しだけお金をもらう、という形です。ただし宮武さんは、小さめのコンテンツの評価方法がとても難しいと指摘します。
(OffTopicのデータに)我々がその、毎月1ドルもらうべきなのか、100ドルもらうべきなのか、10万ドルもらうべきなのかって、なんかわからない。
AI検索の回答は多くのデータをもとに作られるため、自分のデータがどれだけ参照されたかを計算しなければならない、と宮武さんは言います。「TAC2.0を解説して」と聞かれて少しだけOff Topicが引用される場合、それをどう評価するのかは難しい問題です。
さらに、個別のクリエイターには自分のデータを売るかどうかの権限がない可能性もあります。Redditのように、プラットフォーム上の投稿が利用者の知らないところで売られるケースです。
そのため大型クリエイターを中心に、プラットフォームを使わなくなったり、オプトアウトしてデータをプライベート化したりする動きが出るかもしれない、と宮武さんは見ています。
トラフィック保証からライセンス契約へ、相場はまだ誰も知らない
宮武さんは、TAC1.0と2.0の大きな違いを「売上の確実性」に見ています。iPhoneのデフォルト検索エンジンになればほぼ確実に流入が入り、売上になります。
一方、ニューヨークタイムズと提携しても、流入元が増えるわけではなく、トレーニングデータの精度が上がるだけです。そのため必ずしも売上にはつながりません。
デフォルトの地位を得るための支払い。トラフィックがほぼギャランティーされ、ほぼ確実に売上になる
学習データを得るための支払い。精度は上がるが流入は増えず、必ずしも売上につながらない
このため契約の形は、Netflixなどの動画配信サービスが行ってきたIPのコンテンツライセンスに近くなるかもしれません。RedditのようなUGCプラットフォームなら追加のサブスク的な支払いや、出現率に応じた支払いもありうると宮武さんは話します。
宮武さんは、Redditの「年間60ミリオン固定」の契約はまだ試しの段階で、どちらかが失敗したと思う可能性が高いと見ています。Googleは意味がなかったと感じるかもしれず、Redditはもっと高く売れたと感じるかもしれません。
もしかしたらRedditとしては、いや、もっと本当は自分のコンテンツの価値が高かったので、本当はもっと100ミリオンとか200ミリオンで売れたんじゃないかなって思ったりするかもしれないですよね。
爆発するデータ量と、Xやテスラの独自データ
宮武さんが確実に言えるとするのは、古いデータの価値はどんどん下がっていることです。2017年の数字で、人間は1日2500ペタバイトのデータを生み出しており、YouTubeだけで1日2ペタバイトほどとされます。
データの生産量はほぼ毎年増えています。全データが同じ価値だとすれば、量が増えるぶん1データあたりの価値は下がる、というのが宮武さんの理屈です。
一方で、毎日生まれる2500ペタバイトの半分ほどは記録用ファイルなどでそもそも使われていません。残り半分の多くもオープンインターネット上にはなく、ダークウェブなどに存在するため、学習に使えるデータはまだ多くあるといいます。
今はどのデータに価値があり、いくら払うべきかを探っているフェーズだ、と宮武さんはまとめました。
草野さんがXはどこかと提携しているかを尋ねると、宮武さんはXはすでにxAIの配下にあり、どこにも行かないと答えます。Xのデータにテスラの現実世界のデータを加えた2つの独自データを、イーロンさんが握っている点を「強い」と評価しました。
メディアの価値は下がり、地方紙は上がる?
メディアのコンテンツ価値をめぐる議論は昔からある、と宮武さんは言います。数年前はメディア企業同士の買収が相次ぎ、BuzzFeedは2021年にComplex Networksを300ミリオンで買収しました。ベゾスさんによるワシントンポスト買収の話も出ました。
2021年、BuzzFeedがComplex Networksを300ミリオンで買収
今年、BuzzFeedがComplexの資産のほとんどを108ミリオンで売却
宮武さんは、当時の評価は当時としては正しかったとしつつ、今はComplexのコンテンツとしての価値がそこまでないと見ています。今後は長期的な価値のあるコンテンツと、新しいコンテンツを作れる母体がより評価されるだろうといいます。
宮武さんがアメリカで期待する変化は、ローカル紙や地方紙の価値が上がることです。ニューヨークタイムズや大手テレビ局のニュースも、裏方のソースは地方紙であることが多いため、AI企業が地方紙と直接提携してお金を払うほうがよい場合もあるかもしれません。
草野さんは、ファンが作るコンテンツにも注目します。アメリカのFamous Birthdays、韓国のナムウィキ ── 韓国で広く使われているユーザー参加型のオンライン百科事典。芸能人や文化に関する細かな記述が多いことで知られますのように、呼ばれ方、性格、ミーム、余談、写真まで集まったページは、リアルタイムに変化するコンテンツとしてさらに評価されるのでは、という見方です。
宮武さんは、こうしたページは従来は広告や寄付で成り立っていたが、AIの学習データを提供する形で追加のマネタイズが可能になるかもしれないと応じました。
プラットフォームに踊らされるメディア、連盟で対抗できるか
難しいのは、この仕組みでプラットフォーム側がさらに強くなることだと宮武さんは言います。Googleが特定のメディアにはお金を出し、別のメディアには出さないことで、潰れるメディア企業が出てくる可能性もあります。
いや、本当にアルゴリズムファーストになっていくじゃないですか、どんどん。
草野さんは、Googleのスンダー・ピチャイCEOとAppleのティム・クックCEOが食事する昔の写真が最近話題になったことにも触れ、お金を払わなくてもGoogleは好きだから使う、と率直に語りました。
宮武さんが恐れるのは、提携先を選べるプラットフォームが「勝者を決められる立ち位置」にいることです。対抗策のヒントとして、宮武さんは音楽業界を挙げます。レーベル各社がほぼ連携しているため、1社ではなく3社全員と提携しなければならない雰囲気があるといいます。
同じようにメディアやニュース企業が連盟を作り、Googleに全員と提携するよう求める形もありうる、と宮武さんは話します。Googleにとってはより多くのお金が必要でメリットは薄いものの、ニュース企業側には「全員死なない」というメリットがあります。
データが足りなくなったら合成すればいい?
TAC2.0の案件が増えれば、インターネット上のデータは「これはGoogleのもの」「これはOpenAIのもの」と囲い込まれていく、と宮武さんは予想します。そこで面白い対策案として挙げたのが合成データ ── 現実の記録ではなく、AIやシミュレーションなどで人工的に作り出したデータ。AIの学習データ不足を補う手段として研究されていますです。
買い取りでも独自データが足りなくなれば、プラットフォームは自らデータを合成しなければならない時代が来るのでは、という見方です。草野さんは「メディアはもう駒ですね」と嘆き、連盟で団結しなければと応じました。
宮武さんによれば、GPT-4がGPT-5を設計できないか、人間のフィードバックをAIが担えないか、といった点は長く議論されてきました。1〜2年前はAIの出力を再び学習させても意味がないという声が多かったものの、徐々にできるのではという発言が増えています。
例として、OpenAIの動画生成サービスSoraは、Unreal Engineなどで作ったゲーム世界のような3D仮想空間を学習データの一部にしたのではないかと言われています。Google DeepMindも、合成トレーニングデータを使ったAIシステムを論文で出しました。
合成データが使えるなら、データは無限に生み出せることになり、メディア企業にお金を一切出さなくてよくなるかもしれません。ただし宮武さんは、信頼できるデータやニュースに関するデータはAIが合成できないため、一部は払い続けるはずだと付け加えています。
検索流入が25%減る? Gartner予想とメディアの打撃
メディア企業へのさらなる悪いニュースとして、宮武さんはリサーチ企業Gartner ── アメリカのIT分野を中心とする調査・アドバイザリー企業。技術動向の予測レポートで知られますの予想を紹介します。2026年までに、AIチャットボットやバーチャルエージェントに押されて従来型検索エンジンの検索ボリュームが25%下がるというものです。
ただ宮武さんによると、Gartner関係者へのインタビュー記事を読むと、25%は科学的に出した数字ではなく、雰囲気的にそのぐらいだろうという考えだったそうです。それでも宮武さんは、検索ボリュームが下がる可能性自体は大いにあると見ています。
ニュースメディアにとって検索流入の比重は大きく、宮武さんはいくつかの数字を挙げました。
| メディア | 検索流入の割合 | 補足 |
|---|---|---|
| BuzzFeed News | 31% | オーガニック検索から。現在は閉鎖 |
| ニューヨークタイムズ | 32% | 大手紙でもこの水準 |
| ウォール・ストリート・ジャーナル | 25% | 大手経済紙 |
| Parsely調べの平均 | 29% | 約2500のメディアブランドが対象 |
検索流入が落ちれば広告売上が下がり、トラフィックに依存するコマースやアフィリエイトの売上も下がります。OpenAIとの提携などである程度は補えても、それだけでは足りないかもしれず、より多くのメディアがサブスクに移るのでは、と宮武さんは予想しました。
草野さんは「10年後、ニューヨークタイムズがクロスワードしか出さないサブスクになっていたら」と冗談を飛ばし、宮武さんは「Wordleだけが残るみたいな。あれはいい買収だったなっていう」と返しています。
サブスクが売っているのは「未来」
宮武さんは、広告モデルとサブスクモデルでは売っている商品が違うと説明します。CNNのような広告型メディアは、トラフィックを集める記事を出し、その記事で広告売上を得る構図です。
サブスクになると一つの記事じゃないんですよね。で、過去データでもないんですよ。サブスクの、あの、根本的な商品っていうのは未来を売ってるんですよ。
宮武さんは、GoogleがRedditに60ミリオンを払う理由も同じだと見ています。ユーザーが作り続けるコンテンツが重要だからこそお金を払っており、未来のコンテンツにお金を払うという点で、サブスクとTAC2.0の理論はよくフィットするといいます。
背景には、AIモデルがリアルタイム情報のアップデートを苦手としていることがあります。ChatGPTが一定の日付までしか学習していないと不満を持たれたように、リアルタイム性のあるTwitterのデータには価値があるわけです。
さらにAIの出力が増えるほど、他のAIチャットボットが作っていない新しい情報、つまり人間や特定の組織が作った信頼できるソースのデータの価値が上がる、と宮武さんは予想しました。
ペイウォール崩壊、そもそもPMFしていないのでは
ところが現実のメディア業界は、宮武さんの予想とは逆に、サブスクから離れつつあります。5〜7年ほど前からニューヨークタイムズを代表格にサブスクへ寄せるメディアが増えましたが、去年と今年はサブスクをやめたり形を変えたりする例が増えています。
- TechCrunchが有料サービスのTC+をシャットダウン
- ワシントンポストがサブスク価格のダイナミックプライシング化を検討
- Timeがデジタルのペイウォールをなくし、完全に広告型へ
- Quartzがペイウォールを下げ、メンバーシップモデルへ
- Atlanticが一部の記事だけをペイウォールに
- Gannettがペイウォール記事を減らし、広告売上の強化へ
さらに、広告を出さないと言い続けてきたSubstack ── 書き手がニュースレターを有料・無料で配信できるプラットフォーム。読者の購読料を収益の柱にしてきましたも、クリエイターが広告主を探せる機能の検証を始めたといいます。
宮武さんは、多くのメディア企業が自分のコンテンツに合うビジネスモデルを探しているものの、根本の課題はそこではないと指摘します。ビジネスモデルが合うかどうかの前に、そもそもPMF ── プロダクトマーケットフィットの略。製品やサービスが、市場の需要にしっかり合っている状態を指しますしているかどうかに立ち戻るべきだという考えです。
コモディティか希少性か、自分の記事を検索してみる
宮武さんによれば、インターネットによって情報の価値は両極端に分かれました。希少性のある情報は価値が大きく上がり、コモディティ化した情報はほぼゼロに近い価値になったといいます。
同じ内容を書いても地域ごとに配信網が分かれていたため、情報はコモディティ化していないように見えた
誰でも全員にばらまけるようになり、メディアは配信を独占できなくなった。コモディティな情報は価値を失い、希少な情報の価値が高まった
そのため宮武さんは、メディア企業がまず自問すべきなのは、自分たちのコンテンツがコモディティなのか希少なのかだと話します。コモディティ化していれば、おそらくサブスクには向きません。
草野さんが、ペイウォールに当たったら別の言葉で検索して無料の記事を読んでしまう、と話すと、宮武さんはそれこそが検証ポイントだと応じました。
宮武さんは、Off Topicも含めて、コンテンツは思った以上にコモディティ化すると認めます。AI時代にはその傾向がさらに進み、コモディティなコンテンツにはお金が払われにくくなります。
草野さんは、みんなが話題にしているニュースも必要ではないかと問いかけ、いいインサイト、即時性、ネームバリューのあるメディアが勝つのかと尋ねます。宮武さんは同意し、ニューヨークタイムズのサブスクが成り立つのは、ニュースそのものより、インサイトや信頼にお金が払われているからだと説明しました。
SEOから解放されたら、記事の読書体験はどう変わる?
明るい話として、宮武さんはメディア企業にとっての大きなチャンスを挙げます。これまでニュース企業は検索ありきでサイトを作り、記事もSEOに合わせてきましたが、AI検索が増えればSEOの重要度は下がるかもしれません。
そうなれば、記事の体験そのものを変えられるのでは、というのが宮武さんの考えです。最近ではフィナンシャルタイムズが、過去記事をもとに質問できるチャットボットを出しています。宮武さんはそれが正解だとは思わないとしつつ、検証を始めたプレイヤーの例として挙げました。
宮武さんは、メディア企業の仕事を3つのレイヤーに分け、それぞれにAIが加わると見ています。
制作
いいコンテンツを作る。AIがリサーチを手伝い、Googleのニュース企業向けツールのように最初の下書きを作る
発見
ユーザーがサイトのフィードで記事を見つける。時系列順から、TikTokやArtifact風のAIフィードへ
読書体験
記事をクリックして読む。宮武さんが最も変えられると見る部分
読書体験の例として、宮武さんはArtifactや、ページをつまむと要約が出るブラウザArcの機能を挙げます。ただ要約は序盤にすぎず、深掘りしたいときには関連情報が次々に出てきたり、3分しかないと伝えれば要約とエッセイの中間くらいの長さにしてくれたりする形を想像しています。
動画やスライドショーへの変換も含め、どんな受け取り方にもできるようになるのでは、と宮武さんは話します。草野さんも、15分のニュースを3〜5分ずつ音声で聞けたら便利だと共感しました。
(Artefactは)サマリー読むのもなんか「絵文字多めで」とか、あとなんか音声で読むのもなんか「スヌープ・ドッグの声にしてほしい」とか、なんかいろいろカスタマイズができて、なんかそれはなんか体験が変わったなって感じはしました。
宮武さんは、気になる記事にチェックだけ入れておくと、後でニュースレターや動画ダイジェストなど好きな形式で届く、といったUIもありうると話します。ライターや編集者はどうなるのかという草野さんの問いには、ライターはベースの部分に関わり、深掘りでは他のライターの名前が出てくるかもしれないと答えつつ、自分もまだ考え抜いていないと認めました。
宮武さんは、こうした体験を提供できるのはSEOにこだわらなくてよくなるからだとまとめています。
宮武さんが求める情報収集と、来週のイノベーターのジレンマ
草野さんは、情報収集量の多い宮武さんに、理想の体験を尋ねます。宮武さんは、どんどん深掘りしたいのに、毎回別のページへ行くのが面倒だと答えました。
例えば今回ですと、このTAC2.0っていうアイデアって、なんか他の、チャマスさん以外に何か言ってる人っていないのかって調べたりしてるんですよ。
宮武さんは、記事への反論を書いている人や、同じアイデアについて別の人の意見を見たいものの、なかなか出てこず、別の方法で調べていたといいます。そうした深掘りができるニュース体験を見てみたいと話しました。
締めくくりとして宮武さんは、インターネットの根本が検索である以上、検索が変わればインターネットのあり方が大きく変わる可能性があると強調します。AI検索の結果やマネタイズは、まだ議論が必要なポイントです。
AI時代でもGoogleは勝つと考える人は多く、AI検索での広告数は通常の検索と大きく変わらないため広告売上も影響されにくい、と見るアナリストもいるそうです。それでも宮武さんは、ディストリビューション、DeepMindなどの人材、大量のデータを持つGoogleでも、かなり苦戦すると見ています。
理由は、イノベーターのジレンマ ── 成功している企業ほど既存事業を守ろうとして、それを脅かす新しい技術への対応が遅れるという考え方。クレイトン・クリステンセンが提唱しましたに関わる根本的な問題が2つあるからだといいます。10個のリンクを並べる「テンブルーリンク」モデルとAI検索の違いにGoogleがどう対応するかは、翌週のテーマとして予告されました。
まとめ
今回のエピソードでは、Googleが検索の地位を守るために払ってきたTACが、AI時代には学習データを獲得するための支払いへ変わる可能性が語られました。その変化はメディアにとって新たな収入源になりうる一方で、プラットフォームへの依存、相場のわからないデータの価格、検索流入の減少といった課題も示されています。宮武さんは、ビジネスモデルの前にコンテンツが希少かどうかを問うべきだとし、SEOに縛られない読書体験の変化に可能性を見ています。
- GoogleはAppleデバイス経由の広告売上の36%をAppleに支払っており、TAC全体は去年で50.9ビリオンに上る
- チャマスさんの「TAC2.0」は、トラフィック獲得から学習データ獲得へと支払いの目的が移るという考え方で、Redditとの年60ミリオンの契約がその例とされる
- コンテンツの評価方法や相場はまだ定まっておらず、新しくリアルタイム性のあるデータほど価値が高まると宮武さんは見ている
- サブスクは「未来のいいコンテンツ」を売るモデルであり、コモディティ化したコンテンツには向かない
- SEOの重要度が下がれば、長さや形式を自在に変えられるAI時代の読書体験をメディアが提供できる可能性がある





