19年目のYouTube、5年後の主戦場はテレビ画面?
YouTubeは立ち上げから19年がたちました。宮武さんは、長い歴史のなかでプロダクトも大きく変わってきたからこそ、YouTubeの現状を改めて整理するべきだと話します。
YouTubeのCEOは、ニール・モハンさんに交代しています。モハンさんは毎年初めに前年の振り返りと注目トレンドを発信しており、そこで「5年後のYouTubeではテレビ画面での視聴が増えていく」という見通しを書いていたといいます。
宮武さんによれば、YouTube内で最も早く伸びているデバイスはすでにテレビです。YouTube側の情報では、グローバルで1日10億時間分のYouTubeコンテンツがテレビ上で見られています。
アメリカでは、視聴率調査会社のニールセン ── テレビ視聴率などを測定するアメリカの調査会社。広告取引の基準となるデータを提供していますの調査で、テレビ上で最も視聴されている動画配信プラットフォームとして、YouTubeが過去12ヶ月連続でトップになっています。直近の数字では、YouTubeが8.6%、Netflixが7.9%です。
テレビ画面での視聴が自分のチャンネルの半分を超えるトップクリエイターの数は、過去3年で400%ほど増えたそうです。宮武さんは、子ども向けコンテンツが特にテレビにフィットしているのではないかと見ています。テレビでShortsを見る人も増えているといいます。
草野さんは、日本でもFireTVやスマートテレビでYouTubeを見る人が多いと感じているそうです。
テレビ放送もケーブルも、YouTubeが束ねる日
草野さんが「スマートテレビのアプリ一覧からYouTubeを選んで見るのと同じか」と尋ねると、宮武さんは「今はそうだ」と答えたうえで、YouTubeの今後の戦略に話を広げます。
宮武さんによると、アメリカのテレビ視聴時間のうち、テレビ放送が24%、ケーブルテレビが28%弱を占めています。下がってはいるものの、まだ巨大なビジネスです。例えばディズニーは直近の四半期にテレビネットワーク事業で約30億ドルを売り上げ、そのうち約12億ドルが営業利益でした。赤字の動画配信事業より、はるかに利益率が高いといいます。
そこで宮武さんは、YouTubeが最終的にはこの領域をすべて取りに行き、テレビ放送もケーブルテレビもバンドル化して流すのではないかと予想します。草野さんも、そのほうがザッピングしやすく見やすそうだと応じます。
結局彼ら(YouTube)からすると、テレビ画面をどんどん支配していくと、そこの広告スペースをどんどん取りに行けるので。
宮武さんは、テレビを見ながらスマホを触る人が多い点にも注目します。スマホでShortsを見ながらテレビでYouTubeを見る状況が生まれれば、どのユーザーがどのデバイスで何を見ているかがわかり、コンテンツや広告の連携ができるようになるからです。
草野さんは、YouTubeはNetflixより見始めるハードルがいい意味で低く、いろいろなものがあるからつい見てしまうと話します。宮武さんは、アメリカのテレビ業界はNetflixに気を取られてYouTubeを少し侮っているように感じるといいます。
でもおそらくもっと怖い、手強いプレイヤーってYouTubeだと思うんですよね。
宮武さんの見立てでは、Netflixの映画やテレビ番組には競合が多い一方、YouTubeが持つUGC ── User Generated Contentの略。一般ユーザーが制作・投稿したコンテンツのことですのライブラリーに似たものを持つ会社はほぼありません。
アグリゲーター構想とPrimetime Channels
YouTubeのチーフビジネスオフィサーは過去の決算発表で、いろいろな種類の動画コンテンツをまとめたプラットフォームになりたいと話していたそうです。だからこそYouTubeは、テレビより先にYouTube MusicとPremiumから始め、その後テレビへ拡大したと説明しているといいます。YouTube MusicとPremiumは最近、登録者が1億人を超えました。
宮武さんは、YouTubeがテレビの領域で目指すのは、動画のアグリゲーター ── 複数の提供元のコンテンツや商品を1か所に集めて提供する事業者のことですになることだと考えています。その動きはすでに始まっています。
YouTubeのPrimetime Channelsという機能では、他の動画配信プラットフォームをYouTubeから視聴できます。追加課金は必要ですが、例えばYouTube Premiumと一緒にParamountを見られるような、バンドル化した形です。
宮武さんは、Amazonも似た提携をしているとしつつ、YouTube自体のコンテンツが特殊なため、YouTubeは優位なポジションにいると見ています。
NFL日曜の放映権に年間20億ドル、なぜ払う?
最近のYouTubeの動きで、テレビ戦略がより明確になった例として、宮武さんはアメリカのアメフトリーグNFLの日曜日の放映権獲得を挙げます。過去にはAppleがMLSやMLBを、AmazonがNFLの木曜日の放映権を獲得しています。
草野さんは、似たようなアルファベット3文字のリーグと曜日が並び、どこがどれを取ったのか土地勘がないと混乱すると笑います。宮武さんによれば、その中でもアメフトの日曜日は一番人気の枠です。
YouTubeが払っている額は年間20億ドル。7年契約なので、合計140億ドルをコミットしています。
提携発表時には多くのメディアが「払いすぎだ」と批判し、YouTubeがAmazonやAppleにキャッチアップするためならいくらでも出すのかという論調もあったそうです。宮武さんも、単体でROI ── Return on Investmentの略。投資額に対してどれだけの利益が得られたかを示す指標ですが合うかはわからないとしています。
一方で宮武さんは、アメリカの過去のテレビネットワークの普及や人気の成長を見ると、裏にはいつもスポーツがあったと指摘します。草野さんも、日本のテレビ普及でも同じだったのではないかと応じます。
スポーツはリアルタイムで見るべきもので、人が集まりやすい一大イベントになります。宮武さんは、スケジュールが立てやすく年に何度も開催される点も、ユーザーを引き寄せ、リテンションを高めるうえで良い戦略だと話します。
FOXの前例、赤字の放映権が「格」を生んだ
宮武さんが引き合いに出すのが、アメリカのテレビ局FOXの歴史です。かつてアメリカにはNBC、CBS、ABCの三大テレビネットワークがあり、FOXは4社目として割って入ろうとしても、なかなか入れませんでした。
そこでFOXのトップだったメディア王ルパート・マードック ── オーストラリア出身のメディア経営者。新聞やテレビなど世界各地のメディアを傘下に収め、FOXを築いた人物ですは、巨額の資金を払ってNFLと契約しました。その結果、FOXは三大ではなく「四大テレビ局」の一角になったといいます。
参入の壁
三大ネットワーク(NBC・CBS・ABC)に4社目として入れない
巨額契約
マードックが大金を払ってNFLの放映権を獲得
赤字でも信頼
放映権料のリターンは出なかったと見られるが、局の信頼が高まる
四大テレビ局へ
FOXが四大ネットワークの一つとして認知される
宮武さんは、FOXがNFLに払った額はおそらくリターンが全く出ず、むしろ大きな赤字だったと見ています。それでも「NFLを獲得できるほどのネットワークなんだ」と見られたことで、FOXは信頼を得ました。
宮武さんは、YouTubeも似たことをしている可能性があると考えています。YouTubeはテレビの領域をある程度優先し、真剣に拡大しようとしているというのが、このパートの結論です。
ライブ配信は後回し?YouTubeの不思議な領域
ライブ配信は、宮武さんいわくYouTubeにとって不思議な領域です。個人的な予想として、YouTubeはこれからライブ配信のシェアを取っていくと考える一方、YouTube自身がそれを積極的に取りに行っているようには見えないといいます。
YouTubeのライブ配信プロダクトはまだ未熟で、競合のTwitchと比べて劣っている部分が多く、改善のペースも遅いそうです。草野さんが「あまり努力していなさそう」と言うと、宮武さんは、YouTubeの中の人ではないのでわからないとしつつ、そうだと思うと答えます。
具体例として宮武さんは、去年末時点の仕様を挙げます。12時間以上ライブ配信できないことに加え、6時間以上配信すると配信内容を編集できませんでした。
その著作権NGな曲がたまたま流れてしまった時点で、もうマネタイズ一切できなくなるっていう。
宮武さんは、ライブ配信が後回しになるのはある程度仕方ないと見ています。今のYouTubeの優先順位はShortsと、YouTubeを人気にさせたロングフォームの2つにあり、そこに気を取られればライブ配信は後回しになるからです。
草野さんは、ライブ配信はお金になりそうだと話します。特に日本やアジアではスーパーチャットを受け取る配信者が多いので、そこを改善すればYouTube側にもメリットがありそうだといいます。宮武さんも、ショッピングなどはライブ配信につながりやすいと認めつつ、新機能はやはりShortsやクリエイターのマネタイズ関連が多いと話します。
ストリーマー独占契約の時代はなぜ終わる?
ライブ配信の世界では、配信者を独占契約で囲い込む時代が終わりつつある、と宮武さんは見ています。かつてはMicrosoftがMixerを立ち上げた際に、Fortniteの人気配信者Ninjaと独占契約を結んだ例がありました。
最近では新興のライブ配信プラットフォームKickが、Twitchで人気だったxQcなどを引き抜いて独占契約を結んでいます。草野さんによれば、バズったDrakeの配信動画もKickからだったそうです。YouTubeも、シェア1位のTwitchから視聴者を引っ張るため、似たことをしていた時期がありました。
しかし最近はこうした契約があまり出てきていません。Twitchで女性配信者として最もフォロワーが多かったとされるPokimaneさんは、Twitchでの配信をやめて他のプラットフォームに移ると発表した際、独占契約のオファーは来たものの締結しないと話しました。
Pokimaneさんは、Twitchを離れた理由をポッドキャストで語っています。宮武さんが特に面白いと感じたのは、そこで明かされたTwitchの独占契約の中身です。
| 項目 | 契約の内容 | 配信者に起きたこと |
|---|---|---|
| 配信時間 | 毎月の最低配信時間が決められている | 9時5時の仕事のように感じてしまう |
| 時間の決め方 | 同じ規模の配信者でも、過去の配信実績によって最低時間が変わる | 人によって条件が異なる |
| 広告 | 1時間おきに何回広告を読む・出すといった条件がある | ネタがなくてもとりあえず配信する人も出る |
草野さんは、クリエイターとの契約形態は難しいと話し、コンテンツ制作費なのか移籍金なのかと問います。宮武さんは、独占配信契約は「例えば毎月50時間配信したらこれだけ払う」という、配信を続けてもらうための契約だと説明します。
草野さんは、Spotifyのポッドキャストも初期よりフレキシブルになり、選択肢が増えたと指摘します。宮武さんも、似たことがライブ配信業界で起きていると応じます。
プラットフォームが払えない、Twitchの台所事情
宮武さんによれば、最後に大きな独占契約を結んだのはおそらくKickとxQcです。YouTubeは契約更新はしているものの、更新期間は従来の2年から1年に短くなり、次は更新しないとYouTube側が伝えているそうです。新規の独占契約は、おそらく2022年が最後です。
Twitchも最近は、他のプラットフォームでの同時配信を認める契約を結び始めています。宮武さんは、こうした変化の理由を単純にエコノミクスの問題、つまりプラットフォーム側にとってペイしないからだと見ています。
宮武さんの話では、Twitchは創業以来一度も黒字化していないとされ、Amazonが買収後も投資を続けてきました。しかし金利環境が変わり、Amazonにもプレッシャーがかかるなかで、Twitchは黒字化を急いでいます。
具体的には、Twitchは去年末に韓国でのサービス提供を停止し、今年1月には500人ほど、従業員の約35%をレイオフしました。コストカットのさなかに、ストリーマーへ巨額の前払いを出せる状況ではない、というのが宮武さんの見方です。
草野さんは、ある配信者がどこへ移るかで業界が変わるような状況は、クリエイターがいい意味で自由になったことで、もう起きなさそうだと話します。宮武さんも、1つのプラットフォームに縛られるとユーザー獲得がしにくくなるため、TwitchとYouTubeの両方で配信できれば新しい層に届き、マネタイズも良くなると補足します。
YouTubeがTwitchを超える環境が整ってきた?
宮武さんは、Twitchがコストカットで独占契約を結べなくなり、多くの配信者がYouTubeでも配信し始めた今、ようやくYouTubeがTwitchを超えられる環境ができてきたと見ています。ただし視聴時間では、TwitchはYouTube Gamingの約4倍とまだ大きな差があります。
もう1つの要因として宮武さんが挙げるのが、Twitchの支払いシステムの変更です。70対30のレベシェア ── レベニューシェアの略。売上を当事者間で決められた比率で分け合う仕組みですを打ち出した一方で、一部の売上は視聴者がいる地域によって支払いが変わるようになりました。
アメリカの視聴者が多い配信者はほぼ変わらないか、少し上がる可能性もあります。一方で、ヨーロッパやアフリカ、アジアなどの視聴者が多い配信者は、おそらく今まで以上に稼げなくなると宮武さんは話します。
すでにYouTubeへ移ってうまくいった例も出ています。Twitch出身でYouTubeと独占契約を結んだLudwigさんは、同時接続数ではTwitchのほうが少し高かったものの、アップロード動画の再生回数で大きな差が出ました。
Ludwigさんの通常動画はTwitchで約50万回再生。Moistcr1tikalさんの同時接続数は8000〜1万強
Ludwigさんの通常動画はYouTubeで約100万回再生。Moistcr1tikalさんの同時接続数は1.5万〜2.5万に
宮武さんは、人によってはYouTubeに移ったほうがより多くのオーディエンスに届く状況になり、ようやく業界が動き始めたと話します。
ライブ配信の広告はなぜ弱い?
宮武さんは、ライブ配信では今後広告の扱いを変えていく必要があると指摘します。YouTubeの通常の動画と比べて、ライブ配信は広告連携がとても弱いからです。
マネージャーに言われた文面を、クリエイターがそのまま読み上げることが多い。そもそも本人がそのブランドを使っていないことも多い
ブランドスポンサーの広告を、ストーリーの中でうまく連携させて出すように変わってきた
草野さんも、通常動画では広告の見せ方がクリエイターごとに違うと応じます。宮武さんは、ライブ配信でも連携の工夫をしない限りコンバージョン率に大きな差が出て、ライブ配信に広告を出したくないブランドが増えてしまうと見ています。逆に、広告連携が上手なライブ配信者がいれば、そこに予算が集まるだろうといいます。
ただしプロダクトとしては、まだTwitchが好まれています。Ludwigさんが世界のトップ配信者約30人にどのプラットフォームが一番いいかアンケートを取ったところ、28人がTwitch、1人がYouTubeと答えたそうです。
それでも宮武さんは、再生回数やオーディエンス、マネタイズの面でTwitchが弱まれば、YouTubeは大きく改善しなくてもクリエイターが増え、ライブ配信業界のシェアが上がっていくのではないかと予想しています。
Shortsの爆発、知らないクリエイターがトップに
YouTubeが今一番優先しているのはShortsです。宮武さんによれば、Shortsは1日約700億回再生され、Shortsに動画をアップするチャンネル数は年々50%ほど増えています。草野さんも、Shortsだけで大勢の登録者を集める人がどんどん出てきていると話します。
去年YouTubeで最も登録者数が増えたチャンネルを見ると、例外のMrBeastを除けば、上位は全員Shortsドリブンでした。MrBeastは去年1億人ほど増えていますが、通常の動画でも伸びています。
2位は、UAEの家電販売店Zamzam Electronics Tradingザムザムエレクトロニックストレードインです。このチャンネルは、主にShortsで登録者を4000万人増やしたといいます。
クリエイターエコノミーを扱うメディアTubeFilterは、アメリカで月間視聴回数の多いYouTubeチャンネルのトップ100のうち、主にShortsを手がけるチャンネルがいくつあるかを毎月公表しています。宮武さんが過去1年分を見たところ、最も少ない月でも70、最も多い月は83で、平均は70〜75ほどでした。
YouTubeとTikTokは去年末、急上昇したクリエイターのリストを出しています。宮武さんはほとんど知らなかったうえに、MrBeastのタレントマネジメント会社NIGHTの社長リードさんも、登録者を最も増やしたトップ20のほとんどを知らなかったそうです。リードさんは、これまではトップ500のチャンネルをほぼ把握していたほどの人物です。
草野さんが「アメリカ以外の人も多いのか」と尋ねると、宮武さんはそうだとしつつ、それでも異常な状況だったと話します。
TikTokでバイラル化するかもしれないんですけど、ファンを獲得があまりできない。
顔はなんとなく覚えてくれてるんですけど、名前を覚えてくれない。
フィードで見る時代、ショートからロングへは渡れるか
草野さんは、自分で投稿しないタイプのユーザーならShortsやTikTokでフォローボタンをすぐ押すのもわかるとしつつ、長くYouTubeを使ってきた人からすると意外に感じると話します。
宮武さんは、YouTubeの見方そのものが変わってきていると答えます。フィードはShorts中心になり、アプリを開くとShortsが出てくるようになりました。
検索するか、登録しているクリエイターの動画を見るために開く
面白いものを見たくて開き、フィードを眺める
そのなかで課題になるのが、ショートフォームから始めたクリエイターがどうロングフォームへ移行し、両立できるかです。NIGHTのリードさんも、宮武さんとのイベントでこの点を課題に挙げていたといいます。
逆向きの展開、つまりロングフォームからショートフォームへの展開は多くあります。切り抜きから始め、MrBeastのようにTikTok専用のコンテンツまで作る例もあり、MrBeastは収録時点でTikTokで4番目にフォローされているクリエイターになっています。
一方で、ショートからロングへの移行はなかなかありません。去年それができそうだったのが、イギリスでDIYコンテンツを発信するBricks and Disorderです。2年間TikTokやInstagram、Shortsで投稿したあと、YouTubeに上げた初のロングフォーム動画は1ヶ月で100万回、現在は200万回を超えました。
しかし2本目は約60万回にとどまり、しかも1本目から4ヶ月後にようやく公開されました。宮武さんは、週次でも月次でも一定の投稿ペースを保てなかったことが課題の1つだと見ています。
Vineのスターがロングフォームで成功できた理由
ショートからロングへ移った過去の事例として、宮武さんが挙げるのがVineのクリエイターです。Vineがなくなり、ショートフォームを切り捨ててロングフォームに移るしかなかった人たちです。
具体的にはローガン・ポールさん、ジェイク・ポールさん、デイビッド・ドブリックさんらで、彼らはVlogに近いスタイルのロングフォームへ移りました。草野さんは、それで再生されるのはその人自身にファンがいるからだと話します。
Vineを見る側で使っていた草野さんは、当時のVineはレコメンド機能がそれほどなく、投稿すること自体も当たり前ではなかったと振り返ります。
そのクラスの人気者とか面白い人がいっぱい投稿してるみたいな感じだったんで、よりパーソナリティとかが前に出てたかなって感じはしました。
宮武さんも、Vineには好きなクリエイターを追うという概念が今より強くあり、だからこそロングフォームへ移行しやすかったのではないかと話します。
毎日ジムへ通うだけの動画、Sam Sulekが若者に刺さる理由
ショートとロングをうまく両立している現在のクリエイターとして、宮武さんはサム・セルクさんSam Sulekを挙げます。日本ではほとんど知られていませんが、アメリカの男子高校生の間で大人気だといいます。
サム・セルクさんのYouTube動画は、とてもシンプルな構成です。
サム・セルクさんのスタートはTikTokで、YouTubeではよりVlog的な形で発信しています。去年3月時点でYouTubeの登録者は8000人でしたが、1年以内に300万人を超えました。アメリカのジムでは、高校生が彼の動画を見ながらトレーニングしているほどだそうです。
宮武さんは、サム・セルクさんの動画を完全にメインストリームのアンチのパターンだと話します。サムネイルは動画のスクリーンキャプチャで、ほぼ毎日約30分の動画を投稿し、録画ボタンを押して止めるだけで編集もほとんどありません。
バズる理由について、宮武さんはコメント欄を見ると「見ていてリラックスする」という声がわかると話します。サム・セルクさんが本音を率直に話す人であることも大きく、宮武さんは、従来のYouTubeへのカウンターとしてオーセンティックに感じられる点が支持されていると見ています。完全にエマ・チェンバレンタイプだといいます。
草野さんも、誰かのルーティンや食べ物のASMR動画は構成も中身もほぼ同じなのに、また新しいものを見たくなると話します。宮武さんは、毎日アップされると毎日一緒に過ごす感覚になるのではないかと応じます。
TikTokでのサム・セルクさん本人の投稿は割と普通ですが、人気のあまりファンアカウントが大量に存在し、映像をミーム化したりセリフを付け加えたりしています。宮武さんは人気がどこまで続くかは課題としつつ、ショートからロングへある程度うまく移行できた人だと評価します。
韓国料理Vlogger Doobydobapの場合
草野さんは、過去に紹介したことのある韓国にルーツを持つアメリカ人の料理系クリエイター、Doobydobapさんの例を挙げます。TikTokで大きくバズり、フォロワーは約300万人。YouTubeでも100万回再生の動画が珍しくありません。
Doobydobapさんは自分でレストランを立ち上げたり、旅行先で食べる映像を出したりしています。草野さんは、リラックス系のコンテンツと本人のキャラクターがうまくロングフォームに移行できていると話し、30〜40分の動画で50万〜100万回ほど再生されているのはすごいと評価します。
宮武さんが「ショートの延長なのか、全く違うものなのか」と尋ねると、草野さんは、食べる・料理するという意味では同じだと答えます。ただ本人はインタビューで、ロングフォームとショートでは撮り方やナラティブを変えていると語っていたそうです。
Shortsの置き場所と、「登録者数」の意味の変化
宮武さんは、TikTokがシェアを取れた理由を、ショートフォームだからでも縦型だからでもなく、より簡単に動画を作って成功できる体験を作れたからだと考えています。かつてのYouTubeもテレビに対して同じ価値を持っていましたが、今のYouTubeはそこに最適化されておらず、Shortsで再び最適化しようとしているという見方です。
一方のTikTokは、ショートフォームではブランド提携以外でクリエイターがマネタイズしにくいという課題を抱え、ロングフォームへ向かおうとしています。宮武さんは、TikTokはYouTubeのポジションを、YouTubeはTikTokのショートのシェアを取りに行っている構図だと話します。
宮武さんの感覚では、YouTubeは2〜3ヶ月ごとにアルゴリズムを変えており、Shortsをフィードのどこに置き、どこまで優先すべきかをまだつかみきれていないようです。その影響で、重要な指標も変わってきています。
登録者数という指標は、以前ほど重視されなくなるかもしれません。宮武さんは、登録がユーザーのブックマーク機能のような役割になり、Shortsでは良い動画を出せるかどうかが問われると話します。草野さんも、フォローしなくてもおすすめにまた出てくるので、フォローはそれほど大事ではないのかもしれないと応じます。
結局YouTubeに人が行く理由が、その誰かの動画を見たいっていう話ではなくて、面白い動画をただ見たいってなると、多分指標って変えないといけないので。
代わりに重視されそうなのが、関係の深さを測る指標です。宮武さんは、1本の動画の再生を登録者と新規視聴者に分け、AVD ── Average View Durationの略。動画が平均してどれだけの時間視聴されたかを示すYouTubeの指標ですを比べる方法を挙げます。
一般に登録者のほうが長く見てくれるため、新規視聴者との差が小さければ、新規視聴者も同じくらいその動画を気に入っており、登録してくれる可能性が上がるという仮説が立てられます。クリエイター側も、5年前の登録者かもしれない登録者数そのものは、そこまで気にしなくなるだろうと宮武さんは見ています。
「クリエイターの時代ではなく、動画の時代」
クリエイター重視でなくなるなら、YouTubeはShortsを別アプリにすべきかという議論が出てくる、と宮武さんは話します。草野さんは別アプリのほうがいいと答え、宮武さんもそう思いつつ、YouTubeはやらないだろうと見ています。視聴体験が大きく違ううえ、ShortsやTikTokではユーザーがクリエイターではなくフィードにロイヤリティを感じるからです。
ここで宮武さんが紹介するのが、人気Vloggerエマ・チェンバレンさんがYouTubeの現状を聞かれて答えた言葉です。
宮武さんは、誰かをフォローするという概念が失われつつあり、無限にチャンネルがあるテレビをザッピングするような、昔のテレビに近い雰囲気に戻ってきていると話します。草野さんも、確かに「誰が」という感じではないと応じます。
エマ・チェンバレンさんは「いいクリエイティブとは人のアテンションを欲しがらないものだ」とも語っています。宮武さんは、直近のYouTubeはその逆で、過激なことをして人のアテンションを引き寄せる方向に進んできたと指摘します。
草野さんは、YouTube初期に新しいiPhoneをミキサーに入れる動画を投稿したアメリカ人がいて衝撃を受けたと振り返ります。宮武さんは、こうした動画は好まれるというより再生回数が取れるのであり、みんなが真似すると高層ビルから落とすようにどんどん過激化しないといけなくなると話します。
それでも最近はメタが変わり始めており、トップYouTuberの動画は尺が長くなってテンポもペースダウンしているそうです。宮武さんは、センセーショナリズム ── 人の感情を強く刺激する表現で注目を集めようとする傾向のことですの時代がYouTubeの中ではピークを越えたのではないかと感じています。
コメディ、Vlog、企画型、そしてShortsへ
宮武さんは、YouTubeのコンテンツにはこれまでいくつかの時代があったと整理します。
Shortsは検索型ではなく、クリエイターの見え方も変わります。YouTubeでMrBeastと検索すればロゴが表示され、チャンネルページに飛べて、ほぼ本人のブランディングで埋まります。一方でShortsにはサムネイルもなく、名前やロゴは画面の隅に小さく出るだけで、ほとんど見えません。
そのためShortsのクリエイターは、自分をもっとアピールしなければならなくなります。去年のクリエイター向けイベントVidConでは、クリエイターが泊まるホテルにこれまでよりはるかに明るい服を着た人が多かったそうです。
もう服装で覚えられるように頑張ってたっていう。
草野さんが「頭がいい」と感心すると、宮武さんは「でも全員同じことやってるんで」と返します。草野さんも、Shortsには奇抜な服の人やキャラクターになりきる人が確かに多いと話します。
Twitchの若返りと、人気YouTuberの次の選択
時代の変化はTwitchにも表れています。宮武さんによれば、2020年に最も見られたTwitchチャンネルのトップ10は平均年齢が33歳ほどで、ほとんどが25歳以上でした。直近では20代が大きく増えており、少なくともTwitchでは世代交代が起きているといいます。
草野さんはプラットフォームにとっていいことだと話し、宮武さんも、新しい世代が入れば新しいフォーマットやスタイルが生まれると期待を示します。
そうなると、これまで人気だったYouTuberは今後どうするかを決めなければならない時期に入ります。宮武さんは、クリエイターがメディア企業を作ると決めた瞬間、採用や経営を考える必要が生まれ、クリエイターとしての仕事の一部が失われると指摘します。
最近はフルタイムのインフルエンサーを辞めると表明するTikTokerも数名出ています。宮武さんは、バーンアウトに加え、去年はブランド提携が厳しくお金を稼ぎにくくなったことや、TikTokでは自分のことを話し続けなければならないことも理由にあると見ています。
今の人気世代のYouTuberがどう成長し、スケールし、場合によってはどう引退していくのか。このテーマは、アメリカのYouTubeコミュニティで話題になったトピックとともに、次回のエピソードで扱われる予定です。
まとめ
19年目のYouTubeは、テレビ画面ではアグリゲーターとして存在感を強め、ライブ配信ではTwitchの弱体化を追い風にし、Shortsでは「クリエイターより動画」が評価される方向へ変わりつつあります。宮武さんと草野さんの議論からは、プラットフォームの変化がクリエイターの戦い方そのものを変えている様子が見えてきます。
- YouTubeはテレビ画面で最も伸びており、テレビ放送やケーブルまで束ねるアグリゲーターを目指している可能性がある
- NFL日曜の放映権に年間20億ドルを払うのは、FOXのようにスポーツで「格」を得る狙いとも考えられる
- Twitchのコストカットで独占契約の時代が終わりつつあり、YouTubeがライブ配信でシェアを伸ばす環境が整ってきた
- ShortsはTubeFilterのトップ100の7割以上を占めるほど伸びる一方、ショートからロングへの移行は難しい
- フィード中心の視聴で登録者数の意味が薄れ、「クリエイターの時代ではなく、動画の時代」になりつつある


