D2C「卒業生」が始めるホールディングス型ブランドとは?
Off Topicのこの回は、D2C企業が今考えなければならないことをテーマにした2回目です。前回はVCがD2C企業に投資する理由と、大手小売を含めた市場感を扱いました。
草野さんは、D2Cという言葉が「消費者に直接売る」という意味を超えて、インフラサービスを含む広い事業として盛り上がっていると切り出します。
宮武さんによると、AwayやCasper、さらに以前のBonobosといったD2Cブランドが伸びたおかげで、それを支えるソフトウェアやインフラを提供する会社が数多く出てきました。
まず話題になったのはブランディング会社です。Red Antler ── ニューヨークのブランディングエージェンシー。Casperなど多くのD2Cブランドの立ち上げ期のブランディングを手がけたことで知られていますや、Patternに名前を変えたGin Laneは、Warby ParkerやHimsなど多くのD2Cブランドの初期を担当してきました。
草野さんは、ブランディング企業が自らブランドを始める点を面白いと話します。宮武さんは、D2C業界では最初から「ホールディングス型にしたい」と掲げる会社が増えていると指摘します。
Pattern Brandsは料理用品から始まり、次は片付け・整理のプロダクトへと広げています。Iris Novaも、飲料ブランドのDirty Lemonを手がけながら、他ブランドへの投資や新ブランドづくりを掲げています。
さらに、Glossierの元COOが独立して立ち上げたalfaも、ウェルネス、コスメ、スキンケアの領域で最初からホールディングスになると発表しています。
楽しみですよね。やっぱり前回話したようなD2Cの1世代、2世代ぐらいの(卒業生)。
宮武さんは、成功している起業家ほどD2C企業同士でつながっていると話します。Honest Company、Warby Parker、Bonobosなどを「卒業」した人が、似たモデルで自分の会社をつくるケースが多いそうです。
特に成功してる人たちは、みんなどっかのHonest Companyを卒業したとか、Warby Parker卒業したとか、Bonobos卒業したとか。それで自分の会社作って似たようなモデルを作るっていうのが多いですよね。
alfaについて宮武さんは、ユーザーの声を聞き込むことを重視している点に、Glossier創業者のエミリー・ワイスさんがInto The Gloss ── エミリー・ワイスさんが運営していた美容ブログ。読者コミュニティの声をもとに、のちのGlossierの商品づくりにつながりましたで培ったやり方が受け継がれていると見ています。ヘアケアのCrown Affairも、Away出身者が立ち上げた会社だと草野さんは紹介します。
製造・パッケージ・店舗まで、D2Cを支えるインフラ企業
草野さんから気になるD2Cのインフラ系サービスを聞かれた宮武さんは、製造のソーシングをマッチングするAnvylを挙げます。Anvylは昨年、おそらく10億円ほどを調達していたそうです。
パッケージの分野では、LumiやPacklaneが有名で、日本にも似た会社が出てきています。宮武さんは、前回話したようにプロダクトのイノベーションは商品そのものだけではないと考えています。
プロダクトのイノベーションって商品だけではないので、パッケージっていうのも1つに入っていると思うので、そこに特化する会社も出てくるのは結構すごいニーズがあるかなと思いますね。
草野さんは、日本にも展開しているb8taも、ブランドに店舗スペースを提供するD2Cのインフラだと話します。宮武さんは、b8taはショールーム的な立ち位置で、ブランドにとっては売上のコンバージョンより、認知してもらい商品に触れてもらうことが重要だと見ています。
店舗のリテール体験を変えようとする会社として、宮武さんはデパートのような形態のNeighborhood Goods ── ニューヨークなどに店舗を構える、D2Cブランドを集めた新しいタイプの百貨店。テキサス州で創業しましたも挙げます。
宮武さんによると、Neighborhood Goodsの社長は業界で有名な人物です。Apple Storeの店舗構成は当初外注されていて、その社長が担当してスティーブ・ジョブズにプレゼンしたといいます。一度は「ありえない」と言われたものの、再提案で話が進んだそうです。
宮武さんは、この経歴があったからこそ、Neighborhood Goodsを立ち上げる際に資金調達がしやすかった部分もあったらしいと話しています。
re:store、b8ta、SHOWFIELDSの店舗はどう違ったのか
宮武さんは、ショールーム型の店舗を実際に訪れた体験を語ります。サンフランシスコのre:storeは店舗をクローズしてLAへ移るという話があり、SequoiaかAndreessen Horowitzのどちらかが出資しているそうです。
re:storeは女性起業家に特化したブランディングで、3階建てのうち3階の一部がコワーキングになっていました。コワーキングの冷蔵庫にDirty Lemonが入っていて、普通に客も買えるようだったといいます。
re:storeには意外にもアナ スイなどの大手ブランドも並び、瞑想アプリのCalmをiPadで紹介する展示もありました。宮武さんの正直な感想は、「かっこいいお店」に見えたというものです。
一方のb8taは、re:storeと似ていながらもテック寄り・ガジェット寄りで、店舗ごとにセレクションがかなり違います。
サンフランシスコの(b8taの)店舗の多分3分の1ぐらいがGoogle商品で。Googleのお店じゃないかって思っちゃったり。
ゴールデンステート・ウォリアーズのスタジアム内にできたb8taの新店舗には、車のMINIまでショールーム的に置かれていたそうです。草野さんは男性向けの商品が多い印象だと話し、宮武さんはコンバージョン率がよくわからないとも漏らします。
ニューヨークのSHOWFIELDSは体験型の店舗で、無料ツアーでは役者が商品を1つずつ説明してくれます。入口では滑り台で下りていく仕掛けがあり、宮武さんは『不思議の国のアリス』を思い出したといいます。
僕が行った時のツアーが、高校生がいて、その人たちはリピーターだったんですよ。昨日一昨日来たみたいな。単純に楽しいからまた行きたいっていうのを言ってて。
ただし宮武さんは、SHOWFIELDSのツアーは商品説明に寄っていて、もう少しストーリー性を期待していた分、そこは外れたと話しています。
3つの店舗の違いを、宮武さんの体験から整理すると次のようになります。
| 店舗 | 特徴 | 宮武さんの印象 |
|---|---|---|
| re:store | 女性起業家特化、3階にコワーキング、大手ブランドも並ぶ | かっこいいお店 |
| b8ta | テック・ガジェット寄り、店舗ごとに品揃えが違う | Google商品が多く、男性寄り |
| SHOWFIELDS | 体験型、役者が案内する無料ツアー、滑り台の入口 | 入りは最高だが説明寄り |
宮武さんは、ショールーム型の店舗とは別に、D2Cブランド自身の店舗の客入りにも差があったと話します。Warby Parker、Everlane、Away、Glossier、Allbirdsは常に人が入っていた一方、Outdoor Voicesなどはそれほどでもなかったそうです。
宮武さんはこの差について、人気の違いや一般の認知度の違いかもしれないと話し、出張でいろいろな店舗を回った際に感じたこととして紹介しています。
Outdoor Voices創業者の退任報道に見える、女性起業家への厳しい目
収録は3月中旬で、その少し前にアウトドアウェアブランドOutdoor Voicesの女性創業者で社長のタイラー・ヘイニーさんが辞任し、新しい社長に替わったことが話題になっていました。宮武さんがTwitterでこの件を紹介していたことから、草野さんが話を振ります。
宮武さんは、番組の26回目で触れたAwayの件とつなげて説明します。AwayではThe Vergeが内部を暴露し、社長が社員に強い発言をしていたと報じられました。
続いてNew York TimesとBuzzFeedが、Outdoor Voicesのタイラーさんがなぜ辞めたのかを報じます。Outdoor VoicesはForerunner ── 消費者向けブランドへの投資で知られる米国のベンチャーキャピタル。WarbyParkerやGlossierなどにも出資していますなど著名なVCから50億円ほどを調達し、次のlululemon、下手をすれば次のNikeとまで言われていました。
宮武さんによると、2017年ごろに経験ある経営メンバーを迎えたものの、当時CEOだったタイラーさんとうまくいかなかったことが、退任につながったといいます。
報道では、タイラーさんの従業員への接し方も批判されました。ファンがSNSでブランドに触れたら1時間以内に「いいね」するよう指示した、といった点です。
一方で宮武さんは、女性起業家、特に女性社長への反応が厳しすぎるのではないかという議論がここ最近出ていると紹介します。
(Outdoor Voicesの)社長が男性だったら同じ報道をしてるかとか、似たようなレベルの男性起業家の社長とかはそこまで批判を受けてないのに、なんでアウトドアボイスが批判を受けてるんだとか。
具体例として、Outdoor Voicesの店舗のキャンドル費用が220万円ほどだったという報道があります。宮武さんは、一見高く見えても店舗数で割ればそれほど多くなく、Glossier、Warby Parker、Allbirdsも店舗にかなりお金をかけていると指摘します。
この点にはAwayのステフ・コリーさんや、The Informationのジェシカさんも疑問を呈していたそうです。宮武さんはさらに、Away、Outdoor Voices、過去のThirdLoveの批判記事が、いずれもほぼ女性記者によるものだった点も気になると話しています。
宮武さんは、女性社長への期待値がほかと違うのかもしれないと考え、こうした記事が最近増えているのではないかと受け止めています。
lululemonはなぜOutdoor Voicesから巻き返せたのか?
ただし宮武さんは、Outdoor Voicesの売上が伸びてはいたものの計画には届いていなかった点について、タイラーさんももちろん責任を負うべきだと話します。そのうえで、苦戦はOutdoor Voices側の要因だけではないと見ています。
宮武さんによると、Outdoor Voicesが成長していた時期、lululemonは特にオフライン店舗の売上が落ちていました。Outdoor Voicesは、そのlululemonのコアターゲットをうまくつかみに行きました。
その後lululemonは社内でオンライン戦略を見直し、売上が回復します。草野さんも、日本では一昨年ごろにlululemonが再上陸し、新宿でも見かけると話します。
ルルレモンって、アウトドアボイシーズが成長した時って、ルルレモンの初期のプレイブックは多分使ってるんですよ。
逆に多分今ルルレモンがアウトドアボイシーズのオンライン戦略を見て、それを真似して自社でうまくいってるっていうケースがあって。
lululemonとOutdoor Voicesの間で起きた、戦略の行き来を順に並べると次のようになります。
Outdoor Voicesの成長
lululemonの初期のプレイブックを使い、オフラインが落ちていたlululemonのコアターゲットをつかむ
lululemonの見直し
社内でオンライン戦略を考え直し、Outdoor Voicesのオンライン戦略を参考にする
lululemonの回復
売上が上がり始め、Outdoor Voicesは苦しむ
宮武さんは、これはlululemonだけの話ではないと考えています。D2Cのオンライン戦略、コミュニティづくり、オンラインでのブランディングやユーザーとのコミュニケーションが主流になり始めた今は、大手小売やデパートにとってめちゃくちゃチャンスだといいます。
取り入れられなければ、アクセサリー小売のClaire's ── 若年層向けのアクセサリー・小物を扱う米国の小売チェーン。2018年に経営破綻していますのようになる可能性もあります。また宮武さんは、Walmartもブランド買収戦略では自ら失敗を認めていると触れています。
Targetの自社ブランドとAmazonの価格勝負、どちらに勝ち目がある?
うまくいっている大手として宮武さんが挙げるのがTargetです。TargetはAwayに似たスーツケースのほか、働く男性向けのブランドやベビー服など、Targetの名前を出さない自社ブランドを多く展開しています。
さらにTargetは既存のD2Cプレイヤーとも組んでいます。電動歯ブラシのquip ── サブスクリプション型で替えブラシなどを届ける米国の電動歯ブラシブランドはTargetで本体を売り、その後の交換用ヘッドをレベニューシェアで扱っているそうです。
宮武さんは、quipの商品を見にTargetへ来た人が、ついでにTargetの自社ブランドも買うのではないかと考えています。自社ブランドもパートナーのブランドも売れる仕組みだという見立てです。
草野さんが日本のマツモトキヨシのオリジナルブランドに触れると、宮武さんは、小売のオリジナルブランドには2つのパターンがあると整理します。
ブランドコンセプトから一から考え、自立できるブランドをつくる
プライシングで圧倒的に勝ちに行く。Casperのようなマットレスや、Allbirdsそっくりの靴も出した
Amazonが出したAllbirdsそっくりの靴について、草野さんはAllbirds側の返しがよかったと話します。宮武さんによると、Allbirdsは自社の素材を無料で提供するので使ってほしいと応じたそうです。
宮武さんは、これから立ち上がるD2Cスタートアップは、大手が追いついた以上、価格だけでは勝てない可能性があると指摘します。商品だけで勝てる会社もあれば、勝てない会社もあるといいます。
コロナ禍で見えたD2Cの強み、コミュニティをどうつくるか
草野さんは、D2Cの優位性の一例としてコミュニティを挙げ、新型コロナウイルスへの各社の対応から面白い事例を紹介します。サラダチェーンのDig Innは、レシピの無料公開と非接触デリバリーへの対応を打ち出しました。
Dig Innはデリバリー料金の一部を地域コミュニティに寄付し、これからの対応について専用アドレスでアイデアを募集しているそうです。宮武さんは、スピード感のあるD2Cスタートアップだからできることだと評価します。
宮武さんはAwayの例も挙げます。RimowaやRadenといった競合がいる中で、Awayはバッテリーを取り外せるようにしたほうがよいというユーザーの指摘を社内のSlackチャンネルで拾い、早めに対応したといいます。
コミュニティをちゃんと作って、結構早いスピードでフィードバックをもらって、プロダクトの改善をするっていうのがD2Cの一番の強みだと思ってるんで。
宮武さんは、こうした改善はユーザーと直接つながっているからこそできることで、外部要因が増えているコロナ禍こそ、そのチャネルをきちんと活用すべきだと話します。
コミュニティの強さで言えばGlossierがすごい、と2人は口をそろえます。Glossierがコロナで一時閉店を告知した際、インスタグラムのコメントにすべて返信しているうえ、ユーザーのほうから「働いている人の給料はどうなるの?」と質問が寄せられていました。
その働いてる人の給料どうなるの?とかっていうのを(ユーザーが)質問してること自体、すごく会社が愛されてるなっていうのがわかる。
宮武さんによると、GlossierにはインスタグラムのDMが6秒に1回届き、それにきちんと返しています。前身のInto The Glossがコミュニティだったからこそ、エミリー・ワイスさんはその重要性に気づいていたと宮武さんは見ています。
宮武さんは、単にビジネスにつながるから作るのではなく、本当に意味のあるコミュニティを作ることが大事だと強調します。ユーザーの課題を共有できる場をどうつくるかが、今後のスタートアップの課題になるだろうと話しています。
まとめ
D2Cは、ブランドそのものだけでなく、ホールディングス型の企業やインフラ企業まで広がっています。一方で、lululemonやTargetのように大手がD2Cの手法を取り入れて追いつき始めており、価格だけでは戦えない局面に入ったと宮武さんは見ています。その中でD2Cが持ち続けられる強みとして、ユーザーと直接つながるコミュニティが挙げられました。
- D2C出身の「卒業生」が、最初からホールディングス型をうたうブランドを立ち上げる例が増えている
- 製造マッチング、パッケージ、ショールーム型店舗など、D2Cを支えるインフラ企業が次々に生まれている
- Outdoor Voicesの退任報道をめぐっては、女性社長への批判が厳しすぎるのではないかという議論もある
- lululemonやTargetのように、大手小売がD2Cのオンライン戦略や自社ブランドづくりで巻き返している
- 大手が追いつく中、D2Cスタートアップは優位性をどこに置くかを考え、意味のあるコミュニティを育てることが課題になる


