アムステルダムは銀座ほどの大きさ?創業者2人が見た東京
このインタビューは、グローバル採用プラットフォーム「Remote」の創業者2人が日本に滞在中に収録されました。Job van der VoortさんとMarcelo Lebreさんにとって、来日は今回で3回目です。
Jobさんによると、2人はこれまで東京にしか滞在したことがありません。Marceloさんは、毎回東京の外へ出る計画を立てるものの、街の「引力」が強くて結局東京で過ごしてしまうと話します。
宮武さんは、東京は区がたくさんあり、1つの都市というより1つの県のような規模だと応じます。そこから話は、創業者2人が同じ都市に住んでいないという、スタートアップとしては珍しい点に移ります。
(お二人は)同じ都市に住んでいないですよね。スタートアップとしては比較的珍しいと思います。
Jobさんはオランダのアムステルダム近郊に住み、アムステルダムまで自転車で40分ほどの距離だといいます。アムステルダムの大きさは銀座くらいで、人口もおそらく少ないと例えています。
Jobさんが都市について好きなのは、歩いて回れることです。オランダはどこでも自転車を使う国で、その点は東京と似ているものの、それ以外は比べようがないほど違うと語っています。
Marceloさんはポルトガル出身で、現在はサンフランシスコに住んでいます。2人ともランナーで、Marceloさんはポルトガルでもサンフランシスコでも坂に苦しんできたため、平坦な東京を走るのは「ごほうび」のようだと話します。
Marceloさんの目には、東京は安全で、人を歓迎する雰囲気があり、清潔で、すべてが予測可能に整っている都市に映ります。リスボンやサンフランシスコとは対極にあるといいます。
「この人を雇いたい」とメールを送るだけ?Remoteが肩代わりする採用の複雑さ
Jobさんの説明では、Remoteは地球上の誰でも見つけ、雇い、給与を支払えるプラットフォームです。Remoteは世界中に法人を持ち、顧客企業はRemoteを通じて、どの国の人でも雇えます。
例えば日本企業がアメリカにいる人を雇いたい場合、企業はRemoteに「アメリカに住むJaneを雇いたい」と伝えるだけで手続きを進められるといいます。Remoteは1年以上前から日本法人を持ち、みずほやトヨタといった大手日本企業とも取引があります。
ただし、Remoteはこれまで日本で営業やマーケティングをしてきませんでした。今回の来日は、日本で現地のマーケティングと営業を本格的に始めるためだと説明されています。
宮武さんが「通常、海外で人を雇うにはまず現地法人をつくる必要があるのか」と尋ねると、Jobさんは、海外で1人を雇うまでに企業が越えるべき手順を次のように挙げました。
Jobさんは、Remoteがこうした複雑さを100%解決すると言います。顧客企業がやることは、雇いたい人とそのメールアドレスを伝えることと、給与を支払えるよう毎月Remoteに支払うことだけだといいます。
続いて宮武さんは、なぜ日本なのかを尋ねます。日本は経済規模で世界3位、今は4位とも言われる一方、歴史的に国内志向が強く、ようやく海外に出たい企業が増え始めているという見立てです。
Jobさんはその見立てを認め、理由を3つ挙げています。Remoteという会社自体が日本に進出できる段階まで成長したこと、Remoteが日本企業を調査したところ87%が「海外で人を雇いたい」と答えたこと、そして日本企業も人材不足に直面していることです。
87%という数字について、Jobさんは「誰を調査したかに少し左右されるし、正確にはわからない」と留保をつけています。そのうえで、Jobさんは日本企業の変化のタイミングに合わせて日本に来たかったと話しています。
社名どおりのフルリモート。約2,000人の会社が自社製品を使い続ける理由
宮武さんは話題を、Remoteが何をしているかから、Remoteの社内でどう働いているかへ移します。Jobさんの答えは、Remoteは100%リモートで、世界中に約2,000人の社員がいるというものです。
Remoteがフルリモートなのは創業当初からです。社名に忠実であることを大事にしていて、オフィスを構えれば社名と矛盾してしまうとJobさんは話します。
Remoteの創業者たちが掲げるのは、才能はどこにでもあるが、機会はそうではないという考え方です。才能と機会を結びつけるために、Remoteは世界中の国に進出する苦労を自ら引き受け、顧客がその苦労をしなくて済むようにしてきたといいます。
Remoteは創業から5年ほどで急成長しました。その速さの中でも成長できたのは、こうした会社のつくり方について、毎日のように「自分たちの本」を書き続けてきたからだと説明されています。
自社でドッグフーディング ── 自社の製品やサービスを自分たちで日常的に使うこと。「自分のドッグフードを食べる」という英語の慣用表現に由来し、使い手の視点で製品を改善する狙いがありますを続けることは、製品の改善にもつながっています。Remoteの顧客にはオフィス勤務の企業もあり、そうした企業もRemoteが組み込んだ知見を利用できるといいます。
宮武さんが「道具だけでなく知識も提供している」とまとめると、Jobさんは「ある程度は」と答えます。Remoteは他社の経営の仕方に口を出すつもりはなく、官僚的で退屈で複雑で高くつく部分を、簡単で安くすることに集中したいと話しています。
その一方で、Remoteは自社の運営方法をまとめたハンドブックを remote.com/handbook で公開しています。これは実際に使っている社内ハンドブックで、毎日更新されているそうです。
オフィスとは何のためにあるのか?「土台ではない」という答え
宮武さんは、コロナ禍で多くの人が「オフィスとは何か」を問い直し始めたと切り出します。宮武さんによると、コロナ以前、平均的な人は生涯でおよそ9万時間をオフィスで過ごしていたといいます。
(それなのに)誰も「オフィスとは何か」とは考えない。なぜ自分はここにいなければならないのか、なぜみんながここにいなければならないのか、と。
Jobさんの考えでは、組織で根本的に大事なのは、協力しやすく、コミュニケーションしやすくすることです。それができるなら、人がどこにいるかは本質的には問題ではないといいます。
Jobさんは、コミュニケーションのしやすさには、すぐに人とつながれることと、長い時間つながれることという別々の要素があると説明します。さらに、形式を問わず人と集まって一緒に作業できることも必要です。
オフィスはそのための場として実際に便利だと、Jobさんも認めています。オフィスでは相手が見えるので、歩いていって話しかければ済みます。一方、完全にオンラインになると、相手が本当にそこにいるのか、机に座っているのかが見えない「壁」が生まれます。
Jobさんは、その壁を解決できれば、どこにいる人でも雇え、通勤もオフィス代も不要になると話します。そのうえで、オフィスは良い仕事場ではあるものの、オフィスは会社運営の土台ではないというのがJobさんの見方です。
全員が常にオフィスにいなければならないとした瞬間に、会社は人材の面でも、他の文化や国へのアクセスの面でも、一気に「ローカル」になるとJobさんは指摘します。中心地にオフィスを置けば、そこにいる他社と人材や場所を奪い合うことになり、費用も高くなります。
ただしJobさんは、オフィス自体が悪いわけではないとも付け加えます。例えば東京では、仕事部屋を別に持てるほど大きな家に住んでいる人は少なく、2人のように小さな子どもがいる家庭では、在宅勤務は大変だといいます。
Jobさんにとって土台なのは、オフィスではなく「良い仕事場」があることです。それが確保されていれば場所の扱いはずっと柔軟にでき、場合によってはオフィスやコワーキングスペースが必要になることもあると話しています。
ピザ数枚の集まりが数百万規模の計画に。急拡大で変わった「集まり方」
宮武さんは、多くの企業が8〜9割リモートにしつつ、社員が求める対面の交流をオフサイトなどで補っていると指摘し、Remoteではどうしているのかを尋ねます。
Marceloさんは、自分とJobさんでは見方が違うはずだと前置きしたうえで、対面かどうかという問題は、人が社会的な交流を求める気持ちに関わる話だと説明します。それは会社の「文化」の定義と深く結びついていて、オフィスと同じものではないといいます。
創業当初のRemoteは、毎月集まりたいと考えていました。当時はチーム全員がポルトガルにいたので、ポルトガル国内のどこか中間地点で会うことができました。採用を始めた時期でもあり、集まるたびに人が数人ずつ増えていったそうです。
そこにパンデミックが起きます。Remoteの社員数は、パンデミック突入時は30〜40人ほどでしたが、パンデミックが明ける頃には700〜900人になっていたといいます。Jobさんは、2021年の1年間で50人から650人に増えたと補足しています。
規模が変わったことで、集まることの意味も変わりました。Marceloさんによると、かつては電車の切符数枚とピザ数枚で済んだ集まりが、今では数百万規模の取り組みであり、何年もかけて計画するものになったといいます。
さらにRemoteは世界中の企業の給与支払いを担っているため、全員を1か所に集めると、事業として1週間止まることになります。Remoteはそれができる状況にはないとMarceloさんは話します。
その代わりにRemoteが試してきたのは、時期ごとに違う方法です。ある時期には全社員がOculusのVRを持ち、VR空間で一緒に過ごしたり、作業したり、ゲームをしたりして、交流の欲求を和らげていたそうです。
Marceloさんがうまくいったと考えているのは、最初は「どんな交流が良いか」を会社が承認していたやり方から、ガードレールだけを決めて文化が自ら広がる道筋をつくるやり方に移ったことです。
現在のRemoteでは、社員が自分たちの関心ごとを見つけて深めることを認め、地域ごとの食事会や集まりに予算を出しています。分野やテーマごとのチームが、どこかに飛んで集まるための予算もあるといいます。
Marceloさんは、1年後に同じ質問をされたら、会社がさらに成長して違う答えになっているだろうと話します。人に合わせて変わっていくことこそ良い文化の一部だ、というのがMarceloさんの考えです。
社員が倍になれば別の会社。15人・100人・1,000人で何が変わる?
宮武さんは「50人から650人になる中で、文化はどう適応するのか。ほぼ不可能に思える」と尋ねます。Jobさんの答えは「血と汗と涙」でした。
Jobさんは、文化は創発的な性質 ── 個々の要素の単純な足し合わせではなく、要素同士の関わり合いから全体として現れる性質のこと。生物学や複雑系の分野でよく使われる考え方ですのようなもので、直接は操れず、少し導くことしかできないと説明します。
Remoteが早い段階で取り組んだのは、会社の価値観を示し、それにある程度合う人を採用し、価値観に沿った行動を期待することでした。今では、価値観に沿う例と沿わない例も具体的に示しているといいます。
Jobさんによると、チームが倍になった瞬間、会社はまったく新しい文化を持つことになります。社員の半分以上は以前の会社を知らず、以前の文化は意味を持たないからです。そのため、新しい会社として扱う必要があるといいます。
Jobさん自身、2021年は記憶がぼやけているほどだったと振り返ります。採用のスピードが非常に速かったうえ、2020年8月に息子が生まれたばかりで、2つの理由で1年中寝不足だったそうです。
現在のRemoteは、売上では今も速く伸びていますが、人数の増え方は割合で見ればずっと緩やかになったといいます。それでもRemoteは、会社や制度、価値観を少しずつ変え続けていて、昨年も会社の方向を合わせ直すために価値観を少し変えたそうです。
Jobさんは、会社を1つの「製品」として考えるのが好きだと話します。顧客に売る製品とは別に、会社という製品があり、そのユーザーである社員のニーズを満たしているかを見て、満たしていなければ直すべきだという考え方です。
宮武さんは、多くのスタートアップでは社員が30人ほどになるとCEOが全員を個人的には知らなくなり、100人、300人にも節目があると聞くと話し、Remoteにもそうした転換点があったかを尋ねます。Jobさんの答えは「いつもあった」でした。
1,000人規模でルールが必要になるのは、解釈の自由を持つ人が多すぎて、全員が創業者の頭の中を読んで動くことは期待できないからだとJobさんは説明します。
大きな会社ほど変化が難しくなるのではないかという宮武さんの問いに、Jobさんは2つの方法を挙げます。経験のある優秀な人を採ることと、過剰なほどにコミュニケーションをとることです。
Jobさんによると、リーダーは自分が何を見て、何を感じ、何をするつもりで、どんな計画なのかを、全員に伝え続ける必要があります。問題、症状、対処法をはっきり示し、とても謙虚でいて、社員の声を聞くことが大事だといいます。
会議は一番「高い」連絡手段。DM、Loom、通話をどう使い分ける?
宮武さんが、創業者の考えや会社の方向性を社員に伝える手段を尋ねると、Jobさんは非同期コミュニケーション ── 相手が同時にその場にいることを前提にしない連絡のしかた。文書やチャット、録画動画などを使い、受け手は自分の都合のよい時間に読んだり見たりしますを徹底的に使っていると答えます。
Remoteでは、まず文章で書き残すことが基本です。Jobさんは、あらゆることの唯一の正しい情報源は常に文書だと考えています。
その文書を社内に広げる手段として、RemoteはSlack ── ビジネス向けのチャットツール。チャンネルごとに話題を分けてメッセージをやりとりでき、多くの企業で社内連絡に使われていますを積極的に使っています。さらにLoom ── 画面や自分の姿を手軽に録画して共有できる動画メッセージツール。会議を開かずに説明を伝えたいときによく使われますで動画を録り、全社会議なども開いていますが、主な手段はLoomだそうです。
宮武さんがLoomの具体的な使い方を尋ねると、話はチームの前提に移ります。世界中の社員が同じ時間にオンラインにいるとは限らず、同じ国にいる相手でさえそうだという前提に立つと、自分の作業と、メッセージの伝え方の両方を最適化する必要があると説明されています。
例えばマーケティング施策を進めながら同僚に共有したいとき、DMを送ることはできます。ただし相手がすぐ返事できるとは限りませんし、とても長い文章になるなら、むしろ話したほうがよい場合もあります。そういうときは短いLoomを録り、「今考えていることです。意見をください」と送るほうが簡単だといいます。
この回の話では、ほとんどの場合、通話までは必要ありません。通話は「自分の時間+相手の時間」に通話した分をかけた、とても高くつく手段だからです。
Remoteでは、まず書き、次に動画メッセージを使い、通話は最後に回すという順番です。文書にはNotion ── 文書作成やタスク管理、社内wikiなどを1つにまとめられるワークスペースツール。チームの情報共有によく使われますを使い、考えだけでなく通話のアジェンダも書いておきます。通話に臨むときは、明確なアジェンダと持ち帰る目的を持つべきだとされています。
時差の大きいチームの例も紹介されました。メンバーがポルトガル、キルギス、インド、オーストラリアに分かれているチームでは、全員が同じ通話に参加できる時間が1日のうちごく短く、その時間でさえ誰かが早朝か深夜になります。
このチームは通話の時間を大切に扱い、個々の作業をきっちり固めて、他のメンバーの時間を奪わないようにしているため、非常に効率的だといいます。
(SNSや様々なサービスでも)制約があるほうが、ずっと効率的で、ずっと創造的になれるということはよくあると思います。
宮武さんは、全員がリアルタイムで話せる時間が限られているからこそ、その時間を優先し、大事に使う工夫が生まれると受け止めます。いつでも会議を開いて30分や1時間を無駄にできる環境に慣れていると、気づきにくい視点だと話しています。
AIで「決める仕事」が増えたら、人は集まるべきか?
宮武さんは、AIをめぐるある仮説を紹介します。AIがコードを書けるようになるほどソフトウェアづくりのコストと時間が減り、ボトルネックはコードを書くことから意思決定に移るというものです。
(そのため)リモートを減らす必要があるかもしれない、もっと一緒に、もっとリアルタイムでいる必要があるかもしれない、という説を聞いたことがあります。
Jobさんは、この仮説について「たくさん考えがある」と答えます。まずJobさんは、一緒にいることが良い意思決定の方法だという考えも、一緒にいたほうが仕事がはかどるという考えも否定します。
Jobさんによると、オフィスでも大半の時間、人は1人で作業しています。効率の高い組織ほど、一緒に過ごす時間はさらに短く、ほとんどの時間を1人で過ごしているといいます。
さらにJobさんは、速く動く組織では意思決定は合意ではなくリーダーによって行われると話します。後戻りできない落とし戸のような判断でない限り、素早く下すべきだという考え方です。
ただしJobさんも、仮説に一理あることは認めています。いずれは仕事がなくなり、一緒にいることだけが残るまで、人が一緒にいられる時間は増えていくかもしれません。それまでは、1人で過ごす時間が長いほど効果的であり、それはドアを閉めたオフィスの個室でもかまわないといいます。
Jobさんの見方では、生産性はこれからも上がり続けますが、一緒にいることで生産性が上がるわけではありません。一緒にいると気分が良いだけで、集まって過ごすのは楽しいから、オフィスに慣れた人はオフィスを手放しにくいのだと説明しています。
8時間分の「本当の仕事」をすることが期待されるため、かなりハードになりうる
8時間その場にいることが期待されるだけで、帰らなければよいという低いハードル
Jobさんは、他社を訪ねたり話を聞いたりするたびに、その非効率さに驚かされるといいます。いずれ多くの仕事が置き換えられ、人はただ一緒に過ごせるようになるだろう、というのがJobさんの見立てです。
宮武さんも、最も重要な判断の多くは、リーダーが「皆さんの案は採らない。この方向を信じて進む」と決める形で、合意なしに下されていると応じます。
Jobさんはこれに同意し、リーダーによる決定は手間を減らし、集団思考 ── 集団で議論するうちに異論が出にくくなり、不合理な結論に流されてしまう現象。心理学者アーヴィング・ジャニスが提唱した概念として知られていますのような危険も防ぐと説明します。合意で決めると統計的に凡庸な結果に行き着き、中央値から大きく抜きん出たければ、1人で判断を下す必要があるといいます。
リモートワークは格差を広げる?ポルトガルの給与が約3倍になった話
宮武さんは、新しいテクノロジーはたいてい格差を広げる面があると問題提起します。リモートワークで世界中の人材を雇えるようになり、「10倍できるエンジニア」や「10倍できる営業」を採れるようになる一方、そうでない人は働きにくくなるのではないかという懸念です。
(これまでは)英語を話せる人が少ない日本に住みながら英語を話せること自体が、ひとつの強みでした。
宮武さんは、そうした地理的な近さによる強みがなくなっていく中で、バランスをとるべきなのか、それとも企業が常に最高の人材を雇えるよう進め続けるべきなのかを尋ねます。
Jobさんはまず、誰もが最高の人材を雇えるわけではなく、特定の人材には常に不足があると指摘します。そして今は、特に希少なスキルを身につけることが、かつてないほど簡単になっているといいます。
Jobさんの結論は、Remoteによって誰でもどこでも雇えるようになり、AIによって何でも学びやすくなった今は、これまで雇用機会に恵まれなかった地域を引き上げるうえで史上最高の時代だというものです。
例えば高度な教育を受けたエンジニアは世界のほとんどの地域で希少で、高給です。オランダやポルトガルに優秀なエンジニアが増えたからといって、サンフランシスコのエンジニアが失業しているわけではないとJobさんは話します。供給はまだ足りず、需要が非常に高いからです。
Jobさんは、AIで将来どうなるかはわからないとしたうえで、リモートワークが格差を生んでいるとは考えていません。むしろ逆方向に進んでいることを示すデータがあるといい、ポルトガルの例を挙げました。
Remoteがポルトガルで事業を始めた頃、平均は月1,500ユーロほど
現在、Remote経由で雇用されている人は月4,500〜5,000ユーロほど
Jobさんによると、給与は4〜5年ほどで約3倍になりました。この人たちはもともと数少ない地元企業にしか就職の道がありませんでしたが、今では世界中の企業にアクセスできるようになったといいます。
都市から離れる人、空っぽのオフィスビル。リモートワークが変える街
宮武さんは、リモートワークで住む場所をどこでも選べるようになる中で、都市は大きくなるのか小さくなるのか、どちらの議論も成り立つと問いかけます。
Jobさんは、変化はすでに起きていると答えます。Remote自身のデータや国勢調査などのデータを見ると、分散型の組織で働く人の多くは主要都市にはおらず、主要都市から遠く離れた場所に住んでいることが多いといいます。これは2〜4年前には見られなかった傾向だそうです。
その結果として、かつてサービスや住宅が足りなかった地域が、以前よりはるかに開発されるようになっています。Jobさんはこれを好循環と呼んでいます。
人が移る
分散型組織で働く人が、主要都市から離れた地域に住む
需要が生まれる
移り住んだ人が、より多くのサービスを必要とする
開発が進む
サービスや住宅が整い、さらに人を引きつける
新しい経済
主要都市の外に、別の経済が生まれる
一方、都市の側では2つの変化が起きているといいます。1つは、世界中から外国人がより多く訪れていることです。例えば日本を探索したい人は、まず東京やその周辺に降り立ち、そこから次の行き先を考えるとJobさんは説明します。
もう1つはオフィスの空室です。Jobさんによると、多くの都市でオフィスの空室率は50〜70%ほどで、宮武さんも今のアメリカの状況はかなり悪いと応じています。
Jobさんは、ニューヨークを夕方6時か7時ごろに歩くと、明かりはついているのに誰もいないオフィスがたくさん見えて不気味だと話します。サンフランシスコはさらに厳しい状況だそうです。
こうした中で、オフィスビルを住宅に転換することを専門にする企業が現れ始めているといいます。世界の主要都市の多くでは住宅が大きく不足していて、その一方で空のオフィスが大量にあるからです。
Jobさんは、この変化が一部の政府を戸惑わせているとも指摘します。多くの政府は主要都市の外に住むためのインセンティブを用意してきましたが、今の人の移動はインセンティブとは関係なく起きているからです。
Jobさんは、将来はずっと平準化され、どこに住んでいるかで収入や受けられるサービスが決まらなくなると考えています。ただし、それは長期的な話だとも付け加えています。
宮武さんもこの見方に同意し、都市では商業ビルの多くが住宅に変わり、都市に入る人が増える一方、郊外に住む人も増え、多世帯住宅が再び現れるかもしれないと話します。すべての企業が100%リモートである必要はないものの、リモートワークが現実に可能になったことが、働き方と暮らし方を考え直すきっかけになるという受け止めです。
海外に出たい日本企業は何から始めればいい?
インタビューの最後に、宮武さんは海外展開を目指す日本企業へのアドバイスを求めました。Jobさんの答えは「どんな旅も最初の一歩から」というものです。
Jobさんが勧めるのは、日本の外にいながら、日本と時差の小さい地域の人を1人雇うことです。時差が大きくずれた相手と変な時間に通話する必要がない、小さな一歩から始めるのが一番簡単だといいます。
そのうえで、雇った人の声に耳を傾けることが大事だとJobさんは話します。国内中心の企業から国際的な企業へ移るには、事業の進め方を少しずつ変える必要があるからです。
もう1つの注意点は、オフィス中心の企業にリモートの社員が1人でもいれば、全員がリモートであるかのように働く必要があるということです。全員が毎日オフィスに行っていると、それは非常に難しくなります。
そのためJobさんは、全員が毎日オフィスに行くのをやめるところから少しずつ始めるのがよいと勧めています。そして冗談めかしつつ、remote.com を使ってほしいとも付け加えました。
Remoteについて知りたい日本企業向けには、remote.com のサインアップボタンから登録するのが一番簡単で、Jobさんに直接メールすることもできると案内されています。
まとめ
このインタビューでRemoteの創業者2人が繰り返し示したのは、才能はどこにでもあるが機会はそうではない、という前提です。フルリモートで約2,000人の組織を動かす工夫から、ポルトガルの給与の変化や都市の変化まで、場所に縛られない働き方が雇用と暮らしを組み替えつつある様子が語られました。
- Remoteは法人設立から労働法、給与、福利厚生、退職対応までを肩代わりし、企業が世界中の誰でも雇えるようにしている
- Jobさんは、オフィスは良い仕事場になりうるが会社運営の土台ではなく、土台は良い仕事場があることだと考えている
- 社員が倍になれば文化も新しくなるため、Remoteは価値観や制度を少しずつ変え続け、会社そのものを「製品」として扱っている
- Remoteでは文書、動画メッセージ、通話の順に使い、通話は最も高くつく手段として明確なアジェンダとともに使う
- 海外展開を目指す日本企業には、時差の小さい地域の1人を雇い、その人の声を聞きながら働き方を変えていくことが勧められている





