1月のニュースを1回で語りきれるのか?
Off Topicは、アメリカを中心にテックニュースやスタートアップ、ビジネス情報を紹介する番組です。今回は1月のテックニュースをまとめて扱う「ゆるニュース回」として収録されています。
宮武さんによると、今年はニュース回の頻度を増やしたいと考えているそうです。ただ、トランプ大統領の就任もあった1月の出来事を1ヶ月分まとめるのは、さすがに量が多すぎると話しています。
一月版ってやっぱり、トランプが就任したっていうのもいろいろ(あって)、1ヶ月でやるのはちょっとさすがに多すぎるっていう感じですよね。
草野さんも、番組は30分前後を目安にしているため収まりきらないと認めています。回数を増やすのか、長さを伸ばすのか、リスナーのフィードバックをもらいながらフォーマットを試していきたいといいます。
宮武さんは、資金調達やM&Aをまとめて紹介するコーナーも一瞬考えたものの、件数が多すぎて断念したそうです。宮武さんがそれを「取引コーナー」と呼んだことに、草野さんは「すごい優しい言葉で言いますね」と笑っていました。
TikTok禁止騒動で光ったDuolingoのマーケティング
最初のメイントピックはTikTokです。アメリカでTikTokが禁止されそうになった時期、多くのユーザーが「さようなら」という動画を上げ、InstagramやYouTubeへフォロワーを誘導していました。
宮武さんによると、TikTokの禁止が迫ったタイミングで、RedNote ── 中国発のSNSアプリ「小紅書(シャオホンシュー)」の英語名。TikTok禁止騒動の際、アメリカのユーザーが代わりの移住先として大量に流入したことで話題になりましたという中国のアプリに移るユーザーが増える現象が起きました。そこにすかさず反応したのがDuolingoです。
Twitterで、ようやくみんな中国語学び始めたんだねみたいなことを言って。
草野さんが見たTikTok動画では、マスコットの着ぐるみが「TikTokの時代は終わりました」と言い、中から「こんにちは、マークです」と人が出てきて着ぐるみを脱いでいたそうです。
(着ぐるみを)脱いでいいんだみたいな。その概念はもうないんだなっていう面白さ。それができるっていうのがすごいですよね。
宮武さんが見たのは、TikTok発のスラングを中国語でどう言うかを教える動画でした。RedNoteに移ったTikTokユーザーが、現地のユーザーにTikTokの用語を教え始めていた流れに乗った企画です。
宮武さんの記憶では、アメリカのユーザーで中国語を学ぶ人の数が216%増えたといいます。タイムリーに企画を出すだけでなく、実際に効果まで出している点が一番すごいと評価しています。
TikTokとアメリカ政府、5年越しの攻防の流れ
宮武さんは、TikTokとアメリカ政府をめぐるこれまでの流れを、ざっくり整理しています。始まりは2020年、当時のトランプ大統領がTikTokを禁止しようとしたことでした。
2020年の時点では、オラクルやウォルマートなどアメリカの株主が入る形で一度合意しかけましたが、取引は延期され、最終的に法的な理由で白紙になりました。
2024年4月には、バイデン大統領が「親会社のバイトダンス ── TikTokを運営する中国のテック企業。TikTokのほか、動画編集アプリCapCutなど複数のアプリを手がけていますがTikTokを切り離さない限り禁止する」という法律にサインしました。狙いは、TikTokをアメリカもしくは中国以外の配下に置くことだったと宮武さんは説明しています。
この法律では売却までの期限が270日で、売却が進みそうなら90日延長できる仕組みでした。そのため、バイトダンスには1年ほどの猶予があったことになります。
しかしバイトダンス側は「切り離せない」という姿勢を崩しませんでした。TikTok側はアメリカ政府を相手に、法律が言論の自由に反すると訴えましたが、最高裁判所まで争って敗れています。
その後、TikTokはトランプ氏にアピールを重ね、トランプ大統領は就任初日に75日間の延長を与えました。トランプ大統領は、アメリカが半分を保有すれば大丈夫だという趣旨の発言をしているそうです。
TikTokはなぜ一時的にシャットダウンしたのか?
草野さんの「TikTokは復活したけれど、もう大丈夫なのか」という問いに、宮武さんは「まだわからない」と答えています。半分の保有がどんな形になるのか、いくらで取引されるのかも見えていないためです。
宮武さんによると、TikTokのシャットダウンは予定されていたアメリカ時間の日曜0時ではなく、中国時間の0時に行われたようで、想定より12時間ほど早かったといいます。
そもそも法律が求めていたのは、アプリのシャットダウンではなくアプリストアからの削除でした。AppleとGoogleはこれに従っています。
アプリストアから消えれば、既存ユーザーは使い続けられても新規ユーザーは入れず、アップデートもできません。徐々に体験が劣化していくのが法律の意図だったと宮武さんは見ています。
アプリストアから削除。既存ユーザーは使えるが、新規登録やアップデートができず徐々に劣化
その方向性に従わず一旦シャットダウンし、12時間ほど後に復活
TikTokが復活するまでの間には、「TikTokが入ったスマホを売ります」という出品も現れ、2000ドルで売るような例もあったと2人は振り返っています。
イーロン・マスクやミスタービーストに買収の可能性はあるのか?
TikTokの買収をめぐっては、イーロン・マスク氏やミスタービースト氏などが名乗りを上げています。草野さんは、ミスタービースト氏が自身の動画で「CEO of TikTok」を自称していることにも触れました。
宮武さんは、買収の可能性はゼロではないとしたうえで、ここからはTikTokとアメリカ政府、アメリカ企業の交渉になると見ています。焦点は、TikTokのアメリカ事業にどこまで価値があるか、バイトダンスがアルゴリズムまで渡すのか、監査だけを認めるのかといった点です。
鍵になるのは、禁止されれば価値がゼロになるという事情です。宮武さんは、トランプ大統領がこの点をうまく使っているとみています。
トランプはそれをうまく活用していて、めちゃくちゃ多分安く買い叩こうとしてるっていう。
宮武さんによれば、不利なのはバイトダンス側です。アメリカには他のアプリもあり、クリエイターは苦しむかもしれないものの、政府にとっての打撃はそこまで大きくないと話しています。
TikTokのアメリカ事業はいくらの価値があるのか?
宮武さんは、予想にすぎないと断ったうえで、TikTokのアメリカ事業の価値をざっくり試算しています。アメリカの月間アクティブユーザーは1.7億人で、そのうち半分ほどの8500万人がデイリーアクティブユーザーとみられるそうです。
このDAUは、メタのFacebookとInstagramのおおよそ半分です。一方で、1セッションあたりの滞在時間ではTikTokが倍以上だといいます。
メタの時価総額
約1.5兆ドル
メタのアメリカ事業
その半分として約7500億ドル
TikTokの理論値
DAUがメタの半分なので約3750億ドル
現実的な評価
マネタイズの差やアルゴリズムの扱いを加味して約1000億ドル
ただし宮武さんは、禁止になれば価値はゼロなので、アメリカの買い手がよほど高く評価しない限り、1000億ドルで取引されることはないだろうと見ています。
オラクル、Perplexity…買い手候補とゼロから作る選択肢
宮武さんによると、TikTokの買収を目指す先は複数あり、ビリオネアが集まったグループがいくつかあります。ミスタービースト氏は、そうしたグループのお金と合わせて買収を目指していると噂されているそうです。
ほかにPerplexity ── AIを使った検索サービスを手がけるアメリカのスタートアップ。質問に対して出典付きで回答を返すサービスで知られていますも合併のオファーを出していますが、宮武さんはうまくいかない可能性のほうが高いとみています。直近の週末の報道では、オラクルが最有力とされ、マイクロソフトの名前も挙がっているといいます。
草野さんは、アメリカ企業がTikTokを買わずにゼロから作る選択肢はないのかと尋ねました。宮武さんの答えは、買えばユーザーがついてくるため、他社に買われた場合にゼロから始めると非常に不利になる、というものです。
やっぱりなんかTikTokのアルゴリズムほどのものが今のところ存在しないっていう認識ですね、僕個人としては。
草野さんもアルゴリズムに加え、CapCut ── バイトダンスが提供する動画編集アプリ。TikTok向けの短尺動画を手軽に編集できることから、クリエイターに広く使われていますを含めた編集ツールの優秀さを挙げています。宮武さんは、禁止と同時にCapCutやSlack類似のアプリ、ゲームの『MARVEL SNAP』なども使えなくなったと指摘し、TikTokが救われてもCapCutが救われない可能性があると話しています。
Instagramの動画編集アプリEditは、CapCutの代わりになる?
Instagram側は、CapCutと明らかに類似した動画編集アプリ「Edit」を発表しています。収録時点ではまだローンチしておらず、予約ができる段階です。
草野さんは、Instagramアプリ内の編集ツールはそれほど良さそうに見えず、Instagramがこれまで出してきた別アプリもあまりうまくいっている印象はないと話しています。
(Instagramが)めっちゃいいアプリ出したらちょっと嬉しいですけどね。
宮武さんは、TikTokのニュースに乗じてユーザーやクリエイターを引き抜こうとする動きが、さまざまなアプリで起きていると見ています。InstagramチームがTikTokクリエイターを現金で引き抜こうとしているという報道もあったそうです。
クリエイター、広告主、ユーザーのどこを狙うのか、各社が別々の切り口で動いているなかで、宮武さんはTikTokが潰れたら1.7億人がどう分散するのかが気になると話します。そのうえで、オーガニックで話題を作ったDuolingoをあらためて評価していました。
トランプ就任式に並んだテックリーダーたちの序列
次の話題は、トランプ大統領の就任式です。会場の前方にテックビリオネアが横並びで集まった光景が、テック界隈でも話題になりました。
宮武さんは、競合同士のトップが横並びで集まるのは珍しい姿で、意図的な配置だったのではないかと見ています。会場にはイーロン・マスク氏、マーク・ザッカーバーグ氏、ジェフ・ベゾス氏、スンダー・ピチャイ氏、ティム・クック氏、サム・アルトマン氏、TikTokのCEOのほか、LVMHのアルノー氏の姿もありました。
出席していなかったセールスフォースのマーク・ベニオフ氏の言葉も紹介されています。
(ベニオフさんが言ってたのが)「みんなあれ並ぶのってすごいことだからね」っていうふうに言っていて、「みんなお互いフレンドリーじゃないですからね」っていうのを言ってたので。
今回の就任式は寒さのため屋内で行われ、会場が狭いことから中継を見る別室も用意されました。サム・アルトマン氏はその別室から見ていたはずだと宮武さんは話しています。
別室には、トランプ大統領が出演したポッドキャストのメンバーであるジェイク・ポール氏、ローガン・ポール氏、ネルクボーイズ、コメディアンのセオ・ヴォン氏のほか、Scale AIのアレクサンダー・ワン氏も同じグループにいたそうです。
残念ながら、まだそのレベルにはっていう。(時価総額)1トリリオン超えしたら話そうっていう感じじゃないですかね。
宮武さんは、トランプ大統領側がアメリカにはテックリーダーが多く、みんながアメリカファーストで動いていると見せようとしたのではないか、と好意的に解釈しています。草野さんは、ピチャイ氏とマスク氏が同じ画面に並ぶ光景に、テックオタクとして興奮したと話しつつ、仲が良さそうな雰囲気ではなかったとも感じたそうです。
就任式の週末に続いたテック関係者のパーティー
宮武さんによると、就任式前の金曜日から月曜日にかけて、テック業界の人々がこぞってワシントンDC入りし、パーティーが続いていました。
金曜日のクリプトボール ── 暗号資産(クリプト)業界の関係者が集まり、トランプ大統領の就任を祝うために開かれた舞踏会形式のイベント。「ボール」は舞踏会を意味しますについて、宮武さんは、クリプト業界ではそこに行けるかどうかが業界に入り込めているかの勝負になっていたらしいと話しています。
草野さんは、ピーター・ティール氏が就任式には出ず、裏ではしっかりパーティーを開いている点に「ティールだなー」と感じたそうです。週末にはYouTubeやSpotifyもポッドキャスターを招いたイベントを開いていたといいます。
テックと政治、近すぎませんか?
草野さんは、政治系のコンテンツは人気があり、今後増えるだろうと話しつつ、テック業界と政府が仲良くなりすぎるのも良くないのではないかと問いかけます。特にイーロン・マスク氏については「近すぎません?」と感じたそうです。
宮武さんは、マスク氏とトランプ大統領がどこかで喧嘩して別れるのではという見方もあると触れたうえで、銀行や石油などほかの業界も長くロビー活動をしてきたと指摘します。そのなかで、ようやくテックの出番が来たという見方です。
宮武さんの見立てでは、テック業界が政府と一緒に良いポリシーや法律を作れるかが今後の見るべきポイントになります。
DeepSeekの評価と、ドラマ『Severance』の成功とは
宮武さんは1月の話題として、中国のオープンソースAIモデルDeepSeek ── 中国のAI企業が開発した大規模言語モデル。オープンソースで公開され、低コストながら高い性能を示したことで2025年1月に大きな注目を集めましたにも触れています。実態がまだ見えない部分が多く発言しづらいとしながらも、評価は非常に高いといいます。
低コストで使えることから乗り換えるスタートアップも増えている一方、中身が見えない点については一部から強く批判され、一部からは強く支持されている状況だそうです。
草野さんが挙げたのは、好きなドラマ『Severance』のシーズン2の開始でした。宮武さんはまだ見ていないものの、マーケティング施策がすごすぎると話題になっていることは知っていました。
草野さんは、近年『バービー』や『ウィキッド』で映画のマーケティングが盛り上がったことに触れつつ、ドラマにとっての成功とは何かを考えたといいます。
しかもストリーミングで誰も見てないApple TV+で誰も見ない。Appleごめんなさい。
ドラマは放送期間が数ヶ月と長くコンテンツ量も多いうえ、シーズン1を見ていないと追いにくいという難しさがあります。草野さんは、映画館に行けば見られる映画とは違う条件のなかで、コンテンツとしての成功をどう定義するかを宮武さんと話したいと語りました。
宮武さんも、このテーマだけで最低30分、おそらく1時間以上かかるとして、別の機会にじっくり話すことを提案しています。2月も同じ形式のニュース回をやりたいとして、番組は締めくくられました。
まとめ
1月のテックニュースは、TikTok禁止騒動と就任式でのテック業界と政権の接近が中心でした。宮武さんは、TikTokの行方はまだわからないとしつつ、禁止されれば価値がゼロになる構図を交渉の鍵とみています。テック業界については、政権に入り込んだ以上、良いルール作りで結果を出せるかが問われると話していました。
- TikTokは禁止法の成立と最高裁での敗訴を経て一時停止し、トランプ大統領の75日延長で復活したが、先行きは未定
- 宮武さんの試算では、TikTokのアメリカ事業は約1000億ドル規模だが、禁止なら価値ゼロという事情が買い叩きの材料になっている
- DuolingoはRedNoteへの移住騒動にすかさず乗り、中国語学習者の増加という効果まで出した
- 就任式にはテックリーダーが並び、週末にはクリプトボールやピーター・ティール氏らのパーティーが続いた
- テックと政治の近さについて、宮武さんは結果を出せるかが問われると見ている


