前編のあとに何が動いたのか?
イーロン・マスクがTwitterに買収を提案した件について、草野さんと宮武さんは前編で、ポイズンピルや買収資金の集め方を取り上げました。今回の後編では、Twitterが抱える課題、マスクさんが買収を望む理由、別の買い手が現れるシナリオへと話を進めます。
収録は前編の配信翌日の水曜日の夕方で、その間にもいくつか動きがありました。宮武さんがまず紹介したのは、Twitterがマスクさんのオファーを断りそうだというウォール・ストリート・ジャーナルの報道です。
この報道によれば、アメリカ時間4月28日の四半期決算発表で、Twitterがより具体的な話をする可能性があります。もう1つは、マスクさんが資金の借り入れ先と話しており、その中にシルバーレイク ── IT企業への投資を専門とするアメリカの大手投資ファンド。イーゴン・ダーバンさんは共同CEOで、Twitterの取締役も務めていますのイーゴン・ダーバンさんがいるというニューヨーク・ポストの報道です。
取締役11人で株式2.42%、誰のための判断か?
宮武さんが最初の論点として挙げたのは、Twitterの取締役陣がどこにモチベーションを持っているのか、という問いです。宮武さん自身、意見が分かれるややセンシティブな話だと前置きしています。
取締役の役割は、株主から選ばれた立場として、最も小さな株主まで代表して会社のために動くことです。一方でマスクさんはレターの中で、オファーが通れば今の取締役を交代させる考えを示していました。
なんで、OKしたら自分をクビにするっていうことなんで。まずそれを、誰も多分やりたくないっていうのは、まあ絶対あるのと。
さらに宮武さんは、取締役の多くがすでにある程度の資産を持っており、Twitterの株価が上がっても下がっても、個人の資産にはそれほど影響しないと指摘します。
Twitterの取締役は11人で、CEOのパラグ・アグラワルさん、共同創業者のジャック・ドーシーさん、マスターカードの役員、スタンフォード大学の教授、元GoogleのCFOなど、錚々たる顔ぶれです。宮武さんは、彼らがTwitter株を何%持っているかをクイズ形式で草野さんに尋ねました。
ドーシーさん1人で2.3%を持っているため、草野さんは「5パー」と予想しましたが、答えは11人合わせて約2.42%でした。ドーシーさん以外の10人で0.12%しかなく、その半分以上の0.063%はパラグさんの持ち分です。
ドーシーさんの保有が少ない理由について、本人は2008年にTwitterのCEOを外れた際に多くの株を手放すことになったと話しているそうです。取締役の合計と比べると、マスクさんの約9%は突出しています。
まあ大株主が言うのであれば、あの、権利を持つべきなんじゃないかっていうのも理解できるかなっていうところですね。
宮武さんは、株をほとんど持たない人たちが株主を代表して判断してよいのかという疑問は、当然あるべきだと話します。全員が優秀なので一定の判断はするはずだとしつつ、どちらに転んでも自分は儲からない立場では、判断にバイアスがかかる可能性があるという見方です。
ステータスシンボルになった「取締役」
宮武さんによると、取締役の持ち株が少ない問題はTwitterだけのものではなく、アメリカの上場企業全体の課題でもあります。上場企業の取締役が、一種のステータスシンボルになっているというのです。
あの、それこそ人によっては、なんか10社の上場企業を取締役になる人もいるんですよ、アメリカだと。
上場企業の取締役には法的な責任が伴うため、10社も兼務して役割を果たせるとは考えにくい、と宮武さんは話します。報酬も出るため、お金とステータスを稼ぐ手段になっている実態がある、というのが宮武さんの見立てです。ただし、Twitterの取締役がそうだとは思わないとも付け加えています。
もう1つの課題は、上場企業では大株主が経営に深く関わらず、取締役にもならないことです。未上場企業であれば、VCや創業者が株の50%以上を持つこともあり、会社の将来から直接利益を得られるので、経営に本気で向き合わざるを得ません。
宮武さんは、創業者が去ったあとの上場企業では、同じレベルの労力を誰が注いでくれるのかが問題になると話します。ある程度の株を持っていなければ、その労力に見合わないからです。Facebook以外のGAFA ── Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの頭文字を取った呼び方。アメリカの巨大IT企業群を指しますではこれが課題になりうるとし、創業者に議決権の強い別種類の株を渡して補う会社もあると説明しています。
Twitterの株価はなぜ10年近く変わらないのか?
宮武さんが次に挙げたのは、Twitterの株価の問題です。2013年11月のIPO時の株価は41.65ドルで、収録前日に宮武さんが確認した株価は46ドル前後でした。
上下を繰り返しながらも、Twitterの株価は結果として10年近くほぼ変わっていません。草野さんは「いい会社なんですけどね」と漏らし、宮武さんはその「良さ」はプロダクトの可能性であって、株価には表れていないと応じます。
宮武さんは、少なくとも過去5年間のTwitterは大きな賭けに出ていないと指摘します。草野さんも、大きな買収はPeriscopeくらいしか思い浮かばないと同意しました。
対照的なのが、社名をMetaに変えたFacebookです。笑う人も多いけれど、あれだけ大きな賭けをしたこと自体が重要だ、と宮武さんは話します。Facebookがなりたくない会社はアメリカのYahooで、Twitterはそこに近づいていると昔から言われてきたそうです。
Yahooについて、草野さんはマリッサ・メイヤーさんの時代のTumblr買収や若者向けニュースアプリの買収を挙げます。宮武さんは、結果は失敗でも、賭けに出たこと自体は正しかったと評価しました。
そこに賭けるべきかどうかっていうのが多分重要なポイントで。結果、賭けで失敗してしまったんですけど、成功してたら全然変わってたかもしれないので。
宮武さんはこの言葉に、特にテクノロジー業界では、と付け加えています。株価だけで見れば、Twitterは賭けに出てこなかったという説が立てられる、というのがこのパートの整理です。
1人あたり売上7000万円とGoogleの2億円
宮武さんは、Twitterの社内カルチャーの課題が、ベンチャー業界で昔から指摘されてきたことにも触れます。創業メンバーが出入りしてきた経緯もあり、その課題を数字で見る1つの方法が、従業員1人あたりの売上です。
| 企業 | 従業員数・売上 | 1人あたり |
|---|---|---|
| 約8000人・約50億ドル | 約62.5万ドル(約7000万円) | |
| 約13.5万人・約2570億ドル | 2億円以上 | |
| Apple | (言及なし) | 2億円以上 |
大企業として必要以上に採用している面があり、マスクさんが入ればある程度改善される可能性がある、と宮武さんは話します。
エリオットのようなアクティビスト投資家 ── 企業の株を取得し、経営陣に経営改善や株主還元などを積極的に求める投資家やマスクさんの言い分は、こう整理されます。10年間株価がほぼ変わらず、プロダクトのイノベーションも多くない中で、社内のベテランであるパラグさんがCEOになっても同じことの繰り返しになるのではないか、という懸念です。
宮武さんによれば、2014年にS&P500に投資していれば今は約3倍になっているのに対し、Twitterに投資していればほぼ変わっていません。投資家から見れば損をしていることになり、なぜ今の経営陣を信じ続けられるのかという議論になってもおかしくない、という見方です。
「信じてください」と言うしかない?Netflixの前例
アクティビストの批判に対するTwitter側の反論として、宮武さんは「我々を信じてください」と言うしかないと話します。草野さんは「それだけは言っちゃダメ」と笑いますが、宮武さんは、だからこそ具体的なプランを見せる必要があると続けます。
参考になるのが、前編でも取り上げたNetflixです。Netflixは2012年にポイズンピル ── 敵対的買収を防ぐ仕組み。買収者以外の株主に新株を安く取得させ、買収者の持ち株比率を下げますを発動し、カール・アイカンさんは株を買い増さずに売却しました。その翌年に配信したのが『ハウス・オブ・カード』です。
オリジナル作品は2012年から始めていたものの、最初の大ヒットは『ハウス・オブ・カード』だったと宮武さんは説明します。草野さんは、今では当たり前になったので懐かしいと振り返りました。
でもその情報って、その一般の人たちは知らないじゃないですか。あと、場合によってはカール・アイカンさんも知らないじゃないですか。
当時のNetflixの経営陣は、オリジナル作品が出れば株価が上がると信じていたはずだ、と宮武さんは推測します。その戦略を説明していれば信じてくれる人もいたかもしれず、Twitterも同じように説明する必要がある、というのが宮武さんの考えです。Netflixの株価はその後、30倍ほどになったといいます。
取締役会ではなく株主投票で決めるべき理由
宮武さんは個人的な意見として、会社を売るかどうかはTwitterの取締役会ではなく、一般の株主の投票で決めるべきだと話します。株をあまり持たない取締役の動機が問われ、優れたプランがあるかもわからない中で、一定の金額のオファーが出ているからです。
単純に真っ向勝負をするのが個人的にはベストだと思ってます。そこで本来は勝負するべきだとは思うんですけど、そのオプションをポイズンピルのせいで消したんですよ。
取締役会がオファーを断り、別の売却先も見つけなかった場合に起きうることを、宮武さんは順に説明しました。
オファーを却下
取締役会が断り、別の売却先も見つけない
マスクさんが売却
マスクさんがTwitter株を売る
株価が下落
たとえば30ドルまで下がれば、時価総額が1兆円以上減る
株主が訴訟
オファーと比べると2兆円以上のマイナスになり、取締役が訴えられる
草野さんが「どうすることもできないじゃないですか」と尋ねると、宮武さんは、おそらく訴訟は起き、何年も続くだろうと答えます。
宮武さんは、取締役が売りたくない理由そのものを疑うべきだと話します。これほど文化的な影響力を持つメディアは他になく、そのボードに座ること自体が、お金以上の権力になるという説があるからです。
取締役会の内側で何が起きている?ドーシーさんのリプライ
取締役会は全員一致でポイズンピルに合意しましたが、その内側では気になる動きが出ています。取締役でもあるシルバーレイクのイーゴン・ダーバンさんが、マスクさんと話しているという噂があるのです。
一緒に(ポイズンピルを)発動しようって言ったのに。
もう1人がジャック・ドーシーさんです。ドーシーさんは先週末から、主に他人のツイートへの返信の形で、Twitterの取締役会は昔から機能していないという趣旨の発言をし始めました。宮武さんは「ジャックさんも取締役でしたよね」と苦笑します。
宮武さんがドーシーさんらしいと評価するのは、2015年ごろに復帰した際、3%ちょっとあった持ち分の3分の1、約1%を、ストックオプションのような形で従業員に渡したことです。草野さんは、裸足でオフィスにいる話やパソコンを持たない話も含めて、ドーシーさんが好きだと話しました。
ドーシーさん本人は、エリオットに追い出されたのではなく自分の判断で辞めたと話しているそうです。最近のツイートでは言論の自由をもっと尊重したいとも書いており、宮武さんにはマスク派にしか見えないといいます。
同時に宮武さんは、イーサリアム ── スマートコントラクトを実行できるブロックチェーン基盤。暗号資産イーサの発行元でもありますの創業者ヴィタリック・ブテリンさんの見解も紹介します。マスクさんの買収自体は批判しないものの、SNS企業を1社や1人の個人が所有することは考えるべきだ、という意見です。ドーシーさんは、これにも同意を示すリプライを送っていました。
リプライで表明していくスタイル。いいですね。
宮武さんは、Twitterは他の買収候補も探したうえで、自社の長期戦略がなぜマスクさんの提示額を上回るのかを株主に説明する必要があると話します。説明しても訴訟の可能性は残るものの、説明すれば株主が納得し、訴訟の確率は下がるという考えです。
ホワイトナイトは誰か?独禁法とファンドの壁
宮武さんは、別の買い手、いわゆるホワイトナイト ── 敵対的買収を仕掛けられた企業にとって、より好ましい条件で買収や支援を申し出る友好的な第三者を考えると、候補は非常に限られると話します。まず、独占禁止法 ── 市場の独占や不公正な取引を規制する法律。アメリカでは反トラスト法と呼ばれますの壁があるからです。
AppleとかGoogleここ取ったらもうもう絶対NGじゃないですか。
宮武さんは、FTC委員長のリナ・カーン ── アメリカ連邦取引委員会(FTC)委員長。巨大IT企業への規制に積極的な姿勢で知られますさんが絶対に認めないだろうと話します。そもそも、これだけの現金を出せるプレイヤーも多くありません。
噂として出ているのは、ファンドのアポロです。アポロはYahooを買収したファンドでもあり、宮武さんは「まさかのYahooがTwitterを買収する」ことになるのは嫌なシナリオだと笑います。
マスクさんと組む形でVCが加わる可能性もありますが、メガファンドでも桁外れの金額です。ソフトバンクが入れば別ですが、宮武さんは今のソフトバンクにはそこまで資金がないと見ています。
セールスフォース、ディズニー、そしてストライプ
事業会社では、過去にTwitter買収を検討した会社が再び候補に上がると宮武さんは見ています。筆頭がセールスフォースで、Twitter会長のブレット・テイラーさんはセールスフォースのCOOでもあります。
セールスフォースは2016年に買収を真剣に検討しており、宮武さんは、マーケティングのトップファネルを取れることが狙いだったのではないかと推測します。アドバイザーや役員の反対はあったものの、見送った理由はそこではありませんでした。
(ベニオフさんが)滑って転んで、足を怪我しちゃったんですよ。いわゆる血がちょっと出ちゃって。
資金集めのミーティングに向かう途中で転んだことを、マーク・ベニオフさんは何かのサインだと受け止め、買収をやめたそうです。ベニオフさん自身が語った話だと聞いて、草野さんは驚きを隠せません。
2017年にはディズニーも検討していましたが、ヘイトスピーチなどネガティブなコメントの多さから、当時のボブ・アイガーさんが見送りました。ドーシーさんは2018年までディズニーの取締役で、ESPNなどのメディアとの連携も考えられると宮武さんは話しますが、可能性は弱いという見立てです。
ほかにも宮武さんはマイクロソフト、テンセントやバイトダンス、そしてストライプの名前を挙げました。それぞれの見立ては次のとおりです。
| 候補 | 可能性がある理由 | 難しい点 |
|---|---|---|
| アポロ | 噂が出ている大型ファンド | Yahooの買収元でもある |
| セールスフォース | 2016年に真剣に検討、会長がCOO | 過去にベニオフさんが見送った |
| ディズニー | メディア事業との連携 | ヘイトスピーチで見送った経緯 |
| マイクロソフト | メディア企業ではなく政府と良好 | 影響力の大きさで厳しい |
| テンセント・バイトダンス | オファーは出しうる | アメリカ政府が認めない |
| ストライプ | 時価総額的に可能、独占にならない | 自ら動くとは考えにくい |
マイクロソフトについて、草野さんは「マイクロソフトツイート」のようにサービス名が消えるのでは、と冗談を飛ばしました。宮武さんが個人的に一番買ってほしいのはストライプです。決済との連携が見込め、コリソン兄弟はTwitterをよく使い、インターネットのGDPを伸ばすというミッションにもTwitterが当てはまると話します。
ツイッターの取締役って意外とツイートしないんですよ。
草野さんも、買収先のトップやボードがTwitterを好きで使っている人のほうがいいと賛成しました。
「ビリオネアがメディアを支配」は新しい問題か?
買収へのリアクションは賛否で大きく分かれています。宮武さんが「言いたいことはわかるが実態とは違う」と見るのが、ビリオネアがTwitterというメディアをコントロールすることへの批判です。
宮武さんは、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、LAタイムズ、ボストン・グローブ、ブルームバーグ、NBC、MSNBCなど、アメリカのメディアの多くはすでにビリオネアがオーナーシップを持っていると指摘します。新聞業界が盛り上がっていた時代から変わらない構図だ、という見方です。
草野さんは、ヴィタリックさんの意見を受けて、個人でも企業でもない第3の選択肢はないのかと尋ねます。宮武さんの答えは、究極的にはWeb3 ── ブロックチェーンを基盤に、ユーザー自身がデータやサービスの所有権を持つことを目指す次世代インターネットの構想、つまりオープンなプロトコルにしてユーザーがオーナーシップを持つ形です。
FTXのサム・バンクマン=フリードさんも同じことを言っており、ドーシーさんもその方向に持っていきたかったはずだと宮武さんは話します。ただ、今のTwitterがある程度機能している以上、コンセプトは良くても実際に使う人は少ないだろう、と課題も挙げています。
なぜ「イーロン・マスクに賭ける」のか?
それでも宮武さんは、変革が必要だと考える人にとって、今のボードと、少なくとも2回変革を起こしたマスクさんのどちらに託すかと問われれば、マスクさんになるだろうと話します。根拠として挙げたのがテスラの実績です。
宮武さんによると、時価総額上位10社の中で、テスラは過去10年の売上成長、過去12か月の売上成長率、過去5年と10年の株価の伸び、従業員の増加率のいずれも最も高い会社です。株価は過去5年でも15倍に伸びています。
一方で宮武さんは、その成功がSNSでも通用するかは別の話だとはっきり断っています。トラックレコードとして成功した人であることは間違いない、という位置づけです。
言論の自由はどこに線を引くのか?
マスクさんが買収を望む理由として、宮武さんは言論の自由と、人類への貢献というミッションを挙げます。SpaceXやテスラと同じく、マスクさんにとってはTwitterが最も人類に貢献する事業になるかもしれない、という見方です。
マスクさんは、コンテンツモデレーション ── SNSなどの運営者が、投稿を規約に照らして削除・制限・ラベル付けするなどして管理することよりも言論の自由を尊重し、各国の法律には従うとしています。宮武さんは、理論上は良いが、どこに線を引くかが難しいと指摘します。
テキストだけ
「お前を殺すぞ」とだけ書いたツイートなら、残す場合もある
住所付き
同じ文に相手の住所が書かれていると、危険な匂いがする
写真付き
さらに写真が送られてくると、どこで線を引くかが問われる
国の法律に従うという方針にも課題があります。政府が自国の政府を批判するアカウントのブロックを求めた例は、過去に実際にあると宮武さんは話します。
で、その検閲してくださいっていうリクエストもTwitterって何万って、例えばトルコでも受けてるんですよ。で、そのうち4割ぐらい去年受け入れてるんですよ。
政府と良好な関係を保つ必要がある一方で、それは言論の自由なのかという疑問も成り立ちます。宮武さんは、マスクさん自身もこの問いへの答えはまだ持っていないだろうと見ています。草野さんは、Twitterへの情報開示請求は日本が2年連続で最も多いと補足しました。
Reddit元CEOの「その考え方は古い」
宮武さんは、Redditの元CEOがTwitterに投稿した長いスレッドを紹介します。マスクさんの言論の自由の考え方は古く、今のインターネットカルチャーを理解していない、という内容です。
元CEOの主張では、SNSは誰もが自由に発信できすぎるため、いじめや、そこから発展する暴力のような極端なシナリオが生まれてしまいます。だからこそコンテンツモデレーションが必要であり、これは政治的な話ではない、という立場です。
いわゆる、もうインターネットがそのカルチャーの戦場になってしまってますと。
SNS企業で働く人にとって、右寄りか左寄りかはどうでもよく、暴力をどれだけ減らせるかに力を注いでいるものの、例外ばかりが起きるインターネットでは追いつけない。マスクさんが入っても追いつけないだろう、というのがスレッドの趣旨だと宮武さんは説明します。
宮武さんは、例外が常に生まれるという点には強く同意する一方、マスクさんがインターネットカルチャーを理解していないという点には同意しません。場合によっては、マスクさんこそ一番理解している人だと考えているからです。
モデレーションが政治化するとき、電話や手紙との違いは?
宮武さんは、アメリカではTwitterが民主党寄り、リベラル寄りだという疑いが昔からあり、ある程度は正しいと話します。その傾向がアルゴリズムに組み込まれるという指摘は、マスクさんのほか、ポール・グレアムさんらも口にしているそうです。
2020年から2021年にかけては、マスクを着けるかどうかという日常的な話題さえ政治化しました。左寄りではない投稿がメディアで批判され、Twitter上でも誤情報とみなされて削除やBANにつながる実態がある、と宮武さんは説明します。
一方で、ユーザーが例外的にひどいことをするのも事実です。宮武さんは、Facebookが買収した投票アプリTBH ── 10代向けに人気を集めた匿名投票アプリ。友人同士でポジティブな質問に投票し合う仕組みで、Facebookが買収しましたの創業者の話を紹介します。
それでユーザーが何をしたかというと、自分のユーザー名ですごい悪口を書いたりとか。
TBHは自由なテキストを書けない設計にしていましたが、ユーザーはユーザー名やプロフィール写真で悪口や人種差別的な表現を持ち込みました。草野さんは「悪い意味でほんとクリエイティブ」と表現します。
そのうえで宮武さんは、どこまでモデレーションするのかを問いかけます。政府は通常、電話をモニタリングしませんし、手紙も規制されません。電話でも同じいじめはできるのに、なぜSNSだけが対象になるのか、という問いです。
大勢に影響を与えられるという違いはあるにしても、線引きは難しいと宮武さんは話します。極論として、モデレーションの強化を望む人に「電話を政府が監視して止めてもいいのか」と問うこともできる、という例えです。
どちらかというと、その政府だったり、その権力者に対して発言ができなかった人が発言できるようにする。のが多分本来の作られた理由でもあると思うので。
言論の自由は「いつでも誰にでも何でも言える」ことと捉えられがちですが、宮武さんは本来の意義を権力者への発言に置きます。権力者に声を上げられない社会も間違いであり、言論の自由とコンテンツモデレーションのバランスの問題だというのが宮武さんの結論です。
アルゴリズム公開、編集ボタン、Bluesky
マスクさんへの批判として、SNSを運営した経験がないという指摘があり、宮武さんもそれは確かだと認めます。その中でマスクさんが提案しているのが、アルゴリズムをGitHubで公開し、誰でも見られて変更も提案できるようにする案です。
もう1つは編集ボタンで、編集履歴を見られるようにする構想です。宮武さんによれば、Twitterはまだ確定ではないものの、有料版のTwitter Blueで実装を進めているとみられます。元のツイートを書き換えるのではなく新しいツイートとして出し、UI上で元のツイートと紐付ける形になりそうだといいます。
例えば「オフトピックが好き」って誰かがツイートしてくれて、例えば僕と草野さんがいいねして、その後オフトピックは嫌いだって編集した場合に、僕と草野さんがそのままいいねしてたら良くないじゃないですか。
いいねやリツイートをゼロに戻すことで、操作を防げるという説明です。草野さんは「好きって言ってくれよのいいねかもしれないですよ」と返して笑いを誘いました。
分散型のTwitterという文脈では、ドーシーさんが立ち上げたBluesky ── Twitter社内で2019年に構想された分散型SNSのプロジェクト。2021年末に別会社として独立しましたも挙がります。宮武さんによると、BlueskyはTwitterとは別の会社で、Twitterと契約している関係です。
ドーシーさんは、Twitterの裏側のインフラを使って誰でも新しいUIを作れる「アルゴリズムのマーケットプレイス」を構想していました。宮武さんは、この構想には良い面と悪い面の両方があると話します。
インフラとUIは再び分けられるか?
宮武さんは、この課題はTwitterの歴史に根ざしていると話します。Twitterは大きく分けて、タイムラインや広告を見せるユーザー向けのUI・UXと、ソーシャルグラフなどのインフラという2つのサービスから成り立っています。
初期のTwitterは、ほぼインフラだけを提供していました。APIを完全公開し、第三者がデスクトップや後にはスマホ向けに独自のTwitterクライアントを作っていました。草野さんも、公式アプリが使いづらかった頃は別のアプリを使う人が多かったと振り返ります。
転機は、広告で稼ぐと決めたことでした。広告を公平に表示するにはUXをコントロールする必要がありますが、無数のUIすべてに対応するのは不可能です。
APIを完全公開し、第三者がそれぞれ独自のUIを作ってTwitterを表示していた
人気クライアントのTweetieを買収し、サードパーティーAPIを閉じてインフラとUIを統合した
宮武さんによると、Twitterは2010年4月に当時最も人気だったモバイルクライアントのTweetieを買収し、公式アプリとして出しました。同じ頃、起業家のビル・グロースさんが個人でTwitterクライアント企業を買い集め、独自にマネタイズしようとしたため、Twitterは一部のアプリをBANし、最終的にサードパーティーAPIを閉じました。
いま出ているアイデアの1つが、新しいオーナーのもとでTwitterを再び2つに分け、場合によっては別会社にする案です。ソーシャルグラフを担うオープンなプロトコルの会社と、Twitterアプリの会社に分けるという構想です。
たとえば宮武さんと草野さんがTwitterの競合を作りたくなれば、プロトコルのソーシャルグラフを使ってTwitterのユーザーを一気に迎え入れ、UIで勝負できるようになります。各社が自由にマネタイズし、プロトコル側も利用料で稼げます。
さらに、多様なコンテンツモデレーションのポリシーが生まれ、どのレベルのモデレーションがよいかを、自由市場でユーザーが選べるようになる点もこの案の利点です。
分散型Twitterという最後の案
宮武さんが最後に紹介したのが、Web3の発想による分散型Twitterです。FTXのサム・バンクマン=フリードさんが、実現までのステップを具体的に示しているといいます。
宮武さんの試算では、仮に1ツイート1円とすると、1日約5億ツイートで年間2000億円ほどになります。広告なしで、Twitterの今の売上の35%ほどに相当する規模です。
ツイートに相互運用性が生まれ、たとえばFacebookが表示したければ表示できる点も利点です。ただ宮武さんは、そうあってほしいとしつつ、現実的ではないと見ています。
すでにTwitterってユーザー数そこまで最近伸びてないですけど、でもコアユーザーはずっと好きで使ってるので。
コアユーザーがわざわざ乗り換える理由をどう作るのか、1ツイートにお金がかかればユーザーが投稿のたびに判断を迫られるのではないか、という点が課題として残ります。
DAU2億人、Twitterが伸びない2つの理由
宮武さんは結論として、Twitterの規模と影響力のギャップに目を向けます。創業から15〜16年、売上は約50億ドル(約5000億円)あり、文化的なインパクトは圧倒的です。
しかしデイリーアクティブユーザーは2億人ほどで、アメリカに限れば4000万人に届きません。草野さんも、日本ではTwitterの人気が高いので実感しにくいものの、アメリカではセレブもInstagramほどツイートしていないと話します。売上でも、LinkedInは約140億ドルあるといいます。
宮武さんは、Twitterが伸び悩む理由を2つ挙げます。1つ目はプロダクトの課題で、何を作るべきかが非常にわかりにくいプロダクトだという点です。
興味関心でつながるインタレストグラフ型のキュレーションに寄せてTikTokのようになるのか、逆にプロトコルとUIを分けて初期のTwitterに戻るのか、プロダクトのビジョンが定まりにくいと宮武さんは話します。
2つ目はカルチャーの課題です。経営陣やボードの問題が社内カルチャーに影響し、そのカルチャーがプロダクトをゆがめているのか、プロダクトの迷走がカルチャーをおかしくしているのか、おそらく両方だというのが宮武さんの見立てです。
マスクさんの得意分野とTwitterの課題は一致するか?
宮武さんは、賭けに出るなら個人的にはマスクさんに賭けたいと話します。ただ、SpaceXやテスラとTwitterでは、抱えている課題の性質が違うとも指摘します。
エンジニアリング中心のテクニカルな課題が多く、マスクさんが最も適した人材
ボット対策などの技術課題もあるが、一番の課題はビジョンとプロダクトデザイン
近い前例として、宮武さんはベネディクト・エヴァンスさんの指摘を紹介します。スティーブ・ジョブズが復帰した当時のAppleも、社内カルチャーの問題と、方向性の定まらないプロダクトビジョンを抱えていました。ジョブズはその組織とビジョンの両方を変えたのです。
パラグさんなのか、マスクさんなのか、別の誰かなのかはわからないものの、Twitterのオーナーは同じことを考えなければならない、と宮武さんは話します。マスクさんに賭けるか、別の人に賭けるかが、最も重要なポイントだという整理です。
草野さんは、プロダクトデザインに長けたドーシーさんがいた時期でさえ、Twitterが本当にうまくいっていたのかはわからないと話します。宮武さんは、Squareとの兼務や、3%ほどしか株を持たないことによる動機の問題、ボードの抵抗があった可能性を挙げました。
当面の注目点は、Twitterの取締役会が正式な最初の回答を出すとみられる4月末です。草野さんは、ドーシーさんの思想を受け継ぐ人が今のTwitter社にどれだけいるのかも気になると話し、この回を締めくくりました。
まとめ
イーロン・マスクのTwitter買収提案をめぐり、宮武さんは株をほとんど持たない取締役会の構造、変わらない株価、限られた売却先、そして言論の自由とプロダクトの課題を順に掘り下げました。ポイズンピルで真っ向勝負の道が閉ざされた今、Twitterには株主への説得力ある戦略の説明が求められ、最終的な論点は誰がビジョンとプロダクトデザインを立て直すのかに行き着きます。
- Twitterの取締役11人の持ち株は合計約2.42%で、約9%を持つマスクさんとの差が、取締役の動機への疑問につながっている
- 株価が10年近くほぼ横ばいだったことから、宮武さんは大きな賭けに出なかったことを問題視し、株主投票で売却を判断すべきだと主張した
- 独占禁止法の壁でホワイトナイト候補は限られ、宮武さんの本命はストライプ。セールスフォースは過去、ベニオフさんの転倒を機に買収を見送った
- 言論の自由とコンテンツモデレーションは線引きが難しく、宮武さんは権力者への発言を守ることを軸にしたバランスの問題だと捉えている
- Twitterの本質的な課題はビジョンとプロダクトデザインであり、技術課題に強いマスクさんがそこに通用するかが最大の賭けになる




