「エクイティ」とはここでは何を指すのか
この回のテーマは「労働がエクイティ化する現象」です。草野さんが「エクイティって株?」と確認すると、宮武さんは株式やオーナーシップを含む、かなり広い意味で使っていると答えます。
宮武さんによると、金融的な定義では株式に近くなりますが、今回のエクイティは「公平性」という意味ではありません。株式やオーナーシップに近いものとして話を進めると説明しています。
株でしたりオーナーシップだったり。大体僕が何か定義する時ってすごい広い定義になっちゃうので、いろんな意味でのエクイティ。
このテーマは2週にわたる構成で、今回はエンタメ編、翌週はスポーツ編として話す予定だと紹介されています。
ハリウッドのストライキは何を問いかけたのか
エンタメ編の入り口は、収録時点でまだ続いていたハリウッドのストライキです。草野さんは、AIの使用規制やギャラ、ストリーミングに関わる仕事の話が出ていたと振り返ります。
宮武さんが注目点として挙げたのは、脚本家と役者の両方が同時にストライキをしていることです。宮武さんの記憶では、両者が同時に行うのは確か43年ぶりだといいます。
宮武さんによれば、前回の同時ストライキはテレビが人気になった時期で、映画に出演した作品がテレビで流れるならその分のお金も欲しい、という要求でした。1980年代の役者のストライキも、VHSなどのホームビデオが広まった時期だったと話しています。
宮武さんは、新しいテクノロジーが入ってくるタイミングでストライキが起きやすいのではないかと見ています。そのうえで気になっているのは、ギャラを上げる交渉が本当に最善なのか、という点です。
そもそも高いギャラを要求するのはいいんですけど、問題なのはハリウッドで、もう無料でも働きたいって人ってめちゃくちゃ多いんですよね。
草野さんも、出たい人は多いのに出られる作品は限られていると応じます。宮武さんは、給料は短期的な報酬なので、長期的な報酬を考えるべきかもしれないと話します。
宮武さんの提案は、短期的な給料を少し減らす代わりにアップサイドを取りに行くことです。ここで「エクイティ」という考え方が出てきます。
マーベルはなぜ主要IPを手放したのか
役者側の実例として、宮武さんはアイアンマンの話を始めます。その前提になるのが、マーベルの財務状況です。
宮武さんによると、マーベルは1996年に破産申請をし、その後も資金がほとんどなかったため、主要なIPを売却しました。X-Menやファンタスティック4はフォックスへ、スパイダーマンはソニーへ渡りました。
2002年、2004年、2007年に公開された『スパイダーマン』3部作はソニーの映画です。宮武さんによると、3作の映画収入は約2.5ビリオンでしたが、マーベルが受け取ったのは約62ミリオンでした。
宮武さんは、約80億円という額自体は悪くないとしつつ、映画全体で3000億円以上を稼いでいることを考えると、マーベルの取り分はとても少ないと話しています。
そこでマーベルは2005年、メリルリンチ ── アメリカの大手証券会社。2009年にバンク・オブ・アメリカの傘下に入りましたと8年間で525ミリオンのローンのような契約を結び、自社で映画を作る方向に進みます。ソニーのスパイダーマンの成功を見て、自分たちでも作らなければと考えたと宮武さんは説明します。
ただ、マーベルに残っていたIPは、当時B級と見られていたものでした。アントマン、ブラックパンサー、キャプテン・アメリカ、ドクター・ストレンジ、シャン・チーは、映画化もされておらず、コミックで一部の人が知っている程度だったといいます。
ロバート・ダウニー・ジュニアはなぜ低いギャラを選んだのか
マーベルはまずアイアンマンを映画化し、最初の作品に約140ミリオンの予算をかけました。宮武さんによると、当初の主演候補はトム・クルーズで、草野さんも「ぽいですね」と反応します。
最終的に主演に決まったのはロバート・ダウニー・ジュニアです。宮武さんによると、ダウニー・ジュニアは90年代初めには人気の若手俳優でしたが、ドラッグの問題や刑務所に入ったことなどがあり、キャリアを立て直す必要がありました。
当時マーベルを率いていたケヴィン・ファイギ ── マーベル・スタジオの社長。マーベル・シネマティック・ユニバースの作品群を統括してきた人物ですさんも、一番大きなリスクはダウニー・ジュニアとの契約だったと話していたそうです。
宮武さんは、ダウニー・ジュニアの立場なら、次にいい映画に出られるかわからないので、できるだけ多くのキャッシュを求める判断もありえたと話します。しかしダウニー・ジュニアは、ベースを約500K、日本円で約7000万円と低めにし、その代わりに映画収入の1%未満の取り分を求めました。
草野さんが、ギャラの決め方は映画や俳優ごとに違うのかと尋ねると、宮武さんは「違います」と答えます。有名俳優ほど交渉しやすく、ベースの報酬を下げる代わりに映画収入の一部を受け取る契約もあるそうです。
ただうまくいかなかったらその分(映画収入の取り分は)もらえないっていう話でもあるので。なんで、一緒にアップサイドをシェアしましょうと。
アイアンマン1作目の映画収入は585ミリオンで、ダウニー・ジュニアは追加で約2ミリオンを受け取りました。その成功を受けて、ダウニー・ジュニアは続編のたびに条件を交渉し直していきます。
| 作品 | ベース | 合計 |
|---|---|---|
| アイアンマン | 約500K | ベース+約2ミリオン |
| アイアンマン2 | 10ミリオン | 12ミリオン |
| アベンジャーズ | 10ミリオン | 50ミリオン |
宮武さんによると、ダウニー・ジュニアはマーベル作品に9作ほど出演し、合計で約450ミリオンを得ました。自分にベットしたことと、その後の交渉をしっかり行ったことが大きかったと宮武さんは見ています。
ディカプリオやトム・ハンクスはどう交渉したのか
映画収入の一部を報酬にする交渉は、ロバート・ダウニー・ジュニアだけのものではありません。宮武さんは、クリストファー・ノーラン ── 『ダークナイト』『インセプション』『オッペンハイマー』などで知られる映画監督。脚本も手がけることが多い作家です監督の『インセプション』の例を挙げます。
宮武さんによると、レオナルド・ディカプリオは当時20ミリオンだったベースをほぼゼロにし、その代わりに映画収入の一定割合を求めました。結果として約50ミリオンを得たそうです。
ディカプリオがその判断をした理由について、宮武さんは脚本の良さもあったかもしれないとしつつ、ノーラン監督の作品だったことも大きかったのではないかと推測しています。
さらに『プライベート・ライアン』では、トム・ハンクスとスティーブン・スピルバーグの2人で、映画収入の4割を受け取る契約になっていたと紹介されます。2人の配分はわからないと宮武さんは補足しています。
ジョージ・ルーカスは何と引き換えに続編の権利を得たのか
監督や脚本家の側の実例として、宮武さんが最もわかりやすい話として挙げるのがジョージ・ルーカスです。スター・ウォーズを作れた背景には、契約交渉とエクイティの考え方が大きく関わっていたといいます。
ルーカスは1971年に、大学時代の映画プロジェクトをもとにした『THX 1138』を公開しました。その後ユニバーサルと提携し、2本の作品のストーリーについて、ユニバーサルが先に映画化を判断できる契約を結びます。
ルーカスが出した案の1つは『アメリカン・グラフィティ』、もう1つはまだタイトルのない9部構成のSF作品でした。ユニバーサルは『アメリカン・グラフィティ』には乗りましたが、9部構成の宇宙アドベンチャーは見送ります。
宮武さんによると、当時は続編という考え方があまりなく、9部作という構想自体が珍しいものでした。ルーカスはディズニーにも持ち込みましたが断られ、最後にフォックスが引き受けます。
フォックスとの条件は口頭で合意していて、脚本で50K、制作で50K、監督で50K、合計150Kでした。宮武さんは、日本円で約2000万円程度だと補足しています。
その最中に公開された『アメリカン・グラフィティ』は、制作予算750Kに対して映画収入が100ミリオンを超える大ヒットになりました。宮武さんは、ルーカスはこの成功を背景に報酬を少なくとも500K、おそらく1ミリオン程度まで引き上げられたはずだと見ています。
それ(報酬の引き上げ)を捨てて、ただ契約に追加の条件を入れて。「続編の権利はジョージ・ルーカスが持つ」っていう契約書にしたんですよ。
ルーカスもスター・ウォーズが大ヒットするとは知りませんでした。それでも、自分の作品をコントロールし、自分のビジョンを実現するためにオーナーシップを求めたと宮武さんは話します。
1977年に公開されたスター・ウォーズは、制作予算が当初の5ミリオンから8ミリオン、最終的に11ミリオンまで膨らみました。それでも映画収入は775ミリオンに達し、大成功を収めます。
マーチャンダイジングの権利は誰の手に渡ったのか
スター・ウォーズには、もう1つ重要な権利がありました。それがマーチャンダイジングライツ ── キャラクターや作品のロゴなどを使って、おもちゃや衣類などの商品を作り販売する権利。商品化権とも呼ばれますです。最初の作品では、配給を担ったフォックスがこの権利を持っていました。
宮武さんによると、当時は商品化権を重要だと考える人はほとんどおらず、「どっちでもいい」という扱いでした。ところが1978年には、スター・ウォーズのおもちゃが4000万個、合計100ミリオン分売れます。
これを見たルーカスは、続編の交渉でマーチャンダイジングライツも求めます。普通なら通らない要求ですが、続編の権利をルーカスが持っていたため、「次の映画は別のスタジオに持っていく」と言える立場にありました。
フォックスは続編を自社で作ってほしかったため、合意するしかありませんでした。結果として、マーチャンダイジングライツはすべてルーカス側に移り、フォックスは映画とビデオレンタルの権利を7年間持つことになります。
続編の権利を確保
報酬の引き上げより、続編の権利を持つ条件を優先した
1作目が大ヒット
おもちゃが4000万個、100ミリオン分売れる
再交渉
続編を別のスタジオへ持っていける立場を背景に、商品化権を要求
権利がルーカスへ
フォックスは映画とビデオレンタルの権利を7年間保持
宮武さんはIPの力の例として、スター・ウォーズの映画が公開されなかった2011年にも、関連おもちゃが3ビリオン分売れたことを挙げます。草野さんが、新作がなくても買いたくなる理由を尋ねます。
結構子供だと何回も同じ映画見るじゃないですか。繰り返しで。そういうのは多分あるのかなっていうのは思いますね。
ディズニーへの売却額4.05ビリオンに込められた意味とは
ルーカスは最初のスター・ウォーズの後、さらに5本のスター・ウォーズ映画を自ら手がけ、合計で4.3ビリオンの映画収入を実現しました。草野さんが最後まで作らなかった理由を聞くと、宮武さんは、全作品を監督したわけではなく、途中で別の人に任せた部分もあり、エネルギーを使う仕事だったからではないかと答えています。
ルーカスフィルムは4.05ビリオンでディズニーに売却されました。宮武さんによると、4ビリオンではなく4.05ビリオンにしたのは、マーベルの売却額である4ビリオンを超えたかったからだそうです。
スター・ウォーズ公開後の35年間で、関連するおもちゃ、DVD、ゲーム、本などは巨大な売上を生みました。
宮武さんは、本やコミックでも2ビリオンの売上があったと話しています。さらにディズニーへの売却額は半分がキャッシュ、半分が株式で、ルーカスは受け取ったディズニー株をほとんど売っていないと噂されているそうです。
草野さんが「宮武さんが監督なら、同じ交渉をしますか」と聞くと、宮武さんは難しいと答えます。ルーカスのすごさは、成功するかわからない中で判断したことであり、目的は自分のクリエイティブをコントロールすることだったと話しています。
草野さんは、スター・ウォーズのように商品化と相性がよい作品なら、事前に見通せたかもしれないと指摘します。宮武さんは、今ならそこまで計算する人は多いものの、当時はフォックスもルーカスも計算していなかったと答えます。
『ジョーカー』と『オッペンハイマー』の監督はどう交渉したのか
宮武さんは、今は映画収入の取り分を交渉する監督が増えていると話します。例として挙がったのが、DCの映画『ジョーカー』を手がけたトッド・フィリップス監督です。
宮武さんによると、フィリップス監督は給料をゼロにし、映画収入の10〜13%程度を受け取る契約にして、約70ミリオンを得ました。『ハングオーバー』シリーズでも、似た交渉をしていたといいます。
草野さんは、フィリップス監督がそれまでコメディを多く作ってきたため、『ジョーカー』はまったく違う作品で面白いと話します。宮武さんは、『ダークナイト』のヒース・レジャーの印象が強い役柄だったにもかかわらず、ホアキン・フェニックスがうまく演じたと評価しています。
『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン監督の交渉は、さらに強気なものでした。宮武さんによると、ノーラン監督はスタジオに次の条件を提示しています。
- 製作費として100ミリオンを出す
- マーケティング費として100ミリオンを出す
- クリエイティブコントロールはすべてノーラン監督が持つ
- 映画収入の20%をノーラン監督が受け取る
一方で、アイアンマンの監督で、ディズニープラスの『マンダロリアン』を手がけたジョン・ファヴローさんは、作品をヒットさせてもエクイティは受け取っていないそうです。宮武さんは、給料ベースで支払われるほうが普通だと話します。
YouTubeでエクイティを持つとはどういうことか
宮武さんは、YouTubeの時代になって、この状況が変わってきたと見ています。草野さんも、広告収入によってアップサイドが生まれるという意味かと確認します。
例として挙がったのが、Vox ── アメリカの解説系ニュースメディア。動画やポッドキャストを含め、ニュースの背景を説明するコンテンツで知られますの元記者クレオ・エイブラムさんです。テックジャーナリストとしてVoxのNetflix番組にも出ていた人物で、去年YouTuberとして独立し、『Huge If True』というチャンネルを始めました。チャンネル登録者は最近100万人を超えたそうです。
宮武さんは、Voxの中でも登録者100万人規模の成果は出せたかもしれないと話します。それでも、リスクを取って自分の番組を持ったことで、給料より自分のエクイティのほうが価値を持つようになっていると見ています。
Mr.Beastに広告主が見つからないのはなぜか
宮武さんは、YouTuberのMr.Beast ── アメリカの人気YouTuber。大規模な企画動画で知られ、チャンネル登録者数は世界トップクラスですで起きている面白い現象を紹介します。Mr.Beastの登録者数は収録時点で約1.7億人で、過去12か月に出した18本の動画は、すべて1億回以上再生されています。
宮武さんは、1億回再生が1億人の視聴者と同じではないと断ったうえで、去年のスーパーボウルの視聴者が約1.1〜1.2億人だったことを挙げます。Mr.Beastは、スーパーボウル級の動画をほぼ毎月出していることになります。
その規模のために、Mr.Beastには広告主が見つからないという課題が生まれていると宮武さんは話します。草野さんが「高すぎて」と聞くと、宮武さんは「そうなんですよ」と答えます。
去年のスーパーボウルの30秒広告は6.5ミリオンでした。宮武さんは、同じ価格になるかはわからないものの、仮に半分でも3億〜5億円はかかると試算しています。Mr.Beast自身も、ブランドによってはYouTube広告予算の半分を1本の動画に使う水準になっていると話していたそうです。
だったら自分がブランド立ち上げて、自分がオーナーシップ持ってるものを広告として出した方がいいんじゃないかと。
実際にMr.Beastの動画では、自身のお菓子ブランド『Feastables』を広告として出している回があります。宮武さんは、Mr.Beastは広告収入よりも自分のエクイティを伸ばすほうが確実に見合う規模に達したと見ています。
動画の広告枠を外部のブランドに販売して収入を得る
自分がオーナーシップを持つFeastablesを動画で宣伝し、エクイティを伸ばす
従業員でもアップサイドを狙えるのか
宮武さんは、スタートアップでは昔からストックオプション ── あらかじめ決めた価格で自社株を買える権利。株価が上がれば差額が利益になり、社員のインセンティブとして使われますなどの形でエクイティの考え方があると話します。日本では制度の見直しも進んでいますが、アメリカはエクイティを強いインセンティブとして使っている点がすごいといいます。
宮武さんによると、GoogleやFacebookのIPOでは多くの億万長者が出ました。Uber、Airbnb、Pinterest、Palantir、Slack、Postmates、LyftのIPOでは、合計で3000〜5000人ほどの億万長者が出たとされています。
ただ、例えば従業員であってもアップサイドを狙いに行ける仕組みっていうのは実際にあって。
宮武さんがこの点を強調するのは、誰もが自分のチャンネルを作ったり映画を作ったりしたいわけではないからです。従業員のままでも、アップサイドを得る道はあるという話です。
その好例として挙がったのが、eスポーツとライフスタイルのブランド『100 Thieves』です。100 Thievesは所属クリエイターのValkyraeさんとCouRageさんを共同オーナーとして迎えました。
宮武さんによると、Valkyraeさんはゲーム販売店GameStopで働きながら、ゲームの趣味についてInstagramに投稿していました。フォロワーから配信を勧められてTwitchでゲーム配信を始め、Fortniteなどをきっかけに人気が伸び、100 Thievesにクリエイターとして採用されます。
宮武さんは、Valkyraeさんがずっと従業員として過ごしながら最終的にオーナーになったのは、学びながらアップサイドを理解したからだと見ています。草野さんが選ばれた理由を聞くと、宮武さんは、いろいろなゲームを遊べることと、コンテンツクリエイターとして人気だったことの組み合わせだと答えています。
中間層のアーティストはどうやって稼ぐのか
宮武さんは、オーナーシップの考え方は音楽業界にも当てはまると話します。宮武さんの感覚では、アメリカの中間層のアーティストは年間50K〜150K程度を稼いでいます。
草野さんがストリーミングやライブのどちらが中心かを尋ねると、宮武さんは、稼ぎ方そのものが大きく変わったと答えます。
20ドルのアルバムを2万枚売り、1枚あたり約4ドルを受け取れば約80K
1再生あたり0.004ドルとして、年間2000万回の再生が必要
宮武さんによると、CD時代はアルバム以外の収入源があまりなく、収入のほとんどがアルバムの売上でした。いまは音楽だけで80Kを稼ぐのは、ほとんどのアーティストにとって現実的ではないといいます。
草野さんは、結局はライブやグッズに集中することになると指摘します。宮武さんも、プラットフォーム側には中間層より人気アーティストを押し出すインセンティブがあるため、グッズなどを自分たちの事業として売る必要があると話します。
宮武さんは、グッズの中でもCDやレコードの販売がこれまで以上に重要になっていると指摘します。そうした販売を支えるのが、去年Epic Gamesが買収したBandcamp ── アーティストが音源やCD、レコード、グッズを直接ファンに販売できる音楽プラットフォーム。インディーアーティストに多く使われていますのようなプラットフォームです。
Bandcampの去年のデータでは、人気のアーティストほど、CDやレコード、グッズなどフィジカル商品の割合が高くなっていました。上位250アーティストでは、売上の約50%がフィジカル商品で、特にレコードが重要だったといいます。
レコードプレーヤーを持たない人がレコードを買うのはなぜか
宮武さんは、ハリー・スタイルズやテイラー・スウィフトもレコードを多く売っていると話し、テイラー・スウィフトは100万枚を売ったはずだと触れます。そのうえで、レコードが伸びている理由は自己表現にあるのではないかと考えています。
その根拠は、音楽リサーチ会社Luminateの調査です。過去12か月にレコードを買った人のうち、レコードプレーヤーを持っていたのは50%だけでした。草野さんも、友人にそういう人がいると話します。
宮武さんは、2016年の調査でもターンテーブルを持つ人の約4割がそもそも使っていないという結果があったと続けます。ファンにとっては、音楽に触れ、所有すること自体が重要だということです。
ファンとしてはその音楽を触ったり、自分で持つこと、オーナーシップを持つことが重要。
宮武さんは、この「触る」という考え方から、2007年にスティーブ・ジョブズがiPhoneを紹介した際、iPhoneで音楽に触れられると話していたことを思い出したそうです。音楽は聴くものですが、持つことや触ることも大切なのかもしれないと話しています。
エクイティのリスクをどこまで取るべきか
エンタメ編のまとめとして、宮武さんはエクイティの意味を改めて整理します。エクイティはお金を稼ぐ手段であるだけでなく、持つかどうかで行動や価値観、考え方まで変わるものだといいます。
宮武さんは、エクイティを持てばリスクを背負うため、そのことを優先し、気にかけるようになると説明します。日本のサラリーマン文化で語られる「責任の押し付け合い」との対比として、この点を挙げています。
宮武さんによれば、ジョージ・ルーカスにとってのエクイティはお金よりもビジョンの実現であり、CDを買う人にとっては、アーティストを応援したい、その文化を取り入れたいという意味があります。エクイティには、いろいろな意味があるということです。
宮武さんは、エンタメ業界も、翌週に話すスポーツ業界も、VC業界も、アウトライヤー ── 統計上、平均から大きく外れた値のこと。ビジネスでは、ごく一部の突出した成功者や企業を指して使われますが勝つ世界だと話します。そのうえで、働き方ごとのエクイティとリスクの関係を整理しています。
| 働き方 | エクイティ | 給料・リスク |
|---|---|---|
| 会社を設立する | とても高い | 最初は給料がとても低く、リスクも高い |
| アーリーステージのスタートアップに入る | 高め | 給料はそこまで高くなく、リスクは設立ほどではない |
| 上場企業に入る | かなり低い | リスクが低い |
宮武さんによると、エクイティの割合を高めるほどゼロになる可能性が高まり、低くするほどアップサイドに上限がつきます。日本ではアップサイドに上限をつける人が多いものの、それがよいかどうかは本人が決めることだと話しています。
どこまでのリスクを背負いたいかっていうのを選ぶのは、重要かなと思っていますと。
Shopifyの給与制度は何を選ばせるのか
宮武さんは、エクイティと給料のバランスを選ばせる好例として、Shopifyが去年導入した給与制度を紹介します。
たとえばShopifyから年1000万円のオファーを受けた場合、そのうちどれだけをエクイティで受け取り、どれだけを現金の給料で受け取るかを、スライドバーのように自分で決められるそうです。
提示額の中で、給料と株式の割合は会社が決める
提示額は同じで、給料とエクイティの割合を本人がスライドバーで選ぶ
草野さんは、一人ひとり条件が違うと人事が大変そうだと話します。宮武さんは、提示する総額は同じなので、その後の配分は自由に選べる仕組みだと説明しています。
宮武さんは起業家や経営者に向けて、アップサイドというインセンティブは強く働くことがあるので、もっと活用してほしいと呼びかけます。草野さんも、割合を変えるなどいろいろなやり方がありそうだと応じます。
本当はもっとスタートアップが上場する時にもっと日本で億万長者見たいんですよね。
宮武さんがそう考えるのは、上場で恩恵を受けた人たちが、最終的にテックエコシステムへ貢献するからです。社長だけが儲かるのは、エコシステムにとってよくないと話しています。
草野さんは、日本の芸能界や音楽業界でも、こうした交渉のやり方はありえそうだと話します。宮武さんも、これはスタートアップだけの話ではないと応じ、翌週はアスリート編を扱うと予告して回を締めくくりました。
まとめ
この回では、ハリウッドのストライキを入り口に、給料の額ではなく、成功したときのアップサイドやオーナーシップを取りに行く「労働のエクイティ化」が、エンタメの実例を通して語られました。宮武さんの結論は、どこまでエクイティのリスクを取るかを自分で選ぶことの大切さです。
- ロバート・ダウニー・ジュニアやディカプリオは、ベースのギャラを抑えて映画収入の取り分を得ることで、大きなアップサイドを手にした
- ジョージ・ルーカスは報酬の引き上げより続編の権利を優先し、それが商品化権の獲得とスター・ウォーズという巨大IPにつながった
- Mr.Beastは広告主が見つからないほどの規模に達し、自社ブランドのエクイティを伸ばす方向に進んでいる
- 中間層のアーティストにとって、レコードやグッズの販売など、自分で持つ事業の重要性が増している
- Shopifyのように給料とエクイティの割合を選べる制度は、従業員にもアップサイドを狙う道を開く




