第5位のD2Cブランドは、なぜどれも似て見えるのか?
2018年のテックニュースランキング後半で、5位に入ったのは「ニューリテール」とD2C ── Direct to Consumerの略。メーカーが小売店を介さず、自社サイトなどで消費者に直接商品を売るビジネスモデルですです。宮武さんは、2018年は新しいプレイヤーが入り、既存のプレイヤーもどんどん大きくなった年だったと振り返ります。
草野さんによると、D2Cはアメリカでメディアからも投資家からも注目を集める、まさにピークのような分野です。宮武さんも、消費者向けで話しやすいこともあり、テックニュースにかなり登場したと話します。
数年前から出てるキャスパーとかオールバーズとかがどんどんでかくなって、自分で店舗を作って、それを逆にそういう体験型っていうのをどんどん他社も真似てきてる。
オンライン発のブランドが実店舗を構え、その体験型の売り方を他社が追いかける。2018年のD2Cでは、販売の仕方そのものが変わってきていると宮武さんは見ています。
草野さんが紹介したのは、D2Cブランドはインスタ映えしてシンプルで、パッケージもブランディングも全部似ている、という記事です。その背景には、デザインを手がけるエージェンシーが複数のブランドで重なっていることがあるといいます。
HIMSっていう男性向けのシャンプーみたいなブランドとか、スイートグリーンとか、あとハリーズっていうカミソリのやつとか(が同じデザインエージェンシーを使っています)。
さらに草野さんは、別の会社の例として、デザインを請け負う代わりに株を受け取る「デザイン投資」のような活動もあると話します。
宮武さんにとって、この話は意外だったようです。D2C企業はデザイナーを社内に抱え、すべて内製しているイメージがあったからです。
Slackのスタートって、あのロゴって代理店が作ってるんで。結構関わってたんですよ、初期って。
宮武さんは、BtoBでありながら消費者からも「かわいいブランド」として好かれたSlackの影響で、D2Cも代理店を使うようになったのではないかと推測します。草野さんは、Uberの最近のリデザインもエージェンシーだった気がすると付け加えました。
ただ宮武さんは、大企業ならともかく、ブランドそのものが強みであるハリーズ規模の会社が外部に任せているのは不思議だとも話します。代理店がどこまで関わっているのかが逆に知りたい、という点で2人の意見は一致しました。
トイザらスの破綻と、勢いに乗るForerunner Ventures
D2Cの話題の裏側として、草野さんは老舗の小売店の明暗に触れます。奮闘している大手がある一方で、死にそうなところもある、という話です。
死にそう、死んだところはもうトイザらスがね。あの、びっくりですよね。
子供の頃から親しんできたトイザらスの破綻について、宮武さんは詳しくは別の回で話したいとしつつ、理由の1つに負債の問題を挙げます。トイザらスはかなりのデット ── 借入金や社債などの負債のこと。返済義務があり、利払いの負担が経営を圧迫することがありますを抱えていました。
宮武さんは、今後は小売各社が体験型の店づくりを進めたり、買収を重ねたりしていくとみています。実際に、最近は買収が増えているといいます。
VCの目線でニューリテールを見るなら、宮武さんが注目するのはForerunner Ventures ── アメリカのベンチャーキャピタル。消費者向けブランドや小売分野への投資で知られていますです。D2Cに数多く投資する、女性のキャピタリストが率いるVCです。
(Forerunner Venturesは)イケイケで、彼女たちを見るとどこが成功するかわかるんじゃないかな。
2人は、Forerunner VenturesのサイトがVCらしくなく独特だという点でも盛り上がります。草野さんは、代表のカーステン・グリーンさんがRecodeRecodeのカンファレンスで使っていたスライドを見たときのことを話しました。
フォントとスライドのデザインがめちゃくちゃ凝ってて、こういうのが好きなんだろうなって思いました。
第4位の大型調達は「3日に1件」の過去最高
4位は大型調達です。宮武さんによると、2018年は100億円以上の調達が大きく伸び、確か120社以上にのぼりました。
ほぼ3日に1件のペースで大型調達が起きていた計算になり、宮武さんは過去最高だと話します。
名前が挙がった会社は多岐にわたります。ソフトバンクが出資したWeWorkやドアダッシュ、ARデバイスのマジックリープ、株取引アプリのロビンフッド、前編でも触れたスクーターのライムやバード、そして食料品配達のインスタカートです。
マジックリープの460ミリオン(約460億円規模)の調達について、宮武さんは過去に1000億円規模の調達をしてきた同社としては「割と小さい」のではないかと話します。ロビンフッドは、利率などで嘘をついているのではないかと最近叩かれているそうです。
ここまで大型調達が続いた理由について、宮武さんは調達環境の良さに加えて、もう1つの狙いを挙げます。
経済が不況環境になるんじゃないかっていうところを予想して、今キャッシュを集めるっていう。
景気がいいうちに資金を確保し、不況に備える。2018年の大型調達は、楽観だけでなく警戒感からも生まれていたと宮武さんはみています。
インスタカートは上場しない? 資金が潤沢すぎる時代の出口
インスタカートは、300億円を調達したあとに600億円を調達しています。草野さんが言うように、インスタカートが調達するとなれば出したい投資家は大勢いる状況です。
宮武さんによると、Amazonがホールフーズを買収したことで、かえってインスタカートのビジネスは大きく伸びたといいます。人の採用も進んでいるそうです。
では、インスタカートはいつ上場するのか。草野さんが「しそう」と言うのに対し、宮武さんの見立ては逆でした。
今年の初めに300億調達したお金をほぼほぼ触ってないらしいので。1000億ぐらいキャッシュ持ってるんですよ、彼ら。
上場する意味がないじゃないですか。
来年の大型調達について、宮武さんは「さすがに下がる」と予想します。これほどの時期はもうないのではないか、という見方です。
草野さんは、人気企業に資金が集中する一方で、シードのスタートアップの調達は難しくなっていないのかと尋ねます。宮武さんは、地域によって違うと答えました。
超大型の会社が大型調達をし、その他の会社が苦しんでいる状況
そこまでの偏りはなく、キャッシュを持つファンドや事業会社が出資を増やしている
宮武さんはさらに、トランプ政権の影響で企業に多くのキャッシュが入った年だったと指摘します。そのお金の使い道として投資に回り、さまざまな会社に出資が広がったといいます。
草野さんは、UberやSlack、HubSpotのように成長した企業が十分な資金を持つと、IPOを急がなくなるのではないかと問いかけます。宮武さんも、IPOがなければVCはリターンを得られないため、そこをどう考えているのかが気になると話し、今後の注目点として残りました。
第3位「ソフトバンク効果」、100億円の出資は誰も覚えていない?
3位はソフトバンクエフェクトです。宮武さんは、前年からの流れでビジョンファンド ── ソフトバンクグループが設立した大型の投資ファンド。世界のテック企業に巨額の出資を行っていますが資金を集め続け、出資も相次いだと振り返ります。
宮武さんによると、ビジョンファンドによる100億円以上の出資は16件ほど。Uber、WeWork、コンパス、オープンドア、そしてZume PizzaZume Pizzaといった名前が挙がりました。
草野さんはピザの会社への出資に驚きますが、宮武さんがソフトバンクビジョンファンドから聞いた話は、さらに驚くものでした。
ソフトバンクビジョンファンドから聞いた話だと、100億の投資はぶっちゃけ全然見てないと。小さすぎるって言われて。
普通のVCで100Kとか1000万とか、下手したらそれ以下の出資と同じ感覚になっちゃってるらしいですね。
宮武さんによれば、ビジョンファンドの中では100ミリオンの案件は見向きもされず、それ以上でないとコミットも注目もしてもらえないといいます。100ビリオン規模のファンドならではの感覚です。
資金があること自体が力になり、業界を変えつつある。宮武さんはその象徴として、アジアで出てきた新しい出口を挙げます。
SPOは「Softbank Public Offering」をもじった言い方で、上場ではなくソフトバンク傘下に入ることを指しています。宮武さんは、WeWorkの配下に入るようなケースを例に挙げ、草野さんはそれを「新しい1つのゴール」と表現しました。
サウジアラビアの資金は、テック業界にどこまで入り込んでいるのか?
ソフトバンクをめぐる2018年の大きな話題として、草野さんが触れたのがアメリカの記者の事件です。宮武さんは、サウジアラビアの政府関係者の命令で記者が殺害され、当初否定していた政府の関与が次第に発覚したと説明します。
宮武さんがここで強調したのは、サウジアラビアがアメリカのテックコミュニティに大きな影響力を持っているという点です。正確な数字は覚えていないと断ったうえで、こう話します。
確か何か30パーから50パーぐらいの資金、あのテック業界の資金ってサウジアラビアなんですよ。実は。
ソフトバンクとの関係でいえば、ビジョンファンドの最大のLPがサウジアラビアです。宮武さんによると、100ビリオンのうち45%にあたる45ビリオンを出資しているといいます。
ちょうどソフトバンクは、300ビリオン規模ともいわれる2号ファンドをつくろうとし、サウジアラビアから資金を集める予定でした。そこを孫さんが叩かれ、どうするかはまだ決まっていないそうです。アメリカでは警戒している人が多いと宮武さんはみています。
直接の投資先としても、テスラ、Snapchat、Uber、マジックリープなどが資金を受けており、ビジョンファンド経由でWeWorkやSlackにも間接的に入っています。草野さんは、大型調達をしたいスタートアップが当たった先がそこだった、という構図を指摘しました。
ソフトバンクの話題はほかにもあります。2018年には大規模な通信障害が起き、配下のスプリントとTモバイルの合併話も出ました。宮武さんは、配下にあるとするクアルコムクアルコムの不調の影響も気になると話しています。
第2位Fortniteは、なぜアメリカ中で大流行したのか?
2位はFortniteの大流行です。草野さんが日本でも流行っていたと思いつつ、アメリカのほうが大爆発していると話すと、宮武さんがゲームの仕組みを説明しました。
シューティング系のゲームで、いわゆるその1つのマップ、まあ場所に100人のプレイヤーが落とされて、そこで1人の残った人が勝ちなんですよ。
Fortniteの原型は、同じ仕組みを持つPUBG ── 100人が1つのマップで最後の1人を目指して戦う「バトルロイヤル」形式の対戦ゲーム。2017年に大ヒットしましたです。宮武さんは、PUBGがeスポーツの一環として人気だったのに対し、仕組みを「綺麗化」したFortniteが圧倒的に流行ったと話します。
宮武さんによると、Fortniteの月間ユーザーは8000万人ほど。売上は毎月300億円以上にのぼるといいます。
ゲーム自体はおそらく無料で、お金を払う対象はキャラクターの服やコスチュームなどの「スキン」です。宮武さんは、子供が親のクレジットカードを盗んで課金するほどだと話します。
学校でフォートナイトでパフォーマンスが高いとか、こういうキャラクターデザイン持ってるとか、それだけでなんかステータスになってるらしくて。
Fortniteはゲームを超えて社会問題になった
Fortniteのやりすぎは、アメリカで社会問題になっています。宮武さんによると、毎日12時間ほどプレイし、学校を辞めてプロゲーマーになると言い出す子供も多いそうです。
親がすごい心配してて、あの医者に送ってるんですよ。もうセラピーで。
ビデオゲームから離れるためのサマーキャンプは以前からありましたが、宮武さんによると、最近は参加者の6割がFortniteの影響で入っているところもあるといいます。
熱中
寝ずに、勉強もせずに毎日長時間プレイする子供が増える
親の心配
学校を辞めてプロゲーマーになると言う子供を、親がセラピーに通わせる
サマーキャンプ
ゲーム離れのキャンプ参加者の6割がFortniteの影響というところも出てくる
影響は10代だけにとどまりません。20代やプロアスリートもプレイしていて、宮武さんはMLBの選手が練習の休憩中に球場の巨大スクリーンでFortniteをプレイした例を紹介します。バスケットボールの選手にも愛好者が多いそうです。
人気の理由について、宮武さんはキャラクターデザインよりも、ハマるゲームの仕組みと戦略性にあるとみています。コールオブデューティのようなFPS ── First Person Shooterの略。プレイヤー自身の視点で銃などを撃ち合うシューティングゲームのジャンルですが流行った時代とは変わったと話します。
草野さんは、AKBの宮脇咲良さんがゲーム実況でFortniteのダンスを踊る動画を見て、踊る系のゲームだと思っていたそうです。宮武さんは、キャラクターが踊れる機能はあるもののメインはシューティングだと説明し、来年も流行が続くと予想しました。
第1位はデータプライバシー、Facebookはなぜ信頼を失ったのか?
1位はデータプライバシーをめぐるスキャンダルです。宮武さんは、他のテックニュースランキングでもおそらく1位になる話題で、サプライズではないかもしれないと話します。一方の草野さんは、日本ではそこまで話題になっていなかった気がすると振り返りました。
2018年はGDPR ── EU一般データ保護規則。2018年5月に施行された、個人データの扱いを厳しく定めるEUのルールですから始まり、中でも大きな問題になったのがFacebookでした。宮武さんによると、Facebookは信頼できる会社のランキングで大きく順位を落とし、大手テック企業の中で最下位レベルになったといいます。
宮武さんは、Facebookの問題はうっかりミスだけでなく、戦略的にデータを流していたという話もあると指摘します。直近では、MicrosoftやSpotify、Netflixなどと組み、プライベートメッセージの情報の一部を見せていたという話が出ています。
でも利用規約って全員読まないじゃないですか。なんで実際あれ(利用規約に)何入ってるかわかんないじゃないですか。
宮武さんは、友達の個人情報を承認なしにサードパーティーへ出すのは基本的にダメだと話します。MicrosoftのBing検索で使われていたほか、AmazonやYahooとも同様の連携があったといい、「Facebookは本当に大丈夫かな」と懸念を示しました。
さらに、ケンブリッジ・アナリティカケンブリッジ・アナリティカに端を発するユーザーデータの流出など、2018年はスキャンダルが相次ぎました。
1位に選んだ理由として、宮武さんは3つを挙げます。スキャンダルが頻繁に起きたこと、GDPRをきっかけにアメリカでも同様の規制の話が出ていること、そして大手テック企業がこれだけデータにルーズだったと明らかになったことです。
宮武さんは、だからこそデータプライバシーやセキュリティの領域が、スタートアップとして盛り上がるとみています。
テック以外の人も関心を持っているのかという草野さんの問いに、宮武さんは、GDPRはインターネットを使うほぼすべての会社に影響したと答えます。そのうえで、利用者の意識の変化を次のように語りました。
ネットの情報はパブリックで、Facebookでシェアしたものは世に出て当たり前
自分のデータがどう使われているかを意識し、守るべきだと考える
番外編:電子タバコJUULに、マルボロのメーカーが巨額出資
最後に草野さんが小ネタとして挙げたのは、USを中心に流行している電子タバコのJUULです。草野さんは、隠れたトピックだと位置づけました。
宮武さんによると、JUULは2018年に大きなニュースになり、市場シェアの7割ほどを獲得しました。アメリカでは紙巻きタバコからベーピング ── 電子タバコなどで、液体を加熱して発生させた蒸気を吸うことへ移る人が増えています。
タバコ会社はもともとベーピングに関心が薄く、JUULに圧倒的に負けた結果、出資する側に回りました。宮武さんによると、マルボロやフィリップモリスのメーカーの親会社が12.8ビリオン、1兆円を超える規模の出資をしたといいます。
タバコ関連のスタートアップへの出資はアメリカ独特なのか、という草野さんの問いに、宮武さんはアメリカでは大麻関連への出資も増えていると答えます。タバコと比べてベーピングはそこまで悪くない、という認識も多少あるそうです。
VCによって絶対この分野は絶対やらないっていう会社もいるので。
JUULのような分野への投資は、VCによって判断が分かれる。草野さんの「分かれる感じなんですね」という確認に宮武さんが同意し、2人は2018年に見えた課題を2019年に解決できるのか、そしてIPOの行方にも注目したいと話して回を締めくくりました。
まとめ
2018年の後半ランキングからは、潤沢な資金がテック業界を動かす一方で、その資金の出どころやデータの扱いが問われ始めた1年の姿が浮かび上がります。D2CやFortniteのような新しい流行と、ソフトバンクやFacebookをめぐる課題の両方が、2019年への宿題として残されました。
- 5位のD2Cは体験型店舗が広がり、似たブランドの裏には共通のデザインエージェンシーがいるという話も出た
- 4位の大型調達は100億円以上が120社超と過去最高で、不況に備えたキャッシュ確保の側面もあった
- 3位のソフトバンクは100億円の出資が「小さすぎる」ほどの規模で、SPOという新たな出口やサウジアラビア資金の問題を生んだ
- 2位のFortniteは月間8000万人規模に広がり、セラピーやサマーキャンプが必要になるほどの社会問題になった
- 1位のデータプライバシー問題では、Facebookの信頼低下とGDPRをきっかけに、利用者の意識が「守るべきもの」へ変わり始めた




