ゲームの世界は、なぜファンの居場所になるのか
この回は、前編で扱ったブランドアフィニティとファンエンゲージメントの話を受けて、Minecraft上の物語プロジェクトDream SMPを中心に語る後編です。
宮武さんはまず、Minecraft、Fortnite、Roblox ── ユーザーが自分でゲームを作り、他のユーザーが遊べるオンラインプラットフォーム。子どもや10代のユーザーが多いことで知られますのような若者が集まる場所が、ファンエンゲージメントの場にもなっていると指摘します。
宮武さんが挙げた例は、Minecraftで卒業式を開いた学校や、ディズニーランドやゲーム・オブ・スローンズの世界を完全再現する人たちです。
ファンとして、その愛情表現ができる場所。しかもそれを世界を作るだけではなくて、他の人たちがその世界を体験できるようになるので。
宮武さんによれば、ゲーム内の再現はコンテンツ制作にとどまらず、他の人が体験できる点まで含めてブランドアフィニティにつながります。そのうえで、個人的に気になった存在としてDream SMPを紹介します。
匿名YouTuber・Dreamは、デビュー前に何を研究していたのか
Dream SMPを理解するには、まず運営の中心にいるMinecraft YouTuberのDreamを知る必要がある、と宮武さんは話します。草野さんも、アメリカのYouTube急上昇ランキングの上位でDreamの動画をよく見かけ、音楽も出していると振り返ります。
宮武さんによると、Dreamは顔も個人名も出していないプレイヤーです。だからこそ、注目がDream本人ではなくMinecraft上のキャラクターに集まっているのではないか、と宮武さんは見ています。
Dreamは2014年ごろにYouTubeを始めていますが、本格的に投稿し始めたのは2019年です。その間の約5年、DreamはYouTubeのアルゴリズムやコンテンツの出し方を研究していたといいます。
その間に何をやってたかというと、めちゃくちゃYouTubeを研究してたんですよね。
2019年のDreamが最初に取った手法は、人気YouTuberやトレンドを活用した動画を出すトレンドジャッキング ── すでに話題になっている出来事や人物に便乗して、自分の発信に注目を集める手法。マーケティングの文脈でよく使われる言葉ですでした。
当時、人気YouTuberのPewDiePieが久しぶりにMinecraftを遊んでいました。Minecraftの世界はシードと呼ばれるコードで決まり、同じコードを入力すると同じ木や景色の世界を一から作れます。
PewDiePieは自分の世界のシードを公開していませんでしたが、Dreamはそのコードを突き止める動画を作りました。見つけるまでの工程も見せたこの動画をきっかけに、Dreamは少しずつ人気を集めていきます。
トレンドジャッキングの次に、Dreamは自分のコーディングの腕を見せるシリーズを出します。Minecraftではプログラミングのように世界のルールを変えられるため、知識があることを見せたり、あえて見せなかったりしたといいます。
マンハント動画はどうやってDreamを「最強」にしたのか
Dreamの評価を決定づけたのは、ドラゴンを倒すまでの最速クリアを競うスピードラン ── ゲームをどれだけ速くクリアできるかを競う遊び方。記録が動画で公開され、世界中のプレイヤーが順位を競いますでした。宮武さんによれば、Dreamと別のプレイヤーが数週間ごとに1位を奪い合い、「Dreamのスキルは高い」という認識が広まります。
草野さんは、匿名で正体のわからない人が、とにかくゲームがうまいという状況そのものに「この人誰なんだ」というワクワクがあると話します。
続いてバズったのがマンハントと呼ばれるシリーズです。Dreamはゲームクリアを目指し、同じサーバーに呼んだ友達がハンターとしてDreamを倒そうとします。
マンハントは最初は1対1でしたが、2対1、3対1、4対1とハンターが増えていきました。人数が増えるほど、Dreamはトリックやトラップを仕掛けないと勝てなくなり、そこから多くの見どころが生まれたといいます。
宮武さんの話した、Dreamのチャンネルが伸びていった順番を整理すると次のようになります。
トレンドジャッキング
PewDiePieのシードを突き止める動画などで最初の登録者を獲得
コーディング
世界のルールを変える技術を見せ、Minecraftの知識を示す
スピードラン
最速クリアの1位争いで「スキルが高い」という認識を得る
マンハント
1対1から4対1へとハンターを増やし、チャレンジ動画で人気が急上昇
ハンター役はYouTuberやDreamの友達で、同じキャラクターが繰り返し登場します。そのため、過去のやり取りを追いかけて楽しむファンもいると宮武さんは説明します。
こうしたシリーズ設計の結果、Dreamの登録者数は短期間で大きく伸びました。
宮武さんによれば、Dreamは個人YouTuberとして40位台に入っているとみられ、2020年に最も急成長した一人です。
Dream SMPは「息抜き」のサーバーから始まった
宮武さんが最も注目しているのは、Dreamの投稿動画そのものではありません。Dreamが「次のマーベル」のようなプラットフォームを作った点で、それがDream SMPです。
Dream SMPは2020年4月末ごろ、Dreamと友達2人ほどで立ち上げたMinecraftサーバーです。ちょうどMinecraftの新しいバージョンが出て、その世界を冒険したかったことがきっかけだったといいます。
初期の配信を見ると、Dream SMPでは何か特別に面白いことをしようとしていたわけではなく、友達とビルを作るような遊び半分の内容でした。草野さんの「戦略ではなく試しに作ってみたのか」という問いに、宮武さんは「どちらかというと息抜きみたいな」と答えています。
宮武さんが冒頭で「7月からスタートした」と表現したのはこのためです。最初の3か月間は、Dream SMPでも息抜きのようなコンテンツが中心でした。
問題児TommyInnitの参戦で、平和な世界はどう変わったか
2020年7月、今のDream SMPの姿を作る2人がサーバーに加わります。1人目は、注目の若手MinecraftプレイヤーだったTommyInnit ── イギリスの若手Minecraft配信者。Dream SMPの中心人物の一人で、物語の主役級キャラクターとして知られますさんです。
トミーさんは直前まで別のサーバーで、ビルを燃やす、人のものを盗む、人を殺すといった問題を起こしていたプレイヤーでした。Dream SMPでは、本来こうした行為は禁止されていました。
ところがトミーさんは、Dreamの招待でDream SMPに入った初日から、メンバーのペットや人を殺してカオスを起こし、喧嘩を売り始めます。初日から刑務所行きになったといいます。
(トミーさんのような)やばい奴が、え、こんな平和なところに入るなんてどうなるの?みたいな。
さらにトミーさんの参加から2日間で、土地をめぐる最初の戦争が起きます。トミーさんはメンバーを2人ほど味方につけて戦いましたが、この時点ではまだ遊び半分の戦争だったと宮武さんは話します。
Wilburの「台本を作りたい」は、何を変えたのか
トミーさんの参加から1週間後、もう1人の重要人物であるWilburさんがDream SMPに加わります。Wilburさんが参加時にDreamたちへ持ちかけたのが、台本作りでした。
いわゆるこのTommyさんが入って、いろんなドラマが生まれ始めて、「これをなんかちゃんとしたストーリーにしませんか?」っていう提案をしだして。
草野さんは、物語化の発案がDreamではなかったことに驚きます。トミーさんは台本を書く側ではなく、単純にカオスを作る役だったと宮武さんは整理します。
最初はDreamとWilburさんの2人が別のDiscordサーバーを立ち上げて書き始め、現在はそこに何人か加わっています。メンバーが合意したのは、物語の大きなポイントだけを書くことでした。
Dream SMPの物語では、トミーさんとWilburさんが手を組んで国を作り、独立を求めてDreamと戦争になります。政治、裏切り、友情、権力が絡む展開を、宮武さんはゲーム・オブ・スローンズ ── 中世風の架空世界で王座をめぐる争いを描いた米HBOのドラマシリーズ。権謀術数や裏切りの多い展開で知られますのようだと表現しています。
ただ、台本に書かれているのは大きな展開と、そのためのセット作りなどの準備だけです。間のストーリーはすべてアドリブで、アドリブによって物語がまったく違う方向に進んでもかまわないといいます。
戦争が起きるなどの大きな展開と、そのためのセット作りなどの準備
大きな展開の間のストーリー全般。各自が物語を作り、方向が変わってもよい
草野さんは、やんちゃなトミーさんに筋書きがあったと知ったファンはショックを受けないのかと尋ねます。宮武さんによると、台本はごく基本的なものしかなく、どの部分が台本だったかもすべては公開していないそうです。
34人がそれぞれ配信すると、物語はどう見えるのか
Dream SMPの面白さの一つは、収録時点で約34人いるキャラクターが、それぞれ別々の時間に入って各自で配信している点です。
宮武さんは、この「別々に入る」仕組みも物語の要素になると話します。たとえばトミーさんたちが作戦を練ったりビルを燃やしたりしている最中に、画面左下に「Dreamが参加しました」と表示されると、トミーさんたちは慌てて作戦を練り直します。
「ドリームが参加しました」っていうのを見た瞬間、「あ、やばい」ってなって。「ちょっと一回戻ろう」とか。
音声チャットを2人だけに切り替えて秘密の会話をすることもできるため、何人かが秘密基地に集まって裏切りの作戦を立てる場面も生まれます。草野さんはこれを「本当にリアリティショーですね」と評しています。
宮武さんは、テレビ番組とDream SMPの見え方の違いを次のように説明します。
カメラの視点しか見られず、編集でカットされる
各プレイヤーがライブ配信しているため、全員の視点とその場のコメントが見られる
配信の音だけで、DreamはCDの隠し場所を見抜いた
ライブ配信ならではの駆け引きとして、宮武さんはCDのようなアイテムをめぐるエピソードを紹介します。Dream SMPの物語では、トミーさんが持つCDをトミーさんとDreamが奪い合っていました。
トミーさんはDreamからCDを奪い返して隠しに行きますが、配信をDreamに見られると場所がばれてしまいます。そこでトミーさんは、隠す場面だけ配信画面を黒くしました。
それでもDreamは、後にCDを見つけ出します。手がかりにしたのは、トミーさんの配信の音でした。
どうやって見つけたかというと、そのライブ配信の音を聞いて、それをベースにどこを大体どこら辺に埋めたかっていうのを察知したらしくて。
宮武さんは、Twitchの配信と物語をうまく組み込んだストーリーテリングだと評価します。Dreamの配信を見れば推理の過程もわかるため、ファンが後から答え合わせできる点も面白さだといいます。
トミーさん、Dream、Wilburさん以外のキャラクターにも、それぞれの目的や考えがあります。なぜトミーさんの味方をするのか、裏で裏切りを考えている、頼まれたことに複雑な気持ちを抱えているといった話を、各プレイヤーが自分の配信で語ります。
ファンが投票する選挙と、主役になったTommyInnit
各プレイヤーは自分のオーディエンスを抱えているため、Dream SMPではファンを巻き込む方法も工夫されてきました。その一例が、トミーさんとWilburさんの国が認められた後に行われた選挙です。
この選挙では、国に属するメンバーのオーディエンスが投票で結果を決められるようにしていました。ファンにとっては、国の市民として投票する感覚になると宮武さんは説明します。
草野さんは、一人の配信を見ると別の視点も見たくなり、30人もいればまとめ動画も作れると話します。宮武さんによると、配信は毎回およそ100万人が同時に視聴し、そのうち6割ほどをトミーさんの配信が占めているそうです。
そのため、物語の主演はほぼトミーさんで、Dreamは悪役寄りのキャラクターになっています。草野さんが「最初はトミーさんが悪者のイメージだった」と驚くと、宮武さんは権力の構図から説明します。
力を持ってるのはドリームさんですし、やっぱりそのスキルとしてもすごい強いのがドリームさんなので、悪役っぽくなっちゃうんですよね。
島流し、届かない招待状、3つの命
物語の中でトミーさんは、友達と国を作ろうとしてDreamに止められ、遠く離れた場所へ行かされます。草野さんの言葉を借りれば、Minecraftでの「島流し」です。
島流しの間、トミーさんを毎日監視していたのはDreamでした。トミーさんはパーティーを開こうと招待券をDreamに託しますが、Dreamは誰にも渡しません。
で、結局誰も来なくて、トミーさんすごい悲しむっていう、なんかそういう本当になんか映画のようなドラマ。
草野さんは、筋書きだったのか本当にその場でやったのかはわからないとしつつ、展開の面白さを強調します。
ゲームではキャラクターが死んでも生き返るのが普通ですが、Dream SMPでは、時期は明確ではないもののある時点から新しいルールができました。全キャラクターに3つのライフを与え、物語の一環として死んだ場合だけ1つ減らすというものです。
最後のライフを失ったキャラクターは、サーバーに入れなくなります。宮武さんはここでネタバレを断ったうえで、台本作りを提案したWilburさん自身が台本の一部として死に、Wilburというキャラクターは戻ってこられなくなったと紹介します。
Wilburさんは現在、物語の一環として幽霊のキャラクターで登場しています。ただ全員が幽霊として戻れるわけではないため、宮武さんはライフを3つに限る仕組みが重要だと考えています。
じゃないと本当にみんな好き勝手しかやらないので。
収録時点では、Dreamもトミーさんも残りライフは1つで、Dreamは最近牢屋に入れられたりもしているそうです。草野さんはDream SMPを「すごい小さな町みたい」と表現しています。
テレビより圧倒的に速い、物語の進むスピード
宮武さんは、テレビ番組や映画と比べたDream SMPの違いとして、物語が進むスピードを挙げます。トミーさんはほぼ毎日配信していた時期もあり、ストーリーはめちゃくちゃな速さで進んできました。
漫画やドラマでいうアーク ── 物語の中で、一連の出来事が盛り上がって一区切りつくまでのまとまり。英語の story arc から来た言葉で、「〜編」に近い意味ですで数えると、Dream SMPは5つ目が終わり、6つ目に入っています。宮武さんは、このペースは他のメディアにはあまりないと話します。
草野さんは、アークを「一章、二章」「一幕、二幕」のように、盛り上がって一段落しながらも話が続いていくものだと言い換えています。宮武さんは、スピードが速いからこそファンエンゲージメントが濃くなると考えています。
配信が終わってから始まる、ファンの二次創作
2020年5月以降、Dream SMPという単語を含む動画の再生回数は20億回以上にのぼります。ただ宮武さんは、再生回数の多さそのものよりも、配信が終わった後に起きることが面白いと話します。
ファンが全員コンテンツを作り始めるんですよ、そのタイミングで。
30人ほどの動きを追跡するWikiでは、どんなイベントが起きたか、どう分析すべきかがまとめられています。ほかにもまとめ動画、ファンアート、リアクション動画が作られ、小説投稿サービスのWattpad ── ユーザーが小説を投稿・閲覧できるオンラインサービス。若い書き手と読み手が多く、ファンフィクションも盛んに投稿されていますにはDream SMPのカテゴリーがあり、約3.4万のファンフィクションがあるそうです。
Dream SMPの歴史の本を作っているのはプレイヤーではなくファンです。宮武さん自身も準備のためにWikiを読み、ページ数の多さと細かさに驚いたといいます。
担い手は主にZ世代ですが、大学生がDream SMPのミュージカルを作った例もあります。プレイヤー側もファンアートに反応したり、ファンフィクションのセリフをあえて配信で口にしたりしています。
宮武さんが物語を理解するために見たまとめ動画は、シリーズ全体で5.5〜6時間ほどあり、とても面白かったそうです。作ったのは16歳で、別のYouTuberと組み、Dream SMPの世界を1ブロック単位で同じように作り直して、場面を再現していました。
Ninjaもミスタービーストも出たがる「Dream SMPユニバース」
宮武さんは、マーベル・ユニバースのように「Dream SMPユニバース」ができてきたと見ています。根拠の一つが、有名人が作品に一瞬だけ出るセレブカメオ ── 有名人が映画やドラマに短い時間だけ出演すること。マーベル作品で原作者スタン・リーが毎回登場したのが有名な例ですです。
マーベル作品のスタン・リーや、『ロード・オブ・ザ・リング』に出たエド・シーランのように、人気IPには一瞬でも出演したいという有名人が集まります。宮武さんによると、同じことがDream SMPでも起きています。
具体例として、Fortniteの人気ストリーマーNinjaがサーバーのツアーをして、キャラクターと結婚する物語がありました。Twitch配信者のPokimaneもツアーをし、Among Us ── 宇宙船の乗組員に紛れた裏切り者を探す推理系オンラインゲーム。2020年に配信者の間で大流行しましたで急成長したCorpse Husbandは歌のコンペの審査員を務めたといいます。
KSIやLil Nas Xも参加し、ツリーハウスを作ったそうです。草野さんは、各業界の有名人がMinecraftを遊べること、そして彼らを呼び込めるDreamの力に驚きます。
ミスタービーストは参加時に、1000万円のギフトカードをサーバーのどこかに隠し、メンバーが探すチャレンジ動画を作りました。宮武さんは、将来はハリウッドスターが映画の宣伝に、アーティストがツアーの宣伝にDream SMPへ出てくるかもしれないと話します。
宮武さんによれば、Dream SMPはリアリティ番組でありながらマーベル的な物語もあるため、どちらにも柔軟に動けます。草野さんはトークショーにもできると付け加え、何でもできる自由度はMinecraftのすごさでもあると話しています。
無名のクリエイターを押し上げる、マーベル的なプラットフォーム
マーベルでは、アイアンマンやハルクなど各キャラクターの背景を、ロキのドラマやブラック・ウィドウの映画など別作品で多額の予算をかけて描いています。Dream SMPでは、各プレイヤーが自分のYouTubeチャンネルで、Dream SMPの動画もそれ以外の動画も出しています。
前編では、あまり知られていなかったガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ── マーベル・コミックのヒーローチーム。知名度は高くありませんでしたが、2014年の映画化で一気に人気作品になりましたがマーベル映画で人気になった話をしていました。宮武さんは、Dream SMPでも似たことが起きていると話します。
その例が、徐々に人気を上げていたMinecraftストリーマーのHannah Roseさんです。Hannah Roseさんは2021年1月にDream SMPへ参加しました。
Dream SMPへの参加はオーディションではなく招待制です。そのため参加自体がステータスシンボルになり、視聴者も「なぜこの人が選ばれたのか」と気になって動画を見ると宮武さんは説明します。
参加者は全員クリエイターで、オーディエンスとの信頼関係や親近感の作り方がうまい人たちです。クリエイターにとって拡大の方法の一つはコラボで、トップMinecraftプレイヤーが集まるDream SMPは、Minecraftでは最大のコラボプラットフォームだといいます。
これがそのDreamとか、その他のMinecraftプレイヤーがその個人からそれ以上のものにスケールする方法でもあると思っていて。
寝坊した候補者と、まさかの新党勝利
ディズニーやマーベルの作品はすべて台本で厳しくコントロールされています。Dream SMPは大まかな台本はあるかもしれないものの、その間はアドリブで進む点が大きく違うと宮武さんは話します。
その象徴が先ほどの選挙です。3つの派に分かれた大統領候補がスピーチをする場で、1人が現れませんでした。理由は寝坊で、ログインしなかったのです。
すると、来なかった派の副大統領が別の党を作り、その党がまさかの勝利を収めます。元の台本にはまったくない、完全なアドリブだったといいます。
草野さんは、前回紹介した選択肢を選べるドラマ『ブラックミラー:バンダースナッチ』などと比べ、筋書きのない予期せぬ出来事にどう対処するかというクリエイターの力量に感心します。
宮武さんは、ミスタービーストが音声SNSのClubhouseに初めて参加したときも、場を盛り上げるためにランダムで誰かに100万をあげようかと急に言い出したことを例に挙げます。トミーさんなら急に人をディスり始めるかもしれないとして、各自のブランドに沿ったまま新しい面白さを考える点が面白いと話します。
宮武さんは、IPやエンタメ事業に関わる人にとって、ここは必ず見るべき領域だと強調しています。
ビデオゲームだからこそできる物語とは
草野さんは、日本でもやりたいとしつつ、ゲームの腕と物語を即興で作る力の両方を持つ人が集まっている点で、実はかなり高度だと話します。
宮武さんは、マーベルとの違いとして、ビデオゲームを通じたストーリーテリングは低予算で、スピード感を持ってできる点を挙げます。
すべて台本で管理され、キャラクターの背景を別作品で多額の予算をかけて描く
大まかな筋書き以外はアドリブ。低予算で、ほぼ毎日の配信により速いペースで物語が進む
一方で、マーベルも新しいアニメシリーズで「もしも」をテーマにし、あるキャラクターが死んでいなかったらどうなるかを描きます。宮武さんは、これはファンフィクションを映像化するような試みで、Dream SMPに影響されたかはわからないものの、Dream SMPっぽいと感じたそうです。
毎日配信で物語が変わると、ファンは常に情報を追いかける必要があり、友達との会話でも「昨日のあの配信見た?」となります。宮武さんは、こうして文化に溶け込み、ファンフィクションが増え、クリエイターが反応してみんながハッピーになる流れがあると説明します。
クリエイターはTwitchだけでなく、YouTubeにまとめ動画を上げ、Twitterで愚痴り、Instagramでかっこいい姿を見せるなど、様々な場所で自分の性格を見せています。
死ぬことってできないじゃないですか、リアリティ番組だとさすがに。
国を作る、独立を宣言する、大統領を決める、人を裏切るといったことは、リアリティ番組ではわずかしかできません。ビデオゲームなら完全な自由がある点が面白いと宮武さんは話します。
草野さんは、日本のバーチャルYouTuberが同じ事務所内でゲスト出演し合う例と比べます。Dream SMPは事務所単位ではなく、それぞれ別のコミュニティで活躍する個人が集まるからこそサプライズ感があり、ゲーム空間があることが醍醐味だといいます。
Team Liquidは、選手のファンをチームのファンに変えた
他の会社がこの仕組みをどう再現するかを考える例として、宮武さんはeスポーツの有名チームTeam Liquid ── オランダ発祥の大手eスポーツチーム。複数のゲームタイトルで選手を抱え、世界大会で多くの実績を持っていますが社内で作ったファンエンゲージメントのソフトウェアを紹介します。
このソフトウェアでは、ファンがTeam Liquidについて投稿やSNSでのコメントをするとポイントがもらえます。ゲーミングチェアの会社やDellなどと提携し、ポイントを割引としてファンに還元しています。
ポイントは買い物だけでなく、Team Liquidの開発チームにピザをおごることにも使えます。将来的には、選手のジャージにファンの名前を刻むこともしているといいます。
ファンとしてはその開発に、開発を支援してるっていう思いって、やっぱすごい強い。
ソフトウェアにはコンテンツの公開スケジュールや、好きな選手を追跡する機能もあります。宮武さんが挙げた導入後の数字は次のとおりです。
4万人の多くは、最初は特定の選手のファンとして参加しました。Dream SMPでいえばDreamやトミーさんのファンが入ってくるのと同じ構図です。
Team Liquidは現在、このソフトウェアをホワイトレーベル ── 自社で開発した製品やサービスを、他社が自社ブランドとして提供できる形で販売することとして販売しているそうです。
Pelotonにも通じる、次世代のブランドの作り方
クリエイターを軸にプラットフォームを好きにさせる例として、宮武さんはPeloton ── オンラインのフィットネスレッスンと専用バイクなどを提供するアメリカの企業。人気インストラクターのライブ配信レッスンで知られますも挙げます。Pelotonでは、インストラクターがクリエイターにあたります。
Pelotonのレッスンはかなり台本化されていますが、インストラクター同士がコラボしたり、Instagramで一緒に写ったりして「ペロトンファミリー」を見せています。一人のインストラクターを押し出しつつ、全員がつながっていることを伝え、ブランド全体を好きになってもらう狙いです。
宮武さんは、Dream SMPのすごさを次世代のブランドの作り方として捉えます。ストーリーテリングはエンタメでは必須、CMでもほぼ必須で、今後はBtoB企業でも重要になり、誰がそれを伝えるのかも問われているといいます。
そのうえで重要なのがブランドアフィニティです。宮武さんは、今のZ世代はブランドと友達になれなければ購入しないと言っていると話します。
宮武さんが最後にまとめたDream SMPのすごさを、流れとして整理すると次のようになります。
複数のクリエイター
面白い物語を多くのクリエイターが作り、幅広い層から親近感を得る
プラットフォーム化
新しいアイデア、キャラクター、物語が次々に生まれる
ファンの上乗せ
ファンがコンテンツを重ね、時間と熱量を投資する
ポップカルチャーへ
Dream SMPというブランドが文化の中に入り込む
まとめ
Dream SMPは、YouTubeを研究し尽くした匿名クリエイターDreamの息抜きサーバーから始まり、TommyInnitさんのカオスとWilburさんの台本提案によって物語の舞台になりました。大まかな筋書きとアドリブ、34人の視点、ファンの投票や二次創作が重なり、宮武さんはこれを個人を超えてブランドを広げる、次世代のブランドアフィニティの作り方だと捉えています。
- Dreamはトレンドジャッキング、コーディング、スピードラン、マンハントと動画シリーズを設計し、2020年に登録者を約15倍に伸ばした
- Dream SMPは大きな展開だけを台本で決め、間をクリエイターのアドリブに任せることで、寝坊から新党が勝つような予想外の物語が生まれる
- 34人が別々に配信するため、全員の視点が見られ、配信後にはWikiやまとめ動画、ファンフィクションなどファンの二次創作が広がる
- 招待制のDream SMPはHannah Roseさんのような無名のクリエイターを押し上げ、有名人も出演したがるマーベル的なプラットフォームになっている
- Team LiquidやPelotonのように、一人のクリエイターのファンをプラットフォームやブランド全体のファンに変えることが、企業が考えるべき点として示された





