HQとTikTokが流行した理由とは?
草野美木さんと宮武徹郎さんは、2018年に米国で話題になったテックニュースのトップ10を事前に話し合って決めています。基準は「影響が大きかったかどうか」です。この回では、そのうち前半の10位から6位までを順に振り返ります。
10位は動画アプリの流行です。宮武さんによると、この流れは前年から一部続いているものです。2018年は世界中でTikTokが流行し、米国ではトリビアクイズ系のHQもヒットしました。さらにInstagramはIGTVという新しいサービスを出しています。
HQについて草野さんは、流行するとすぐ日本でも似たサービスが出てきて「波を感じた」と話します。テレビ番組の置き換えともいえますが、アプリだからこそ生まれる面白さがあったという見方です。
初期からHQを使っていた宮武さんは、配信が1日2回ほどに限られていることが、利用者を繰り返し呼び戻していたと分析しています。
(HQは)1日2回とかしかやらないので、結構必ず戻るんですよね。リテンションがやっぱかなり高いのかなと思ってまして。
宮武さんの米国人の友人たちも、集まって答えを言い合うほどHQを遊んでいたそうです。それでも宮武さんの見立てでは、2018年末の時点でアプリのランキングは下がり始めており、「一時期流行った」サービスになりつつあります。
TikTokについて、宮武さんは経緯を説明しています。TikTokの親会社は中国系のバイトダンスです。前年に、バイトダンスの母体であるトウティアオ ── 中国のニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」。バイトダンスが運営する代表的なサービスの一つですがミュージカリーを約800億で買収し、2018年に2つのアプリを統合しました。
ミュージカリーはサンフランシスコに拠点を置く米国のスタートアップでした。ただし宮武さんによると、創業者は中国人で、オペレーションの一部も中国にありました。実は両社の株主が同じだったことが、統合につながったという話を聞いたそうです。
VCが儲かるみたいな。
縦型動画はドラマの形を変えるか
IGTVについて宮武さんは、利用はあまり伸びていない印象だとしています。一方で、Instagramが縦型動画に本気で取り組んでいる点は面白いと評価しています。今後は縦型動画が増えるだろうという見方です。
宮武さんが根拠に挙げるのは、画面の形です。いまの映像は、パソコンやモニター向けのワイドスクリーンが主流です。しかしスマートフォンを横にして見たい人は少ないため、Netflixもオリジナルドラマを縦型で作ろうとしているらしい、と宮武さんは話します。
パソコンやモニター向けのワイドスクリーンが主流で、スマートフォンには合わない
ドラマなどを最初から縦型で作り、スマートフォンでそのまま見られるようにする
草野さんもNetflixのInstagramアカウントで、ミニ番組を縦型に編集し直してIGTVで配信している例を見ていました。宮武さんは、2018年は縦型動画の「トライアル」の年だったと位置づけています。TikTokやHQといった既存の勢力に加えて、新たな流れとして縦型動画が出てきたことも、10位に選んだ理由です。
ロシアの情報操作はどこまで及んでいたのか
9位はフェイクニュースです。草野さんは、フェイクニュースといえば前年に流行した話題という印象を持っていました。宮武さんも、2016年の大統領選の頃に注目された話題であることは認めています。
それでも9位に入れた理由として、宮武さんは2018年に出た調査や研究を挙げます。そこで、ロシアが2016年の選挙に大きく影響していたことが明らかになったといいます。標的にされたのは黒人の有権者でした。投票に行かせないように、コンテンツやイベントが作られていたそうです。
手段はInstagramなどのソーシャルアカウントでした。投票しないよう促す画像にハッシュタグを付けて拡散していたといいます。影響はネット上にとどまらず、現実の世界にも及んでいたと宮武さんは話します。
標的の設定
黒人の有権者に狙いを絞る
発信
ソーシャルアカウントで画像やイベントを作り、ハッシュタグを付けて拡散する
結果
黒人の投票率がかなり下がった
宮武さんによると、2016年に話題になったフェイクニュースは、トランプ氏やクリントン氏が変なことをした、といった内容が中心でした。しかし実際には、それ以上の工作が裏で動いていたことが、2018年の大きなニュースになったのです。
発覚の経緯について、宮武さんはジャーナリストの調査もあったとしつつ、主に米国政府の調査だと説明しています。CIAやFBIが、ロシア政府とつながる会社を突き止め、そのアカウントを調べたことで明らかになったといいます。ロシア国内には、米国に向けて5年間プロパガンダを続ける計画があったそうです。
プラットフォーム側が防げなかった理由についても、宮武さんは考えを述べています。工作の投稿は、普通の個人の投稿に見えるため監視が難しいといいます。さらに米国では、どんな意見でも書ける文化が規制として定着しています。そのため、FacebookやTwitterが「投票するな」という投稿を一律に禁止することはできないという見方です。
思った以上(に)フェイクニュースの裏があったっていうところが、今年でかいニュースだったかなと思いますね。
宮武さんは、この件は日本ではあまり報道されていないとも指摘しています。
Facebookに買収された創業者はなぜ去ったのか
8位は、Facebookの人事問題です。2018年には、WhatsAppやInstagramなど、Facebookが買収した会社のCEOが辞めるケースが目立ちました。代表例として2人が挙げたのは、Instagramの共同創業者であるケビンさんとマイクさんがそろって退任したことです。
ケビンさんは「旅に出たい」と語っていました。しかし宮武さんが注目するのは、退任時のもう一つの発言です。
(ケビンさんは)仕事が本当にめちゃくちゃ楽しければ誰も辞めないよっていうように言って去ったので、明らかに何か起きたんですよね。
宮武さんによると、Instagramはもともと、Facebookとは別々に運営する方針でした。ところが、マークさんの下で働く人物がInstagramの方針に口を出すようになり、かなり揉めたそうです。別々に運営するという約束が守られなかったことが、退任の判断につながったという見方です。
WhatsAppでも同じことが起きていました。WhatsAppは広告を一切入れないと言い続けてきましたが、Facebook側が広告を入れようと持ちかけたといいます。その影響で、創業者の1人やビジネス部門のトップが辞めています。
宮武さんが重く見るのは、辞めた人たちがFacebook株のベスティング ── ストックオプションなどの権利が、一定期間在籍することで段階的に確定していく仕組み。途中で辞めると、まだ確定していない分は失われますを放棄している点です。WhatsAppの場合は100億単位のお金を置いて去ったとされ、それほどの判断だったと宮武さんは話します。
さらに、あまりニュースになっていない例として、宮武さんはOculusの創業者であるブレンダンさんの退任も挙げます。Oculusでも方向性の違いから、上層部が辞めていったという話を聞くそうです。
草野さんは、日本ではM&Aのあと社長がすぐ辞めるケースが多い印象があるとしたうえで、Instagramの創業者たちが4、5年残っていた点に触れます。宮武さんは、Instagramの方向で運営してよいとFacebookが約束していたため、自分の会社として運営を続けられたのだろうと答えています。
宮武さんは、買収後の統合が難しいことを一般論としても語っています。カルチャーが合わない、従業員をどうするか、社長にもエゴや方針がある、といった理由から、多くの買収はうまくいかないといいます。Googleも買収ではかなり苦しんでいたそうです。
DropboxとSpotifyの上場で見えたIPOの長期化
7位は大型のExit、つまりM&AとIPOです。宮武さんによると、IPOの件数は前年からそれほど変わっていません。一方で、大型のM&Aが大きく増えました。両方を合わせると、2018年はテック業界にとってExit市場が好調な年だったといいます。
IPOの例として挙がったのは、DropboxとSpotifyです。草野さんは、Dropboxが「やっと上場」したことに驚いていました。宮武さんによると、Dropboxは創業から13年ほどで、YC ── シリコンバレーの著名なスタートアップ支援プログラム「Yコンビネーター」の略称。Dropboxは初期の参加企業の一つです出身企業として初めての上場案件だったそうです。
宮武さんは、米国のテック企業が上場するまでの期間が延びていることをデータで示しています。2013年には、VCからの最初の資金調達からIPOまで7年弱でした。2018年にはそれが10年以上に延びています。同じ年に上場したドキュサインは15年かかったといいます。
宮武さんは、今後は3年で上場する会社と15年かけて上場する会社に、二極化していくと予想しています。草野さんが「上場する意味があまりないということか」と尋ねると、宮武さんは、未上場でも資金が集まる状況を認めました。そのうえで、初期の投資家や従業員にExitの機会を与えることが上場の意味になっている、と説明しています。Spotifyはまさにその例だといいます。
2018年のIPOの傾向として、宮武さんはBtoB、とくにSaaS系の上場が増えた点を挙げています。消費者向けではFARFETCHやSONOSが上場しました。それ以上に目立ったのは、Domo、ドキュサイン、スマートシート、ゾーラといったBtoB企業だったそうです。
Red HatとAdobe、大型M&Aは何を意味するか
M&Aで2018年に最も大きかったのは、IBMによるRed Hatの買収です。宮武さんは、Linux ── 無償で公開され、誰でも改良できるオープンソースのOS。サーバーや組み込み機器などで広く使われていますのオープンソース事業を手がける会社だと紹介し、買収額は33〜34ビリオン(330億〜340億ドル)ほどだと話しています。
Red Hatの技術が身近な場所で使われていることを示すため、宮武さんは自分の体験を語っています。ANAの機内で、座席前の画面が宮武さんの席だけクラッシュしたことがあったそうです。
(画面が)リスタートを自動的にするんですよ。そしたらLinuxのコードがバンバン出てきて、ちょこちょこRedHatっていうのが出てきて、RedHatなんだみたいな。
宮武さんは、出資先がある米国ユタ州の動きにも注目しています。ユタでは2018年に3社が上場しました。4社目も上場を目指していましたが、SAPに買収されています。
SAPはコルテックス(Qualtrics)を8000億で買収しました。宮武さんによると、IPOしていれば4000億ほどの評価だったはずの会社です。その倍の金額での買収だったため、業界では「ユタが」と驚かれたといいます。草野さんも、次にテック企業を起業するのに良い街のランキングで、ユタ州が2位だったことを紹介しました。
最後に宮武さんは、Adobeが積極的に買収した年だったとも振り返っています。最大の案件はマケト(Marketo)の買収で、セールスフォースに対抗しにいった動きではないかと見ています。今後どうなるかを見たいと話しています。
サンフランシスコを埋めた電動スクーター
6位は電動スクーターの競争です。宮武さんは、2018年の3月頃にLimeとBirdが資金調達をした時期から、サンフランシスコの街のあちこちに2社のスクーターが置かれるようになったと振り返ります。
勝手に置いてるんですよね。本当に街が汚くなるんじゃないかって本当に思ったので。日本だと絶対ありえないなと思ったんですよね。
その後、規制の問題などで、サンフランシスコのスクーターはいったん姿を消しました。宮武さんによると、ようやく少しずつ戻りつつある状況で、LimeとBirdはまだサンフランシスコに本格的には参入できていないそうです。
草野さんは前の月にサンフランシスコを訪れた際、街に置かれたスクーターに乗ろうとしたものの、結局乗れなかったといいます。理由は、土地に不慣れなまま、スピードの出る乗り物でマップも見ずに走るのが怖かったからです。
サンフランシスコ初心者の人間が、マップを見ずに走る、速いスピードの乗り物に乗るっていうのが怖すぎて無理でした。
草野さんは、現地の友人が個人で持っていたスクーターに少しだけ乗せてもらったそうです。めちゃくちゃスピードが出てすごく怖かったものの、乗りこなせたら気持ちいいだろうと話しています。宮武さんは、アパートから会社まで歩いて30分ほどかかり、Uberを使うのはもったいないので、1ドルで乗れるスクーターは便利だと感じているそうです。Limeが戻ってきたら乗ろうと考えています。
LimeはUber、BirdはLyftなのか
宮武さんは、LimeとBirdの位置づけを、配車サービスのUberとLyftになぞらえています。Limeは世界展開を進め、Birdは米国で着実に事業を進めているという違いがあるからです。
世界展開を進めるUber型。Uberから出資を受け、Googleマップにも表示されるようになった
米国で着実に事業を進めるLyft型。Uberによる約2000億での買収が噂された
宮武さんによると、2018年の終わりには、UberがBirdを約2000億で買収するのではないかという話が出ていました。UberはすでにLimeに出資しているため、宮武さんはBirdの名前が出たことにすごく驚いたそうです。Limeの内部情報を持つUberがBirdを選ぶなら、Limeに何か問題があったのかと感じたからです。ただし、その後話は動いていないといいます。
草野さんは、出しているプロダクトはほぼ同じなのに、戦略の分かれ道は世界展開か国内で着実にやるかだけなのか、と質問しました。宮武さんは、それだけではないと答えています。Uberの世界展開もほぼ失敗しているため、何が正解かはわからないという立場です。
スクーター企業のExitについて、宮武さんはUberやLyftに買収されるのではないかと見ています。実際に、Lyftは自転車シェアのMotivateを、UberはJumpを買収しています。最近はLimeがGoogleマップに表示されるようになり、そこにはUberの影響もあったのではないかといいます。
(Googleマップへの表示は)多分すぐにBirdも入ってくるじゃないですか。結局Uberもすぐその後Lyftが入ってきたんで。
このため宮武さんは、スクーター競争はスピードや値下げの勝負になると見ています。そのうえで、どちらが勝つのか、あるいは両社とも生き残るのかに注目しています。前半はここまでで、5位以降は次回に続きます。草野さんは、日本ではあまり盛り上がっていないのに、米国ではこれほど影響があったという話が次回は面白いはずだ、と予告しています。
まとめ
2018年テックニュースの前半では、動画アプリの流行から電動スクーター競争まで、米国で影響の大きかった5つのトピックが取り上げられました。宮武さんの解説からは、どのニュースにも日本ではあまり知られていない背景があることが見えてきます。
- HQの高いリテンションやTikTokの統合に加えて、縦型動画が新たな流れとして注目されている
- ロシアが黒人の有権者に狙いを絞ってソーシャル上で工作し、2016年の選挙に影響していたことが2018年に明らかになった
- Facebookが別々に運営するという約束を守れなかったことで、InstagramやWhatsAppの創業者が多額の株を放棄して去った
- 最初の資金調達からIPOまでの期間は、2013年の7年弱から2018年には10年以上に延び、BtoB企業の上場や大型M&Aが目立った
- LimeとBirdは規制の壁に直面しながら、UberやLyftとの関係も含めた生き残り競争を続けている





