日本でもリファレンス文化は増えている?
この回のテーマは、よく知られたカルチャーの一場面を引用・再利用して意味を伝える「リファレンスカルチャー」です。宮武さんは、前回のコメンタリーカルチャーの話をさらに掘り下げる形で、アメリカのビジネスを理解するにはこの文化への気づきが欠かせないと切り出しました。
宮武さんは、日本でもリファレンスカルチャーが少しずつ増えている気がすると話します。例に挙げたのはアニメのダンダダン ── 龍幸伸さんの漫画を原作とするアニメ作品。オカルトや宇宙人、妖怪を題材にしたバトルコメディですで、音楽系の引用や、妖怪やエイリアンを信じるオカルト文化へのオマージュが入っていると見ています。
ちょっとずつそういう、ミームカルチャーもそうですし、リファレンスカルチャーもそうだと思うんですけど、日本でも出てきているのかなっていうふうには思いますよね。
草野さんが銀魂を挙げると、宮武さんは銀魂もそうだと応じ、パロディやお笑い系のコンテンツはリファレンスしやすいと補足しました。ハンターハンターも、セリフやアクションをミーム化しようとしていたように見えるといいます。
そのうえで宮武さんは、リファレンスカルチャーを「よく知られたカルチャーモーメントを引用・再利用・再現し、それに触れる形で自分のメッセージを伝えること」と整理します。最もよく使われるのは映画、テレビ、ミーム、音楽といったエンタメの領域です。
一瞬で伝わる「よそ見をする彼氏」の力
宮武さんによると、リファレンスを使う意図は、仲間意識をつくること、お笑いのネタにすること、そして細かく説明しなくても意味合いを伝えることにあります。典型例として挙げたのが、英語でThe Distracted Boyfriendと呼ばれる「よそ見をする彼氏」のミームです。
草野さんが説明するように、このミームは彼女と手をつないだ男性が振り返って別の女性を見ている画像です。ブランドが乗り換えを表現したり、番組同士のライバル心を見せたりと、さまざまな場面で使い回されています。
一言で説明できないもの(関係性)がそれで表現できるっていうのは面白いポイントですよね。
宮武さんは、ベースのストーリーが一瞬で伝わるからこそ、どんなひねりを加えたかに注目が集まると話します。マーケティングの担当者にとって「一瞬で伝わる」ことは非常に大事で、その意味でミームやリファレンスは重要だと考えています。
さらに宮武さんは、Off Topicがテクノロジーやビジネスだけでなくカルチャーの話もする理由を、ビジネスのコアにカルチャーがあると信じているからだと説明しました。
宮武さんの見立てでは、テクノロジーやビジネスは、先に変わったカルチャーに合わせて調整していく側です。だからこそ、リファレンスをするかどうかに関係なく、カルチャーを理解することが重要になるといいます。
カルチャーが変わる
ビジネスやテクノロジーより先に変化が起きることが多い
ビジネスが調整する
テクノロジーやビジネスがその変化に合わせていく
理解が必要になる
リファレンスの有無にかかわらず、カルチャーを知ることが重要になる
日米でリファレンスの量が違うのはなぜか
草野さんは、日本にリファレンスカルチャーがないわけではないと話します。お笑いのネタをアニメが取り入れるようなエンタメ内の引用は見かける一方で、社会的な話題やビジネスのトレンドが作品に組み込まれることは少ないと感じているそうです。
宮武さんは、商業的な使われ方が大きな違いの一つだとしたうえで、エンタメの中でも使われている量が圧倒的に違うと見ています。日本の映画やテレビドラマ、音楽は、リファレンスの数がまだ少ないという印象です。
宮武さんはその背景に文化的な理由があると考えています。日本では他の作品をリファレンスすると、ファンが怒ったり失礼に見えたりすることを気にする人がいる一方、アメリカではリスペクトしているから入れるという受け止め方になりやすいといいます。
他作品を引用するとファンが怒ったり、失礼に見えたりすることを気にする人がいる
リスペクトしているから入れる、という考え方で受け止められやすい
ただし宮武さんは、リファレンスを入れれば良いという話ではなく、作品にフィットするか、意味合いが伝わるかが問われると付け加えました。日本で増えてきた理由についても、考え方が大きく変わったというより、商業的な見方が少し変わったのではないかと話しています。
草野さんは、元ネタを考察して発信する人が増え、コミュニティができてきたのかもしれないと指摘しました。宮武さんも、インターネットカルチャーの浸透に合わせてコンテンツが変わっているのかもしれないと応じています。
シンプソンズとファミリー・ガイはなぜ似ている?
宮武さんは、リファレンスカルチャーをコメンタリーカルチャーのサブカテゴリーと位置づけます。リファレンスはコメンタリーの一種ですが、すべてのコメンタリーがリファレンスではないという整理です。
その違いを示す例として、宮武さんはアメリカのアニメを挙げました。『シンプソンズ』と『ファミリー・ガイ』はリファレンス系、前回取り上げた『サウスパーク ── 1997年から放送されているアメリカの大人向けアニメ。時事問題や社会問題を風刺するスタイルで知られています』はよりコメンタリー型の作品だといいます。
宮武さんによれば、シンプソンズのホーマーとファミリー・ガイのピーター・グリフィンは、どちらも太っていて食べるのが好きで、少しクレイジーだけれど家族思いのお父さん役です。どちらもシットコムで、最後はストーリーが元通りに戻るのが基本の形です。
ファミリー・ガイの舞台について、宮武さんはボストン近辺の田舎町を想定していると説明します。お父さんの喋り方や考え方は、ボストン近辺出身のブルーカラーの人たちを誇張して代表させたような描き方だといいます。
アメリカのアニメはなぜお父さんが主役なのか
草野さんは余談として、アメリカのこうした作品はお父さんと息子が中心になりがちだと気づいた話をします。日本では『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』など、親の中ではお母さんのほうがよく出てくる印象があるそうです。
宮武さんは、アクションを起こす中心人物が誰かの違いだと説明しました。日本の作品では子どもがいたずらや騒動を起こし、親はそれを落ち着かせる役割が多い一方、アメリカの作品ではお父さんが仕事で外に出てお金も持っているため、変なことができてしまう主人公になりやすいといいます。
バカっぽい役を任せないといけない中で、それを子供にさせるのは多分かわいそうってなっちゃう部分もあって。
宮武さんはさらに、お父さんにやらせればビールをたくさん飲ませたり変なことをさせたりできると冗談交じりに話します。草野さんも、ちびまる子ちゃんやクレヨンしんちゃんでもコメディ役は確かにお父さんだと納得していました。
子どもが騒動を起こし、親はそれを調整したり落ち着かせたりする
お父さんが外に出てお金も持つため、騒動を起こす主人公になりやすい
ストーリーと無関係な80年代ネタはなぜ入る?
宮武さんは、シンプソンズとファミリー・ガイには特にリファレンス系のジョークが多いと話します。前提として、宮武さんは3作品とも10シーズン以上見ていて、サウスパークは全27シーズンをほぼ全エピソード2、3回見ているほどなので、批判ではなく違いを示したいだけだと断っています。
ファミリー・ガイとシンプソンズは、各エピソードにストーリーはあるものの、シットコムなので最後は元に戻ります。その中に、宮武さんが見ていた頃は80年代や90年代のポップカルチャーのリファレンスが大量に入っていたといいます。
例として宮武さんが挙げたのが、80〜90年代のおもちゃとアニメ番組であるG.I.ジョー ── アメリカの玩具メーカー、ハズブロが展開する軍人フィギュアのシリーズ。80年代にはアニメ化され、人気を集めましたです。ファミリー・ガイでは、G.I.ジョーのキャラクターが途中で一瞬出てきて有名なセリフを言うことがあります。
それは一瞬だけなんですよ。そのジョークを完成させるために一瞬出てくるっていうだけで。
宮武さんによると、こうしたネタはストーリーとはほとんど関係がありませんが、それ自体が面白く、雰囲気も良いので成立しています。古いネタが多い理由は、ライター陣に80年代や90年代のカルチャーを見て育った人が多かったからだと説明しました。
サウスパークが仕掛けた「マナティー」いじり
草野さんは、リファレンスを時代に合わせてアップデートし続けるのは大変ではないかと問いかけます。宮武さんはそれに同意し、そこがまさにサウスパークがファミリー・ガイとシンプソンズを批判しているポイントだと話しました。
彼ら(ファミリー・ガイ)はただただ80年代、90年代のジョークしか言わない、つまんない連中だみたいなことを、実際にインタビューでも言ったことありますし。
サウスパークには、ファミリー・ガイを強くいじった2話連続のエピソードがあります。宮武さんの説明では、ファミリー・ガイのライターが実はマナティーの群れで、水槽に浮かぶポップカルチャーのボールを組み合わせてジョークを作っている、という設定です。
宮武さんによれば、この批判の核心は、ファミリー・ガイのジョークが「これって、こういう時のこれみたいですよね」とその瞬間の感情とだけ結びついて差し込まれる点にあります。物語自体が面白いのではなく、ジョークが面白いだけだ、という指摘です。
ただし宮武さんは、ファミリー・ガイやシンプソンズもすべてがリファレンスではなく、サウスパークもすべてがコメンタリーではないと補足します。どちらもリファレンスとコメンタリーを混ぜていて、どちらを優先するかのグラデーションが違うだけだといいます。
古いリファレンスはカルチャーを生き延びさせる
草野さんは、2025年になっても80年代のネタを繰り返していることを、Z世代などの若い視聴者はどう受け止めているのかと尋ねます。宮武さんは、視聴者は全然いいと思うと答え、ライター陣もおそらく90年代や2000年代へとアップデートしているかもしれないと話しました。
宮武さんが大事なポイントとして挙げたのは、視聴者は必ずしもそのネタが「古い」とわからないということです。G.I.ジョーが出てきても、それが何年代のものか知らない人もいます。
宮武さん自身、これらの作品を通じて過去のカルチャーやIP、曲を初めて知ったことが何度もあるそうです。ファミリー・ガイで末っ子のストゥーイが歌う曲を聴いて、あとでYouTubeで調べ、エルトン・ジョンの「ロケットマン」だと知ったといいます。
宮武さんは、過去のものがリファレンスによってもう一度盛り上がったり、出典がわからないままセリフだけが残り続けたりすることがあると話します。リファレンスカルチャーは、世代をまたいでカルチャーを受け継ぐことを可能にするという見方です。
内部的リファレンスと外部的リファレンスの違い
宮武さんは、リファレンスカルチャーを「内部的なリファレンス」と「外部的なリファレンス」の2種類に分けられると提案します。内部的なものはインサイドジョーク系で、既存のファンとの関係性を深めるためのものです。
内部的なリファレンスの例が、スター・ウォーズの「I have a bad feeling about this.」というセリフです。宮武さんによると、このセリフはすべてのスター・ウォーズ作品で使われていて、誰がどのタイミングで言うかは作品ごとに違います。
それをスター・ウォーズファンが聞くと、「あ、来た」ってなるんですよ。
宮武さんいわく、このセリフはストーリーの展開とはまったく関係がありません。初めて見る人にはただのセリフでも、ファンには歴史が繰り返されたことがわかるため、映画館でファン同士がニヤニヤするといいます。
一方、外部的なリファレンスの例が、「May the Force be with you.」をもじった「May the Fourth be with you.」です。5月4日がスター・ウォーズデーとされ、アメリカではファン以外にも向けて使われ、ビジネスもプロモーションに活用しています。
宮武さん自身も、テック系の起業家と話すときに『マンドロリアン』の「This is the way」を使うことがあるそうです。このセリフはミーム化されてスター・ウォーズを知らない人にも知られているため、会話で使っても不自然ではなく、知っている人は同じ言葉を返してくれるといいます。
インサイドジョーク系で、既存ファンとのエンゲージメントを深める。例は「I have a bad feeling about this.」
ファン以外にも向けて、作品やカルチャーそのものを広める。例は「May the Fourth be with you.」
宮武さんは、内部的なものが途中で外部的なものになるケースもあると話します。「May the Fourth be with you.」は最初は内部的なものでしたが、徐々に広がってスター・ウォーズデーが生まれ、ブランドも乗っかるようになったことで外部的な性格を持つようになったといいます。
ウィキッド色のスーツケースが示すブランドの手口
宮武さんは、メディアやブランドが外部的なリファレンスをうまく活用していると指摘します。去年『ウィキッド』が公開されたときには、多くのメディア企業が劇中歌「ポピュラー」をもじったヘッドラインで記事を出していたそうです。
ブランドの事例として、宮武さんはスーツケースブランドのAwayの店舗を訪れた話をしました。店内には、アメリカで人気のテレビ番組『ホワイト・ロータス ── 高級リゾートを舞台に、宿泊客や従業員の人間模様を描くアメリカHBOのドラマシリーズ。シーズンごとに舞台が変わります』と正式にコラボした白いスーツケースがありました。
別のエリアには緑色とピンク色のスーツケースが並んでいて、宮武さんはこれをおそらく『ウィキッド』へのオマージュだと見ています。ただし正式なコラボではないと思われ、既存商品だったのか専用に作ったのかはわからないとしています。
宮武さんは、Awayのようにカルチャーへの関心を示すことで親近感を得ようとする動きを、ブランドがフレキシブルに使う手口として面白いと評価していました。
多様な国で共通言語になるカルチャー
宮武さんは、アメリカでリファレンスカルチャーがよく使われる大きな理由の一つにダイバーシティを挙げます。いろいろな人種や考え方の人がいる中で、他人のカルチャーを深く理解するのは難しいため、共感を得る手段としてカルチャーリファレンスがあるといいます。
草野さんは、自分と違うカルチャーを自分が代表するように発信すると盗んでいるように見えかねないが、引用する形で借りるなら綺麗に見えると付け加えました。
宮武さんはさらに、スター・ウォーズのような別世界のカルチャーなら、アジア系の人と白人の人のように家族観の違う人同士でも共通のカルチャーを作れると説明します。プロスポーツの試合で必ず国歌が流れるのも、アメリカというカルチャーをあらゆる層に根付かせるためでもあるのではないかと話しました。
ダイバーシティがあるからこそ、よりこのカルチャーのリファレンスみたいなのが重要になっているのかなと思いました。
深さより広がりが重視される時代
宮武さんは、リファレンスカルチャーを「エンゲージメントの深さ」と「どれだけ横に広がるか」の2軸で考えられると話します。過去は深さが重視されていたのに対し、今は横への広がりにアテンションが向かっているという見方です。
エンゲージメントの深さが重視されていた
TikTokなどのアルゴリズムによって、横への広がりや次のトレンドへの乗り方が重視されている
宮武さんは、その背景にTikTokのようなテクノロジーとメディアの進化があると考えています。アルゴリズムでどんどん広がるため、深く掘るよりも次の新しいトレンドに乗ることが大事になっているといいます。
宮武さんは、スキムズ ── キム・カーダシアンさんが共同創業したアメリカの補正下着・アパレルブランドのCEOの話も引きます。昔のカルチャーはカウンターカルチャーから生まれることが多かったのに対し、今はトレンドに沿うことがポップカルチャーになっているという指摘です。
宮武さんによれば、アテンションが分散されている今は、人を引き寄せる最初のきっかけ作りがどんどん難しくなっています。
AIスタートアップがローンチ動画にこだわる理由
宮武さんは、きっかけ作りの難しさはBtoBの世界でも起きていると話します。最近のサンフランシスコでは街中に撮影クルーが増えていて、その多くがAIスタートアップのローンチ動画を撮っていると、複数の人から聞いたそうです。
草野さんが振り返るように、以前のローンチ動画はスクリーンショットをつないだようなものが中心でした。宮武さんは、役者やカメラクルーを使う凝った動画が一般化したのは、アテンションを引き寄せることがどんどん難しくなっているからだと見ています。
ローンチ動画自体がほぼなく、あってもスクリーンショットのような動画が多かった
役者やカメラクルーを使った凝った動画が一般化している
ここで効くのがカルチャーリファレンスです。宮武さんは、DealとRipplingのスパイ騒動を明確にオマージュしたセキュリティ系企業のローンチ動画を例に挙げ、テックカルチャーの中でうまくリファレンスしてアテンションを集めたと評価しました。
草野さんは、アテンションを取れても、サービスの中身や誰がやっている会社なのかを知られないまま過ぎ去っていくのは怖いと懸念を示します。
結果的にいいプロダクトを作らないといけないっていうのは昔から変わんないっていうところですね。
ザ・ロックとスキムズが強い理由
宮武さんはスキムズのCEOの言葉として、1000億円の予算で新しいウォッカの会社を作って広告を打っても、ドウェイン・ジョンソン(ザ・ロック)が持つテキーラブランドと同じ認知度は取れないだろうという話を紹介しました。草野さんも、スキムズのキム・カーダシアンとカーダシアン家も同じ構図だと応じます。
宮武さんによると、アメリカで完全にメインストリーム化できるカルチャーは限られています。DealとRipplingの騒動はシリコンバレーの人ぐらいしか知らず、一般の人には「Dealって何?」から始まってしまいます。
世代や業界を超えるカルチャーとして宮武さんが挙げたのは、エンタメとスポーツの2つです。スキムズはその両方を押さえていることが強みだといいます。
スキムズは、アメリカのカルチャーがアメリカファーストの方向へ向かっていることに気づいたと宮武さんは話します。オリーブガーデンの人気やカントリーミュージックの復活、バナナ・リパブリックやアバクロンビー&フィッチの再浮上を背景に、LAの新店舗の横のダイナーと10日間ほど「スキムズダイナー」をコラボで展開し、大きく売れたそうです。
宮武さんは、ビヨンセとリーバイスの事例も含め、カルチャーを読むことでコラボ先やブランディング、マーケティングの方向性が決められるため、その重要性が増していると話しました。
ちいかわと二郎系ラーメンは日本版の好例?
草野さんは、日本ではちいかわがその例かもしれないと話します。宮武さんも、漫画やアニメは日本では世代を超えられるカルチャーだと同意しました。
草野さんによれば、ちいかわは他のアニメと違ってリファレンスが多く、公式ではないところから始まってコラボにつながっているようにも見えるそうです。可愛らしいキャラクターがにんにくマシマシのラーメンを好み、二郎系ラーメンが流行っている背景の中でラーメン屋とコラボする流れは、スキムズのダイナーに近い文脈だと指摘しました。
ライアン・レイノルズは俳優か、起業家か
宮武さんは、カルチャーを作る人たちのあり方も変わったと話します。昔はアーティストはアーティスト、俳優は俳優と特化型でしたが、今は複数のアイデンティティを持つ人が増えているといいます。
例として挙げたのがライアン・レイノルズさんです。宮武さんによれば、俳優でありながら、モバイルネットワークのMintのファウンダーでもあり、サッカークラブのオーナーでもあります。ザ・ロックも、レスラーから世界的な俳優になり、起業家でもあります。
アーティストはアーティスト、俳優は俳優と、それぞれ特化型だった
俳優が起業家やクラブオーナーも兼ねるなど、複数のアイデンティティを持つ
宮武さんは、こうした変化によってコラボやリファレンスの選択肢が増える一方、良い組み先を見つけるのは難しくなったと話します。ライアン・レイノルズさんとザ・ロックのどちらと組むべきかは、俳優としての違いだけでなく、起業家としての違いや組み合わせまで加味する必要があるといいます。
アメリカを一括りにしないためのカルチャー学習
宮武さんは、カルチャーリテラシー、アメリカでいうツァイトガイスト ── ドイツ語で「時代精神」を意味する言葉。英語圏でもその時代の空気や流行を指す言葉として使われますのように、今と過去のカルチャーを知ることが大事だと話します。アメリカで勝負したい起業家や企業には、まず流行している映画やテレビ番組から見るだけでもよいと勧めました。
具体的には、サウスパーク、ファミリー・ガイ、シンプソンズ、Netflixのストレンジャー・シングスなどが挙げられています。宮武さん個人としては、規模の小さめなYouTubeチャンネルもチェックしているそうです。
宮武さんは、日本ではちいかわを知らない人はほとんどいないため、起用した場合のインパクトも想像しやすいと話します。しかし日本展開をしたい海外企業が「ちいかわって何ですか?」と言えば、本気で日本に来る気があるのかと思われてしまうといいます。
でもそれって逆でも同じで。
日本企業がアメリカに行くときも、ジェナ・オルテガさんの名前が通じない、東海岸と西海岸やハーバード大学とMITの違いがわからない、といった状態では同じことが起きます。宮武さんは、日本人が東大と京大、東京と京都の違いをなんとなくわかるように、アメリカも細かく理解する必要があると話しました。
宮武さんによれば、日本の企業の人と話すと、アメリカを一括りで見てしまう人が意外と多いそうです。だからこそ、カルチャー的な作品に触れることで、少しずつ理解度を高めていくことが大切だとしています。
翻訳で消えるコンテキストを探す楽しさ
草野さんは、翻訳で言語が変わるとコンテキストは必ず失われると話します。字幕では最大2行で伝えなければならないため、具体的な商品名が「お菓子」のような一般名詞に置き換わってしまうことがあるといいます。
本でも同じことが起きていて、草野さんは村上春樹作品の英訳では日本の特定の店名がファミリーレストランに変えられていた例を挙げました。宮武さんも、草野さんが以前、本を読んでいてHマート ── アメリカ各地に展開する韓国系スーパーマーケットチェーン。アジア系食材を幅広く扱っていますを調べたと話していたことに触れています。
草野さんは最近、ステフィン・カリーさんのドキュメンタリーを見て、母親が「カリーはキャベツパッチドールに似ていた」と話す場面に出会ったそうです。日本語字幕では「人形」としか書かれておらず、調べてみて初めて、その可愛らしさが似ているという意味がわかったといいます。
宮武さんは、特定のコンビニ名や店名が選ばれるのは、日本人ならそのニュアンスをよくわかっているからだと話します。解説するには追加の段落が必要になるため、翻訳ではどうしても失われてしまうといいます。
宮武さんは、リファレンスは完璧ではなく失われるコンテキストも多いとしつつ、他のカルチャーの意味合いを引き寄せようとする点が好きだと話します。調べたり同じセリフを何度も耳にしたりすることが、映画を見る、曲を聴く、アニメを調べるといったきっかけにつながるからです。
日本で引用が恥ずかしく感じられるのはなぜ?
草野さんは、日本では何かを引用すること自体が少し恥ずかしいと感じられるのかもしれないと話します。ストレートに言わない文化があるうえ、見ていない作品を引用することを苦手に感じる人も多いのではないかという見方です。
草野さんは「にわか」という言葉にも触れ、ライトなファンであることは本来ポジティブなはずなのに、引用をきっかけに「自分のほうがもっと知っている」と張り合いが始まってしまう気がすると話しました。宮武さんも、オタク気質だからこその難しさが日本にはあると応じます。
オタクであることは個なんですよね。一人の活動な気がしてて。
草野さんは、何かのコンテンツをきっかけにみんなで集まって話す文化はアメリカのほうが強いと感じています。宮武さんも、草野さんがアメリカの知人たちがハリー・ポッターやスター・ウォーズについて熱心に議論する様子に驚いていたことに触れ、日本では個で応援するパターンが多い気がすると話しました。
草野さんは「同担拒否」や「推し活」という言葉にも触れ、日本のファン活動はそれぞれの個人の活動という色が強いのではないかと話します。宮武さんがブッククラブが日本で少ない理由もそこにあるのかと尋ねると、草野さんはそもそも本を読む人や本を語るコンテンツが少ないのではないかと答え、続きは次回へと持ち越されました。
まとめ
この回では、リファレンスカルチャーがミームのように一瞬で意味を伝え、ファンとの絆を深め、多様な人々の共通言語にもなることが語られました。アテンションの獲得が難しくなるほどカルチャーを読む力の重要性は増しており、宮武さんは特にアメリカで勝負する日本企業に、アメリカを一括りにせずカルチャーを学ぶことを勧めています。
- リファレンスはコメンタリーの一種で、説明なしに意味や関係性を一瞬で伝えられる
- スター・ウォーズの例のように、ファン向けの内部的リファレンスと、広く広める外部的リファレンスがある
- 古いネタの引用は、過去のカルチャーやIPを世代を超えて生き残らせる役割も持つ
- アテンションが分散した今、ローンチ動画やブランドのコラボでもカルチャーリファレンスが効いている
- 海外でビジネスをするなら、相手国のカルチャーを細かく理解することが欠かせない




