1ビリオンは何円?巨額投資を読む前の物差し
今回のOff Topicのテーマは、メタ(旧Facebook)がなぜ大型投資を続けるのかです。宮武さんは、メタバースへの投資が良いか悪いかを論じる前に、とてつもない金額を投じる理由と意味を考えたいと前置きします。
話の順番は、まずメタのAI投資、次に社名まで変えたメタバース領域です。メタ以外のGAFAの大型投資にも触れ、市場で勝ち抜くためにそこまでの投資が必要なのかを考えていきます。
この回はドル建ての大きな金額が次々に出てくるため、宮武さんは最初に換算の目安を示しました。数兆円規模になると感覚がつかみにくくなるので、聞き手が頭の中で換算できるようにという配慮です。
10ビリオン、何兆円とか何十兆とかの辺りがわかんなくなるんですよ。なんで、ワントリリオンっていくらでしたっけ?とか、そこら辺がわかんなくなっちゃうんで。
メタのAI投資の出発点として、宮武さんは2023年2月の発表を挙げます。マーク・ザッカーバーグさんが、AI、特に生成技術に関する新しいプロダクトチームを作ったと発表したものです。
宮武さんによると、現在はCTOのボズワースさん、CEOのマークさん、CPOのクリス・コックスさんが、他の事業部よりもこのAIチームと最も多くの時間を過ごしているといいます。メタがAIに強い関心を持ち、プロダクト化と商業化を進めていることがうかがえます。
AIは友達になるのか?メタが描く複数アシスタントの世界
宮武さんは、メタがモデルとは別に3つのカテゴリーでAIを開発していると紹介します。AIアシスタント、コンテンツ制作のツール、社内ツールの3つです。
メタのAIアシスタント構想について、マークさんはOpenAIやGoogle、Microsoftとは違うボットが出てくるという仮説を持っているといいます。ChatGPTやBard、Bingが1つのAIとやり取りする形なのに対し、マークさんは人が複数のAIと関係を持つ世界を想定しています。
ユーザーは1つのAIとやり取りする
旅行に詳しいAIなど、人間関係のように複数のAIと関係を持つ
複数のAIが必要になる理由として、宮武さんはブランド側の事情を挙げます。ブランドがAIを提供する場合、自社以外の商品、特に競合サービスをレコメンドされるのは嫌なはずだという見方です。
コンテンツ制作ツールについては、広告クリエイティブの生成や、AIによる編集ができるようになる方向性が語られます。さらに話題は、AIが友達になるのか、メタが「フレンド・アズ・ア・サービス」を提供するのかという問いに移ります。
おー、(AIの友達を)提供しようとしてるんですか。
なんかもちろん、そのAIが友達に今後なる可能性はあるっていうのを言ってるんですけど、彼ら(メタ)はもうちょっとその人をつなげるためのツールを作りたいと。
宮武さんが紹介したマークさんの例は、Facebookの誕生日通知です。今は通知が来るだけですが、AIアシスタントがあれば「この友達は最近これにハマっているので、こういうプレゼントや声かけがいいのでは」と提案してくれるかもしれません。
つまりメタのAIは、友達そのものではなく、メンターやライフコーチ、アドバイザー、応援団のような役割を担い、実際の友達の役割は人間が果たすという整理です。草野さんは、Appleの新しい日記アプリのように、個人の情報をまとめて何かしてくれる方向にみんなが向かっているのかもしれないと重ねました。
人間の表現の壁をどう越えるか?赤ちゃんの例えとコードの話
マークさんは、Facebookや Instagramを含むソーシャルテクノロジーの目的を、人間の表現をより表現しやすくすることだと考えているといいます。翻訳もその一部に関わる、と宮武さんは補足します。
宮武さんによれば、言語は表現のためのツールではあるものの完璧ではありません。アイデアを伝えるために絵が必要なこともあれば、アートやコードが必要なこともあります。
表現の限界について、マークさんが使った例えが赤ちゃんです。赤ちゃんが泣くのは、何かを感じていてもそれをちゃんと伝えられないからだという話です。
方法がそれ(泣くこと)しかない。
方法がそれしかないって。うんうん、まさにそうですね。なので、それもしかも結局赤ちゃんだけではなくて、大人もやっぱ表現しにくい時とかいっぱいあると思うんですよ。
宮武さんは、考え方や感情を表現しやすくすることがテクノロジーのアンロックの1つであり、AIアシスタントなどのツールがその実現に使えるというのがマークさんの見解だと説明します。
テクノロジーに頼ることへの懸念については、Google検索の例が挙がります。検索すればいいので年号などのファクトを覚えなくなるという話がありますが、宮武さんは、10年前と比べて人間全体のキャパシティはGoogleのおかげでむしろ伸びているのではないかと見ています。
コードを書く作業も同じだと宮武さんは言います。Stack Overflow ── プログラマー向けの質問・回答サイト。コードの書き方や不具合の解決策をユーザー同士で共有する場として広く使われていますは書き方を教えてくれる点で価値があり、コードを書くマークさんも、どのライブラリーが存在したかを覚えておく作業がとても面倒だと話しているそうです。
メタは社内向けにコード生成ツールのほか、コード全体や社内のナレッジベースを要約できるAIツールも作っています。情報の流れを良くし、一人当たりの生産性を上げ、新しいことを考える時間を増やす狙いだと考えられます。
ただし要約にはトレードオフがあります。宮武さんは、Off Topicの1回分を全部聞く場合と要約を聞く場合を比べ、要約なら10分や15分で済むかもしれない一方で、小さなニュアンスや表現の仕方が失われると指摘しました。
AIに年間33ビリオン、自社チップまで作る理由は?
メタのAI開発を支えるのはデータセンターです。宮武さんによると、メタのこれまでのデータセンターはCPUベースで既存サービスの運営には向いていましたが、AIにはGPUのデータセンターが必要になるため、数年前から投資してきたといいます。
CFOのスーザン・リーさんが2023年の第1四半期に話した今年のAI関連の投資予想額は33ビリオンで、宮武さんの換算では約4.7兆円です。
なんかその経営陣とか会社全体がそこに絶対投資すべきだっていう認識じゃないと、なかなか通せない。通せないというか、すごい額ですもんね、本当に。
予算の決め方について宮武さんは、サーバーコストなどがかかることに加え、何を開発したいか、それが売上にどう影響するかをしっかり見ている会社だと答えます。4.7兆円は、いろいろな用途に分解した合計だといいます。
メタの投資先の例の1つが自社チップです。AIチップの自社開発は流行になり始めていて、Amazonは3つほどのチップを作り、GoogleやMicrosoftも作っています。Appleは昔から作っています。
ただしメタはAppleと違い、自社チップを商業化する目的はなく、社内だけで使う方針です。ほかにも動画やライブ配信用の集積回路を自社で作り、コード生成ツールも社内で検証していて、今のところうまくいっているようだと宮武さんは話します。
なぜメタはAIモデルを無料で公開するのか?OpenAIとの違い
宮武さんがメタのAI戦略で最も興味深いとするのが、モデルのオープンソース戦略です。2023年にはLLMのLlama ── メタが開発した大規模言語モデル。研究者向けに公開されたのち、モデルの重みが外部に流出したことでも話題になりましたを公開し、最終的にリークされたものの、基本的にはオープンソース化しています。
メタは他にも多くのモデルを公開しています。画像の中のものを認識するSegment Anything、コンピュータービジョン向けのDINOv2、描いた絵をアニメーションにするAnimated Drawings、さらにテキストや音声、映像など複数のデータを統合してものを認識するモデルなどです。
草野さんは、オープンソース化は自社の開発者を増やすためなのかと尋ねます。宮武さんは理由がいくつかあるとしたうえで、マークさん自身が語っている点を挙げました。
Metaはクラウド、あのプロバイダーではないですと。なんかそのAWSとかGoogleとかみたいに。Metaの事業って何かというと、人にコンテンツを作ってもらって、それを消費してもらうことですと。
この視点から見ると、メタとOpenAIのビジネスモデルの違いがはっきりします。OpenAIは最も良いモデルを作らなければ成り立たず、ChatGPTに月20ドル払う人たちも、GPT-4が他社より圧倒的に優れていることを期待しています。
一方のメタは、複数のモデルがある世の中のほうが得をします。宮武さんの例えでは、もしAppleがStable Diffusionを使って画像生成モデルを作り、iPhone上でローカルに画像を作れるようになれば、OpenAIは事業的に傷つきます。しかしメタにとっては、その画像がInstagramやFacebookに投稿されるので好都合です。
最も優れたモデルを作らないと選ばれず、収益が成り立たない
モデルが多く誰でも簡単にコンテンツを作れる世の中のほうが、投稿が増えて得をする
それはすごいなんかいい戦略、いい戦略っていうか、一人勝ちしないと勝てないみたいな世界じゃないっていうのは面白いですね。
宮武さんは、だからこそメタは大量のオープンソースモデルを出しているのだと説明します。コミュニティが改善し、開発者やユーザーが集まり、メタのブランディングも上がり、新サービスのアーリーアクセスを得たクリエイターがコンテンツを作ってくれるという循環です。
失敗の規模も大きくすべき?メタバースに注いだ7兆円規模の赤字
33ビリオンというAI投資の大きさを考える背景として、宮武さんはジェフ・ベゾスさんの言葉を紹介します。会社がスケールするなら他のものもスケールしなければならず、その中には失敗の規模も含まれるという考え方です。
会社が大きくなる時により大きいリスクを取らないと、結局それがうまくいっても、会社にとってそんなに変化がないっていう。
大きくなったら守りに入りたくなるの普通ですよね。
草野さんは、それができているからビッグテックが伸びているのだと受け止め、Appleが車に投資し続けていることも挙げます。話はここから、メタのメタバース事業の投資額に移ります。
メタのメタバース事業は、2012年ごろにOculus ── VRヘッドセットを開発していた企業。メタ(当時のFacebook)が買収し、のちのMeta Questシリーズにつながりましたを約2ビリオンで買収したあたりから始まったとよく言われます。現在のReality Labsはコストの数字を2019年から公開しています。
宮武さんが紹介した予想では、2012年から2023年第1四半期までにメタがメタバースに使った額は52.7ビリオン、約7.5兆円です。そのうち45〜50ビリオン、約7兆円が赤字ではないかとされています。
宮武さんは、今年と来年のReality Labsの売上は前年や前々年より上がるはずだと見ています。理由は、500ドルと安くなったMeta Quest 3が秋に出ることと、同じく秋にQuest向けストアにRobloxが登場することです。
宮武さんは、Robloxが1〜2年、もしかすると1年もかからずに最も人気のVRアプリになるのではないかと考えています。ただしRobloxのユーザーがどこまでVRを使うかは、非常に重要で気になる点だとしています。
Reality Labsの赤字は2023年第1四半期で約4ビリオン、5000億〜6000億円ほどで、前の四半期もその前もほぼ同水準です。年間にすると約16ビリオンの赤字になります。
マークさんはまだ投資を続けると言っており、宮武さんの見立てでは、次の10年間でメタのメタバース関連コストの合計は約200ビリオン、約30兆円になるといいます。
200ビリオンはどれほど大きいのか?iPhoneからアポロ計画まで比べる
200ビリオンという数字は聞いても実感がわかないため、宮武さんは比較で考えることを提案します。VR業界の人は「いけいけ」と言っているだろう一方、メタの社内や投資家からはやりすぎではという声もあり、結局はメタバースをどこまで信じるかの話だといいます。
比較の材料には、Social Capital ── チャマス・パリハピティヤさんが率いるアメリカのベンチャーキャピタル。テック業界の動向について積極的に発信していますのチャマスさんが出した図なども使われます。まずAppleのiPhoneは、2004〜2007年の開発に約3.6ビリオン、4000億〜4500億円ほどかかったとされます。
Appleが優れているのは、2世代目以降のiPhoneを基本的に過去のバージョンの利益で開発している点です。iPhone発売の2007年から2022年末までに、Appleは915ビリオン分のキャッシュフローを生んでいます。
なんかみんな持ってるけど、すごいテクノロジーをぎゅって詰めたデバイスじゃないですか。そう考えるとこんな投資入ってんだな、ありがとうって気持ちになりますね。
ほかの事例も次々に挙がります。テスラはキャッシュフローを黒字にするまでに約25ビリオン、GoogleのOther Betsは過去10年で約40ビリオンを使ったといいます。
GoogleのOther Bets ── Alphabetの決算で、検索や広告以外の自動運転や生命科学などの先端事業をまとめた区分ですは売上の1〜3%ほどですが、メタの年16ビリオンは売上の10〜13%ほどに当たり、比率でも大きな差があります。
| プロジェクト | 投資額 | 補足 |
|---|---|---|
| iPhone開発(Apple) | 約3.6ビリオン | 2004〜2007年 |
| Xbox(Microsoft) | 約4ビリオン | コンセプトから20ヶ月でローンチ |
| PlayStation(ソニー) | 約5ビリオン | 研究開発費 |
| マンハッタン計画 | 23ビリオン | 原子爆弾の開発 |
| ボーイング787 | 32ビリオン | ドリームライナー |
| Other Bets(Google) | 約40ビリオン | 過去10年間の合計 |
| アポロ計画 | 253ビリオン | 1960〜1973年、アメリカ政府 |
| メタのメタバース | 約200ビリオン | 次の10年間の見立て |
マンハッタン計画やボーイング787でさえ桁が1つ違い、チャマスさんの比較で唯一似た予算感だったのがアポロ計画でした。草野さんは、国家の巨大プロジェクトと並ぶ規模を民間でやっていることに驚きます。
ただし宮武さんは、これは今後の投資の話だと念を押します。過去10年の50ビリオンは、実はそこまでめちゃくちゃな数字ではないというのが、この回の重要なポイントです。
Alexaは6兆円の赤字?AmazonとGoogle Cloudの長い回収
過去の投資額が突出していない根拠として、宮武さんはAmazonを挙げます。Fire Phoneは数百億円規模の失敗、AWSは数十ビリオンかかったとされ、Prime Videoのコンテンツ予算は年間約7000億円です。
Amazonで最も大きいのは音声アシスタントのAlexaです。累計で約3億台売れ、スマートスピーカー市場の約3分の2を占めるとされますが、Amazonは損益を公開していません。
Business Insiderが入手した社内資料によると、KindleやLunaなども含むAmazonのデバイスとサービス事業部は、昨年10ビリオンの赤字でした。ウォールストリートジャーナルは、音声アシスタント領域だけで約8ビリオンの赤字と予想しています。
2012年から2022年までの約11年間で、Amazonの音声アシスタントの赤字は約43ビリオン、6兆円弱と推定されます。メタのメタバースの約7兆円とそれほど変わらない規模です。
あのAmazonに関してのこの音声アシスタントの多分最大のミスが、コマースにそんなにつながらなかったっていう。
宮武さんによると、デバイスが赤字でもAmazonでの購入が増えれば良しとなったはずでした。しかし実際には天気や音楽、ポッドキャストを聞く用途が多く、コマースとのつながりが想定より弱かったことが、音声部門のレイオフの理由ではないかと見ています。
次はGoogle Cloudです。2010年に始まり、現在までの赤字は35ビリオン、約5兆円に上ります。2023年第1四半期に初めて黒字化しましたが、累計の赤字を取り戻すのは2030年ごろになるといいます。
へー、そう考えるとiPhoneの回収の速さすごいですね。
回収期間を短くできないのかという草野さんの問いに、宮武さんはクラウドではそこまで短くできないと答えます。iPhoneは消費者が払い続けてくれるサイクルの速いビジネスですが、クラウドはデータセンターやサーバー代などアップフロントのコストが大きいからです。
GAFAの共通点はプラットフォーム?Shopifyでさえ届かなかった壁
Microsoftについては、OpenAIへの10ビリオンがよく話題になりますが、宮武さんはそれ以外にもっと大きな額を使っていると指摘します。Microsoftは早ければ来年中にモバイルゲームストアを立ち上げると表明しています。
ゲームストアの背景には、AppleとGoogleが他社のストアからのアプリダウンロードを許さなければならなくなるヨーロッパの規制があります。Microsoftはそこに至るまでにXboxに投資し、Minecraftを買収し、さらに75ビリオンでActivision Blizzardを買収しました。
Activision Blizzardの買収は、収録時点でイギリスは合意したものの、アメリカとEUではまだ争っている状況です。FTCの裁判では、Microsoftが当初Zyngaの買収を検討していたものの、Take-Twoに買われたためActivision Blizzardに向かったことも明らかになったといいます。
Appleの年間研究開発費は25ビリオンで、メタのReality Labsへの投資の約1.5倍です。過去10年の研究開発費は約140ビリオン、売上比は2〜3%ほどから7%ほどに伸びています。
宮武さんは、GAFAがほぼ全社で巨額を使う理由を、世界で最も価値のある会社の共通点から説明します。ほぼ全社がデジタルプラットフォームを持ち、何億人もの人が毎日使っているという点です。
具体的には、AppleはiOS、GoogleはAndroidや検索やChrome、MicrosoftはWindowsやAzure、AmazonはFire OSやAWS、そしてFacebookは世界最大級のアイデンティティプラットフォームを持っています。エコシステムが成り立つと、競合は入りにくくなります。
新しいプラットフォームを作る難しさの例として、2010年ごろにAmazonとMicrosoftがスマホでiOSとAndroidに対抗しようとして、エコシステムを作れずに失敗したことが挙がります。
もう1つの失敗例がShopifyです。ShopifyはDeliverrDeliverrなどを買収し、何千億円もかけてAmazonに対抗するフルフィルメントネットワークを作ろうとしましたが、最終的にロジスティクス事業を売却しました。
へー、Shopifyでさえも。
大型のプラットフォームを作るっていうのは、もちろんその売上とか利益ベースでもいいっていうところもあるんですけど、同時にその守りとしてもすごい重要で、他社がめちゃくちゃ入りにくくなるんですよね。
勝てばリターンは加速する?札束の戦いとスタートアップの勝ち筋
宮武さんによると、プラットフォームは成功するまでではなく、成功した後も投資し続けるものです。より小さな規模の似た例として、ByteDanceやSHEIN、TEMUがアプリ広告に大金をかけてユーザーを集め、iOSランキングで1位を取り、無理やりでもネットワーク効果を作って他社が入れない状態を狙っていることが挙がります。
札束の戦い。
草野さんは、時間もお金も体力のある企業にしかできないと話します。宮武さんは、それでもリターンが出るときはしっかり出て、しかもどんどん大きくなるのだと続けます。
Appleの2010年代10年間の営業利益は600ビリオン、約80兆円でした。同じ600ビリオンを2020年代には5年で稼げるといいます。AWSも、過去20年の利益の25%を直近12ヶ月で生んでいます。
えー、じゃあもうなんかお金持ってる人とか、なんか大きな企業が勝ち続けるゲームになってませんか?
宮武さんは、S&P500の約20%をApple、Microsoft、Google、Amazonの4社が占めているのも、圧倒的なプラットフォームを作れているからだと説明します。対抗するOpenAIも巨額の調達をし、イーロン・マスクさんもStarlinkのグローバル化に約30ビリオンが必要だと話しているといいます。
スタートアップの戦い方について、宮武さんは一番戦えたのは2020〜2021年だったと振り返ります。金利がほぼゼロでお金を調達しやすく、資本集約的なサービスを作るべき時期でした。
その例が、宇宙で工場を作るVardaです。Vardaは2021年に、お金が安くなった今こそ宇宙企業を作るべきだと考えてアイデアを思いついたといいます。
では手遅れかという草野さんの問いに、宮武さんはマクロ環境的には一部手遅れだと認めます。ただし資金を出すVCもあり、スタートアップはマイルストーン型で大きくなるものなので、SpaceXのように対抗は十分できるとも話しています。
プラットフォームが失敗する本当の理由は?お金の額ではなく賭け先
宮武さんは、プラットフォームが失敗するのは投資額が足りなかったからではないと強調します。10ビリオンではなく100ビリオンかければ解決したという話ではなく、資金を配分する場所が間違っていたことが最も多いといいます。
その例が、MicrosoftのWindows MobileやBlackBerryの読み間違いです。両社はスマホ市場について、次のような前提を置いていたと宮武さんは説明します。
- 何日も持つバッテリーが勝負を決める
- 人はデータ通信をそれほど使わない
- パソコンが主役なので、スマホはコンパニオン的な端末でよい
全く違いましたね。全部、全部全く違うところに行ったので。なのでそこに対してのベットの問題なんですよね。
タイミングも重要です。宮武さんは、1990年代にiPhoneを作っても3Gがなかったので売れなかっただろうと話します。タイミングとユーザーの行動を読み取って、そこに大量の資金を入れることが鍵だという整理です。
FTCは大型買収を止めるべきか?GoogleがGPT-4を逃した世界線
大型投資や買収を止めようとする側として、宮武さんはFTC ── アメリカ連邦取引委員会。独占禁止法などを担当し、大企業の買収審査も行う政府機関ですを挙げます。FTCの考えにも、GAFA側の考えにも一部納得できる点があるといいます。
FTC側の主張は、大企業が買収や大型投資を続けるとイノベーションが止まるのではないかというものです。LeapMotionの創業者で、現在はMidjourneyの創業者であるデイビッド・ホルツさんも、大手がVRのスタートアップを買収しすぎたから今も良いヘッドセットがないのではと指摘しています。
一方でGAFA側にも理があります。大手の買収はスタートアップのEXITを生み、イノベーションにつながることもあります。宮武さんは、GoogleがDeepMindを買収したことがYouTubeの精度の高さにつながり、独立のままなら売上のプレッシャーでAlphaFoldのような研究ができなかったかもしれないと話します。
ただしGoogleは、DeepMindを買収しTransformerの論文を自ら書いたにもかかわらず、生成AIではOpenAIに遅れました。元Google Brainの人物によると、2017年の論文発表時点でTransformerに全力で賭けていれば、GPT-4級のモデルを2019年に作れたといいます。
わあ、歴史が変わってたかもしれない。
どちらが正しいかは難しいとしたうえで、宮武さんはメタは買収戦略を変えるべきかもしれないと考えています。メタがVRスタジオのWithinを約400ミリオンで買収しようとした際、FTCはブロックを試み、結果的に買収は通りました。
宮武さんは個人的な印象として、FTCがメタに対して非常に批判的だと感じています。FTCが起用した専門家は「VR市場の独占はフィットネスから始まる」と証言しましたが、直近のVision Proはフィットネスを一切打ち出していません。
さらに噂として、FTCのリナ・カーン委員長がFacebookの買収はどんなものでもブロックすべきだというスタンスを持っているという話もあります。宮武さんは、それが本当ならおかしな話だとしています。
そこで参考になるのがAppleの買収戦略です。Appleの買収はほとんどが50ミリオン以下で、技術と人材の獲得が目的です。マリオカートのARヘッドセットを手がけたMiraや、2017年に約30ミリオンで買収したARヘッドセットメーカーのVrvanaなどが例に挙がり、メタも静かな買収に軸足を置くべきかもしれないと宮武さんは話します。
Vision Proにいくら使った?Appleが批判されずメタが批判される理由
最後の話題は、AppleがVision Proにどれだけのお金をかけたかです。Appleは数字を公開していないため予想しかできませんが、2010年以降の研究開発費は140ビリオン、2022年は25ビリオンで、Vision Proには少なくとも約2000人が関わっているといわれます。
Appleは昨年アメリカだけで2000件以上の特許を申請しており、メタの約2倍です。宮武さんは、この特許数を使ってVision Proの開発費をざっくり推計しました。
約5年で20ビリオンなら、10年に引き直すと40ビリオンです。メタが過去10年でメタバースに使った約50ビリオンとほぼ同じ水準になります。
ただ、一社は何も言われず、一社はめちゃくちゃ批判されるんですよ。
Appleは(数字を)公開してないからなんですよ。
宮武さんは、メタが数字を公開したのは、メタバースがどれだけ重要かを示したかったからで、当時は環境も良かったからだと考えています。Appleの数字は公開されていないため、実際は1ビリオンかもしれず、100ビリオンかもしれないとも付け加えています。
まとめとして宮武さんは、メタの今後の投資はアポロ計画並みの規模かもしれないものの、過去10年のメタバースのコストは他のGAFAと比べて変な数字ではないと話します。Appleでさえ似た額を使っている可能性があります。
GAFAは5年や10年ではなく、30年後にリターンが出ればいいという時間軸で見ており、Google Cloudの25年もその一例です。次回はメタバース投資の大半を占めるハードウェアから、Vision Proとの比較も含めて話していくと予告されました。
まとめ
メタのAIとメタバースへの投資は確かに巨額ですが、他のGAFAの事例と並べると、過去の投資は特別に異常な水準ではありません。この回は、プラットフォームを取れば利益が加速するという構造と、失敗の原因は金額ではなく賭け先にあるという視点から、メタの大型投資を読み解いています。
- メタのAI戦略は、人に作ってもらい消費してもらう事業構造に合わせ、オープンソースで多様なモデルを広げる点でOpenAIと異なる
- メタバースへの過去10年の約50ビリオンは、Alexaの約43ビリオンやGoogle Cloudの約35ビリオンの赤字と同程度で、突出するのは今後の約200ビリオン
- GAFAが巨額投資を続けるのは、プラットフォームを持てば利益が加速し、他社が入りにくくなるから
- プラットフォームの失敗は投資額不足ではなく、ユーザー行動やタイミングの読み違いによる配分ミスが多い
- AppleもVision Proにメタと同程度を投じた可能性があり、批判の差は数字を公開したかどうかにあると宮武さんは見ている



