2年目で利益455ミリオン予測?Yuga Labsの驚異的な数字
今回の主題は、NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」を運営するYuga Labsと、同社が掲げる「メタRPG」です。前回に続くメタバース関連のパート2で、宮武さんは2か月ほど前からこの話をしたかったものの、イーロン・マスク関連の大きなニュースが入って先送りになっていたと話します。
宮武さんはまず、Yuga Labsの実績を並べます。Bored Apeのローンチは去年の4月で、TwitterとInstagramのフォロワーはどちらも100万人以上です。2021年の売上は137ミリオンドルで、これは約8か月間で出した数字だといいます。
(Yuga Labsは)それ以上にすごいのが、137ミリオンの売上じゃないですか。127ミリオンの利益なんですよ。
1ユーザーあたりの年間売上は約6000ドルで、ユーザー数は約2.2万人です。2022年の予測は売上540ミリオンドル、利益455ミリオンドルとされています。宮武さんは、前四半期のTwitterが利益を出していなかったことを引き合いに出しました。草野さんは「比べちゃダメです」と笑って返しています。
Yuga LabsはApeCoin ── Bored Ape Yacht Clubのエコシステムで使われる暗号資産トークン。2022年3月に発行され、Othersideの土地販売にも使われましたも発行しています。会社としての評価額は4ビリオンドルですが、ApeCoinやBored Apeの価値をすべて合わせると約25ビリオンドルになるそうです。直近では、Yuga Labsが「メタRPG」と呼ぶOthersideの土地を販売し、それだけで300億円以上の売上を記録しました。
草野さんは、Yuga Labsの事業が流行で終わらず、1年以上伸び続けている点に注目します。宮武さんはその理由として、常に新しいことを試し、カルチャートレンドに乗り続けている点を挙げました。Othersideの土地販売より前の時点でも、OpenSea ── 世界最大級のNFTマーケットプレイス。さまざまなNFTコレクションの売買が行われていますの取引ボリュームの10%をBored Apeのコレクションが占めていたといいます。
なぜCryptoPunksとMeebitsはYuga Labsに渡ったのか
宮武さんは、2年目の会社で4ビリオンドルという評価額は高く見える一方、本当に年間400ミリオンドル規模の利益を出せるなら、むしろ安いほうだとも話します。そのYuga Labsが最近行ったのが、CryptoPunksとMeebitsの買収です。
草野さんは、CryptoPunksが人気NFTのツートップの一角だっただけに、買収されるという道があったことに驚きます。宮武さんによると、Yuga Labsは今年の3月ごろに両コレクションのIPを買収しました。あわせて、親会社が抱えていたCryptoPunks 423個とMeebits 1711個も買い取ったそうです。
これによってYuga Labsは、PFPプロジェクト ── プロフィール画像(Profile Picture)として使われることを想定したNFTコレクション。SNSのアイコンに設定して所有を示す使い方が広まりましたの1位だったCryptoPunksと、2位のBored Apeの両方を抱えることになりました。CryptoPunksは2017年ごろのリリースで、PFPの「オリジナル」と呼ばれるほどの老舗です。
宮武さんは、CryptoPunksの親会社であるLarva Labsとの考え方の違いこそが、この買収を成立させたと見ています。Larva Labsの中心はビジネス側の人ではなくアーティストで、Yuga Labsはビジネスにも強いという違いがあるといいます。
両者の違いが最もはっきり出るのが、保有者の商業利用権です。Bored Apeは1体ごとの商業利用を認めていますが、CryptoPunksは認めていませんでした。Meebitsも制限が多かったそうです。
保有者は自分のキャラクターを商業利用できる(Bored ApeのIPそのものは別)
CryptoPunksは商業利用NG。Meebitsは年間10万ドル(約1000万円)までで、ブランドコラボとデジタルコラボはNG、物理的なグッズのみOK
宮武さんによると、Yuga Labsは買収をきっかけに、こうした権利の扱いを「よりBored Ape的に」変えていくといいます。
ロイヤリティ型と保有売却型、ビジネスモデルは何が違う?
Larva Labsが商業利用を制限していた理由について、宮武さんは単純にビジネスモデルの違いだと説明します。Yuga Labsは、二次流通で売買されたときに一定の割合を受け取るロイヤリティ ── NFTが転売されるたびに、取引額の一部が発行者に支払われる仕組み。二次流通が活発なほど発行者の収入が増えますを収益の柱にしています。
一方のCryptoPunksは、基本的にLarva Labsの自社マーケットプレイスで売買され、そこでは手数料を取っていませんでした。Larva Labsは代わりに、ローンチ時にCryptoPunks全体の10%を自社で保有し、それを徐々に売却して収益を得ていたといいます。
二次流通で全然動いてなければ、逆にロイヤリティが発生しないので、手数料が発生しないので何ももらえないじゃないですか。なので当時のビジネスモデルとしては正解で。
発行時に全体の10%を保有し、価値が上がったら徐々に売却する。保有分を売り切れば収益は尽きる
自社保有はより少なくし、その代わりに二次流通の手数料を受け取る。売買が続く限り収益が入り続ける
宮武さんは、Larva Labsが間違っていたわけではないと強調します。当時は二次流通がそれほど活発ではなかったため、保有分を売るモデルが合っていました。今はCryptoPunksを使って商業展開したい人も出てきたので、Yuga Labsのやり方がフィットすると見ています。
Yuga Labsの目標は、「オープンソースのメディア企業」になることだといいます。宮武さんはこれを、いろいろなIPが集まるクロスオーバーIPの世界、いわば「次のディズニー」のような存在だと表現します。そのために、自社が所有していないIPも入りやすいようにオープンにしつつ、最初の勢いをつける部分は自社のIPで担うという考え方です。
マーベル買収に重なる「世界観ごと買う」戦略
宮武さんは、Yuga Labsが最も意識している会社はおそらくディズニーだと話します。ディズニーによるマーベルやスター・ウォーズの買収は、キャラクターを買ったのではなく、ワールドビルディングができるプラットフォームを買いに行ったものだったという見方です。
宮武さんは、同じ考え方をYuga Labsに当てはめると、彼らが「メタRPG」と呼ぶOthersideにつながると説明します。公開されたOthersideの動画には、Bored ApeやCool Cats、Meebits、CryptoPunks、Nounsなど、複数のNFTユニバースのキャラクターが登場していました。
草野さんが「オールスター」だと驚きます。Yuga Labsに属していないキャラクターも出ていて、共通しているのは、どれも商業利用が可能なコレクションだという点だそうです。
番組でわざわざ「メタバース」ではなく「メタRPG」と呼んでいるのは、Yuga Labs自身がそう呼んでいるからです。宮武さんの説明では、Othersideは相互運用性のあるゲーミングのメタバースです。通貨としてApeCoinがあり、土地とリソースがあり、誰でも自分のNFTキャラクターを持ち込んで、世界の中のゲームを遊べる構想だといいます。
メタRPGはメタバースと何が違う?RobloxとBitmojiから考える
草野さんの「メタバースっぽい感じもしますけど、どう違うんですか?」という問いに、宮武さんは、OthersideはRobloxやThe Sandboxに近いと答えます。土地があり、その上にさまざまなゲームが乗るので、ゲーム開発をする会社として見るのが一番わかりやすいという見方です。
宮武さんはSnapchatの例も挙げます。Snapchatの中にあるゲームは、自分と友達のBitmoji ── Snapchatで使われる自分そっくりのアバター。チャットのスタンプやアプリ内ゲームのキャラクターとして使えますのアバターで遊べます。メタRPGはそれに近く、アバターをBitmojiではなく、各自が持つNFTに置き換えたイメージだといいます。
例えば僕がクローンXを持ってきて、草野さんがギャルバースのアバターを持ってきて、そこで一緒に何かゲーム遊べたりとか。
Yuga Labsは仮想世界を提供するだけでなく、クリエイター向けにSDK ── ソフトウェア開発キット。外部の開発者が、そのプラットフォーム向けの機能やコンテンツを作るための道具一式ですも用意するといいます。たとえばOff Topicが1万体のアバターを作れば、それをメタRPGの世界で使えるようにできるかもしれない、という例を宮武さんは挙げました。
草野さんは、自分たちのIPだけでは実現できない世界を、業界のリーダーが進めている点を評価します。宮武さんも、自分たちだけで完結しないことが重要なポイントだと応じました。ピッチデッキでも、相互運用性のないプラットフォームが多いことが課題として挙げられていたそうです。現時点で相互運用できるのは主にIPアバターで、ゲーム体験もいずれオープン化されると宮武さんは見ています。
チームも個性的で、チーフクリエイティブオフィサーはかつてカニエ・ウェストのもとで働いていた人物だそうです。草野さんによると、その人物はゴールデンウィークに日本へ来ていたらしいとのことです。
土地に「神」が出る?Othersideの土地販売とゲーム開発
Othersideの土地は全部で約20万区画が作られ、最初に出た10万区画はすべて売り切れたといいます。各区画には、地球でいえば石油や川のような資源がランダムに割り当てられています。
さらに、メタRPGの中で神のような存在とされる「コーダ」というキャラクターが、土地にランダムで出たり出なかったりするそうです。それによって土地の価値が変わりますが、土地で何ができるかはまだわかっていないといいます。草野さんは「神がいるのめちゃ激レアじゃないですか」と反応しています。
Bored Apeのチームは現在、複数のゲームを開発中で、年内に3〜4本を作る見込みだそうです。宮武さんは、一番重要なのは「本当に面白いゲームなのか」だと指摘します。そのうえで、Yuga Labsだけが儲かる仕組みにはならないはずなので、この経済圏をどう作るかが今後の鍵になると話しました。
10KTFとは?互換性のあるNFTショップの仕組み
宮武さんによると、Otherside周辺の経済圏はすでにYuga Labs以外の会社でも作られ始めています。その代表が、Yuga Labsと深く関連するとみられるNFTプロジェクトの10KTFです。宮武さんは今年に入ってから、このプロジェクトにずっと注目してきたといいます。
10KTFは去年の9月にローンチしました。ニュー東京という場所に店を構えるおじいさんのキャラクター「ワグミさん」が、ショップを運営しているという設定です。名前の「ワグミ」は、NFT業界の用語でもあるそうです。
10KTFのアイテムがどう作られるかを、宮武さんは順を追って説明しました。
提携先はBored Ape、Cool Cats、Pudgy Penguins、World of Womenなど、基本的に商業利用が認められているコレクションです。最近はグッチとのコラボもあり、デザイナーのアレッサンドロ・ミケーレがデジタル上のニュー東京を訪れたという設定で、Bored ApeやCool Cats向けの服を一緒に作ったといいます。
宮武さんは10KTFを「互換性のあるECショップ」と表現します。10KTFは各コミュニティの上に乗れるので、自ら宣伝しなくてもBored Apeのコミュニティ内で広がっていきます。提供するスニーカーやバックパックは同じでも、有名IPと組むだけで展開できる点が強みだと話しました。
ワグミさん失踪事件、コミュニティが物語に参加する仕掛け
宮武さんは、10KTFの本当のすごさは、ECショップやNFTショップにストーリー性を加えている点にあると話します。カスタムバックパックの販売では10時間のミント期間が予定されていましたが、7時間で止まりました。ワグミさんが突然いなくなったのです。
物語上の説明では、ワグミさんはある組織に狙われていました。すると10KTFのコミュニティは、ネット上でワグミさんのクリプトウォレットを見つけ出し、その中身を調べ始めます。
(ワグミさんのウォレットに)あるENSのドメインがあって、NFTとして。893ドットETH。
ウォレットにはENSドメイン ── イーサリアムのウォレットアドレスに「〇〇.eth」という読みやすい名前を付けられるサービス。名前自体もNFTとして保有されますの「893.eth」が入っていました。舞台がニュー東京なので、ワグミさんを狙う組織はヤクザだと読み解かれたといいます。宮武さんは、コミュニティがウォレットを見つけることまで想定して物語を作っている点に感心していました。
材料のNFTをワグミさんではなくコミュニティが持つ仕組みにも、物語上の理由があります。ショップはヤクザに狙われていて物がよく盗まれるので、材料をコミュニティに預けたい、という設定です。
ヤクザのトップとされるボストーツのウォレット履歴を見ると、10KTFのアイテムを300万円分購入し、それを燃やしていたそうです。これも物語の一環で、NFTをバーン ── NFTや暗号資産を誰も使えないアドレスに送り、二度と流通しない状態にすること。「燃やす」とも表現されますする操作を使った演出だといいます。
NFT NYCの謎解き、個人では解けずに集まったコミュニティ
コミュニティを物語に巻き込む仕掛けは、去年のNFT NYCでもありました。物語の中でワグミさんはニュー東京からニューヨークへのポータルを開き、ニューヨークのあちこちに手がかりを置いたといいます。
すべての手がかりを見つけて謎を解いた人には、賞金7ETHと、詳細の明かされていない特殊な地図が贈られることになっていました。参加者は最初、それぞれ個人で解こうとしていたそうです。
結局個人だとできないとみんな理解して。みんな集まって。これっていわゆるマーベルのアベンジャーズが集まるような。
最終的に何人かが集まって謎を解き、現在の10KTFのホームページはその地図になっているといいます。宮武さんは、単なるNFTショップにとどまらない、このストーリーの組み込み方が重要だと考えています。
ニュー東京はOthersideの一部なのか?
宮武さんが10KTFの話をメタRPGと一緒にした理由は、10KTFの舞台であるニュー東京が、Yuga LabsのOthersideの世界の一地域ではないかと見ているからです。10KTFとYuga Labsは別の会社ですが、宮武さんは「ほぼ確定」に近いと話します。
手がかりの1つは、Othersideの最初のプロモーション動画です。動画に登場するBored Apeが飲んでいるドリンクが、ワグミさんのショップにも小さく描かれているといいます。草野さんは「こわ」と声を上げました。
両社ともAnimoca ── NFTやブロックチェーンゲームに投資している香港の企業Animoca Brandsのこと。多数のWeb3企業に出資していますから出資を受けているので、その影響の可能性もあります。ただ宮武さんは、それだけではなさそうだと見ています。こうした考察は、ほかにもいろいろな人がしているそうです。
燃やされたショップと猫の復讐、明かされたワグミさんの過去
10KTFの物語は、その後さらに進んでいます。いまサイトのマップを見ると、以前はなかった煙が上がっている場所があり、ワグミさんのショップが燃やされたことがわかるといいます。
草野さんは、ショップの見た目も紹介しました。薄暗い小売店のような空間にアメリカのカートゥーン風のおじさんが座っていて、RPGのように「よく来たね……」「ウォレットにつなげてみな」と話しかけてくるそうです。UIそのものに物語性があり、いまはワグミさんがいないといいます。
最近、10KTFはワグミさんのバックストーリーを半アニメーションで公開しました。セリフはなく、すべてビジュアルで語られている点も宮武さんは評価しています。物語の流れは次のとおりです。
草野さんは、ニュー東京やヤクザ、刀といった日本的なモチーフを使った物語を作っているのが日本人ではないことが悔しいと話しました。宮武さんも「一番悔しいところ」だと同意しています。
宮武さんは、この物語の主人公がワグミさんではなくコミュニティだという点にも注目します。コミュニティがワグミさんをどう支え、悪い組織とどう戦うかが問われていて、収録時点では「バトル・フォー・ニュー東京」というフェーズに入っていたそうです。
DreamSMPを思わせる物語型ブランドの可能性
草野さんは、10KTFの展開から、Minecraftの実況にストーリーを持たせたDreamSMPを思い出したと話します。物語が進むと過去を振り返りたくなり、最初から見直したくなる構造が似ているという指摘です。まとめ動画やまとめツイートを作る人も必ず出てくるだろうと二人は話しました。
宮武さんは、この物語がTwitterやTwitch、サイト上の煙の演出など、複数のプラットフォームにまたがって展開されている点も挙げます。そして何より、それをコマースブランドがやっていることに驚いたといいます。
これがもしかしたら今後のブランドのあり方、そのメタバースブランドとは。
宮武さんは、全てのブランドがこうするべきではないかもしれないとしつつも、ストーリー性と相互運用性を持って他ブランドと連携するというアプローチがあることに驚いたと話しました。敵役もNFTやPFPであれば、そのバックストーリーも広げられます。
草野さんが、こうしたユニバース作りのうまさはアメリカならではかもしれないと言うと、宮武さんもマーベルに近いと応じました。宮武さんは、Othersideの動画に出てくるキャラクターがほぼ全部10KTFの対応キャラクターでもあることから、Yuga Labsが10KTFに絡んでいても全くおかしくないと見ています。
まとめ
Yuga Labsは、Bored Apeの成功で得た収益と、CryptoPunks・Meebitsの買収を足がかりに、複数のNFT IPが行き来できるメタRPG「Othersideの世界」を作ろうとしています。そして、その一地域かもしれない10KTFは、商品販売とコミュニティ参加型の物語を組み合わせることで、NFTブランドの新しい形を示しつつあると話されています。
- Yuga Labsは2021年に売上137ミリオンドルに対して利益127ミリオンドルを出し、ロイヤリティを柱に急成長した
- CryptoPunksとの違いは、保有分を売るモデルと二次流通の手数料を得るモデルという収益構造の差にある
- Yuga Labsは、ディズニーのマーベル買収のようにワールドビルディングの場を押さえる「オープンソースのメディア企業」を目指している
- メタRPGは、RobloxやBitmojiのゲームに近く、自分のNFTアバターを持ち込んで遊べる相互運用型のゲーム世界として構想されている
- 10KTFは、ワグミさんの失踪や復讐の物語にコミュニティを巻き込み、ECを超えたブランドのあり方を示している




