ゴールデンウィークの過ごし方と、Bytesの特別シリーズ
本題のメタバースの話に入る前に、草野さんと宮武さんはゴールデンウィークの過ごし方を話しています。草野さんはしっかり休み、家具を探しに出かけたそうです。
宮武さんは収録の翌日から出張を控えていたため、コロナにかからないよう連休中はずっと家にいたといいます。家ではYouTubeやNetflixを見て過ごし、Amazon Primeでアニメ『スパイファミリー』を見たそうです。
なんか友達に、(スパイファミリーを)絶対見た方がいいですよって言われて。
草野さんはTikTokで流れてくる「アーニャはピーナッツが好き」という場面しか知らず、気になっていたと話します。宮武さんの感想は「普通に面白かった」というものでした。
あわせて、宮武さんの出張に合わせて、別番組のBytesで特別シリーズを配信していることも紹介されます。スタートアップの組織構成の話と、さまざまなカテゴリーのメタバース事例集を、3回ずつ計6回にわたって届ける内容です。
さらに、次の次のOff Topicではゲスト回を予定していることも告知されます。ゲスト回は10Xのヤモテさん以来、2回目になるそうです。
メタバースはどれほどバズワードになったのか
今回のテーマは、メタバースの相互運用性です。宮武さんはその前提として、メタバースという言葉がどれだけ急速に広まったのかを、具体的な数字で示します。
1つ目の指標は、上場時に提出する申請書です。Roblox ── 子どもや若者を中心に人気のゲームプラットフォーム。ユーザー自身がゲームを作って公開できるのが特徴で、2021年にニューヨーク証券取引所に上場しましたが2020年10月にIPO申請をするまで、SEC ── アメリカ証券取引委員会。株式市場を監督する連邦機関で、上場を目指す企業は事業内容などを記した申請書類を提出しますへの申請書でメタバースという言葉に触れたものは5回しかなかったといいます。
あの、2021年ですと240回メンションされていて。その上場申請の、申請書に。
それまでに言及していたのは、VR系の会社などだったそうです。さらに今年に入ってからも、SECの申請書で150回以上言及されていると宮武さんは続けます。
2つ目はBloomberg Terminalでの記事の言及回数です。2000年から2020年までの20年間では10回ほどだったのが、去年だけで1000件以上に増えたといいます。
3つ目はメタバース関連の商標申請です。宮武さんは最初「特許申請」と言い、あとで「商標申請」だと訂正しています。
商標申請は2022年に入ると、1月と2月の2カ月だけで486件に達したそうです。宮武さんは、おそらくすでに2021年の数字を超えているだろうと見ています。
草野さんは数字を見て「バブルさを感じる」と話し、メタバースは経済ニュースにもエンタメのニュースにも使える、フックの強い言葉だと受け止めています。宮武さんも、Web3やNFTに続く使いやすいキーワードだと応じます。
宮武さんによると、この流れを決定的にしたのは、社名にまで言葉を取り込んだFacebookのMeta ── Facebookが2021年に改称した社名。メタバース事業に大きく投資する方針を打ち出しましたです。これによってメタバース事業はグローバルな戦いになり始めたといいます。
Metaの他にも、Amazonは採用の募集要項にメタバースやAR・VRと書いていて、ARプロダクトを作ろうとしているそうです。Googleでは、VRの責任者がAlphabetのCEO直属になっています。草野さんは、ナイキも同じ流れにあると付け加えます。
検索ボリューム半減と「メタバースはもう来ているのか」問題
企業がこぞってメタバースを掲げる一方で、宮武さんは逆の動きも紹介します。Googleトレンドで見ると、メタバースの検索ボリュームは過去2カ月で半減しているといいます。
企業側がメタバース、メタバースってずっと言ってる中で、エンドユーザーが見えてないですと。
宮武さんは、検索が減った理由の1つとして、エンドユーザーから「ゲームと何が違うのか」「本当に面白いものがあるのか」という声が出ていることを挙げます。草野さんも、実際に体験してみたら微妙だったという話もあると応じます。
もう1つの理由は、メタバースがいつ来るのかについて、テック業界の有力者の間でも見解がばらばらなことです。
| 人物 | 見立て |
|---|---|
| ビル・ゲイツ、サティア・ナデラ(Microsoft) | すでに来ている |
| マーク・ザッカーバーグ | 5〜10年後 |
| ティム・スウィーニー、ジェンセン・フアン(NVIDIA) | 10年以上かかる |
草野さんは「ビル・ゲイツはもう来てるって言ってるのに、来てないじゃん」と笑い、メタバースがどこに存在するのかと首をかしげます。
宮武さんは、VRの位置づけでも意見が割れていると続けます。VRがメタバースの基盤となるピースなのか、それともメタバースの中の1つのデバイスにすぎないのかも、人によって考えが違うといいます。何が正解かわからないため、ユーザーが困惑していると宮武さんは見ています。
スマブラもフォートナイトも「クロスオーバーIP」という相互運用性
宮武さんは、エンドユーザーにとってわかりやすい相互運用性の例として、クロスオーバーIPを挙げます。RobloxやFortniteの中で、マーベルとDCコミックスのキャラクターがそろうような状況です。
宮武さんによると、ゲームのクロスオーバーIP自体は昔からあり、違いは相互運用性がどれだけあったかだけだといいます。代表例は任天堂の『大乱闘スマッシュブラザーズ』です。
こいつらここに来るんかみたいな。やったーみたいな。夢のコラボみたいな。そういうのありますよね。
草野さんはMinecraftのキャラクターが参戦したときの盛り上がりを例に出し、宮武さんも参戦発表のリアクション動画はみんな叫んでいて面白いと話します。
Fortniteは特にコラボが多いゲームで、コラボ先を1枚のインフォグラフィックにまとめた人によると、その数は400以上にのぼるそうです。
宮武さんは、IPがさまざまな場所で生きることを、以前番組で扱ったリファレンスカルチャー ── 作品が別の作品を引用・参照・パロディ化しながら広がっていく文化のこと。元ネタを知っていることが楽しみ方の一部になりますとも結びつけます。例えば、アニメのシットコム『ファミリー・ガイ』は『スター・ウォーズ』エピソード4〜6のパロディを、かなり忠実に作っています。
ただし、IP自体が相互運用的に広がるのに対して、Web2.0のプラットフォームは相互運用性がないものが多いと宮武さんは指摘します。そこで、メタバースで相互運用性を実現する手段として、NFTが必要ではないかという話が出てきたといいます。
NFTは「投資の目」から切り離せるか
宮武さんは、NFTやブロックチェーンの話になると、どうしても金銭的・投資的な目で見られがちだと話します。そこをどう切り離せるかが勝負になる、というのが宮武さんの見方です。
特にそのゲーム系はやっぱりそのゲームコミュニティとしては、なんかコミュニティが、なんか投資家の人がいっぱい入ってくると嫌じゃないですか。
草野さんも、ゲーマーはお金にならなくても、体験そのものを純粋に楽しんでいると応じます。宮武さんは、ゲーマーはお金を払ってまでプレイし、収支がマイナスでも満足している人たちなので、儲けようとする発想を嫌う人が多いと説明します。
そのうえで宮武さんが期待するのは、NFTを使って、これまでのゲーム体験では難しかったことを実現する方向です。例えば、1つのアイテムを複数のゲームで使えるようにして、アイテムが別の形へ進化するといった体験です。
近い例として挙げられたのが、ナイキとアメフトゲーム『Madden』の取り組みです。ナイキのアプリで何キロか走ると、Maddenで使えるアイテムがもらえるといいます。完全な相互運用性ではないものの、考え方としては近いと宮武さんは話します。
宮武さんは、ゲームや他のアプリをまたいで価値を提供するのは新しいビジネスモデルや新しいゲーム体験の発想なので、既存の大手ゲーム会社よりもスタートアップが手がけるのではないかと見ています。
メタバースに人がいない、という密度問題
ここから宮武さんは、最近考えているメタバースづくりの3つの大きな課題を挙げます。1つ目は密度問題、2つ目はアクティブ対パッシブなプラットフォームの問題、3つ目は互換性の問題です。
1つ目の密度問題は、メタバース空間に人が少ないという問題です。草野さんの「来てみたけど誰もいないじゃん」という言葉に、宮武さんも「ほんとそう」と同意します。
宮武さんは、Sandboxはまだ新しくて判断しづらいとしたうえで、人気ゲームの同時アクセスユーザー ── ある瞬間に同時にオンラインでいるユーザーの数。英語ではconcurrent usersと呼ばれ、ゲームの盛況さを測る指標の1つです数と比べます。数字は宮武さんが収録前夜に見たものです。
| サービス | 指標 | 規模 |
|---|---|---|
| Fortnite | 同時アクセスユーザー | 約300万人 |
| Minecraft | 同時アクセスユーザー | 約280万〜360万人 |
| ELDEN RING | 同時アクセスユーザー | 約40万〜100万人(ピーク約100万人) |
| Decentraland | DAU / 同時アクセスの最大 | 約2万人 / 約2500人 |
一方で、Decentraland ── ブロックチェーン上に作られた仮想世界。土地やアイテムがNFTとして売買されていますのDAUは2万人ほどで、同時アクセスの最大は2500人ほどです。宮武さんは、メタバースの規模は正直まだまだ小さいとまとめます。
宮武さんが面白いと感じているのは、少ないユーザーも結局1カ所に集まることです。DecentralandではDAUの3割にあたる毎日6000人ほどがポーカーで遊び、ポーカーだけで同時アクセスが1000人ほどになるといいます。
密度の問題っていうのがあるので、みんな集まりたいじゃないですか。
宮武さんは、Fortniteがまず「めちゃくちゃ面白いゲーム」で密度問題を解決し、そのあとで他の体験へ広げたと見ています。SandboxやDecentralandの課題は、人をマーケティングで集めることよりも、継続的に戻ってきてもらい滞在してもらうことだといいます。
移動コストのない世界で、土地の価値はどう生まれるのか
宮武さんは、Sandbox ── ブロックチェーンを使った仮想世界のプラットフォーム。区画に分かれた土地がNFTとして販売され、所有者はその上に体験を作れますのCEO、セバスチャン・ボルジェさんにインタビューする機会がありました。土地の価値や密度問題をどう考えているのかを聞いたそうです。
Sandboxでは土地がNFT化されています。地球と同じように土地には限りがあり、体験はその土地の上にしか作れないため、買い手がつくと値段が上がります。
ただ、Twitterでは、メタバース内の土地にどれだけ価値がつくべきかという議論もあったといいます。現実の土地の価値の一部は、移動コストから生まれているという考え方です。
ニューヨークだといろんな面白い体験がニューヨークにあるからこそ、そこに行きたくなるっていう話なんですけど、そこの移動コストがあるからこそ、一部そのニューヨークの価値が上がる。
メタバースの中では、本来なら移動コストはほぼゼロです。一瞬でどこへでも行けるなら、土地にどこまで価値があるのかという疑問が出てきます。
そこでSandboxは、あえて移動コストを組み込んだ仮想世界を作っています。別の場所へ移動できる地下鉄のような「ポータル」を特定の場所にしか置かず、誰も新しく作れないようにしているそうです。
ポータルを限定
地下鉄のような移動手段を特定の場所にだけ置き、誰も作れないようにする
移動コストが発生
ポータルから遠い場所へは、アバターを十字キーなどで歩かせる必要がある
人の流れが集中
ポータル近くの土地はみんなが必ず通る
土地の価値に差
ポータルに近い土地の価値が上がる
草野さんは「駅まで遠いなみたいな」気持ちになると笑い、リアルっぽいと感心します。宮武さんは、この仕組みが全世界で通用するとは思わないとしつつも、Sandboxの中では土地に価値を与える仕組みになっていると話します。
ボルジェさんは東京の価値についても語っていたそうです。都市の価値は、人やカルチャー、いつでも何かしらのアクティビティがあることから生まれるので、仮想世界もそれを意識して作らなければならないといいます。
草野さんは、メインストリートができれば、あえて中心から離れて住む「ヒップな」人たちのようなカウンターも生まれそうだと想像を広げます。宮武さんも、自然に囲まれた場所に住むことや、街中ではアバターの健康が落ちる仕組みなどを冗談まじりに挙げます。そのうえで、コミュニティセンターのような公共の場所との近さやコミュニティづくりが、密度問題を解く手がかりになると見ています。
現実は「パッシブ」、仮想世界は「アクティブ」に決めるしかない
2つ目の課題は、アクティブ対パッシブの問題です。宮武さんはまず、相互運用性を実現するにはJPEGやPNGのような共通の規格が必要だと前置きします。
ただし難しいのは、全体の規格づくりだけでは済まず、各仮想世界がビジネスとして個別に判断しなければならない点だといいます。宮武さんは、番組ではふだん現実とメタバースの似ている点を語ることが多いものの、この点については逆だと話します。
宮武さんの例えは、ナイキのスニーカーを履いてアディダスの店舗に入る場面です。現実では、アディダス側が何もしなくても、ナイキを履いた客はそのまま店に入れます。
アディダス側はその、あの、ベースがパッシブなスタンスなんですよ。
店のルールを作りたければ、ポリシーを作ったり警備員を置いたりと、アディダスがあとからアクティブに判断します。草野さんが例に出した、変な格好の客を止める高級店のガードマンもアクティブな判断の一種です。
現実で何もしなくてもよいのは、地球という1つの世界に、重力や原子といった共通のルールが1つしかないからだと宮武さんは説明します。仮想世界では逆で、特にNFTを導入する場合はパッシブな判断ができず、最初から決めなければならないといいます。
地球共通の物理法則があるため、ナイキを履いた客も勝手に入れる。ルールを作りたいときだけ店側が判断する
NFTはただのデータなので、持ち込まれたアイテムをどう読み取り、どう表現するかを最初からすべて決めなければならない
宮武さんによると、NFTは裏を返せばただのデータです。アディダスの仮想世界でナイキの靴を履かせるには、そのデータを靴として読み取って表現しなければなりません。
いわゆる靴だけを読み取るのか、靴紐も読み取るのか。靴のソールの部分を読み取るのか、色も読み取るのか、それを別々のデータとして読み取るのか。
仮想世界に風があれば、靴紐をなびかせるのか、そのために靴紐の重さをいくつにするのかといったことも、プラットフォーム側の判断になります。草野さんは、靴紐がなびいたことで誰かのイライラが救われるような、バタフライエフェクトが起きそうだと想像します。
宮武さんは、プラットフォームが認識していないデータを入れ込むほど、システムのコストと負担が増えると指摘します。例えば「勝手に燃える靴」のNFTが持ち込まれたら、炎を出すのか、青しか使わない世界なら炎をどう描くのかまで決めなければなりません。
そこを全部プラットフォーム側がアクティブに判断しないといけないっていうのは結構無理があるんですよね。
だからこそ、NFTの相互運用性は「ユーザーがコントロールを持てる」という話として捉えたほうが合っていて、各仮想世界は結局集権型のプラットフォームになると宮武さんは見ています。現実に例えるなら、地球のものが月や火星でそのまま通用するとは限らない、という話に近いといいます。
持ち込めるのは見た目まで?ドーピングスニーカーと持ち込み禁止品
宮武さんは、新しいNFTを読み取るたびにコストがかかるので、プラットフォームはどこかで線を引くと予想します。例えば、靴は靴紐まで認識し、それ以上は自己表現のためだけのものとして扱う、といった線引きです。
草野さんが「ここでコストの問題になるんですか」と驚くと、宮武さんはレースの例を出します。別の世界で「履けば速くなるスニーカー」をレースの仮想世界に持ち込まれたら困る、という例です。
ドーピングだーってなっちゃいますもんね。
その場合は速さのブーストを消し、スニーカーの見た目だけを取り入れることになります。ただ、その判断もプラットフォーム側がしなければなりません。
草野さんが、各プラットフォームでルールが決まれば相互運用性の可能性が下がるのではと問うと、宮武さんは考え方の問題だと答えます。
その、所有しているっていう概念は変わらないと思うんですよ。
宮武さんによると、変わらないのは「所有している」という概念で、持っていけるか、持っていったときに同じものになるかはプラットフォームが判断します。現実でも、病院に銃は持ち込めませんし、アメリカに1万ドル以上の現金を申告なしに持ち込むことはできません。
宮武さんは、見た目のレベルならOK、性能に関わるメタデータは適用しないという形が最も現実的だと見ています。
草野さんは、映画シュガー・ラッシュ:オンライン ── ディズニーのアニメ映画。ゲームの世界のキャラクターがインターネットの世界を冒険する物語で、前作『シュガー・ラッシュ』の続編ですを思い出したと話します。作中では、別のゲームの世界へ行くために駅や空港のような場所を通り、持ち込み禁止品を出してから入るそうです。宮武さんも近い発想だと応じます。
宮武さんは、相互運用性と聞くと最初は「何でも自由」だと思っていたものの、ルールを決める力をプラットフォームが持たないと何でもありになってしまうため、そうはならないだろうと話しています。
EUのメッセージアプリ規制とメールクライアントという手本
相互運用性の難しさを示す身近な例として、宮武さんはEUの規制を挙げます。EUはメッセージアプリに相互運用性を求める判断をしていて、例えばFacebook MessengerでもViberのメッセージを受け取れるようにしなければならないといいます。
宮武さんは、開発コストがかかるうえに、どの機能を受け入れるかを各社が判断しなければならない点が難しいと話します。LINEスタンプを画像として送るのか、アニメーションのまま送れるのか、GIFに変わるのかといった判断です。
LINEスタンプをMessengerで送れたらめっちゃいいなと思うんですけど、大変ですよね。
草野さんは、Appleのミー文字をMessengerやLINEで送ると画像になってしまうのが嫌だったと話し、使う側からすれば便利だと話します。一方で、そうなればLINEである必要がなくなるとも指摘します。宮武さんは、誰かが3D空間のメッセージングサービスを作ったら全社が対応しなければならなくなる、と面倒さを強調します。
宮武さんは個人的に、EUがメッセージアプリを相互運用性のレイヤーとして見ているのは間違いだと考えています。相互運用性があるのはむしろスマホのハードウェアの層で、その上にカメラ、通知、連絡先、サードパーティーアプリが乗っているという見方です。
アクティブ対パッシブの課題をまとめると、プラットフォーム側に大きな負担がかかるので集権型にならざるを得ず、相互運用性は「ユーザーが自分のもののコントロールや所有権を持てること」になると宮武さんは話します。最もわかりやすい例は、メールクライアントです。
メールアドレスは自分が所有できるので、明日GmailからYahooやHotmailに乗り換えても、連絡先ごと移せます。各クライアントのUIやスパム判定は違っていてもかまいません。
これに対して草野さんは、メールクライアントは有料アプリだから成り立つのであって、広告ビジネスをする側にとってはUIがばらばらだと広告を入れにくいと指摘します。宮武さんも同意し、仮想世界はメールより複雑で、NFTもますます複雑になるため、対応が大きな課題になると話します。
止められないメタバースで、どうアップデートするのか
3つ目の課題は互換性の問題で、英語ではcompatibility problemと呼ばれます。宮武さんによると、これはアップデートの問題です。
昔は、バージョン1からバージョン2に移るときにバージョン1を捨てられました。しかし、メタバースは常にオンの状態なので、「1時間アップデートするので止めます」ということができません。
深夜メンテナンスします、できないですか?誰かにとっては日中ですもんね。
FortniteやFacebookのように、小さなアップデートなら止めずに続けられます。難しいのは、Macに新しいチップを入れるように、ゼロから新しい技術に入れ替えたほうがよい場合です。
古いテクノロジーを捨てて新しいテクノロジーへ乗り換えられた(バージョン1を捨ててバージョン2へ)
メタバースは止められないので、アップデートはできても、根本から新しい技術に入れ替えるのが難しくなる
新しい技術のほうが圧倒的に速く、よい体験を作れる場合もあるため、メタバースの作り方は慎重に考える必要があると宮武さんは話します。
Epic GamesのCEO、ティム・スウィーニー ── Fortniteを開発したEpic GamesのCEO。ゲームエンジン「Unreal Engine」でも知られ、オープンなメタバースについて積極的に発言していますさんは、この考え方を「フォワード・コンパチブル・コード・エボリューション」と呼んでいるそうです。未来のコードとも互換性を保てるように作る、という発想です。
Second Lifeで馬が全滅した、アップデートのバタフライエフェクト
互換性の課題には、うまくいかなかった「悪い方の事例」があります。宮武さんが紹介するのは、2003年にローンチした仮想世界『Second Life ── アメリカのリンデンラボが運営する仮想世界。アバターで交流し、ユーザー同士がバーチャルアイテムを売買する経済があることで知られます』で起きた出来事です。
Second Lifeは今も現役で、MAUは60万人、DAUは20万人だそうです。経済も動いていて、ある記事によると、約1600人のユーザーがバーチャルアイテムや服を売って年間100万円以上を稼いでいるといいます。
宮武さんによると、数年前、Second Lifeは重力や人の動きを扱う物理エンジン ── 仮想空間で重力や衝突、物の動きなどを計算するプログラム。ゲームの動きのリアルさを左右しますをアップデートしました。そして1〜2週間後に、特定のバーチャルアイテムにだけ起きるバグが見つかったそうです。
Second Lifeの中で、あるユーザーが馬と馬のえさを売る事業をしていました。馬はえさを食べないと死んでしまう仕組みです。
物理エンジンを更新
重力や動きを計算するコードをアップデート
馬が滑って転ぶ
えさを食べようと首をかしげると、なぜか転んでしまう
えさを食べられない
食べ物を口にできない状態が続く
馬が全滅
1〜2週間後に戻ったユーザーの馬が死んでいた
事業が悪化
馬を売る事業が大きく傾いた
なんで、一つのアップデートによって馬が全滅したんですよ。
宮武さんは、草野さんが前に話したバタフライエフェクトそのものだと話します。UGCが中心の仮想世界ほど、プラットフォーム側は何が起きるかをすべて読み切れません。
草野さんは、1回のアップデートでユーザーに被害が出るなら簡単にはできないと受け止めます。宮武さんも、1つのバグでアバターが消えることも十分あり得ると話します。
3つの課題を解く鍵としてのAI
密度問題、アクティブ対パッシブの問題、互換性の問題を解決する案の1つとして、宮武さんはAIを挙げます。
| 課題 | 中身 | AIによる解決案 |
|---|---|---|
| 密度問題 | メタバース空間に人が少ない | ある程度人間味のあるAIキャラクターで人を増やす |
| アクティブ対パッシブ | 持ち込まれたデータの扱いをプラットフォームが全部判断する必要がある | 別の世界のアイテムを、その世界の見た目に変換するAIコンバーター |
| 互換性 | 止められない世界でのアップデートが何を引き起こすか読めない | 全シナリオではなくても、AIである程度QAテストをする |
宮武さんが個人的に一番面白いと考えているのは、アクティブ対パッシブの問題に対するAIコンバーターです。Minecraftで買ったアイテムをFortniteに持ち込んでも、そのままでは見た目が合いません。
それでフォートナイト風な、えっと、見た目に変えて、変えてもらわないといけない。
草野さんは、マイクラの世界観がFortniteによってリッチで立体的になったら感動しそうだと話します。宮武さんは、以前のGPT-3の話題に加え、テキストから画像を作るOpenAIのDALL·E ── OpenAIが開発した画像生成AI。入力した文章の内容に合わせて画像を作りますのような技術も、この流れにつながると見ています。
デジタルアセットを「レンジ」として見る発想とRobloxの成功例
もう1つの論点は、1人が複数のアバターを持つ未来です。仕事では自分に近い人間らしいアバターを使い、ゲームではドラゴンになっているかもしれない、と宮武さんは話します。
アバターが違えば体型も変わります。デジタルTシャツは人間型のアバターしか着られないのか、ドラゴン用を別に買う必要があるのか、それとも1枚でどのアバターも着られるのかという問題です。
宮武さんによると、この話をしている人は少ないものの、マーク・ザッカーバーグさんがレックス・フリードマン ── アメリカのAI研究者で、テクノロジーや科学をテーマにした長尺インタビューのポッドキャストを配信していますさんのポッドキャストで語っていたそうです。宮武さんは、聞き手のレックスさんもおそらく理解していなかったと話しています。
(デジタルアセットを)一つの特定のアセットではなくて、レンジとして見るべきっていうことを言っていて。
ザッカーバーグさんの考えは、デジタルアセットをスペクトラム、つまり幅のある「レンジ」として捉え、人間型にもドラゴン型にもフィットさせるというものです。宮武さんは、そのためにはスタイルトランスファー ── 画像などの見た目の特徴を、別の対象の形やスタイルに合わせて変換する技術。AIの研究分野の1つですのような技術が必要で、AIが入ってくる要素だと見ています。
宮武さんは、この考え方を実現している事例としてRobloxを挙げます。Robloxのアバターはブロック型だけでなく、リアルな体型やドラゴン、動物のような形もありますが、同じTシャツをどのキャラクターでも着られるようにしているそうです。
Robloxはこの仕組みを作るのにかなり苦労したといいます。ヒントになったのは、科学論文で調べた「ロケットの空力特性研究(Aerodynamic testing of rockets)」だったそうです。どうヒントになったのかは宮武さんにもわからず、草野さんは謎が解けるリスナーがいたらコメントがほしいと呼びかけます。
宮武さんによると、Robloxはこの仕組みによって、同じ服を多様なキャラクターに着せたり、重ね着できるようにしたりしているそうです。
相互運用性は「言うのは簡単、作るのは難しい」
宮武さんは、今回挙げた3つの課題は、自ら仮想世界を作っているゲーム会社ほど理解してくれるだろうと話します。相互運用性は言うのは簡単でも、実現はとても難しいという課題です。
僕自身もそのNFTを見た時に、やっぱりその相互運用性の可能性を感じて。
宮武さん自身、NFTに相互運用性の可能性を感じてWeb3やメタバースに興味を持ちました。ただ、リサーチを進めるうちに、それ以上に多くの課題があると気づいたことが、今回のテーマを選んだ理由だといいます。
草野さんが「メタバースはまだ来ていない」と確かめると、宮武さんも同意します。そのうえで、ビル・ゲイツさんやサティアさんの「もう来ている」は、部品ごとには来ているという意味だろうと補足し、草野さんは「ずるいな」と笑います。
次回は、Bored Apeを運営するYuga Labsを取り上げる予定です。Yuga Labsは自分たちの取り組みを「メタバースではない」と言い切りながら、メタバースらしいものを作っていて、そのエコシステムには面白いプレイヤーがいるそうです。
まとめ
メタバースという言葉は申請書や商標で爆発的に増えた一方で、検索ボリュームは半減し、いつ来るのかについても見解が割れています。宮武さんは、相互運用性の実現を阻む課題として、密度、アクティブ対パッシブ、互換性の3つを挙げ、AIやRobloxの事例に解決の糸口を見ています。
- メタバース関連の言及や商標申請は急増した一方、エンドユーザーには価値が見えず、検索ボリュームは過去2カ月で半減した
- 密度問題に対して、Sandboxはポータルで移動コストを作り、土地の価値と人の集まりを生もうとしている
- 仮想世界は現実と違ってパッシブではいられず、持ち込まれたNFTの扱いをすべて判断する必要があるため、集権型にならざるを得ない
- 止められないメタバースのアップデートは、Second Lifeの馬の全滅のような予測できない影響を生みうる
- AIキャラクター、AIコンバーター、デジタルアセットを「レンジ」として見る発想が、課題を解く鍵として挙げられた




