ブランドが信じることを示す時代から、ユーザーに合わせる時代へ
今回のテーマは、D2Cブランドエージェンシーの知見をもとにした「夢中にさせるブランド作り」の第3回です。宮武さんがまず挙げたのは、顧客に合わせたブランド作りがいま重要になっているという点です。
宮武さんによれば、ブランドは自社を表現するためのものではなく、最も重要なのは顧客です。次世代ブランドは、ユーザーがブランドを選んで自己表現するのではなく、ブランドがユーザーのバリューに合わせにいく必要があると話します。
昔はそうなんですよ。で、それを見たユーザーが、あ、こういうことを信じてるんですね。じゃあそれを僕は買います、なので僕も同じことを信じてますだったんですよ。
今は逆になってるんですよ。ユーザーがこういうことを信じてます。それを見たブランドがそこに合わせに行きますと。
ユーザー一人ひとりの価値観は少しずつ違いますが、宮武さんは、その中にある大きなテーマに合わせにいくのだと補足しています。
ブランドが「これを信じています」と示し、ユーザーが買うことで同じ価値観を表明する
ユーザーが信じていることを、ブランドが読み取ってそこに合わせにいく
その好例として宮武さんが挙げたのがEverlane ── アメリカ・サンフランシスコ発のD2Cアパレルブランド。製品ごとの原価や工場情報を公開する姿勢で知られていますです。Everlaneは初期に、デザイナーTシャツの生産コストを暴露するインフォグラフィックを出し、Tumblrなどで大きく拡散されました。
宮武さんは、このインフォグラフィックは機能的なコストの話に見えがちだが、Everlaneが伝えたかったのは公平さと正直さだったと説明します。今まで高く買っていたのはユーザーのせいではなく、システムの非効率で見えなかったものが多かっただけだ、というメッセージです。
Everlaneはこの考え方をRadical Transparency ── 「徹底した透明性」を意味する言葉。Everlaneはコストや生産背景を開示する方針をこう呼んでいますと呼び、高品質なTシャツを安く売るコンセプトを打ち出しました。背景には、アフリカで子どもが服を作っているといったサプライチェーンの問題を、当時のユーザーが強く意識していたことがあると宮武さんは話します。
草野さんが日米の意識の差を指摘すると、宮武さんも「めちゃくちゃあります」と応じます。アメリカでは、学校で人気のある子が環境問題を話し始めると周りも意識せざるを得ないなど、社会的なプレッシャーとしても働き、Z世代やミレニアル世代の価値観を形づくっているといいます。
メッセージだけでは足りない? allbirdsが環境訴求を控えた理由
宮武さんは、ブランディングは自社のバリューを伝えるだけでは足りず、プロダクトと合っていなければならないと続けます。わかりやすい例が、環境配慮を掲げるスニーカーブランドのallbirds ── ウール素材のスニーカーで知られるアメリカのD2Cブランド。サステナビリティを前面に打ち出していますです。
allbirdsは初期、環境面のメッセージを出しすぎないようコントロールしていました。当時はまだ靴の全パーツが環境にいい素材ではなく、全面的に押し出すとユーザーから批判されるおそれがあったためです。
だから徐々に徐々にパーツがどんどん良くなって、その環境にいい素材をどんどん作ることによって、だんだんメッセージ性をそっちに寄せ始めたっていう。
草野さんは、Everlaneで最近、従業員の扱いをめぐる内部告発のInstagramアカウントができて炎上していたことに触れます。透明性、環境、ザ・ウィングのような女性の問題といった大きな課題は時間がかかり、向き合い方が難しいという問題提起です。
宮武さんはその難しさを認めつつ、だからこそ大ファンも生まれると話します。失敗すればひどく失望され批判されますが、どっちつかずの立場では誰の心にも残らないという見方です。
ロゴのキャラクターを燃やす? Hingeがプロダクトごと作り直した話
プロダクトとブランドの兼ね合いが最もはっきり出た例として、宮武さんは出会い系アプリHinge ── アメリカのデーティングアプリ。のちに同業のTinderと同じ親会社の傘下に入りましたの事例を紹介します。Hingeはブランドエージェンシーのレッドアントラーのクライアントでした。
当時のHingeは、人の共通点でマッチさせたいという思いが強く、レッドアントラーは「意外な共通点」を軸にしたブランド戦略を提案しました。HのロゴのI真ん中の横棒を橋に見立て、そこに共通のテーマをアイコンで置くという案で、クリスマス休暇前に提出されています。
ところが1月になってもフィードバックが来ません。Hingeは1月に合宿を開き、ブランド戦略と自社のアイデンティティを考え直しており、そこで「ブランドはいいが、今のプロダクトが合わない」という結論に至ったのです。
HingeはもともとTinder ── スワイプ操作で相手を選ぶ方式を広めたアメリカのデーティングアプリの影響でスワイプ機能を入れていました。しかしスワイプでは顔や見た目が中心になり、共通点で本当につながりたいという気持ちにはならないため、スワイプ機能を全部消してプロダクトを一から作り直しました。
報告を受けたレッドアントラーはキャンペーンを考え直し、「Designed to be Deleted(削除されるためにデザインされた)」というキャンペーンを打ち出します。アメリカでも人気になった施策です。
このキャンペーンでは、Hのマークに目がついたHingeのキャラクターが、カップルが成立するたびに死んでしまいます。キャンプ中にテントでカップルが成立すると、キャラクターがキャンプファイヤーで燃えている、といった表現です。
当初の提案
レッドアントラーが「意外な共通点」を軸にしたロゴ・ブランド案を出す
社内合宿
Hingeが、ブランドは良いがスワイプ中心のプロダクトが合わないと判断する
プロダクト刷新
見た目重視になりがちなスワイプ機能を全廃し、一から作り直す
キャンペーン再設計
「Designed to be Deleted」で、キャラクターがカップル成立とともに死ぬ表現に
コンセプトは「Hinge wants you to find love even if it kills us」です。宮武さんは、アプリは継続利用を求めるのが普通なのに、あえて逆行する表現を選んだ勇気が面白いと評します。
だからまさにそこのユーザーの目的を考えて、そこの会社の戦略と合わせて、それに全て合わせてブランド戦略っていうのを作るっていうところですよね。
草野さんが、Tinderとは立場がまったく違うブランドになったと指摘すると、宮武さんは「結局同じ親会社に買収されるんですけどね」と添えています。
悲しいランチを変えたSweetgreenのコミュニティ作り
次のテーマはコミュニティです。宮武さんは、カルト的なブランドはブランドとユーザーのつながりだけでなく、ユーザー同士のつながりを作るのがうまいと話します。
コミュニティを作りたいブランドは多いものの、FacebookやInstagramのページを活発にすることだと誤解されがちだと宮武さんは指摘します。デジタル上でやり取りしなくてもよく、ユーザーが何かのムーブメントの一部に入っている感覚があるかが重要だという考えです。
その事例が、サラダチェーンのSweetgreen ── 2007年にワシントンD.C.で創業したアメリカのサラダチェーン。地元の食材や店舗ごとの個性を打ち出していますです。サラダ自体は新しいコンセプトではなく、2001年ごろにはチョプトというサラダ店も人気になっていました。
ただSweetgreen以前、オフィスワーカーの女性が机でサラダを食べる姿はアメリカでジョークの対象で、「悲しいランチ」としてミームまで作られていたといいます。草野さんも「ひどいですね」と反応しています。
Sweetgreenはその真逆の世界を作りました。昼どきになると、Slack上で「誰がSweetgreenにみんなの分を取りに行くか」という会話が自然に生まれるようになったと宮武さんは話します。
Sweetgreenはローカル感も重視しています。サイトでは、ゲストは単に「ある店舗」ではなく「自分たちの店舗」に行っていると表現し、各店舗で地元のアーティストや地元の農家からの仕入れを打ち出しています。
サラダ作りも、Subwayのように複数人で分担するのではなく1人が担当し、よりパーソナルな接客を生んでいます。
ロイヤリティプログラムもあります。年間で25万円分ほど買うと「ブラックステータス」になり、1食13ドル前後なのでほぼ毎日食べる人なら届く水準だそうです。この特典で、友達10人分のスイートグリーンパーティーを店舗で開けます。
結局ブラックステータスレベルだと、もう店舗の従業員が名前を覚えてるんですよ。名前とサラダを覚えてるんですよ。
草野さんが「いつものやつ」と返し、スターバックスにも通じると話すと、宮武さんは、そうした関係性こそがコミュニティなのだと応じています。
コーズマーケティングと、allbirds×アディダス提携の狙い
宮武さんは、コミュニティ感を作りやすい方法の1つとしてコーズマーケティング ── 商品購入を社会貢献に結びつけるマーケティング手法。購入額の一部寄付などが代表例ですを挙げます。靴を1足買うと1足寄付するTOMSや、ローンチ時に同様の仕組みを取ったWarby Parkerが例です。
ただし宮武さんは、そのブランドが本当にそれを信じているかが重要だと念を押します。allbirdsについても、最近まで本気なのか疑っていたと率直に話しています。
結局それを嘘っぽく出すとユーザーってすぐにわかるんで、そこをちゃんとエビデンスとしてプロダクトだったり、そのアクションで示すっていうのが重要になってくるかなと。
草野さんが、allbirdsとアディダスが一緒に靴を作るというプレスリリースについて尋ねると、宮武さんは双方にメリットがあると解説します。
これまで取り込めていなかった層に届き、リサイクルペットボトル活用などサステナビリティの取り組みを加速できる
自社製品を続けつつ、サステナブルな素材を他ブランドに売る素材メーカーへの展開が見込める
宮武さんは、今回の提携をallbirdsの次の事業戦略と読みます。NIKEのような他ブランドにサステナブルな素材を売る形で、パタゴニアが使うゴロテックスという素材のような存在を目指すのではないかという推測です。
素材メーカーになれば市場規模は大きく広がり、全世界のブランドが自社の素材を使うことは、allbirdsの環境面のミッションにも合うと宮武さんは話します。一方で、最初からこれを狙っていたかはわからないとも断っています。
草野さんはAmazonやH&M、ZARAのようなファストファッションとの提携の未来も想像し、宮武さんもマットレスのCasperが同様の素材を使う可能性などに触れて、「めちゃくちゃ面白い」と期待を語っています。
コミュニティはSlackだけじゃない? Patagoniaが示すインサイダー感
宮武さんは、コミュニティの作り方にはさまざまな形があると続けます。レビューページで製品の意見だけでなくTipsを共有し合う例や、実際のユーザーの日常をInstagramで紹介する例もコミュニティの一つだといいます。
Slackコミュニティを作る、InstagramのDMが多いといった形だけがコミュニティではない、という宮武さんの話に、草野さんがすかさずツッコミを入れます。
Glossierディスってます?
いや、Glossierディスってないです。それ(Slackコミュニティ)はそれで1つのやり方なので、ただ1つのやり方でしかない。
続いて宮武さんは「インサイダー感」を取り上げます。商品を買ったユーザーが、何かの一員になったと感じられることがブランドにとって重要だという話です。
例として挙げたのが、Patagonia ── アウトドアウェアブランド。環境保護に強く取り組む企業姿勢で知られていますが環境を気にしない会社にフリースベストを売らない判断をした件です。宮武さんは、お金儲けだけを考えるVCにも売らないという判断だったと説明します。
この判断で嫌気が差した人もいるはずですが、Patagoniaを環境に徹底したブランドだと理解しているユーザーは、むしろさらに好きになったと宮武さんは見ています。インサイダー感は、共通の価値観、コーズマーケティング、同じユニフォームを着ることなどから生まれるといいます。
スラングや若者言葉は諸刃の剣? ブランドの言葉選び
インサイダー感を作るもう一つの要素が、同じ言語を使うことです。宮武さんは、スラングやカジュアルなトーンもブランドの性格の一部だと位置づけます。
ただし言葉選びには注意が必要です。専門家向けのブランドがシンプルすぎる言葉を使うと、「このブランドは本当にちゃんとしているのか」と思われてしまうと宮武さんは話します。
例えば凝ったコーヒーを作るブランドのコアユーザーは、自分でもコーヒーを研究する詳しい人たちです。草野さんが「すごく香ばしくて美味しいよ」程度の説明では「え?それだけ?」となると例えると、宮武さんも同意します。
シンプルすぎる言葉は響かず、ブランドの理解度を疑われる
シンプルな言葉を使うべき。誰がターゲットかで判断する
若い層の言葉を使いたがるブランドにも注意が必要だと宮武さんは言います。親が若者言葉を使っているように見え、「若ぶろうとしている」と冷められがちだからです。
でもそういうリアクションになったってことは、多分それって若手層向けのブランドじゃないってことなんですよ。
The SkimmとGlossierに見る「らしさ」がブランドになる瞬間
言葉を上手に使っている例として、宮武さんは女性中心の読者に政治・テック・ビジネスのニュースを届けるメルマガThe Skimm ── アメリカのニュースレターメディア。重いニュースを親しみやすい口調で要約して配信していますを挙げます。
The Skimmは重い話題をカジュアルなトーンで書き、ジョークも交えています。メディア業界からは「ニュースをバカにしている」と批判も浴びますが、創業者たちは合わない人が出ることを理解したうえで、理解した人ほど好きになるとわかっているといいます。
宮武さんは、コミュニティ作りの肝は、ブランドが何を思っていて、それに共感できるかだとまとめます。言葉遣いも色合いも、すべての要素で共感できるかどうかが問われるという考えです。
草野さんは、Glossierにも言語化しにくい「Glossierっぽい書き方」があると指摘します。宮武さんも、マーケティング、言葉遣い、Instagramの投稿、サイトやフォント、プロダクトまで含めた「それっぽさ」が出るかどうかだと応じます。
この雰囲気、なんとかっぽい、オールバーズっぽいよねとか、それがこう、ぽやっとユーザーが理解してるのって本当に強いですよね。
それはもうブランドですよね。
まとめ
今回の回では、次世代のブランドはユーザーの価値観に合わせにいき、その姿勢をプロダクトや行動、コミュニティ、言葉づかいで裏付ける必要があることが、Everlane、allbirds、Hinge、Sweetgreen、Patagonia、The Skimmなどの事例で語られました。
- ブランドが価値観を示す時代から、ユーザーの価値観にブランドが合わせる時代へ変わっている
- メッセージはプロダクトと一致して初めて信頼され、Hingeはそのためにプロダクトを作り直した
- コミュニティはSNSのページではなく、ムーブメントの一員だと感じられる体験から生まれる
- コーズマーケティングは本気でなければユーザーに見抜かれ、エビデンスとなる行動が欠かせない
- 言葉遣いや雰囲気まで含めた「らしさ」がユーザーに伝わったとき、ブランドは成立し始める


