Airbnbはなぜ「Belonging」にたどり着いたのか
この回のテーマは、Red Antlerが提唱する「人を夢中にさせるブランド作り」です。テツローさんは前回の続きとして、ブランドは機能ではなく、人の最も深いモチベーションや夢、欲に結びつけなければならないという考え方を紹介します。
その代表例としてテツローさんが挙げたのがAirbnbです。Airbnbがユーザー約500人にインタビューしたところ、「Belonging(属する)」というキーワードが浮かび上がったといいます。
旅行者っていうのは、旅行する時に外人扱いが嫌(なんです)。より深い体験をしたくて、ホテルとかではなくて、実際の人の部屋に泊まるっていう感覚ってやっぱ違うんですよ。
テツローさんによると、普通の人の家に泊まると住宅街に入ることが多く、観光客の気配がない完全なローカルの環境に身を置けます。そのため「インサイダー感」が生まれ、よそ者の感覚が薄れるといいます。
Airbnbはこの感覚を、「なぜそれが重要なのか」を繰り返し問う深掘りで掘り下げました。ホテルへの不満から始まった答えは、最終的に人生や死生観にまで行き着いています。
ホテルへの不満
ホテルは機能的に値段が高いだけで、ジェネリックで特別感がない
ローカルを見たい
新しい場所で旅行者っぽくしたくない。ローカルの人がやっていることを見たい
インサイダーになりたい
よりオーセンティックな体験をして、外部ではなくインサイダーのように感じたい
人生を豊かにしたい
人は日常のタスクより、特別な時や何かに属していたことをよく覚えている
みんな死ぬから
だからこそ、そういう瞬間を大切にしたい
ちょっと面白いですね。最後(の答えが)死ぬからって。
ミキさんは、何かに属している方が満足度が高く、思い出を振り返ったときの幸福度も高いということかと受け止めています。
人を送り込むと市場は倍速で伸びる?
テツローさんによると、Airbnbは「属する気持ち」をサービスに強く反映させていきました。初期はホストに直接会ってフィードバックをもらい、事業拡大の段階では新しい市場にスタッフを送り込み、ホスト向けのイベントなどを提供していたといいます。
毎回人を送り込むやり方は、一見するとスケールしない方法に見えます。ミキさんも「大変そうですね」と反応しています。
結果として比較すると、人を送り込んだ市場っていうのは、送り込まなかった市場と比べると倍のスピードで伸びるんですよ。
テツローさんは、これはAirbnbのデータで確認されていることだと話します。そのうえで、Airbnbが解決しているのは人々の「つながりたい」というニーズなのだと説明しています。
ロゴもタグラインもフォントも「Belonging」で統一
Airbnbは2014年にリブランディングを行い、ロゴを刷新しました。テツローさんによると、このときに「Belonging」という言葉が前面に打ち出されています。
新しいロゴには「Bélo(ベロ)」というニックネームがあり、人、場所、愛情、そしてAirbnbが集まることを表現しているといいます。全員が一緒の場所に集まる、まさにBelongingを形にしたデザインです。
タグラインは「Travel like a human」。色はスタートアップっぽいブルー系
タグラインは「Belong anywhere」。色はパッションを感じさせるピンクレッドで温かみを表現
テツローさんは、数年後に始まった体験サービス「Experiences」も、同じBelongingのコンセプトから生まれたものだと話します。2018年には、フォントデザイナーのダルトン・マーグダルトンマーグさんが「Cerealシリアル」というカスタムフォントを制作しました。
このAirbnbのカスタムフォントは、すべてのマーケティングチャネル、プロダクト、そして複数の国の複数の言語を、1つのフォントでまかなえるように作られています。テツローさんは、ひらがなでも違和感なく使えるようにしているといいます。
ほとんどのブランドは(ヘッドラインと本文でフォントが違う)。でもそれを一貫して1つのフォントにするっていう判断をしたのは、やっぱりこのbelongingっていうコンセプトが裏付けでやってるんですよ。
普通のテキストでも映えるし、ロゴにしても映えるし、見出しにしてもなんか違和感のないっていうのはすごいですよね。
Venmoは送金の気まずさをどう変えたのか
テツローさんは、深い感情に結びつけることで、ブランドはカテゴリそのものを塗り替えられると話します。Airbnbもレンタルホームという既存の概念を扱っており、過去にはHomeAway ── バケーションレンタル(別荘や民家の貸し出し)の仲介サイトを運営していた米国企業。のちにExpediaグループに買収されましたのような規模の大きな会社もありましたが、Airbnbがその位置を置き換えたといいます。
もう1つの例が送金アプリのVenmoです。友達同士でお金を送り合うと、金額の話などで少し気まずい空気になりがちです。
(Venmoは)決済の理由を記載するようにしたりとか、絵文字を活用できることによって、決済の瞬間をソーシャルな瞬間に変えたんですよ。
ミキさんは、銀行のアプリで友達に送金するのとVenmoとでは体験が全然違うと共感しています。
テツローさんによると、Venmoでは過去の送金履歴に絵文字や面白いコメントが残るため、それをわざわざ読み返す人もいるそうです。銀行送金ではありえなかった行動で、行動まで変えられるのがブランディングのすごさだと話しています。
コカ・コーラ型の「無理やりな感情」はもう通用しない
テツローさんは次に、ブランディングとは機能と感情をつなげることだと説明します。ただし昔は、プロダクトに感情を無理やりつなげるやり方でも通用していたといいます。
その代表がコカ・コーラです。テツローさんによると、アメリカでコカ・コーラと聞いて最初に思い浮かぶ言葉は「ハピネス」で、ミキさんも日本でもそうだと思うと応じています。
もう無理やりこのブランドイコールこれっていうのができないですと。それを違う方法で見せないといけないですと。
コカ・コーラのように、プロダクトに「ハピネス」のような感情を広告で無理やり結びつける
なぜ存在するのかを面白いストーリーで伝え、そのエビデンスとしてプロダクト体験を出して人々のためになっていると証明する
ミキさんが「飲んでハピネスだって思わないですか?」と尋ねると、テツローさんは「それは洗脳されたブランディングですね」と笑いを交えて返しています。
allbirdsはKickstarterの「Wool Runner」から始まった
新しいブランドのよい事例としてテツローさんが紹介したのが、Red Antlerが初期から手がけたallbirdsです。Red Antlerと出会った時点では、まだallbirdsという名前すら付いていなかったといいます。
創業者の1人ティム・ブラウンさんは、元ニュージーランドのサッカー代表選手でした。無料でもらえる靴の多くが環境に悪いことに心を痛め、羊の多い母国ニュージーランドらしいウールで靴を作れないかと考えたそうです。
会社名の「3over7」の意味については、テツローさんも「正直わかんないです」と話しています。
Kickstarter時代の動画は今も公開されていますが、色合いなどのデザインは今とはかなり違います。ミキさんは、ハンドメイド感があってKickstarterの動画としては素敵だが、今のクオリティとは全然違うと感想を述べています。
環境とデザインの2本柱から「探索」へ
テツローさんによると、allbirdsの創業メンバーは、靴はナイキを見てもわかるようにブランドがないと売れないと確信していました。そこでRed Antlerは、2つの軸をベースにallbirdsのブランドを作っていきます。
1つ目の軸は、環境にいい素材です。allbirdsの存在意義でありストーリーの軸でもありますが、テツローさんは「環境スニーカー」として出すだけでは思うほどリーチできず、それだけでは足りないと説明します。
2つ目の軸は、デザインとプロダクトの良さです。ミニマリズムを強調し、仕事にもジムにもデートにも使える多様性のある靴が、もともとの思いだったといいます。
旅行に行く時にそれを履くだけで、2足目(の靴が)いらない靴を作りたくて。
ミキさんも、Kickstarter時代は名前の通りランナー向けの印象だったものの、今はカジュアルにもフォーマルにも使える雰囲気があると話しています。さらにテツローさんは、ウールならではの履き心地の良さを3つ目の要素として挙げます。
テツローさんによると、「探索」は環境のミッションにもつながっています。新しい環境にいい素材を常に探索しているとも言えるからです。事業、プロダクト、ブランドをつなげるコンセプトが探索で、そこに結びつく感情が好奇心だと説明しています。
「allbirds」という名前はどう生まれたのか
Red Antlerは、好奇心という感情をベースにallbirdsのブランド名を考えました。社内のディスカッションでは、創業者がニュージーランド出身であることから、ニュージーランドにちなんだ名前がよいという話になったといいます。
ニュージーランドの鳥といえばキーウィですが、それではニュージーランドが前面に出すぎるため選ばれませんでした。そこで誰かが「キーウィ以外にニュージーランドの鳥はいないか」と尋ねたところ、ニュージーランド出身のスタッフが答えます。
ニュージーランドには人が来る前に、大昔、全部鳥、鳥しかいなかったです。
「全部鳥だった」を英語にすると「all birds」になる、というのがallbirdsという名前の由来です。ミキさんも「知らなかったです」と驚いています。
Red Antlerがこの名前を提案すると、創業者は気に入りました。テツローさんは、少し違った感じがあり、名前を聞いた人が好奇心を持ってくれる点、そして「靴っぽいブランドじゃないよね」と思わせる点が重要だったと話しています。
なぜ機能的な名前ではいけないのか
ブランド名を考えるときによく出る疑問が、「機能的な名前にすべきか」というものです。allbirdsで言えば、なぜWool Runnerのまま、あるいはウールの入った名前にしなかったのか、という問いです。
テツローさんによると、大手企業の多くはプロダクト名をテストする際にユーザーへアンケートを取ります。しかしユーザーにはブランドの文脈が抜けているため、大体の人は機能的な名前を選びがちだといいます。
ユーザーってコンテキストなしで名前に触れることってないじゃないですか。
テツローさんは、allbirdsを知るきっかけも、D2Cの記事やスニーカーのまとめサイトなど、何かしらのコンテキストがあると説明します。そのためRed Antlerは、大体のケースで機能的な名前ではなく、より感情的でアブストラクトな名前を選ぶのがよいと考えているそうです。
そのままの名前だと、名前を知ったところで会話が終わってしまうんですよ。
テツローさんは、番組名に置き換えて説明します。もしOff Topicが「テックニュース」という名前だったら、「テックニュースなんだ、以上です」で終わってしまうというわけです。
ロゴ、羊のピーター、本のような箱まで
テツローさんによると、allbirdsは名前だけでなく、細部にまで好奇心と探索のコンセプトを込めています。もともとのロゴは靴紐をベースに作られ、アイコンの鳥は最後の文字「S」で表現されていました。
頭文字ではなく最後の文字で鳥を作るのは珍しいと、テツローさんは指摘します。ミキさんはその鳥に気づいていなかったそうですが、言われてみると鳥っぽさを感じると話しています。
テツローさんが挙げたallbirdsの工夫は、ほかにもいくつかあります。
- メールにときどき登場する羊のキャラクター「ピーター」
- ECサイトで、足がウールの中で気持ちよさそうに動くGIF
- 次のアドベンチャーに向かうような、人が動いている写真を多用
環境面では、allbirdsの箱は通常の段ボールの量を40パーセント削減しています。さらに箱は本を開くような開封体験になっていて、テツローさんは、本を開く動作が好奇心を生み、ブランドストーリーを伝える機会にもなっていると説明します。
店舗の接客までコンセプトが染み込んでいるか
ミキさんは、原宿のallbirdsの店舗で靴を買った体験を振り返ります。環境に配慮して「紙袋でなく箱のままでもいいですか?」と聞かれ、靴紐を手作業でまとめてくれたそうです。
(原宿のお店では)そこだけでもその感じますよね。ブランドのキャラクターというか。
テツローさんは、allbirdsのすごさはコンセプトだけにとどまらない点にあると応じます。プロダクトや店舗スタッフの対応、店舗レイアウトまで、すべてにコンセプトが染み込んでいることが大事だと話しています。
番組の最後でミキさんは、次回は次世代ブランドの作り方として、デーティングアプリHingeのキャンペーンやスイートグリーンの事例、ブランドボイスを紹介すると予告しています。
まとめ
この回では、Airbnb、Venmo、allbirdsの事例から、ブランドを機能ではなく人の深い感情に結びつけ、その感情を名前やデザイン、体験の細部まで一貫させることの重要性が語られました。
- Airbnbは「なぜ」を掘り下げて「Belonging」にたどり着き、ロゴ、タグライン、色、フォントまでそのコンセプトで統一しました
- Venmoは決済理由や絵文字を加え、気まずい送金の瞬間をソーシャルな体験に変えました
- 感情を広告で無理やり結びつける時代は終わり、ストーリーとプロダクト体験で証明する必要があると話されています
- allbirdsは環境、デザイン、履き心地を「探索」と「好奇心」でつなぎ、ブランド名もそこから生まれました
- 名前は機能ではなく周りに感情を作れることが重要で、コンセプトは店舗の接客にまで染み込ませることが大切だとされています




