ストリーミング戦争パート2、誰が参入してくるのか
2019年11月、ディズニーの定額動画配信サービス「Disney+」がアメリカでリリースされました。草野さんは、日本でも大きな話題になったと振り返ります。
Off Topicは同年8月の第15話で、すでに「ストリーミング戦争」を取り上げています。そのときのテーマは、Disney+がNetflixにとってどれほどの脅威になるかと、NetflixのオリジナルIP戦略でした。
第15話の時点では、Disney+はまだ始まっていませんでした。その後、Disney+がリリースされ、HBOなどのコンテンツホルダーも配信に乗り出しています。勢力図が変わったと考え、草野さんはパート2を企画したといいます。
現在の主なプレーヤーは、Netflix、Hulu、Amazonプライム、Disney+です。宮武さんによると、2020年にはさらに多くの会社が参入する予定です。
宮武さんが挙げたのは、ドラマ「The Office」を持つNBCと、「ゲーム・オブ・スローンズ」で知られるHBOの新サービス「HBO Max」です。NBCは2020年の春から夏ごろに参入するとみられています。HBO Maxは最近、「サウスパーク」を500億で獲得しました。
全プレイヤーめちゃくちゃお金出してコンテンツを買い取りに行っているので、(Disney+以外の)他のプレイヤーも結構気をつけなければいけないかなというふうに思ってますね。Netflixとしては。
ディズニーはなぜ稼げるライセンスを手放したのか
話題はDisney+の戦略に移ります。Disney+はスター・ウォーズのスピンオフ「マンダロリアン」を配信していて、今後はマーベル系のドラマも予定しています。宮武さんは、オリジナル作品の強さを評価しています。
宮武さんによれば、ディズニーは自社で配信サービスを作らなくても十分に儲かっていたはずです。2019年の映画興行収入トップ10のうち、12月20日公開のスター・ウォーズ新作が上位に入れば、8作品がディズニー系になる見込みでした。草野さんが挙げた「ジョーカー」もトップ10入りしますが、ディズニーの作品ではありません。
ディズニーはこれまで、Netflixに映画を独占提供するライセンス契約を結び、5000億ほどのライセンス料を得ていました。宮武さんは、この収入のほとんどが粗利だったと話します。
ディズニーはそのライセンス収入を手放したうえで、配信技術の会社BAMTech ── ストリーミング配信の技術を持つアメリカの企業。もとはメジャーリーグの動画配信部門から生まれた会社で、ディズニーが段階的に出資して傘下に収めましたを3000億ほどで買収しました。宮武さんは、Disney+全体への投資は何千億、下手をすると何兆円規模だとみています。
一方で、Disney+の料金はかなり安く設定されています。Netflixが月13ドルほどなのに対し、Disney+は月7ドルです。3年契約なら月4ドル以下になり、通信会社ベライゾンの利用者は1年間無料で使えます。
これだけ安くて儲かるのかという声に対し、宮武さんは、ディズニーは短期ではなく長期で価値を取りに行っていると説明します。映画館やNetflix経由で作品を出しても、ディズニーには視聴者のデータが入りませんでした。
初めて今回ディズニーが個人レベルで、誰が何の(作品の)情報をどのタイミングで見てるかっていうのが初めてわかるんですよ。
宮武さんによると、ディズニーは月額を1ドル上げるより、安い料金のまま会員をディズニーランドなど別の体験へ誘導するほうが儲かると考えています。家族で50万ほどかかるディズニークルーズに1回申し込んでもらえば、そのほうが効率がよいという見立てです。
ディズニーは視聴データから、会員がどのキャラクターを好きかもわかります。草野さんは、好きなキャラクターのグッズが届いたら嬉しいと反応しています。
Disney+で集めた視聴データが、ディズニー全体の収益にどうつながるのか。宮武さんの説明を流れにすると、次のようになります。
安い料金で会員を集める
月7ドル、長期契約や通信会社との提携でさらに安く提供する
視聴データを取る
誰がどの作品をいつ見ているかを、個人レベルで初めて把握する
好みに合わせて誘導する
好きなキャラクターに合わせて、グッズやテーマパークを案内する
粗利の高い事業で稼ぐ
テーマパーク、クルーズ、グッズなど、映画より利益率の高い事業で回収する
宮武さんは、この発想の原型を創業者のウォルト・ディズニーに見ています。ウォルトは62年前、映画やテーマパークなどの事業が互いに顧客を送り合う構想を、1枚の絵に描いていたといいます。
その当時から彼(ウォルト・ディズニー)が多分ディズニーアズアサービスみたいなものを考えてたはずなんですよ。
宮武さんは、テーマパークやリゾートは映画部門より粗利率が高いと指摘します。コンテンツ制作は費用がかかるため、配信で集めた会員をそれ以外の事業に回すことが重要だという見方です。
なぜ配信サービスはどこも「ほぼ無料」なのか
宮武さんによると、料金を安くする戦略はディズニーだけのものではありません。Amazonでは、プライム会員になるとプライムビデオを追加料金なしで見られます。
プライムビデオは単体でも契約できますが、宮武さんいわく、単体の料金はAmazonプライムより高く設定されています。宮武さんは、ジェフ・ベゾスがわざとそうしていると考えています。
草野さんは、Amazonでプライム会員と通常会員を行き来しているそうです。買い物でプライムのほうが安いと知って会員になり、プライムビデオを見て気に入る、という流れを何度も繰り返しているといいます。
ベゾスも言い切ってるのは、ゴールデングローブ賞を勝てば靴をもっと売れるっていうのを言ってるんですよ。
宮武さんの解説では、Amazonはプライムビデオの作品を宣伝に使ってユーザーを引き寄せます。そのうえで、単体契約よりプライム会員のほうが安いと見せ、AmazonのEコマースへ取り込みます。
無料や格安で提供する動きは、Apple TV+とHBO Maxにも広がっています。宮武さんが挙げた各社の提供方法は次のとおりです。
| サービス | 無料・割安になる条件 | 最終的な狙い |
|---|---|---|
| Disney+ | ベライゾンのネット利用者は1年無料 | テーマパークやグッズへの誘導 |
| プライムビデオ | プライム会員なら追加料金なし | Eコマースへの取り込み |
| Apple TV+ | Appleデバイス購入で1年無料 | デバイスの販売と維持 |
| HBO Max | AT&Tのネット利用者は1年無料 | 宮武さんは狙いを明言せず |
宮武さんは、もう1つの理由としてアメリカ人のメディアへの姿勢を挙げます。メディアやエンタメは大好きなのに、お金はあまり払いたくない、という姿勢です。
アメリカのケーブルテレビは月80ドルほどで、平均すると月450時間ほど視聴されています。何百ものチャンネルが見られて、コストパフォーマンスはかなり高い水準です。それでも料金が90ドルに上がると連絡が来ると、みんなが怒るといいます。
音楽配信も同じ構図です。SpotifyやApple Musicは、年120ドルほどで4000万曲を無制限に聴けます。宮武さんは、ユーザーがお金を出したがらない状況を各社が織り込んで、料金を下げているのだろうと話しています。
Apple TV+の作品の色と、追われる側になったNetflix
草野さんは最近新しいパソコンを買い、Apple TV+に入りました。草野さんの印象では、Apple TV+はAppleらしい作品が多いそうです。
ただ、草野さんが見られるのはAppleのオリジナル5〜6作品ほどです。1話50〜60分で、宇宙ものなど重めのテーマが多いといいます。草野さんは、話は面白いものの、スマホやPCで見るには合わないと感じています。
でもなんか、そのやっぱりプラットフォームによってキャラクターというか、コンテンツの色は違うなという感じはしますね。
二人は、Apple TV+にはオプラ・ウィンフリーなどのセレブが多く出ていて、スヌーピーのオリジナル作品もあると話します。宮武さんの印象では、Appleは既存の有名作品をライセンスするより、オリジナル作品を作る方向です。
宮武さんは、Appleも配信そのもので儲けるつもりはないとみています。目的は、コンテンツを通じてAppleデバイスやiOSのユーザーを獲得し、つなぎとめることです。
2020年にはApple Music、TV+、Newsがバンドルになるという噂もあると宮武さんは紹介します。草野さんは、いずれ有料のオリジナルPodcastも始まりそうだと応じています。
宮武さんの整理では、Netflix以外のプレイヤーは、動画配信の市場そのものにフォーカスしていません。本業は別にあり、配信はユーザーのアテンションを奪うための手段です。
宮武さんは、配信だけで稼ぐNetflixや、音楽だけで稼ぐSpotifyのような「ピュアプレイヤー」は今後厳しくなると考えています。Netflixはユーザー数で圧倒的にリードしているため、ここ3年ほどは負けないかもしれません。それでも、その先は厳しくなると見ています。
草野さんは、アメリカのNetflixの人気ランキングで上位にいるのは、オリジナル作品より昔ながらの既存作品が多いことを挙げます。他社に既存作品を引き上げられると、Netflixにとっては大きな痛手になりそうです。
宮武さんによれば、その引き上げはすでに起きています。ディズニーはDisney+のリリース直前まで、他社にライセンスしていたマーベル作品を大金を払って買い戻していました。
宮武さんの考えでは、Netflixが取れる道は、勝てるオリジナル作品を大量に作るか、別のカテゴリーで勝ちに行くかです。Disney+のリリース翌日には、Netflixが「スポンジ・ボブ」で知られる子ども向けチャンネルのニコロデオンとの提携を発表しています。
Netflixのリアル施策と「データで作る」の実態
草野さんが注目したのは、Netflixが有名監督と組んだ映画「アイリッシュマン」です。この映画では、ロバート・デ・ニーロが出演し、「タクシードライバー」などで知られるマーティン・スコセッシが監督を務めています。
「アイリッシュマン」は、ニューヨークを舞台に、アメリカの裏社会の殺し屋と失踪事件を描くギャング映画です。草野さんによると、プロモーションでは街に当時の新聞や公衆電話、ヴィンテージカーを置き、実際に事件が起きたかのような演出をしました。
さらにNetflixは、最近閉館したニューヨークの映画館「パリス・シアター」を長期リースで借りました。上映期間が短い作品は大手の映画館では上映しにくいため、草野さんは、自分で映画館を借りて公開する方法は面白いと話します。
宮武さんも、リアルな体験を求める若者が多い今、映画館を押さえるのは良い手かもしれないと応じています。
続いて宮武さんは、Netflixのデータ活用が本当に通用するのか疑問を投げかけます。Netflixはデータで新しいコンテンツを作れると打ち出してきましたが、ディズニーが使おうとしているデータはクロスプロモーション向けで、使い道が違います。
データ活用の代表例としてよく挙がるのが「ハウス・オブ・カード」です。ただ宮武さんは、この作品は有名監督とケビン・スペイシー ── アメリカの俳優。「ユージュアル・サスペクツ」「アメリカン・ビューティー」でアカデミー賞を受賞し、「ハウス・オブ・カード」では主演を務めましたを組み合わせたうえで、イギリスで人気だった番組をアメリカ版にしたものだと指摘します。
宮武さんは、Netflixのチーフコンテンツオフィサーの発言の変化も紹介しています。制作判断に占めるデータと勘の割合が、年を追って逆転していったといいます。
なんかちょっと(これまでと)違う話じゃないっていう。
勝つのは誰か、カギはカジュアルさと子ども向け
ストリーミング戦争で誰が勝つのかについて、宮武さんは、1社だけが勝つことはないと考えています。料金が安いので、ユーザーは複数のサービスに登録するはずだからです。
そのうえで宮武さんは、個人的にはDisney+とHBO Maxがリードしているとみています。勝負を決めるのはコンテンツですが、質だけではなく、どんなカテゴリーやジャンルを持っているかが重要だといいます。
それ以外のカジュアルに見れるコンテンツ、カジュアルに20分間見れるコンテンツっていうのが必要になってくるのかなっていうふうに思ってまして。
宮武さんの見立てでは、Apple TV+のような重い60分ものだけでは、集中して見続けるのはきついかもしれません。Disney+には「ザ・シンプソンズ」があり、HBO Maxには「フレンズ」や「ビッグバン・セオリー」があります。こうしたシットコム ── シチュエーション・コメディの略。固定の舞台と登場人物で展開する30分前後の連続コメディで、アメリカのテレビの定番ジャンルですは、気軽に見られるコンテンツの強みになります。
もう1つのカギとして宮武さんが挙げるのは、子ども向けコンテンツです。Disney+はディズニー作品に加えて、子どもに人気のスター・ウォーズやマーベルを持っています。HBO Maxは、セサミストリート、カートゥーンネットワーク、クランチロール、ジブリなどを揃えています。
草野さんは、グローバルで見ればNetflixも十分に強いと反論します。Netflixにはオリジナル作品に加えて、日本や韓国のドラマもあり、最近はアニメにも力を入れているからです。
宮武さんは、良い作品があっても、ユーザーが他のサービスを見ずに月13ドル払ってNetflixを選ぶかが問題だと応じます。「ストレンジャー・シングス」のように熱心なファンがいる作品はあるものの、コンテンツの面では今はDisney+やHBO Maxのほうが強く見えるといいます。
再バンドル化と、Fortniteという見えない競合
ストリーミング戦争の今後について、宮武さんは、どこかのタイミングで配信サービスがもう一度バンドル化されると予想しています。Disney+もNetflixもまとめて見られるような売り方です。
ケーブルテレビの時代にはバンドルされていたチャンネルが、配信サービスでは分かれてしまいました。宮武さんは、ユーザーは結局まとめて見られることを望んでいるため、また元に戻るのではないかと考えています。
ケーブルテレビで、多数のチャンネルがまとめて提供されていた
配信サービスごとに分かれ、今後また束ねられる可能性がある
草野さんは身近な例として、ドコモの回線に入会するとAmazonプライムが使えるバンドル販売を挙げます。宮武さんは、こうした組み合わせがNetflixやDisney+にも広がると予想しています。
草野さんは、ディズニーは絶対にバンドルに参加しないのではと尋ねます。宮武さんは、ここ5年ほどは出てこないかもしれないものの、ユーザーの声次第で後々参加する可能性もあると答えています。
宮武さんは最後に、ストリーミング会社の競合は配信サービスだけではないと指摘します。Netflixも株主向けの場で、オンラインゲームのFortnite ── Epic Gamesが開発したバトルロイヤル型のオンラインゲーム。無料で遊べ、世界中の若年層を中心に爆発的な人気を集めていますを競合に挙げていました。
結局そこ(時間)が一番のリソースになってるので、ユーザーの限られたリソースなので、時間っていうところが。そこをいかに取れるかっていう話に今はなってるのかなと。
宮武さんの見方では、配信もゲームも、ユーザーの時間を奪い合い、そこから自社のエコシステムへ取り込む入り口になっています。ストリーミング戦争の正体は、動画市場の争いを超えた、時間とエコシステムの争いだといえそうです。
まとめ
Disney+の登場で、ストリーミング戦争は「配信で稼ぐ競争」から「配信を入り口に本業で稼ぐ競争」へ形を変えつつあります。宮武さんは、配信だけで稼ぐNetflixが、ビジネスモデルの面で追われる立場になり始めていると見ています。
- ディズニーはNetflixからのライセンス料を手放し、視聴データを使ってテーマパークやグッズへ誘導する長期戦略をとっている
- Amazon、Apple、HBO Maxも配信をほぼ無料で提供し、Eコマースやデバイス、通信回線へユーザーを取り込もうとしている
- Netflixの制作判断は、2015年の「データ7割」から2019年には「データ2割」へ変わったと語られている
- 勝敗のカギは作品の質だけでなく、気軽に見られるシットコムや子ども向けコンテンツなど、どのジャンルを持つかにある
- 今後は配信サービスの再バンドル化と、Fortniteなどを含むユーザーの時間の奪い合いが焦点になる



