ニューヨークタイムズは一度バンドルに失敗していた?
Off Topicの前回のエピソードでは、The New York Times(以下NYT)がデジタルに対応し、サブスクファースト・広告セカンドのビジネスモデルを築いたことが、周囲のメディアが苦しむ中での成功要因だと話されました。後編となる今回、宮武さんはその次のフェーズとして、2020年代から加速したNYTのバンドル戦略を取り上げます。
宮武さんによれば、NYTがさらに成長するには、オーディエンスを広げながらマネタイズの手段も広げる必要がありました。その答えが、複数のメディアやプロダクトを囲い込んで一緒に販売するバンドル戦略です。
宮武さんは、過去のOff Topicで「世の中にはバンドル化とアンバンドル化という2つのマネタイズ方法しかない」という話をしたことに触れます。草野さんが誰の言葉かを尋ねると、宮武さんはNetscapeの当時のCEOだったと思う、と答えています。
実はNYTには、かつてバンドル化を試みて失敗した過去があります。1993年、NYTはボストンの有名紙であるボストン・グローブを1.1ビリオン(宮武さんの換算で1600億〜1700億円ぐらい)で買収しました。
競合の新聞会社を買収して、よりコンソリデーションしようとしてたタイミングだったんですけど、それが1993年で、その20年後にボストングローブ(を)売却してるんですよ。
売却は2013年で、価格は70ミリオン、日本円で100億円ちょっとでした。宮武さんは、保有期間中にどれだけ利益が出たかはわからないとしつつ、ボストン・グローブ自体の価値は大きく下がったと指摘します。
インターネットが変えた「同じ地域」という前提
宮武さんは、2013年の売却を「すごい正しい売却」だったと評価します。2013年は、NYTのデジタル戦略が整い始めたタイミングでもありました。
1993年当時のボストン・グローブ買収は、サプライ側の効率性を高めるためのバンドルでした。競合紙を買収し、中央集権的にコンテンツを作って複数の場所で出す、という考え方です。
その前提には、NYTとボストン・グローブは同じプロダクトを持ちながら、違う市場で戦っているという構図がありました。ボストン・グローブの読者は基本的にボストンにいて、NYTとは地域的に完全な競合にはならなかったのです。
インターネットによってメディアがどんどんアンバンドル化したことによって、そのディストリビューションモデルがアンバンドル化したじゃないですか。
(そうなった時に)ボストン・グローブとニューヨークタイムズは同じプロダクトだけではなくて、同じ地域で戦い始めたんですよ。いわゆるそれがオンラインっていう。
草野さんは、地方紙には現地のニュースをいち早く仕入れられる強みがあったものの、今はTwitterなどで地域の時事ニュースがすぐに出回ると補足します。宮武さんも、リアルタイム性の優位は多少あるにせよ、1.1ビリオンの価値はないと応じています。
サプライ側。競合紙を買収し、コンテンツ制作を効率化する。地域が違えば同じプロダクトでも共存できた
デマンド側。オンラインでは同じ地域で戦うため、いかにユーザーを獲得できるかが問われる
草野さんが「そっちの方が難しそう」と言うと、宮武さんも同意します。ユーザー獲得の方法を考えなければならなくなったことで、NYTは新しいバンドルのあり方を模索することになりました。
6つのプロダクトをどう束ねているのか
現在のNYTのコアはニュースプロダクトです。それに加えて、ゲーム、クッキング、オーディオ、商品レビューメディアのWirecutter ── 製品やサービスを徹底的に比較検証して推薦するレビューメディア。2016年にNYTが買収しました、スポーツメディアのThe Athleticという、主に6つのプロダクトを抱えています。
NYTのバンドルの仕組みは、宮武さんによれば単純です。各プロダクトは個別にサブスク購入でき、2つ以上欲しい場合はバンドルで組み合わせると、1つずつ買うより安くなります。
NYTが最も課金してほしいのは、全プロダクトにアクセスできる月額プラン「オールアクセスバンドル」です。上場企業であるNYTは決算発表でこの数字を語っており、その推移からバンドル戦略の効果が見えてきます。
| 区分 | 2022年末 | 2023年末 |
|---|---|---|
| 複数プロダクト | 26% | 41% |
| ニュースだけ | 41% | 26% |
| ニュース以外のプロダクト1つだけ | 25% | 26% |
| 紙 | 8% | 6% |
表のとおり、複数プロダクトの登録者は1年で26%から41%に増え、ニュースだけの登録者は割合として大きく減りました。草野さんは「2つ目を購入、もしくは全部買うって人が増えた」と受け止めています。
宮武さんは、NYTが決算発表で何度も「バンドル」という言葉を使っていることにも触れ、それだけ同社がバンドルを推していると話します。
宮武さんはこの回のリサーチで各プロダクトの個別料金を探したものの、3、40分探しても全部は見つからなかったといいます。オールアクセスを強く推すあまり、個別料金が「ほぼないんじゃないかっていうレベル」の見つけづらさだったそうです。草野さんが解約しにくいUIのようだと言うと、宮武さんは、NYTは昔、電話しないと解約できないことで有名だったと付け加えています。
クロスワードを批判していた新聞が、なぜゲームで稼ぐのか
オールアクセスバンドルの具体的な戦略として、宮武さんがまず挙げるのがゲームです。草野さんはWordleとクロスワードを挙げ、紙面の時代から人気だったと話します。
面白いのは、NYTが自社でクロスワードを出す前、クロスワードを批判していた時期があることです。アメリカ中でクロスワードが流行り始めた頃、NYTは記事で「うちは出しません」と書いていました。
ちょうどなんか麻雀が流行ってたタイミングの後だったらしくて。「これはなんか一時的な流行にしか過ぎません」みたいなことを明確に書いてあって。
草野さんは、長い期間で見るとどちらの意見も載せているのは「メディアあるある」だと笑います。
今のNYTにとってゲームは、単独の事業として重要なだけではありません。バンドル戦略全体の中で、新規ユーザー獲得のための重要な位置を占めています。
宮武さんによると、NYTは元々コアのニュースを前面に推していましたが、2、3年前からゲームの方がユーザー獲得につながるという方向へ大きくシフトしました。さらに、ニュースとゲームの両方を登録するユーザーは、他の組み合わせよりもリテンションが最も高いそうです。
なぜニュースとゲームの組み合わせが強いのかについて、宮武さんは「どっちも毎日来るから」ではないかと話します。草野さんは別の角度から理由を考えています。
ワードルもクロスワードも、自分の知性をくすぐられるゲームじゃないですか。普通のパズルゲームじゃなくて、自分の知識が試されてるゲームだからこそ、それを拡散したくなるのもわかる。
宮武さんも、どちらもテキスト系のゲームであることがニュースと相性がいいと同意します。NYT社内では半分冗談で「NYTはゲーム会社で、たまたまニュースを出しているのではないか」と言われているそうです。
ゲームアプリの滞在時間はニュースを超えた?
草野さんは、過去のエピソードで出た「Wordleだけが生き残る世界」という話を思い出し、案外合っているのかもしれないと話します。宮武さんも同意し、Twitterで話題になった、NYTの各アプリの滞在時間を比べた図を紹介します。
NYT自身の数字ではなくイピットという会社の推計ですが、そこではNYTのゲームアプリの滞在時間がニュースアプリを超えていました。NYTのゲームアプリはiOSでトップ10に入ることも多く、宮武さんが最後に確認した時はアメリカでCall of Duty、Monopoly Goに次ぐ3位でした。
宮武さんは、この現象自体は不思議ではないと考えています。紙の新聞の時代から、エンゲージメントはニュースだけでなく、株価のリスティング、映画の上映スケジュール、スポーツのスコア、コミック、クロスワードなどからも生まれていたからです。
それをなんかそれぞれ分解して、それを、複数のアプリを通してバンドル化してるのが今のニューヨークタイムズかなっていう。
NYTのクロスワードは1942年に始まりました。第二次世界大戦の最中で悲しいニュースが多い中、読者がリラックスできるようにと始めたものだそうです。
今のNYTのゲーム事業部には100人以上の従業員がいます。クロスワードの編集者だけでなく、エンジニア、PM、マーケティング、データ、デザインのチームまで揃った、しっかりした体制です。
宮武さんは、DAUの急増にはWordleが大きな影響を与えたと見ています。ほかにも、週間アクティブユーザーが1000万人を超える言葉の連想ゲーム「Connections」、クロスワードを短くした「The Mini」、「Spelling Bee」などがあり、ゲームの中でもバンドル戦略を取っている状況です。
Wordleはなぜ一瞬で広がったのか
Wordleの影響について、草野さんはソーシャルでの投稿しやすさを挙げます。四角いブロックで自分の成功をみんなとシェアできる楽しさが、他のサービスにはない強みだといいます。
宮武さんは、Wordleはシンプルでわかりやすく、正解に至るまでのプロセスを共有できる点がいいと話します。草野さんは、英語が苦手な人にとってクロスワードやThe Miniは難しく、入り口が最も広いのはWordleだと付け加えます。
確かにその単語ベースですからね。クロスワードだと何か質問とかがあって、カルチャー面での理解度が結構問われる時があったりすると思うので。
草野さんはWordleを、かつてのスマホゲーム「Threes」以来の衝撃だったと振り返ります。宮武さんは、Wordleは2021年末ぐらいに出て一瞬で広がったと話したうえで、それ以上にNYTの買収スピードが速すぎたと強調します。
NYTは自社でWordleの記事を書いていた中でリテンションの指標を知り、これは良さそうだと判断したそうです。
買収額は数億円レベルだったため、すばやく判断できたはずだと宮武さんは言いますが、それでもこのスピード感はすごいと評価しています。
宮武さんはNYTにとってWordleが適していた理由として、テキストベースでクロスワードの編集部と同じスタッフで対応できたこと、そしてユーザーの年齢層がやや低く、新しいオーディエンスにリーチできたことを挙げます。買収から3か月以内に、数千万人規模の新規ユーザーを獲得していたといいます。
無料のWordleは、どう課金につながっているのか
宮武さんは、ゲームの多くは長続きしない中で、Wordleが2022年にピークを迎えたあと2023年でも人気を保っている点に注目します。NYTのゲームに実際にサブスクしている人の35%が、Wordleを最初のきっかけに挙げているそうです。
草野さんが作者は今もNYTにいるのかと尋ねると、宮武さんはおそらくいない、プロダクトだけの買収だったと答えます。そのうえで、数億円以上の価値が十分にあった買収だと評価しています。
NYTのゲーム事業で唯一有料なのはクロスワードです。宮武さんは、クロスワードが一番ハードルの高いゲームだからではないかと見ています。
2022年には、NYTのニュース以外のデジタル新規登録者数が、初めてニュースのデジタル新規登録者数を上回りました。コアのユーザー獲得手段がずっとニュースだったNYTにとって、ようやくゲームなど別のところへシフトし始めたタイミングです。
2023年だけで、NYTのゲームは80億回プレイされ、前年から2倍に増えました。宮武さんが「このうちWordleは何割か」と尋ねると、草野さんは7割と答え、正解は6割でした。
宮武さんは、Wordleはゲーム事業に注力するきっかけになったほど、NYTの戦略を変えたプロダクトであり、1つのティッピングポイント ── ある変化が小さな積み重ねから一気に広がり始める転換点のこと。マルコム・グラッドウェルの著書で広く知られるようになった言葉ですだったと話します。
「1日1回」という制限が強みになる理由
宮武さんは、NYTがゲームを持つ良さとして、キュレーションできることと、あえて制限をかけられることを挙げます。
普通の、例えばゲーム会社がゲームを出した時に、自分たちはマネタイズのことをすごい考えないといけないので、できるだけ滞在時間を増やすとか、そういうのをめちゃくちゃ考えないといけない。
一方のNYTは、ゲームを新規ユーザーの獲得方法として出しています。だからこそ、Wordle、クロスワード、The Miniなどで「1日1回だけ遊ぶ」という設計を取れるのだと宮武さんは話します。
ゲームそのもので稼ぐため、1セッションあたりの滞在時間やエンゲージメントの最大化を考える
新規ユーザー獲得が目的なので、1日1回の制限で習慣化と共有のしやすさに集中できる
宮武さんはこれを、1セッションあたりのエンゲージメントを最大化するのではなく、ストレスの少ないライトなコンテンツで愛着と認知を広げていく戦略だとまとめています。
占いアプリの買収はありうるのか
草野さんは、ゲームほど強力ではないものの、NYTは占いをやっていないのかと尋ねます。占いは雑誌やウェブメディアで強いコンテンツで、毎週や毎日見る人がいるライトなコンテンツだからです。
これ(占いアプリ)、買収するんじゃないですか?ニューヨークタイムズが。
宮武さんは、占いはゲームと似たライト層に向いたコンテンツで、ニュースではなく他のプロダクトにつなげる入り口として強いと話します。草野さんも、アメリカでも特に女性誌などで占いは人気だとして、ありだと同意しています。
宮武さんは、このゲーム戦略はNYTだけのものではないとも指摘します。Netflixはオセロのような普通のゲームを出しており、YouTubeにも「YouTube Playables」というセクションがあって、Angry Birds、チェス、Cut the Ropeなどをアプリストアを経由せずに遊べます。
AppleはNYTの「プレイブック」を真似しているのか
宮武さんは、Appleが最近NYTのプレイブックを取り入れていると見ています。Appleは2023年、Apple Newsにクロスワードとミニクロスワードを導入しました。
さらに2024年、AppleはQuartilesという新しいゲームを出しています。宮武さんによれば、これはNYTのConnectionsに近いゲームです。
明らかになんですかね、ちょっとニューヨークタイムズのバンドル戦略をなんかパクってるのかなっていうのは思いましたね。
ただし宮武さんは、AppleのゲームはConnectionsと仕組みが違う部分もあると補足します。AppleがWordle的なものを出していないのは、全く同じものを出さない限りパクりづらいからではないかと話しています。クロスワードについては、昔からあるフォーマットなので、おそらく権利はないと見ています。
草野さんは、スタートアップのデータベースで知られるPitchBookの雑誌を買った際に、「Airbnbの創業者の名前は?」といったスタートアップ限定のクロスワードが載っていた思い出を語ります。特定のメディアならではのゲームは面白い、というのが草野さんの感想です。
宮武さんは、ユナイテッド航空などの機内誌にもクロスワードや数独が載っていると応じます。草野さんは日本の本屋にもクロスワードやナンプレの棚がまだ多くあると話し、宮武さんも昔は父のニューヨークのアパートで、新聞に毎週載る数独をよくやっていたと振り返っています。
The Athleticは高すぎる買収だったのか
宮武さんは、ゲームは新規ユーザー獲得には適しているものの、それだけではNYTにとって足りないと話します。獲得したユーザーにきちんとマネタイズできるかという点で出てくる次の大きなバンドルが、スポーツメディアのThe Athleticです。
NYTは2022年1月、Wordle買収とほぼ同じタイミングで、The Athleticを550ミリオンで買収しました。草野さんが言うようにメディアが売られていた時期でもあり、当時は高すぎたのではないかとよく言われていました。
当時のThe Athleticには約120万人の登録者がいました。NYTには2025年までに1000万人の登録者を達成する目標があり、当時の約800万人に加えれば目標にほぼ届くため、その達成のための買収ではないかとも言われていたそうです。
約65ミリオン
約120ミリオン。すごい数の記者を抱え、大赤字だった
しかし宮武さんは、NYTがThe Athleticを買収した理由は、新しい登録者の獲得ではなかったと考えています。
どちらかというと、1ユーザーあたりの売上単価を上げるための、そのいわゆるARPPUって呼ばれるものの、単価を上げるためのものだったのかなって思っていて。
宮武さんの試算では、The Athleticの登録者のうち仮に30万人がNYTにも登録していたとしても、NYTユーザーの中にはThe Athleticに登録したことのない人が少なくとも800万人ぐらいいます。その一部がThe Athleticに登録してくれるだけで効果がある、という見立てです。
ゲームとニュースの間に、なぜスポーツを挟むのか
宮武さんがThe Athleticについてもう1つ重要だと考えるのは、NYTのコアであるビジネス系などのニュースに比べ、スポーツの方がライト層向けだという点です。
新規ユーザーで一番ライトなゲームの人たちを獲得すると、そこから一気にニュースに落とし込むのって一番ハードル高いと思うんですよ。となると、間にスポーツを入れた方が。
ゲーム
最もライトな層を新規ユーザーとして獲得する
スポーツ(The Athletic)
ニュースよりライトな有料コンテンツで、1人あたりの単価を上げる
コアのニュース
最もハードルの高い、NYTの中心プロダクトへつなげる
草野さんが、NYTは元々スポーツのカテゴリーをそれほど広げていなかったのかと尋ねると、宮武さんは、カテゴリーとしてはあったもののThe Athleticほど幅広くはカバーしていなかったと答えます。
草野さんは、これをボストン・グローブのように中身が被るメディアを買うのではなく、カテゴリーを深掘りするメディアを加えていくやり方だと受け止めます。宮武さんも同意し、ボストン・グローブは同じプロダクトだったが、The Athleticは同じプロダクトではなく、インターネットという同じ地域で戦う存在だと整理しています。
草野さんは、スポーツはライトとはいえThe Athleticには良質な記事のイメージがあるので、NYTと相性が良さそうだと話します。宮武さんは、スポーツファンは幅広く、ゲームとの相性も高いとして、新規獲得のためのゲームと、1人あたりのマネタイズを深めるスポーツメディアという、異なる役割をバンドルが果たしていると話しています。
獲得用とマネタイズ用、2つのレイヤーを分ける意味
宮武さんは、NYTはファネル全体を所有しようとしており、自社のプロダクトを2つのレイヤーで考えていると見ています。
ビジネス系などのニュースとスポーツ。サブスクで、しっかりお金を落としてもらう
ゲームを筆頭に、クッキングやWirecutterも。対象はほぼグローバルで、広告ベースでもよい
1つ目のレイヤーは、ライト層を捕まえて認知させるためのコンテンツです。宮武さんによれば、ゲームなら対象がほぼグローバルになるため、サブスクファーストでなくても広告ベースで成り立ち、そこからコアのプロダクトにつなげればよいといいます。
ほとんどの場合、それ(獲得とマネタイズ)が2つうまく組み合わせることってめちゃくちゃ難しいと思うので、
宮武さんは、競争がますます激しくなる中で、ユーザー獲得用のプロダクトとマネタイズ用のプロダクトを分けて作るという考え方が、今後の会社作りのヒントになるかもしれないと話しています。草野さんは、バンドルとはいえユーザー同士がきちんと連携できている点がすごいと応じています。
「ビル」と「ネイバーフッド」の例えとは?
宮武さんは、NYTのCEOであるメレディス・コピット・レビエンさんが、同じような考え方を「ビルを作ること」と「ネイバーフッドを作ること」に例えていると紹介します。
コアのプロダクトを作るのは、ビルを作るのに似ています。「このビルに集まってください。中でいろんな面白い体験ができるので」という目的地を提供するもので、NYTならコアのニュースプロダクトがこれにあたります。
街に行く理由って、そのビルがもしかしたら一番の理由かもしれないですけど、それ以外の理由でも、例えばニューヨークに行ったりするじゃないですか。
いろんな目的で来る人たちを引き寄せるためには、ビルだけではなくて、ビルとその周りのネイバーフッドを作らないといけない。
草野さんは「うまい例えですね」と感心します。宮武さんは、ネイバーフッドには複数のビルが建つかもしれないが、一番大きなメインのビルはコアのプロダクトであり、毎日来てもらう仕組みにはビルだけでは足りないかもしれない、というのがCEOの考え方だと説明します。
草野さんが、ビルには行かずにネイバーフッドを楽しみ続ける人もいそうだと言うと、宮武さんは、ゲームだけをやっている人はまさにそうかもしれないと応じています。
プロダクトファーストではない会社作りは広がるのか
宮武さんは、競争が激しくなる中で、ビルだけでなくネイバーフッドを作る企業が増えていくと考えています。これまで多かったプロダクトファーストの会社作りとは違うアプローチです。
宮武さんが例に挙げるのは、メディアとして始まり目的地を作ってから、プロダクトを立ち上げたGlossierのような事例です。最もわかりやすいのはクリエイターブランドで、YouTubeなどで面白いコンテンツを作り、そこから別のプロダクトやブランドにつなげる形だといいます。
宮武さんは前編と後編を通して、NYTの面白さを次のようにまとめます。まずサブスクファーストのニュースカンパニーというコアをしっかり持ち、そのビジネスモデルも成立している。そのうえで、今の市場で戦うにはそれだけでは足りないため、バンドルという手段を取っている、という見方です。
メディアの次の勝負は「エキスパート」か?
草野さんが次の展開を尋ねると、宮武さんは次回のプレビューとして、記者などのメディアが次世代のエキスパートになれるのかという問いを挙げます。
メディアってどんどんニッチになっていくので、平均的なメディアがなくなる時代になってきてるので。
宮武さんは、平均がなくなりアテンションがテールに偏る時代には、エンタメであれ特定のトピックの知識であれ、本当のエキスパートが問われるようになると話します。NYTがそこに応えられるかが今後の勝負になる、という見立てです。
草野さんがエキスパートをどう測るのかと尋ねると、宮武さんは難しいところだとしつつ、エキスパートはユーザーが思うものだと答えます。そのうえで、メディアへの信頼度は落ちており、メディアや記者をエキスパートとして信じる時代ではなくなり始めていると話し、次回のテーマへつないでいます。
まとめ
The New York Timesは、1993年のボストン・グローブ買収というサプライ側のバンドルで失敗したあと、インターネット時代に合わせてデマンド側を押さえるバンドルへと転換しました。Wordleを中心とするゲームで新規ユーザーを集め、The Athleticやコアのニュースで1人あたりの売上を高めるという2層構造が、今のNYTの成長を支えていると宮武さんは見ています。
- ボストン・グローブは1.1ビリオンで買収し、20年後に70ミリオンで売却した。インターネットで地域の壁がなくなり、同じプロダクトを持つ意味が薄れた
- 複数プロダクトの登録者は2022年末の26%から2023年末には41%に増え、バンドル戦略が機能している
- Wordleは2023年に48億回プレイされ、ゲーム登録者の35%が最初のきっかけに挙げるなど、新規獲得の強力な入り口になっている
- The Athleticは登録者数ではなくARPPUを上げるための買収で、ゲームとニュースの間をつなぐ役割を担うと宮武さんは見ている
- 獲得用とマネタイズ用のプロダクトを分けてバンドルする発想は、CEOの言う「ビルとネイバーフッド」の例えとも重なる



