なぜ久しぶりにサンフランシスコへ? Stripe Sessionsとブースの熱気
草野さんと宮武さんは最近、2人でサンフランシスコを訪れました。宮武さんにとっては2022年11月以来、およそ1年半ぶりの訪問です。
宮武さんは、知り合いから治安が悪いという話ばかり聞いていたため、サンフランシスコを正直避けていた部分があったと明かします。草野さんも2〜3年ぶりで、前回のことを覚えていないほどだといいます。
ちょっと治安が悪いっていう話しか聞かないので、知り合いから。
今回の渡航のきっかけは、Stripe Japanからの声がけでした。4月の終わりごろに開かれた2日半ほどのイベントStripe Sessions ── 決済サービスを提供するStripeが毎年開催する年次カンファレンス。新機能の発表や、ゲストを招いたトークセッションが行われますに招待され、2人で参加しています。
草野さんの印象に残ったのは、会場で配られたグッズです。ショップのようなブースでトートバッグやスウェットを一式もらえ、特にスウェットは裾のタグにStripeの文字が入っていて凝っていたと話します。
宮武さんはGitHubの靴下を挙げます。バーテンダーのような男性が「さあ、この時間がやってきました」と言って急に靴下を配り出す演出で、他のブースとは雰囲気が違ったそうです。
AI系の企業のブースも多く、2人は音声AIのElevenLabs ── AIによる音声合成や吹き替えの技術を提供するスタートアップ。話者本人の声質を保ったまま別の言語で話させる機能で知られますでデモを試しました。Off Topicを字幕ではなく吹き替えにした場合を想定し、宮武さんが日本語で話した内容を英語にしてもらったところ、精度は想像以上だったといいます。
あれ(AIの吹き替え)も結構自分的には英語で喋ってる時の宮武さんの声だなって思いました。
大型アップデートを一度に見せる発表スタイルとは?
草野さんがワクワクしたというのは、冒頭のキーノートです。ホイソンさんや、プロダクト責任者のウィルさんが登壇し、Stripe自体のプロダクトアップデートを次々と発表しました。
宮武さんは、年に何度も小さなアップデートを出すより、大きなイベントに人を集めて大型アップデートを一気に披露するやり方が流行っているのではないかと指摘します。最近ではAirbnbも同じ形を取っており、草野さんはCanvaやfreeeの例も挙げました。
Stripe Sessionsでは、発表の締めに、映画のエンドクレジットのように今回のアップデート一覧が流れたそうです。草野さんは数の多さに驚くとともに、それぞれの機能がStripeのプラットフォーム全体とつながっていて、各領域が存在する意味がわかる見せ方が面白かったと話します。
全体の戦略と、細かいプロダクトのアップデートを両方説明してくれると、より納得感があるっていうか、一体感があるようにも見えました。
宮武さん個人としては、決済手段のABテストまでできるようになるなど、細かい部分の機能が面白かったといいます。来場者は5000人以上と見られ、草野さんはAI関連のアップデートや新機能が多かったことにも触れています。
ブースでは、草野さんが好きなStripeの出版部門Stripe Press ── Stripeが運営する出版レーベル。テクノロジーや経済、科学の進歩をテーマにした書籍を、装丁にもこだわって刊行していますも大きく出展していました。草野さんは念願だったエディターに会え、日本でのポップアップ開催を直接お願いしたそうです。
「クラフト&ビューティー」はソフトウェア業界に何を問うたか
宮武さんが特に面白かったと挙げるセッションは2つあります。1つはNVIDIAのジェンスン・フアンさんのセッション、もう1つが「Craft and Beauty」と題されたセッションです。
Craft and Beautyのセッションには、StripeのデザインのトップのほかFigmaの登壇者、そしてLinearの社長が登壇しました。Stripeはクラフトマンシップやデザイン性に強いこだわりを持つ会社としても知られています。
草野さんは「クラフト」という言葉の多義性に惹かれたと話します。職人的な手作り感やこだわりのようなニュアンスを含み、日本語に訳しにくい言葉だと感じたそうです。機能性が求められる決済の会社がこうした話をしていること自体が面白い、というのが草野さんの見方です。
宮武さんが印象に残ったのは、Linearの社長の問題提起です。アメリカのソフトウェア業界は、大きなチームを作り、工場のように物事を量産するマス化を狙いすぎて、クラフトマンシップのあり方を忘れてしまったのではないか、という指摘でした。
変化の前後を整理すると、Linearの社長が語った流れは次のようになります。
大きなチームを作り、工場のように物事を出すマス化を狙いすぎた
もう一度クラフトマンシップとビューティーが重要視される時代が来るのではないか
もう一回このクラフトマンシップっていうのが重要視される、で、ビューティーが重要視される時代に来るんじゃないかっていう話は、すごい個人的には面白かったですね。
StripeのデザインのトップのプレゼンではROIの話が分かりやすかったと、2人は口をそろえます。ニュースレターの内容はまったく同じまま見た目だけを変えたところ、美しさがROIを大きく変えることが写真付きで示されたそうです。
ジェンスン・フアンはなぜ聴衆を惹きつけるのか
ジェンスン・フアンさんもトークの終盤で、クラフトに通じる話をしていました。フアンさんは言葉を変えて「Love and Care」と表現し、クラフトはすぐには成し遂げられないものだと語ったといいます。
宮武さんによると、フアンさんは「植え付ける」、つまりエンコーディングするという言葉を使っていました。組織としての凄さは言葉にしづらいもので、それを実現するには人に苦しみを植え付け続ける必要があり、それが在職期間の長さにつながり、ようやく会社の中にクラフトが生まれる、という仮説です。
苦しみを植え付ける
こだわりやデザイン性は、すぐには人に植え付けられない
在職期間が続く
植え付けを長く続けられる環境が生まれる
クラフトが生まれる
ようやく会社の中にクラフトのようなものが根づく
草野さんは、言い方がいかにもジェンスンさんらしいと受け止めます。宮武さんは、フアンさん目当てに来場した人も多く、知り合いの起業家も何人かそのために来ていたと話します。
2人が口をそろえたのは、フアンさんの話のうまさです。草野さんは間の取り方やジョーク、自分のことを面白く語る力を挙げ、宮武さんは笑いを取りながら、SNSに投稿しやすいインサイトを挟み込んでいる点に注目しました。
めちゃくちゃPRがうまい人なんだなっていうのを思いましたね。
モデレーターはStripeのパトリック・コリソンさんで、フアンさんの過去の印象的な発言を取り上げて議論する形でした。宮武さんは、フアンさんが尖った発言のあとに必ずロジックとストーリーで説明するため、聴衆が聞きやすいのだと分析します。
例として挙がったのは、直属の部下が60人いる、1on1ミーティングをしない、人をクビにするのが嫌い、CEOはピンチヒッターだ、といった発言です。分かりやすくて少し尖った言葉で「もっと聞きたい」と思わせるのがうまい、と宮武さんは評しています。
一方でコリソンさんは褒められるのが苦手なようで、フアンさんに「Stripeはいい会社だ」と褒められた際の戸惑いぶりも話題になりました。フアンさんは組織作り、プロダクトのデザイン性、経営者としての資質まで幅広く称賛していたそうです。
宮武さんが「今後使いたい」とまで話したのが、ここ数年のAIの発展を2つの出来事で括ったフアンさんの表現です。
コンピューティングを民主化した
オープンソースとして、AI生成技術そのものを民主化した
草野さんはスピーチライターのようだと感心しつつ、独自のユーモアにも触れます。少し間を置いて観客を見る仕草は、Zoomで顔が映ったときに笑わせるコメディアンのようで、2人は「Zoomを想定している」と笑い合っていました。
Stripeに「環境部門のトップ」がいるのはなぜ?
イベント期間中、Stripeの計らいで、環境部門のトップであるナンさんへの別途インタビューも実現しました。2人とも、そもそもそんな役職があること、それをStripeが置いていることに驚いたといいます。
宮武さんが背景を説明します。Stripeは数年前、二酸化炭素を世界から取り除くサービスに対して100万ドル規模でカーボンクレジットを購入するプログラムを試し、それがうまくいったため、より大きなマーケットプレイスを立ち上げました。
このマーケットプレイスには、Stripeだけでなく顧客や別の企業も招いて一緒に投資する仕組みで、Stripe自身は手数料などを一切取っていないそうです。インタビューでは、この取り組みがStripeのミッションにつながる理由や、カーボンオフセット ── 排出した温室効果ガスを、別の場所での削減・吸収の取り組みへの投資で埋め合わせる考え方。大気中から直接取り除くカーボンリムーバルとは区別されますではなくカーボンリムーバルに焦点を当てる理由も語られています。
このインタビューは、YouTubeをメインに公開予定で、ポッドキャストでも配信されるかもしれないと案内されました。
AGI Houseはどんな場所だったのか
滞在中、2人はサンフランシスコ周辺の企業や施設もいくつか訪ねました。宮武さんが特に行ってみたかったというのがAGI Houseです。
宮武さんの説明によると、AGI Houseは元OpenAIの研究者で元テスラのAI責任者でもあるアンドレ・カーパシーさんが、起業家の集まりを開く家として関わっていた場所で、かつてはパーティーハウスとして知られていました。カーパシーさんがOpenAIに戻ったタイミングで、家のオーナーのロッキーさんらが運営を引き継ぎ、方向性を変えたといいます。
起業家が集まるパーティーハウスとして知られていた
8〜9人のAI起業家が住み、2週間に1回ほどAIハッカソンを開くハッカーハウス
草野さんの第一印象は「めちゃめちゃ豪邸」でした。訪れたのは平日の昼で、ホワイトボードのある広い部屋には誰もおらず、住人はそれぞれ別にオフィスを持ち、休日などにハッカソンやプロジェクトを行っている様子だったそうです。
宮武さんによると、鯉の泳ぐ池や映画館まである100億円ほどの物件で、プールは明らかに使われていなかったといいます。場所は事前に教えてもらえず、別の場所で集合してピックアップしてもらう形でした。
サンフランシスコには同じ名前の別のハッカーハウスがあり、揉めているという話も聞いたそうです。それでもVCのGreylockがハッカソンをスポンサーしたり、ビノッド・コスラさんが登壇したり、サム・アルトマンさんやセルゲイ・ブリンさんが顔を出したりと、著名人が集まる場であることがうかがえます。
急遽のミートアップで出会ったリスナーたち
サンフランシスコではリスナーとのミートアップも開きました。イベントページを立てたのは開催の3〜4日前でしたが、会場を貸してくれたRestuarのダツさんとキヨさんのサポートもあり、多くの人が集まったといいます。
こんなにアメリカでリスナーがいるんだっていうのも。嬉しかったですね。
宮武さんは、起業家だけでなくGoogleやDoorDashなど大手テック企業で働く日本人にも会え、幅広い人とつながれたことに感謝を述べます。
会場では、リスナーが草野さんに「Chipotle好きな人ですよね」と声をかける一幕もありました。過去の回で、Chipotleに入ったのに食べずに店を出たエピソードで覚えられていたようです。
草野さんは今回の旅でも結局Chipotleを食べられず、「一生食べない」「ジブリを一生見ないみたいな」と冗談を交わしました。代わりにSweetgreenには行けたそうです。
Waymoの乗り心地とHumane訪問はどうだった?
2人は自動運転タクシーのWaymoにも乗りました。草野さんは日中でもやや怖さを感じ、夜はもっと怖いかもしれないと話します。普段あまり運転しない宮武さんは、特に違和感はなかったそうです。
宮武さんは、サンフランシスコに行くリスナー向けのTipsとして、Waymoをすぐ使う方法を紹介しました。
価格はUberより少し高めで、走りもややゆっくりだそうです。草野さんは、乗る側よりも、サンフランシスコの道路で自分が車を運転する側だったら周りの自動運転車が怖いと感じそうだと話します。
宮武さんは、車内で誰にも気兼ねなくミーティングができるので、もし現地に住んでいたらWaymoの中でポッドキャストを収録できそうだとアイデアを出しました。
もう1社、2人が訪問できたのがAIウェアラブルを開発するHumane ── 元Appleの夫婦が創業したスタートアップ。胸に付けて使うAIデバイス「Ai Pin」を手がけていますです。2人は少なくとも2年ほど前から注目し、トレーラーを見ながら何ができるのかと気にかけていたといいます。
ちょうど競合ともいえるRabbitの製品が出たり、Humaneのレビューが出揃ったりした時期で、実際にオフィスで製品に触れられたのは良い機会だったそうです。訪問の様子は近日公開予定とされています。
アメリカで感じた心地よさと絶望とは
旅を終えて、草野さんはアメリカに行く機会をもっと増やしたいと感じたといいます。宮武さんも、Off Topicに取り上げてほしい企業があればぜひ招待してほしいと呼びかけました。
草野さんは、テックカンファレンスは今後さらに増えると見ており、番組との相性も良いと話します。そのうえで、治安が悪く人も少ないとされるサンフランシスコについて、住み心地はやっぱりいいと率直な感想を口にしました。
一方で、草野さんは街の寂しさに悲しくなったとも話します。午後6時や7時にダウンタウンを歩いていても人がおらず、Sweetgreenに行きたいと言えば「もう閉まってますね」、Sephoraに寄りたいと言えばやはり「もう閉まってますね」という状態だったそうです。
(6時、7時でも)明るいから余計思うんですよ。もう閉まってんの?飲食店。
日が長く午後8時ごろまで明るいだけに、飲食店が早く閉まることへの違和感は強かったようです。草野さんは、遊ぶところも少ない環境で起業して頑張っている人たちを改めてすごいと感じたと振り返ります。
最後には、街で見かけたピックルボールや、TargetがPrinceとのコラボで出していたピックルボールのコレクションにも触れ、また機会があれば行きたいと締めくくりました。
まとめ
今回の雑談回では、Stripe Sessionsで目にしたテック企業の発表やトークの面白さと、サンフランシスコという街の魅力と寂しさの両面が語られました。
- Stripe Sessionsでは大量のアップデートを全体戦略と結びつけて見せる発表が印象的だった
- Craft and Beautyのセッションでは、マス化を狙いすぎた業界にクラフトとビューティーが戻るという問題提起があった
- ジェンスン・フアンさんは、尖った発言をロジックとストーリーで支える話術で聴衆を惹きつけていた
- AGI HouseやWaymo、Humaneなど、現地ならではの体験も多かった
- 草野さんは、街の寂しさを感じつつも、サンフランシスコの天気や人、住み心地の良さを好きだと語った





